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【七天業怒】縹渺遊戯


「まーったく失礼しちゃうよね! みーんな邪魔されてるし!」
 暇だ、と頬を膨らました中華服の男は足をじたじたと動かし続ける。その外見は中性的であり、性別を感じさせないが、彼が男である事は紛れもない事実だ。
 年頃の少女の様に中華服を弄り、右耳の装飾具を揺らした廉貞は『楽しいこと』を行いたいと欠伸を噛み殺す。
「あ、所でさー、そろそろ遊んでいいよーって言ってたの。
 箱舟って優秀だから『君』もそろそろばれちゃうんじゃない? やっだ、こわーい」
 甲高く、おんなの様な声が響き渡る。ころころと咽喉を鳴らして楽しげに笑い続けるおとこの中性的なかんばせは今は歓喜で満ち溢れている。
 表情がよく変わる、『子供』の様な男であった。
 彼にとっては、自分を率いて居る『××』の目的は関係ない。只、楽しめれば良いという事だろう。
 世界の崩壊を食い止めるのがリベリスタだとしたら、この『廉貞』という男は、世界を犠牲にしても自分の遊戯を完成させたいという事だろう。
「フィクサードって言うのがワルイヒトってなら、邪魔するリベリスタもワルイヒトだって思わない?
 やだぁー。ユイちゃん詰まんない。あ、ちょっと、聞いてる? 今、すっごいボクが喋って――ねえ、『××』ったらぁ!」
 頬をふくらました『廉貞』江 美雨(コウ・メイユイ)はアーティファクトを手にとって立ち上がる。
「それじゃ、遊びに行きまショ。ボクは『ワガママ』だからこの世界なんてどーでもいいの。
 壊しちゃえばいいでしょ? 『君』の目的にちょーっとだけだったらお手伝いしたげる。暇だしね」


「御機嫌よう。お願いしたい事があるの。で、ディナーのお誘いとしては食中り確実です」
『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)の常の通りの訳のわからぬ表現にリベリスタは首を傾げる。
 あるフィクサード組織が暗躍しているのだそうだ。その名は『七天』。幹部は其々星の名を冠している組織で有るそうなのだが、その一片――『廉貞』と名乗る男が遊ぶ為に街に繰り出したのだそうだ。
「一度、アークとは戦った事があるけれど、彼自身は『遊んでいる』感じがするの、目的が読みとれない。
 例えば、六道の様に崩界の為の研究をするでもなく、裏野部の様に殺しを楽しむでも無い。
 彼という器は自分が好きに動き、それを容認してくれる入れ物を欲したのね。
 ……そのイレモノ、それこそが『七天』という組織ね」
 そのトップには『廉貞』達よりもさらに上の存在が存在しているのだという事は彼が以前話していたそうだ。
 行動原理は全て『廉貞』の気まぐれと、組織を統べる者の意思が存在しているのだろうが――
「これは、推測だけどバグホールを開けるだけではなくて、より強力な影響を及ぼしたいのかしら……と。
 彼は以前行おうと考えて居た儀式をもう一度行おうとしているわ。何故、それに固執するのかは解らない」
『廉貞』は只、自身が呼び出したいアザーバイドを見たいだけではないかと世恋は告げた。
 儀式陣の上に一般人を20名配置し、その過半数を贄とすることでアザーバイドを呼び出すのだそうだ。
 女性を気取った男は楽しい遊びだと一般人の犠牲を欲しているのだろう。
「私がお願いしたいのは、儀式の破壊。儀式に使用される呪具を破壊できたならば儀式は失敗することになる。こちらの勝ちよ」
 呪具が効能を発動して居る間に、儀式陣の中で昏睡させられている一般人が目覚める事はない。呪具の発動から2分後、その効果の及ぶ範囲に存在する一般人の生命力を呪具は吸い取り、アザーバイドを召喚することになるそうだ。
 つまりは、タイムリミットまでに呪具――『廉貞』が用意したアーティファクトを破壊せねばならないこととなる。アーティファクトは公園内の離れた位置に同じ形の小さな陣を描き設置されているそうだ。
「アーティファクトを探し出し、破壊する必要があるわ。厄介だけど、『廉貞』のジャマも考えられる。
 救わなければ、誰かの命が失われる。その前に……さあ、一つ『正義』を見せつけてやりましょうよ」
 どうぞよろしくね、とフォーチュナは頭を下げてはリベリスタ達を見送った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年10月18日(金)00:52
こんにちは、椿です。

●成功条件
アーティファクト『縹渺エフェクトニカ』の破壊による儀式阻止

●場所情報
時刻は夜。自然公園。光源はちらほらと存在するランプのみ。公園の広さは40mの正方形。
公園内には小さな小川が3か所、其々が離れた位置に存在して居ます。
公園中心部にて大きめの儀式陣(魔法陣のようなもの)に一般人が20名が昏睡状態で転がされています。また、離れた位置に同系統の儀式陣(小型のもの)が存在し、アーティファクトが設置されています。
(事前付与を行わず急行することで『アーティファクト』の発動時に到着可能となります。

●フィクサード『廉貞』江 美雨(コウ・メイユイ)
ヴァンパイア×マグメイガス。Rank3まで使用可能。
中性的な容姿をしたチャイナ姿の男。ユイちゃんと呼ばれると喜ぶ。外見年齢は10代後半程度。
男扱いされる事を極端に嫌うと言った性格が目立つ他には明るく気さくな雰囲気を纏っています。何処か裏表を感じさせる男であり、一般非戦スキル有。その他詳細は不明です。
居場所は不明ですが、アーティファクトの近く辺りに存在する事は確かです。

EX水龍招来(P:一定ダメージを得る毎に神秘防御力の増加)
EX蝶神天下(物近範:Mアタ50、不吉、虚脱)

●フィクサード×10
種族ジョブ雑多。中にはホーリーメイガスの姿が確認されています。廉貞につき従い行動を行います。彼に危険があった場合は彼を庇う等を優先して行います。
其々が公園内の至る所に存在。4名のみ儀式陣近くで一般人と陣の護衛をしています。

●アーティファクト『呪具・縹渺エフェクトニカ』
小さなランタンを模したアーティファクト。専用の儀式陣の上で発動し、12T後に代償(10人程度の命)を飲み込みアザーバイドの召喚を行える。どの様なものが呼び出されるかは未知数ですが、水を司るアザーバイドを呼び出す事が出来る事のみが判明。
発動時に『代償が陣内に居ない』場合は暴走を起こし、エリューションを生み出さんとする為に、破壊か停止の必要が生まれる。生み出される対象の能力不明。
同様の形状をした儀式陣とのリンク機能があり、儀式陣上のE能力のない対象を昏睡させることが可能。E能力者には儀式人上では『鈍化』付与。公園内の何処かに存在して居ます。その性質上に『水』が近い場所に設置されている可能性が高くなります。

●一般人×20
大きい儀式陣上で昏睡している一般人です。アーティファクトの効果が及ぶうちは儀式陣上で昏睡し、儀式陣上から救出しても意識が朦朧とし自ら動く事が侭なりません。

●備考
本シナリオは『【七業】縹渺たる水音』や『【七業】』と付くシナリオとの関連となりますが、ご存じなくとも支障はございません。
本シナリオの登場フィクサードは下記シナリオと知己に当たりますがご存じなくとも支障はございません。

『貪狼』:【七業】北天巡る貪りの獣(風見鶏ST)
『武曲』:【七業】智たる武の奏(風見鶏ST)
『巨門』:【七業】碧潭の淵を越えよ(拙作)
『禄存』:【七業】黎明たる牙(そうすけST)
『文曲』:【七業】暗愚たる文の闇(宮橋輝ST)
『破軍』:【七業】優艶たる愛欲(麻子ST)

どうぞ、よろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
覇界闘士
ミリー・ゴールド(BNE003737)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
クリミナルスタア
藤倉 隆明(BNE003933)
覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)
ソードミラージュ
殖 ぐるぐ(BNE004311)
スターサジタリー
鴻上 聖(BNE004512)


 ちらほらと存在するランプを目にしながらも、『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は胸を高鳴らせながら地面を蹴っていた。一度は見えた事のあるフィクサードだ。楽しむのが筋だろう。
「――大人しくしてた、と思ったら……随分と、楽しい事をしてくれる」
 軽やかに地面を蹴る足。楽しげに少女の体は揺れている。彼女と同じく、戦闘を楽しみにしていると瞳を輝かせた『ベビーマム』ミリー・ゴールド(BNE003737)は高めの位置で結わえた金のツインテールを揺らし、長いマフラーを棚引かせている。
 少女二人が楽しみにする相手――『七天』と名乗るフィクサード組織の一員、その幹部として数えられる『廉貞』はこの公園の何処かに存在しているのだろう。
 耳を澄ませながら『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)は呼吸音、声、全ての音を一生懸命に探り続けている。

 ――あーあ、つまんないなぁ。

 ぴくり、と身体を揺れ動かせる隆明に『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が楽しげに身体を揺する。頭の上で大きなリボンが揺れ、楽しみだという様に唇に浮かんだ笑みが『きしし』と零れ出した。
「小川はあっち。最短経路の算出は完了してる。行こうか」
 何故か『気功術』の練習を重ねながら、儀式陣の位置や公園の位置をあらかじめ調べていた『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)の指先は綺沙羅ボードⅡと名付けたパソコン用のキーボードの上を滑っている。カタカタと自身の調べ出した情報全てを仲間に伝え、隆明の『聞こえる』音を頼りにリベリスタ達は進んでいく。
 小川の音に、明るい男性の声、ユイ様と呼ばれる言葉。全てを耳にしながら『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)はドレスの裾を翻す。
(ぜったい……絶対、助けるんだ)
 ぐ、と掌に力を込めて、旭は真っ直ぐに進んでいく。『廉貞』が行おうとしている儀式は一般人の命を奪う『魔の儀式』と言えるだろう。旭にとって人命救助は大切なことだ。
「誰も、ひとりだって」――そう決めて居た。誰も一人だって、殺させやしない。
 駆ける旭の背を見詰めながら瞬きを繰り返す『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)は鮮やかな金色の瞳に――左の義眼は今日の気分であろうか。何処か右目とは違う色を浮かべて居る。
 神罰を握りしめ、聖は真っ直ぐに駆けていく。彼にとって回ってきた任務は珍しいものだったのだろう。だが、聖にとっては『識った』組織であることには間違いがない。聖が相手にしたのは文曲や破軍といった面々だ。この場所に存在する『廉貞』も聖が相手にしてきた二人と同じ様に『厄介』な相手なのだろうと確信して居た。
「彼女ですか。お久しぶりですねぇ。……ランタンのアーティファクトもある、らしいですし」
 楽しみだと頷いて、眼鏡の奥で色違いの瞳を細めた『灯探し』殖 ぐるぐ(BNE004311)は大きなアホ毛を揺らして仲間達に続いていく。
 誰よりも早く『対象』の場所を特定した綺沙羅は長い髪を揺らし、キーボードに『コード』を撃ちこんでいく綺沙羅の大きな紫の瞳がゆっくりと細められた。普段から無表情な少女の唇が釣り上がる。
「つまらないんでしょ? キサ達と遊ぼう」
 投擲された閃光弾に『廉貞』と名乗るフィクサード、江 美雨は小さく微笑んだ。


「やっほー★ コウくん! あ、コウちゃんだったかな!?」
 わざとらしく『男性』扱いを行った魅零に美雨はむう、と唇を尖らせた。中華系の服装、薄化粧に女性らしい雰囲気を纏ったフィクサードは中性的なかんばせに楽しげな笑みを浮かべて居る。
 遊び相手の登場に紅潮する頬を見詰め、ぐるぐは小さく首を傾げ、挨拶だという様に強い魔力を秘める光弾を転移させた。
「ご挨拶がわりにどうでしょうか? 楽しみですね、アーティファクト。見せて頂けます?」
「やっだよぅっ! これあげちゃったら楽しくないじゃないっ」
 小さく笑みを浮かべる美雨ではあるが、彼の周りに存在するフィクサードは動きを止める様にとリベリスタ達が畳みかけている。速攻での綺沙羅とぐるぐの攻撃に続いたのは鼻を鳴らした天乃であった。
 地面を蹴る足。彼女の身体能力は前線での戦闘に特化しているのだろう。魔力鉄甲に包まれた拳を軸に身体を回転させるように気糸をばら撒いていく。
「呼び出されるモノ、に興味はある、よ」
「それなら一緒に見てくのはどぉ? 前に遊んでくれた馴染みでお安くしちゃうよぅ?」
「……いらない。止めるのも、仕方が無し、か。目の前の……ユイと、楽しまない、のは失礼だしね」
 囁く様な声で、途切れ途切れに喋る天乃。流れる様に黒い髪が揺れる。闇夜に溶け込むが如しそのツインテールを飾る白いリボン。かわいいと囁く美雨へと往く道を辛うじて遮るフィクサードが存在する。
 天乃の往く手を塞ぐものに気付きながら、地面を蹴りあげ一気に拳で殴りつけたミリーは唇を吊り上げて手を振る。まるで『遊びに来た』という様に楽しげな様子は何かに期待するかの如き様子である。
「ハーイ! 邪魔しにきたわよ!」
 火の龍を身体に宿すミリーにとって興味深かったのは『廉貞』ではなく、彼の扱う秘儀であろう。水龍の名を冠するそれは綺沙羅にとっても実に興味深い物だ。
「邪魔されまぁっす! っとっと……お姉さんたちって過激ネー」
「過激で、いいよ。わたしは決めてるから……!」
 ドレスが翻る。真っ直ぐにその攻撃はフィクサードへと振り翳された。仲間を巻き込まない様にと、回復手を探るが、誰がそれに当たるのかを旭は未だ知らない。美雨へ目掛けての攻撃は彼の頬を掠める蹴撃となる。
 旭達に合わせ、真っ直ぐに拳を振るった隆明の袖口から妖狢が顔を出す。拳に込めた力。混乱を来たすフィクサード達の中でも隆明を真っ直ぐ見据える者も居る。
「よぉ、見つけたぜぇ? ユイちゃんよぉ……! どけ! 一人で俺を止めれるって思ってんなら、間違いだって教育してやらぁ!!」
 真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。その言葉を其の侭体現するかのような隆明の拳は真っ直ぐにフィクサードの腹へと叩きこまれた。嘔吐く声を聞きながら振り仰ぐ隆明に頷いた聖が弾丸を撃ち出した。
 不良神父が手にした『神罰』が音を立てて投擲される。厄介で面倒な相手に聖の落ち着いて居た口調が段々と荒荒しくなっていく。
「……主が御創りになったこの世界、てめぇらの勝手で壊されるわけにはいかねーんだよ。
 何を呼ぼうとしてるのか、何を成そうとしてるのかは知らねーけど、異端に通じるその企み、片っ端からぶっ潰してやるよ」
「ふふっ、こわぁーい」
 少女が楽しげに笑う様な声を聞きながら、魅零は長い黒髪を揺らして柔らかい公園の土を踏みしめる。大業物がその手には良く馴染む。その外見よりも確りとした腕力を備える腕が大振りな太刀を真っ直ぐに振り被り、「コウ」と柔らかく呼んだ。
「てゆーかね、女の子らしい扱い受けたいなら、まず態度と言葉と一人称を直しなさいよね!!」
 黒き闇が纏わりついていく。唇を尖らせる美雨が張り巡らせたのは魔力を込めた障壁だ。しかして、その障壁は綺沙羅の『計算』通りだ。
「遊びたいなら、そんなものいらないでしょ」
 投擲する閃光弾に目を細める美雨がくすくすと笑い続ける。彼女たちが狙うのは『呪具・縹渺エフェクトニカ』の在り処だった。廉貞の後ろに在るそれに真っ先に気付いたミリーは自身の勘があたったと近場のフィクサードを殴りつけていく。
 少女の瞳は純粋無垢だ。彼女にとって廉貞の不思議な様子――性別を感じさせない独特な雰囲気――に首を傾げている。
「男? 女? えーと……あんたもドラゴン使うのね。いいわよね、ドラゴン、かっこよくて!
 ミリーもドラゴン使えるのよ。カッコよくて、素敵なんだから!」
 にこ、と笑ったミリーに「ドラゴン、素敵だね」と微笑んだ旭が回復に努めるフィクサードに気付いて地面を蹴る。廉貞をメインに回復するホーリーメイガスを真っ直ぐに貫く蹴撃。前線に抑えられながらも面ん抜きとおすその攻撃は苛烈なままだ。
「美雨さん、だよね?」
「やだなぁ、可愛いお嬢さん、ボクの事はユイちゃんって呼んでよ?」
 ぎり、と唇を噛み締める。朝日の瞳は何時に無く過激な『炎』を燃やして居た。
「……絶対に呼ばないよ。だって、わたしね、あなたみたいな酷い男の子、絶対許せないの」


 魔法陣の方を見詰めながらぐるぐは妖狢を手に小さな体を滑り込ませる。魔法陣もアーティファクトも美しい物だが、壊さない訳にはいかないというのだから仕方がない。
「本当なら持って帰って飾りたい所だったんですけども、時間制限があるので仕方ないですね。
 ……いつか以来のお久しぶり。ちょうちょの人」
「御機嫌よう、ユイって呼んでよ? 可愛い子犬さん」
 くす、と微笑む美雨にぐるぐは地面を蹴りあげ一気に『増殖(ふ)』えた。増殖し、身体を揺らすぐるぐを受け止めて一歩下がる美雨は呼ばれた『蝶々の人』の名の通り、期待にこたえる様に周囲に蝶を侍らせた。
 蝶々天下。自身の部下達も気にせずに放たれるソレはぐるぐだけでなく美雨をカヴァーする様に立ち回っていたフィクサード達にも攻撃を与えていく。
 じ、とそれを見詰めた綺沙羅の瞳が好奇心に満ち溢れた。楽しげに見つめるミリーは「ドラゴンは?」とそわそわと身体を揺らし、美雨の存在に『興味』を持つ魅零は呆れたように肩を竦めてみせている。
「儀式陣というのは傷つければ攻撃をリンク機能を損ねたりしませんか?」
「呪具ちゃんがある限りは大丈夫なんじゃないかなあ」
 不明瞭な返答を行う美雨にこれまた『興味』を持っている聖は問いかけながらも儀式陣を含めたうえで全力で破壊を狙い『縹渺エフェクトニカ』を狙っている。カツン、とあたる弾丸はそれでも余りに攻撃を当てるには事足りて居ないのか。
 小さな舌打ちを聞き、ふわ、と飛んだ天乃が白いニーソックスに包まれた足を振り上げ、アーティファクトを蹴り飛ばす。
 前線で戦う天乃の目的は多岐に渡る。勿論、このアーティファクトから生み出されるアザーバイドにも興味は惹かれていたがそれ以上に目の前の相手と闘争を行う事が何よりも彼女にとっては大事なのだから。
「……ユイ、踊ろうか。ほら、楽しもう」
 とん、と地面を踏みしめる天乃が前線で切り裂いていく。カヴァーする様に魅零の黒き瘴気がフィクサード達を包み込んだ。
 人好きする笑みを浮かべて居るものの『廉貞』は自らが正々堂々戦う意思はない様で、何処か楽しげに遊んでいる。天乃の言葉にも「わぁい」と返しながら、真っ直ぐに撃ち出す魔力弾は聖を貫いた。
 後衛位置に居る神父を狙う攻撃に隆明は小さく唇を噛み締める。ヤクザ者が生み出す大蛇は仲間達をも巻き込んで『散らし』ていった。
「ぶっ散れやぁああああああ!!!!」
 しかし、彼の攻撃で開いた『穴』に旭は気付いていた。フィクサード達は倒れて続けている。行動を妨げようとするフィクサードに向けて一気に炎を纏えば、その拳を振り下ろした。
「今、いけるから!」
「……焦ってきた? インヤンでも無いのに龍を招くとか、生意気だよ」
 じ、と見据える綺沙羅が脳内でプログラミングを続けていく。気を巡回させたり高めたりする気功術に近いのか、気脈地脈龍脈……気の流れは龍に例えられると博識な少女は知識を巡らせる。
「……それとも練気みたいな取り込む系か」
 気功術は練習してきた。その通りなのであろうか、すぅ、と息を吸い込んだ美雨の表情が澄んでいく。背後に揺らめいたのは龍を模した存在であろうか。
「わぁ、ドラゴンね! で、ドラゴンがいるのに何を呼び出そうとしてたの? 『コレ』で!」
『縹渺エフェクトニカ』がミリーの炎を纏った女子力・改によって粉々に壊れていく。
 流石は女子力といったところであろうか。胸を張ったミリーが生み出す火の龍を見詰めて廉貞の瞳がきらきらと輝いた。
「あっ、ボクのエフェクトニカが! ばかぁ、折角、前の奴を改良したのに!」
「さて、名残惜しいですけれど、行きましょうか。綺沙羅さん、魅零さん」
 くるりと背を向けるぐるぐの熱い瞳が真っ直ぐに美雨に注がれている。勿論、探究心の強い綺沙羅とてそうだ。
 知らぬ術をプログラミング構築し、己のものにしたいという技術屋の気持ちは十分だが――その内部には未だ手が届いてはいない。
「ボクじゃなくてユイとかコウとか何かテキトーに言えば? 言ったでしょ、仕草も口調も一人称も直せば?
 おバカなコウ君。目的は果たさせてやんないからね……! よし、みれーちゃん救出いっちゃうよ!」
 ちら、と背後を見据える綺沙羅が名残惜しそうに見詰めるが真っ直ぐに走っている。その背を逆の意味で羨ましげに見詰めた旭の拳が固く結ばれた。
(――わたしも、行きたい……! 一般人のみんなの所に、行きたい……!)
 行って助けてあげたい。助ける為に自分が出来る事は此処に在ると旭は知っていた。歯を食いしばり、足の裏で確りと地面を踏みしめて、足止めするんだ、と旭は真っ直ぐに踏み込んだ。
「わたしの炎は、あなたを行かせないためにあるんだよ。美雨さん」
「素敵な皆さんだなあ。ねえ、お兄さんだけだよ、ボクのこと、ユイちゃんって呼んでくれたの」
 旭を、天乃を見詰め、そして隆明を見詰めた美雨は唇を歪めて優しく微笑んだ。


 一般人の救出に向かうぐるぐが前線を走り、それをバックアップする様に綺沙羅が構築した氷の雨が降り注ぐ、周辺に存在するフィクサードを攻撃する二人の手を見詰めながら衆目の注意を一気に引き付けた魅零が唇を歪めて微笑んだ。
「分かる? もう起きたでしょ? こっちにきて、逃げ道はあるから!」
 助ける事を一番に考えて居た魅零に怯えを孕んだ一般人が全力で逃げていく。一般人を殺さんとする攻撃を受けとめながらぐるぐは一般人に戦火が及ばぬ様に敵を引きつけるように手招いて、小さな体を滑り込ませた。
「一般人に死なれて困るのはあなた方の方でしょう? 儀式が完成しませんからね」
 アーティファクトの効果無く、一般人達に及ぶ影響も消し飛んでいたとしても、思わぬ状況――アーティファクトが壊され、『廉貞』も現場に居ないこのシチュエーション――に配下のフィクサード達は慌てて居るのだろうか。
「そういえば、貴方達は丁度10人なんですよね? ……なんちゃって、なんちゃって」
 くすくすと笑うぐるぐの声に一歩下がるフィクサードを魅零はその鮮やかな赤い瞳で睨みつける。
「ねえ、お前たちは何するつもりなの? 派閥立ちあげてくるってんなら相当な裏があるようだね」
「す、全ては『輔星』様のために……!」
 言葉にするフィクサードに魅零の眉がぴくり、と動く。誰も殺させないと庇いながらの応対は手が足りて居ないのだろうか。逃げ惑う一般人を巻き込む弾丸が貫いて、小さな子供が一人、地面に伏せる。
 もう一人、と走る子供の背を狙うフィクサードの弾丸を受け止めて、ぐるぐが視線を送れば綺沙羅が神秘を投擲していく。
「『輔星』だか、何星だか知らないけど全部明らかにして、潰してやる――箱舟舐めンじゃないわよ!」
 観察眼は醒めた氷の色に切り替わる。キーボードの上を走る白い指先が一般人に注意して投擲する神秘。
「……あーあ、詰まんないの」
 少し練習してきた気功の真似をしながら呟く綺沙羅の言葉は彼女のそばでは無い、小川の傍でも同じ様に呟かれていた。


「ボクねえ、『輔星』の御遊びに付き合って上げようかなって思っただけだったの。ふふ」
 だって、楽しいでしょ、と敢えて口にした名前に天乃が瞬きを続け「輔星」と小さく口にした。
 彼女が追い求めて居た『七天』の上層部が見えてきたのか。それ以外は口にする様子の無い美雨は「ボクの事、聞きたいの?」と屈託ない笑みを浮かべて聴いていた。
 青年は傷を負い、今にも逃走の機会を伺っている事が旭には感じられる。勿論、幾度か『七天』の幹部と交戦した聖も思う所があるのだろう。膝を付きながらも握りしめた武器は何時でも投擲できる様にと準備されている。
「……目的は、そろそろ教えてはもらえませんか?」
「ボク――じゃなかった、一人称カワイクするんだっけ? ユイねぇ、わかんなぁい!
 だってぇ、ユイは『輔星』が楽しいっていうなら、ソレで良いし、ユイも楽しければ幸せじゃん?」
 わざとらしい女性的な口調に聖が口をぽかんと開ける。戦闘意欲は余りないのだろうか、天乃の攻撃を受け、張り直した魔的な障壁で一生懸命に受け流す。
 答えを期待して居ないながらも天乃は『七天』の事を知りたいと彼に聞いたのだった。
 あくまで『廉貞』はしらばっくれるつもりなのだろう。真っ直ぐに攻撃を繰り出し続ける隆明を貫く魔力。膝を付いた彼を見詰め、傷を負いながら、一歩後退する廉貞が逃げ惑う様に公園の中を走る。
「Ciao! 親愛なるボクじゃないユイの愛しのオトモダチ! あのバーコードちゃんたちにもヨロシクねっ!」
「友達なんかじゃないけどね」
 背を追いかける事も無く旭は拳を固めて、『守るべき者』が居る方へと真っ直ぐに向き直る。
「……次も、踊って貰うから」
 名を小さく呼んだ天乃の声は小川の中に吸い込まれる。少女の様に笑う声が何処からか響いて、止んだ。
 倒れるフィクサード達は其の侭に、喧騒の止んだ公園で電灯がちかちかと点滅し続けるだけであった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。
 儀式をどのように終わらせるか、その作戦面はとても良かったと思います。
 全員で攻めてくるとは思いもせず……!
 探索についても非戦スキルを使用し、効率的に動けて居たと思います。
『廉貞』ことユイちゃん自身は逃走することとなりましたが、彼の所属する『七天』についても段々と明らかになってきているなあ、と思います。

 お気に召します様に。ご参加有難うございました。
 また、別のお話しでお会いいたしましょう。