● 廃工場の裏手で猛禽の瞳を持つ男は、大剣の素振りをしていた。鍛え上げられた筋肉には、無駄な贅肉が一切付いていない。 しかしこの男、外見通りの年齢ではない。 男の名はフェヒター。 旧ドイツ軍の軍人であり、神秘と超常の力を手に入れたフィクサード。『親衛隊』と呼ばれる組織の一員だ。 「フッ、身に付いた習慣とはなかなか変えられないものだな」 素振りを終え、剣を壁に立てかけると、フェヒターは自嘲気味に笑う。 先日、彼の所属する『親衛隊』は大きな敗北を喫した。敗北の経験はこれが初めてではない。だが、敗北の重さとしては「二番目」だ。 極東に作られた「閉じない大穴」を巡り、彼らはアークと一戦を交えた。一度は勝利し悲願の成就に、大きな一歩を踏み出したはずである。しかしその後、再戦を仕掛けてきたアークに敗れ去った。大半の有力な幹部及び、所有していた革醒兵器を失うというオマケ付きだ。 敗北のリスクも織り込んではいたが、これは想定より遙かに悪い。再起を図るには数十年を見込むだろうし、またそれだけの歳月を重ねることに彼ら自身が耐えられるかは――肉体的にも精神的にも――怪しいところだ。 「強力な指導者がいてこそ、人の集団は軍になるだったか」 フェヒターはかつて上官が口にしていた言葉を思い出す。その言葉が真実なら、『親衛隊』は最早軍とは呼べまい。 やや感情に逸るきらいはあったが、リヒャルトは無能な指揮官ではなかった。フィクサードとしての実力も祖国再興にかける執念も随一だったのだ。現在、親衛隊を纏めているアルトマイヤーも優秀な男ではあるが、同じ役割を果たすことは出来まい。階級を考えれば自分にお鉢が回って来てもおかしくはないが、自分が向いていないことなど自分が一番よく知っている。 「少尉、本隊からの連絡が入りました」 そこへ金髪の女性がやって来る。フェヒターの副官、ロッテ曹長だ。 埼玉工場の戦いで彼の部下も数を減じている。彼女は数少ない生き残りだ。 「アルトマイヤーからか。彼は何と?」 「『エインヘリャル・ミリテーアの使用を許可する。総員、好きにやりたまえ』です」 「彼らしい言葉だ」 飄々とした男の顔を浮かべて、フェヒターは鉄面皮に珍しく苦笑を浮かべた。そして、大剣を拾い隠れ家の廃工場に戻ろうとした所で、ロッテの方を振り返った。 「曹長、卿はどうする?」 「ヤー、決まっています。少尉のお供を。他の4人も同じです」 「来た所で祖国再興の目はほとんどあるまい。私の自己満足に付き合うようなものだ」 「ヤー、しかし我々の戦いは始まった時から不利な戦場しかありませんでした。それに、我々はチームです。ならば、最期まで共に参りましょう」 ロッテの目に迷いは無い。狂信、ではない。 亡霊のように生きていた数十年。しかし、その中で生まれる絆もあった。 そして、フェヒターはすぐにその感傷を胸にしまい、いつもの冷徹な表情を作った。 「良かろう。ならば、行こうか。我々の作戦目標はアークへの勝利だ!」 「ヤー!」 そして、亡霊達は再び夜に向かって歩を進める。 新たな「生」に進むため、まずはあの『方舟』に一撃を。 そこから先は、生き残ってから決めれば良い。 ● 暑い日差しに冷たい風が混じるようになった10月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、ノーフェイスの討伐だ。だが、相手はただのノーフェイスじゃねぇ」 守生が端末を操作すると、鋼鉄に身を固めた鷹の頭を持つ獣人が姿を現す。胸部からはマシンピストルが突き出ている。そして、怪物が身に纏う軍服に、リベリスタ達は見覚えがあった。 「そういうことだ。こいつの正体は『親衛隊』の残党……連中、とんでもねぇ真似をしやがった」 『エインヘリャル・ミリテーア』、『親衛隊』が作り上げた革醒兵器の一つである。「最適化システム」「絶対復讐システム」等のシステム系アーティファクトのオリジナルに当たる。対象に大きな力を与えるが、フェイトを全損させる危険性があるから使用されなかった代物だ。 その力で『親衛隊』は正真正銘「亡霊の兵団」となったのだ。 もはや、彼らを言葉で止めることは出来ない。 「あんた達に向かってもらう場所にいるのは、フェヒターって奴だ。元々、強力なデュランダルだったんだが、それに加えて異形化もしている。正直言って、強敵だ」 守生が言うには、潜伏先から近くの軍事基地に攻撃を行う予定のようだ。神秘による事件を起こすことで、アークをおびき寄せるつもりなのは間違いない。万が一にアークが干渉しないなら、あるいは彼らが勝利したのなら、そこで武器の補給を行うというつもりもあるのだろう。 そして、相手の思惑が何であれ、アークとしては亡霊の跳梁を防がなくてはいけない。 「連中の向かうルートは分かっている。戦いに向いている場所は2箇所ほどあるな。どちらで戦うかの判断はあんた達に任せる」 1つは山中にある森の中。もう1つは人気のない草原だ。 前者であれば戦うにあたって遮蔽を取りやすい。しかし、こちらの範囲攻撃も使いづらい。後者の有利不利はその逆で、遮蔽を取れないものの範囲攻撃が有効ということだ。敵との相性もあるので慎重に決めるべきだろう。 ノーフェイス化した所で、相手は『親衛隊』だ。今まで通りに、いや、今まで以上の警戒を持って立ち向かわなくてはいけない、 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月20日(日)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 冴え冴えと月が大地を照らす。 夜の光は誰にだって平等だ。だが、夜の与える安息を良しとしない者達も存在する。 彼らは眠りにつくことを認めず、戦うことを選んだ。夜に生きる亡霊になってまでも……。そんな彼らの姿を隠すかのように、流れてきた雲は月を覆った。 「ヤッホー」 最初に彼らと目が合ったのは『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)だった。銃撃のスペシャリスト、魔弾の射手である彼の瞳にとっては、相手が隠れてこようが意味を為さない。増してや、異形の姿を晒す『親衛隊』の姿など、見つけるなという方が無理な話だ。 『そうか……卿らが来たか……』 「鳥さんなんか顔色悪いね、唐揚げとか言ったのマズかったかな」 姿を見せた鳥頭の異形――『親衛隊』のフェヒター少尉に向かって軽口を叩くSHOGO。相手も自分と同じスキルを有しているのだろう。その上で向かって来るのなら、既に真っ向勝負しかする気は無いということだ。 「流石にここまで来ると可哀想になってきますね……」 分かり切っていたことではある。 また、アークに苦汁を舐めさせた仇敵でもある。 それでも、『天の魔女』銀咲・嶺(BNE002104)はそう思わずにはいられなかった。『親衛隊』が用いたのは最後の切り札。自身をノーフェイス化させる危険性を伴うが、大きな力を得ることが出来る革醒兵器だ。コレしか残されていなかった、とも言うのだろう。 だから、アプサラスの名を持つ彼女に出来ることは1つ。 「せめて、今生の苦しみを取り除いてあげましょう」 インドラの元へ、或いは天へと彼らの魂を送り届けることだけだ。 「フェイトを失っても進撃するかよ……ま、わからんでもねぇがな」 言葉とは裏腹に、『悪童』藤倉・隆明(BNE003933)の表情に同情している様子は見受けられない。むしろ、凶悪な表情で拳の骨を鳴らしてみせる。おそらくは、これこそが彼なりの「同情」。全てを失ってまで戦おうとする相手には、全力で戦い、潰すことが最大の礼儀だと分かっているのだ。 「敗北したままじゃ終われないってな、そういう生き様は嫌いじゃねぇぜ。だが、まぁ、放っては置けねぇ。亡霊には消えてもらわねぇとな」 迫り来る『親衛隊』、いや、『亡霊』に向かって隆明が不敵な笑みを浮かべる横で、『三高平妻鏡』神谷・小夜(BNE001462)が祈りを捧げる。すると、祈りに応じるように小さな翼がリベリスタ達に降り注ぐ。相手は強敵、ましてや飛行能力を持っている。やれることを全てやらねば勝利は覚束くまい。ならば、仲間を救うために出来る限りの支援を行うのが、彼女の「戦い」だ。 『亡霊』達が距離を詰めるまでのわずかな間を利用して強化を図るリベリスタ達。 そして、一通りの強化が終わったのと同じタイミングで、彼らはリベリスタ達の前に姿を見せた。既にかつての軍人としての姿ではない。正真正銘の亡霊となってしまったのだ。 そんな彼らを迎えたのは、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の冷笑だった。 「全く度し難いな。何もかもないない尽くしで暴れるだけか」 『他に何がある! 既に我々にはコレしか残されていないのだ!』 「フン、かつての熱狂の残滓に染まり、付き合わされる分にはいい迷惑。駄々っ子並みに質が悪いな」 『亡霊』の言葉を嗤うユーヌ。 怒り猛る部下をフェヒターは手で制止する。 既にユーヌの戦いも始まっている。どうせ引き付けるべき相手なら、怒りが強い方が躍り甲斐もあるというもの。もっとも、意図して挑発せずとも挑発しているような言葉を並べてしまうのが、彼女の彼女たる所以であるが。 そして、決戦に耐える加護を受け、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は目前にまで迫った『亡霊』の進撃を止めるべく立ち塞がった。 「最期くらい花を持たせてやりたいところだが……色々と背負ったアークの名に、泥を塗る訳にはいかないんでね」 『卿らにはそのつもりも無かろうが。だからこそ、最後に戦う甲斐があるというもの』 既に怪物と化したフェヒター相手に、快は一歩も怯まない。むしろ、ここで殲滅するという絶対の意志を持って睨み返す。まだしも祖国再興の意志がある数名に対して、リーダーであるフェヒター自身は戦い続けることしか残されていない。 だが、快が、そしてリベリスタ達が見ているものは全く違う。 彼らが見ているのは「その先」だ。なればこそ、自殺志願者に付き合っている訳には行かないのだ。 「……そこまでして……」 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の握る剣の切っ先がわずかに揺れる。 「意地、ですか。今更他の生き方などできない、というのは解ります。 それでも、こんな終わらせ方しかなかったのですか! 親衛隊……鋼の鷹」 『最後に残った意地だ。そして、ここに立っているのは祖国奪還のために戦う『親衛隊』ではない。いぎたなく勝利に固執する、亡霊の群れに過ぎんのだ……リセリア・フォルン!』 普段のリセリアであれば、もっと冷静に対応している所だ。だが、どうしても自分の国の人間が関わっているだけに冷静さを失ってしまう。リヒャルト少佐と戦った時もそうだった。 それでも……! 「アッハッハ。いいねェ、俺ァ意地の張り合いは大好きなんだよ」 その時、リベリスタと『亡霊』の会話を笑い飛ばしたのは、『華娑原組』華娑原・甚之助(BNE003734)だった。 「喧嘩の理由に良し悪しなんざねェさ。好きなだけ暴れていきな」 暗黒街の盟主を名乗り、斬った張ったの死線を潜り抜けてきた男にとって、戦争の勝敗も敵の素性もどうでもいいことだった。殴り合う相手がいる、それだけで良い。しかも互いに退けない理由がある、最高だ。思い切り煙草の煙を噴き出すと、拳を握り締める。 「安心しろ、仲間はずれはナシだ。一人残らず、丁重に地獄へ送ってやるからよ」 甚之助の言葉にノーフェイスは口に笑みを浮かべた。 月を覆っていた雲が風に流され、戦場を青く照らす。 そして、戦いは始まった。 ● 戦いが始まるや否や、リベリスタ達は待ち構える『亡霊』達に向かって一斉に飛び出した。 『亡霊』達は雪崩を思わせる強烈且つ精密な射撃でリベリスタ達を迎え撃つ。普段の『親衛隊』ならば着実にリベリスタ達の数を減らすべく集中攻撃を仕掛けていたであろう。だが、それをさせないために、ユーヌはここに立っているのだ。 「さて遊ぼうか? 今生最後の戦争ごっこ。駄犬のようにぐるぐるはしゃげ」 ユーヌの姿だけを切り取れば、傍目に「普通の少女」が月夜を浴びて、楽しげに舞っている姿に見えるのかも知れない。この上なく幻想的な光景だ。 しかし、それは死線の上で行われる命懸けの舞踏。 それをユーヌはいともたやすく行って見せる。 死を恐れていない訳でも、望んでいる訳でも無い。ただ、自分がこの程度の弾丸に当たるはずも無いという確信があるだけだ。 「今です、皆さん!」 ユーヌが射撃を惹きつけているタイミングで嶺が指示を飛ばす。『親衛隊』を強力な戦闘組織たらしめていた一因は、前線において戦場を分析できるフィクサードを多数揃えていた点にある。それはこの戦場においても健在だ。 しかし、箱舟――アークのリベリスタがその点において、劣るわけでは決してない。 「軍隊の指揮も手強いですが、箱舟のオペレーターも負けていませんよ」 嶺の構築する戦闘論理は、『亡霊』の培ってきた戦術に決して劣りはしない。今までの戦いを生き抜いてきた自身への誇りもまた然りだ。アプサラスの導く戦いの譜面に、『亡霊』の副官が舌打ちをする。 これで戦況把握は五分と五分。 こうなった以上は、リベリスタとノーフェイス。いずれが勝つかという単純な図式だ。 ましてや、木々が邪魔をして範囲攻撃は有効な攻撃となり得ない。 「うるぉおああああああ!!」 「ほらよっと」 「一切手を緩めず、押し切るのみ……!」 リベリスタ達の拳が唸りを上げ、刃が幾度と無く閃く。 ノーフェイス達の剣が振り下ろされ、銃声が戦場を劈く。 激戦の中で弾丸の嵐に巻き込まれた小夜の白い巫女服が血に染まる。それでも、彼女は祈りを紡ぐことを止めようとしない。 「あなた達のように任務のために、命も捨てるなんてこと、私には出来ません……だけど!」 小夜の呼びかけに応じて、ボトム・チャンネルに上位世界の力が顕現する。 戦う戦士を賦活し、闘志を呼び覚ます。 これこそ、天上より与えられる加護の力、大天使の吐息だ。 「犠牲者を出さないのが私のお仕事、ですから」 小夜は戦いを好まない。 だから戦場に立つのは、あくまでも仲間達を救うため。 そして、その祈りこそが仲間に戦う力を、勝利に向かう力を生み出す。 『まだ倒れない、とはな』 デュランダルの持つ物理破壊力は、他者の追随を許さない。しかも、『亡霊』はノーフェイスとなったことで、革醒者の軛を解き放たれた破滅的な破壊力で快(クロスイージス)を襲った。 しかし、倒れない。 並の人間なら肉片も残らないような攻撃を幾度も受けて、それでも快は立っていた。 「行かせない」 全身のナノマシンが稼働しているのを感じる。 全ては仲間を守るため。 なぜならば、 「分不相応とはいえ、俺にも背負った『名』というものがある」 その名は守護神。 その名を背負う限り、彼に後退は許されない。 彼が立ち続けるからこそ、仲間も戦うことが出来る。 そして、間隙を縫うように攻撃するのは、『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)だ。彼にしてみれば立ち並ぶ木も床と大差は無い。変幻自在の動きでノーフェイスに死の刻印を刻み込む。 「妹が世話になったね。お礼に死んで貰わないと」 『あの娘の兄か……だが、正義を奉じ続ける限り、俺の姿は妹の未来と知れ!』 ノーフェイスは剣を大地に突き立て、胸部のマシンガンを小夜に向ける。 このまま快と殴り合っていてもらちが明かないと判断したのだろう。ユーヌのカバーから解放された『亡霊』達も銃口をリベリスタ達の後方に向ける。有利にことを運ぶためならどのような手段でも躊躇なく取る、それこそ彼らが『親衛隊』だった頃から取る厄介な戦い方だ。 しかし、その引き金が引かれるよりも数瞬早く、『亡霊』の1人が倒れる。 その引き金を引いたのは誰あろう、SHOGOだ。 『また卿か……!』 「カッコつけて死にたいって気持ちはわかんなくもないけど、それでSHOGOのとこ来るのは明らかに失敗だと思う」 仲間達を庇うように立ち塞がるSHOGOは手の魔力銃に気取った仕草で息を吹きかける。 一手早かった。相手が長射程武器を揃えているなら、遮蔽を押してでも後衛を狙うのはおかしくない。だからこそ、最期の防衛線としてSHOGOは立っていた。 そして、『亡霊』達が慌てて攻撃を再開しようとした時、リセリアの剣閃に惑わされた1人が仲間を攻撃する。ゆっくりゆっくりと戦いの天秤は傾き始めるのだった。 ● 戦いは派手な消耗戦となった。 長期にわたる戦いの中で、リベリスタもノーフェイスも1人、また1人と倒れて行く。 「皆さん、まだ行けます!」 そんな戦場を最後に首の皮一本で繋げたのは、最年少であるはずの離宮院・三郎太(BNE003381)だった。長引いた戦いの中で気力を保つことが出来たのは、彼の尽力によるものであろう。 『祖国よ……永遠、な、れ……』 「……政府と故郷を混同するなよ。遠くにありて想うものは、薄いイデオロギーの拠所にしていいものじゃ、ない……」 機械の女性とSHOGOが倒れたのはほぼ同時だった。 既にアレだけいた『亡霊』達は姿を消している。その姿を見て、嶺も意識を失った。 「祖国再興か。ドイツはもう、とっくに再興しているよ」 快は哀しげな目を消えた『亡霊』達に向ける。人々が暮らして、問題はあれど幸せに暮らせているなら。 それは再興と呼ばれるべきだ。それを受け入れることが出来ていたなら、彼らの運命は違っていた。 だが、感慨にふけるのにはまだ早い。 まだ、もう1人。厄介な奴が残っている。 こいつを倒さない限り真の勝利は訪れない。どこまでも戦いを求めて、無意味な破壊を撒き散らすだろう。 「不運だな? いや、望みどおりか。鉄火場で躯晒して無駄死にが」 『いかにも! 望みがあるならば、最後の敵であった卿らの手による死のみ。与えてみせろぉぉぉ!』 血だらけのユーヌの挑発に鷹の群れの如き機銃掃射が返ってくる。 「テメェらはもう生きられねぇ、ここで全部終わりだぜ?」 弾丸の雨を避ける事無く距離を詰めた隆明が拳を振り抜く。 何処までも、何処までも、ただひたすらに真っ直ぐな拳だ。 容赦はしない。 「全部終わりだ、親衛隊は何も残らねぇ、亡霊なら静かに消えなぁぁぁぁ!!」 「ピンチになるとさらにギラギラしてくるよな? 解るぜ、俺もそうだからよ」 甚之助が断罪の魔弾を放つ。 口調は相変わらず飄々としている。 しかし、その瞳には紛れも無い修羅が宿っていた。 怒りこそが彼を修羅に変える。そんな彼だから、修羅道に堕ち、運命を失い怪物となった軍人の気持ちは理解できる。目が合った時に、互いの心は分かった。 だからこそ、負けられない。 「ま、俺が勝つけどな。極道は意地の張り合いが商売なんだよ」 相手も意地を張るために戦うというのなら、甚之助には一日の長がある。 「他で潰しが効く軍人なんぞに、そこで負けるわけにはいかねェのさ」 『ゴアァァァァァァァァ!!』 叫びと共にノーフェイスは再び弾丸をばら撒く。 既に何か吹っ切れたものを感じさせる、そんな強さがあった。しかし、リベリスタ達はあくまでも先を見ていた。だからこそ、最後の気力を振り絞り、全力を叩きつける。 そして、リセリアはフェヒター少尉の動きを見切り、天に舞った。 「貴方達は、親衛隊はこの世界の全てに本当の意味で背を向けた……アウフシュタイナー少佐と共にあった理想は、もはや貴方達と共に喪われる。なら……他の誰にも、時間にも世界にも任せる事は出来ない」 リセリアの時が加速していく。 既に最適化されていた全身の神経は何処までも研ぎ澄まされていく。ギアを上げられた神経は、既に弾丸の雨ですら把握し切った。 「少佐の理想と、貴方達の終焉の幕引きは、アウフシュタイナー少佐を討ち取った――貴方達の勝利を奪った私達が果たす」 リセリアの手に握る刃が蒼銀の軌跡を無数に生み出す。 一撃一撃が『親衛隊』への鎮魂の言葉。そして、決別の印。 「――Auf Wiedersehen、フェヒター少尉。ヴァルハラに逝きなさい」 『Danke……』 蒼銀の剣姫が鞘に刃を納めると共に、ノーフェイスの肉体は月の光の中で塵へと還って行くのだった。 ● 全ての『敵』が消えた戦場を背に、リベリスタ達は傷ついた体を抱えて帰路に就こうとしていた。 そんな中で、嶺だけがその激戦の跡を眺め、祈りを捧げていた。 「あなたがたの魂が、神々住まう英霊の地に辿り着かんことを……」 アプサラスはヴァルキュリアと同根の存在。 英霊を導くのは彼女にとっては義務である。 かくて、長い長い、亡霊たちの夜は終わりを告げた。 そして、箱舟は新たな朝日を迎えるのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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