● 荒れ狂う戦場の中。彼女は携帯で通話し、その先へ居る人物へ言う。 「九朗!! おまんから貰ったゲームしとったら、こっちがガチでハンターされそうやねんけど!! 捕獲がええ?! それとも狩猟がええ!? え、捕獲!? 馬鹿言え!! 道具ねーよ!! 自分でこっちきてやりぃよ、近くにおるんやろ!!」 若干訛って、素が出ていた。 刀による断頭を何度か狙ってみたものの、近づく事がまず難しい。 「ったくもう……おこなの? マジ激おこぷんぷんなの??」 ● 口でガム風船を膨らまし、指はゲーム機のボタンの上を忙しく踊っていた。耳は何処にでもあるようなイヤホンに塞がれていて、ランチタイムのサラリーマン達が仕事の愚痴やらそんな話を遮るかのように、現実とは切り離されている『彼女』。 名前は『戸部・馨』。剣林に所属している、刀を愛する女だ。 つい先日。彼女は誕生日を迎えた為に、剣林の友人『斬手』九朗から、エリューションビーストみたいなものを狩ったりするゲームをプレゼントされた。ゲーム機よりも刀の柄を握る回数の方が圧倒的に多かった彼女だ 『九朗? なんなの? マジセンス無いわ! こんなのいらないですし、っていうか、マジで超迷惑ですし。ゲームとかマジ意味わかんないから!!』 とか言いながらも、いざやってみたら三日三晩、飯の時間さえ惜しみながら狩って狩って狩っている。人を斬るのが飽きたので、人の服を斬り始めた彼女だが、次はモンスターを斬り始めたのは此の世界的には安泰足り得る事なのだが。さて、問題は此処からだ。 突如、上空から獣を様な咆哮が響く。羽音を高らかに上げながら、舞い降りて来たのは紅く、そしてごつごつとした体表に覆われた―――まさしく、龍。 口をあんぐり開けてソレの来襲を見ていた一般人は、次の瞬間に逃げ出していく。周囲は大パニック。真昼のランチタイムは台無しである。 しかし馨は動じなかった。マイペースでは無い、というかゲーム画面とイヤホンのせいで周囲の状況から完全に孤立していた。足を優雅に組みながら、指はまだ忙しく動く。そろそろ気づけ。 その頃、龍は翼をはためかせて風を起こす。生まれた突風は、馨が予め買って、横に置いておいた飲み物を倒そうとした。それを間一髪で受け止めた彼女は、何も知らずにストローを口元へ持っていき、ちゅーっと吸ってみれば目の前に。 「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」 今まさに飲み込もうとしたものを全て手前にぶちまけたのであった。 ● 『こんにちは……急ぎの依頼をお願いします。多分、その……今日はお暇ですよね? 其処で待っていてください、今迎えの車が行きますので』 拒否権、無いんかい! ―――三高平内の道を歩いていたら、『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)からの突然のお電話である。デートのお誘いという名の依頼だ、急ぎと言うならば仕方ない。 『ビル群の街中にアザーバイドが二体出現します。皆様が到着する頃は、一体が大暴れしているものと思います』 時間はまだ十一時過ぎ、そういえば小腹が空いた。 街中でその時間という事は、スーツ姿の一般人がランチを求めて外に出ている時間であるという事か。 『そうなんです。皆さんには一般人の対応をしつつ、アザーバイドの対処をお願いしたいと思います。一般人対策用に道具等は此方で用意しますよ、何がいいですか?』 それは集まったリベリスタと話し合うとして、先に敵の詳細をだな。 『はい。敵は大型で、四本足で、背中に翼がある、所謂ドラゴンっていう感じのものです。それが二体、おそらく雄と雌が来ます。先に雄が来ます、ちょっと時間差があった後に雌が。 彼等のDホールを今探している途中なのですが……其方がなんとなする間までに見つからないかもしれません。討伐を視野に入れて行動してください。もしDホールによる帰り道を探したいのであれば、龍に聞くのが一番良いかもしれませんね。 それで、攻撃方法は送ったメールの通りです。危険な炎には十分に注意してくださいね。 で、ですね……――あと』 あと? 『運良くも、運悪くも、剣林のフィクサードがその龍を狩ろうとしてくれまして。いやはや……流石剣林と言った所でしょうか、嬉しそうに狩っていますよ。龍もちょっとの間は剣林の子へ攻撃するみたいですし。下手に刺激しなければ良い戦力になるんじゃないかと思います。でも長くは持ちませんので、そのつもりで』 なるほど。 『名前は戸部・馨。ちょっとしたクセのある性癖を持った人です。男性も女性も、服を斬られないように注意してくださいね』 あ、はい。 『では、宜しくお願いします』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月09日(水)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「切っても切っても倒れやしないわね……」 戸部・馨は鋼心丸へ新たな刃を注ぎ込みながら、愚痴を吐いた。周囲は混乱という二文字がよく似合う程のもので、だからといって馨が其れに対してどうにかしようと思う事は無い。 「ちーっす、ご機嫌麗しゅう。アークだよ」 「アークは御厨夏栖斗なんて寄越して……なによ、私を討伐しに来たの? それともあっちかしら?」 馨の指先は暴れる竜を指しながら、見るからに「私はお前が嫌い」と言っている顔を向けて来た。『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は唇を尖らせ、指先の竜を視界の中に収めつつ言うのだ。 「そうだね、今回は『あっち』。そんな嫌な顔しないで、傷つくじゃん」 「だって、貴方達。フィクサードを見つけたら血眼で殺しに来るじゃないの」 前だってそうだったのよ、と付け加えながら、夏栖斗はそのまま馨の愚痴を耳に入れていた。ふと、馨は全力疾走で此方へ向かってくる『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)を今度は指さし。 「そうそう、あんな感じの背格好の男が、私に全裸で抱き付いてきたのよ。貴方達の教育ってどうなってるの?」 「ああ、りゅーちゃんならやりかねないね」 「そうなのよ、もうあの背格好は忘れられないわ。あんなのがアークで最も有名な男だなんて」 「あれは、本人だけどね」 「そう。本人が来てるのね」 沈黙が刹那。 「……私、帰るわ」 くるりと背を向けた馨に、竜一は全力で手を振りながら、まるで真夏の河川を走る高校球児の如く爽やかさを振りまいて走ってきた。 「馨たん! 俺だよ俺俺! 俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺!!」 「俺俺詐欺は間に合ってるわよ! もうそのネタ古いのよぉ!」 「全く……俺のことが忘れられなくて飛龍を呼び出すなんて可愛いおねーさんだ!」 「やめて! そんな因縁お断りよぉ!!」 「さあさあ! 俺の服を斬って存分に見るといいよ! 間近で!」 「いやぁ! もうほぼ裸じゃない!!」 「だからアレを一緒に追い払おう! ね!」 ギャーギャー言い合いながら竜一に抑えられた馨を見て、夏栖斗は放っておいても大丈夫だと謎の確信をしたのであった。 対照的に、『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は馨へもう少し大人しくしてくれていても良かったんだがなと呟いた。彼女が手にしているのは通行止めの看板であり、一般人を避けるための工作。相変わらず周囲は混乱の渦なのだが、そこに加わるのは強結界。これで幾らか神秘の暴露を伏せげればいい。だがまだ仕事はある。 「馨」 「あ、杏樹ちゃんだ」 杏樹は馨へと話しかけた。できれば、できる限りの味方の手は欲しい。イヤホンで塞がれた耳をわざわざ開けて、馨は杏樹に指さしたのであった。 「あの時は災難だったわね、楽しかったかた私はどうでもいいけど!」 その言葉に、杏樹の眉がピクリと動いたが、冷静に。 「楽しんでる物を壊すのは気乗りしないから、協力してくれると嬉しい」 「協力はしないわ。ただ、倒したいモノが同じ。それでどう? フィクサードの手を借りた、だなんてリベリスタ的には問題でしょ? こっちもそうよ」 その一部始終によって『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)は馨から手を引いた。 「そうだね、お互いに利用し合うのがいいと思うよ」 説得が不穏であれば容赦無く手を下そうと思っていたレイチェルだが、どうやらその必要も無いようで。かといって用心は怠らない。今後、龍と戦う中で馨がいつ気が変わるか解らない。けして油断はしないとレイチェルは瞳を光らせておくのだ。 「これで本当に大丈夫なのか?」 『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は婦警の恰好で白タイツ、おいしそうです。 「うむ、木蓮よく似合うぞ」 最近吹っ切れてきている気がしなくもない『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)は、こくりと頷いた。木蓮と伊吹は直後、声と身体を駆使して一般人の誘導を行う。確かにそれで避難はされているが、まだ戦闘開始十秒では付近に一般人は多い。だからこそか、混乱で見逃していた。 頭を押さえて縮こまった子供が一人、龍の足下に。 (―――!!) 咄嗟に動けたのは夏栖斗一人だ。せめてこの場で一般人の血を流さぬよう、走り抜けては子供に覆い被さった。彼の上からは、龍の足は容赦無く彼を押し潰してくるのだ。 「お兄ちゃん?」 「……へへ」 されど、夏栖斗は苦しい声一つ出さずに笑顔を向けた。龍が何食わぬ顔でその場から歩を進めていき、安全と解れば。 「大丈夫、何とかするからここは逃げて!」 小さな後姿を見送った。瞬時、眩い光は漏れ出した。その光の中心に居るのはレイチェルで、乞うのは癒し、仲間への賛歌――。 ● ともあれ騒動は続く。 咆哮を垂れ流し、そしてやりたい放題の龍だが対応するものは勿論居るのだ。駆ける火球をその身に受け、燃えながらも立ち上がるのは青き少年。 「随分と暴れてるじゃねえか……そんじゃまぁ、喧嘩を始めるとしますかねぇ!」 『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は両の拳を勢いよく胸前で合わせ、それによって気合いを入れる。思い出すのは――― 『やった! ついに俺もハンター解禁だ!! 帰ってやりまくろーっと……おっと、電話か』 今から遥か数時間前の出来事。猛が通話の相手の声を聞けば『あの、猛さん……今日暇ですよね?』という有無を言わせぬ発言から始まり、迎えの車が来た瞬間嫌な予感しかしなかった。 握り締めたゲームの入っている袋。誘惑に打ち勝つのだ、少年。 「だからさっさと終わらせる!! リアルハンターはこれっきりぃ!!」 「猛……一体どうしたというのだ」 いつも以上に気合いが入っている猛の背を見送った『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)。彼はいつも通りの冷静さで『母子手張』秋月・仁身(BNE004092)とアイコンタクトを一つ。全ては相談での予定通りに、と。 「怒りの理由は何だ。話してみろ。状況次第では協力してやる」 優希の言葉は仁身によって彼等の言語となり送られた。同じく仁身も 「天の王たる龍が底の世にいかなる用で参られた!? 理由次第では僕達も微力なれどお手伝いします。それとも、理由も述べずに戦えぬ者を巻き込み、この地に災いを振り撒くが貴公等の流儀か!?」 力の入った言葉たちが紡がれた。されど、龍こそ聞く耳さえ持たずに返答は皆無。馨や竜一、猛たちの攻撃を受けながらでは如何にもこうにも上手くはいかないらしい。 「応えられよ!」 更に仁身の声に迫力が増した。結果は同じに終わってしまったのが、残念と言えばそうであろう。 「仕方が無い。仁身、もういいだろう。あとは力で抑えるしか無い」 「そうみたいですね……まあ、また弱った頃にでも話しかけてみる事にします」 「それがいい」 二人は再びアイコンタクトを重ねた後、各々の持ち場へと着いた。 「どうやら、説得は失敗のようですが如何しましょうね」 空を駆け、炎を避け、龍へと向かうは『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)。その通信に応えたのはレイチェルであった。 『もう……ごり押しで体力無くしていいかなって』 「ですね」 一般人の避難に十秒は少し足りなかった予感があれど、彼女は龍の空を裂いた爪を飛び越えて龍の背へと乗ったのだ。 『え、其処平気なの?』 「振り落されるまで、粘ってみます」 回復手であるレイチェルには、セラフィーナの動向の一部始終が見えていた。そのままセラフィーナは霊刀東雲の刃を背へと突き刺す、何度も何度も――。 特大の針で背中を刺されまくる痛みなんて想像したくもない事だが、今現在それを味わっている龍は突如あっちにこっちにと身をぶつけながら暴れ出したのであった。 「うわ!? これじゃ近寄れないって……今こそBボタンを使うとき!! ギャッ!」 振り回された尾が夏栖斗の後頭部に直撃して飛ばされ、今まさに向かおうとしていたレイチェルに受け止められて静止した。Bボタンとはなんの事か知らんな、あとで詳しく聞かせて貰おうか夏栖斗。 「大丈夫だった? レイチェル」 「いや、あたしの心配はいらないっていうか……むしろそっち。頭から血が出てるよ」 きちんと仕事は果たして、レイチェルを護った夏栖斗はそのまま彼女の浄化の鎧にて、元から硬い彼がもっと硬くなった。 その頃、仁身は神秘によって練り上げた精密さを行使して爆発を一つ起こした。それには馨も例外無く入っており、彼女の身体は吹き飛ばされて近くの壁に背を勢いよくぶつけた。 「キャキャキャ!! そうじゃなくっちゃね、だって敵同士だものね!!」 「此処で死ぬならそれでもいいかと」 ならばと馨も応戦に出た。龍を巻き込みつつ、放つのはブラッドエンドデッド。それには彼女の近接に居た竜一や猛や優希も巻き込まれて血潮を噴いたのであった。 「その刃!!」 優希は気付く―――『防御を貫通してきた』と。 ● 振り落されそうになろうとも、しがみつき。更には隙あらば刃を差し込むのは龍の背に位置できたからこそなのだろう。セラフィーナが龍の背にのって数十秒奮闘したお蔭もあってか、ついに龍はバランスを崩して倒れた。 「今です!!」 セラフィーナの声に一斉に攻勢に出るのは勿論の事なのだが。 「この光景……何処かで見たことあるわね。そう、私がさっきまでやっていたゲー……」 「やめろ! よせ!!」 体勢を崩した時こそチャンスの到来。ぼそっと呟いた言葉に竜一が焦った顔で馨の口を塞いだのだった。 その最中にも、龍へと群がるのは赤、青、黄色の三色。 「戦場を共にするのも久しぶりだな、猛。後れを取るなよ!」 「行くぜ、焔ァ! 間違えて、俺にぶち当てんじゃねえぞ!」 歩幅も同じに突き進むは、猛と優希であった。猛は右の拳の甲を、優希の左の拳の甲とがつんと合わせ、刹那、全く逆の方向へ駆けた。 「その脅威、抑え込んでくれる。その身に刻め……」 「ハッハァッ! 派手に決めるぜ」 猛は龍の右に回り込み、優希は龍の左に回り込んだのだ。そして二人はほぼ同時に、地面を蹴る。その蹴った場所のコンクリートが弾けていく程の強い力で、だ。 「「羅刹天誅殺!」」 二人の姿は傍目から見れば、『全く同じ行動』をするのだ。猛が右手を振りかぶれは優希も右手を振りかぶる―――暴力の連打は龍を挟み撃ちにしつつ、その装甲を削っていく。たまったもんじゃない龍も涎をまき散らして弱気な咆哮を一つ吐いた。 ――攻撃は続く。 硬い装甲が砕かれ、表皮が露わになったのを杏樹は見逃さない。優希と猛では力の関係上、優希の方が一歩早く装甲を砕き、其処に杏樹は遠距離からの陣を取った。 「此処からなら、外れるなんてヘマはしないさ」 魔銃バーニーのトリガーを引く事は容易い。それと同じ程度に、とても小さな的であろうが杏樹にとって『当てる』というのは容易い事。ソコ、と決めた場所に標準を合わせ、ブレないように息を止めた。そして放たれた魔弾は装甲と装甲の間へと、綺麗に吸い込まれていったのだ。同じようにして、猛が砕いた装甲には、木蓮の弾丸が注ぎ込まれたのであった。 杏樹と木蓮の手応えはあった、龍の憤りの咆哮が響けばビルの窓硝子が一斉に割れた程に―――その硝子の雨を綺麗に裂けて飛ぶセラフィーナ。まだ一片たりとも身体に傷を作っていない彼女は、器用そのものだ。 美技を繰り出す、それは光の飛沫の美麗なるもの。刃は軌跡を描いて、龍の首を抉るのであった。 「……!!」 「え!? 何!?」 夏栖斗と庇い手を交代した伊吹の両手がレイチェルを押した。刹那、伊吹の姿が見えなくなったと思えば、レイチェルの眼の前が完全に炎に包まれている。 「二体目ですか」 仁身は見上げれば、今しがた炎を吐いたと見える龍が降臨している最中だ。時間にしてみれば八十秒、既に経っていた。流石に、二体を相手にするのはリベリスタ十人もキツいであろう、まだ一体さえ倒せる気配が無いのだ。 しかし一体目の龍に攻撃し続け、討伐するか還すか以外の選択肢は無いのだ。精神力が既に危険な数値に陥っているレイチェルは、強く鍔を飲み込んだ。 倒せるのか? そんな心配事、知りませんと言わんばかりに声は響く。 「露草、待ってろ! お前の強化素材をゲットしてやる!」 『いらん』 「まあ、そう言うなって!」 一人で周囲の人たちには聞こえない声と会話をする竜一。彼は足を引きずる龍の前に立っていた。そのまま跳躍した彼は龍の顔よりも高い位置から、回転しつつ――― 「悪いが、少し大人しくしてもらう!」 無駄な殺生はすべきでは無い、と心で念を押しながら、剣を持つ腕には力が入る。勢いのままに重力と回転力を乗せて、彼の剣は龍の脳天へと落とされた。瞬間的に、龍は顎を地面へとぶつける。 「僕にも一枚噛ませてよ」 既に跳躍していたのは夏栖斗。空中で身を捩じらせて、竜一が退いた後の龍の脳天に斬風脚という名の踵落としを放った瞬間、龍の顎の下のコンクリートがひび割れて弾けたのであった。仁身はそこで今一度会話を試みた。この龍は確かに、あの楽しいゲームの中のものだろう。今までやっていたゲームのものが飛び出ているのはなんとも不思議な気分にかられたものの、仁身はだからこそ帰って欲しいと言葉を贈る。 そんな仁身ごと裂こうとしたのは馨であった。トドメを刺そうと刃を振りかぶった所――――で。 「それ以上は必要ありませんよ」 「おーっと、馨たん! そこまでだ」 セラフィーナと竜一の剣が、馨の首と前と後ろに突き付けられたのであった。数センチ引けば、馨の首が飛ぶであろう、位置で。 「……お人好しの、箱舟はアザーバイドも対象内、と?」 「ただ、もうこの龍は戦う必要が無いだけです」 「ほら! もう帰ってくれるってさ!」 三人の目の前で、傷つきボロボロになった龍は翼を広げ、風圧をひとつ残して飛んで消えていった―――。すかさず仁身と夏栖斗が、二体目の龍に話を振る。 「僕達は戦いを望んでいません、手助け出来る事ならば何でもします」 「多分君の旦那だとおもうけどおこしてるから、ちょっち落ち着かせてやって。あとホールがあるなら帰ってくれるかな! リアルハンターになりたくないし!」 返答は無く―――しかし、一体目の龍を追って羽ばたくその行動こそが、全ての答えとなっていただろう。 ● 「アークでも、これを片づけるのは骨が折れそうだわ……」 周囲は、壊滅状態と言っていいほど街並みが非現実。レイチェルのぼやきに、残りの九人も頷いた。 「……ったく、真昼間からいい迷惑だったぜ。流行してるからって、何でリアルでハンターせんと如何のだ」 「帰ってもハンターか」 「もちろんだ!!」 猛は武器を外しながら、それに優希は相槌を打つ中、どさくさに紛れて帰ろうとしていた馨をセラフィーナは、肩を掴んで止めたのだ。「なに」と嫌そうな顔で返してきた馨に、セラフィーナはムッと顔を顰めた。 「そのゲーム、渡してください」 「あのねぇ、これ普通のゲーム機。見れば解るでしょ、私はあんな龍呼んでないから。だから肩の手、どけて頂戴」 確かにそのゲーム機は神秘的影響は見えない。特に杏樹がまじまじと手に取って視たものの、何もなく、壊されずに馨の手へと戻した。 「ま、龍は還ったと思うけどさ、見失ったからDホールの在処解らないし。こっちでも探して見つけたら破壊しといてあげるから、今日の所は見逃しなさいよ」 馨はリベリスタへ無防備にも背を向け、手をひらひら振った。少しだけ振り返って、目線があった――。 「杏樹ちゃん、またね」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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