●馬鹿息子の倍返し 「クソ親父金がねえんだ。はやく寄越せよ」 久しぶりに会った息子の充が機嫌悪そうに怒声を浴びせる。 松永啓次郎は息子の充とその仲間に囲まれていた。港埠頭の誰もいない工場跡地に罵声が響き渡る。すでに啓次郎は不良たちに襲われていた。 息子の充は二十五歳を過ぎてもまだ働く意思を見せなかった。いつも不良仲間とつるんで馬鹿なことばかりをしていた。これまでに何度補導されても言うことをきかなかった。 啓次郎は充を何とか就職させようとしたがどこも長続きしなかった。職場の人間関係がうまくいかずにいつも揉め事を起こしてずっと家でダラダラした生活を送っていた。 いつの間にか充は悪い仲間とつるむようになる。とうとう家を飛び出してしまってここ数年まったく家に帰ってこなかった。 諦めていたある日、充からこの場所に呼び出されてやってきた。啓次郎は期待していた。充は改心して戻ってきてくれるのではないかと。すでに母親の桐絵も心配のあまり去年から病気で寝込んでしまっていた。充が帰ってくれば母さんも良くなるに違いない。 そう信じてやってきたはずだった。それなのに――。 「充、頼むから戻ってきてくれ。母さんもお前が出ていってから毎日のように悲しんでいるんだ。また元のように一緒に幸せな家族として暮らそう」 「うるせえ! 今さら綺麗ごとほざくんじゃねえ」 「悪かった。父さんにも責任がある。仕事ばかりで子供のころずっとお前のことを構ってやれなかった。だが信じてくれ。それはお前たちを養うためだったんだ」 啓次郎は真面目に働いてきたつもりだった。家庭を必死に守るためにやってきたことが結果として充を苦しめてしまった。今さら謝って許してくれるとは思っていない。 「今さら言い訳か。みっともねえ。それより早くしないと捕まっちまうんだ。早く逃げる必要があるんだがそれには金が要る」 「充――おまえもしかして?」 啓次郎は真っ青になった。息子の充が持っているガンブレードには血がべったりとついていた。もう充は手遅れだった。早くこの馬鹿息子を止めなくてはならない。 「それよりはやく金を出せ。でなきゃこのクソ親父、嬲り殺してやる!」 「やめろっ、充! 頼むからもうやめてくれ――」 啓次郎は懇願した。これ以上息子が罪を犯さないために。 ●子を想う親の気持ち 「港埠頭の工場跡地にフィクサードの不良集団が現れた。リーダーの松永充の父親をリンチして嬲り殺そうとしてるからはやく止めて救ってきてほしいの」 『Bell Liberty』伊藤蘭子(nBNE000271)が髪を掻きあげた。ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちに資料を見せながら説明する。事情を知ったリベリスタたちが顔をお互いにむけてなんともやるせないといった表情を見せる。 すでに充の手下によって犠牲になった一般人がいた。このままほっておけばさらなる被害が拡大してしまう恐れがある。 リーダーの充は悪意を持った手下にそそのかされていた。遊ぶ金がなくなった手下たちが充に強く迫ってついに父親を襲うことを決めたのである。 充自身は本当は父親を襲いたくなかった。だが、ここで弱音をみせてしまえば部下にしめしがつかない。充は心のどこかでまだ悩んでいた。 蘭子も困った顔をみせていたが気を取り直した。まだなんとかなるかもしれない。自分にできることは状況を詳しく教えることだと言葉に想いを込めた。 「だからといって凶悪なフィクサードは放っておくわけにはいかない。それに充たちが殺した一般人のE・アンデッドが回りにたむろしているから気をつけて。まだ、充に関しては啓次郎のことや母親に対して想う気持が多少残っているみたい。説得しつつ動揺を誘って戦いを有利に持ち込めれば言うことはないわ。父親と息子が仲違いしたまま親子の絆が断たれることになるかもしれない。そうならないようぜひ甘ったれた息子に説教してきてちょうだいね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月06日(日)22:58 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●アークの不良組 夜の港埠頭の工場跡地に不穏な空気が流れた。冷たい海風が吹きつけて足元に大きな水たまりが広がる。寂れたコンテナが積み上げられて視界がよく見通せない。 誰も助けにこない絶好の場所だ。バイクに乗った若者が親父を痛めつけている。周りには血の気の引いた死人たちの群れが廃墟の中を彷徨って警戒していた。 「カタギに手を掛けやがったか。そうかァ。金のためになァ。……生かしちゃおけねェなァ」 現れたのは『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)だった。両手を組んでポキポキと指を鳴らす。邪悪な目を光らせて仲間と共に乗り込んできた。雪駄が地面を叩く音がやけに周りに大きく響き渡る。近くにいた鼠が逃げ出していく。 「ああ、生かしておけねえ。全員残らず叩きつぶしてやるぜ」 コンテナを蹴飛ばして『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)が吠えた。首をゴキゴキ鳴らしながら甚之助の後に続く。鋭い眼光はすでに獲物を狙う野獣だ。 「でも、此方も現代の若者だよね。なんという対比……。まあ、マトモとは言いがたい面子だけどねぇ。特に、俺含めた男性陣」 不敵な笑みを『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)は浮かべる。廃墟の入り口正面の扉を蹴破って侵入する。得物を掲げてギラついた三人こそ危ない集団だった。 アークきっての不良集団の登場だ。真っ直ぐ正面から突っ込んできた三人に対して警戒したのか敵はまだ自ら進んで襲ってこようとはしない。 「バカなガキ共にお仕置きですよ。親からお金を巻き上げようとする屑は掃除が必要ですね♪」 『混沌を愛する戦場の支配者』波多野 のぞみ(BNE003834)も邪悪な表情を見せて後ろに続いた。愉しくて仕方がないといった様子で口元を歪める。 「親孝行しなきゃダメとは言わないけど、親不孝はダメだよ!」 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)が元気よく暗闇に叫んでみる。もちろん屈強な不良男性陣の後ろから顔だけだして。陽菜はなるべく穏便に済ませたいと思っていた。こちらにも指折りの不良がいるから大丈夫と腹を括る。 「なんていうか若いわ……年下の私が言えたものじゃないわね。彼が後悔せぬよう、これ以上道を誤らぬよう止めましょ」 『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)も陽菜に頷いた。 身体を白い光に包ませたその姿はまるで白い翼の天使のようだった。 「アークが攻めてきたわ。大人しくして出てきなさい」 天から降臨した大天使がアークの邪悪な不良達に守られながら姿を見せる。敵も容易に影潜みで近づくことができなかった。 (啓次郎さん、今助けに来たわ。危険に巻き込まれないように十分注意してて。なるべくそこから離れないように大人しくしててちょうだい) 小夜香はハイテレパスを用いて啓次郎の心の中に問いかけた。周りを息子たち不良集団に囲まれていた啓次郎が青ざめた表情でなんとか頷く。 「てめえら、俺達の喧嘩に首突っ込むな! ぶっ殺すぞ!」 充が近づいてきたリベリスタに吠える。バイクのエンジンを作動させて爆音を辺りに響かせる。ギザギザの刺を纏った殺人バイクが唸りをあげた。 その瞬間に周りを死人たちの群れが一斉に固めてくる。すでに己を見失ったサラリーマンやOL達がリベリスタ達に忍び寄った。 ●捨てられぬ見栄とプライド のぞみが低空飛行でコンテナの後ろに回り込んで充の仲間を探す。 「さて、こういう時敵は何処に潜むかって見当はつきますけど……」 陰に隠れた死人たちを見つけてのぞみは上から神秘の閃光弾を投擲して強烈に相手をひるませることに成功した。 「さあ。開幕の花火ですよ!」 のぞみは敵をなんとか抑えつける。 「かなりの数ですから、効率よく行きましょう」 さらに敵がひるんだ隙にオフェンサードクトリンで支援を行う。アークの誇る不良組は支援を受けて真っ直ぐに敵陣の中に斬り込んで行く。 「さぁてそこの阿呆共、大人しく捕まるか抵抗して死ぬか……どっちがいいよ?」 隆明が前に進んで拳を突きつけた。恐れを知らずに威嚇してくる隆明に充たちも眉間の皺を深くしてブチ切れた。 「上等だこの馬鹿野郎! てめえの脳味噌を叩き割ってやる」 「んじゃあ、楽しい荒事の時間だ! 一人も逃がさねぇぜぇ!?」 隆明が啖呵を切るのと同時に死人の群れが一斉にリベリスタたちに襲いかかる。正面から突っ込んだ隆明はすぐに死人に食いつかれた。 鋭い爪で身体中を引っ掻かれて身動きが取れなくなる。だが、隆明はなんとか腕を振りまわしてようやく相手の胸倉を掴んだ。 「おらぁあああああああっ!!」 敵の鳩尾に渾身の力で拳を叩き込みながら暴れた。次々に拳を繰り出しながら敵をなぎ倒す。血と汗と吐瀉物があたりに飛び散った。 続いて蹴りを入れて敵をふっ飛ばす。 「殴られたくない奴はこちらへどうぞ。切り裂いてあげますよ」 隆明の攻撃を交した死人に弐升は突っ込む。ギロチンの刃を振り回した。瞬間、敵の絶叫がこだまする。 「ぎゃああああ」 骨と肉が切り刻まれる嫌な音が響いた。 手足をみじん切りにされて逃げ惑う。コンテナの上に昇りつめた陽菜は死角からサジタリアスブレードを構えた。陽菜はできることならあまりE・アンデッドたちを殺したくはなかった。可哀想だがもう助けてはあげられない。自分にできることはただ一刻も早くその痛みの苦しみから逃れて貰うことだった。 陽菜は魔弾で瞬時に敵の左胸を見事に射抜いた。 口から血を吐き散らしながらサラリーマンたちは地面に倒れ込む。 堪らず充が物陰から隆明やリベリスタに銃をぶっ放した。 「よくも貴様ら喧嘩を吹っ掛けたなぁ! 皆殺しにしてやる」 周りを複数の敵に囲まれて隆明も防戦一方となった。殺人バイクを操りながら猛スピードでリベリスタを巻き込んで引き殺しにかかる。 雨霰に飛び交う銃弾に隆明が耐えきれず突っ伏す。小夜香が後ろからすぐに飛んで行って傷ついた隆明を肩に手をかけて助けた。 「大丈夫よ、しっかりして。祝福よあれ!」 大天使の吐息で隆明は再び気力を取り戻す。小夜香の天使の微笑みを間近で見た隆明は意気揚々と立ちあがって甚之助に叫んだ。 「後ろのコンテナだ! 奴のバイクが襲ってくる、気をつけろ」 「くだらねぇ、ガキの遊びは終わりにしてやるぜ」 甚之助は咥えた煙草を投げ捨てた。やってきた充の殺人バイクを止めにショットガンを突きつけて威嚇射撃する。隆明が指示した方向に迷いなく撃った。 充は撃たれないようにハンドルでなんとか交しにかかる。その前に陽菜が両手を広げて立ちはだかっていた。陽菜は真っ直ぐに銃を突きつける。 「どうでもいいけど充さんの武器アタシのと似てるね。形がちょっと違くて物理系と神秘系で真逆だけど」 「この小娘! いいだろう、どかないなら殺す」 充は逃げない陽菜にバイクでそのまま引き殺しにかかった。だが、陽菜は直前まで引きつけて気糸を放って充を縛り付ける。 「ぐはあああっ、くそっ!」 充はうめき声をあげた。ハンドル操作を誤ってコンテナの先に激突した。 「充、大丈夫か?」 すぐに充を援護しようと有川太が巨漢を露す。 のぞみが飛んで行って再び上空から閃光弾を投げつけた。有川はなんとか攻撃をブロックして傍に潜んでいた横島すみれを守る。 「さて、そちらの指揮官はあなたみたいですね。隠れているのはここら辺ですか?出てきてくださいな~♪」 すみれがキッときつい表情でのぞみを睨んだ。お返しにとジャッジメントレイを放ってのぞみを痛めつける。攻撃を食らったのぞみは墜落した。 堕ちてきたのぞみに有川はさらに鉄拳をかまして吹き飛ばす。コンテナに激突したところをふたたび少夜香が詰め寄って回復の息を施した。 (親を失うのって辛いわよ。気乗りしない状態で手にかけるのだとしたら、尚更の事だと思うわ。やりたくもない事をやって後悔するだけなら、そんな見栄やプライド捨てちゃいなさい) 小夜香は充に言い放った。ぐったりしたのぞみを介抱しながら絶対にこれ以上仲間を傷つけることは許さないという態度を見せた。 ●渾身のドロップキック 「あー、なんというかな。ヌルい、ヌルすぎるよなぁ。徒党組んでやってる事が弱者を嬲ることとチンケな脅しとか。ぶっちゃけ、俺らの年代がゆとりとか言われるのってこういうのが原因なんですかねぇ」 弐升が死人の群れを掃除し終えたところで喧嘩を売った。すでにのぞみの奮闘によって現れたフィクサードの不良集団が勢揃いしている。 「その言葉あとで後悔させてやるぜ!」 有川が甚之助に拳を突きつけて迫ってきた。恐れを知らずに向かってくる敵に甚之助は銃を連射してそれ以上近寄らせない。 横島が傷ついた有川に支援の回復を施そうと駆けよってくる。陰に潜みながら迫ってくる横島に対して陽菜は闇の世界で周りを覆う。 突然視界がゼロになってしまった横島は目標物を失って混乱した。 「そうはさせねぇ、邪魔な女は引っ込んでろ!」 甚之助は有川を隆明達に任せた。自分は暗視を用いて横島の方に立ち向かう。 遠距離から腕を伸ばしてショットガンで照準を定めた。 充が当たり構わず銃をぶっ放す。敵の放火を掻い潜りながら甚之助は叫んだ。 着物の裾を引っ張って銃を剥き出しにした。銃口の先に敵の身体が一杯に入り込んだ所に引き金を思いっきり引く。弾丸は横島の胸を撃ち抜いた。 「すみれ、大丈夫かこの野郎!」 充が目を充血させてガンブレードで突進してくる。ギロチンで弐升は充の刃をすんでの所で食い止めた。弐升と充は互いに激しくせめぎ合う。 「生きながらにして、体の内側から全身を焼かれたことは? 再起不能になりかねない程に精神をへし折られたことは? ……ないよねぇ」 弐升は一進一退を繰り広げながら充に問いかけた。あまりの力強さに充もなかなかそれ以上押し込むことができないでいた。 「ちっ、この小賢しいやつめ」 充は一旦身を引いてコンテナの後ろに下がった。 (ほんの少し、手を抜いて負けるだけでいい。このままじゃ誰か死んじゃう……なるべく皆助けたいの。大丈夫、私らに負けても恥にもならないわ。むしろ生き残った方が株が上がるんじゃないかしら) 小夜香が優しく充に問いかける。すでに充の彼女の横島すみれがぐったりして動かなくなっていた。このままでは更に犠牲が増えてしまう。 降伏を促されて充は歯ぎしりした。本当は親父を殺したくなかった。仲間に促されてしまってもう後戻りできなくなっていた。 充はすでにタイミングを見失っていた。そこへ小夜香が心の中に問いかけてきて動揺した。まだ今なら間に合うかもしれないとも思う。 「くそっ……俺はどうしたら――」 「充、どうしたんだ? さっきから顔色が悪いぞ」 「なんでもない。俺は最後まで戦い抜く!」 島田の呼びかけに充は答えた。まるで自分に言い聞かせるように立ち上がる。すでにバイクは壊れてしまって使えない。ガンブレードを突きつける。 「やれるもんならやってみろ……行くぞ!」 充は島田に敵の情報を教えて貰って一緒に斬りかかった。同じく武器を手にした陽菜が充を抑えて攻撃を薙ぎ払う。 「お金がほしいならちゃんと働いて稼ぎなよ。アタシも足りない分はパパからお小遣い貰ってるけど、脅してまでほしいなんて考えたことも無いよ!」 「やかましい! お前に何が分かるんだ」 「充さん以外の3人もパパとママは大事にしないとダメだよ! こんなはずじゃなかったって、きっと悲しんでるよ」 陽菜は他の三人に対しても必死に呼びかけた。動揺した島田と有川がタッグになってリベリスタの方へと襲いかかってくる。 島田が一瞬の間合いを詰めて弐升を切り刻んだ。地面に突っ伏した。だが、男と男の真剣勝負に弐升は負けるわけにはいかない。 「私も多少は回復できるんですよ♪」 のぞみが飛んで行って何とか弐升を起き上がらせた。 「殺していいのは殺される云々だっけ。至極最もだ!」 弐升はギロチンで島田の身体ごとぶった斬る。剣を弾かれて身体を切り刻まれた島田はすでに満足に動けなくなった。 「殴り殺されてぇ奴から掛かってきな! 来いよ! ビビってんのか!?」 隆明が陽菜に攻撃はさせまいと必死にブロックした。有川に鉄拳を叩きつけられながらも隆明は踏ん張って立ち続ける。 「うおおおおおおっらあああっ!!」 隆明はカウンターパンチを顎に叩きこんだ。サウンドバックにされていた隆明の突然の反撃に不意を食らって倒れ込む。顎を割われてその場に突っ伏す。 「めんどくせえ、三人一遍まとめてかかってこいよ」 甚之助が挑発して充たちを誘った。充血した眼で一斉にかかってくる充たちを十分に引きつけて甚之助は飛び上がった。 充達が茫然と立ち竦んだところに甚之助が襲いかかる。身体を回転させながら勢いよく上から蹴りを繰り出した。 足を思いっきり引いた渾身のドロップキック! 顔面にめり込んで盛大に骨が砕け散る音がした。続いて他の二人にも振り向きざまに回し蹴りを鳩尾にめり込ませた。 「あああああああああああっ!!」 絶叫しながら次々に三人は地に伏せて動かなくなった。 ●親父の背中 「ああ、俺はまだ生きてたのか――」 充は小夜香に助け起こされて目を開けた。確か自分は死んだはすではなかったかと思ったがどういうわけかこうして生きている。 「よかったわ無事で本当に」 小夜香はすぐに充を回復させていた。のぞみも必死に介抱していた。充にドロップキックを噛ました甚之助もわざと手ではなく足を抜いた。まだ充にはやってもらうことがあった。 「親父――俺は」 すぐ傍で充の父親である啓次郎が覗き込んでいた。金をだまし取ろうとして襲いかかったが啓次郎は息子の事を心配していた。 何も言わず啓次郎は充の頬を殴りつける。その目には涙が溢れていた。普段はまったく泣くこともない父親が自分のことを想って泣いている。 充はとたんに申し訳ない気持ちになった。いつの間にか啓次郎の顔にはたくさんの皺ができていた。髪も薄くなってしまっている。どれほど自分は父親に迷惑をかけてしまったのだろうと心の中で嘆いた。 「充、帰るぞ。お母さんが家で待っている」 啓次郎はそれだけ言ってすぐに背を向けた。啓次郎が涙を見せたのは一瞬だった。 すでにいつもの厳格な親父に戻っている。充はただ頷いた。 「あんた、助けてくれてありがとな」 充は帰り際に小夜香にお礼を言った。小夜顔は笑顔で親子を送り出す。 「他の奴らは全員伸びちまってやがる。まったく情けねえ野郎だ。カタギのために体張らねェなら、人殺しに生きてる価値なんざねェな」 甚之助は懐から煙草を取り出して一服した。いつにもまして煙が不味い。だが、こうでもしなければシノギは務まらない。 「全くですね。こちらとて伊達にリベリスタやってるわけじゃないですから」 「ああ、その通りだ。正義の味方もつらいところだぜ」 弐升と隆明も甚之助の台詞に賛同した。 「不良の間違いでしょアンタたちは」 陽菜が苦笑して答える。それにしても啓次郎と充が仲直りをしてよかった。陽菜は帰って行く親子をいつまでも見送っていた。 馬鹿息子を引っ張って帰る親父の背中が何だか頼もしいと思いながら。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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