● 雨がしとしと降っている。 午後からは晴れるようだが、ブリーフィングルームの中で『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は外を見ていた。 「おんも、行って良い?」 「駄目ですよ、翼が汚れますよ。傘も刺さずに特攻するんですから」 「ぶーケチ、ドケチ、ケチケチケチケチケチケチ! あ、お姉様から貰った傘ならあったわ。ほら!ほら見なさいよ、傘あるわよ、傘が此処にあるわよ!」 彼女のAFから取り出した傘が机の上に堂々と置かれた。 「刺していくならいいですよ」 机の横にぶら下がった『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)は、鼻から上だけを出してニターっと笑った。 「雨音が綺麗なくらいに大粒な雨だね。油断してたら全身濡れ濡れに成るパターンの此れだよねぇ。はい、クレイジーマリアちゃんいってらっしゃーい」 「わー!」 『規格外』架枢 深鴇が、一瞬だけ開けた窓。風に誘われて入ってくる雨が、其の周囲の足下を濡らしていく。されど其れとは逆に、窓の外へ出て行ったマリアを確認した刹那、ピシャと閉めたのであった。 「どう足掻いても汚れて帰ってくる気がします」 「傘、忘れて行ったもんねぇ」 「届けてきます……」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月11日(金)22:15 |
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■メイン参加者 29人■ | |||||
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● マリアよ。 今起こっている事をありのままに話すわ。マリアは杏理の近くから飛びだって数分もせずに何故、何故。 「ふふ、雨に濡れると濡れ濡れで透け透け。しかも身体が寒くなっちゃうからお風呂までこのまま一緒に?」 「――何故、那由多に捕まっているのかしら!?」 もふもふぎゅっぎゅ。マリアが濡れている事なんて一切気にせず、珍粘は彼女の身体を抱きしめていた。 「まあ、冗談ですけど」 そう付け足した珍粘は、マリアのまだ硬いけれどもやわらかい胸元に顔を押し付けていた。 こうしている事で心の澱みが晴れる気がして。名前のコンプレックスをこじらせると珍粘のようになるらしい。 「ベルはね、すっごく可愛くて良い子だよ。ずっと抱き締めていたい位に」 「!?」 見開いた瞳、マリアは珍粘からそんな言葉が聞けると思わなかったのか。 「そして自宅にお持ち帰りしたい位に!!」 だが直後付け足された言葉に、何かがぶちこわしになってしまった感覚は否めないのであった。平常運転。 まどろみの意識の中で誰かの声が聞こえる。 『み……や、様……?』 誰だろうか。声の高さからして恐らく妹か。 そういえば、何か大事な事を忘れている気がする。 暗転、現。 「あ! 息がありました、良かったです!」 夏栖斗の丁度頭の上辺りにあったティッシュから抜いた、ペーパーで一枚。リリは夏栖斗の鼻付近に其れをあてて息をしているか確かめていた。 なんといっても遊ぶ予定の時刻から既に1時間が軽く過ぎていた。家まで来てみて倒れている彼(寝ている)を見て死体だと思ったリリは底なしの天然とも言えよう。 暗転、夢。 『あの……そろそ、、起き、……い!』 今日はやたらとしつこい妹(仮)の腕を掴んだ夏栖斗。 「あー、あとごふん。5分で起きっから大人しく抱き枕されとけよ……ぉ?」 「キャッ!?」 「キャ?」 感触が違う、特に胸あたりにデリケートな何かが。香りも触り心地も声も何もかも。 暗転、現。 パ、と目が見開いた夏栖斗の鼻スレスレの所でリリの真っ赤な顔があった。勢いで引き寄せた顔、腰に回った腕。 数秒時間が止まってから、再び息をふき返したは夏栖斗の方で。 <スーパースロー映像でお楽しみください> 夏栖斗が布団から転げ落ちる。 地面を蹴って、半回転して天井に足をつける。 天井を蹴って、回転しながら床に土下座姿で着地する。(0.8秒) 「り、リリさんじゃないですか? なにゆえ、僕のお部屋に……ってあっ、あの、あれですか? 大遅刻ってやつでしょうか?」 「い、いえ、いいんですよ、それより仲の良い兄妹ですね!!」 「うわぁ、ダブルで大失態です! ごめん! 本当にごめんなさい!」 暫く、互いにペコペコし合っていた。 座っている竜一の足の間にユーヌの身体がすっぽり入っている。 彼女の背中を後ろから抱きしめながらも、ユーヌは大して気にもせずに本のページを一枚捲った。 外の雨音がやたらと大きく響く中、無表情のユーヌと笑顔で彼女をもふる竜一。しかし竜一は笑顔の奥底では全力で冷や汗を流しながら、青白い顔色へと変わっていっていた。 と、いうのも。 先日ユーヌの誕生日に竜一が一世一代のプロポーズをしたということで、マジかよ。 その場での返事をもらえなかったわけで即答されなかったのは何かあると思うわけでその何かが何かと思えば愛想を尽かされたのかもしれないと思うわけで日々のセクハラじみた言動が問題なんだろうかとも思うわけで。(プレイング原文まま) そんな事よりもふもふくんかくんかすりすりぎゅっぎゅむぎゅううう。 抱きしめられれば抱きしめられる程、竜一の胸の高鳴りが聞こえて。無表情でありながら少しニヤつくユーヌの愛らしい意地悪さは半端ない。 愛されていると判っているし、愛していると判っているからこそ答えらしい答えは必要無いと踏んでいるユーヌに、されど答えが待ち遠しい竜一はどんどん惹きつけられているのだろう。 「ああ、そうだ。誕生日プレゼントは何が良い? まぁ、何かは決まっているが」 「むむ。そうだなあ。俺の望みは、たった一つ。たった一人だよ」 雨に濡れるのは嫌いなのだが、大切な妹が風邪を引いたら大変だと。六枚の翼を外の空気に触れさせた氷璃。 暫くも時間はかからなかった。見つけた少女の肩を叩き、振り返った姿に安堵する。 「お姉様。あのね、傘が無かったのよ」 「そう」 氷璃がマリアの頬に触れれば、其処から伝わるのは冷たさ。冷え切った身体を温める為にも。 「マリア、甘くて温かいココアは好きかしら? 美味しいお菓子もあるから寄って行きなさい」 「!! マリア行くわ!! じゃなかった、行ってあげてもいいのよ?」 身体を温めるにしても、服を着替えさせるにしても、家に連れて帰るのが一番の方法である。氷璃は冷たい手を引きながら、こんな簡単な方法で釣れる事に苦笑しながら ――くしゅん。 とひとつくしゃみをしたのであった。 「次期党首の双子の兄上どのが御自ら他組織に来るとは、どういう風の吹き回しだ?」 朔は玄関の靴置場で立っている臣を迎えて、……迎えたは良いものをかなり扱いに困る様に腕を組んだ。 内心、面倒という言葉が螺旋を組む。 「このアークが日本、あるいは神秘世界の中心地となっていくにもう疑う余地はないでしょう」 だからこそ、我の強い姉よりも己がアークを暴くに相応しいと、金の蛇の眼がギラリを朔を睨むのは、10を少しばかり超えた少年に有るまじき雰囲気である。 昔からそうなのだ、妹にそっくりな顔にそっくりな性格。其れが正直厄介ではあるのだが。 「庭に冴の墓がある。手ぐらい合わせていくか?」 「必要ありません。冴姉さんは正義を示した。それを知っていれば十分です」 「相変わらずだな、お前は」 「姉さんは変わりましたね。まるでノーマル(一般人)のような事を言う」 確かに、朔は変わったのだろう。闘争の欲求が第一にあるのは変わらないが、気を取られるものが多くなった。朔は其れを是とするが、臣から見れば非と言うのだろう。 髪をかき上げ、掻きながら朔は今後の生活のアブノーマルをフォーチュナで無きにしろ察していた。 何時の間にか靴を脱いで上がっていた臣が朔の隣を通っていく。すれ違い様。 「しばらくここに厄介になります。自分の事は自分でやるので、僕の事はどうぞお構いなく」 「やれやれ、面倒だな」 遂に頭を巡る文字を吐き出してしまった。扉が閉まる音だけを聞いてから、愛刀を取り出し朔は話かける。 「お前もそうは思わないか? 冴」 返事は無いけれども、剣が何故だか曇って見えたのは一瞬だけであった。 レインポンチョを羽織った緑は、肩に落ちる雨の音に満足しながら歩いていく。 緑曰く、恩人のリベリスタがいない為、退屈を持て余して遂に我慢が出来ずに外へと面白い事を探しに来てしまったらしい。 ふと。 「くしゅっん」 「……あ、天使が濡れてる」 緑の目線には、マリアが居た。 「こんにちは、おねーさん。傘、持ってないの?」 「持ってないわよ、悪い?」 此の天使、意外にも口が悪かった。 「僕のこれでよければ、いる? うーん、でもこれ僕サイズだから、小さいかなあ」 されど緑は口調の彼是はスルーしながらポンチョを差し出していた。無いよりはマシと掴んだポンチョを強引に着たものの、翼がポンチョからかなりはみ出している感は否めない。 其の翼に触れたいと緑は手を伸ばす。こういうふわふわなものが好きだという彼をマリアは止める事は無かった。 「雨はどうも、苦手です」 そう呟く七花の手前、光介は空から落ちていく水を見守っていた。 何故七花が雨が苦手なのかと問えば、彼女がメタルフレームであるからこそであり、機会部位が錆びてしまえば違和感に苛まれてしまうからだという。 「綿谷さんは雨の日はどうですか?」 「ボク……ですか?」 光介は顎に指をあてて、頭が沸騰するのでは無いかと思える程に、雨の日というものは好きか嫌いかひねり出してみるのだが。 「んー、ボクはそれほど苦手ではないですけど、雨」 苦手な理由を探してみても、見当たらない。けれども超好き!という程でも無いらしい。しかし、されど一つだけ光介にも許せないものはあった。 「雨の日って、髪が湿気でもふぁ!って跳ねちゃうんですよね。その、特に、角のまわり」 其の癖が直らないと、光介は自分の髪の毛に触れながら、あたふた動いているのを見て七花はくすりと笑った。 「今日は傘を忘れ雨に降られて散々でしたが」 ……お友達の事を一つ知れたから、雨も悪くないかもしれませんね? 此の部分はあえて口にしかなかったから、光介は微笑しながら小顔を傾げた。 彼女とは依頼から関係が始まり、今に至る。友達と仲良くできる此の感覚に嬉しさを感じながら、二人同じ雨色の空を見上げたのであった。 「ああ、ベル」 「付喪! どうしたの、遊んでくれるのかしら? 今日は雨だけれど鬼ごっこも素敵だわ!」 公園へ!と引っ張る腕に力がこもった。だが付喪の足は動かない。 不審に思ったマリアが顔を横におなかすいたの?と聞いて来たのだが。 「……ああ、マリア。じゃないベルに今日はお別れを言いに来たんだよ」 「……え」 突然の別れの言葉にマリアは理解できないという顔をした。 「しばらく街を離れようかと思ってね。ベルも随分友達が増えたみたいだし。私も安心して出掛けられるよ」 「ま、まだよっ! まだマリア友達少ないわ! だからまだ安心なんてさせないわよ!」 くるり、付喪は容赦なく歩き出した。振り向けば、追って来るマリアに決心した事が揺らいでしまいそうな気がして。 最後の一瞬だけ撫でた髪は、濡れていて冷たかったけれど。 「それじゃあね。私が居なくても、あんまり悪戯ばかりするんじゃないよ?」 「付喪……お、覚えてなさいよ! 次会った時は、もっと友達増やしてるんだから!!」 歩き出した付喪を止める腕の力が弱まった、其の一瞬の隙で歩き出す。きっと、また何時か会えると信じているから。 まさか、こんなにもフラグを踏んだのに温泉旅行だなんて。後々堕天は落とされるだろう。因みに甘いものならマリアはなんでも好きだ。 強くも弱くも無い雨とはこの事を言うのだろうか。 朝の散歩に出ていた悠月は、傘に滴る雨音を耳で聞きながら、梅雨の時期ならば雨は仕方ないものだと思う。 風流だと、特に、縁側で聴く降りしきる雨音は特に良いのだが……。 「悠月だわ!」 「―――ベル?」 と返事をした時には遅かった。ずぶ濡れの子猫でも見つけたような目線で、既に自身の足に抱き付いているものを見た。 嗚呼、濡れないようにする為の傘が無駄になってしまったか。彼女が触った部分が濡れて最早仕方が無い。 「雨だわ!」 そうはしゃぐ楽しそうなマリアに何も言えなくなった悠月は傘の中に彼女を招いた。 お話しながらだが、風邪を引かないように、彼女を此れ以上濡らさないように。 滴る雨が二人の髪を濡らして、其の毛先から雫がまた地面に落ちていく。 湿気帯びた身体は気持ち悪いにも程があるのだが、今は其の侭ずぶ濡れになってしまいたいそんな気分。 「あ、霧島ちゃんもそんな気分? イッツシーングインザレイーン!」 「うるさい」 光の薄い瞳でそっぽを向いた俊介に、葬識は回り込んで視界内に自分を入れさせた。 珍しく、温厚な俊介の機嫌が斜め通り越して縦になっているのは、きっと何かがあったのだろうと友人なりに察してみる。 「なあ、葬の字にとって殺しって何?」 「例えばさ、霧島ちゃんはお腹すいたら御飯食べるし、眠たくなったら眠るでしょ? それと一緒だよ。俺様ちゃんにとっての殺しは、当たり前のことだよ。ジョーシキ!」 因果応報、殺されたくないから殺さない俊介と、本能的に殺す葬識とでは生きている格がまず違っていた。 そんな二人の質疑応答が綺麗に噛みあう事は無く、けれども葬識は饒舌に語るが無意識に俊介の心を叩き潰していた。もう俊介泣きそうよ。 「一人殺せば満足する葬ちゃんと違って、数千人殺しても俺は満たされないんだよ」 「霧島ちゃんは食いしん坊なんだね。満たされるまで貪欲に。そういうとこ好きだよ、俺様ちゃんは」 俊介は葬識の腕を掴み引き寄せ、自身の家の入り口に押し込んだ。乱暴だなぁと濡れた髪をかき上げた葬識の瞳には、服を絞っては腹が見えている俊介が映った。 「クズ同士仲良くしようぜ」 外は静かな雨が降りしきる。そのせいか、雨だから皆、家に引きこもっているのか店内に人の数は少ない。 だからこそ、静かでゆっくりとした雰囲気が其処にはあった。杏樹と淑子と杏理は、丸いテーブルを囲みながら少女らしい高い声で言う。 「雨宿りでもないと、こういうところは余り来ないな」 「予報では、午後にはあがるそうよ。……此処は、確かパンケーキが美味しいのよね」 「じゃあ私は、はちみつを掛けたパンケーキにカフェオレを。杏理は、何食べる?」 「では、此のアイスクリームが乗ったパンケーキが食べたいです、あと私はあたたかいお茶で」 数分と待たずに、テーブルにはパンケーキが並べられた。シルバーがお皿の上を這いながら、少女たちの話は続く。 抹茶ティラミスがあるパンケーキを口に運んで甘い幸せに酔う淑子は、それから窓の外を再び見た。 「雨の日は外出が億劫だけれど、雨の奏でる音色はとても好きなの」 「雨音のリズムは私も好きだな。落ち着く」 淑子の声に杏樹が続いた。淑子がお二人は雨の日は何をしているのか問えば、杏樹は礼拝してからパンを焼き、最近では友人がオルガンを奏でてくれているという。 一方杏理はいつも通りの仕事をしているらしい。 「オルガン、是非今度聞かせて欲しいわ」 「ああ、来るといい。杏理、君もな」 「はい、では今度行かせて頂きますね」 また少しの静寂の後、今度は杏樹がパンケーキを交換しないかと提案をした。 其れに乗った三人は心行くまで色んな味のするパンケーキを楽しんだのであった。 ● 「紫陽花が見頃ですから、散歩がてら見に行きますか?」 「いくいくー、お庭に紫陽花も咲いてるの? 見たい、みたーい!」←>< 雨上がり、雨に洗われた空はとても綺麗な色をしている。 メリッサとシーヴは其れに突き動かされたかのようにして、二人外へと飛び出したのだ。 「わー、綺麗っ! 執事さんはお手入れ上手っ」 頭に浮かんだ単語を此れでもかと言葉にして喜ぶシーヴの隣で、メリッサはうんうんと顔を何回も上下させた。 座り込み、シーヴが片手を添えた紫陽花のなんと美しき事か。淡い色、土が酸性だと赤色く、アルカリだと青色っぽくなるだとかそんな話があったような気がする。 植物と語り合うシーヴは皆好きだと紫陽花が言っているのだという。 「メリッサおねーさんも好きーって、私と一緒!」 「私も…………嫌いではないです。そろそろ、爺やがおやつを用意している時間ですね」 「お?」 まるで逃げるように屋内へと入っていくメリッサに、シーヴは不思議そうに其の後を追った。 メリッサからしてみれば、飾らないストレートド直球な言葉は苦手であり、恥ずかしいのだろう。 それはさておいて、切り替えの早いシーヴは既に両手を広げて今日のおやつは何か、最早其方の方に意識がいってしまっているらしい。 「雨上がりに急ぐと転びますよ。ほら」 「急いでも転ばないもー……ひゃあ!」 漫画のような、スキップからのつるんどべしゃぁ! ……という訳では無く、つるんの後はメリッサがシーヴを両手で受け止めていた。 「あうあう、ありがとうございます」 「気をつけて」 「雨上がりの湿気った空気がうろこやヒレに当たって気持ちいいねえ~」 背伸びをして、洗われた空気を惜しみなく肺へと入れていくせおり。刹那、長靴だけを履いてお外へと飛び出していくのであった。 「マリアちゃん、マリアちゃん、カタツムリ! 見にいかない?」 「いってやってもいいわよ」 途中で合流したマリアをお供に、せおりは駆けていく――其の途中。 「わ! アジサイの葉っぱの上に親子のカタツムリがいるよー!」 「!! 本当だわ、他にもたくさんいるのね」 「そういえば、カタツムリって雌雄同体だから、子供にとってはお父さんでもありお母さんでもあるんだってー」 「し、しゆ、しゆ?」 「ありゃー、マリアちゃんにはまだ難しかったかー」 笑うせおりの手前、マリアは顔を傾げて頭の上にハテナが浮かんでいた。 「結唯だわ」 「……またうるさいのが来た」 定期的に結唯は紫國館を見回る為に歩くのだが、こういう(マリア)イレギュラーが館に入って来ない為だ。 しかしまあ、ずぶ濡れの彼女を見て結唯はタオルを差し出し、威嚇するような声色であろうとも其の行動は優しい。 「キャハハハ! 拭ったら遊ぶ?」 「うるさい、遊ばん。何をしに来たんだ」 「これといって用事は無いのよ! アナタこそこれから何をするのかしら!」 「先日、この館で神秘が出てもおかしくない、という話はしただろう。雨も止んだからな、外を見回りに行くんだ。お前も来るか?」 「いってあげてもいいわよ!」 仕方なく、仕方なくだが結唯はマリアを連れて見回りをする事になった。 「所で杏理は来ないのか。次ここに連れて来るといい、つまらんからな」 「はぁい」 其れまでは快は、確かに歩けていた。仕事を終えて、何かのスイッチが切れたからであろうか。 「っと……あれ?」 右腕を壁に押し付けて身体の体重を支える。其の内、快の視界が狭まって行きながら少しずつ膝が折られていき、遂に座り込んでしまった。 「やば……立てない……?」 お世辞にも優しいとは言えない依頼を立て続けに行ってきたからか、今其のツケが回って来たのか。 「!? ――新田さん、大丈夫ですか」 よく聞く声だ。恐らくと言わずとも、ユーディスである事は快は声から認識した。 「あ……ユーディスさん。悪ぃ、ちょっと肩貸して」 有無を言う前に快の身体にユーディスの腕が絡んだ。ふらついて、不安定な足に鞭を打って立ちながら。少しずつ狭まった視界を取り戻して、ユーディスの心配そうな表情が見えた。 「ちょっと、立ちくらみっていうか。そこの休憩室まででいいから、さ」 「……休憩室ですね、わかりました」 それから休憩室の中、120円で買った飲み物を手に隣同士で座っていた。 ユーディスが話を聞くに、それまでの積み重ねにより身体が悲鳴をあげているようだ。特に大宰府での戦闘では辛いものがあったそうな。 ――と、此処で駄目元で。ほんの戯れに快は、 「頑張ったで賞ってことでさ。同じ任務だったよしみで、膝枕してくれるとかはどうかな?」 なんて悪戯的な笑顔を向けて言った。のだが、しかしユーディス、真顔で顔を縦に振り。 「膝枕……ですか? ……まあ、構わないですけれど」 苦笑いしつつも、太ももをぽんぽんと叩いて快を誘ったのであった。 「――無理はなさらず。お休みなさい」 一息ついてから、宿題のプリントを束ねて机の上に置いたアリステア。 彼女の隣には涼が、終わったかな?と笑顔を向けながら隣に座っていた。今までは彼女の邪魔をしないと座っていた二人には距離があったが、其れが一瞬にして縮まった。 「もうすぐ梅雨明けだし、一気に暑くなるよねー。去年の夏は花火とか海とか楽しかったね」 「もうなんかスゲー暑い気もするけど、こっからが夏本番なんだよなあ。ま、今年も色々できればいいよね」 「今年も沢山遊ぼうね」 ついさっきまで紅茶のカップを持っていた手が、今は彼と彼女の手を結び合って、力強くぎゅっと握られた。 涼の力強い腕に頭を凭れたアリステアは、 「来年も再来年も、こうやってお話できてたら嬉しいな。大好きな涼と一緒ってしあわ……」 其処まで言って、固まった。 「や、うん。何でもないもん」 涼の目線からはハテナの文字が浮かぶのだが、アリステアとしてはこんな恥ずかしい事をぽろりしそうになった事が、彼女的には羞恥域であったようだ。 赤み帯びていく顔を彼に魅せまいと、己の顔を彼の身体に押し付けて。其れを涼は優しく撫でながら窓の外、雨に洗われて晴れ渡る景色を見た。 「そうだな。来年・再来年もこうやって話ができればいいなあ。大好きなアリステアと一緒で幸せだよ」 悠里と拓真は、道場で酒を開けていく。其れまでは楽しい会話を肴に、酒の味を堪能していたのだが。 こと、と拓真が盃を置き、一息置いた後には空気が一変した。 「報告書に目は通した。あの任務か……」 口に含んだ酒が、何故か美味しくなくなった悠里は少し間を開けてから外を見た。 「わからなくなったんだ。アークにいることが正しい事なのか」 思い出すのも反吐が出る。折角の酒が入った盃が、ふいに手に力が入ったのかヒビが入り、其の間から雫が落ちていく。 正義を盾に人を殺した。仕方ない犠牲では無く、故意の殺しを仲間が――。 「俺に言わせれば悪だが……見方こそ違えば、あれも正義だ」 「あんなのが? あんなものが……!!」 遂に弾けて壊れた盃が床に転がった。ハッとした悠里が謝りながら、代わりに破片を拾う拓真。 「多くの人が集まる以上、考えが違う者も存在する。誰しもが他人を慮り、配慮出来る者ばかりではない」 「でも、それが僕が守りたいものを踏みにじる事になるんなら僕は……僕はアークを」 拓真は組織を去る事は止めはしなかった。組織とは多くの人が集まり多種多様な考え方が跋扈する。其れについていけないのなら、孤立もまた路であろう。 しかし、その『孤立』というものがどれだけ危険なものかは二人は知っている。或る意味孤立の集まりから抜け出すのは―― 「往くは地獄だ。それでも尚、往くと言うのならば声を掛けろ……その時は付き合うさ、地獄もお前となら悪くはない」 「本当に、君ってやつは……まだ考えることは多いけど……そうだね。その時は頼むよ」 「まま」 「……」 一瞬誰だか判らなかった。随分濡れた娘に、疑う瞳を擦ってみたが椿の瞳に映るのは如何見てもマリア。 すぐに駆け寄って、まずは濡れて井戸から這い出てくるような格好の彼女の髪をかき上げてやる。 「今日も本部で杏里さんらと一緒に居ったんやなかったん?」 「ううん、おんもきたのよ。遊ぶのよ!」 「……まぁ、とりあえずそのまんまやと風邪ひいてまうな……ほら、タオルで拭いたるから」 「わかってないわね、こんなに晴れているのよ。こんな晴れの日には遊ぶのが先なのよ!」 「雨で体冷やしたら夏風邪ひいてまうかもしれへんよ?」 「じゃあ先に、拭いて頂戴よ」 何時もながらに生意気な彼女。なんとかAFに仕舞ってあった服とタオルを出しながら、手際良い世話をしていく。 と、其の前に。 「マリアさんおなかすいてへん?」 「すいてるわ」 じゃあ、何か食べに行こうかとまた違う道へと足を向けたのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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