●報告 3ヶ月前、山中のリゾートホテルを襲撃したエリューションについて。 体格は人間に近いが、遥かに大きく、全身は鋭く硬い銀色の体毛に覆われ、頭部は狼。 つまるところ、フィクションでよく見られる「人狼」そのものである。 はじめ1体のみだったその存在は、一般人に物理的な接触……噛み付くこと……によって、対象もエリューション化させ、数を増やすことができる。 以下は、確認された6体のエリューションの概略である。 個体A。 リーダー格とみられる個体。フェーズの進行度が最も高く、体格が他のものより一際大きいほか、能力、知力とも高い。加えて、非常に用心深い。リベリスタと遭遇時、状況を見て戦わずに逃走。 個体B。 最初に襲撃、誘拐されたサラリーマンが変異した個体。A程の力はないが、かなり強力な個体。リベリスタとの戦闘の末、逃走。 個体C。 キャンプ場で襲撃された一家のうち、父親が変異した個体。能力は他2体に及ばない。元来の家族であるDと一緒に行動する。リベリスタとの戦闘の末、逃走。 個体D。 キャンプ場で襲撃された一家のうち、母親が変異した個体。能力的には他よりやや劣り、体格が細い。個体Cと一緒に行動することが多い。リベリスタとの戦闘の末、逃走。 個体E、個体F。 キャンプ場で襲撃された一家のうち、長男、長女が変異した個体。リベリスタとの戦闘の末、2体とも死亡。 彼らは「満月」を目で直接見ることによって、人の姿から変異する。 逆に言えば、満月の夜でも、直接見なければ変異しない。 生命力、再生力が強く、生半可なダメージはたちどころに回復する。 強靭な筋力から繰り出される鋭い牙と爪による攻撃は、単純だが強力である。 以前、ホテルを襲撃しようとしたのは、仲間を増やすためとみられる。 この襲撃は無事に阻止されたが、4体が未だ健在である。 早期の発見、殲滅が望まれる。 「以上が、敵のおおよその情報です。良い?」 報告書を読み終えたルナ・ウィテカー(nBNE000274)が、視線をあげた。 ●月夜の晩に 「本題よ。今夜、この場所に3体現れるわ」 地図上で指し示した箇所は、山林のもっとも奥深い場所。自殺スポットとしても知られる場所。 ここの、ある区画に、個体B、C、Dの3体が現れるという。ここだけ生い茂った木々が嘘のように無くなる、半径50mほどの円形の広場だ。 「それと……悪い情報。人が倒れているの」 彼らが現れる場所、戦場となる場所の中央に、一本の木がある。 その根本に女性が、正確には高校生程の少女が、倒れているというのだ。 連中に傷つけられたような外傷はないようだが、彼女のいる木を囲み、三角形を描くように、人狼たちは展開するという。 近隣に町村や宿泊施設といったものが存在しないこの場所で、何故、こんな目立つところで姿を晒す? 「奴らの目的は、一般人を襲うことじゃない。邪魔者を消すことだわ」 罠。自分たちの動きが分かるのならば、それを逆手にとっておびき出そうという算段。 以前よりも強くなったその力を、リベリスタ達を葬るために使おうというわけだ。 アークのリベリスタたちの目的は、無論、人狼たちの完全撃破となる。 不安要素は、最もフェーズの進んだリーダー格である個体Aの姿を、万華鏡で確認できないことである。 報告にあったように、この個体は用心深い。どこかに潜んでいる可能性もある。 「あと、女の子について」 ルナが言う。この数カ月の間で、女子学生が行方不明になったという情報はない。彼女の身元の特定は、できていない。 「気になるけれど、後顧の憂いを絶つためには仕方がありません。彼女の安全より、敵の全滅を優先すること。良い?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:クロミツ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月10日(木)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● くるかな、こないかな。くるよね。 全部ぜんぶ、殺してしまえばいい。 あいつらは、噛んでも仲間にならないみたいだし。 それなら邪魔。邪魔なだけ。 わたしの邪魔は、許さない。 もっともっと、増やすんだから。 わたしの家族を、増やすんだから。 わたしの「ふぇーず」が進んだいまなら、もっと話ができる仲間ができるんだから。 あの人が、そういってたんだから。 ねえ。そうでしょう? わが友人さん。 見ていてね? もうすぐこの空にうかぶ、綺麗な綺麗なおつきさま。 ● 日は落ちた。 代わって、空に浮かび上がるは、満ち満ちた月。 いわゆる、中秋の名月というものか。 世間は十五夜。一般的には「月見」を楽しむ夜。 この場所だけは、そんな夜とはかけ離れた状態となっていた。 がきん、と金属音が響き、弾き返された人狼Dが地を滑る。二対の盾『STA-099・チャレンジャー』を閉じ合わせて防御体勢をとっている『地球・ビューティフル』 キャプテン・ガガーリンBNE002315)のパーフェクトガードは、体格の劣るDには堅牢この上ない鉄壁だった。 「隙あり、だよ」 「見事な手際だな、ユー」 攻めあぐねるDに、『夜明けの光裂く』アルシェイラ・クヴォイトゥル(BNE004365)のエル・レイが襲いかかる。キャプテンの盾には、事前に彼女が付与したエル・ハイバリアの効果も加わり、Dにとってはまさに最悪の相性であった。 人狼を象ったノーフェイス達と、アークのリベリスタとの戦闘は、既に開始されている。 中央の木の根本でうつ伏せになっている少女のもとへと、『レディースメイド』 リコル・ツァーネ(BNE004260)が接触に向かい、他の7名は、彼女に3体の人狼が向かわないようブロックしつつ、順に撃破してゆく手筈だ。 次々と放たれる光球に傷つくDだったが、ぱたりと光球による攻撃が止んだ。即座に反撃に転じようとしたところへ。 「普通でもマナー違反だけど、貴方達にとってはどうかしら」 鼻先に、しゅっと香水を吹きつけられた。人間のそれよりも強化された嗅覚で、思い切り吸い込んだものだからたまらない。一瞬、仰け反って体勢を崩した。 すかさず、その身体に大剣が勢い良く振るわれる。香水の持ち主である『薄明』 東雲 未明(BNE000340)が追撃にと放った全力の一撃が、見事にクリーンヒットしたのである。 「我は影、我は餓狼を狩り立てる漆黒の魔獣!」 崩れ落ちたDに、力強い言葉と共に大型の大剣斧『斬業戦斧†辰砂灰燼†』で斬りつけたのは、『影の継承者』 斜堂・影継(BNE000955)だ。怪物のような大剣斧を軽々と振るう彼の姿は、Dと比較しても魔獣と呼ぶに相応しい。そしてその一撃は、致命的なダメージを負ったDを葬るには十分すぎる力であった。 Dが倒れた、との声を聞き、その夫であるCと戦闘、ブロックしていた『祈りに応じるもの』 アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は、一気に攻撃を畳み掛けた。左右の爪での連続攻撃は鞘でいなし、受けるダメージを最小限に抑えつつ、攻撃後の隙を目掛けて、十字に深く斬りつける。 「私を、恨んでください」 かつて、その子供に対してかけた言葉を、再び口にする。彼らはもはや、戻れない。それならば、一刻も早く終わらせてやらなければ。 間髪入れず、二本の刃が襲いかかる。未明と影継の追撃が、瞬く間にCを切断した。 「他は、終わった、みたい、だね。……動く、な」 果たして、残った個体Bにも、既に最期の時が訪れようとしていた。『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)の気糸がぎりぎりと締め上げる。頑丈な体格のBにとってすら、その拘束を解くことは並大抵の労力ではなかった。 「もう、貴方も終わりにしましょうか」 『騎士の末裔』 ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が、拘束されたBの胸部に魔力槍を突き刺した。この人狼たちの布陣が、何らかの罠であることは明白だが、一気に決着を着けるならばむしろ都合が良かった。 C、Dを倒し合流したリベリスタ達を前にしては、その再生能力も、もはや雀の涙であった。 首尾よく3体が片付いたところで、アークのリベリスタ達は中央の木を取り囲むように展開した。万が一、月明かりの元に飛び出そうとしても、阻止できるように。 そして、少女とリコルは今、木陰におり、月影が直接差し込んでいない。 少女は、相変わらずうつ伏せの体勢のまま、目を開けず、動かない。正体をスキルで探れないのは、変身していない状態だからなのか、それとも、人間だからなのか。 静けさを取り戻した今、近くに他の心音脈拍も聞こえない以上、おのずと見えてくるものはあるが。 「では、皆様……参りますね」 リコルは、そっと、少女の頬に、触れてみた。銀製の篭手を着けた手で。 その篭手が少女の透き通るような白い肌に触れた瞬間。 じゅっ。 肉の焼けるような音がして、少女の肌が泡立った。 ● いたい! あつい?! なに? いまの。 あつい、いたい。 ゆるさない! ● ほんの一瞬。 少女の側に屈んでいたリコルの身体が、軽々と宙を舞った。 飛ばされながら、裏拳がめり込んだ横腹に鈍い痛みを感じながら、リコルは必死に少女を見た。 最初、少女が目を異様なまでに見開いているのかと思ったが、違った。 少女は、瞼を引き剥がし、眼球を露出させていた。 光は、物体に反射する。夜間でもものが見えるということは、それに弱くとも光が当たっているからである。道具として持参された明かりの他にも、弱々しいながら、月の光も。 眼球を露出させることで、強引に、少ない光を取り込んだのである。 「皆様……っ!」 地面に叩きつけられたリコルは、そう叫ぶだけで精一杯だった。 「やっぱりそうだったの。隠すのがちょっと上手だったけど!」 アルシェイラは、万一の場合を想定して発射準備を整えていたエル・レイを、ゆらりと立ち上がった少女、いやAに向けて放った。近距離からのレイは、確実に命中するかと思われた。いや、通常であれば、命中していたであろう。 Aは、大きく身を屈め、全身をバネに、跳んだ。文字に起こせばこれだけの動きだが、速度と力が生半可なものではなかった。 直立した状態から、関節を曲げた四つん這いの状態に。これでエル・レイを回避。発達した手の爪、靴を弾け飛ばして現れた足の爪を地面に食い込ませ、一気に前に向けて跳ぶ。飛びながら、右腕を繰り出した。 フォームも何もない、ただただ力任せに振るわれたその鉄拳は、アルシェイラにはあまりにも強烈な衝撃だった。咄嗟にガードしようと前に出した腕の肌を破り、筋肉に直接めり込む。細身な身体でそれほどの力を受けきることはできず、大きく後方へと弾き飛ばされた。 「受け止めたぞ。大丈夫か」 「……っ。助かったの」 間一髪、キャプテンが受け止めたことによって、地面に叩きつけられる追加ダメージは免れた。 アルシェイラを殴り飛ばした勢いを、全身で地を滑ることで強引に打ち消すAは、既に完全に人狼の姿へと変貌していた。身長はもはや2mをゆうに超す巨体。元が少女だったとは考えられない体格だ。 その着地方法自体は明らかに隙だらけ。そこをついて繰り出されたアラストールの剣を回避できたのは、その強靭な瞬発力による。4本の脚を使って再び跳ね上がり、向きを変えて着地した。 「瞼を引きちぎるなんてね。どうせすぐ治るから……ってとこかしら。ほらもう治ってる」 その発想に感心するやら呆れるやら。未明は牙を剥きだして中腰に立ち上がるAを見やる。 「狼狩りも、これで終いだ……っ!?」 視界の外から不意に襲いかかった、影継の全力中の全力での戦斧の一撃を紙一重で回避できる程に、野生の勘は冴え渡っているようだ。影継も思わず舌打ちする。 再び全身をバネに跳躍したその動きは、「回避」と「移動」を同時に行った。影継の120%をすんでのところで回避しつつ、地面に叩きつけられた体勢からまだ立ち直れていないリコル目掛けて一直線に飛びかかったのである。 「素晴らしいスピードですが!」 側面から繰り出されたユーディスの槍に肩口を突かれ、果たして強襲は失敗。まさしく横槍を入れられたAは、再び地を滑るように着地した。 「そのように正直な動きでは、16の視線からは、逃れきれません」 「でも、回復力は……本当に凄いね。今の傷も、治りかけてる」 天乃の言うとおり、確かにユーディスに刺された傷口は、ものの数秒の間に塞がってしまっていた。だからこそこれを仕留めるためには、回復の及ばぬ圧倒的なダメージを、その身に刻み込む必要がある。言い終える間に間合いを詰めた天乃は、周囲に移転させていた気糸を一息に引いた。 わざわざ間合いに飛び込んできた天乃を嬉々として引き裂こうと右腕を振るいかけたAだったが、彼女の身体に爪が届くまさに寸前、強引に全身を絡め取られた。 細い気糸がじわりじわりと身体に食い込む。体毛を千切り、皮膚を裂き、その体内へと侵入する。 Aが一瞬、子犬の悲鳴のような声を上げた。恐らくこれは、初めて味わったであろう、強い「痛み」への感想。 尚も締め付けを強めんとした天乃だったが、出し抜けに生糸を引き千切ったAから反撃を受けた。その痛みを怒りへと換えて拘束を強引に破り、繰り出しかけたままになっていた右腕を、今度こそ振り下ろしてきた。 爪は天乃の左肩を捉えた。ばっ、と、赤い飛沫がいくつも跳ぶ。 圧倒的な暴力の前に半ば叩きつけられるようにその場に崩れかけた天乃を目掛け、Aは牙がびっしり並んだ口を開け、迫る。 「貴方にも、どうかしら」 しゅっ。 今度は衝撃ではなく「匂い」が、その行動を阻害した。発達した嗅覚は、未明が放った香水の強い香りを余すところなく味わってしまったのである。思わず背けたその横っ面を、アラストールの祈りの剣が、斬った。 連撃でもう一度斬りつけようとしたアラストールを、後脚で蹴ることで牽制したが、一瞬とはいえ片脚が使えなくなったその状態は、第三者からは隙だらけ。 「足が止まってたぜ、人狼よ!」 100%を超えた全身全霊の一撃を、その胴に受けるためには、十分すぎるほどの隙だった。 肉が裂け、骨が砕ける感触が、戦斧を通じて影継の手に伝わる。 旧に倍する子犬めいた悲鳴をあげ、Aの巨体は大きく吹き飛んだ。 「……これくらい、平気……」 「無理をするな、今は休むのだ。ワタシは守ることは得意なのだからな。地球(テラ)のことも、仲間達のことも」 Aとの間合いが離れたところで、キャプテンが、抱えてきたアルシェイラを天乃の側にそっと降ろし、2人と人狼の間に立ちはだかった。回復までの一時、天乃とアルシェイラはその大いなる守りに甘えることにした。 アラストール、影継、未明、ユーディスが更にその前へと進み出る。起き上がって呼吸を整えたリコルも。 「奴の肉を裂いて、骨を砕いた感触だってこの手に残ってる。だけどよ」 やはり、回復能力は非常に強い。骨折ももはや治ったというのか、あっさり起き上がったAの胸には、いまや小さな切り傷が残っているだけだった。 一方、アラストールが切りつけた頬には、未だバックリと傷口が開いている。それを見たリベリスタ達の脳裏には、既に一つの結論が導かれていた。 Aはリコルとアラストールを見やる。直接相対したリコルと、会敵こそしなかったが、かつて仲間を葬ったアラストールのことは、認識しているようだ。他の6人に対しては、やや頭を引き、訝しげな様子を覗かせる。以前、自分を邪魔した8人のほかにも敵がいた事に、驚いたとでもいうのだろうか。 そんな様子も、ほんの一瞬。 「来るわ!」 未明の声にユーディスがいち早く飛び出し、同時にAも勢い良く地を蹴った。 盾を構えた彼女に正面から強引にぶち当たる。先刻から更に増したかのような力で、ユーディスのガードを弾き飛ばした。 勝ち誇ったように唸りつつ、追撃の爪を真っ直ぐに突き出す。斬るのではなく、心臓を刺し貫くつもりだ。 しかしユーディスの動きに無駄は無かった。わずかに膝を落とすことで、爪が深々と突き刺さる箇所を、肩の辺りへと外させた。 ならばと再び大口を開けて噛み砕こうとするA目掛けて、まばゆく発光する槍を至近距離から打ち込んだ。 「今です、リコルさん……!」 ユーディスが、魔力槍を押し込みながら叫んだ。ショックで一瞬、動きが止まったAは、身体にまだダメージの残るリコルにとっても、十分に狙いをつけられる的。 白銀の篭手が閃き、傷の癒えないその横面を、思い切り殴り抜ける。 じゅうっ! とでも表現できるだろうか。焼け石に水をかけたような音が響いた。次いでAが、人の悲鳴のような叫び声をあげる。リコルの篭手が当たった横面が、溶け始めていた。 「やはり人狼は、銀で打ち倒すものと、相場が、決まって、おりますっ!」 言い終えると同時に、リコルの意志と膂力を大爆発させた全力の一撃が、胸の真芯を捉えた。 嘘のように……例えるならば、マシュマロに熱い鉄の棒を刺すように……あっさりと、リコルの拳はその胸板に突き刺さり、背中まで貫通した。 狼と人、どちらともとれぬ奇怪な悲鳴を張り上げ、Aは転がるように後方へと飛び退った。しかし着地もままならず、そのまま大きく仰向けに転倒したまま、起き上がれずに七転八倒、悶え苦しみ始めた。 「ユーディス様、大丈夫でございますか! リコルはすぐさま、傷を負ったユーディスの身体を支える。 「ビンゴだったみたいだね。今なら……」 アルシェイラが歌う。透き通るような歌声は、皆の身体に染み渡り、痛みを和らげてゆく。 「リコル殿、ユーディス殿、ありがとうございます」 2本の剣と、1本の戦斧。3つの刃が、月光に淡く輝く。 息を大きく乱しながらも地に手をつき、必死に上体を起こしたAの目には、絶望的な光景が既に迫っていた。 「さぁ、これでお終いよ」 未明の大剣『鶏鳴』がAの下からアッパーカットで斬り上げる。腹から肩口を大きく斬り裂いたその強烈な一閃は、Aの身体を宙に浮きあげる。次いで、その深々と刻まれた傷口が爆発。赤黒い血飛沫が盛大にばら撒かれた。 「あばよ、名も無き人狼」 もはや回復する兆しもみえない傷口を目掛け、影継が戦斧を叩き込む。三度繰り出された業火の一撃は、その巨体を深々とえぐり取った。 その強烈な力を受け流す術もなく、無様に転がるAの姿には、以前の威厳も凄みもなく、生物としての異常なまでの力強さも失せきっていた。 「……始まりは、恐らく望んだことでは無かったのでしょう」 しかし。ここに至り、感傷は無意味。するべきことは、その存在を最期へと導くこと。アラストールに迷いはない。 「――我が剣は――千の雷に通ず」 神気を帯びた祈りの剣が、まっすぐに振り下ろされる。額に食い込み、鼻を割り、喉を裂き、胸を開き、腹を破く。 次いで、横に一閃。風穴の開いた、ぼろぼろに傷ついたその身体は、上と下、真っ二つに分断された。 やがて世界を蝕み始めていたであろう人狼達は、ここに全滅した。 「……終わった、ね。やっと、綺麗な月を、ゆっくり、見られる」 天乃の言うとおり、柔らかに皆を照らす月は、戦闘が終結した今、実に風情があった。 いかに人狼達が強くとも、力を合わせれば必ず勝てるとキャプテンは確信していた。 傷を負った仲間を支え、リベリスタ達は帰路につく。 Aの目的が、仲間を増やすことだったとしても、後から増えた者達には、知性らしい知性が残っているようには感じられなかった。それは、Aにとって、本当に望んだ仲間だったのだろうか。ユーディスはふと思う。 「それはそれで哀れなものですが……」 「どうか、安らかに」 リコルが、最後に小さく呟いたその言葉は、皆の思いの表れだったかもしれない。 冷たく転がる残骸となったその身体を、世にも見事な満月が、静かに照らしていた。 ● 個体Aであった少女は、昨年の初夏頃、会社が倒産し、借金を苦に同山中で心中したとされる一家の長女だったことが判明した。 この場所は、自殺スポットとされ、毎年かなりの人数が、この一家と同じように命を自ら絶つといわれており、一家の遺体は最後まで発見されなかったが、それも珍しいことではないとされていた。 いかなる状況で覚醒したのか、もはや知る術もない。 戦闘が行われた広場からほど近く、地下水の流れる洞穴が発見された。入り口付近には焚き火を行うための竈もあったことから、人狼になっていない間は、ここで奇妙な共同生活を営んでいたものとみられる。 唯一、人間としての知性を残していたAですら、フェーズの進行による戦闘力の増加と反比例するように、思考能力は徐々に低下したようだ。 被害者を装って救出させ、人のいる場所に連れて行かせようという、罠のようで短絡的な今夜の行動は、そのためだと推察される。 しかし、少なくとも大幅にフェーズが進んだ現在のAが人を噛めば、それまでの個体よりも知能に優れた個体が生まれたとしても不思議ではなかった。 最後まで積極的に人里に出なかったのは、縄張り意識が邪魔をしたのか、それとも何者かに飼いならされていたのか。 引き続き、調査を行う。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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