●裏返しても挿さらなくて、もう一回裏返すと挿さるから ざあざあとした秋雨の峠道を、1台のトラックがゆく。 運転席には、スーツ姿の中年男性。助手席には、同じようにスーツの女。 次々とフロントガラスに足跡を残していく雨を、もどかしとばかりに右に左に振れるワイパーの向こうで、むにゃむにゃと運転手が目をこする。 「……寝みぃ」 「私は車酔いしそうです。本当に運転得意なんですか?」 「道が悪いんだよ」 盛大に欠伸をする運転手の横で、助手席の女はノートパソコンで文書を作っている。作りながら愚痴愚痴文句を言う。 「腕が悪いんじゃないんですか? こんな依頼さっさと片付けて次の案件に取り掛かりたいのですが?」 女は、文句を言いながら、USBメモリを手元のパソコンに挿そうとするも挿さらない。裏返す。挿さらない。もう一回裏返すと、ようやく挿さる。 「ホントにイラつきますね。コレ」 「保証期間過ぎてから壊れるタイマーもある。クレームの嵐だろうな」 とかく峠の道というものは、道路幅が狭く、急カーブや急勾配が続く。 ふと道の脇の駐車スペースが見える。その先には『死亡事故発生現場』の立て看板が見える。 「死亡事故ねぇ……――ちと停めるわ」 「何ですか?」 運転手は、後ろから車が無い事を確認し、トラックを駐車スペースに駐める。 わざわざと雨の中に駆け出て。雨の中で手を合わせる。 そそくさと運転席に戻ると、助手席の女が首を傾げて迎える。 「何をやっていたんですか?」 「眠いから気分転換だよ。ホトケに手を合わせてもバチ当たらんだろ。――ま、人ぶっ殺しまくってる俺がやるのもなんだが、たまにやると気分が良いぜ」 「そういうの嫌いなんですよね。母が壷を何千万円とかで買ってたので。――おや?」 女は手元のノートパソコンに目を移す。 正確には挿したばかりのUSBメモリを凝視する。USBメモリが外れている。 女は、もう一度挿そうとする。するも挿さらない。裏返す。挿さらない。もう一回裏返すと、ようやく挿さる。 すると、ぴょん★ と勝手に飛び出す。 「どうした」 「いえ」 女は、もう一度挿そうと繰り返す。繰り返して飛び出して。5回ほど繰り返した後。 「何か、動いてます」 ノートパソコンの横に接続したUSBメモリが、上に下にぐねぐねぐねぐねと、尾を押さえつけられた魚の如く、小躍りしているのだった。 ●謀略の恐山 「E・ゴーレム『一発で挿さる確率が25%のUSBメモリ』を撃破する」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、頭痛を堪えるかの様に、額に手をやった。どうも凹んでいる様にも見られる。 「神秘界隈の術を使ったのか何なのか、わざわざ"一発で挿さる確率が25%のUSBメモリ"をフィクサードが作ったらしい。それが革醒した」 質問。とブリーフィングルームに集ったリベリスタの一人から声が上がる。 要るのか? と返すデス子であったが。いやいや、要る要る。 「何でそんなものを作ったんだ」 「(´・ω・`)知らんがな」 (´・ω・`)はどりんと読む。(´・ω・`)のぬいぐるみで顔を隠すデス子であったが、束の間に冷ややかな時間が経過する。やがて(´・ω・`)のぬいぐるみをテーブルに置く。 「――ふむ、まあ推測するに、特定のIT企業のUSBメモリに関する評判を落とし、パイを設ける地道な工作活動なのだろう。多分」 神秘への親和性が高まった事で、エリューション化が促された――そういう顛末か。 プリンタが音を立てて資料を印刷する。 デス子がこれをコピー機にかけて皆に配る。 資料を見れば、ご丁寧にも『保証期間を過ぎてから壊れる』というタイマー付きで、トラックにぎっしり詰まっているとある。 荷台を開けば、無数のUSBメモリ達が飛び出してくる事が予想される。いやさ、開けなくてもエリューションの力ならば、自力で突き破って来るだろうか。 「『一発で挿さる確率が25%のUSBメモリ』は、全部で500体。集団による連携攻撃を中心に仕掛けてくる。一体一体は直ぐに破壊できるだろうが、数が数だ。峠の道幅が狭い事もあって、多数を巻き込める攻撃も限定的になると考えられる」 デス子は改めて、本命はUSBメモリの撃破。と言い切る。 リベリスタの一人が質問する。 「フィクサードの二人についての情報は?」 「主流七派『恐山(おそれやま)』だ」 通称、謀略の恐山という日本のフィクサード組織の一柱。 カラーとしては、小規模インテリヤクザの部類であるが、無法者が多いフィクサードの界隈で、無法の中の法を打ち立てている組織である。 契約を守らなければ、あの手この手で制裁を下す。経済的にも、搦手としても、下せるに相応の地力を持っているが故に、国内の一柱と数えられている組織であった。 「こういうロクでもない事をするのは、やはり恐山だ。だが、この二人の戦闘能力に関しては、――まあ、恐山の中で精鋭には属している」 画面にスーツ姿の中年男性が映る。 ロクでもない事をする割には、手練だという。 過去の事件で、それなりにアークとの接点があるフィクサードであり、とかく無法の中の法を相手に厳守させる為の、最終手段として用いられる『暴力』という外交カードを担当している。 『暴力』という外交カードは非常に強力である。 『裏野部』という七派の一柱は暴力だけでまかり通している。 逆に暴力が皆無であれば、約束を腕力でねじ伏せられうる。恐山のカラーとして、そういった最終手段に、抜かりがあるとは考え難い。 「トラックより足回りの良い乗り物を用いれば、トラックが駐車している所で接触できる。フィクサード達は、USBメモリを守る為に動く。交戦は十二分に考えられるが、二人とも命をやりとりする程の仕事では無いと考えている様子だ」 ここは良く考慮した方が良いのかもしれない。 フィクサードを早々に撤退させる事ができれば、『一発で挿さる確率が25%のUSBメモリ』との戦いが楽になる。しかし、USBメモリがフィクサードに襲いかかる可能性もあるから、撤退させるか、あるいは無理矢理にでも協力させるか。さて果たして。 「ひょっとしたら、だが。USBメモリが一発で挿さらない事象は、大体『恐山のせい』なのかもしれんな」 飛躍した邪推の後。よろしく頼む。と、デス子はリベリスタ達を送り出す。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月21日(月)23:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●イニシャルS -Shunsuke, Selena- 二台の4WDがゆく。 見渡す峠は、一面を淡墨色で塗りたくったカンバスかと怪しまれる。 左手のガードレールの向こうは雲の海が広がっている。 海の中に大きく禿山が鎮座している。Road Conesの様に鋭く切り立って、木々を疎らに走せて、どうも自己主張をしている。しかし爪先から天辺まで濃いモヤが隠して、どうも曖昧な景色である。 路は曲がりくねっていた。 崖を走っている様な路は、紅葉が滴々と斑を描き、半分溶けて、秋の海を広げている。 二台は競争する訳でもないのに、前に出たり、後ろに行ったりを猛スピードで繰り返す。内部も右に左に大きく振れる。 『灯探し』殖 ぐるぐ(BNE004311)が、呑気にパックのジュースをちゅーちゅー飲んでいる中で。 「ちょ、運転大丈夫なん!?」 助手席の『グレさん』依代 椿(BNE000728)は、運転手に不安を覚えた。 運転をしている『友の血に濡れて』霧島 俊介(BNE000082)が、うん? と椿を見る。 「ま、前! 前!」 「免許ならあるぜ! 偽造だけど!」 俊介が、反社会的発言を朗らかに上げる。椿が絶句する。また車体が大きく傾く。 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は、シートベルトをしっかり着けて、窓の外の雲煙飛動を眺めている。踏ん張る足と、締め付けるベルトの煩わしさを気に掛ける時、なかなか雲煙飛動は目に入らない。 「たしかにUSBの差込は刺さらなかったら、ひっくり返して刺してみて、それでも刺さらなかったら形をみて、差し込んでやっと刺さるというのはよくある話だ」 耽る様に今回の目的を口にする雷音であったが、俊介は言う。 「これはできる限りの安全運転というなのカーレースだ!!」 だめだこれは。 「洒落たドライブね」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は、無表情に短く返す。 「だろ? ――あ!?」 もう一方の4WDが、カーブで減速無しに俊介車を追い越した。 「抜かれた! 振り落とされんなよ!」 ぐるぐが相変わらず呑気にジュースを飲んでいる中を、俊介は更にアクセルを踏んだ。 「合い言葉は『動く間は全力疾走、全損以外はかすり傷』」 俊介車を抜いた車の内部では、運転する梶原 セレナ(BNE004215)の反社会的発言が車内に飛び出した。 ラインを意識し、ケツは滑らせて、ハンドルを景気よく右に左に切るセレナである。 卓越した運転技術を持っているが故に速い。速いがこれは中々いけない。 「……酔い止め飲んでおいて良かった」 『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィル(BNE004479)は、本当に良かったと確信する。レースしている訳でもないのに、左の俊介車が加速する。 俊介車に抜かれると「あ!」と、セレナの声。また車内が左右に大きく振れる。 「……本当に良かった」 酔い止めを飲んでいるのにも、軽く口中に生唾の塩味を覚えたシィンは、ストレッチをして緊張をほぐすのである。 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は、窓に頬杖を着いて趣を眺め、次に前方に視線を動かす。超直観で見られるトラックの付近に、スーツ姿の男が一人。 「――さて、緩く行きますか」 やがて全員の視界、路の先に、たちまち停車しているトラックが顔を出した。 セレナがブレーキをかける。ブレーキが高波を呼んで男にぶっかかる。 「ゴール」 セレナが呟く。 「ゴールじゃねえよ!」 セレナの言葉を集音装置が如き耳で、言葉を拾ったらしきスーツの男は、実に立腹していた。 ●恐山の暴力担当とグネグネ動くUSBメモリ -Subsection Chief- 駐車スペースで対峙する。 「アークか。何の用事だよ。――なんとなく分かるが」 紅葉の所々に張り付いた姿で、ずぶ濡れのスーツ姿の男――恐山のフィクサードが切り出した。 フィクサードは懐に手を忍ばせた次に発砲する。敵と見なして即座に排除に動くが故の暴力担当か。停車しているトラックの中から、スーツの女が降りてきて、トラックを盾に様子を伺っている。 「待って。シィン達は敵対する気はないです」 銃弾を避け、シィンが両掌を右に左に振ってフィクサードに言う。 「万華鏡で、恐山が変なものを売ろうとしているって所だろ?」 アークの事を"それなりに知っている"フィクサードである。これまで、共闘や敵対を繰り返しているだけでなく、アークの本部にまで来ている経緯がある。 その経緯を知る烏が、続いて語りかける。 「『係長』、カレー食いに行こうぜ。おじさん奢るんでな」 「今は生憎と仕事中だぜ、晦 烏。俺はビジネスに忠実なんだよ。分かるだろ? ま、奢りは嬉しいがな」 剣呑たる雰囲気の中へ運転席からセレナが割って入る。 「アークが、USBメモリが全て革醒することを検知したのです。それを破壊するのが目的で、貴方達との交戦意志はありません」 「ほう」 『係長』はセレナの言葉に興味を示した様な声を上げる。 途端、セレナは"思考を読まれた"と感じた。誰か? トラックを立てにしている女からのハイリーディングである。 「嘘は言ってませんよ? USBメモリと共闘してアークを撃退したところで、USBメモリと戦うことにはなりますし、結果として利益は何もないですよね?」 「そうみたいだな――さて、どうするかな。かといって、お前らに協力する必要もないんだぜ」 銃から昇る硝煙が雨に溶けている。銃をそれでも下げない『係長』に対して、烏がやれやれと首を横に振る。 「USBメモリのE・ゴーレム化を掴んだってか現在進行形か。これで不良品を掴ませると言う計画はご破算だわな」 いうなり、ここでもう一台の4WDが突っ込んできた。高波が全員に降り注ぐ。 「ゴール!」 俊介が大きく快哉の音を上げる。 「ゴールじゃねえ!」 秋の水は冬ほどではなくも、冷たいものである。 氷璃が俊介車から出る。 無防備に得物を持たず交渉をしようと考えていた――が、タイムリーに異変が目に入る。 「説明は済んでしまったみたいね? 見ての通りよ」 氷璃が指し示すトラックよりぼかん、と音がした。 荷台に拳大の穴が空く。何かが飛び出した。飛び出したものが水を得た魚の様に、ビチビチと飛び跳ねている。 「ぐねぐねと動き回るから誰も買わないでしょうし、普通のUSBとすり替えるのも、此処から運ぶのも困難よ」 ささる確率が25%のUSBメモリである。 弾丸が分厚い鉄ドアにぶつかるような音が次々と鳴り響き、トラックの荷台が穴だらけになっていく。 氷璃に続いて出た雷音が「來々」の声と共に、氷雨を降らせる。 「いつもうちの兄、御厨がお世話になっているのだ。ボクは朱鷺島 雷音。アークから派遣された。今回は君たちの撃破ではなく、USBメモリの撃破なのだ」 雷音が結んだ氷雨は、『係長』と女を対象から外し、荷台を穿つ。 ぼかんと爆ぜるようにUSB達が飛び出した。 「御厨の妹かよ……チィ、リベリスタの戦闘力も、このUSBもスゲー酷いもんだ」 大量のUSBがびちびちと車道を埋める。『係長』はため息と共に銃を懐に仕舞う。次に大声を出す。 「――ああ。こんちくしょうども! 俺達は帰る!」 係長が踵を返すと、その前方にぐるぐがいた。 「お久しぶりです、以前はカレーご馳走様でした」 「出た!? またお前か!? ――って、お前、会う度に何か違くね?」 ぐるぐは笑顔で応答を返す。期待の眼差しでキラキラと『係長』をブロックする。 「無警戒に背を預けるにはあなた方二人は強すぎますのでブロックさせて頂きますね。こちらに攻撃してくれるなら喜んでお相手しますよ」 その場でトントンと跳び風を纏う。分身の如く、もう一人増えたかの様な速度で『係長』の横をすり抜けて再動。USBメモリのど真ん中に光の玉を打ち込み、爆発を生じさせる。 氷雨がもう一つ降り注ぐ。 「どもども、お久しぶりやねぇ」 椿がぴらぴらと手を振るって挨拶する。そしてUSB達を見渡す。胸中『上手く挿さらんUSBメモリとか、何をやっとるんやこの人らは』とか考えなくもない。 「妖怪女もかよ……。ほんっとうに豪気な面々だな」 「酷い言い方やな。まあええけどな。――なんで壊れるだけにせんかったん? 保証期間ぴったりで壊れるんは確かにクレームになるやろうけど、25%で挿さる言うんは言うほどクレームにはならんのやないかな」 正論に、『係長』は相方の女に視線を向ける。女は肩をすくめる。 俊介が飛び出す。 「係長オオオオオオ!!! そういう訳だから! ここは大人しく引くか一緒に闘うとかしてほしいんだがどうかな!? 逃げても追わへんから!!」 全身に神秘を巡らせUSBメモリを見据えて、大声で呼びかける。 「引けつったっても、逃げると追いかけてくる熊みたいなのがな」 ぐるぐが『係長』をぴこぴことブロックしている。 「ああ……」 烏が納得した声を上げ、銃を出しUSBメモリを狙う。 「ちょいちょいと共闘、処分してカレーを食いにでも行きますか。何、横須賀での借りを返すと考えたら安いもんだろと」 ハニーコムガトリング――の文字通り蜂の巣にする。自然に爆ぜていくように、USBメモリは砕けていく。 セレナが受けの戦術を展開する。 「お土産に三高平の喫茶店が作った『インド文化アザーバイド完全無視カレー』があるんですけどね」 セレナがキビキビと指示を出し、戦術が場に走った所で、再度爆発が生じる。 「面白いので一つほしいですねぇ。使用目的でなくて、ただの観賞用にですけど」 シィンの特大の爆発に、コンクリートの粉塵が煙幕の如く空へ空へと溶けていく。 「来るぞ!」「さて、来るか」「来るのだ!」「来るで」 深淵を覗く眼と直観が四つ。それぞれが襲来の危機を察知し、とかく雷音はマスクを着ける。 「少女が鼻にUSBを挿すなんてあってはいけないことなのだ!」 たちまち、煙幕の如きモヤを突き破って、無数のUSBメモリが、弾丸のように飛翔する。鼻を狙ってくる。 フャ!? とマヌケな声が上がった。声の主は恐山の女――凍イ出 アイビスである。一番トラックの近くにいたのが災いしたか。 「クールな人は大変ですねー」 ぐるぐが呑気な調子で言った。 ●変則教理を覚えてみたい -Irregular Doctrine- 戦いは色々熾烈を極める。 「刺さる確率四分の一とか!おまえら、刺さってなんぼの製品なのに恥ずかしいぜオイ!!!」 俊介の言葉通り、USBメモリは鼻に刺さらずして、頬を掠める。 「上等!」 光を束ねて天へと放出する。雨と見紛うほどの光の束を降らせれば、USBメモリの大群は次々と壊れていく。 「葬奏曲よろしくぅ!!!」 俊介の言葉を受けて、氷璃は黒い魔力を掌に凝縮させ詠唱する。するが、その詠唱を途中で中断したかのように『係長』へ呼びかける。 「車も"タダ"ではないし、歩いて帰るのも大変でしょう?」 「あん?」 「ええ、お察しの通り、対価を頂ければ車は差し上げるわ」 「対価ねぇ……」 対価の内容を言わんとした所で、氷璃はぴらりとUSBを回避する。中断したかに見えた詠唱は既に終えている。即座に黒い本流を放つ。 『係長』の鼻に二連続で命中する。怒りの拳で叩き壊す。 「帰る!」 「だめです」 そして、ぐるぐのブロックも熾烈を極める。ぐるぐはUSBメモリ達をひょいひょい避けながら、なのである。 「U:上向きか? S:下向きか? B:バカめ!そこはLAN口だ! ってネタが好きです」 えい、と中空で器用に回転した後に、二連続で爆発を生じさせる。 爆発の向こうから、更なる大群が襲来する。 咄嗟に椿が『係長』を庇う。 「ふゃ! アハハハ」 服の中で動くUSBメモリがとてもくすぐったい。 「何のつもりだよ、妖怪女」 「アハハハ、いやその」 雷音の氷雨が降り注ぐ。 「一体たりとも逃さないように注意して、しっかり倒すぞ」 無論、氷雨の対象から恐山二人組は外している。 「元凶の俺達を巻き込まん様に戦うってか? 後ろから撃つかもしれねーのに」 雷音は無言で微笑むだけの返事をすると、『係長』は舌打ちをして、肩をすくめるのだった。 烏は高をくくっていた。 「相手の鼻の穴攻撃は覆面故、見きれまい」 覆面を装着している。 しかし、するりと覆面の中に忍び込むUSBメモリ。それが一気に鼻へとダイブする。 「え、服の中に!?」 「庇ったんは――いやいや、あかん! あかんし! ふゃ!?」 常時チャイナドレス姿のセレナと、先ほど『係長』を庇った椿は仮装服姿である。 鼻を護る者は服に侵入する。服が厚ければ、フャ! とか ふゃ! とか言わなくて済むのだが、両者とも隙間が多い軽装である。 「ひゃー!」 シィンであるが、爆発で寄せ付けない様にと努力するも、漏れたUSBメモリが飛んでくる。鼻にささる。ふゃっと言いそうになる。 「何か、凄く疲れる日っていうか!」 怒りのエル・ファナティックレイ――光球を放つ。 大きく路が爆ぜる向こう側、俊介が何かを見る。 他の雑魚とは違う、どこやら違うUSBメモリがいる。 ぐねぐねと動けば、無事なUSBメモリ達が再び整列して、その場で横回転を始める。 一見して512GBと書かれている――凄い大容量である。 「あいつがボスっぽい!! 512GBもある!」 俊介は直ぐにその事を伝える。 USBメモリ達はライフリングを通った弾丸の如く飛翔する。 烏と椿、雷音に突き刺さる。まるでショットガンである。回復の光を注がんと頭を切り替える。切り替えた所で、『係長』が首を傾げ、次に正して言う。 「庇って貰って悪いんだが、色々考えた結果――後ろから撃つ事にするぜ」 緊張が一気に高まる。 「どうして?」 何の利益も無い。とセレナがUSB達を服から追い出しつつ、疑問を投げかける。 「損得勘定さ」 『係長』の声の次に、リベリスタ全員の脳裏に情報が流れこむ。緩急の乏しい女の声で。『――Irregular Doctrine』と響く。 防御面はセレナの受けの布陣が優っているが、とかく速度と攻撃面の補助が加わった。 「え?」 「じゃあなお人好しども」 『係長』は言うなり崖から飛び降りた。 今のスキルをラーニングの観点から見る。 結論的に、プロアデプトとレイザータクトの複合技と言えた。 プロアデプトの如き演算能力から解を出し、即興で組み立てる。タイムラグ0で指揮をする。都度都度と作戦を変異させて有利を取り続ける。覚えるには、やや課題が多いか。 凍イ出アイビスも『係長』に続かんとするも、ドクトリンを放ったばかり故に動けず、USBメモリが鼻にささった。 「ふゃ!?」 512GBのUSBメモリは、堂々と威圧感を放っている。 ●例のタイマー -Osoreyama Timer- 残るは2つの団まで、砕き終わる。 ただのUSBメモリが、兵隊の様に512GBを庇った果てである。 「ちょっと残念ですね」 戦えると思っていたぐるぐは、しかし分身しながら一団へと攻撃を加える。加えて離脱する。離脱した後ろから黒い奔流が注がれる。 「せっかちね。見せてくれるだけで、トラックをあげたのに」 氷璃と『係長』の間にどうも誤解があったか。何が対価であるかを言い切れなかったのがやや悔やまれる。言う前に対価は果たされた。 「まあ、好き好んで敵対する人を増やす必要も無いですしね」 一番厄介だったのはフィクサードの二人組である。一方は逃亡、もう一方はUSBと戯れている。 シィンがUSBメモリ達の塊に光球を放つ。余力が枯渇するも、射線があと少しで通る次第である。もはや作業とばかりの雰囲気がリベリスタ達に蔓延する。 あとひと押しの所だった。 「よっし、後方の憂いは無し!!」 俊介が光の束を放つ。光の束に乗じるように、二枚の氷雨までもが大きく突き刺さる。 「三四郎さんの事聞きたかったんやけどねぇ。元気しとんのかな」 「そういえば、メアド交換してから音沙汰がない」 氷雨を放った雷音と椿がうんうんと顔を見合わせる。 「カレーはまた今度だな」 射線が通る。すかさず、烏が銃撃するも、メモリが相変わらず邪魔をする。 「おや?」 セレナが気がつく。USBメモリ達に異変が生じている。 まるで、使い古した携帯電話のバッテリーの如く膨らんでいるのである。 「やば……」 「不味いのだ!」 察した時には既に遅かった。 コレへの警戒が緩かったか、或いは係長対応に専念しすぎたか。 巨大な火柱が――峠の路を粉砕する。 : : : 「とりあえず……回復する」 俊介が、この日最後の回復を撃つ。 しとしとと雨の降る中。黒焦げになった一同がいた。 「お腹が空いたね」 椿がぐったり誰ともなくポツりと呟く。 「カレー食べに行きますか……」 シィンの細い声に各々同意する。 黒焦げのぐるぐは黒焦げの凍イ出アイビスを発見し、棒きれでつつく。 「カレー一緒に食べに行くのん?」 返事はない。 「一緒にカレーも良いんじゃない?」 「そうですね……」 前向きな氷璃に、セレナが頷く。お土産のカレーを持たせて帰そうか。 「凍イ出君がいるか。奢るよ」 烏が言う。まあ嫌と言われても放置する訳にもいかない。 雷音が、死亡事故現場の看板に手を合わせて戻ってくる。次に義父にメールをする。 『入りにくいUSBはちょっと困りますね』 何ともひどい目にあった。 風が吹き、満目と樹梢が動く。 見上げた秋の雨雲からは、雨がしとしとと降り続ける。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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