●響く声 朝靄の掛かる早朝の山裾に、笑い声が響いていた。 ひっひっひ、げらげらげら。 きゃっきゃっ、ひゃひゃひゃひゃ。 くすくす、うふふ。 品の良い声も悪い声も、男の声も女の声も、年寄りの声も赤ん坊のような声も。 響くそれらの全てが全て、笑い声だった。 何か大層陽気な催しでもあるのかと思いきや、場所は道らしい道もなければ近隣に村の一つがある訳でもない。 文字通り言葉通りに、ただの山の中だ。 陽気に過ぎた笑い声は妙な薬の影響下にでもあるかのようだが、そもそも仮に声の響く山裾へと足を運んでも、そこには誰も居ないのだ。 ただただ響く、笑い声。 山彦、木霊、いずれにせよ笑い声だけがそこら中に広がり反響している。 夜明け間際の山の中。 笑い声は、響き続ける。 ●ワライタケ、ワラウタケ 「ワライタケ、って聞いたことある?」 集うリベリスタ達の顔を見回して、そこに浮かんだ表情を見て取った『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が軽く頷く。 「食べたら笑い続けになる、なんて言われるキノコだけど。……今回は、それと少し似てる」 無表情を保ったまま頷いたイヴだったが、何らかの感情を含んで左右で色の異なる双眸が微かに揺れた。 僅かに言い淀むような間を挟んだものの、結局すぐに言葉を続ける。 「違うのは、笑ってるのが当のキノコってことだけ」 微妙な沈黙がブリーフィングルームに流れた。 居心地の悪さを誤魔化すようにモニターを操作したイヴが、画面にとある映像を映し出す。 赤、青、緑。 斑点、縞々、ツートンカラー。 大凡食べ物とは思えない色合いをしたキノコの映像が、益々ブリーフィングルームの空気を微妙なものに変える。 「見た目は普通のキノコ――だと、言えないこともないと思う」 イヴの口調はいつになく鈍い。 「見た通り、色や模様だけだとどっちかというと毒キノコだけど、食べる分には問題ないらしいから」 そこだけは明確に断言して、白いフォーチュナは深く頷く。 「特別不味くはないけど美味しくもないってぼやいてたけど……」 誰が実食したのかは告げないままで独り言のように呟いたものの、すぐに我に返った様子でイヴが言葉を続けた。 「エリューション・ビースト、フェーズは1。自力で逃げる訳じゃないし凄くか弱い」 まさに見た目から推し量れるそのままといった情報を提示しながら、更に続ける。 「特に有効な攻撃手段もないみたいだから、討伐自体は簡単に済むと思う。ちょっと数が多いのが難点だけど」 だから、頑張って。 言葉に迷いあぐねたような短い沈黙の末にそう告げて、イヴは改めて小さく頷いたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月05日(土)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「やったー! 秋の味覚だー!」 所々で紅葉を迎えている秋の山中に、『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の声が響く。 「秋の山は宝の山ね」 「美味しいご飯を食べる為に頑張るぞー☆」 『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)と『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の声も陽気だ。 「ワラウタケ……こんな稀有な食材に出逢えるなんて!」 笑い声と派手な見た目が原因で、枯葉の下でも隠れられていない茸の前にしゃがみ込んだ『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が顔を綻ばせる。 「リベリスタならでは……ですね。どう料理しましょうか……わくわくです♪」 「楽しく笑ってるワラウタケ様を、まおも笑って楽しくお残しせずに食べたいと思いました」 『もそもぞ』荒苦那・まお(BNE003202)が同じように発見した悶え笑う茸を見詰めて頷く横で、『赤錆皓姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が上機嫌に声を弾ませる。 「ひゃっはー、キノコ狩りだ! ガチな意味で狩りだけど!」 笑い声が響く中、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が微笑む。 「なにはともあれ、笑顔でいれるということはしあわせの一つなのだろうな」 「食べられても……」 「きのこの話ではないぞ!?」 派手な茸を見詰めたまおが呟きかけたが、言い終わる前に雷音に訂正されていた。 「落雷が多かった年はきのこの当たり年だって言うけどホントだねぇ」 やはり茸の前にしゃがみ込んだ『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が、無造作に杖の先で茸を突付く。 「おぉう、きのこたち本当に笑っておらっしゃる。しかも何かモードな柄だし」 突付かれて激しく身を捩りながら一層大声で笑い出した茸を見詰めたとらだったが、 「ウキョキョキョ☆ ヒャッハー」 「どうしたの?」 「何か対抗心が芽生えて。腹筋鍛えられそう」 不意に奇声染みた笑い声を上げたとらに終が声をかける。此方は人のいない方向の茸を狙って、グラスフォッグと慈悲を有した魔力のナイフで、着々と生きたままに茸を収穫中だった。 「ともあれ収穫、と」 参考になる色使いとかないかな、とやはり無造作に茸を突付くとらとは対照的に、やや警戒して茸と向き合うのが舞姫だ。 「あんまし形を崩さないよう収穫したいけど、ひっこぬいたら、天に召されてくれるかしら?」 掴むべきか小脇差を使うべきか悩みながら、笑い続けの茸を見下ろす。 「……わ、笑い声が断末魔の叫びになったりしないよね? マンドラゴラ的な意味で」 「断末魔……、……これで大丈夫なのです」 「まおさん!? それ、私に抜けって言ってる!?」 沈黙したまおが、徐に自分の耳を手で塞ぐことでゴーサインを出す。 そんな光景の一方で。 「なにこれ変なキノコー。ひゃっはははは」 収穫した茸が高笑いしながら身を捩る様子に、ウーニャが釣られたように笑う。 そのまま暴れる、というより身悶える茸を鷲掴みにすると、躊躇なく笠に歯を立てた。 「踊り食い!?」 雷音の声にも動じずに、笠の一部を噛み切られても笑い転げる茸を咀嚼してウーニャは首を傾げる。 「なんか……ビミョーな味……? 料理したら美味しくなるのかなあ?」 「生で食うもんじゃねえんだろ」 「あ、カレー粉かけてみる?」 フツが苦笑する横で荷物を探り始めたウーニャが、間もなく目当ての容器を取り出した。 「カレー粉かければ何でも食べられるって傭兵の人が言ってた!」 「それくらいなら最初から料理にしませんか……?」 「……それもそうよね」 やんわりと苦笑したシエルに頷いたウーニャの手の中で、齧られた茸だけが未だに激しく身を捩っている。 エリューションとはいえ、たかが茸。 「アヒャヒャヒャヒャ♪」 まだ笑声を上げる茸をものともせずに、派手な笠を外に向け、中央が高く盛り上がるようにしてとらが籠にエリューションを盛り付けていく。 「とらさん、何してるんですか?」 「いあ、心置きなく笑えるように」 茸の笠の柄と角度を細かく調整しながらとらが答える。 「最期まで笑って生きてやろうという見上げたココロイキなんかもしれないし……知らんけど」 そんなとらの横で、武器を手にした舞姫が周囲を眺めていた。 「野生の黒毛和牛とか、そのへんにいないかしら?」 「黒毛和牛は野生化してないと思うよ?」 「むー……しょうがないから、スーパーのタイムセールでハントしてきたオージービーフで我慢です」 不満げに頷いた頷いた舞姫だったが、不意に口を開く。 「そいえば、地面に生えたままのタケノコをそのまんま焼いて食べるってゆーのがあるそうです」 「タケノコ?」 視線を巡らせると、すぐ近くにまだ息のある茸が、けたたましく笑いながら笠を振り回している。 その様子をじっと見ていた舞姫が、周囲の落ち葉を茸の回りに集める。焚き火の要領で火を付けると、程好く乾燥した木の葉が一気に燃え上がった。――その、中央で。 『ぎゃははははははは!!!』 「ひいいい、火だるまになっても笑ってるぅぅぅううう!?」 苦しいのかなんなのか、一層激しく身を捩りながら大声で笑い始めた茸に、舞姫が咄嗟に武器を向ける。 「ごごごご、ごめんなさい、可及的速やかにとどめを刺しますです!」 怯えた舞姫の焦る声と絶叫めいたけたたましい笑い声とが、秋の山に木霊していた。 ● しっかり止めを刺された茸もいれば、生きたまま収穫された茸もいる。エリューションを収穫するというのも妙な話だったが、何しろ既に食材カテゴリに分類済みだった。 「そんなに笑って……くすぐったいでのですか?」 手の中で身を捩り笠を振り回しての抵抗をものともせずに、シエルが茸の汚れを丁寧に濡らしたナプキンで落としていく。 「そういえば、まお様がバター焼きを所望されておられましたっけ……」 思い出した様子で呟くと、暫し手の中の茸を見詰めてから、シエルが徐にバターに手を伸ばした。まおが購ってきたスーパーで一番高かったという代物だ。 一方その隣では、雷音の持ち寄った鍋の中でとろりとしたカレーが完成しつつあった。 生きたまま鍋に放り込まれた茸の笑い声も、煮込まれていく内に徐々に声量を落としていく。 とはいえ熱に強いのか息が長いのか、鍋からは思い出したようにヒヒヒヒ、きゃっきゃっと微かな笑声が弾けるものだから不気味極まりない。 「笑う鍋をかきまわす……妖しい儀式みたい」 甘口のカレールウを溶かし入れ、鍋を掻き混ぜながらウーニャが呟く。 「そっちはどう――何してるの?」 「バター焼きです」 ウーニャの問いにきっぱりと断言したシエルの手でフライパンに並べられた数本の茸が、バターを塗りたくられた姿でゲラゲラと笑いながら身を捩っている。 そんな奇怪な光景を前に動じた様子もなく、10メートルほど離れたシエルは、徐に杖を掲げた。 「裁きの光よ……世の理外れし茸さん達を美味しくバター焼きに!」 神気閃光――本来であれば戦場で華々しく活躍を得るところの閃光が空を駆り、フライパンへと降り注ぐ。 ワラウタケの神気閃光バター焼き-魔王風-――茸の旨みを神気閃光の熱によりぎゅっと中に閉じ込めた一品。 そんなキャッチコピーでも流れそうな荒業だった。 「魔王風とか何だか西洋料理っぽいですよね……さて出来栄えは」 ドキドキしながら茸に近付いたシエルが見たのは、 「あら、こんがりと良いお色で。……ピクピクしていますけれど」 色好くじゅわっとバターの香りも豊かに焼き上がった茸の、不殺により昇天するに出来ない切なさを全身で訴える、ピクピク震えるエリューションの姿だった。最早笑い声すら引き攣ったようにしか聞こえない。 「美味しそうでしょう?」 「…………」 ピクンピクンと痙攣するこんがり茸のエリューションを見せ付けられたウーニャが咄嗟に目を逸らす。 「私、魚釣ってくるから後はよろしくね!」 「はい、いってらっしゃいませ」 バター焼きの出来映えに満足げなシエルにほぼ完成した鍋を任せて、ウーニャはいそいそと川に向かった。 数分後。 「うーにゃん働きたくないでござる」 川に糸を垂らしながら、ウーニャがぽつりとぼやいた。 「でも美味しいもの食べる為なら労働するよ。糸垂らして座ってるだけなら楽よね~……」 まったりと過ぎていく時間に思わずうとうととしながら、水面に――というより、水面にぷかりと浮いた巨大な電球、のようなものに視線を滑らせる。 「今日のオレはチョウチンアンコウだ!」 曰く、それが電球、改めフツの言だった。川の上に頭だけを出して発光している為、日中の川辺が実に神々しい。 「こうやって光ってたら、魚が寄ってきたりするかもしれないし!」 「さすが徳高い光線は最強なのだわ」 賞賛しているのかなんなのか、そもそも効果があるのかどうかも分からなかったが、それでも針には魚が掛かる。 「ふ、秋の鮎はちょろいわ」 次々と鮎を釣り上げながら、ウーニャが実に満足げに笑った。 対してフツの方も、水中から魔槍深緋で器用に魚を突いていく。 波の揺れる川面に、銀色に照り返る鱗と光る御坊。実に眩しい光景だった。 ● 川に幸があれば、山にもまた幸がある。 調理場から程近い場所で翼を広げた雷音が地を蹴り、ふわりと舞い上がった。 「まおはそっちをおねがいするぞ」 茸の収穫――もといエリューション討伐が一段落付き、目的は既に茸狩りから食材集めへと移っている。野菜や飲み物は終や雷音が持ち寄っていたものの、折角の実り多い秋の山だ。 「君たちの実りを受けたいんだ、ボク達にも食べれるものはどこにあるかな?」 果実に手を伸ばし、植物共感を介して尋ねる雷音に、答えたのは鳥の囀りだ。 「ほう、鍋のあとの口直しに良さそうだな」 囀りを動物会話で聞き取った雷音が、まおの許へと舞い降りた。 「この近くに、オニグルミとコケモモに、ガンコウランがあるらしいんだ」 「ほわ、朱鷺島様とっても物知りだとまおは思いました」 「ボクではないぞ。小鳥達が教えてくれたんだ」 雷音が頭上の枝に止まった小鳥を見上げる。 「まおはアケビを見付けてきました」 「山の動物たちにとっても大切な食料源だ。取りすぎには注意だが、色んな果物があるみたいだな」 イーグルアイで探し当てた木の実を差し出してみせるまおに、雷音が微笑む。 「はい、朱鷺島様と一緒に採りに行きたいとまおは思いました」 「じゃあ――」 雷音が口を開きかけたところで、 「いててて! 頭に落ちたヨ!」 魔槍深緋を握ったフツが頭を擦っていた。足下には毬栗が幾つも転がっている。 「こういう時はちょっちだけ髪がほしくなるな」 「大丈夫なのか!?」 心配そうに声をかける雷音に片手を上げて応じながら、今度は落下地点を避けて槍の柄で樹上の栗を落とした。 「にしても魚採りの時といい、深緋大活躍だな。マジ感謝してるぜ」 槍の長さを生かしてころころと栗を落としていきながら、フツが愛用の武器に話しかける。 「槍っつーか棒として使ってる感じもするが、たまには辛抱しておくれ。後で、お前さんに似合うモミジを拾ってきてやるからサ」 「木の上の栗はまだ熟して無いよ~☆ 下に落ちてる栗は熟してるからそっち拾った方がいいよ☆」 「……、早く言えよ!」 「え、何が?」 武器を労っている最中に投げられた声に、フツが魔槍深緋から顔を上げる。 きょとんとした終は拾い集めた栗を水に浸し、または切込みを入れて調理の下準備の最中だ。 「よし! わたしもマイエンジェル・シエルさんのお手伝いを――」 「いいよ、舞りゅん……。無理しなくていいから……」 「ど、どういう意味よ!」 いざ颯爽と腕を撫した舞姫が、始める前から終に止められて途端に声を荒げる。 「どうしたのだ?」 木の実集めに精を出していた雷音が、両腕に沢山の果実を抱えながら首を捻った。 「こんなに沢山……御苦労さまでした」 雷音から果実を受け取ったシエルが微笑む。 同じようにアケビや栗を腕に抱いたまおが、不意に何かに気付いたように顔を上げた。 「……はっ、これはカレーの匂いです」 「はい、もうすぐ出来上がりです」 秋空の下、野外調理は次第に完成へと近付いていた。 ● 並べられたのは、野外とは思えない贅沢な料理の数々だ。 茸のカレーに茸入りのすき焼き、火にかけられた飯盒から甘い香りが漂っている。 更にその横では魔王風と名付けられたバター焼きが未だピクピクと跳ねていた。 串に刺された鮎は塩とカレー粉を塗した二種類がこんがりと焼かれてレモンを添えられ、アケビや苔桃、デザート代わりの果物と共に香ばしく焼かれた焼き栗も盛られていた。 「そろそろ栗ごはん炊ける頃かな~??」 飯盒の具合を確かめた終が、蓋を開けて粒の立つ米を潰さないようにふっくらと混ぜる。 「おこげ良い感じ☆ 美味しそう! 栗ごはん欲しい子よっといで~☆」 炊き立ての栗ご飯を盛り付ける横で、シエルが舞姫達と約束したすき焼きを突付いていた。 「やはり鍋は良きものですね……」 「うん、ワラウタケも、みんなで楽しくごはんを食べたら、ちゃんと美味しいよ! 見た目はちょっちエキセントリックだけど……」 「ウムウム、アレだ、料理が上手いからだな。あ、お代わり!」 早くも一杯目を空にした茶碗を終に突き出しながら、フツが舞姫の言葉に頷く。 「わ、シエル様の作ったバター焼きが良い匂いです。魔王風は、おどり食いという意味ですか?」 マスクを外したまおが早速バター焼きに手を伸ばしつつ首を傾げると、茸の笑い声をものともせずに、顎を目一杯広げて齧り付いた。 高級なバターの香りに茸の香りが交じり合うのを楽しんでいた筈が、ふと目を瞬かせた。 「あれ、喉からまおじゃない声が出てきてま……HAHAHAHAHAHAHA」 「どうしたのだ!?」 喋り終えるより先に突如として高笑いを響かせたまおに、雷音が慌てて声をかける。 けれど肝心のまおの方は、自分の体内から聞こえた茸の大笑いにきゃっきゃと笑っていた。 「ほわわ、怖いのに面白いです」 「へぇ、面白そう」 二人の会話を聞いていた終が、怖いもの見たさでバター焼きを口にする。 「ふふぃのあぁでゎあっえう!」 口の中で笑ってる、と言いたかった筈が、飲み込む前の茸の声量に殆ど掻き消されていた。 「何かまだおなかの中で笑い声が聞こえる気が……」 夢中で飲み込んだものの、心なしかまだ腹の底から響いている気がして、終は思わず呟いていた。 「笑い声――そうだ! マジエンジェルがワライタケの残酷焼きをご希望との事……活きのいいワライタケを網にのせて炭火焼き☆」 シエルの希望を思い出した終が手早く網を用意すると、生きたままで残していたお陰で未だに笑い続けの茸を乗せる。 「この笑い声が食欲をそそる☆ わけ無いね……」 それでも茸を焼き上げる終の隣。成人組はウーニャの持ち寄った日本酒で、いつの間にか酒盛りの最中だった。 「シエルたんは酒豪と聞いたの。さ、おひとつどーぞ」 「お手柔らかに……」 シエルがウーニャから嬉しげに杯を受ける。穏やかな態度だが、注がれた杯はすぐに空になる。 「ササ、どうぞどうぞ! 返杯も受け付けるヨ」 「フツは未成年だぞ」 酒盛りに目敏く気付いたフツがさっと徳利を取り上げてウーニャの杯に注いだものの、すぐ横から忠告を挟んだ雷音が湯気の立つ茶の湯飲みをフツの前に置く。 「未成年はこっちなのだ」 「えー」 不満げなフツを他所に、唐突に声を上げたのは舞姫だ。 「みんな、気をつけて! ピンクのインド魔女は、額のビンディから怪光線をだして、なんでもカレーに変えてしまうのよ!」 すき焼きを守る素振りの舞姫に、終が首を捻る。 「舞姫ちゃん、お酒飲んだ?」 「飲んでません、未成年です!」 そんな遣り取りの間に、成人組の酒の酌み交わすペースは速い。 「ね、彼とはどうなの? 聞かせてよー」 すっかり酒が入って出来上がったウーニャが、ずずいっとシエルに迫る。 酔わせて口を割らせる作戦が、すっかり絡み酒になっていた。 「彼との関係ですか? ……そ、それは秘密ですっ」 顔を真っ赤にしたシエルが、誤魔化すように更に杯を空ける。 「楽しい思い出になるのは、こいつらが笑ってたからかな。いくら無抵抗な植物でも泣いてたら、やっぱ気分落ち込むし」 すっかりエリューションから料理に変身した茸を摘み上げて、とらが呟く。 「植物は心が無いように思うけど、実はわかんないだけで気候がいい日は、本当はこいつらみたいに皆笑ってるのかな」 「そうかもしれないのだ。ボクたちが知らないだけで」 とらの呟きを聞き取って、雷音がにこやかに頷いた。 ただそこに息づいて、生きているというそれだけで笑っていられる存在があるのなら、きっとこの世界にも意味があるのだろう。 そんな思いで賑やかな仲間達を見回したとらが、表情を和らげると摘んでいた茸を口に運ぶ。 「同じ時間を笑って共有出来るのも、思えばすごく幸運な事なんだろうな」 その言葉に、雷音は答えない。答える代わりに微笑を零して、静かに茶を啜った。 「そうだ、記念写真撮ろう。記念写真!」 食事が終盤に差し掛かった頃、徐にフツが提案する。 飛び切りの笑顔で、そう、 「茸たちよりも楽しく!」 シャッターの音は朗らかに鳴った。 ――笑い声の響く山の一幕を、陽気に、賑やかに切り取って。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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