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蠢く滄海


 笑い声がする。
 最初は小さく。遠くで。嗚呼いやすぐ近くで。まるで鼓膜を劈くように。
 幾つも幾つもいくつもいくつも。
 笑い声がする。笑っている。冷たい手が触れる。ひとつふたつみっつよっつ。一緒においでとでも言うように。
 何も見えなかった。出口はない。入口も分からない。
 自分の手さえ見えないそこにはけれど明らかに温度を持つ肉の塊が幾つも共に存在している。
 くすくす、と耳元で笑い声。
 ごろり、と足元に転がったのは一体何であったのだろうか。


『――聞こえる? 不測の事態よ、ってまぁあんたらが一番わかってると思うけど。その地点に特殊なアザーバイドが出現しているわ』
 鼓膜を叩くノイズ音。通信機越しの『導唄』月隠・響希 (nBNE000225)の声は酷く硬かった。
「そりゃあ随分と運の悪い事で。で、如何しろって?」
 溜息交じりに肩を竦めて。暗闇の中で目を眇めた『銀煌アガスティーア』向坂・伊月 (nBNE000251) の声に紙を捲る音で答えた予見者は、酷く困ったように倒して、と告げた。
『まぁ、正確には遅行性の毒みたいなものだけど。手短に済ませるわ。今、そこに現れたアザーバイドは識別名『ティアマト』。まぁ早い話が化け鯨。
 そのアザーバイドは非常に此方の世界との相性が悪い。こいつらは下位チャンネルの生物を捕食するの。その捕食方法は非常に特殊。
 彼らは丸飲みにした餌を消化する為に、己の中で痛めつけるわ。まぁ人間でいうところの胃液が、このアザーバイドの場合生命体なのよ。生命体に痛めつけさせて吸収しやすくなった餌を食べてるって訳。
 で、人間とは違って、彼らは『胃液』を作り出せない。もしも体内のそれが破壊されれば――遠からず死に至るの』
 此処まで言えば分かる? 一層ノイズの増す声。暗く、重たい空気に満たされているこの空間はまさか。
『あんたらの現在地はティアマトの体内。……こいつ胃袋二つ持ってるんで、分断されてるみたいね。
 敵はおそらく4ずつ。人間のなりそこないみたいな敵だけど……実力はそれなり。回復できる奴もいるみたいだから注意を払って。
 あと、危ないと思ったら必ず逃げなさい。このアザーバイドは現状、『胃液』の破壊以外に討伐方法がない。でも、あんたらの実力ならそこから出ることは可能だから。
 討伐出来なくてもアザーバイドは自分のチャンネルに帰る。だから、引き際は見極めて』
 各班半数の被害で撤退しろ。短く告げた予見者の気をつけて、の声はけれどノイズでかき消される。地鳴りのような音と共に、暗闇の中で何かがうごめく気配と、笑い声がした。
「ま、要するにぶん殴って黙らせろってことだろ? 精々死なねえ程度に叩きのめそうぜ」
 食われるなんて御免だ、と肩を竦めた青年の魔本が軽い音を立てて開かれた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 7人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年10月24日(木)23:47
たまにはこういうのもどうでしょう。
お世話になっております、麻子です。状況は特殊です、よくお読みください。
以下詳細。

●成功条件
アザーバイド『ティアマト』の討伐
(下記『胃液』を5以上を倒すことが成功の最低ラインです)

●場所
アザーバイド『ティアマト』の体内。
事前付与不可。戦場は真っ暗です。
とあるエリューション調査の為にこの場所に来ているため、装備等に問題はありません。
(相談などで調整も可能です、ご心配なく!)
また、この戦場は『2つに隔てられて』います。足場は不安定。

●特殊条件
・この依頼では、『NPCを含め4:4の班に分かれて』戦闘を行います。
・班は互いの戦闘に干渉することはできません。班決めは相談でご自由に。
・班分けが統一されていない場合、判定にマイナス補正がかかります(判断は多数決、指定あった場合何方かのプレイング準拠)。
・各班『戦闘不能者2名』で自動的に撤退扱いになります。

●アザーバイド『ティアマト』
巨大な鯨型アザーバイド。特殊なステルス機能を持ち、非戦スキル等を使用しない限り存在を把握できません。
見た目通り非常に強力なアザーバイドですが、体内の『胃液』と呼ばれるアザーバイドを倒すことで討伐が可能です。
此処での戦闘で『胃液』を倒し切れなくとも戦闘後別チャンネルに移動します。

●アザーバイド『胃液』×8
各班4ずつ相手にすることになります。人間になりそこなったような形のスライム状アザーバイド。
前衛型1、後衛かつ回復型1、残り2は不明。
合わせて5以上倒されていれば依頼は成功します。

●同行NPC
向坂・伊月 (nBNE000251)が同行します。
詳細ステータス参照。指示あれば【伊月】とついた最新の発言を参照します。
班は決められればそちらに。とくになければ少ない方に入ります。

以上です。御縁ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
参加NPC
向坂・伊月 (nBNE000251)
 


■メイン参加者 7人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
覇界闘士
鈴宮・慧架(BNE000666)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
レイザータクト
アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)
ナイトクリーク
纏向 瑞樹(BNE004308)
ミステラン
ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)
   


 踏みしめた足場は何処か滑り、蠢いているようだった。それを確認しながら、『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が『銀煌アガスティーア』向坂・伊月 (nBNE000251) に差し出したのは神秘の焔揺らめくカンテラだった。
「あげる。けっこう便利だぞ。こうして戦場照らしたり、読書の灯りにもちょうどいい」
「……どーも。ま、この分以上の働きはするから安心しろよ」
 場所は場所だけれど、夜は落ち着くものだ。まぁ、此処の場合は夜と言うよりは光のない体内であると言うべきなのだが――嗚呼、初めての経験だ。まさか食われるなんて。鯨のような外見であるのならば逆に食べる事も出来るのだろうか。そんな事を考えてけれど、すぐに移動してしまうらしい存在に残念さを覚えた。
 そんなやり取りを見遣りながら、細い指先が弓を鳴らす。温度を下げていく空気を生み出すのは、舞い踊る小さな友人達。
「シシィ、ステラ。……いけるね」
 其の声に応える様に。一気に極寒。敵を凍て付かせる魔力を巻き起こした翼ある友人達が己を気遣うように近くに寄って来たのに指先を差し出して、『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)は少しだけ微笑んだ。自分も大丈夫、と囁けばきらきらと舞う魔力の鱗片。
 大丈夫だ。この友人たちが、そして、皆がいる。
「――頑張ろう」
 決意を新たにして、蠢く足元を見遣る。くじら。うみの生き物。事前に調べて来たそれは大きいのだとは書いてあるけれど、此処までとは。思わず感嘆の吐息を漏らせば、緩々首を振った。兎に角、これを倒さねばならないのだ。
「勿論、小生も全力を尽くしマス故……嗚呼、敵ハ成る可く大きく、強い方がいい」
 武勇伝にもよく映える。そして何より、大きなものほど『勝った』実感が素晴らしいものだから。振り上げた断頭台の刃が唸りをあげた。研鑽した圧倒的戦闘能力を仲間にも。戦闘指揮者は誰より的確な指示を仲間に齎す。
「さぁ戦争でゴザイマス。大胆不敵痛快素敵超常識的且つ超衝撃的に勝利シマショウ!」
 いざ揺るぎなき勝利を。その為には攻めねば何も始まらない。その為の術は今此処に。『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)が振り下ろした刃が内壁に突き立てる。慄くように蠢いたそれを、確りと踏みしめて。
「そうだな。……さて、好き嫌いしないのはいいが、食中りには要注意。だな」
 無論、食中り程度で済ませる気は毛頭無い。杏樹の拳に巻き付いた白が揺れる。手に携えた銃が吐き出す弾丸は一発。直後、湿った空間が一気に乾き、熱を帯びる。降り注ぐ、火焔の豪雨が戦場を焼いた。
 敵を等しく焼き払うそれの奥の敵を見極める最中、ぷつり、と微かに聞こえた皮膚を裂く音。開かれた魔本に降りかかったそれが、魔力と共に黒き鎖の濁流として戦場を薙ぎ払う。
「こりゃあいい。兎に角ぶん殴るには持って来いの面子じゃねえか」
 低い笑い声。開幕早々、リベリスタの実力は敵を圧倒していた。


 内壁が隔てる向こう側の戦闘が幻想纏いを通して伝わってくる。それが教えてくれるリベリスタの優勢に、『友の血に濡れて』霧島 俊介(BNE000082)は口角を釣り上げる。必要な数だけ倒す。何を馬鹿な事を。勿論答えは単純明快、『全て倒す』!
「おい、A班! どっちが多く倒せるか勝負しようぜ!!こっちにはデストロイメイドがいるんだ!! 負ける気がしねえ!」
 手に馴染んだ刃を抜き放つ。白銀のそれは魔力を帯びてその煌めきを増すようだった。いくぞ、と囁けば僅かに手に感じる熱。直後、暗闇を切り裂く程に眩い裁きの光が戦場を駆け抜けた。熱の無いそれが焼き払うのは、目前の敵全て。
 それに続くように、固まった胃液の只中に飛び込む黒髪。ふわり、と開いた鉄扇が帯びる紫電が激しく爆ぜる。可憐な少女の扇舞はけれど敵にとっては全てを薙ぎ払わんとする程に苛烈な雷撃に等しい。
「さて、私がいるんだからモニカにも誰にも大怪我はさせませんよ」
 勿論自分も大事にはするけれど。漸く足を止めて、『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)は薄く笑みを浮かべた。下がる間も無く痛打を与えられた胃液を持つような怪物。元々大きい鯨よりも大きいのであろうそれは、一体どれほどのサイズなのか。
 外から見る機会は戦闘後だろうけれど。そんな事を考えながら敵の前に立った彼女に並ぶのは、影の大蛇を従える『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)。触れないように気を付けながら道を阻む彼女の手が放ったのは、漆黒の蛇を纏う不可視の気糸だった。
 音も無く回復役と思しきそれを貫いて、瑞樹は細く息を吐き出す。触れれば傷付くのだろうか。そう考えて、けれど足を止める訳にはいかないのだと分かっていた。
「童話とは程遠いみたいだけど……まるでピノキオの物語みたいだね」
 あの童話はこんなにも恐ろしいものではなかった。嗚呼けれど、今の自分は可の主人公よりもずっと心強い味方がいるのだ。一人では流石に抜け出せなかったかもしれない此処に、頼りになる人物が7人も存在している。それだけで心強い。
 そんな瑞樹の心情に応える様に、戦場に叩き込まれたのは耳を劈く程に激しい鉛玉の豪雨。逝かれる蜂の猛攻などより尚恐ろしいそれに大量の体液をぶちまけた敵を見据えて、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は何時も通りの表情を崩さない。
「残念ながらロマン溢れる場所には見えませんが、……それにしても随分と珍妙な生態系してますよね」
 アザーバイドだからといえば其処までなのだろうが。余りにも自分達の理解が及ばない存在である事は実に自然な事であるのだろうか。時折現れる人間によく似たそれのほうが、よほど不自然と言うか、胡散臭い存在に思えるのだから。
 そんな思案を巡らせて、けれど不要かと肩を竦める。どんな相手であっても、どんな状況であっても、問題無く必要最低限のパフォーマンスを発揮する事が、自分のような支援要員の役割であるのだから。
 ただの支援と呼ぶには余りにも凄まじい火力を持つ彼女は何処までも冷静にその物々しい殲滅式自動砲を構え直した。


『此方B、問題無い。敵の数は残り2だ!』
 ノイズ交じりに聞こえてくる俊介の声。それに返す間も無く、A班リベリスタの戦闘は激化していた。己の血で僅かに汚れた包帯でこめかみから流れる血を拭って。杏樹が構えた銃が正確無比に撃ち抜くのは敵の頭。
 一人だって逃がさない。一人だって通さない。その為の前衛で、その為の自分達だ。味方を庇い、敵からの壁になり。その身を挺して味方の盾となり続ける杏樹は笑う。既に飛んだ運命の残滓が錆び付く白に纏わり飛んでいく。最初に言った通りこんな恐ろしいものを食べた事を後悔させてやろうじゃないか。
「ほら、食べつくすんだろう? 食うか食われるか。私と勝負しろ」
 勿論、喰らい尽くすのは此方の仕事だ。それに足りないと言うのならば足掻け。手を伸ばせ。何処までも貪欲に不格好だろうとも痛みを伴い零れるものがあろうともそれさえ力に変えればいい。ぐしゃり、とただの液体へと戻った敵を見遣る。あと2。それを確認して、リベリスタへとかかる伊月の合図。一つ頷いて、ヘンリエッタが弓を引き絞る。魔力が増していく。手を離された弓から解き放たれた魔力は天井へと駆け抜けて。
 炸裂。拡散した煌めきは、灼熱の火炎弾へと姿を変え内壁を、敵を等しく薙ぎ払う。凄まじい衝撃が、敵を壁際へと跳ね飛ばす所まで勿論、狙い通り。
「敵は集めたよ。此処が攻め時だ!」
 張り上げた声。其れに応える様に武器を振り上げたアンドレイが、深く深く息を吸い込む。さあ戦争だ。戦争だ。殺戮だ。敵は勿論皆殺せ。
「貴方の得意分野は神秘。小生は物理。……ならば合体すれば最強ではゴザイマセンカ」
「っくく、単純で良いな! 良いぜ、派手にやってくれよ」
 出し惜しみは無用。最大火力を以て敵を叩き潰せ。中途半端に生かして帰すだなんて有り得ない。その首を直接刎ね飛ばす事が出来ない事が狂おしい程に悔しいのに。だからせめて4つ。目の前の4つは全て残らず刎ねてやる。それが戦争だ。
 さあ革命を起こそう。その歪な笑顔ごと強きものを覆せ。敵には鏖殺を。我らには勝利を。敵を赤く赤く染め上げろ!
「ураааа!!」
 轟く咆哮。何処までも大胆不敵に鮮やかに。叩き潰す様に振り下ろされた断頭台の刃はしかし同時に何より正確無比に敵の弱点を、その首を叩き折る。それでも、蠢くそれへと。
「――派手にやるぜ、避けろよ!」
 指先が撃ち出す高純度の魔力砲撃。当たったものを文字通り消し飛ばすそれが、ヘンリエッタが集めた敵両方を等しく焼き払う。火力を重ねていくリベリスタの猛攻に、胃液は完全に圧倒されていた。


 A班の猛攻とほぼ同刻。B班も完全に戦場を掌握していた。凄まじい闘気が爆発する。禍々しささえ覚えるそれはまるで羅刹の如く。意志持たぬ筈の胃液さえも慄く間に、強引に踏み込んだ身体をかわす術など敵には無い。
 最初に叩き込まれたのはしなやかに振り抜かれた脚。続け様に一閃、二閃。閃く鉄扇が首を、足を刎ねる。圧倒的連続武闘はまさしく無双。漸く慧架が足を止めた頃には、一撃を喰らった敵は跡形なく体液へと戻っていた。
「必要数だけとは言わず、全部倒してしまっても構いませんよね」
 その言葉を叶えるだけの実力を彼女は確かに持っている。しかし、前衛で壁として攻撃を受け続ける彼女は決して無傷ではない。ついで襲い掛かった胃液に蝕まれた身体は重く、その膝が折れかかる。けれど、それでも力を込めて。その瞳を過る運命の残滓。
 流れる血は熱い。それを拭おうとして、けれど。背後に感じる魔力にその手を止めた。
 紡がれるのは高位かつ複雑な神聖術式。折重なるそれは希薄な遥か遠き存在の奇跡を顕現させる為の布石だ。強固に、丁寧に。編み上げたそれが捉える、全ての救い。
「しっかりやれよ! こっちは俺に任せとけ!」
 傷一つだって残さない。強力な白が味方を包む。強いその癒しの片鱗を感じながら、瑞樹はそっとその白い刃を掲げた。ぽたぽた、零れるのは血よりも紅い夜の気配。冴え冴えと。魔力の月が零す同じ色の月光が温度を持たずに煌めく。
「何でも丸呑みするのも考えものだよね」
 こうやって下手すれば腹を食い破りかねないものまで呑み込んでしまう事だってあるのだから。くすり、とその唇が浮かべる笑み。月の美しさは魔性だ。事、今此処に顕現した呪力の月においては、尚の事。
 齎した呪いが敵を焼く。呻き声が響いた。もう、終わりは見えている。倒すべき敵の数はもう倒した。後は、邪魔な残りを駆逐するのみ。がしゃん、と構えられた巨銃が音を立てる。
「さ、お掃除の時間ですよ。……貴方達と我々、仕事は似たようなものですね」
 世界を生かす為に外敵を駆除しているに過ぎない存在なのだから。押し込まれる引金。轟く銃撃音。そして、もう幾度目かの鉛玉の炸裂音。撃ち抜き破裂しそれでも止まぬ雨が敵を押し潰す。磨り潰す。そして、後には何も残らない。のたうつように地面が蠢くのを感じた。此方も全て始末した、と伝えるA班の声が正しいのならば、これは鯨の怯えだ。
 それを感じながら、俊介がその壁へと刃を突き立てる。どろり、と滲み溢れる血に眉を寄せて。
「飲み込んだものは美味しい餌じゃあないぜ、とんだ毒だったって事だ。……さ、決めろ! これに懲りたらもう二度とボトムに来ないか、それともまた来て今度こそ天国見ちまうか!」
 素直に聞くならこの刀傷くらいは癒してやろう。それを聞いているのかいないのか。リベリスタへと出口を示す様に、その口が開く。光の差し込む其処を示す事がこの敵の反省なのだろう、仕方ねえな、と傷を癒し外に出た彼が視界に捉えたのは、同じく出て来ていた伊月だった。
「伊月!! 噂の伊月!? 噂はかねがね……俺! 霧島!」
「あ? な、なんだよ、知ってるよ霧島俊介、少し落ち着け」
 若干押され気味の彼は元フィクサードだけれど、こうして生き残り改心してくれたのだ。好ましい。仲良くしたい。それを示す様に笑みを浮かべた。それに、後衛男子って思っているより少ない気もするし。27歳? 歳なんて誤差だ問題無い。
「な? 仲良くしようぜ!」
「あ、あー。その、わかった、わかったからそんなにこっち見んな!」
 完全に押されるのは人付き合いの苦手さ故か。ぎこちなくよろしく、と告げた彼を、未だ傷の残る仲間を癒して。
 ヘンリエッタはそっと、舞い飛ぶ友人達へと指先を差し出す。そっと、重なる小さい手。お疲れさま、と微笑んで、今にも倒れそうによろめきながら己のチャンネルへと帰って行こうとしているのだろう鯨を見詰めた。
 そんな事を考える余裕も無かったけれど、後からこうしてみるとやはり大きい。嗚呼、叶うなら正面からしっかり見たかった。とても、とても残念だ。
「くじらは何処へ行けば見られるんだろう……帰ったら調べてみよう」
「……本物見るなら海外じゃねえの、多分」
 今のアークなら、何時か鯨が見られるような場所にいく事もあるのではないだろうか、と伊月の声。鯨に興味を示すヘンリエッタとは異なり、アンドレイが思うのはその巨体の可能性である。
「これだけデッカイ肉があれば毎日肉祭りでゴザイマスネ」
 食料難の心配何て何処にもないのではないだろうか。非常に現実的な思考をする彼の横では、瑞樹が安全に外に出られた事への安堵の息を吐き出す。あの鯨も中々に親切なのかもしれなかった。
「うん、無事でよかったね。……皆お疲れさま」
 滅多に出来ない経験ではあったけれど、叶うのならばもう一度は無い方が良いのかもしれない。何もかもを喰らい尽くす鯨は遠からずその命を終えるのだろう。それだけの活躍を見せたリベリスタは、弱り切ったそれが世界を渡っていくのを見届けてからこの場を去るのだろう。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。

班分け、対応共に的確であったと感じました。
珍しい状況でしたが、楽しんでいただければ幸いです。

ご参加有難う御座いました。ご縁ありましたらまた宜しくお願い致します。