● 両手で作り上げた虚像がそこにはあった。 『彼女』であって、彼女じゃなくて。それでも、形は一緒だった。 脆い土人形であっても、大切な人だということには変わりなかったから。 大きな瞳に、ほっそりとした白い指先。 『彼女』と違うのは薔薇色の方が黄土色染みていることだろうか。 肌理細やかな肌は、塗り固めたように『のっぺり』としている。 「それでも、これで、わたしの……」 囁く少女の瞳は気色悪い色が込められているようだった。 情愛、恋慕、細かく混じった嫉妬に憎悪。 細切れにされた粘土の中に込めた感情が固められて『彼女』を作り出していた。 本当は『キレイ』な彼女であるはずなのに。 混ぜ込んだ感情で固められた『空っぽ』がぼんやりと微笑んで手を伸ばした。 ● 「イレモノがあっても、ナカミがなければ意味がないとは思わないかしら?」 私はそう思うけれど皆さんはどうかしら、と『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)はリベリスタを見まわして、「お願いしたいことがあるの」と小さく微笑んだ。 「とあるフィクサードの少女が作り出したエリューションが存在している。 その両方への対応をお願いしたいわ。……アーティファクトも少し絡んでいるけれど」 簡単な話よ、と世恋がモニターに映し出したのは「土人形」と少女だった。 少女同士の恋慕に似たナニカ。恋愛と似ていて、恋愛でないかもしれない。厄介な感情に名前を付けることができるのかと言われればそれは難しい。 「フィクサード『みれあ』。彼女は『姉様』と呼んでいるリベリスタのことを慕っていたわ。 みれあの感情を……彼女が『姉様』に向ける感情を恋愛感情というのか、別の物なのかはわからない。ただ、彼女にとって大切だったのは、『姉様』ただ一人だったの」 多感な時期の少女だから、そういうのもあるのかもしれないわね、と世恋は息を吐き、資料を捲る。 そんなフィクサードが作り上げたのがその「土人形」なのだろう。美しい少女の形をした人形は何処か微笑を浮かべて虚空を眺めているのだ。 「この土人形はエリューションよ。みれあが手に入れたアーティファクトの効果を得て作り上げられている。 皆にはこのアーティファクトを回収し、エリューションを破壊してきて頂きたいの」 エリューションである以上は見逃せない。そこに少女のどのような感情が絡むとしても、だ。 「……彼女はフィクサード。彼女がそうである以上、世界の理も、正義も何もない。あるのは、愛しい『彼女』と自分だけの世界を形成するだけよ。 彼女への対応はお任せよ。……愛しいものを失った世界って、どんな感じなのかしら? 私からのお願いはアーティファクトの回収か破壊と……エリューション全部の撃破よ。 ……例えば、『たいせつなひと』が死んでしまって、その形を作れるとしたら、あなたはどうする?」 戯言だと笑って。それじゃあお任せするわね、と世恋は小さく頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月09日(水)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ネオンの光りが反射する街から少し外れる様に路地に入る。日常から離れた様に、静まり返ったビルの谷間に少女が存在していた。 砂と泥に汚れた掌で首にかけてあるアーティファクトをぎゅ、と握りしめたフィクサードの少女の瞳が路地に踏み入れたリベリスタを見詰めている。 「アーク……?」 「そうだとしたら?」 アメジストを思わす鮮やかな紫を細めて『黒き風車』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が小さく笑みを浮かべる。肩口で揺れる黒髪に赤を主体にした服装は暗がりの路地でもよく映える。 黒翼の天使を見詰めるフィクサード――みれあの瞳がリベリスタ達を食い入るように見詰めていた。 「ドモッ! 黄桜魅零ちゃんだよ☆ 名前がソックリだね? みれあちゃん。似てるから来ちゃったゾ」 へらり、と笑った『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が『わざと』らしい様にみれあの名前を呼ぶ。びくり、と肩を揺らした少女が身構えると同時、ハイヒールがこつん、と音を立てコンクリートを踏んだ。 唇から洩れる少女らしからぬ笑い声。きしし、きししと喉から息を漏らす様に響く笑い声に少女が怯えた様に一歩下がる。彼女の近くに存在する土人形がごとり、と動いた。 「貴女のお姉さん? 知らないけど。私達は殺してない。ちゃうちゃう」 ひらひらと掌でNOをアピールする魅零。関西訛りの口調で告げる彼女にみれあは警戒を解かず、手を翳さんとする――そこへ一気に間合いを詰めたのは『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(BNE003319)だった。 この場で誰よりも速さを身に付けた――愛と自由の探究者は頭からふわりと舞いあがった帽子を掌で抑えてナイフで『土人形』を切り裂いた。人形は呻き声すら漏らさない。長い黒髪に美しい瞳がぎょろり、と吹雪を見据えている。 「おっと、これが『姉様』か?」 「それが?」 なによ、という様に戦闘態勢を整えようとしたみれあに狙いを定める様に中央から飛び出した『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)が闇の中でもよく映える明るい茶髪を揺らして一気に間合いを詰める。 ぼんやりと暗がりを見据えた緑の瞳がみれあを見詰め、一気に炎を生まれさせる。前線の吹雪を巻き込むと共に、土人形を薙ぎ払う獄炎の中、『大好きな赤』を見詰めた旭がこてん、と首を傾げて笑った。 「『たいせつなひと』が死んでしまって、形作れるならどうする――どうする、かぁ。 わたしはもう選んじゃってる。ほんとはね、止める資格なんてないんだろうけど」 昔の自分の様だとみれあを見据える。茶色の髪が舞い上がる。彼女がしゃがみこんだ頭上を飛ぶ弾丸。 マグナムリボルバーマスケットが合わせた照準。弾丸は土人形全てを巻き込み、鮮やかな蒼い瞳で見据えた『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は何処か複雑だという様に小さく息を吐いた。 「……大切な人を喪う気持ちは、痛いほどに分かるわ。 どんな手段を用いてでも、その人に逢いたくなる気持ちも、分かる」 ぎり、と唇をかんだ。頭の中に浮かぶ『両親』の顔に、唇がゆっくりとおとうさま、と呼び掛けそうになる。象っても虚しいだけ、きっと切なさがそこに残るだけだと知っているのに。 「たとえ、紛い物だと分かって居ても……逢いたくなる気持ちはわかる」 「じゃあ、邪魔しないでよ――!」 ふるふると首を振るミュゼーヌの踵がかつん、とコンクリートを蹴る。ネオン街の中、喧騒に紛れてしまいそうな小さな声で彼女が告げたのはあからさまな拒絶であったのかもしれない。 「でもそれは、一時の代償行為でしかないわ。気持ちはわかるけど、私は間違っていると思う。 いずれ虚無感に陥るか、さもなくば土塊と共に朽ち果てるかよ」 ● とん、と錫杖を鳴らす如く慣れた手つきで魔槍で地面をたたいた『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の頭の中に『深緋』の笑い声が鳴り響く。 周辺を覆う強結界は日常に非日常を介入させない気遣いだろう。彼の掌で数珠が踊っている。 「よぉ、みれあ。そのヒトヅクリって奴を回収させて貰うぜ?」 「姉様を奪いにきたの!?」 声を張り上げるみれあの様子に肩を竦めずには居られなかったのは『足らずの』晦 烏(BNE002858)であった。二五式・真改を担いでいた腕を降ろし、最早滓になった煙草を踏みつぶす。 「依存ってのは怖いもんだよなぁ」 例えば、烏が愛用するこの煙草。ニコチンによる依存の恐ろしさを身を持って知っている。意思無き物にこれだけ惑わされるのであるから、意思ある物同士が依存する事になればどれ程恐ろしいのか。 「共依存というのも怖いもんさね。雛鳥なら仕方ないとも言えるかね」 雛鳥――みれあの顔を見詰めつつ、弾丸が撃ちだされる。土人形やみれあの喉元を狙う彼の弾丸に『アーティファクト』(姉)を奪いに来たのだと少女は目を向いて黒き瘴気を生み出した。 「……その土っぽい姉様、ちゃんと動くんですか?」 大人しげな外見でありながら、挑発的な言葉を繰り出した『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)が眼鏡をくい、と上げる。みれあの黒き瘴気に傷つけられた魅零を癒す光介の掌に力が込められる。 (大切な人が死んでしまって形を作れる――作りたいと願うけど、作らないかな……) 土っぽい姉様の動きに目を遣りながら大業物を手にした魅零がへらりと笑う。片目に茫、と宿った色は同情とはまた別の『何か』だった。 形を作り出して、ソレに縋る事は簡単だった。光介やミュゼーヌだって、出来うるならばと思うだろう。 形を作り出すことすら怖くなるのも早いだろう。それが魅零のいう『いつかその人でないと知る時』だ。 「喪ったものってね、再び作り上げたって元のものにはならないのよ。そんな事分かってるでしょ>」 アヴァラブレイカーを抱え上げる細腕。巨大な鉈を思わすソレが振るわれて、一気に下ろされる。闇を纏ったフランシスカの黒き瘴気がみれあを狙って行く。前線で戦う少女の華奢な身体を抉る様に土人形がその拳を振るった。 「『たいせつなひと』が死んじまって、その形を作れるって魔法使いが言ったとしようぜ? お前は『好きな人と一緒に居たい』って願ったんだろ? 俺だってそうしちまうかもしれねぇな」 頷きながら盾で拳を受け止めた吹雪の頬に切り傷一つ。血を拭いながら愛を探究する男は身体を捻り、多角的な攻撃を行おうと姉人形を狙う――がそれを遮ったのはみれあだった。 少女の華奢な体へと一気に振り下ろされるナイフ。土人形が彼女を癒し、姉人形を傷つけさせるものかという意思をその身に漲らせている。 「なあ、姉様は何で死んだんだ? オレ(アーク)の所為だと言ってたがそれは?」 「アークのお前らが見殺しにしたんだ! 姉様はアザーバイドと戦う現場に行って、それで――!」 声を荒げるみれあに降り注ぐ炎。四神使役を身に付けたフツの符が作り出した疑似的な朱雀の吐き出す炎が少女と人形を焼いていく。 炎の中、更に『赤』を生み出す旭の表情は変わらない。丸い瞳は優しく微笑んでいる。彼女の瞳に浮かぶのはあくまで同情だけだろう。 「わたしね、あなたの気持ちは、ちょっとわかるの。わたしも同じだったから」 「……同、じ?」 大切な、唯一だった人。その姿を己で象った。なり代わり様に、彼女の存在を忘れないように刻みこんで。鏡を見れば、何時だってその人が存在している。なり代わりの旭にとって土のお人形に『姉』の姿を見据えるみれあは『同じ』ものだった。 「うん、同じ。だから、それが間違いだなんて思わない」 「なら、なんで……っ」 荒げられる声。土人形の掌が旭を叩く。何故と聞かれても止める訳にはいかなかった。 「この世界に『綻び』を生じさせないなら、そっとしておいてあげるけど……そうにもいかないのよ」 綻びは、土人形がエリューションである事だった。問題点はただそれだけ。 彼女と『姉様』の世界を邪魔するものなんて、他にはなにもなかったのだから。 「……さぞ、美しい方だったのでしょう」 「美しくてもただの土人形ですけどね」 目を細めて光介が戦意を齎す様にとみれあに告げる。土人形で、動くかどうか。彼の言葉には『人形その物』を否定する意味は込められてはいなかった。 偽物作りを非難できるほど自分は強くないと光介は小さく告げている。本当は『ヒトヅクリ』が――アーティファクトが羨ましくて仕方がない。それを手にとって、一時でも偽物でも、確かな『形』が其処に在るならば。 「……逢いたいよ」 亡き家族を思う光介にとっては『姉様』の形と共に居るみれあが羨ましかったのかもしれなかった。光介とて姉を求めて居た。また抱きとめてくれるなら。偽物でも良い、確かな『形』が其処に在るだけで、満足できるから。 「教えて下さい。もう一度、『姉様』と過ごせる今の気持ちを」 「……しあわせよ、とっても」 少女の言葉に吹雪は肩を竦める。土人形の拳を避けながら見詰める少女の青白い顔は『幸せ』の欠片も見出せないではないか。 「リベリスタの事を『大事な姉様が死んだ理由』だと憎悪するならすればいいさ。 そうして殺したいぐらいに憎むならわたし達を殺せば? 簡単にさせはしないけどね!」 「殺してやる、殺す、殺してやるッ!」 大切な人が死んだ理由があるならば、殺せばいい。憎むなら、殺せばいい。憎むだけで済まない感情ならば。 土人形の拳がフランシスカの腹を殴りつける。身体を捻る彼女の後ろから烏の弾丸が降り注ぐ。 『個を隠す』不思議な格好はみれあの目にも良く止まった。顔を隠した覆面の無効で見詰める瞳は少女には見えない。何を考えているか判別に困る『役戯れ者』の弾丸が少女の掌を傷つける。 アーティファクトを握りしめる掌に力が込められていく。 「鳥籠から巣立つ事が出来るのは本人次第。何時までも雛のままではいれないのだからね」 紫煙が揺れる。後衛位置に存在する烏へ届く攻撃は『姉様』のカヴァーから離れたみれあの黒き瘴気のみだ。 「『姉様』が死んだ理由がアークだというのは、否定できないな。 ……彼女がリベリスタで無ければ死ななかった未来もあるだろうから」 ぴた、とみれあの手が止まる。『姉様がリベリスタだという事実』を彼女は知らない。フツから齎された言葉に、少女の動きが緩くなる。 その隙を見計らってか、身体を捻り、無限の悪意を込めた一撃が絶望の闇を伴って繰り出された。 「みれあちゃん。貴女にとっての『姉』を壊すね、ヒトヅクリも壊すね。 貴女がこの土塊が『姉様』だというならそうなんでしょうね。でも、壊すわ」 いつか、思い知る時がある。それが、その人ではないと。いつか。 ――それは、みれあにとっては今日の出来事なだけなんだから。 ● 癒しを与えながら、光介は惑いながらみれあを見詰めていた。「動く」のか「ただの土なのに」。どちらも光介にとっては嘘だった。 知りたかった、幸せだというその気持ちをもっと。 「いいな……」 囁く言葉にミュゼーヌが目を伏せる。From teddy bearが彼女の胸元で緩く揺れた。ピンクゴールドのオープンハードをヘッドにした恋人からの贈り物。『今』の大切なものがそこにはあった。 「……そんな物でお父様やお母様を象っても、虚しいだけだわ」 「それでも、形があって、動いて、傍にずっといてくれるんだよ!? しあわせでしょ!?」 幸せだと告げるみれあは鳥籠の中に閉じこもり続けている。攻撃を続けた土人形に開いた穴は『回復人形』が回復する時にのみ穴を塞ぐ事が出来て居た様だった。 灰がアスファルトの上に落ちる。銃を構えたまま、みれあが握りしめる手をそのまま狙った攻撃が一直線に貫かれて行く。 姉の土人形を庇う様に布陣するみれあの目が見開かれる。掌から溢れだす血液に痛みを堪える様に少女が目を見開けば、吹雪が一直線にみれあへと狙いを定める。 範囲攻撃にも巻き込まれていた彼の体力は光介の回復があれど限界点に近かった。愛と自由の探究者。日本中を放浪し、様々なものを見てきた吹雪にとっては見逃せない『愛』の事例だったのだろう。 ナイフがみれあの肌を裂く。手が離れた所に、畳みかけるようにフツの放ち出した鳥達が葬らんと襲いかかっていく。 「お前が好きだったのはそんな空っぽな人形じゃねぇだろ? お前はそれでいいのかよ!」 声を荒げる吹雪に目を伏せるフツの符は獲物を逃さない。みれあがいやいやをするように姉の人形を守り、身体を攻撃の間に滑り込ませる傍ら、前線で戦う吹雪の体が崩れ落ちていく。 肩で息をするフランシスカは振るえる膝で前線を守っていた。少女の白い肌は薄く血に汚れている。浅い息が、肺を膨らませ続けている。 「ねえ、アークのリベリスタって……仲間を見殺しにするの?」 「いいえ、しないわ。仲間でしょ?」 淡々と、問いかける声にフランシスカは返しながら攻撃を続けていく。何時か、受け継いだ誇りと刃をフランシスカは忘れない。 地面を蹴り、フランシスカがみれあの背後へと回りこもうと翼を広げる。華奢な腕が軋む。アヴァラブレイカーが振るわれ、黒き闇が土人形を崩していく。 「言ったでしょ? 殺してみれば? って。わたし達はね、八人で戦ってんのよ!」 「だから――死ぬわきゃないってことさ」 鈍い音。弾丸を放つ音だと気付いたみれあが振り仰ごうとしたところへ貫かれる『ヒトヅクリ』。見開かれた瞳に、形を残して、止まった人形に少女が声にならない叫び声を上げる。 「―――――ッ!」 「その土塊(姉様)を壊した私達が難いなら憎めばいい。罵ってくれても良いわ。否定はしないよ」 黒き闇は、土人形の形を壊していく。魅零の行いに少女が姉様と叫び声を上げるが、彼女の体はフツによって吹き飛ばされる。壁にぶつけられ嘔吐くみれあへ銃口を向けたミュゼーヌが瞳を揺らめかせる。 「あの人形は、姉様じゃないのよ。……ねえ、美しい方だったらしいわね」 「でもね、こうしなきゃいけないの。……ごめん、ね」 目を伏せて、旭が足を上げる。華奢な足は其の侭一気に振り下ろされ、土人形の腹をえぐり込み、ぐらり、とその形を失くしていく。 形を喪い唯の土と化す。少女がぎ、とミュゼーヌを睨みつけた。 「ねえ、いっそ……いっそ、殺してよッ!」 ぱしん―― 頬をはった音が一つした。 目を見開くみれあの前にしゃがみこんだ魅零が赤い瞳で見据えている。頭を飾る大きなリボンが影を作り出す。 「馬鹿! 馬鹿みれあ! 命の重みを『姉様』の死で分かってる貴女が自分の命を軽んじるだなんてアホな話しよ!」 目を醒ましなさいよ、ともう一度頬に衝撃が走る。ぼろぼろと瞳から涙が溢れだす。 見詰めながら、ぎゅ、とスカートを握りしめた旭が俯いた。 きっと、彼女の世界には『みれあと姉様』の二人しか居なかったのだろう。そんな世界で姉様さえも失ったら、みれあはどうなるのか。 こうして『姉様』を壊した以上、友人になろうだという綺麗事は、きっと難しい。 「……わたしを、怨んで。ひとりぼっちは、さみしいよ」 心優しい旭の言葉を聞きながら、そっと隣にしゃがみこんだ光介はみれあさんと小さく呼んだ。嘘への謝罪と、知りたかった言葉を。 彼を見詰めながら烏は煙草を吹かす。鳥籠は開いた。あとは『雛鳥』次第なのだから―― 「再会した大切な人の、動きは? 感触は? 微笑みは? ちゃんと思い描いたその人ですか?」 「固くて、冷たくて、笑ってくれなくても、姉様だった」 「幸せですよね? いいな、いいな……」 否定するのではない、同情するでもなく、想いを共有する。説得する魅零の言葉とは真逆のベクトルで光介はそこに佇んでいた。 「ふふ、なんでだろ、虚しい。なんで『形』を与えると、違っちゃう気がするんだろ? 盲目的に満たされたいのに……」 「なんで姉様は、死んだの?」 ふるふるとフランシスカは首を振る。この場に居るリベリスタは全員、彼女の姉の死の理由は知らなかった。 リベリスタは危険と隣り合わせとはよく言ったものだ。危険だらけの場所で、どうしてこうも戦っていられるのか。 (オレが死ねば、誰かを第二のみれあにしちまうかもしれないってことだ――死ねないってことだな。死んでたまるか) 大切な誰かが、きっと何時か『みれあ』になってしまう。泣きながら、形を欲しがるようになってしまう。 フツが目を伏せた隣、気を喪った吹雪を介抱しながらミュゼーヌが浅く息を付いた。 形が作れたって中身は『今』ではないのだから。ミュゼーヌの求めた両親はそこになく、鳥籠の鍵は元から壊れて居た事を烏は知っている。 「たとえ憎しみの心でも良いさな、少しずつ自分の足でのみ歩いてみると良いさ」 俯く少女の手を引いて魅零はアークへと戻っていく。逃がさず、これ以上の『痛み』が生まれない様に。 死ぬのは許さなかった。誰かが殺すなら自分が身を張って庇おうとも思った。形はアークへの拘留。彼女は死ぬ事無く、生きる為に連れられるのだろう。 「みれあが死んで、姉が喜ぶって思う?」 「……思わない」 「大馬鹿でも其れ位は分かっててよね。良い気にならないで頂戴!」 傷だらけのリベリスタ達は路地裏から抜けていく。其処には非日常はもうなかった。 土の人形も無ければ、アーティファクトもない、そこにあるのは唯の、何気ない日常だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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