●晴れ時々爆弾 河川敷には様々な物がある。 土地の貸し出し契約によって小さいながらも自家栽培した野菜を育てる畑。 近所のご隠居達の憩いの場であるゲートボール場。 健康維持の為に河川敷を走るランナー向けの小規模コース。 子供達が遊ぶ為の遊具。 そこはある種平和の象徴であり、日常の象徴でもある。 だがある日、そこは唐突に炎に包まれる……事になる。 介入せねば河川敷一帯は空から現れた戦闘ヘリの群れとその戦闘ヘリに空を守られながら地を蹂躙する戦車によって破壊される。 戦闘ヘリは改造を施されているのか無制限に産み落とすミサイルで草木を焼き、小さな戦車はその砲塔を持って当たりを破壊する。 そうなる前に、誰かがその小さな破壊者を叩き潰す必要があるのだ。 ●ブリーフィングルーム 「……と、言う運命をカレイドシステムが捉えました。今回の任務は神秘によって発生したラジコン機甲戦力の撃破です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が何処と無く興奮した様子でモニターの前に立つ。 モニターには地図とラジコンの戦車と戦闘ヘリが映し出されていた。 どれも人間を殺傷するには首を傾げる様な物だが。 「E・ゴーレム化したラジコンの武装は本物の武器と殺傷力は変わりません。戦闘ヘリは、ミサイルを装備しています」 映し出されたヘリの画像は戦争物の映画で良く映る物をダウンサイジングした物らしい。機銃の小さいがそれでも拳銃並みの威力がある。 「戦車は主砲のみ発射できる様ですが、こちらも破壊力は高いです。幸い動きは遅いので美味く対処してください。なお、ヘリと戦車の材質はプラスチックでは無く鉄製です」 戦車の機銃は機能していないらしい。少なくとも足元と空から弾幕を張られる危険は回避できる。 「小さいですが、本物の戦車や戦闘へリと事を構えると思って挑んでください。御武運をお祈りします」 妙に美しい軍隊式の敬礼で、彼女はリベリスタ達を見送った。 さあ、仕事の時間だ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:久保石心斎 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月27日(水)23:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●静岡ミニマム戦線 その戦隊は美しいまでに整列して突き進んでいた。 戦車の無限軌道はデコボコの荒地を無慈悲に乗り越え、行く手を阻む巨大な岩はその主砲で完膚なきまでに粉砕する。 たった一機、されどその鋼の車体と全ての障害を乗り越える無限軌道は強大な殺傷力を秘めた巨砲と相まって実に頼もしい存在である。 空を行くのは5機の戦闘ヘリ。まるで一つの意思があるかの様に一糸乱れぬ威風堂々たる行進は見るもの全てを感嘆と畏怖の感情で支配する。 我等こそは空の王者たるぞ! そう言わんばかりに悠々と空を進むのだ。 鋼の戦隊は敵に向けて銃口を定める。 相手は8人、武装こそしているが我々にとって取るに足らぬ相手。 見よ、装填されたミサイルを!砲弾を! 機銃はその暴力を吐き出す準備を整え、ミサイルは内に秘めた炎を破裂させんと猛り狂う。 戦車砲が早く敵を撃ち殺そうと凶暴な意思を砲身に纏わせる。 生身の人間では戦闘ヘリと戦車には勝てぬ。リベリスタであっても決して侮れない相手だ。 しかし、その鋼の暴力を向けられたリベリスタ達は緊張こそすれ、恐怖と言う感情は一つとして浮かべなかった。 元兵士である『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)や極めて世紀末的な思考を有する『悪夢の忘れ物』ランディ・益母(BNE001403) はともかく、他の者にも警戒心はあれどそれ以上に感情の乱れは無い。 何故ならば…… 鋼の鉄機であるヘリも戦車もラジコンサイズ。 人が乗り込めるほど大きくも、一撃でひき潰して来る重量も無い。 実にミニマムな戦隊なのだ。 リベリスタ達が取った行動は至極単純だ。相手を発見した瞬間に結界を張り、己の持つ能力を発揮し自己強化をする。 専業の癒し手の居ない構成である為、自動的に傷が回復していく能力をかけて回りさらに防御が堅い者はさらにその防御力を引き上げる。 その上で、戦闘に挑むのだ。 たとえ小さくとも侮らない。危険な仕事故に覚えた定石とも言える戦術である。 「スケールラジコンですか。壊すのは勿体ないですが小さいだけに厄介な相手ですね」 『シャーマニックプリンセス』緋袴 雅(BNE001966) が、己の趣味であるが故の呟きを漏らす。 感嘆すべき程にこのラジコン戦隊の出来が良い。E・ゴーレムと言うのだから元々は本当にラジコンなのだろう。 作った者の腕は賞賛に値する。もっとも、出来が良いから壊さないと言う選択肢は元より無いのだ。 「そォら、若造ども。今日も元気に働いてこい、若いうちの苦労は買ってでもするべきだぜ」 この場で二番目に年月を重ねソウルの言葉が飛び出し、それぞれが武器を手に俄然の敵へと飛び出した。 ●小さくても兵器です 「いやぁぁああああっ!!」 気勢を発し、誰よりも先に動いたのは『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915) が飛び出す。 手にした鉄槌を腰溜めにフルスイングする。狙いは空を飛ぶ戦闘ヘリだ。無論、空を切るだけで終わる。 しかし、力を得た者である静の一撃は、空気その者を引き裂き不可視の刃となってヘリ達に襲い掛かる。 だが命を得た機械にも本能があるのか、射線のもっとも近くに居た一機が前方へと進み、自ら不可視の刃を“受け止めた”。 ついで、他の四機が機銃の照準をリベリスタ達に向け一斉に掃射した。 細かい……それこそ豆粒の様な弾丸が嵐の様に襲い掛かる。それぞれが武器を盾に防ぐが、小さな弾丸の嵐は小ささを数で補っている。 覆い切れない部分に無数の孔が穿たれた。幸いなのは小さい分一発の威力が小さい事。ただし、それも無数に打たれれば関係は無い。威力は確かに銃弾なのだ。 「この少数‥‥しかも指揮官が居ない軍、か。恐れるに足らず、であるな」 機銃の掃射を耐え切り、口元に笑みを浮かべながら『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が呟く。 その素晴らしいまでの直感を駆使し、同時に地を駆けてヘリの真下に潜り込む。ヘリの一体が射程に入ると同時に練り上げた気によって紡ぐ糸を飛ばしテイルローターを狙う。 無音で伸びる気の糸がテイルローターに触れると、糸は鋼の装甲を貫き痛打を与える。しかし、エリューションと化したラジコンヘリのテイルローターはその程度では破壊出来ない。 流石に一撃では無理か、と舌打ちを一つ残し、オーウェンは身を捩る。 オーウェンの背後では、既に攻撃の準備を整えた『声無き人形』此花 硝子(BNE002668)がその腕に炎を点し駆け出している。 ぎりぎりまでオーウェンの身体で硝子を隠し、激突寸前で身を交して戦車を攻撃する。視界を隠す為の連携だ。 硝子の拳が地面を砕き、強烈な熱波が周囲を焼く。しかし、数センチ後方へと下がった戦車には直撃せず、余波である衝撃はが装甲を叩いた。 「……!」 病によって声を失った硝子の目が僅かに開く。キリキリと音を立てて、戦車砲が硝子をターゲットにしたのだ。 ドン、と言う音が響く。 硝子の胸元に着弾した榴弾が破裂し、爆風と細かい破片、そして爆炎が硝子を包む。間違いなく直撃だ。 「―――っ!!」 衝撃で倒れた硝子の身体は炎が燃え盛りその肉体を苛んでいる。地面を転がり消火を試みるが効果は思わしくない。 ほぼ0距離で炸裂したのが不味かったのか、元より耐久力に劣る硝子のダメージが深い。 「ブッ……潰れろッ!」 硝煙を吐き出す砲塔をそのままに、一瞬動きを止めた戦車に向かってランディが切り込む。 振り上げた鉄槌に莫大な気を込めて戦車の前面装甲に叩きつける。その一撃は重量ある武器を振り回しているとは思えない程の速度だ。 戦車の無限軌道が急速に回転し、後退しようと足掻く。はたして、その足掻きが功を奏したのかランディの手に戻ってきた感触は至極軽い物だった。 殴られたインパクトと同じ方向に動く事により、衝撃を逃がす。機械であるはずの戦車がそれだけの事をやってのけたのだ。 砲塔をランディに向ける。内部で弾丸が装填されようとした瞬間に戦車の頭上に影が差した。 戦車の死角に移動した雅が仕掛けたのだ。常識的に考えれば戦車の上部装甲は薄く、回転式砲塔を破壊すれば攻撃は止まる。 光の尾を引いて無数のラッシュを叩き込む雅。しかし彼の手に帰ってきた手ごたえは予想以上の堅さと衝撃による手の痺れだった。 ラジコンは人を乗せる必要は無い。そして弱点である部分は戦車自身も心得ている。 故に、己がエリューションと化した時点でその弱点を補っているのだ。 「堅い……っ!」 味方への警告の意味を込めて呟き、雅は即座に距離を取った。 ランディを含め、全員が距離を取ったのを見計らい、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が腕と一体化したアームキャノンを発射する。 一発、二発。反動をアームキャノンの機構と全身で吸収し三発、四発。 間髪を入れない連射は砲身が解けるギリギリまで行われる。 無数の砲弾が空をホバリングするヘリと地面の上で砲塔を動かす戦車を巻き込み爆発する。 ヘリも爆発に合わせ散会し戦車も弾幕が薄い場所を狙って自らを動かす。ダメージこそあるもののそれは最小限に抑えられた様だ。 「愚連隊の癖に生意気です」 ドイツ国防軍とアメリカ陸軍、日本人のミリタリー趣味らしい愚連隊構成ですね。とは彼女の言葉だ。 そこそこの自信を持って放った一撃の被害を抑えられれば皮肉の一つも沸いて出る。 「小せぇ分素早いってかぁ?」 わざと大声で怒鳴り注意を自分へ引き付けつつ、ソウルが突撃する。 彼の獲物は巨大なパイルバンカー。大雑把だが破壊力は高い。それを戦車の側面である無限軌道……キャタピラに突きつけ引き金を引く。 キリキリと砲塔を回転させ、ソウルに照準を定めた砲弾が発射されると同時に巨大な鉄の杭も発射された。 カウンターの形で胸元に榴弾を喰らい、それでもニヤリと不適な笑みを浮かべるソウル。その目には、側面装甲ごと内部まで粉砕され火花を散らした戦車の残骸が写った。 「やれやれ、フォローで済ますつもりだったんだが」 小さく呟く。だがその呟きをおお隠す様に戦車が爆発した。 どうやら火花が弾薬に火をつけてしまったらしい。幸い、喰らった榴弾の爆発で後ろに吹っ飛ばされたお陰で爆発には巻き込まれなかったが、ラジコンの爆発と言うには少しばかり派手で危険だ。 ソウルが身を起こし、ヘリに視線を向ける。 それと同時に何処からとも無く美しい旋律が戦場を包み込んだ。 来栖 奏音(BNE002598)の奏でた回復の歌声だ。それぞれが大小関わらず機銃で受けた傷が癒え活力が戻ってくる。 特に、硝子は直撃した一撃によって危険な状態だったがそれも一先ずは治まった。しかし、その身を焼く炎は今だ残っており放置すれば危険だろう。 戦車に向かった者達が体勢を立て直し、改めてヘリへ向うのだった。 だが、先んじて動いたのはヘリだった。 回復役が厄介と見たのか奏音を狙ってミサイルを発射する。5機が一息に放った数は20。多少防がれても痛打を与えられるだけの数だ。 「撃ち落とせ!」 誰かが叫ぶ。その声に合わせ、遠距離に届く武器を持っていたモニカと雅が発砲する。無数の弾丸が飛び交い幾つかのミサイルを叩き落すがそれでも数発は撃ち落とされず居た。 「ランディ!」 「あいよ!」 屈強な男が二人、奏音を庇う。ソウルとランディだ。 二人とも武器を盾する。爆発の熱気が二人を焼き、衝撃が容赦なく叩きのめす。それでも二人は立っていた。顔に笑みすら浮かべて。 「隙有りってな!」 ランディの叫びと同時に無数の呪印がヘリ達の周囲を覆い、その機動性を奪い去った。 「今だシズ‥‥砲撃開始である‥‥!!」 「行っくぜお師匠!大花火をぶち撒かしてやろーぜ!」 「ヘリを操るものとしては複雑ですが、墜ちて貰いますよ!」 『ここできめる』 「とどめなのです!」 「いい加減終わらせますか」 静の鉄槌に乗り、フルスイングでヘリの上空を取ったオーウェンが空中から思考の本流を物理的な衝撃波に変えて放つ。その衝撃で地面に叩きつけられたヘリ達に向けて、静と雅が気を込めた銃剣での一撃を叩き込む。 二人が離れると同時に、奏音が魔の炎を炸裂させ硝子が己の体術で作り上げた真空の刃を放ち、止めにモニカの連射した砲弾が容赦なく装甲ヘリを粉砕した。 やはりヘリも弾薬に引火したのか盛大に爆発し、周囲の雑草達を吹き飛ばしたがリベリスタ達には被害は無い。 紛れも無い勝利だった。 ●中に人は居ません 残骸を拾い集めると、それはただのラジコンの残骸でしかなかった。 E・アンデッドがただの死体に戻る様に、E・ゴーレムと化したラジコン達はただのプラスチックと電子部品の塊に戻ったのだ。 その残骸にバーボンをかけて供養したのはソウルだった。 持ち主の解らぬラジコンだったが、それでも戦った相手への敬意は忘れない。 まぁ、自分も飲みたいのかも知れないが。 「この残骸、回収すっか」 と言ったのはランディだ。オペレーターの和泉に渡してやれば喜ぶだろうと言う意図だ。 今回の彼女は目の色が違っていた。目ざとく見つけた彼は呆れ半分で見ていた物だが。 「修理は無理そうですけどね」 と言ったのはラジコン趣味を持つ雅。それに頷いた硝子はスケッチブックに何やら書いて見せた。 『しゅうりしてまたうごきだしたらこまる』 その一文を見て肩をすくめたのはモニカだ。 「まぁ、その時はアークで騒ぎになるだけですから問題ないでしょう」 仕事の種が増えるだけだ、と言いたいらしい。 「果たしてE・ゴーレムが修理できるのか興味深い所であるな」 「やめてくれよお師匠。縁起でもない」 興味深そうに残骸を見つめているオーウェンと、その呟きにとんでもないと言う顔になった静か。 勝利の余韻に浸り、そんな談笑を交えながらリベリスタ達は帰路に着くのだった。 余談だが、ラジコンの残骸を渡された和泉はそれはそれで嬉しそうだった、らしい。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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