下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






お葬式

●人生は何事も経験
「一度でいいから自分のお葬式に参加してみたいと思ったことはないかしら?」
 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)の言葉に誰もが唖然とした。ブリーフィングルームの室内の温度が一気に下がる。
 集まったリベリスタ達も戸惑いながら互いに顔を見合わせた。それに対して蘭子はいつもの涼しげな態度でゆっくりと髪を掻きあげる。
 町外れの廃寺にE・フォースの餓鬼と坊主が現れた。葬式の最中に姿を現わして参列者の隙を見てその死体を食らい漁るという。さらに餓鬼達は死体を食い漁った後は、参列者たちにも襲いかかってその獰猛な牙で襲いかかる。
「奴らは警戒心が強くてなかなか現れない。かといってこのまま放置すれば一般人の被害が出る。そこで今回は偽のお葬式を催して奴らを誘きだす作戦をとるわ」
 戸惑うリベリスタをよそに蘭子はすごく真面目な顔で言い切った。
「そこで貴方たちの誰かが死体役になってそのお葬式をする。本物のお葬式と勘違いした餓鬼達が集まってきたところで反撃して一網打尽にするの」
 説明された作戦は至ってシンプルなものだった。警戒心の強い餓鬼達を誘きよせるために本物に見せかけた葬式を営む。だが、その棺桶にいるのは死体ではなく死んだ振りをしたリベリスタだ。不意をついて反撃すれば餓鬼達も混乱するに違いない。
 餓鬼達は生前リベリスタに討伐されて恨みをもつ者たちの思念の塊だった。とくにリベリスタの葬儀とあれば喜んで餓鬼達はやってくるはずだ。
「自分のお葬式に参加できるなんてこんな経験二度とないから試してみたら。大丈夫よ、人生は何事も経験」
「とは言っても――」
「大丈夫よ、自分のお葬式をするといっても関係者をすべてアークの人間にしてあるから。外に漏れることはないから安心して。おまけに一般人への被害も出ないから一石二鳥ね。もちろん、餓鬼達を騙すには真剣に演技をしなくちゃならないわ。なんといっても警戒心の強い奴らだから最後まで手を抜かずにね。というわけだから後の詳細は貴方たちでよろしくやって頂戴」
 蘭子はそう言って準備をしてきた位牌に焼香に数珠を取り出して見せた。おまけにまだ中身の入っていない遺影も取り出す。あまりの用意周到さにリベリスタは言葉を失う。気がついた時には蘭子はブリーフィングルームからまるで風の如く姿を消していた。
 誰がその葬式の主役になるのかその大事な部分を決めないままで。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:凸一  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年10月20日(日)23:14
こんにちは、凸一です。

お葬式です。
皆さまの熱い演技(ぷれいんぐ)を期待しております。
それでは、以下は詳細です。
よろしくお願いします。


●任務達成条件
E・フォースの討伐


●場所
夜の町外れの人気のない廃寺。本堂の会場は仏壇と参列者席からなっており、それなりに広い。参列者が座る場所の前方に僧侶が座る。僧侶の前に焼香台が設置されその奥に棺桶と仏壇がある。


●敵詳細/E・フォース×6
僧侶雲光山八戒
呪符で式神を飛ばして全体に怒りを付与して惹きつける。武器は先の尖った錫杖で伸縮自在に伸びて相手を突き殺す。さらに伸縮する数珠で同時に数人を巻き込んで呪縛することができる。式神で全体範囲攻撃の火炎弾を放ってノックバックして敵の陣形を崩す。

小餓鬼×3
小鬼のような姿をしており鋭い牙と爪で襲いかかかる。引き裂かれると毒が回って身体が麻痺してその場に動けなくなる。さらに陰に潜むことができ、熱や音ではその在処は区別できない。大餓鬼と連携しながら上手く攻撃をサポートする。逃げ足が速い。

大餓鬼×2
武神のように屈強な肉体を持っており持久戦に優れる。さらに背中に羽があって自由に空を飛びまわることが可能。羽ばたかすことで一人は回復を、もう一人は敵の自付をブレイクして虚弱させる範囲攻撃の風刃をもつ。近接では大剣を持って振う。


●作戦の内容
・偽のお葬式を営んでE・フォースを誘きよせる。最低限必要な役回りは、死体役(葬式の主人公で棺桶の中で死んだ振りで待機する)、僧侶役(葬式の間、経を唱え続ける)、参列者(焼香して、泣きながらお悔やみの言葉を棺桶の死人に投げかける)。また、最後の参列者の時に餓鬼が登場するので事前に誰が最後なのかを決めておくと吉。餓鬼は死体役の人間に牙を向けて一斉に襲いかかってくる。

・お葬式の進行タイムライン
 僧侶と参列者が全員畳に座ったところで読経開始→参列者が順番に焼香にたちあがり、死体の前に行って一人一人お悔やみの言葉をかける→最後の参列者が泣きながらお悔やみの言葉を言ったところで餓鬼達がどこからともなく登場→戦闘開始


●その他注意点:餓鬼達は警戒心が強いため、上手くそれぞれがお葬式での役回りをしなければ容易には出てこようとはしない。お悔やみの言葉とすすり泣きによって餓鬼達は誘きだすことができる。できるだけ真剣に演技をすることが重要である。


参加NPC
 


■メイン参加者 7人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
スターサジタリー
ユウ・バスタード(BNE003137)
ダークナイト
街多米 生佐目(BNE004013)
ナイトクリーク
折片 蒔朗(BNE004200)
★MVP
ナイトクリーク
青島 沙希(BNE004419)
ソードミラージュ
各務塚・思乃(BNE004472)
デュランダル
新島 桂士(BNE004677)
   

●氷の仮面
 夜の寺には喪服を着た参列者たちが集まって来ていた。誰もが神妙な表情で言葉少なげに短い挨拶をして会場となる本堂の方へと向かっていく。
 祭壇には大きな花が飾られていた。色鮮やかな灯籠が回転して花を明るく照らし出す。祭壇の中央には花に埋もれるように一人の若い女性がほほ笑んでいた。
 遺影の主は『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)、享年23歳。
 あまりに若すぎる死に誰もが戸惑いを隠せない。沙希はリベリスタとして任務中に敵に首元を刺されて殉職していた。先ほどから本堂に入ってきたどの参列者も沙希の遺影を見るなり思わず表情を歪ませた。誰もがその痛ましい事件を思い出す。
「どうしてもっと一緒に居れなかったのか――私が守ることさえできれば沙希さんはこんなことにならずにすんだのに」
 参列者の前席に座った『History of a New HAREM』雪白 桐(BNE000185)が辺りに構わずにむせび泣いた。アップにした髪の首筋の白い肌が紅潮した姿が艶めかしい美少女を思わせる。黒い礼服のレースのついたミニスカートをぎゅっと掴んで必死に溢れる感情を抑えつけた。
 死んだ紅涙や天月や宵咲達友人を脳裏に浮かべた。もう戻ってこない故人と沙希を重ね合わせて桐は余計に胸が苦しくなる。
「さきねえ……戻ってきてよ、お願いだから」
 傍らの席で学生服姿の折片 蒔朗(BNE004200)が顔を俯けていた。耐えるような思い詰めた表情でじっと座っている。蒔朗にとって沙希は仲良くして貰っていた先輩のリベリスタ仲間だった。いつも優しくしてくれたことを思い出した。まだ沙希がこの世からいなくなってしまったことが信じられない。
「なんともやれ切れないな。仲間を失うというものは」
 新島 桂士(BNE004677)は参列席の後ろで厳しい表情を見せていた。桂士は死んだ沙希の衣装替えを葬儀の前に別室で自分一人で行った。裸の沙希に死装束を着せて排泄物対策の紙おむつなども履かせた。花やドライアイスを手配して、沙希の身体に触れないように気をつけて入れた。これまでに何人かのリベリスタの葬儀を手伝ってきた桂士にとってそれは普段通りの慣れた作業でもあった。
「うっ……うっ……くつっ!!」
 先程から『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)は腰を抑えるように時折激しくうめき声を漏らしている。身体を痙攣させて目からはまるで絞り出したように涙が浮かび始めていた。なぜか右手を服の中に突っ込んでいる。
 あまりに必死な形相に他の人たちも生佐目に近づける雰囲気ではなかった。
「本日はこれより葬儀を行います。読経が始まりましたら参列者の皆さんには座っている順番にご焼香の準備をして頂きますのでよろしくお願いします」
 小麦色の肌に黒の衣を纏った『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が参列者たちに挨拶をする。一目で外国人の尼だと分かる風貌に居合わせた関係者の何人かが物珍しそうに目を見張る。それでもユウは堂々とした振る舞いですぐに席について遺影の沙希に手を合わせて一礼した。
 ユウは一つ咳払いをして読経を始めた。木魚を叩きながらリズムを作り、通りの良い大きな声で本堂に般若心経を響かせる。
「はんにゃーはーらーみーたー
ぎゃーてーぎゃーてー はらそーぎゃーてー……」
 神妙に唱えるユウの後ろ姿を見て参列者たちも感極まる。数珠を握りしめながら目を閉じて生前の沙希との思い出に浸っていた。
 ユウが時折間違えて経を読んだがそれに気づいたものはいない。さらに同じところを何度も繰り返しても特に誰も異を唱えなかった。

●離別の哀しみ
「嘘よ……嘘……! 死んだなんて嘘……」
 その時本堂の入り口から『心殺し』各務塚・思乃(BNE004472)がふらついた足取りで中に遅れて入ってきた。ぶつぶつ何かを呟きながらアップにした髪を振り乱している。解けかけた髪が一層やつれた感を引きだしていた。
 妙齢の婦人は遺影と棺を見てすぐに棺に向かっていく。関係者たちの制止を振り切った思乃は棺にすがりついて沙希に声を荒げた。
「沙希……どうして!? どうしてなの……!? 私より先に逝くなんて……!どうしてよ!!」
 思乃は沙希に狂ったように泣き叫んだ。思乃にとって沙希は仲がいい叔母と姪っ子の関係だった。本当の親子みたいねと言われたこともある。思乃はある事件で夫と子供を同時に失くした過去を持っていた。だから沙希はまるで自分の娘のように可愛がってきたのである。愛しい人を二度に渡って失った思乃の心境は想像に難くないものだった。ようやく関係者が思乃を抑えて後ろに引きさがらせる。
 蒔朗は思乃の泣き叫びが大きくなるにつれて動揺した。ぐっとかみ締めていた歯を小刻みにかたかたと鳴らす。瞳を潤ませながらも零れないように瞬きをこらえていたがついに目元から熱い迸りがぽたぽたと畳の上に零れ落ちる。
「さきねえ……おれ、絶対、一人前になるから……っ。それでさきねえの仇、とるよ。だから……!」
 焼香の順番が回って来て蒔朗は眠る沙希に問いかけた。涙をぼろぼろに零しながら伝えたい想いを途切れ途切れに外へと吐き出す。
「……どうか、安らかに」
 白い一輪の花を沙希の胸に供えて蒔朗は引きさがった。続いて桂士が沙希の元へやって来て手を合わせて焼香をする。
「何度経験してもこういった離別は辛いな……せめて安らかに眠ってくれ」
 桂士は沙希の頬に触れて言った。冷たい身体に触れると辛くなる。桂士は思い出していた。沙希は恐怖に歪んだ顔で目を見開いて絶命していた。そのあと死後硬直が解けて穏やかな表情に整えたが、まだ多少表情にぎこちなさが残っている。沙希の背中には紫色の跡がついているがそこまでは直すことはできなかった。首元と身体中についた刺し傷や死斑はファンデーションで隠したが、それでもまだ生々しさが見え隠れしている部分が残っている。もちろん生命の意思を伝える鼓動は一切するはずもない。
 沙希は完璧なまでに死んでいた。死臭の類は季節的にもさらに扱いを丁寧に行ったおかげでも幸いにしなかったが、常人の体温ではすでにない。口や鼻には綿が詰められており、呼吸もしていないことは明白だ。桂士はいつしか沙希の生きている痕跡を探そうとしていたが結局止めた。そんなもの最初からあるはずもない。桂士は諦めたように唇を噛み締めて自分の席へと帰って行く。
 続いて美しい礼服姿の桐が沙希の棺に歩み寄る。
「ゆっくり寝てください……」
 感情ですがるのなんて望まないだろうなと思いつつ、桐は自分の溢れる感情を押し殺してたった一言だけ呟いた。スカートを翻して颯爽と桐は立ち去る。
「ううっ……!」
 桐が焼香を終えたところで突然思乃が立ちあがる。髪を振り乱して呻きながら思乃は本堂から駆け出して行った。誰もが思乃の行方を案じて振り返る。まるでここにはもういたくないとでもいうかのような振る舞いだった。
 呻きながら不自然な姿勢で最後に焼香にやってきたのは生佐目だ。相変わらず右手を喪服の中に押しあてながら顔を苦痛に歪ませている。
「青島さんの演技があって、私は、アングラ演劇の世界に興味を持ち、勇気を得ることが出来ました。いまはただ、ありがとう、その一言だけです」
 必死で考えてきたお悔やみの言葉を伝える。焼香をして眠っている沙希の様子を見ながら生佐目は辺りを警戒する。
「はんにゃーしんきょー……」
 ユウが同時に読経を終えた時だった。
 不意に天井の電気が何者かに破壊された。続いて祭壇に供えられてあった蝋燭と灯籠が倒されて周りは視界が真っ暗になってしまう。
「気をつけてください! 天井に奴らの気配が!」
 異変に気がついた生佐目は仲間に向かって叫んでいた。すぐに蒔朗と待機していた思乃がやってきて懐中電灯で天井を照らし出した。

●本当に供養したいのは貴方
 灯りに照らし出されたのは二体の大餓鬼の姿だった。屈強な筋肉をもつ大餓鬼はすぐに死んだリベリスタの肉を漁ろうと棺に迫る。
 小餓鬼を伴った雲光山八戒も亡霊のように本堂の後ろから姿を現す。声にならない叫び声をあげながら大餓鬼達に続いて襲ってくる。
 牙を向けた大餓鬼が棺に手を掛けた時不意に死体がむくりと起き上がる。
「出たわね、この邪鬼たち」
 沙希が現れた餓鬼達におもむろに目を向ける。これにはさすがの餓鬼達も驚いて後ずさりをした。死んでいたはずの沙希が突然動き出したのだから無理もない。
「預かっていた奴だ。受け取れ」
 桂士が沙希のAFを投げて渡す。見事に受け取った沙希は敵が動揺している間に装備を身につけようとした。ようやく今までの葬式が自作自演のリベリスタのお芝居であることに気がついた八戒たちは怒りを露わにした。
「よくも騙してくれたなこの小娘。八つ裂きにしてくれる!」
 大餓鬼が沙希に牙を向けた所で、お経の終わりと同時に後ろに飛びのいていた尼姿のユウが魔力の業火の矢を敵に一斉に放つ。沙希に気を取られていた餓鬼達はユウの攻撃を受けて後退した。燃え盛る大餓鬼に対して桂士が沙希の前に割って入って刀を思いっきり振って敵を弾き飛ばす。
「君を本当の戦死者にするわけにはいかん!」
 沙希を庇いながら桂士はにじり寄ってくる小餓鬼達を相手にした。足早に駆け巡る小餓鬼達の牙と爪を背中に浴びながら必死に刀を振い続ける。
 小餓鬼が桂士の奮闘で傷つき始めた。大餓鬼が近寄ってきて何とか仲間に回復を施そうとしてくる。そこを見計らって思乃がソードを構えて突っ込んだ。
「お葬式に乱入するなんて礼儀知らずね」
 一撃を食らわしてすぐに思乃は引っ込む。手加減をしながらも大餓鬼が回復をする暇を与えないように邪魔をし続けた。
「奴らに襲われないようにはやく入口のほうへ」
 蒔朗が呼びかけて関係者たちを敵がいるのとは反対方向へ逃がす。そうはさせまいと小餓鬼の一匹が蒔朗に食いかかってきた。
 生佐目が暗黒の瘴気を放つ。大餓鬼と小餓鬼を同時に巻き込みながら蒔朗には攻撃を向けさせない。敵の連携を上手くやらせないように振舞う。
その隙に蒔朗が集中してから道化のカードを魔力で作りだす。近くにいた回復支援の大餓鬼に対して鋭いカードを叩きつけた。
「今日、本当に供養したいのはあなたたちなんです。怨みは受け止めます。でも、どうかもう眠って下さい!!」
 激しい攻撃の連続に大餓鬼は苦しみながら地面にひれ伏した。さらにもう一匹の大餓鬼が背後から襲ってくるが今度はユウが銃を構えて撃ち放つ。
 呪いの弾が大餓鬼のわき腹にめり込んで絶叫した。そこに華麗にミニスカートを翻した桐が跳躍して刀を思いっきり上から振り被る。
「送る場を汚す外道を許す訳にはいきません!」
 斜めに斬られた大餓鬼は血しぶきを撒き散らしながら崩れ落ちた。返り血を浴びないように桐は急いで飛びのくと後光を照らし出す。
 陰に潜んで奇襲を狙おうとする小餓鬼達を明るみに出そうとした。
 小餓鬼は祭壇の陰から沙希を狙おうとする。桂士からAFを急いで受け取った沙希はすぐに装備を身に付けて近くの小餓鬼に大鎌を叩きつける。
 威力ある攻撃に小餓鬼の一匹は突っ伏した。ユウが残りの小餓鬼達をまとめて業火の矢で薙ぎ払う。すでに敵は雲光山八戒だけとなっていた。
「仏の報いを受けて地獄に堕ちるがいい!」
 八戒は怒りながら式神を作りだして火炎弾を放つ。威力のある全体攻撃にリベリスタ達もいったんその場を離れざるを得ない。
 思乃は引きさがりながらハイスピードを自付していた。敵の攻撃した後の隙をついてソードを構えながら再び突っ込んで行く。
 八戒が気づいて数珠を伸ばして対抗した。ソードに数珠が絡まって思乃はそれ以上前に進むことができなくなる。それでも意地でも引っ張り込まれることを防いで全力で足を踏ん張って対抗した。
 桐と生佐目が八戒に向かって前と背後から挟み撃ちにする。桐が思乃を救出しようとして渾身の一撃で数珠を切り裂いた。
 不意にバランスを崩した八戒は祭壇の方へ後退する。ユウがさらに業火の矢を後ろから続けざまに放った所で生佐目が八戒の正面に躍り出た。
「無為に民人を奈落に引きずり込まんとするなれば、報いあるべし。祈れ、我が刃を手向けとしよう。仏に名を借りる邪鬼は奈落の底へ堕ちるがいい!」
 刀を振りかぶった生佐目は八戒の式神を次々に斬り払った。身体を捻りながら敵の攻撃を交しその遠心力を生かして刀を八戒の後頭部目がけて叩き斬った。
 浮世の呪いを帯びた刀の一撃に八戒はうめき声をあげた。手を合わせるように何かを唱えると目を見開いたままその場に崩れ去った。

●女優としての自信と誇り
 葬式現場に現れた餓鬼達をすべて倒したリベリスタ達はすぐに沙希の元へと集まってきた。幸いにも沙希は怪我を一つも負っていなかった。仲間のリベリスタが素早く対処して攻撃を防いだお陰で無事だった。
「……女優ってのは凄いもんだな、そこまでやるのか」
 桂士は苦笑して沙希に言った。今回の死体役を演じるために沙希の事前準備を一から手伝ったがまさかこれ程までに徹底した偽装を施すとは思っても見なかった。
 身体を扱っている時はまるで本物の死体ではないかと思った程である。まさに沙希の演技に妥協のない女優魂を見せつけるいい機会になった。
「本物より本物らしく。本物を使わずにわざわざ死体役をやるからにはそれくらいしないと駄目」
 沙希は頑固に答える。普通なら裸を見られて羞恥心を覚えてもいいはずだが、沙希に至ってはまったくそんな素振りも見せなかった。死体にはそんなものは必要ないといわんばかりに。周りのリベリスタも沙希の演技ぶりに感服する。
「それにしてもすごい痛かったですね。早く終わってよかったです」
 葬式の間うめき声を連発していた生佐目はスタンガンを押し当てていた。あまりの痛さに本物の涙が出ていたことは言うまでもない。生佐目にとってはなかなか辛い演技だった。痛みを分かち合うとは言うもののこれは絶対になにか違う。
「大好きだったハムスターのタロが死んじゃったことを思い出したら僕も何だか本気で泣けちゃいました」
 蒔朗もそう言って泣きマネの種明かしをする。今思い出しても悲しい出来事に思わず目元が緩んでしまったと告白した。
「私なんて今でもクヨクヨしてるのよ。ぐすん」
 思乃はまた旦那と子供のことを思い出して感情が込みあげてきた。ハンカチを取り出して優しく大丈夫ですか、と桐が未亡人の肩を支えて励ます。
 思乃は、ありがとうと言って盛大にそのハンカチで鼻を噛んでぐしゃぐしゃにしてしまった。これには桐もどうしていいかわからない。
 沙希はすでに淡々と帰る準備をしていた。
「これからも演技に妥協はするつもりはないわ。女優青島沙希のプライドにかけて」
 見事な主役を演じきった沙希は長居は無用と舞台袖に消えた。
 女優兼リベリスタとしての自負を胸にして。
 拍手の全くない会場を一人で後にする背中は誇りと自信で満ちていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お葬式、お疲れさまでした。

みなさん、見事な名演技だったと思います。
見事に餓鬼達を誘きだして敵を全滅させることができました。

MVPは、妥協のない徹底的な演技を見せた貴女に。
まさに「氷の仮面」に相応しい依頼だったと思います。
その努力と根性に敬意を表して。

それでは、またの機会に。


合掌