●君が望む約束 『親衛隊』のアイゼルネ・ユングフラウ少尉は冷酷無慈悲な女性将校として知られていた。またの名を「アイアンメイデン」と称される。 長いブロンドの髪に鋭く切れ長の紅い双眸。色白の美貌の女性士官は、その華麗な美貌とは裏腹にこれまで多くの人を突き殺してきた。 戦場ではその合理的な判断によってその場で最善策を組み立て、最短でもっとも効率のよい作戦を実行することに定評がある。これまで日本国内の親衛隊の作戦に最初期から関わって来て数々の手柄を立ててきた。特に先の三ツ池公園のアーク襲撃の際には、数少ない親衛隊の勝利をもぎ取ることに成功した。 だが、親衛隊はすでに組織としての体を失った。残された兵力に対してアルトマイヤーが言ったのは「総員好きにやりたまえ」の一言だった。 アイゼルネとハンス率いるユングフラウ小隊は山地の鍾乳洞地帯に地下の自然壕を構築して陣地を張った。さらに先の戦いで敗れた兵器の数々を再利用して地上にも防御壁を構築して最後の決戦に準備を整えていた。 「ハンス今までよくやってくれた。数々の試練と死線を乗り越えられたのもお前がいてくれたからだ。改めてこれまでの貴殿の功績に感謝する」 アイゼルネは呼び寄せたハンスに切り出した。すでに覚悟を決めた表情だった。ハンスはすぐにアイゼルネが何を言おうとしているのかが手に取る様にわかった。 「お前はもう自分の好きなところに行け。これからの戦いは文字通り私の親衛隊における最期の戦いになるだろう。もう生きては帰れない。だが、お前まで死ぬことはない。いや、お前にだけは死んでほしくないんだ。だから――」 「ユングフラウ少尉、お言葉ですがその命令には従えません。私は最期まで親衛隊として貴方とともに戦い、アークの勢力に一矢報いるつもりでいます」 ハンスの決意の籠った表情にアイゼルネは表情を歪めてしまった。アイゼルネはハンスに死んで欲しくないというのは本当のことだった。すでにそこには上司と部下の関係を越えた強い想いと絆で堅く結ばれていた。遺されたのはアーティファクト『エインヘリャル・ミリテーア』だけ。これを使用してしまえば大きな力を得る代わりにフェイトを全損するという代償を払うことになる。後戻りはもうできない。 アイゼルネはハンスの大きな胸に顔をうずめてしばらくじっとしていた。泣き声を押し殺すアイゼルネの肩にそっと腕を回す。はっと見上げたアイゼルネの瞳が潤んでいた。 「大丈夫だ、俺が必ず何があっても守って見せる。これまでのようにこれからも。もし戦いに勝利して終わったら二人で遠くの場所に逃げてそこで静かに暮らそう」 「――貴方を信じていいのかしら」 ハンスはアイゼルネの頭をポンと撫でて部屋を出て行った。まだ身体にはあの人の温もりが残っている。アイゼルネはすぐにハンスを追い駆けて廊下に出た。すでに人影はなくアイゼルネは急に心細くなった。 果てしない暗闇の向こうを見つめながらまだ震える胸を抱き締めた。 ●決死の覚悟を胸に 「親衛隊のユングフラウ小隊がついに動き出したわ。奴らは潜伏していた先ですでに最期の決戦をするために立ちあがった。陣地を構築して決死の覚悟でアークに立ち向かおうとしている。アークとしてもこれ以上親衛隊を放っておくわけにはいかない。この機会に何としても残存勢力を撃破してきてほしい」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)が張り詰めた口調で言った。アークの敵として幾度となく立ちはだかってきた親衛隊の残存兵力がついに動き出した。 決戦以後身を顰めていたアルトマイヤーとその一部残存兵力が蜂起した。主要幹部のほとんどを失った彼らにはかつてほどの力は残っていない。 だが、彼らはこのまま亡霊として消えてしまうことをよしとしなかった。残った兵力でアークに一矢報いることを決意し、残された実験兵器を各自の判断で使用した。 アーティファクトの『エインヘリャル・ミリテーア』によって、親衛隊員はフェイトを全損する代わりに強力な力を得ることになったのである。今回敵対するユングフラウ小隊も全員がノーフェイスとなってこれまで以上の力を発揮するようになった。 「彼らは最期の戦いに備えて決死の覚悟を決めている。とうぜん一筋縄に行く戦いにはならないと思うわ。こちらもノーフェイスになった彼らを全て倒す気合いで行かないと逆に圧倒されてしまうかもしれない。現場には陣地も構築されている。くれぐれも十分に気を付けて無事に帰ってきてね。貴方たちの成功を見守っているわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月15日(火)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● もう元には戻れない。覚悟を決めた戦いだったはずなのに。 あの人の傍にずっといたい。望むのはそれだけだ。もう誇りも名誉もいらない。 だからお願い生きて欲しい。私の親愛なるかけがえのない貴方―― ●戦場の天使 「戦場に天使がもしいるとすれば――あの娘のことをいうのかしら?」 アイゼルネは上空に浮かんだ発光する人影を見つめる。 辺り一面を目映く照らし出しながら『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)が大きな翼を広げて空に浮かんでいた。ハンスが影潜みを行って攻めることができずに立ち往生する。すぐにアイゼルネもハンスを支援しに前線へと突撃した。 (みんな気をつけて! 穴にも壁にも敵が無数に隠れてる。アイゼルネとハンスは一緒に行動してるみたいだから用心して) 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は戦場について千里眼を発動させて辺りを見回した。誰もいないように見える戦場はすでに敵の包囲網が無数に仕掛けられていた。アンジェリカは上空から睨む小夜香と連携しながら、得た情報をテレパスで仲間の元へ瞬時に届ける。 「行くよっ、キィ! ぜったいに負けないからっ」 『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)が辺り一面に火炎弾を叩きこんで潜んだ敵に威嚇攻撃を浴びせた。その攻撃を皮切りにして『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が真っ直ぐに斬り込む。五感を澄ませて不意打ちに警戒をしながら鍾乳洞地帯を進んで行く。義弘を盾代わりにして『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)と『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)が続いた。 協力して発煙筒と照明弾を壕の中に放り込む。攻撃されたと勘違いした敵のナイトクリークやデュランダル達が一斉に決死の覚悟で踊りかかってきた。 「こういうファンタスティックな喧嘩を待ってたぜ。一度『戦争』って奴を体験してみたかったんだよ」 『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)は小夜香を庇う。戦場で目立つ小夜香は敵の標的だ。攻めてくる敵に身体を張って真正面から銃を構える。 刀を振り上げて襲いかかるデュランダルに銃をぶっ放した。激しい突撃に押し切られそうになりながらも甚之助は耐え続ける。 「悪いが来栖だけは絶対にやらせないぜ。俺が身を挺しても庇う」 鋭く眼光で敵を睨みつけながら小夜香への攻撃を全力で防御する。 一瞬でも力を緩めればすぐに敵にやられてしまう。ギリギリの攻防の中で甚之助は歯を食いしばって懸命に立ち続ける。 『混沌を愛する戦場の支配者』波多野 のぞみ(BNE003834)も敵の潜みそうな場所を千里眼で見通しながら閃光弾を上から叩きつける。さすがに用心した敵も穴から出て来ないが、それでもその場に釘づけにすることができた。 「穴から出入りってことはその間地上の様子は見えないんだね? 余り有効に働かないような気もするけど――」 『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)はそう言いながらも、超幻影で味方のダミーを作り上げた。戦っている動きと倒れた者を運ぶような動きをさせてループさせる。へーベルが知恵を絞って考え出した作戦だ。 壕の中に潜む敵は一瞬しか地上に現れない。ずっと地上にいればすぐにバレてしまうが、果たして敵のソードミラージュが騙されて穴から出てきた。 『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)が現れた敵の背後をついて容赦なくナイフで切り刻んだ。不意を突かれたソードミラージュはその場に突っ伏す。 全速力で駆け廻りながらへーベルが仕掛けた罠に引っ掛かった敵に次々に襲いかかった。次第に敵は警戒して地上に出られなくなる。 だが、頭上に建造されたトーチカからリベリスタを狙って敵のスターサジタリー勢が一斉に火を噴いて援護射撃を始めた。雨霰の弾丸が飛び交い敵と対峙していたリベリスタも次第に足止めをされて前に進めなくなる。 「我が声(うた)は心へ浸透する……そして心自体を揺さぶるのだっ! 心優しきものには安堵を、心濁りしものには悪夢を!」 『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)はリベリスタ達を後ろからサポートしながら叫んだ。周りにいる敵を血の鎖の濁流で巻き込みながら支援する。 「準備万端な敵の陣地へと攻めるなんて億劫ね。その堅牢な鎧を食い破る為にも、こちらも運命を賭けましょうか」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は不敵な笑みを浮かべてようやく空いた前方へ突き進む。 真っ直ぐに向かった先にはレイザータクトがいた。一気に間合いを詰めて弾丸をぶっ放す。鮮血の血を降らせながら容赦なく敵を巻き添えにしていく。 ホーリーメイガスの前にはアルバート軍曹が立ちはだかっていた。敵も回復役をやられるわけにはいかないと決死の形相で立ちはだかる。 アンジェリカは全身のエネルギーを解き放ち、二人を巻き込みながら赤い月で不吉を告げた。アルバートが庇った隙を見て巨大な鎌を振り被る。 大きく跳躍しながらアルバートの身体に渾身の一撃を叩きこんだ。アルバートは斬られながら後退しつつもお返しにシャイニングウィザードを浴びせる。 周りにいたリベリスタを巻き込みながらその隙にハンスが一気に飛び出してきて義弘に襲いかかった。振り向く前に滅多切りにあってしまう。 義弘は反撃を試みようとして剣を振るおうとしたが、逆に月の盾で抑えつけられてしまい身動きがとれなくなってしまった。 ●今度は私が守る番 「また会ったな。ひろさん、祥子は元気にしてるか?」 ハンスは気安く義弘に声を掛けた。義弘は何とかハンスの攻撃に予測して応対したものの激しい月の盾による攻撃で後ろに弾き飛ばされてしまう。 倒れ込んだ義弘の元へ祥子が駆けよって助け起こす。 「――フェイトを失ってしまったら、もう殺すしかないじゃない。せっかく誘ってもらったけど、あたしは一緒には逝けないわ」 祥子はきっと睨みつけてハンスに応対した。必死で義弘の前に立ちはだかる祥子に対してハンスは自分の月の盾を突きつけた。 「交渉決裂ってわけだ。あれからずっと楽しみに待っていたのに残念だぜ。お前とは初めて会った時から仲良くやれると思っていたんだけどな」 ハンスは興味を失ったように祥子に背を向けて次の得物に向かった。まるでお前とはやりたくないとでも言うように。祥子はハンスの大きな背中を見つめるしかなかった。 御龍が刀を持って後ろを向いたハンスに襲いかかる。咄嗟に気がついたハンスは振り向きざまに御龍の強烈な一撃を月の盾で受け止めることに成功する。 「なかなかやるがまだまだだな。我の攻撃は重いぞ」 御龍は思わず苦笑した。口でそう言ったが、今の一撃を難なく交すとは敵ながらにしてすごいと思わざるを得ない。だが、御龍もまだ本気を出していなかった。 「みんなしっかりして――祝福よ、あれ」 小夜香が義弘の元へ行って天使の吐息をもたらす。サジタリーの攻撃で身体に無数の傷を負い始めていたへーベルや颯にも回復を施した。 颯はすぐにアンジェリカと共にアルバートに対峙した。遠距離から壁を一気に蹴って跳躍してアルバートの首元目がけてナイフを斬りつける。 「常に全力で、最短に、最速に、駆け抜けるョ!」 アルバートは颯に斬られて苦悶の表情を浮かべた。そこに御龍が瞬時に現れて抜刀して一気にアルバートを斬り伏せた。 さらにアンジェリカが後ろから大鎌を叩き下ろしてアルバートを地に沈める。それまで守られていたホーリーメイガスはエーデルワイスが凄まじい早撃ちで相手の反撃をさせないままに撃ち殺した。 「貴様らよくも同胞を殺してくれたな。絶対に許しはしない」 アイゼルネがアーティファクトの『アイアンメイデン』を発動させた。無数の錐のような槍が次々にリベリスタに襲い掛かる。串刺しにされてしまって身動きが取れなくなる御龍とエーデルワイスにへーベルが回復を施す。 「大丈夫、マイヒーローは負けないよ。へーベルが後ろでついてるから!」 へーベルが積極的に味方に元気を注入する。笑顔を振りまいてリベリスタの士気をあげた。さらに翼の加護を付与して支援を行う。へーベルに元気と翼を与えられたリベリスタ達は己の敵を倒すべく再び散って行く。 すでに懸案のアルバート達は倒していた。残るはハンスとアイゼルネだ。まだ余力が残っているとはいえ、部下を次々に目の前で失ってユングフラウ小隊はかなりの損害が出ていた。 ユングフラウ小隊もサジタリ勢に頼って反撃を試みる。敵もなりふり構わずにリべリスタ側の肝である小夜香に弾丸の雨を降らす。 「刻むは舞踏、己の運命すら捨て闘う戦士達よ、全力でお相手しよう」 颯は猛攻を仕掛けるサジタリ勢にナイフで斬り込んで行く。 リベリスタ側も後衛陣に被害が増えつつあり、楽観視できる情勢ではなくなってきた。すぐに祥子がラグナロクを使用して準備を整える。サジタリ勢にはエフェメラと颯の応戦に任せて甚之助が雑魚に踊りかかった。 「ようやくこの溜まったフラストレーションを解放できる。どこからでもかかってこい。俺が相手になってやるぜ」 アイゼルネとハンスが前線で戦い始めて他の部下達も黙っていられなくなった。決死の覚悟で持って刀や銃をとり甚之助達に突撃してきた。 敵も一発逆転を狙って一斉にアーク側の砦である小夜香を狙ってくる。甚之助は今までの欲求不満を魔弾に込めて撃ち放つ。 敵は次々に撃たれて倒れて行く。だが数が多かった。仕舞いに周りを囲まれてしまい甚之助はついにソードミラージュ陣の早い斬撃に倒れ込む。 まるでバンザイ突撃のような敵のなりふり構わない攻撃に晒されて持たなくなった。なかなか復活できない甚之助に小夜香が今度は自ら倒れた甚之助の盾になる。 「いつも守られてばかりだけど、今度は私が守る番よ。絶対に死なせはしないんだから」 小夜香は自ら大きな翼を広げて盾になった。容赦なく攻めてくる敵の猛攻を浴びながら動かなくなった甚之助を壁の裏側へと避難させる。だが、自ら盾になった小夜香も辺りを飛び交うサジタリの流れ弾やアイゼルネの刺矢に刺されて突っ伏してしまった。 ●侠気の盾の意地 「憎悪の鎖よ、咎人を縊り殺せ!」 不敵な笑みを浮かべたエーデルワイスが遠距離からアイゼルネを襲った。無数に放ってくるアイアンメイデンの刺を浴びながらも、呪縛の鎖を放ってアイゼルネの首を強烈に縛り付けた。そのまま一気に絞め殺しにかかる。 このままでは殺されると悟ったアイゼルネはすぐにもう一度体中から棘の嵐を浴びせかけて魔の手から逃れた。 だが、心身を大きく食いつかされてアイゼルネも困憊した。ようやく息を整えたアイゼルネがエーデルワイスに向かって言い放つ。 「貴様とは前に教会での戦いで会ったな」 「あら、覚えてたんですか。個人的には、お前の幸せをすっごく邪魔したい……踏みにじって、怪我して、汚して、グチャグチャにね」 エーデルワイスは可笑しいとでもいうように高らかに嘲笑する。 アイゼルネは集中して物質透過を試みる。後ろに回り込んで刺の矢で猛攻を仕掛けた。エーデルワイスも連射して頭部を狙い撃つ。 「殺して殺して殺し尽くせ!! かつての貴様らの上官、リヒャルトの如く。その魂を憎悪で満たせ、貴様らの存在は劣等で認めざるものなのだ!!」 刺矢で串刺しにされならがらもエーデルワイスは叫んだ。絶対に自分が負けるわけにはいかないと必死の形相で弾丸を放つ。 運命を削ることも厭わないという姿勢にアイゼルネは気迫で押された。激しい銃弾を浴びながら次第に意識が朦朧としてきた。 「アイゼルネ! 今俺が助けにいくから待ってろ!」 堪らずにハンスが叫んだ。だが、助けにいこうとしてその前に御龍が刀を振りかざして立ちはだかる。 「いいだろう、そんなに死にたくば殺してやる!」 ハンスは月盾を翳しながら御龍に突進した。対して御龍は刀を大きく後ろに振りかぶるとそのまま盾に向かって振り下ろす。 その瞬間、ガチンと響き渡って手が強く痺れた。あまりの衝撃に御龍は後退するがそこへハンスが容赦なくカウンターで剣を突き刺してくる。 腹を深く抉られて御龍は突っ伏しそうになった。へーベルとセッツアーが近くによって支えて御龍を助け起こす。回復を施されて再び立ちあがった。 「俺を邪魔する奴は全員地獄へ叩き落してやる!」 御龍を庇ってセッツアーが逆に斬られて血を噴いた。目の前で仲間が容赦なく斬られるところを目の当たりにして御龍は怒った。 再び刀を振りかざして立ち向かう。ハンスが月盾で対抗して反撃を食らわしてさらに御龍は深手を負った。 身の焦がれるような焦燥感を覚えながらアドレナリンを全開させる。殺られるか殺されるかの緊張感の間で御龍は刀を振い続けた。 「吼えろ! 我が破砕刀! 狼の牙の如く!」 御龍はついにハンスのわき腹に深く刀を突き刺した。腹を抉られたハンスは腹を抑えながら後退する。すでに油汗が額に滲んでいた。今の一撃で倒されもおかしくなったが気迫でハンスは立っていた。 「こんな――ところで俺は負けるわけにはいかないんだ」 ハンスは突っ伏した御龍を見下ろした。御龍もハンスの剣に刺されて同じように深手を負って倒れ込んでしまった。 「アイゼルネ、待ってろ今助けに――」 ハンスは傷ついた身体を引きずって何とか援護に向かおうとする。視線の先にすでに追い詰められて苦悶の表情を浮かべるアイゼルネの姿があった。 「さてと、ソレじゃあまだまだいこうカ。踊り足りないというモノサ」 そんな二人の間に割って入るように颯が斬り込むが無数の刺矢に阻まれて動けなくなる。そこへアンジェリカが大鎌で刺を払いながら後ろから詰め寄る。 すでに豪奢な衣装は引き裂かれてボロボロだ。猛攻の嵐に足が竦みそうになるも隙間を縫ってアンジェリカはアイゼルネの元へ辿りつく。 「二人で生きる事も出来たはずなのに、どうしてこんな事をしたの?」 アンジェリカは問いかけた。苦悶の表情で戦っているアイゼルネを助けようとして必死に食らいつくハンスをみてアンジェリカは悲しくなった。 親衛隊としての誇りかそれともアークへの憎しみか。分からないけれども彼らの本気は本物だった。だからこそこちらも真正面からぶつかりたい。 アンジェリカは大鎌を構えると跳躍した。意図を悟ったエーデルワイスもすぐにその大きな義手を伸ばして刺矢に刺されることも物ともせず抑えつける。 「今よ、やりなさい!!」 エーデルワイスが叫んだのと同時にアンジェリカの大鎌が振り抜かれた。 アイゼルネが言葉にもならない絶叫を響かせた。辺りに鮮血が飛び散ってまるで薔薇の花が咲いたかのようにアイゼルネが壕の中へ崩れ落ちる。 「アイゼルネ! くそおおおおおおっ!!」 ハンスの怒号が響き渡った。目を真っ赤に充血させたハンスが怒りの籠った剣を振いながら迫る。義弘がそうはせまいと仲間を後ろにして立ちはだかった。 「仲間は死なせないさ。俺が盾だ。ハンス、お前だけじゃあなくな。侠気の盾の意地、今度こそ見せてやるぞ!!」 聖骸闘衣を纏った義弘は渾身の力で持ってハンスを抑えつけにかかる。だがどこにまだそんな余力が残っていたのかと思うほどの強さに義弘も押し切られそうになった。憤怒の形相で迫るハンスに義弘はメイスを持つ手が緩みそうになる。 「ひろさん、しっかりして。あたしが一緒に支えるから!」 祥子がやって来て一緒に抑えつけた。祥子と義弘に支えられたメイスは次第に力を得てついにハンスを吹き飛ばす。 祥子は転がったハンスにトドメを刺そうとした。だが、手に持つ武器が震えて思うように動かせない。ハンスが諦めたように祥子を見つめ返す。 「――ありがとう祥子。お前のお陰で今まで楽しかった。もし生まれ変わることがあれば今度は敵同士じゃない方がいいな。ひろさんが羨ましいぜ」 「ハンス、やめて!」 「じゃあ、な」 ハンスは剣で自らの首を掻き斬った。辺りに鮮血が撒き散らされる。ハンスは巨体を地面に横たえると深い地下壕の中へと堕ちて行った。 ●愛の鎮魂歌 アイゼルネとハンスが倒されてユングフラウ小隊は壊滅した。 残りの少数の敵も戦意を喪失してしまい、最後はまるでバンザイ突撃のように意味のない攻撃を繰り出してきて皆果てて行った。 「途中でくたばっちまったが、まァ楽しかったぜ。縁があったらまたやろう。今度は地獄でな」 甚之助はようやく起き上がるともう動かない者たちへ言った。そして、倒れて代わりに庇ってくれた小夜香にお礼を述べる。 「間に合ってよかったわ……だけど彼らはもう」 小夜香は再び口を噤んだ。 「おやすみ、異国のヒーロー。戦争はどうだった?」 へーべルは静かに祈りを捧げた。もう誰もそれに応える者はいない。吹きつけてくる冷たい風に帽子を飛ばされないように抑えながらへーベルは顔を上げた。 聞こえてきたのはまるで天使の声のような歌だ。 アンジェリカの綺麗な鈴音の響きが戦場に木魂した。彼女は溢れる想いを胸にしながら二人の愛に敬意を表して鎮魂の歌を口ずさむ。 アイゼルネとハンスは堕ちた壕の中で互いに手を取り合って目を閉じていた。 もう彼らは戦わなくてすむ。あとは二人で安らかに眠ってほしい。 誇りと愛に生きた二人に幸あれ―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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