● 「以上より、当法廷はこの女を魔女と認める」 「そ、そんな……わたしは魔女なんかじゃ……」 巨大な椅子に座る裁判官が槌を鳴らす音は、その女――ノーマ=ビショップの悲鳴を無情にかき消す。 ノーマの声がか細いのも無理はない。彼女の全身には生々しい拷問の跡が刻まれている。肉体的にも精神的にも疲弊しているのは間違いない。 「魔女め! まだ認めないつもりか!」 「お前のせいで今年は不作だったんだ!」 「流行病もお前のせいに決まってる!」 「魔女を殺せ!」 「殺すんだ!」 暗い石造りの部屋の中で傍聴人達が口々に叫ぶ。 怒り。 恐怖。 怯え。 憎しみ。 その声には様々な負の感情が込められていた。 「静粛に」 傍聴人達を止めたのは、意外にも魔女を裁く審問官だった。ノーマはその姿に思わず救いの光を見てしまう。無理もない話だろう。 そもそも、彼女は旅行でこの近くを通りかかっただけだった。そして、たまたま通りかかった村で、魔女として告発されたのだ。結果、彼女は捕らえられ、魔女である証拠を探すと証する様々な拷問を与えられた。 その狂気の中で、わずかであれ自分の側についてくれたものが味方に見えるのは当然のことと言える。 しかし、あくまでも審問官は狂気の世界の住人だった。 「当法廷の裁判は公正である。ゆえに、被告自身が魔女でないと主張するのなら、身を持って証明してもらおう」 突如、ノーマの目の前の床が開き始めた。 現れたのは、なみなみと水がたたえられた水槽だ。 「魔女は水に沈まない。ゆえに、お前にはこの中に入ってもらおう。浮かんだら有罪、沈んで死ねば無罪と判定する」 「そ、そんな……無茶苦茶よ……」 審問官の言葉に呆然とするノーマ。しかし、彼女にはそんな時間も与えられなかった。 後ろにいた騎士たちが彼女を鎖でつなぐ。 気付いた時には手遅れだった。 「や、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 叫ぶノーマを騎士たちは引きずっていく。 そして、ノーマの視界は昏い闇に染まった。 ● 暑い日差しに冷たい風が交じる10月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。ただ、今回は普段とは違う依頼だ」 いぶかしむリベリスタ達の前で守生が端末を操作すると、表示されたのはヨーロッパの地図だ。それを見て、リベリスタ達は今回の事件の特殊性を理解した。 「あんた達も室長から話は聞いているよな。アークは今、世界のリベリスタ組織から協力を要請される身だ。そこで今回は『オルクス・パラスト』から受けた依頼の解決に当たって欲しい」 状況を説明した所で、守生は詳しい説明に入って行く。 今度スクリーンに姿を見せたのは、びっちりと棘を生やした椅子だ。古びた外見からは、いっそ魔性のようなものを感じさせる。 「これはアーティファクト、『ウィッチ・ハント』。あんた達への依頼はこれの破壊だ」 『ウィッチ・ハント』は元々、魔女と言われた人間の拷問に用いられた拷問具だ。しかし、吸い過ぎた血のせいか、はたまた使用者の帯びた狂気ゆえにか、アーティファクトと化してしまった。過去の町村のような姿の特殊空間を生み出す能力を持つ。これだけなら脅威とは言えない。だが、この空間に呑み込まれた人間は、破界器の生み出したエリューション・フォースによって魔女と告発され、それを認めるまで無限の拷問を受けることになるのだ。 「『オルクス・パラスト』はこいつを発見したんだが、既に特殊空間に取り込まれた人も少なくない。そこで救出に向かうに当たって、アークに援軍を要請してきたわけだ」 作戦としては『オルクス・パラスト』が被害者の救出に向かい、アーク側のリベリスタが破界器の破壊に向かう形になる。当然のことだが、既にアークは戦力として期待されているのだ。 「『オルクス・パラスト』には結構借りもあるし、返すチャンスって感じだな。だけど、気を付けてくれ。海外は『万華鏡』が使えない。当然、向こうも情報収集をしてくれてはいるが、情報精度はやや落ちると思ってくれ」 つまり、不測の事態が起きる可能性もあるということだ。もちろん、そうしたことが起きないまでも、普段の任務よりも達成は困難であろう。それでも、守生を始めとした送り出す側のメンバーはリベリスタ達の勝利を信じている。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月24日(木)23:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 魔女狩り、それは中世ヨーロッパが孕む暗黒の歴史。 当時、魔術を使ったとされる者が、神の名の下に裁判――それも理不尽な――にかけられ命を落として行ったのだという。実際に魔術を使える神秘の側の住人は元より、少なからぬ無辜の民がその傲慢な刃によって命を落とした。 正確な数はもはや分からないが、その数は数万人は数えるのだという。 そして、時代の闇が生んだ子は人知れぬ場所で爪を研いでいたのだ。 「元から情報が完全じゃないんだ、受け手の認識ずれまであったら堪らんぜ」 『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は、館の中で嘆息を漏らした。 目の前に立ち並ぶ想定よりも多い数の敵を前にして、それだけの余裕が持てることは、ある意味で幸いだった。 「新たな魔女が現れたぞ!」 「仲間を助けに来たんだ!」 「殺せ! 殺すんだ!!!」 気の弱いものであれば、それだけで自分が罪人であると錯覚してしまいそうな熱狂の気。なるほど、これこそがかの悲劇を招いた人々の狂気だというのなら、納得せざるを得まい。 「人間の闇を見ているみたいですね……」 如月・真人(BNE003358)の額に汗が伝う。 正直言って、怖い。 これを生み出した元が、人間の心であるという事実が何よりも恐ろしい。 また、目の前に広がる敵の数も、リベリスタ達にとっては脅威と言えた。暴徒の形を取るエリューションの数は、リベリスタ達の想定よりも多かった。もちろん、ヨーロッパについてから『オルクス・パラスト』との事前打ち合わせもあった。しかし、敵の数についての詳細な数については曖昧なままだった。 アークが有する『万華鏡』は対象を日本国内に限定するものの、極めて高い精度を誇る。『オルクス・パラスト』とてフォーチュナや他の予測システムを有しているが、『万華鏡』のそれに比べれば、劣っていると言わざるを得ない。結果、アークのリベリスタ達は普段よりも不利な戦いを行うことになった。 「とは言え、オルクス・パラストには随分と借りがあるみたいだし、ここで少しでも返せるように頑張らんとな」 力強い言葉と共に、『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)は迫り来るエリューション達を威嚇するような構えを取る。2m越えの熊のような体躯をがっしりした筋肉でよろった大男である。それが発する威圧感は、目の前に立ち並ぶエリューション達のそれにも劣らない。 そして、睨む先に存在するのは目に見える程の妖気を発する古びた椅子だ。 知識のあるものが見れば、それは拷問具の一種と分かる。 神秘の知識を持つものであるのなら、紛れも無い敵だと判断することだろう。 「嘗ての拷問具がAF化……ですか――本当に笑えない話ですね」 そして、年若いながらも幾多の戦いを経た少女――『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)も、迷わず「それ」を敵と判断した。そうなれば、獅子の心を持つ少女は怜悧に判断を下すのみ。 「秘めたソレは悪意と狂気。なればこそ、現在を生きる者として祓って魅せましょう」 そんなリベリスタ達の目の前でも、引き立てられて無力にうな垂れる女性達の姿がある。 エリューションの見せる過去の粗悪な模倣に、『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は眉を顰めた。 「魔女狩りね……。異端審問、嫌いなのよね。傲慢に満ちたその考え方、怖気が走るわ」 「あぁ、俺は救いのねー話ってのは嫌いなんだよな」 相槌を打ったのは、意外にも『スーパーマグメイガス』ラヴィアン・リファール(BNE002787)だ。 年齢や方向性に違いはあれど、それぞれに「魔女」の名を名乗るにふさわしい娘たちである。 内面に歪みを抱えるティアリアにしても、いや、歪みを抱える彼女だからこそ、魔女狩りに嫌悪感を示す。ましてや、救いとして提示される方法を以ってしても、救われる可能性は無いのだ。これ程の理不尽も無い。 ラヴィアンの理屈はティアリアのそれよりも遥かに単純で、明快なものだ。 「無実の人が裁かれるとかかわいそうじゃん。ちゃんと救ってあげなきゃな。正義の味方が、さ!」 罪の無いものが理不尽に裁かれるというのならそれを救う。 それが正義の味方というものだ。 彼女にとって、魔女狩りを行う者達が掲げる「正義」等、「悪」そのものに他ならない。 白と黒、癒しと破壊、悪と善、異なる魔術を修めた現代の魔女が、狂える信徒を見据えると、相対する異端審問官は大声で叫ぶ。すると、エリューション達は一斉に攻撃を開始した。 「裁判を行うまでも無い! 奴らは有罪だ!」 「魔女裁判ダー、バリバリ。中世ッテノハタマッタモンジャネエナ」 呆れたような表情を浮かべる『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)。あんなノロマ共、何匹来ようが同じことだ。 そして、エリューション達がリベリスタ達に襲い掛かろうとした時、その後方で爆発音が響く。 「やはり、貴様も魔女だったか!」 「そう、私は魔女ですわ。でも貴方たちも、そうではなくって? ……違うと言うのでしたら、自分の試験に自分で入ってみると良い」 エリューション達に捕えられていたはずの女性の1人。 その姿がみるみる変わって行く。現れるのは金髪の青年、『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)だ。彼にとってE能力で姿を変えることなど造作も無い。そして、歴戦のフィクサードですら恐れさせる男にとって、判断力の低い暴徒を謀るなど赤子の手を捻るよりもたやすいことだ。 そして、浮き足立つエリューション達の前でリュミエールは全身に電光を走らせた。 「サァこの世界を吹っ飛ばす。コノ世界は遅イ古イクダラナイ」 歌うように、唄うように、謳うように。 「世界ヨ狂イ正セ加速シロ。私ハ誰ヨリモ速イノダカラ」 極限の域にまで、そして究極の域にまで達した少女の速度は今、限界を超えた。 ● 今まさに殺されようとしている被害者がいることは、ラヴィアンが見抜いていた。事前情報が少ないなら、現場で集めるまでの話。正義のヒーローは助けを求める人々の姿を見逃さないものだ。 そして、それがあったからこそ、オーウェンも無事に被害女性――ノーマに接触することが出来た。場所さえ分かってしまえば、敵の中を縫って動けば良いだけの話。 本番はここから。 襲い掛かってくるエリューション相手に、その源である破界器に向かうのだ。 ミリィは内心の不安を押し殺し、被害女性に微笑みかけた。 「もう、大丈夫です。貴女は私たちが絶対に守りますから」 「そう簡単にやらせてはくれないようだが……」 オーウェンの脳内でこれから進むべき論理を組み上げる。 いささか犠牲は払うが、通り抜けられない道ではない。だったら、無理にでも押し通るまでだ。 「こちらには来ないでもらおうか」 先ほどまでの計算がそのまま物理エネルギーに変換される。その圧倒的な力にオーウェンの周りにいたエリューション達は、床に空いていた水槽に落とされ、リベリスタ達の道が拓かれる。 「お前さんらに言わせれば、浮かぶのと沈むの、どちらが魔女だったか……まぁ、そうなってはどちらでも良さそうだな」 「見せてやるよ! 魔女ラヴィアン様の魔法って奴を!」 エリューション達がリベリスタ達の侵攻を塞ぐべく動き出すより速く、ラヴィアンが動いた。 彼女にとっての魔法とは現実を変えていく力。そして、自分の正義を貫く手段だ。 空中にいくつもの魔法陣が浮かび上がる中で、ラヴィアンは自分自身の白い手を傷付ける。すると、どうだろう。滴り落ちる血が黒い鎖に変わり、魔法陣を通ると一気にその数を増やす。濁流の如き鎖は、見る見る内にエリューション達の身体を拘束していく。 その中を雷のように、リュミエールとカルラは駆け抜けていく。 「その獣の如き耳と尻尾……疑うまでも無く魔女だな! 違うというなら言ってみろ! どちらにせよ、水に沈めば魔女、この刃で傷付けば魔女だ!」 「当法廷の裁判は公正? 魔女は水に浮カナイ? 浮カンダラ有罪、沈ンデ死ネバ無罪と判定スル? お前ラ言ってる事アベコベジャネ?」 審問官の姿をしたエリューションが神秘を封じるべく言葉を紡ぐ。しかし、リュミエールはそんな言葉を笑い飛ばす。 「そんなことはない。魔女は水に浮かぶのだ。浮かべば魔女、沈めば魔女だ!」 「魔女が無罪の裁判シテンジャネーカオマエ。ソレニ言っテルコトガ無茶苦茶ダゾ、アホらし」 所詮は狂喜の産物と言うことか。 エリューションの言葉自体が既に破綻をきたしている。 リュミエールは華麗に空中に舞うと、巧みに尻尾で攻撃を回避しつつ、二振りの短剣から無数の刺突を繰り返す。 その時だった。 椅子の形をした破界器は、座面から巨大な牙を生やす。さらに全身にびっしりと棘を生やして迎え撃つ体勢だ。しかしそれはカルラも同様だ。相手に狂気で充たされた怪物でしかないというのなら、 「どうせ何言ったところで通じないなら……やるこたぁひとつだ!」 カルラの拳を覆う手甲が魔力の光を放つ。 それはあたかも、赤い翼を思わせる姿をしている。現れる魔力はカルラの速度を1つ上の次元にまで引き上げた。 「オラオラァ!」 普段の温和な仮面をかなぐり捨てて、カルラは恐るべき勢いで拳を繰り出す。 拳が激しく傷つき、血を流している。しかし、それにも構わず彼の拳は止まらない。その姿はまさしく、赤き狂戦士だ。 圧倒的な攻勢を前にあらぬ方へと攻撃を飛ばしてしまう破界器。眷属たるエリューションは声に焦燥を浮かべて、リベリスタ達を狙おうとする。 「奴らを止めろ!」 「お待ちなさい」 そこへストップをかけたのはミリィだ。 命懸けの制止。下手を打てば暴徒たちに嬲り殺される可能性もある。聡い彼女にはその可能性も見えている。それでも、躊躇はほんの一瞬。仲間を信じているからこそ、その先に踏み出す勇気を持てるのだ。 「裁くべき魔女は此処にいます。目の前の魔女すら裁けないようではウィッチ・ハントの名が泣きますよ?」 ミリィの挑発に導かれるように、異端審問官を始めとしたエリューション達が襲い掛かってくる。神秘の閃光弾を投げて足止めをするが、全てを止められるわけではない。 少女の身体がバラバラに引き裂かれる、そんな未来の予測がされた。 しかし、その光景は現実のものにはならなかった。 巨大な壁のようにアーサー・レオンハートが立ち塞がったからだ。 「魔女狩りと称して罪のない命が奪われていくなんてことが現代で起こる……そんなことをこれ以上やらせるわけにはいかん」 力強い絶対の宣言と共にアーサーは迫るエリューション達の攻撃を受け止める。 別に感謝が欲しくて護る訳では無い。 自分が犠牲になっているつもりもさらさらない。 ただ、自分がそうしたいからだ。全てを失ったからこそ、貫きたい意地というものがある。元より、自分の身体は泥にまみれ、傷だらけなのだ。これ以上、傷が増えたからと言って何が変わる訳でも無い。 そんな鋼鉄の不沈艦の如き巨体も、幾度と無く攻撃を受け、膝を屈しそうになる。だが、その時戦場に優しい風が流れた。 アークの強さを分析するに当たって、『万華鏡』による精密予知はしばしば話題に挙げられる。しかし、彼らの強さがそれだけのものであるというのなら、わざわざ派兵を要請する海外のリベリスタ組織はいなかっただろう。リベリスタ達の行う強固なコンビネーション、ギリギリで粘る勝負強さ。それこそが真にアークの戦いを支えてきたのだ。 後衛のメンバーが攻撃に耐えられないから、ミリィが敵を引き付ける。 ミリィが耐え切れないなら、アーサーが盾となる。 そして、アーサーが倒れようというのなら……それをティアリアと真人が癒す。 「被害者が居たら……尚更その人より後ろに下がれませんよね」 真人の瞳から怯えは消えていない。 傷ついたオーウェンの後ろに被害者の姿が見える。傷付いた人がいるというのなら、少しでもその痛みを和らげることが出来るなら……そのために自分はここにいるのだ。 「何をしている! 魔女を殺せ! 魔女を殺さなくては、我々は……!」 審問官が慌てだす。 傍目にはリベリスタ側の方が劣勢にも見えよう。しかし、実態は逆だ。 エリューション達全ての拠り所になっているのは、破界器「ウィッチ・ハント」。そして、それは突破したリュミエールとカルラの手によって、大きな傷を受けていた。それはチェスで言うならキング。今まさにチェックメイトに入ろうとしていた。 そして、リベリスタ達の戦闘力は傷つきながらも衰えを見せていない。 「何を慌てているのかしら?」 ティアリアは少女のような笑みと共に、慌てる審問官に話しかける。しかし、その真意は傷ついた鼠を弄ぶ猫と変わるまい。 「いい? 魔女は浮かない、っていうことは、浮けば魔女じゃないってことよ。それを、浮いたら有罪だなんて、裁判しているとは思えないわ。正しい判断さえ守れない貴方達に、人を裁く資格なんてないわ」 紡がれるのは魔女による否定の言葉。 既に裁く者と裁かれる者は逆転していた。 「さて、だ。あの様な異様な能力……これこそが、魔女の術だとは思わんかね?」 皮肉げな笑みを浮かべオーウェンはここぞとばかりに論理矛盾を突く。 当時、E能力者が魔女とみなされたのならば、この空間を構築したものは魔女そのものに他ならない。 「無実の人間を殺した罪。誰もお前らを裁かないなら、俺が裁く! 全員ギルティ! 殺した奴にあの世で土下座しな!」 「自らを律するロジックさえ守れないアーティファクトなんてゴミね。さっさと壊れてしまいなさい」 「あの豚の糞にも劣る、魔女どもを黙らせろぉぉぉぉ!」 既に拠るべき論理すら失った審問官は叫び声を上げる。 しかし、それと同時にリュミエールは断罪の刃を振り下ろした。 光が舞い、狂気の檻を作った破界器が崩れていく。それと同時に、世界そのものが歪んでいく。 苦しみと怨嗟の声を上げながら消えゆくエリューション達、いや、それを生み出した狂気に向かってリュミエールはあざ笑うかのように言った。 「テメエラ魔女アッタコトネーダロ。私ハアルゾ胸の無駄にデッケエ魔女ヲナ」 ● 破界器「ウィッチ・ハント」の破壊任務が終わり、リベリスタ達は『オルクス・パラスト』の拠点に帰還した。救出した女性を引き渡したミリィが聞いた話では、お陰で他の場所に捕まっていた被害者も無事に救出されたのだという。 そんな話を聞きながらリベリスタ達は傷ついた体を休め、日本に戻るまでの時間を潰していた。 こと欧州出身のカルラ等は、戦いから日常に戻ると、ついつい物思いに耽ってしまう。 「欧州とか、懐かしいな……離れて何年も経ってないのに。色々と経験するのはいいが、多忙なのも考え物だな」 「同じく久しぶりね、ヨーロッパは。色々あり過ぎて思い出したくもないことが多いけれど」 ティアリアもまた、欧州の出身だ。そして、この地に生まれたからこそ、嫌な思い出も少なくない。 しかし、その一方で真人は辞書を片手に大わらわだ。 幸い、『オルクス・パラスト』は通訳を用意してくれていたものの、相談の際に自分が日本語しか話せなかったことを気に病んでいるらしい。 「うぅ、大学に進学したらドイツ語の勉強しようかな……?」 『極東の空白地帯』に生まれた箱舟は、こうして世界という広大な海原に踏み出した。 しかし、その航海はまだ始まったばかり、ということなのかも知れない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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