● 「このはなさくや!」 「難しい事知っていますね、マリアさん」 「うん! 知らないの? 世間一般は秋だけど、何処かの桜は春を迎えたのよ」 「ああ……温かいので、桜さんも季節を勘違いしちゃったんですかね」 「でもちょっと前に来た妖精の仕業もあるのよ」 「つまり?」 「桜満開!! キャハハハハハハ!!」 「秋なのに……それっていつまで満開なのですか?」 「一晩ってイヴちゃんが言ってたわよ」 「儚い……」 一般人の出入りも無い。 寒くも無ければ暑くも無い、そんな日。 妖精の仕業でうっかり咲き誇った、一夜限りの春でも見に行こう―――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月30日(水)23:35 |
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■メイン参加者 29人■ | |||||
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● 一夜限りの桜。其れが落とす花びらの中、二人の目線が偶々重なった。 「霧音さん、おひとりで桜見物かしら?」 「あら、シュスカ。ええ、一人だったのだけど」 こんな所で会うのも何かの縁か。特に別れる理由も無い二人は、花吹雪舞う其の中心で背中を合わせて見上げた。 暫く沈黙の時があった。其れを破ったのはシュスタイナの方。 「……何のためにアークやってるの? 私は別に『正義の味方』がやりたくてここにいる訳じゃないから、たまに分からなくなるのよね」 生き死にの間に立つこの仕事上、邪魔になるのは感情か。普段そういうなぞった事を考える事をしないシュスタイナはその問の答えに興味があるのだろう。 シュスタイナの透き通る声が止んだ後、再び少しの沈黙はあった。思い出すように、目まぐるしい『これまで』を思い出すように霧音の瞳は動いていく。 「何の為、か。最初は、私を此処に導いた記憶に従うままだったわ」 そこで一つ、音が切れ、そして再び口を開いた霧音。 「理由は必ずしも必要ではない。けれど、もし迷った時にそれが標となるかもしれないわ」 「そう、かもね……」 風に乗せてばら撒かれた花吹雪―――散り行く定めの中で、刹那の美麗を魅せる桜程に彼女らの終着点は未だ見えない。 「ああごめんなさい。暗い話をするつもりじゃなかったの」 「大丈夫よ、気にしてないから」 ただ、まだ彼女らの運命はいくらでも決めようがあるという事か。 素敵な置き土産を残してくれたものだ、と真澄は笑顔で言う。 「杏理も来いよッ! 一緒に食おうぜッ!!」 真澄の隣では、いつものように元気なコヨーテが大手を振って杏理を手招きしていた。 「食べ物ですか? 杏理なんかがご一緒してもよろしいのでしょうか……?」 「いーのいーの、こういうのは大勢で食べた方が美味しいのさ」 そういえばとお腹を触れた杏理。ぐうーっと鳴ったのはお昼を少ししか食べなかったからだろうか。 「じゃあ……お言葉に甘えて」 真澄が風呂敷を開ければ、重箱に沢山の色とりどりの食べ物が詰まっていた。 「わぁ、これ全部真澄さんが?」 「ふふ、女子にはヘルシーなものを多めにしたから安心していいよ」 真澄が手際良く、紙皿に食べ物を分けていく中、コヨーテは頭上を見上げて、其処に広がる光景に目を輝かせていた。 「日本の桜見ンのは初めてだぜッ……すっげェキレー!」 来年の春まで待てなかったなんて可愛い発言に、杏理はくすりと笑った。しかしすぐに彼の目線は重箱の中へと向けられ、 「肉あるかッ? 辛いおかずはッ!?」 「ちゃんとあるさね。野菜も食べないと駄目なんだよ。好き嫌いしてたら大きくなれないよ?」 真澄の忠告、しかしコヨーテはあえて聞かなかったと言うように杏理の方を向いて、お肉をひとつ杏理の紙皿へと置いた。 「あッ、杏里、コレもすっげェうめェぜッ。食ったッ?」 「いえまだです。ありがとうございます、コヨーテさんが美味しいと仰るなら絶対杏理も好きです」 確かに真澄の拵えたお弁当は絶品であった。杏理も、コヨーテも誉めるものだから真澄の頬も少し紅潮して、照れ隠しに後頭部を掻いていた。 そんな三人を見つめていたのは、何時しかこの場に居た色とりどりの妖精であった。それに気づくまでまだ時間はかかるだろう。 「きせつはずれのさくら、まんかーーーいっ!!! あまざけとおだんごでおはなみっ!」 「アー……日本の飲食物ッテマジウメエヨナア」 ミーノと、リュミエール。今日も仲の良い二人は、甘酒を右手、団子を左手に桜に腰かけていた。リュミエールは見上げた、舞う花びらひとつひとつを目で追いかけつつ、 「桜ナァ小さな花なのに一面ピンク色にして変わった花ダヨナ。お前の髪と同じ色ダゾ少しは花見ろよ」 「え~~?」 ミーノは正常運転で、団子だけを瞳に映して、忙しく口へ運んでいた。口元へ着いたあんこを拭ってやるリュミエールの姿は、どことなく姉が妹の世話をしているようにも見える。 其処へ通りかかったマリアも参戦。ミーノと一緒に団子を口へ運び出した姿に、リュミエールは思考するのを止めた。 「二人でいいもの食ってるわね」 「ま、おひとついかがっ。おっ! マリアちゃんもいけるくちなの~」←TVで覚えた 「お主も悪のよー」←TVで覚えた そんな二人を見ながら、思い出したようにリュミエールはクッキーを取り出した。 「こんなものもあるが、食ウカ?」 しかしそう言ったときには既にクッキーは消えていた。 その内お腹が満足したミーノは、木下でころんと転がった。 「にゃっほい! う~~こんなにたのしいなら、もうずっとさくらがさいてればいいのにっ♪」 「いやオマエ桜見テネーシ」 今日は的確なツッコミを返すリュミエールも、ミーノの隣に座っては、その九つの尻尾を彼女のための枕にしたのであった。 「秋の新酒で花見酒ができるとは、思っても見なかったな」 「月でも、あれば完璧、だったのにね」 快と天乃は隣に座りながら、背に立つ大きな桜の木を見上げていた。ふと、思い出すのは桜が咲くべき季節の頃。あの時はやっと楽団が片付き、そして親衛隊、キースと続き―――。 「そういえば、さ」 あっ、と思い出したように快は天乃へと向いた。目線を交わる事無く、天乃はその続きの言葉を待つ。 「キース・ソロモン。どうだった?」 快は知っていた。彼女が珍しくお洒落をして戦場を駆けていた事を。つまり、それが意味するのは彼女の中で何かがあったという事で。 しばらく天乃は『あの時』の記憶を追うように瞳が右から左へ動き続けた。そして。 「キース、は……いい男、だったよ」 漏れ出た様に、身体をぶるりと震わせた天乃。思い出すだけで全身の血が滾る感覚に、快は遠くを見つめて「そうか」と返した。 「少しだけ――妬けるね」 「……同じように、キスして欲しい、の?」 酒が彼女を大胆にさせたか。天乃は身を乗り出して、快の頬へひとつだけキスを落とした。 「――まだ、死にたくはない、なあ」 だってそれ、死の接吻だろう―――? ハロウィンだってまだなのに。お菓子をあげられなかった時の悪戯に、天乃は意味深に、少しだけ口角を上に笑ったのであった。 「秋だけど春津見です」←カメラ目線 「おーい、何処に目線向けてるのー?」 小梢の突然の言動に、ルーメリアは彼女の顔の手前で手を振って、彼女の意識をこっちへ引きずり戻した。 ルーメリアはよく菜の花の様だと言われるようで、その事を思い出すと同時に、小梢の頭の中もカレーだらけなのと苦笑いをした。 そして今日の今日も。 「ルメ子さん、カレー食べますよね」 「またカレーなのー」 盛られたライスは綺麗に半円を描いていて、其処に綺麗に盛られたカレーも綺麗な半円を描いた、これこそ5:5の麗しき黄金律。 しかし量はいつもより、増し増しだー!増し増しだー!!(エコー) 「サービスしておきました」 「ちょっと多いの……あっ」 ふと、其処へ通りかかったのは杏理とマリアで、一礼をしたルーメリアに杏理とマリアもお辞儀をした。 「牧野さん、マリアちゃん……カレー一緒に食べない……?」 「は、はい……その量は大変そうですもんね、お手伝い……いえ! 一緒に食べましょう」 皆で一緒に食べるカレー味。また来年度を迎えられるように、皆で力を合わせて頑張ろうという願いを込めて。 「あ、ルメ子さんおかわりありますので」 「た、食べられるかなぁなの……」 ● 家族と一緒に過ごした、大きな桜の下。何時しか其れは、燃えていた。 「ったく、らしくもねぇ事思い出しちまったな」 瀬恋がふと、頭を抑えた時だった。次は何処から餌を集ろうか浮遊していたマリア。 瀬恋とは反対方向に行こうとしていた彼女へ、大蛇の様に走り、蠢き、跳躍してきた瀬恋がそのまま捕獲。 しばらくして。 「ムキー! 暴れ大蛇は捕獲専用スキルじゃないのよ!! で、何よ」 「ん~。別に大して意味なんざねぇよ。なんとなくだ」 瀬恋に抱え込まれて身動きの取れないマリアだがこれでも精一杯抵抗している方で、されど瀬恋が微動だにも動く事は無かった。 「お前細ぇなぁ。ちゃんとメシ食ってんのか?」 「今食べてたのよ!」 「まあ、これ食え」 瀬恋は後ろから団子をマリアの口元へ運ぶが、鼻にあたったり、頬にあたったり、まるでマリアは玩具状態。 「んじゃアタシは寝るから後は好きにしな」 「3分だけ羽毛布団よ」 ごろんと桜の下で横になった瀬恋に、マリアの大きな羽が覆い被さって来たのであった。 両手の親指と人差し指を使って、四角い枠を作り、その中から見える景色を頭の中に入れた。 ユウはその小さな世界を堪能しに来たのだ。 「そうだ、せっかくだから綺麗な花びらを集めて取っておきましょうか」 押し花にでもしておけば、それこそ今日の出来事を一年中楽しめるというもの。丁度通りかかったマリアも居る。呼びかけたユウにマリアは快く返事したのであった。 妖精には感謝である、琥珀は頭でそう呟いた。 というのも、周囲は月明かりに照らされた闇。その中で淡く光る桜はなんとも幻想的で、神秘的。其れを残してくれた妖精―――はこの場にいないのが惜しまれる。 ふと、通りかかった杏理がいた。此方を向いて、一礼した彼女を琥珀は呼びかけたのであった。 「いつもお仕事お疲れ様。物騒な事件が続いているけど、頑張ってくれて有難うな」 「琥珀さんも、沢山依頼をこなされてる姿を杏理は見ていますよ。琥珀さんも頑張っていますね」 労いの言葉のかけ合い状態になりながらも、言葉で伝える意味を琥珀は再度感じつつ……二人の周囲で花びらは落ちていく。 「あら?」 「ん? どうした?」 「いえ……琥珀さんの肩に。そういえばまた会えるといいと約束したのでは無かったでしたっけ」 赤色の妖精が琥珀の肩に座っていた事に気づくまで、まだあと少し時間はかかった。 もくもく……煙は上がっていた。 「神秘じゃなくてもよくある現象だがー、珍しいから目に焼き付けておかねーとなー」 そう言いながら七輪で秋刀魚を焼いていたのは岬であった。春の風物詩の下で、秋の恵みを焼く―――言い表してみれば、何ともオカシイものだ。 そうして暫く桜を眺めていたのだが、鼻につく香りがなんだか焦げ……臭い? 咄嗟に七輪へ視界を映せば、少しばかり黒くくすんでいた秋刀魚がお目見えした。 岬の兄曰く、焼くだけならお前にもできるという事だったが、軽く失敗しかけたぞもう少し詳しく焼き方を教えろと眉を動かした岬だったのだが。 「なんとか食べられそうな感じに焼けたー! ボクの腕を持ってすればまさにちゃめしごとだったねー」 軽く塩の振られた美味に、口の端はにやりと裂けたのであった。 他所の桜も妖精の仕業なのだろうか。そんな事を考え、桜の木の下でレイラインは一人立っていた。 「ともあれ、見事な桜じゃ。今年はゆっくりお花見しておらんかったし、丁度いい機会じゃな」 近くで宴をしている奴等に混じって酒でも飲むかと歩を進め―――た所で、二本の尻尾が二本の手によって引っ張られた。 「にゃぎゃ!! ……って、マリアかえ? 一緒に飲むかえ、勿論ジュースじゃけどのぅ」 「うん」 一回のみ大きく頷いたマリアにレイラインは微笑みで返した。そういえば時期外れであるものの、桜餅を持ってきていたのだ。 「形はちと不恰好じゃが、味は大丈夫じゃよ!」 と、自信作を食べさしマリアが食いついている姿もなんだかほっこりする光景に思える。 「ちなみにイギリスの桜は複数種類あるから2月末~4月末までお花見が楽しめるんじゃよ。勉強になったかのう?」 「難しい事は解らないわ。それより桜餅もっと!!」 「難しい事を言った覚えは無いのじゃが……」 ● 「綺麗な桜だよねぇ」 「桜はいつでも綺麗なんだぜ」 葬識と俊介は、桜の木に体重を預けて座っていた。 「秋に狂い咲き、霧島ちゃんも知ってるでしょ? 綺麗な桜の下には真っ赤な死体が埋まってるって」 葬識の問に適当な返事を返した俊介。見上げた2人の上の桜。確かに桜の木の伝説というのは物騒なもので。 「だからと言って、探してホイホイ出て来るもんじゃねーって死体なんて」 「この辺に~☆ ありそ~だなぁ~☆」 「出てこないのに。何しとん」 「掘るのー」 どんちゃん騒ぎの遠くを見つめて動かない俊介だが、葬識は身を乗り出して己が鋏を取り出しては地面に突き刺すのだ。万能鋏、掘って掘って掘りまくれば。 「ね、そうおもわない? 霧島ちゃん……あっ」 「ねぇってば」 視界が動かない俊介。その肩をぽんぽん叩く葬識。 「霧島ちゃん」 「だからねぇって!!」 痺れを切らして叩かれた肩に振り向けば、 「ヲォォオォオォォオイ!!!」 「千里眼で視えちゃって☆ 何か月くらい前のものかな?」 葬識の手にぶら下がっていたのはいかにも人の【見せられないよ!!】の部分。咄嗟に噴き出した俊介はソレを奪っては、 「何も見なかった!! 俺達は何も!! いいな!?」 「仕方ないなぁ」 もう一度埋め直した。証拠隠滅。 「駄目だ、こんな所に居たら、あっちいこう!! 此処はアカンやつや!!」 「此処に埋めた覚えは無いんだけどなぁ~☆」 「今なんつった!!?」 椿の右手には日本酒の酒瓶。左手には盃を持って、そこに注がれた美酒をぐいっと飲み干す。 マリアの右手にはオレンジ色のビン。左手には何も無い。ビンをラッパ飲みして、飲み干して。 「……マリアさん、それはちょっと行儀悪いと思うんよ」 「マリア飲めないからせめて雰囲気だけでも堪能しないと、此処に居る全員に堕天落としそうで……」 「それはあかんな」 今こそ、此処一帯のリベリスタの命運は椿の掌の上で転がされていた。 ともあれ、さっきの行動をもう数十回と繰り返した椿だ。もはや瞳は座っていて、いかにも酔っているオーラを漂わせていた。 このまま酔いつぶれて、マリアの背中に乗って浮かびながら夢を見るのも一興か。 「むー、仕方ないわね」 椿の右手を掴んだマリアは、大きな翼を動かして空へと飛んだ。今では桜よりも高い場所から、下のどんちゃん騒ぎを見下ろして。 「マリア、椿の事好きよ。また、ママって呼んでもいいかしら?」 「わしすけくん、桜綺麗だよ! そして死にさらせえい!!」 「季節外れにも程があるだろう! って痛ぇ!? トゲトゲしてんなおい!」 笑顔で走ってきた魅零は鷲祐の近接に入った瞬間に360度回転し、自慢の尻尾で彼の頬を打ち払ったのであった。 気を取り直して。 「魅零、この前はお疲れ様。いや、只管面白かった」 「何が」 「何がってなぁ、こう、尻尾とkギャー!?」 もう一度回転した彼女の尻尾が2コンボ目を決めたのであった。 魅零の尻尾は痛覚は無いにしろ、だからこそ感じてしまう一品なのだとか。それを以前、擦りに擦った鷲祐も鷲祐なのだが。 「しかしまさかあんなに可愛らしくのた打ち回るなんてなぁはははは」 「もう一発? もう一発いる?」 既に眼鏡に縦ヒビが入っている鷲祐だが、魅零の荒々しい行動も仕方ないといえば仕方ないと言えよう。 しばらく2人は仲良さげにお酒を酌み交わした。鷲祐は日本酒を、魅零はハイボールの缶を片手に、花弁の舞うその下で乾杯は始まった。 他愛の無い話は続くものの……ふと零れた鷲祐の一言。 「どうでもいいが大分実力をつけてきたみたいだな。ジャノサイド」 「そりゃ私だって強くな……ジャノサイド言うなや!!」 地雷を踏んだ鷲祐へもう一回転、魅零が繰り出そうとした瞬間だった。先手を取った鷲祐が魅零の肩を掴んで行動を止め、 「甘い!! いい加減にしろ!!」 (‘д‘⊂彡☆))Д´) ハ゜ーン 「キャゥゥウンッ!!」という魅零の甘い声が周囲に響いた。 「……桜か。マリアは桜に想い出はあったりするのか?」 拓真の隣にちょこんと座ったマリアは、数秒思い出してみたものの顔を横に振った。 「俺は……苦い思い出も、楽しかった思い出もあるが」 マリアよりも生きている拓真の事だ。特に厳しい世界に身を置いている彼の、巡りに廻った年月が今は彼の中で思い出として駆け巡る。 「だが、俺にとって、桜は……同時に戒めの対象でもある」 「戒め……」 マリアは顔を斜めに傾けながら、拓真の心地良い声を聞いていた。 何故リベリスタをしているのか、何故なったのか、剣を持つ理由に、忘れない為の新城拓真の原風景なんて今のマリアには触れられない陽炎の様。 「と、つい難しい話をしてしまった。……そうだ、今度家に菓子を用意しておこうと思うのだが、何が良い?」 そっと頭を撫でた拓真の手の温度に、マリアは目を瞑って堪能した。 「たまには洋菓子が食べたいわ。マリア、拓真の事もっと知りたいからまた遊びに行ってやるわよ」 「ベルちゃん」 「!」 慧架の声にさっと振り向いたマリアは、彼女の居る場所へと翼を広げた。 「なぁに、慧架。今日も何か美味しいものくれるのかしら?」 食欲塗れの物欲センサーを見せるマリアに、くすっと笑った慧架。 「桜の花は綺麗ですねえ。雪がふったら面白いですが時期がばらばらになりますねそれじゃ」 「桜は脆いものね」 花びらの中でくるりと回った慧架は再び笑顔になった。最初にマリアと会ったときから今までこうなるとは誰が予想した事か。 「これからも元気でいてほしいですよ。まだまだこれから色々あるんですから」 「色々……お菓子?」 ● 実を結ばない狂い咲き、もう蕾には戻れない。咲いた花は散り行く運命、抗う事も許されない。 素敵で、けれど何処か寂しげな文字の並びを思いつつ氷璃は桜を見上げていた。儚い桜という花びら達は、時間が進むにつれてその輝きを失っていく。 その儚さだからこそ、心に来るものがあるのだろう―――瞳を桜から映した氷璃は、 「マリアにはまだ早いわ。あと8年、我慢なさい」 「ケチ、ドケチ、ちょっと早く生まれたからって、むー」 お酒に手を伸ばしていたマリアの手を払ったのであった。とはいえ飲むな食うなは言わない、年齢を弁えてくれればいいのだ。最近アルコールに興味があるマリアにそう教え諭そうとするのだが。 「わかってるわよ。……にしても今日は一段とお姉様の口はよく動くのね」 「説教臭い? うふふ、お酒を飲んでいるからよ」 「あと近いわ。羽ならお姉様の背中の方が多いし」 氷璃は酔ったままに、マリア大きな羽を手放そうとはしなかった。 桜を見上げるシンシアの姿は、神秘的なまでに美しく。そんな彼女に目を奪われた杏理の視線にシンシアは気づいた。 「マリアちゃんと杏里ちゃんだね。初めまして、だね」 「は、はい……初めまして、牧野です」 「マリアー」 適当返事をしたマリアにシンシアはくすりと笑いながら。 「妖精さん達と知り合いでね。凄くいい子達だったんだけど、まさか桜を満開にしてくれるなんて思わなかったよ。折角だから皆で楽しもうね」 「そうですね、とても綺麗です。妖精と知り合いって素敵ですねっ」 闇夜に舞う桜の下――再びにこりと笑ったシンシアを見つめていた水色の妖精に、まだ彼女は気づかない。 熱い珈琲を両手に持って、冷たい空気へとはぁっと息を吐いた思乃。見れば、見上げた桜はとても美しく―――珈琲に浮かんだ花びらにはまだ気づかない。 その内立ち上がっては、通りかかった杏理に声をかける。 「おばさんの話相手になってくれたらいいのだけど」 「おば……ッ!?」 杏理はどこら辺がその「おばさん」に該当する外見なのか、いやいや、此処はまだまだ若いと世辞の様な発言をするべきなのか、いやだが実際まだまだそんなおばさんといえる外見では―――としばらく考えた杏理であった。 「杏里ちゃんはどっちだと思う? 妖精さんの贈り物か、季節を勘違いしちゃった桜のうっかりか」 「そうですねぇ……」 少し考えを巡らせた杏理に思乃は言う。 「私は妖精さんの贈り物がいいかなぁって思うわ。……そのほうが、夢があるじゃない?」 「……はいっ。そういうのとても素敵だと思います」 切ないくらい見つめた桜、燃え上がった恋は蓋をしたのだ。 ズキンと痛んだのは胸では無くて、心か。もはや言葉さえ伝えられない所へ行ってしまった貴女の事を―――夏栖斗はそれ以上考えないようにした。 「大丈夫なのか?」 「え? なにが?」 近くでいつも見ていた雷音が夏栖斗の服を引っ張ってみるが、彼は元気よく行ってしまった。 「桜の花言葉は高貴。この季節にただ一本だけ咲くその姿は、高貴だとおもうのだ」 「しかし季節外れで妙だな。まあ、眺めるには良い時期か……」 舞う、桜の花びらが雷音の手の平に、ユーヌの髪に落ちた。それを逃すまいと雷音は握った手で、桜へサイレントメモリを使う。 「君もこの状況にはおどろいているのか」 「まあまあまあ!! こんな時こそ日本酒だよな!!」 「竜一、もう少し落ち着け」 愛らしいシリアスがぶち壊れた所で、竜一は大きな酒瓶をひとつ掲げた。しかしこの場に二十歳以上は竜一のみだ。酒瓶に頬すりしながら、 「あれれー、じゃあ俺が全部飲んじゃう!!」 だなんて言うものだから夏栖斗がそれに反応し、 「どーせ新田酒店から買ってきたっていうか、貰って来たもんなんだろ」 「いやーお子ちゃまには解らない味ですなー!」 酒瓶を片手に、ラッパ飲みする竜一。されど彼の利き手には箸があった。夏栖斗がユーヌの作ってきた天ぷらへ箸を伸ばすたびに、そのターゲット全てが竜一の箸に捕らわれて消えていく。 空腹時の腹の虫が高らかに鳴った所で夏栖斗は、膝を立てて竜一を指差したのであった。 「おい、おい!! 僕のは!!?」 「ねーよ」 「いいじゃん、いつもいっぱいユーヌの手作り食ってるんだろ! たまには譲れよ!」 夏栖斗の箸と竜一箸が噛みあって、譲らない箸バトルが始まった。両者、てんぷらの真上で一歩も譲らない光景を見ながら、 「なかなか賑やかなのだ……」 「常識は大事だ。自重しろ非常識どもめ」 此方は平和な女の子二人が若干冷たい目で見守っていた。 「こんな美味しいものを作る彼女がいるなんて幸せだな、竜一」 少しだけ照れたように顔を俯かせたユーヌの行動を見逃さずに雷音はクスっと笑った。ユーヌに注がれたこどもビールの水面に、花びらがひとつ落ちた。 「狂い咲きの原因は葉桜が何らかの原因で落ちてしまうと、温暖な秋を春と勘違いして咲くのだ」 「今回は神秘も少し混じっているがな」 「そうだったな」 花びらを遊ばせたまま、雷音はこどもビールの味を下の上で転がした。ユーヌは未だ終わらない竜一と夏栖斗の戦争に溜息を吐きつつ、どうせなら四季がごったになってしまえばいいものをと、ふと、思ったのだった。 クシュッと誰かが、くしゃみをした。いち早く気づいたのは竜一で、夏栖斗を120%の力で放り投げてユーヌに駆け寄った。 「少し冷えるな。ホッカイロでもあればよかったのだが」 「ん? カイロがほしいの? 仕方ないなあ、あっためてあげよう」 ユーヌの後ろから手を回して、抱き寄せた其れはどんなカイロよりも暖かったであろう。 そんな光景を微笑ましく思う雷音だったが、その後ろで突然のぼっちに心が再び軋みだした夏栖斗が居たのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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