●フィクサードとノーフェイス それはとある双子の物語。 一卵性双生児の二人は何をするにも、どんな時でも一緒だった。 一緒に起きて、一緒にご飯を食べて、そして一緒に眠り。 しかし覚醒したのは片方で、しかも彼女は世界に愛されなかった。 その事実と意味を知り、しかし二人の心は折れなかった。あるのではなかろうか? 世界に愛されなかったものが愛されるようになる方法が。 情報を集め、危険を冒し、試して失敗し、しかし挫けずにまた試し。そこには苦難しかないけれど、しかし二人の心に絶望はなかった。いつでも手を伸ばせば届くところに、パートナーがいるからだ。 世界を破滅に追い込むとわかっていても、パートナーは殺させない。 世界を破滅に追い込むとわかっていても、パートナーがいればいい。 二人の絆はまさに奇跡。その絆こそが神秘に対する唯一にして最強の武器であった。 しかしその絆ゆえに、二人は共に破滅する。 リベリスタが二人を見つけ、罠に嵌め、そして捕らえたのだ。 ●リベリスタ 「で、どちらがノーフェイスでゴザルか?」 「「私です」」 双子は同時に答える。そして同時に銃声が二つ同時に鳴り響いた。 二人の肩を同時に衝撃が走り、服が朱に染まる。 「で、どちらがノーフェイスでござるか?」 「「……私、です」」 さらに銃声が響く。 「いい加減にしろよぉ! どっちがノーフェイスかを教えれば、片方は見逃してやるって言ってるんだぁ!」 双子の胸に突きつけられる銃。涙を流しながら、しかしリベリスタたちを睨みつける双子。その目に屈服の文字はない。 「言わぬか」 「くっそぉ! あのあばずれフォーチュナ。どっちがノーフェイスかまで『視』とけよなぁ! こっちが苦労する羽目になるんだから!」 「正義の味方は、普通の人を、殺せないんです、よね?」 「このままだと、私たち、死んじゃうかも。それって、ただの殺人です、よね」 そう。この双子どちらがノーフェイスかがわからないのだ。姿は確かにフォーチュナの捕らえたとおりなのだが、それが二人いる。しかも片方はノーフェイスではないのだ。 「そうか。なら仕方ない」 「ひゃっひゃっひゃ。そうだよなぁ。どちらかわからない。なら仕方ないよなぁ」 銃を持つ男に笑みが浮かぶ。サディスティックな微笑。それは双子の片方に集中して打ち込まれる。 「きゃああああ!」 「――えっ」 「ひゃははははははは! 確率は二分の一だ! 表か裏かだぜぇ!」 「やめて! 私が、私の方がノーフェイスだから! だからもうやめて!」 「否。どちらがノーフェイスか。それを証明する術はないでゴザル」 「私が、私が!」 「違うよ! 私だから! だから……きゃあ!」 「ああ、わからねぇもんなぁ! おらおらおら!」 「……あああああ。まさか、あなたたち……気付いている……? 気付いて……奈津美を……いたぶってるの……?」 「どうだろうなぁ? 最初に『どっちがノーフェイスかを教えれば見逃す』って言うのを聞かなかったのが悪いんだからなぁ!」 「これでわからぬなら両方殺すまで。それが最善の手段でゴザル。確かに無実の命が潰えるやも知れぬが、世界のために仕方ないこと」 その言葉に迷いはない。それが最善だと信じている目だ。 『多少の』犠牲者がでたとしても、暴れたノーフェイスが一般人を襲ったためである、と報告書に書けば万事解決だ。 結果としてノーフェイスが狩れればいい。正義は執行されるのだ。 ●アーク 「ニイマルサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こる神秘の説明を始めた。 「対象はノーフェイス一体。フェーズは1です。あとその場に一般人が一人、拘束されています」 「一般人が?」 「はい。このノーフェイスは双子の片方です。もう片方は覚醒していません。 フリーのリベリスタがこのノーフェイスの討伐に当たったのですが、情報の行き違いかノーフェイスとこの一般人の両方を……軟禁したようです」 和泉が説明に間をおいたのは、言葉を選んだから。アーク所属ではないとはいえ、世界の為に戦うリベリスタを個人の感情で悪し様に言うのは抵抗があった。 「双子の名前は水無瀬奈津美と亜紀子。亜紀子の方がノーフェイスです。ですがノーフェイスはフェイトの有無を隠蔽する特殊なステレスを持っています。かつ奈津美と姿形は両方同じであることから、見た目ではどちらがノーフェイスか判断がつきません」 何らかの手段で、どちらがノーフェイスかを見分ける必要があるということか。 「ノーフェイスは特に殺傷能力のない個体です。拘束されて銃弾を受けているため、戦闘能力は皆無といってもいいでしょう」 どのような状態の相手であれ、ノーフェイスは世界のために討伐しなければいけない。それがリベリスタなのだ。 「最後に。このノーフェイスを退治しようとフリーのリベリスタが二人現場にいます。『ペネトレイト』と呼ばれる高レベルのリベリスタです。 ノーフェイスを主に狙うチームで、任務の達成率は高いのですが周りの被害も大きいと言う報告があります」 多少の嫌悪感を交えて和泉は早口に説明を終える。『万華鏡』で見た資料を皆に渡しながら、和泉は言葉を続けた。 「目的はノーフェイスの討伐、および一般人の無事です。がんばってください」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月27日(水)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●リベリスタ 「そうだよなぁ。仕方ないよなぁ」 銃を取り出す瀬戸口。その銃口は双子の片方に向けられる。向けられた銃口と殺意に蒼くなる顔を見て、その男は嗜虐的な笑みを浮かべた。 痛みに耐えようと瞳と閉じる顔。それが苦痛に染まるのがタマラナイ。そして守るべき存在を守れず絶望に染まる双子の片割れがどう反応するかを想像し、トリガーを引いた。弾丸はまっすぐに放たれて、 「ふん!」 その射線に割って入った『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)の背中に命中する。肉を穿ち血が飛び散るが、痛みで表情を歪ませることなく『ペネトレイト』のほうを睨んだ。 「正義? 言葉の響きに酔いしれるだけの愚物が。未だに斯様な痴れ者が野放しとは……アークの怠慢だな」 そして一斉になだれ込むリベリスタたち。 「アークか」 刃紅郎のセリフを受けて『ペネトレイト』の片割れが日本刀を抜きながら臨戦態勢に入る。そこに打ち込まれる『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)の六尺七寸の愛刀『数珠丸』。互いの刀越しに交差する視線。 「これで三度目ですか。そろそろ決着をつけましょう」 「はっ! 世界の為にノーフェイスを狩る。リベリスタの正義に割り込んでくるんじゃねぇよ!」 「正義、正義の味方ね。その都合の良い言葉をどれだけ重ねた?」 巨大な斧を担いで『悪夢の忘れ物』ランディ・益母(BNE001403)が言う。水無瀬亜紀子と水無瀬奈津美。本来なら倒すべきノーフェイスに背を向け、まるでかばうように立ち尽くす。 それはやってきたほかのリベリスタたちも同じだ。まずは『ペネトレイト』を倒す。このリベリスタが『敵』だ、と無言で語っていた。 「やろうってぇのか! なら貴様達も一緒に殺してやるぜ!」 「ノーフェイスをかばう以上、汝らも同罪。等しく葬るでござるよ」 その気迫を受けて『ペネトレイト』も武器を構えた。 リベリスタとリベリスタ。互いの闘気がぶつかり合い、争いの風となって荒れ狂う。 ●正義の刃 「あなた達が一山幾らの正義の大安売りをするせいでデフレ気味ですよ。 そろそろ自重してもらえませんかね?」 大太刀を抜き『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が小林に迫る。倉庫にある品物を蹴り、辺りを跳ねながら多角的に刃を振るった。 「世界を滅ぼすノーフェイスを討つこと。これはリベリスタ共通の正義でござる。自重する気はないでござるよ」 小林はその刃を受け止め、あるいは避けながら言葉を重ねる。 「逆に問うが、汝はノーフェイスを討つことを正義ではないというでござるか?」 「僕は『正義』というものが嫌いでしてね。 ぼくがここにいる理由は単純です。あなたたちみたいな輩にあの双子の思いを踏みにじらせたくないだけです」 互いを思いやり、かばいあう双子。それを救う術はないけれど二人の愛だけこんな『正義』で踏みにじらせはしない。そう決めて床を蹴り、孝平は刀を振るった。刃は今度こそ小林の肌を裂き、服に血をにじませる。 「ノーフェイスの外道に情を持ったか。ノーフェイスに情けは不要でござる」 「外道に情は不要。そうだね、そこは同感だよ。あんた達みたいな外道にはね!」 踏み込み、抜刀。虚実を混ぜた一閃を放つは『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)。振るわれる刃はまさに疾風。身をひねってそれをよけるも、霧香の刃は止まることない。二閃三閃を重ねた刃は小林の額を裂く。 「世界に愛されなくても、愛されようと願い努力する双子。それが罪人だ、外道だなんて言われて良い訳が無い」 「では赦すと? ノーフェイスを見逃し、フェイトが降りてくるかもしれないという稀有な奇跡が起きるのを待つというのでござるか?」 「……いいえ。世界の為にはノーフェイスは討たなきゃならない」 それは違えてはいけないルール。悔しさを交え、小林に同意する。 だが、彼女は絢堂霧香だ。 『絢堂は剣道、霧香は斬禍。剣の道の下、禍(わざわい)を斬る』……彼女の名前に秘められた言葉の意味。ペネトレイトの行動は剣の道を歩むものとして見過ごせない。例え彼らの正義が正しくとも。ノーフェイスを倒すという一点において共通していても、 「その前に、あたしの思う『敵』を……『ペネトレイト』を倒す!」 『敵』に刃を向け、宣告する。 「問おう。何ゆえ拙者を敵と」 「あんた達は例え『正しく』ても許せない。それがあたしの剣の道だから!」 「自らの道に殉ずるか。誇りだけでは為しえぬ事もある」 「お主らにはその誇りも無いようでござるね。正義を名乗るとは片腹痛いでござる」 黒い糸を手に『ニンジャブレイカー』十七代目・サシミ(BNE001469)が舞う。ゆるゆるとした口調でもその攻撃は鋭く、その糸で小林を拘束しようと迫る。 「繰り返そう。誇りや情で世界は救えぬでござる」 速度と力。一閃と一撃。黒糸と白刃。時に接近し、時に離れ。多角的な攻めで隙を狙うサシミと、大地を踏み込み足運びのみで攻撃を避けながら刃を振るう小林。 捕らえた。確信を持って振るわれた小林の日本刀は空を切り、その隙を狙って打ち込まれた糸を半身捻って回避する。その勢いを殺さぬまま上段から刃を振り下ろせば、外套をばさぁとはためかせて視界を防ぎ、その隙に距離をとる。 アクロバティックなサシミの行動に翻弄されることなく、しかし決定打を打てない小林。それはサシミも同じ。刃の下に心を宿し、縦横無尽に飛び交いながら彼女自身は静かに刃を振るう。 互いの傷は交差するたびに増える。しかし戦いは止まらない。 ●正義の弾丸 「いい加減邪魔なんだよ、アーク!」 「そうだね。あなたたちは邪魔な『モノ』だね」 激昂する瀬戸口に『血まみれ姫』立花・花子(BNE002215)は剣を片手に割り込んだ。 「邪魔なのはてめぇらだよ。リベリスタ様の正義の鉄槌を邪魔するんじゃねぇ!」 狙い済まして穿たれる弾丸。その一撃は花子を朱に染めるが、流れ出てくる液体を一舐めして花子は剣を振るう。 「花子は命を奪うとき正義なんて口にしたことはないよ」 剣は振るわれる。瀬戸口の命を奪ううために。 「命を奪うは外道の所業。花子は外道で結構だよ」 「ならその外道の命も一緒に狩ってやるぜぇ。この正義のリベリスタ様がな!」 花子の攻撃を銃の腹で受け流しながら、瀬戸口が叫ぶ。それに返って来たのは冷笑だった。思わずぞくりとくる怪しい微笑み。 「命は重いのよ。その価値はノーフェイスだろうが一般人だろうが関係ない。それを奪うのは外道の所業。 本当に価値のない輩もいるけどね。そんなのは『モノ』で十分」 背戸口を指差し花子は言う。彼の命に価値がない、とばかりに指差して。 「俺の命に価値がないって言うのか、てめぇ! 血の海で後悔させてやるぞ!」 「『モノ』はバラバラにしてあげるよぉ~」 花子が繰り出す剣を避け、あるいは銃で受け止める瀬戸口。しかし本来接近戦用に作られたわけではない銃では対応できず、ダメージが蓄積する。 「偉そうなこと言ったところでお前達もどうせノーフェイスを殺すんだろうが。二人のうちどっちかがわからないのなら、両方殺すのが一番簡単じゃねぇか。1が2になるだけだ」 「ノーフェイスは1人ですよ」 『朧人形』ベヒモス・エルディン(BNE002614)は車椅子に座ったまま魔方陣を展開し、雷撃を放つ。稲妻が『ペネトレイト』二人を襲った。けほ、と咳き込んでからベヒモスは言葉を続ける。 「ちょっと頑張れば救える命だってあるんですよ。けほ、私がそうであったように」 病魔に冒され、動けなかった彼女は覚醒することで自由を得た。命を救うということは奇跡かもしれない。だけど行動することが大前提なのだ。 「甘ったるいんだよ。がんばっても救えないのが現実なのさ! 何処までがんばっても無駄なことだってあるんだ!」 瀬戸口の銃口から放たれる弾丸がベヒモスの足を穿つ。 (痛くない……怖くない……っ!) 痛みに耐えながら、しかし彼女は気丈に微笑んだ。 「確かに私は現実を知らないかもしれません」 長年ベットの上で過ごしてきた自分の知る知識や経験は、彼らには及ばないだろう。生きた年数の問題ではない。ベヒモスと彼らの活動範囲の違いである。 「現実の見えていない甘い理想論かもしれないけど、私は私の理想を成す為にここにいる」 いつだって理想を為すものはそれができると疑わぬもの。現実の辛さと痛みを知り、なお微笑み前を見る彼女なら、あるいは。 「理想なんざ現実の前に崩れ去るのが相場だぜぇ。偉そうに御託並べてるんじゃねぇよ」 「『偉そうに』ときたか。違うな……我は『偉い』のだ!」 刃紅郎が瀬戸口に向かって風の刃を放つ。鋭い風の一撃は瀬戸口の腕に深い傷をつけ、そこから流れる血が服を赤く染めた。 「はっ! 偉い偉いリベリスタでもノーフェイスを殺すんだろうが。俺たちとやることは同じのクセに、何偉ぶってるんだぁ!」 「黙れ。愚者の戯言など聞くに堪えん。 互いを守ろうと肩を寄せ合う小さき娘達を嬲ろうとするその光景、見るに耐えぬわ」 「誤魔化すなよ。てめぇらと俺たちの何が違う? お前達だってリベリスタの正義にしたがって小さき娘達を引き裂くんだろうが」 「違い? 『正義』に酔いしれ濁った目をした貴様達と、王者の責務で『民を裁く』我を一緒にするな。痴れ者」 それは責務。より多くの民を救うために。この世界を守るために行うこと。それによって生まれる栄光や羨望、恨みや憎しみを背負うと決めた。それが王者の責務。 正しいということを盾にする瀬戸口には、理解できない感情。しかし刃紅郎の覚悟の重みと王者の威圧は、彼の足を下げた。銃を上に向け、神秘の力を集中させる。放たれた赤い光は天井で跳弾し、火の雨を降らす。 「クソがッ! てめぇらウルせぇんだよ! 正義の弾丸に焼かれちまいなぁ!」 無数に降り注ぐ赤い光がリベリスタたちを襲う。業火が肉体を苛むが、精神までは至らない。運命を砕くほどでもない。 ゆえにアークのリベリスタたちは、まだ折れない。 ●罪と罰と 「貴方がノーフェイスを罪人だと、情けをかけてはいけないと言うのは貴方自身に対する言い訳なのでしょう」 小林に声をかけたのは冴。言葉と同時に愛刀を小林に振り下ろす。 「貴方は認める事ができないのでは? 世界の為に罪のない『人』を斬っていることを」 「そうだ。テメーは正義、世界のため、外道の存在を抹殺するってことだよな」 冴に言葉を重ねたのはランディ。同じデュランダル同士、闘い方は把握できる。相手がやりたいこと。やられては困ること。それら全てを戦術に組み込み、ランディは斧を振るう。小林と距離を放ち、風の刃を放ちながら隙をうかがっていた。 「フェイト? 世界の為に? 世界とやらが声を出して奴らを排除しろといったか? 世界っつーテメーの庭を守るエゴで同族を殺す同族殺し、それが俺達だ」 小林からの返答はない。言葉とともに振るわれる重い一撃を受け止める。 「だからお前は共食いの事実に耐えられなくて只管に正義を唱え、目を瞑る」 「あなたは罪を背負うということをから逃げている。罪を背負え! 正義のために犯した自分の罪を!」 ランディと冴の言葉と一撃を受け止めながら、熟練のデュランダルは足を動かす。 「言ってみな、本当の理由をな!」 言葉に押されるように後ろにではなく。言葉を全て受け止めるように前に。 日本刀が煌く。刹那の間に日本刀が旋回するように振るわれた。嵐のように小林を中心に風が荒れ狂う。物理と神秘の二重の刃は、小林に接近していたリベリスタたちを傷つける。 「ノーファイスは罪人。そう思うことを拙者の逃げと言うのなら、それでも構わぬ。されど意見を変えるつもりはないでござる」 ノーフェイスを『人』と思えばいつか心が壊れる。刃振るう心が鈍れば守れないものがある。故に彼は心を鋭く研ぎ澄まし、罪人を狩る処刑人と化した。倫理を捨て、人を斬る折れぬ刃を得た。 悪行を背負ってでも、外道非道と罵られようともかまわない。『世界』と『人』を天秤に掛けて、『世界』を選んだ。誰に強制されるでもなく、自分で決めた正義。 故に小林は口を開く。誤魔化しではなく、逃げでもなく。自分で決めた信念を。 「闘う理由を言え、といわれれば言おう。ノーフェイスを狩るのは『世界を守る』という拙者の正義ゆえ。ノーフェイスという罪人を断罪する為でござる」 もちろんそれは小林一個人の正義。絶対の正義ではない。それを認めないものもいる。 「貴方の剣では私は倒れません!」 小林のように『人』から逃げずに、真っ向から罪を受けようとする冴。 「そうかい。ならてめぇはここで終わっときなぁ!」 小林のように世界の為ではなく、奪った命を忘れない為に闘うランディ。 互いに譲る気はない。死力を尽くした戦いは終局に向かっていた。 ●双子の別れ。決意の刃 「……くそっ。やべぇか、これは!」 三度目のインドラの矢を放った後で瀬戸口は舌打ちをする。これ以上この攻撃は使えない。銃口が熱を持ち、おそらく銃が耐えられないだろう。しかしこれ以外に八人のリベリスタたちを追い詰める術はない。 否、一度は追い込んだ。降り注ぐ火の雨が、旋風の刃が。アークのリベリスタたちの体の芯を捉え意識を刈り取ったのだ。 しかしアークのリベリスタは業火の中、自らがノーフェイスとなるリスクを背負いながら立ち上がってくる。 「もはや語るべき言葉はない。これで終わりだ!」 業火に焼かれながらも起き上がり、刃紅郎が瀬戸口を地に伏す。 同時にギリギリまで追い込まれ底力を発揮した孝平の刃が、小林の意識を断つ。そしてランディの墓堀の名を持つブロードアックスが彼の命脈を絶った。 息絶え絶えに勝利を祝い合うリベリスタ。そして地面に転がる二人の少女を見る。 水無瀬亜紀子と水無瀬奈津美。戦闘音で目を覚まし、会話からアークのリへリスタが何をしに来たのか察しているようだ。 霧香は戦闘後、入り口を塞いでいるサシミのほうを指差し、 「どんな猫の耳してる?」 「え……? かわいい猫の耳――」 「奈津美!」 指摘されて、双子の片割れは口を抑える。E能力のない奈津美にはわからないが、サシミはイヌのビーストハーフなのだ。猫の耳、と答えた時点で自分にE能力がないことの証である。 「いや……違うの。私が、私の方が!」 取り繕うももはや遅い。それは彼女自身も理解していること。絶望が双子を支配する。 「何で、どうして……! 何で亜紀子が……」 「けほ、彼女を殺めなければいけないことは本当、なんです」 ベヒモスは奈津美の手を取り静かに事実を告げる。その間に亜紀子を放し、見えない所で亜紀子の命を奪おうとするリベリスタたち。 「共にこの世に生を受けたお二人が死をもって別たなければならないことは、きっと断腸の想いでしょう」 孝平は奈津美と亜紀子の間に割って入り、言葉を重ねる。命絶たれる瞬間を目の当たりにしないように、という配慮から。その怨みは全て受けるとばかりに、奈津美の視線を受けながら。 涙を流す亜紀子の瞳を、花子が覗き込む。 「花子の旦那はね、化け物が街を襲った日亜紀子ちゃんと同じ存在になったんだ。 でもあの人は自ら死を選んだ。娘がいたから。娘を巻き込まぬよう死を選んだ」 その娘は運命を得て、リベリスタとなったのだ。そのとき花子の旦那が死を選ばなければ、娘は今ここにいないのかもしれない。 「他人の為に命を捨てることは無駄だと思う? 意味がないと思う? それでもあの人にも花子にも娘の命を守ることは大切な事だったんだ」 「守る……」 「人が本当に護れるのはたった一つだけなんだよ。亜紀子ちゃんの護りたいたった一つは何?」 「選べ、片割れの姿と思い出の全てを抱えて一人生きるか。……二人最期まで共に在る事を望むか」 ランディは落ち着いたあとで双子に問いかける。その質問にざわめくリベリスタたち。反論しようとするリベリスタたちを視線で制して答えを待つ。 「……私は、亜紀子と一緒に――」 「だめ、奈津美。あなたは生きて」 共に死を選ぼうとする一般人を、ノーフェイスが止めた。時間にすれば数秒。双子の視線は交錯し、一般人が虚脱するように崩れ落ちる。 「亜紀子ずるい。そんな顔されたら何もいえない」 「ずるいわよ。だって私、世界を壊しかねないノーフェイスだもん」 それが水無瀬亜紀子と奈津美の交わした最後の言葉になった。 「よいのか?」 武器を構えた刃紅郎がノーフェイスに問いかける。無言で頷き、膝をつくノーフェイス。 刃紅郎の刃は傷みなく、ノーフェイスの命を絶った。 ベヒモスは今日のことをメモに記す。双子の片方を救ったという意味、双子の片方を殺したという意味。それが喜劇が悲劇か。それは読み手に任せるしかないだろう。 刃紅郎は命を奪った剣の重みを心に刻む。この重みを業として背負い、さらに進むと誓った。王者の責務、それを感じながら。 それぞれがそれぞれの思いを抱き、言葉なく帰路につくリベリスタ。 空には欠けた青い月。 崩界の恐れもなく、平和な夜がそこにある。それだけは確かな報酬だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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