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<Reconquista>ゲノムケーニッヒ

●逃亡する猟犬
 アークとの抗争から時が流れ、『親衛隊』の残存兵力は息を潜めていた。
 主要な兵力を失い、国外脱出のルートも細い。何よりもアークの追撃をかわすことができるほどの組織力は無かった。
 暫定的に親衛隊の統括を行っていた。アルトマイヤー・ベーレンドルフ少尉は、最後の命令を下す。
「総員、好きにやりたまえ」
 言葉と共に『親衛隊』の前に出したのは、運命を喪失させることで多大なる力を得ることができるアーティファクト。『エインヘリャル・ミリテーア』とよばれたそれを前に、彼らは決死の思いを胸に秘める。
 運命を喪失してもなお軍靴を鳴らす彼らは、まさに亡霊の軍勢。
『親衛隊』最後の行進が、ここに始まる。

 さて、『親衛隊』の全てがリヒャルトに忠実だったかというと、そうでもない。
 事、自らを支配していたモノの正体が人ですらなかったとなれば、少佐のひいては『親衛隊』への権威の失墜は激しいものだった。
「ふん! 『アーリアの世界』のために私は死ぬわけにはいかんのだ!」
 ヨーゼフ・エーゼルシュタインもその一人だ。彼は『アーリア人種による支配世界』のために『親衛隊』に協力していた。だが『渇望の書』がアークに倒され、『親衛隊』にいてもその目的を達することができないと知れば、もうそこに忠義は無い。この国から逃れ、国外で再起を図ろう。
 ベーレンドルフが出したアーティファクトは、まさに渡りに船だった。ノーフェイス化による肉体強化と新たな能力。これさえあれば、軍団を作り上げることができる。これを使えばこの国から逃げるだけの時間は稼げそうだ。アークの手の届かないところまで逃げれば、かなりの軍隊を作り出せる。
「とにかく今は逃げの一手だ。連中がアークの気を引いている間に、国外に逃げ帯びねば……!」
 かつて共に戦った『親衛隊』を連中と呼び捨てる。猟犬の誇りなど、そこにはまったく無かった。
 
●箱舟
「『親衛隊』の残党が現れた」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。
「あるアーティファクトの効果でフェイトをすべて失いノーフェイスになっている。だけどその代償にフェーズ進行もはやく厄介な能力を得ている」
「厄介?」
「特殊な増殖性革醒現象により、自分に忠実な軍隊を生み出すことができる。その範囲と速度は同フェーズのそれと比べれば桁が違う。条件さえそろえば、一夜でエリューションの軍隊を生み出すことができる」
「……!?」
 余りといえば余りな能力に、リベリスタたちは顔色を変える。
「そうなる前に倒して。能力の危険性もさることながら、この男は『親衛隊』のなかでも深くアーリア至上主義に染まっている。国外逃亡させるのは危険すぎる」
「いや、その能力を聞く限りではかなりのノーフェイスがいるんだろう? この人数で対抗できるものなのか?」
 集まったリベリスタは不安げにイヴに問いかける。同じタイミングで『親衛隊』の残党が蜂起したこともあり、集まったリベリスタの数は少ない。だが、イヴは問題ない、とばかりに首肯する。
「条件さえそろえば、だから。少なくとも現段階ではそこまで酷いことにはならない」
 リベリスタたちは幻想纏いに送られた『条件』を見て安堵する。なるほど確かに、という声と同時に確かにここで倒さなくてはいけないという思いが生まれた。
「ノーフェイスの行き先は捕捉している。港に出て、船を奪って逃げるつもり。国外に逃げられると追うことが困難になる」
「だな。国内で叩くに越したことは無い。『条件』のことも含めて」
 リベリスタは顔を見合わせ、ブリーフィングルームを出た。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年10月18日(金)23:36
 どくどくです。
 誇りなき猟犬をお送りします。

◆成功条件
 ノーフェイスの全滅。
 ただ一人でも逃げられれば、失敗となります。

◆敵情報
 ノーフェイス。
『親衛隊』と呼ばれていた者たちがアーティファクトで運命を喪失し、ノーフェイスとなりました。
 すべてのノーフェイスは『絶対者』の能力を得、かつ身体能力が増加しています。その上で個々に新たな能力に目覚めています。

・ヨーゼフ・エーゼルシュタイン
 元『親衛隊』。優生学に傾倒し、アーリア人種以外を認めない男です。ノーフェイス化して、『王の遺伝子』を生み出しました。真偽はともかくその力は事実です。
 拙作『<鉄十字猟犬>血は濃く、鉄は硬く』『<Verzweifelt>ワルい大人のワルい作戦~以逸待労』『<亡霊の哭く夜に>GenomArisierung』に登場しています。参考までに。
 上記シナリオを知らずとも、『親衛隊の残党』ということを理解していただければ、何の支障もありません。

 攻撃方法
 王の一声 :神遠味全付 力ある一言が、見方を奮起します。物攻、神攻UP
 頭を垂れろ:神遠単 何故か逆らえない言葉を放ち、足を止めます。麻痺
 退け下郎 :物近範 足がすくみ、王に道を明け渡してしまいます。ノックB
 我が軍勢よ:P   戦闘指揮Lv3相当。
 アーリアの王冠(EX):神遠全 2000ターン集中(約六時間)することで視認できるだけの一般人をノーフェイス化することができます。ただし対象はアーリア人種のみに限られます。

 ノーフェイス(×5)
 元『親衛隊』です。エーゼルシュタインに従い、逃亡します。仲間意識は低く、いざとなれば仲間を見捨てて逃亡に走ります。

 攻撃方法
 ナイフ:物近単 ナイフで切りかかります。出血
 発砲 :物遠単 持っている銃で撃ってきます。
 雷撃 :神遠単 稲妻を放ちます。ショック

・アーティファクト『エインヘリャル・ミリテーア』
 麻子STおよびガンマSTの親衛隊シナリオに出てきた『最適化システム』『絶対復讐システム』のオリジナル。対象に大きな力を与える事が可能だが、フェイトを全損する危険性故に使用されていなかった。
 本シナリオには出てきません。

◆場所情報
 漁港。時刻は夜。光源はうっすらと。足場と広さは十分。
 この先百メートル先に船があり、ノーフェイスたちはそれを奪って逃げようとしています。リベリスタたちはそれを先回りする場所に陣取ることができます。
 戦闘開始時、ノーフェイスたちは一丸となって行動しています。
 先回りするために労力を割くため、事前付与は不可とします。
 戦闘開始時、彼我の距離は十メートルとします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ホーリーメイガス
伏見・H・カシス(BNE001678)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
ホーリーメイガス
蓮城 燁子(BNE004681)


「『エインヘリャル・ミリテーア(戦士達の軍勢)』か。なるほど相応しい」
 ヨーゼフ・エーゼルシュタインはアーティファクトの効果を確認し、愉悦に溺れるように唇をゆがめた。


「元枢軸国の人間がこのような無体を晒すなんて。わたしのパパとママが見たら、きっと泣き出すわ」
 逃亡するエーゼルシュタイン達の前に『夢色オランピア』蓮城 燁子(BNE004681)はそんなことをいいながら立ちふさがる。乙女の外観を持つ燁子だが、2013年10月時点で御年七十六歳。彼女の父と母は第二次世界大戦時の同盟軍である。
「あなたを王様だって認めることはできません。世界は誰かのものじゃないから!」
 若干怯えながら『二つで一人』伏見・H・カシス(BNE001678)がノーフェイスたちに向かって叫ぶ。両手に手甲をはめ、それでも真っ直ぐに真正面を見る。電燈のスイッチをいれ、夜の闇を明るく照らす。
「猟犬に追われるんじゃなく、捕まえる側か」
 拳を握りながら『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が歩を進める。思えば『親衛隊』とのファーストコンタクトは向こう側からの襲撃だった。今はこちらが追い詰める立場にある。喧嘩を売った相手が悪かったのだ。
「亡霊は亡霊らしく黄泉路へと帰してくれる」
 猛と並ぶように『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が立つ。言葉は静かに、しかし心の中で燃える炎は激しく。その闘志を瞳に乗せて、射抜くように相手を睨む。その殺気を受けてノーフェイスたちが気圧された。
「自分で自分の生存権まで放棄してくれて助かるわ。誰が止める事も無く無遠慮に粉砕してやれる」
 ノーフェイスは生かしておくわけにはいかない。故に殺す。『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は腕を回しながら、唇をゆがめた。この『親衛隊』との付き合いも長いが、これで終りにしてくれると気合を入れる。
「こんな狂犬病、ばらまかれたらいい迷惑ね」
 桃色の髪を搔き揚げながら『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)がノーフェイスたちを見る。ウーニャからみれば『親衛隊』にも多少同情するところもある。供養も含め、ここで引導を渡そう。
「俺の知ってるアーリア人には強ぇ奴が多いがアンタはどうかな」
 真紅の刃を持つ大剣斧を振るい、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)がノーフェイスたちを挑発する。相手から冷静さを奪い逃走を塞ぐ目的もあるが、バトルマニアの血が疼くのも確かだ。もっとも、
「ほざけアーク! 今は見逃してやるから道を開けよ!」
 叫ぶエーゼルシュタインは兵士の誇りを失ったノーフェイスだ。相応に強くはあるのだろうが、闘争心をあおる相手ではない。敗軍の殿でも、もう少し気概があるだろうに。
 ここで彼らを見逃す選択肢は無い。エリューションは討たなければならない。何よりも国外に逃亡されれば、このノーフェイスに従う軍隊を作製されかねないのだ。ここで足を止める必要がある。
 汽笛がなる。その音を合図に、リベリスタとノーフェイスはぶつかり合った。


「さて、頃合か」
『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は神秘で自らの姿を変化させる。ノーフェイスたちの求めるアーリア人種に姿を変え、酔ったふりをして近づいていく。
そのまま体当たりをして動きを止め――
「……ぐっ!」
 その動きを止めるよう銃声が響き、オーウェンの足に衝撃が走った。酔った演技をしていた分、回避に遅れが生じた。
「やはり箱舟のリベリスタか」
 オーウェンは同族を装って不意をつこうとしたが、相手が悪かった。ごろつきなら酔っ払いかと油断もしただろうが、相手は逃亡中の元軍人である。用心深い彼らは同族とはいえ不審な人物が不意に近づけば『とりあえず』で発砲する。相手に信用させるスパイスがもう少しあれば、上手く不意をつけたかもしれないが。
「行くぞ猛! 一気呵成に叩き伏せてくれる!」
「おう! 誰一人として、この場から逃げる様な真似はさせねぇよ」
 優希と猛が拳を握り、互いの拳を小突きあう。そのままノーフェイスの元に踊りかかった。二人の拳に紫電が走る。拳の軌跡を追う様に、爆ぜるような白の稲妻が通り過ぎる。
「貴様等一人とて逃がすつもりは無い!」
 ノーフェイスの群れの中心に優希が入り込む。逃がさぬという鋭い気迫で相手の動きを止め、その隙を突くように拳を振るう。牽制の一撃から流れるように本命を放つワンツーパンチ。稲妻の帯が優希の周りにいるノーフェイスを巻き込む。
「こっちも忘れるなよ!」
 優希の背中を護るように猛が位置取る。急所を隠すような構え。武術と言うよりは喧嘩に近いスタイル。相手が振るうナイフを腕で払い、反対側の腕で稲妻の拳を叩き込む。喧嘩はびびったら負け。猛は相手を挑発しながら、しかし油断無く拳を振るう。
「荒事は得意じゃないけど、この『害獣』が相手になるわ」
 ウーニャが道化師のカードを手にノーフェイスに迫る。カードに軽く口付けをして、相手の間合に入る――寸前にノーフェイスの視界が黒に染まる。正確にはウーニャが影を操り、ノーフェイスの視界を一瞬そらした。
「嘘の嘘は真。偽りの王様、あなたの言葉なんて道化の哄笑で掻き消してみせる」
 ウーニャのカードが横薙ぎに一閃され、ノーフェイスにかけられた『王』の加護を打ち消す。ウーニャの唇が笑みに変わる。妖しく、それでいて艶のある笑み。その瞳が闇の中に立つ運命なき王を見た。
「さあ、斜堂流を見せてやるぜ! 止められるもんなら止めてみな!」
 息を吸う。体を真っ直ぐに伸ばして肺一杯に吸い込んだ空気を吐き出すと同時に全身の力を篭める。爆発するような気の膨張が、影継の肉体を強化する。その力に任せて、戦場を一気に駆け抜け、ノーフェイスに迫る。
「斜堂流――」
 影継は肩に『斬業戦斧†辰砂灰燼†』を担ぐように構える。自らの生命力を闇のオーラに変換し、紅の刀身に纏わせる。切れ味を増した巨大武器。意識する。かかとを踏みしめ、バランスを保ち、そして全身の力を振り絞り――
「黒影閃!」
 体全てが一つの武器。そう意識して破界器を振り下ろす。轟音と共にノーフェイスの何人かが悲鳴を上げた。
「策は外したがまだ巻き返せる」
 ノーフェイスに撃たれた場所を押さえながら、オーウェンがノーフェイスに迫る。乱戦に入る前に閃光を放って一気に相手の加護を飛ばしたかったのだが、出遅れてしまっては仕方ない。思考能力を活性化し、複数の演算を同時に行い戦局を見極める。
「牽制攻撃だ。目を潰されるか、目を閉じて後続の攻撃に潰されるか……選ぶといい」
「潰される前にお前を倒せば済む話だ」
 オーウェンの挑発にノーフェイスが殺意を向けながら返す。革醒による肉体強化は眼球も含まれる。他の部位より脆いとはいえ、一撃でつぶれはしないだろう。勿論ノーダメージではないが。
「優秀なのに負けて、びーびー泣いてお帰りですかぁ?」
「帰るのではない。一時的な撤退だ!」
 乱戦の中、火車が背後のエーゼルシュタインに迫る。火車はその拳に炎を宿し、ノーフェイスの懐にもぐりこんだ。軽いフェイントを混ぜてのショートフック。ノーフェイスを服を燃やした炎熱は、何の痛みも与えてない。
「スカタンの癖に能力だけはイッチョ前だな」
 あらゆる悪影響を跳ね除けるノーフェイスたち。殲滅速度は確かに落ちるが、それでも拳の打撃は効くようだ。火車は舌で唇を濡らし、拳を握り締めた。
「ひ、人は人種や思想で区別されるものじゃないと思います。わっ、私は」
 リベリスタの傷を回復しながらカシスが口を挟む。カシスの言葉に乗った神秘の力がノーフェイスに傷つけられた肉体ダメージを癒していく。言葉の途中でカシスは急に言葉を止め、堰を切ったように怒りの声を上げた。 
「とにかく、あたしはあんたみたいなゴーマンな奴は嫌いなの! 本当に優秀なら、人は勝手についていくのよ。支配しようなんて思うことが、その裏返しなのよ!」
 内気で弱気な『私』と、明るく勝気な『あたし』。一つのカシスの中に存在する二人の『カシス』。相反する性格の二人は、しかしノーフェイスの横暴の前に一つの方向を向いていた。
「あらあら。本当に二重人格なのね」
 カシスと同じく回復に努めていた燁子が、驚いたように口に手を当てる。蝶のブローチを触りながら、ソプラノの声を響かせる。カシスの回復にあわせるように、声は高らかに戦場に響いていく。
「国、人種にとらわれるなんて可哀想なおじさまね」
 混血である燁子は、父親の血統も母親の血統も等しく誇りに思っている。だからといってそれ以外の血統を下に見ることは無い。長きを生きた少女は、その経験を示すように静かに微笑んだ。
「突破は不可能です!」
 各個撃破の作戦を取るリベリスタ。その火力差にノーフェイスたちは少しずつ倒れ始める。カシスと燁子の回復に護られながら、じわじわとダメージを蓄積していく。
「ふん、王の行進を妨げるとは万死に値する。退け!」
 エーゼルシュタインの言葉に、リベリスタは思わず足を後ろに引きそうになる。心が折れたわけではない。逃がしたいなど思ったつもりは無い。だが、この言葉に逆らうのは容易ではない。
 だが、容易ではないだけで不可能ではない。それを証明するために、リベリスタたちは破界器を握り締めた。


「王の威光にひれ伏すがいい。今なら追わぬと約束してやろう」
 エーゼルシュタイン自身のカリスマはともあれ、彼に宿った能力はまさしく『王』といってもいいものだった。言葉一つで味方の戦意を上げ、逆らうものをひれ伏し、あるいは退ける。
「どうした? 恐れで声も出ないか?」
「……けっ! 王様なら間に合ってるんだよ!」
 言葉に逆らうことができず退く火車だが、その気概までは従わすことはできない。覇界闘士の秘伝である独特なステップを踏み、相手の動きを見る。手も足も動く。何の問題もない。イメージするのは炎の弾丸。
「意地もプライドもねぇ!」
 火車は身をかがめ、
「スカッスカな保身バカに!」
 踏み込み、
「どうこうされるほど!」
 ガードを跳ね上げ、
「軽薄な生き方してねぇんだよ!」
 火拳を振るう。
 王威に恐れることなく、火車の拳はノーフェイスの胸に叩きつけられた。
「王に何たる無礼か。そこに直れ!」
「王? アーリア人? 笑わせないで。もうあんたは人ですらない」
 ウーニャの紺の瞳がノーフェイスたちを見る。そこに立つのは白い肌の『害獣』。運命を失った者たちを狩る狩人。
「悪夢(王様ごっこ)はもう終わり。醒めない悪夢はないのだから。
 紅蓮の月光よ――荒ぶる走狗を灼き尽くせ」
 ウーニャが生み出す赤い月が、ノーフェイスたちを照らす。アーティファクトにより不調への加護を受けていても、それは不調を打ち消すものではない。叩きつけられた炎や雷撃が呪いとなってノーフェイスたちに苦痛を与える。
「自らの民族の顔に泥を塗った貴様らは最早、アーリア人ではない」
 オーウェンがノーフェイスを攻めながら冷徹に言い放つ。逃げる様子がないのは、王であるエーゼルシュタインが生きているからか。彼らの様子からそう『分析』する。なるほど勝機は確かに存在しているだろう。
「もっとも、その王の指揮と判断が誤りでは手詰まりだがな」
「私の判断が謝りだと……!」
「能力が優れている人が、優れた王となるわけじゃないといういい例ね」
 燁子が回復の神秘を行使しながら、言葉を継ぐ。攻撃することなく回復を行っていた燁子だが、その甲斐あってか大怪我をした仲間はいない。もっとも、燁子自身は息切れ寸前だ。
「レーベンスボルンも選別もクソくらえよ、可哀想なおじさま」
 それでも笑みを浮かべて一言告げる燁子。何時如何なるときでも優雅さを忘れること無かれ。
「はっ! 支配するものとされるもの。それは生まれながらに決まるのだ! ひれ伏せ劣等種!」
「あたしのパパとママの国は違うけどさ、どっちが上とか下とか思ったこと無いよ!」
『あたし』の方のカシスが叫ぶ。
「わっ、私は、そんな理由で差別する支配者は間違っていると思います」
『私』の方のカシスが異を唱える。
「あなたのしたいことは間違ってる。だからあたし/私たちがここにいるの!」
『二人』のカシスが言葉を放ち、回復の神秘を解き放つ。優しく吹く癒しの息吹が、ノーフェイスが与えた傷を癒す。
「小賢しい……!」
「ただ逃げるだけならアンタらは追われなかったかもな」
 影継は自分の得物を振るいながらノーフェイスたちに語りかける。ただの『親衛隊残党』ならあるいは逃げおおせただろう。だがノーフェイスになってしまえば見逃す理由は無い。ましてやエーゼルシュタインの能力は危険すぎる。
「『極東のサルめ!』みたいな芸の無い罵声はやめてくれよ」
 柄を強く握る。腕の筋肉を振り絞る。自らの限界を超えてなお強く。自分自身の肉体にダメージが蓄積されてもなお力を篭めて。影継が放つのは100%を超えた戦士の武技。巨大な破界器が易々と振り上げられ、大上段からノーフェイスに叩き込まれた。エーゼルシュタインを護る最後のノーフェイスが、この一撃で力尽きる。
「馬鹿な! 私は王だぞ! アーリア人種の王だ! 優良種の王たる私が、このような目にあうはずが……!」
 倒れ行くノーフェイスに信じられないと声を上げるエーゼルシュタイン。
「人種に囚われ視野が閉塞した貴様の、何処が王足るか。王威を示すならその器を示すがいい! 力で虐げるだけの王は力の前に滅び行くが必定!」
「王様だろうが、なんだろうが──喧嘩にゃンなこたぁ関係ねぇ!
 テメェの拳と、お前の拳。テメェの意地とお前の意地、どっちがつえーかだ!」
 優希と猛が絶望するエーゼルシュタインに迫る。
 猛の拳がノーフェイスの左腕を押さえ、優希がノーフェイスの右側に足を運ぶ。頭を垂れろと叫ぶ言葉を跳ね除け、優希の足払いがエーゼルシュタインのバランスを崩した。その頭に向けて猛が拳を振り下ろす。
「お前らは弱くねぇ。けどな、誇りも何も無ぇ拳は痛くねぇんだよ……!」
 叩きつけるような猛の一撃。その一撃が、選ばれた人種と妄想した男の命を絶った。


「強かったがそれだけだったな。所詮妄想に囚われたノーフェイスだったということか」
 影継が破界器を幻想纏いに直しながらため息を吐く。強者との戦いに胸躍らせる影継だが、スペックが高いだけの相手には敬意を抱けなかった。
「逃亡ルートを『万華鏡』に予知された時点で、敗北は必至だ。哀れな王だな」
 オーウェンはノーフェイスの敗因をそう分析した。指揮下にある兵力が多ければ厄介だっただろう。勿論、その予知を元に作戦を立てたリベリスタの実力が、もっとも大きな要因なのだが。
「優良種だのなんだの叫んで、最後は逃亡して戦死。徹底的にクズだったぜ」
 拳をふるって炎を消す火車。『親衛隊』戦では物量などで苦しめられたが、エーゼルシュタイン自身はそれほどでもなかった。人柄も能力も。
「おやすみなさい。次はいい夢を見れるといいわね」
 ウーニャが倒れたノーフェイスたちに静かに告げる。遺伝子の王など妄想。この眠りが幻想に惑わされない安らかなものであるよう、ウーニャは祈る。
「さようなら、人種に囚われた哀れな人」
 燁子はしばらくの間瞑目して、そして踵を返す。かつて存在したアーリア人種至上主義。それに囚われていた猟犬たちはもうここにはいない。他のリベリスタたちも箱舟のほうに足を向け、帰路についた。
 
 WWⅡより時が流れて、遺伝子の存在が明らかになる。生物的に『優れた』因子があることは否定できない。
 されど能力だけで優劣は決まらない。如何に『王』たる能力を持ちえても、『心』までは王になりえない。
 明日の平和を示すように、港に船の汽笛が一つ響いた。

 ――かくて王は破滅し、猟犬は潰える。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 六人いれば一人は突破できて100メートル追撃戦になる……はずだったんだけどなぁ。がっつりその場でブロックされました。

 ヨーゼフ・エーゼルシュタインというキャラクターは、分かりやすいアーリア至上主義として生み出されました。基本は上から見下し。最後まで王様気取り。そんなキャラです。
 けして無能ではないのですが、傲慢で身を滅ぼす典型でした。高い能力を持つ人間が必ずしも有能とは限らないという一例でもあります。
 そんなテーマを無視していえば、実に分かりやすいフィクサードでした。書くのがとても楽なキャラです。セリフ考えるの超楽。

『親衛隊』の戦いはこれで幕となります。皆様、お疲れ様でした。
 それではまた、三高平で。