●『最後の微笑みをどうか』 不運な児童相談所員がその屋敷を訪ねたのは、ある暑い日の夕方のことだった。 「まさか、こんなところに住んでるとも思えないけど、さ……」 廃屋と思われていた屋敷に人の気配がする。 それも、子供が泣き叫んで許しを請うような、そんな声。 「あちぃ……こんなクソ暑いのに怪談かっての」 噂は広まり、彼の上司の耳にまで届いた。万一誰かが住んでいて、万一子供が虐待されているのなら大問題。当然のように、下っ端の彼が行かされることになった。 ちょっとした不運。ただそれだけのこと。 「こんばんは……っと、開いてるな」 屋敷の扉はキィ、と音を立てて開いた。油くらい差しておけよ、と矛盾した悪態を吐きながら、彼は土足で上がりこむ。床も家具も何もかも、埃塗れだった。 「ほらやっぱり、人なんて住んでるわけねぇよ――!?」 肩を竦めて踵を返そうとした彼は、ひゅう、と息を吸って凍りつく。振り返った部屋の隅に、無言で肩を振るわせる少年の姿があったのだ。 「な、なぁ、君、ここに住んでるのかい?」 流石に子供を前にしては職責を忘れることなどできず、彼は少年に駆け寄った。だが、体育座りをし、顔を伏せた少年は、肩を掴んでも動こうとしない。 「……ひっく……」 突然聞こえた啜り泣く声。背後に気配を感じて振り返った所員は、反対側の角にうずくまる少女を見た。いや、二人だけではない。四方の角に、一人ずつ。 「ど、どうしたんだ君たち? お母さんは何処だい?」 「……お母さんは……」 少女が口を開く。その時、彼の背中をぞわぞわとした感覚が走り抜けた。『何か』が『来る』、そんなプリミティブな震え。 「私の大切な子供達に、何をしているのかしら……?」 ぶん、と音がした。咄嗟に転がって避ける。見えたのは、床板に食い込んだ、中華包丁。 「う、うわぁぁぁ!」 必死で逃げようとする青年。だが、その動きが止まる。這って逃げる彼の腰を抱え込む、少年の姿。 「お、お母さんがこうしろって言うから……!」 そして振り下ろされる、圧倒的な暴力。最期の瞬間に彼が眼にしたのは、空ろに落ち窪んだ少年の眼窩だった。 ●『万華鏡』 「結局、やることは簡単。お化け退治」 さらりと言ってのける『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、しかし簡単という言葉をどれほどの思いで吐いたろうか。例えフェーズ1のエリューション相手でも、最悪まで運が悪ければリベリスタですら死ぬ。 ましてや、もっと強力なエリューションなら。 「フェーズ2のエリューション・フォース。それと、フェーズ1が四体。役どころは、母親と子供達。二男二女かな」 今日もイヴは淡々と話す。『敵』がどんな思いを持った何者かも、『味方』にどれほどの覚悟が必要かも、全て飲み込んで。 「この五体が、ある町の外れにある廃屋敷に現れる」 そして、不運にも踏み込んだ若者が、無残に頭を砕かれる。彼女が視たのは、そんな未来だった。 「母親は大きな包丁を持っているけど、子供はほとんど得物を持っていない。だから、単なる殴り合い、斬り合いなら、タフみたいだけど、そんなに苦労しなさそう」 けれど、と続けるイヴ。逆説の接続詞が、芽生えかけた慢心を遮る。 「なんだか変。だって、『子供達』は怯えてた。『母親』と一緒に襲ってたのに、『母親』に怯えてた」 それ以上は彼女にすら視えない。視えないけれど――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月可染 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月23日(土)23:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 悲鳴のように蝶番を軋ませて、両開きの扉が開いた。 「邪魔させてもらうよ」 跳ねた髪を一つ掻いて、『キュアリオスティ』己己己己・那洲歌(BNE002692)が埃だらけのホールを覗き込んだ。周囲を見回す色違いの瞳は、その血に流れる獣の因子を感じさせない程に気だるげで。 「いや、俺が先に行く」 那洲歌に触れないように注意しながら――薄汚れた白衣に身を包んでいても、彼女は紛れもなくやわらかな『女性』なのだ――結界を張っていた『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が割り込んで入る。 「行かなきゃいけないんだ……柄じゃないけどな」 酷く不機嫌な態度を取り続けていた優希。その彼が見せた不自然なほどの積極性は、何人かの仲間達に引っかかりを感じさせた。『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)もまた、その一人。 「――熱は、感じられないようですけれど」 だが口に出しては何も言わず、代わりに見て取った情報を伝達する。何も居ないということはあり得ない。万華鏡の見せた未来は、そこまであやふやではない。それは、言った本人が一番よく判っている。 「……どうぞ、後ろに」 だから、大和は自分の役目を果たすべく、『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)を背にした。ゲルトの眼下に揺れる黒のポニーテール。彼は苦く唇を歪め――思い直して表情を消す。 (守ることこそが俺の仕事、だがな) 魁偉なる肉体。しかし今回彼に課せられたのは、最後方に守られる支援任務だ。その役目、あだや疎かにはすまい。しかし――。 (あのアザーバイドといい、ままならぬものだ) 哀れな敵だ。戦いたいわけではなかった。だが盾を自認する彼だから、残念な思いは隠せない。 どやどやと八人のリベリスタが侵入する。舞い上がる埃。 「けほっ……」 『魔眼』門真 螢衣(BNE001036)が口元を押さえ、咳き込んだその時。 突然、空気が冷えた。 「――!」 見回せば、ホールの四隅にうずくまる小柄な人影。先程は確かに居なかった。なるほど、怪談とはよく言ったものだ。 「エリューションだと判っているので怖くはないですよ、ええ」 螢衣も一端の研究者。この程度のことで怯えるような神経はしていない。だが、そう口にしつつも、彼女は薄ら寒いものを感じていた。 (強い情念、でしょうか) この子達が『成り果てて』しまった理由。それは、今となってはどうにもならないことだけれど――。 「子供を引き連れた母親、ねぇ」 ぼそりと呟いた『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)。一同が彼の向く方を見れば、ぼんやりとした輪郭が、色を持ち、肉を持ち、形を成す。そして、四人の子供達に浮かぶ、恐れと安堵とをない交ぜにした、泣き出しそうな表情。 「愛しているが故に傷つける、か。俺にはわからん心境ではあるが」 涼の独白は、しかし皮肉な色を含まない。肩を竦め、得物をぶん、と振るう。握る手には、一昔前に流行った指貫のグローブ。 「俺は勘弁してほしいなぁ、恋人は絶賛募集中だけど」 それは彼一流の諧謔ではあったが、無論『母親』には通じない。 「私の大切な子供達に、近づかないで……!」 腹の底に響く声。どこまで本気なのか、怖い話は苦手なのだがな、と那洲歌が漏らす。 「ふん、包丁か。つまらない武器だ」 鼻で笑う『機鋼剣士』神嗚・九狼(BNE002667)。だがその目は笑っていない。冷徹な視線が、半ば受肉した思念体をねめつける。 「洗練された戦技を持っているわけでもないようだな」 ならば畏るるに足らず、と結論付け、彼は機械の身体を動かし、手にした大太刀を構える。リベリスタとして目覚めたのはここ最近のことでも、そこに至るまでの長い修練が、彼に冷静な視点を与えていた。 「やるせないデスネ。ああ、やるせないやるせナイ」 その思考を切り裂く、いっそ耳障りなほどけたたましい嘆きの声。――いや、滲み出るのはむしろ嘲りか。 「悲劇はどこにでも転がっているものデス。ほら、そこにもここにもあそこニモ」 口元に薄い笑いを貼り付けた『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)の手には、二振りの肉切り包丁。ああ、けれど、と続ける彼女の伽藍堂の瞳が、『死』すべき定めの親子を映す。 「とびっきりの不幸というのは、とびっきりの幸せから生まれるものデスネ?」 何故だか酷く嬉しげに聞こえたその言葉を、仲間達は聞かない振りで通した。 ● (――これが最後の機会だろう) 舌打ちを知らず漏らし、優希が走った。緋色の瞳が映すのは、愚かなる母親の姿、そして純粋な怒り。 (家族の歪みを正すことができるのは……) 母親へと殴りかかる。手前の次男を大きく避けたのは、その能力を嫌った、ただそれだけだ。自分が弟であり兄であったことを、つかの間思い出しはしたけれど。 「子供を傷つける位なら!」 燃え盛る炎の拳が、大包丁を掻い潜って母親を打つ。その脇を抜け、勢い良く投じられる一枚のカード。 「今度こそは、と思ったのかもしれませんが……」 大和が放った道化の魔力は母親を包み、その破滅を予言する。既に破滅した成れの果てに、それはあまりにも皮肉な示唆ではあったが――。 「その盲執、ここで終わらせます」 和の装束を纏う少女は、柔和な瞳を細め、戦場を見据える。 次々と母親に突き刺さるリベリスタ達の『敵意』。 「ほら、頑張って良いところを見せなさい」 「う……うわぁ!」 母親が視線を向けた瞬間、隅で震えていた幼い少年の背が『爆ぜた』。いや、それは引っ掻き傷から噴き出した、赤い雫。 「お、お母さんが……お母さんに言われたから……!」 「……! それが母君の愛情か」 いっそ申し訳なさそうな顔をして、目に付いた那洲歌へとしがみつく次男。回す手はただ動きを縛るだけでなく、彼女から生気を奪っていく。 (……何かがおかしい、どころではないですね) 素早く印を組み、呪言を唱えながら横目で子供達の様子を観察する螢衣。フォーチュナの少女はあえて濁したのかとも思うほど、それは既に異常な光景だった。 「母が子を傷つけ、子が母に怯え……」 それでも、バットを持った年長の少年は、母親を守るべくリベリスタ達の前に割り込むのだ。 「それが、親子の絆なのですか」 吐き出した言葉と共に発動する陰陽の結界。学徒たる彼女は冷静さを失わない。それでも、冷静であろうとした精神がささくれ立っていく――。 「オ――オオオオッ!」 そんな思考を断ち切る、低い声。ゲルトが咆哮と同時に放った神気の光が、動きを封じられていた那洲歌を解き放つ。寡黙な印象の強い彼の吼え声。やっとのことで子供を振り払った彼女の目に、意外な色が浮かぶ。 「俺が支える。安心して戦え」 それは、聴く者に安心感を与える、低く重い声。 経験の浅い彼女にもゲルトの意図は伝わったから、この一瞬を有効に活かすべく、頷いて投げナイフを放った。 「母君なりの愛の形なのだろうが、見ていると辛くて仕方ないのだよ」 長女が螢衣の印によって縛られ、長男も攻勢を防ぐには及ばない。苛立つ母親の声が裏返り、耳を打つ金切り声になる。 「ああ、もうっ! どうしてお母さんを手伝えないの!」 ひっ、と引きつった顔を見せたのは、最も幼い次女。傷が癒え血色が良くなっていく母親と対照的に、少女の顔は青ざめていく。 「あ、あ……」 外に捨てないで。知らないところに捨てないで、と。 必死の形相の幼女が見も世もなく泣き叫ぶ声は、九狼の精神を鷲掴む。 (ふん、近接戦闘は不得手のようだな) 男児よりは組し易かろう、と分析する彼は、しかし本人すら気付かないうちに心囚われていた。強化筋肉の能力を最大限に引き出して迫る先は、倒してはいけない相手。しかし、光触媒のシナプスすら揺るがす怒りに囚われた九狼は止まらない。止まれない。 「エリューション如き、止まっているのと同じことだ」 一閃、そして二の太刀。合金の腕が振るう大太刀が、少女を切り裂き、掻き消して。 「どこ。どこに行ったの、あの子は!」 次の瞬間、荒れ狂う衝撃が渦巻いた。 不可視のエネルギーは、強烈なインパクトを伴ってリベリスタ達を打ちのめす――我が子をも道連れに。 「自分の腹を痛めて産んだ子供、か。何だろうな」 小さく舌打ち。子供達を指の先まで独占するための、歪んだ愛情。支配と呼ばれるそれは、むしろ嫉妬心にすら近いと涼には思える。 「俺にはわからないけれども、な」 その口ぶりとは裏腹に苦い顔を見せ、彼は跳んだ。九狼とは違う生身の身体、しかし涼の実戦経験は、強化筋肉すら凌駕する速度を叩き出す。 「俺も愛されれば判るのかね!」 鉄の棒を叩きつける。強い衝撃。母親の動きが止まる。 「貴女は子供を愛しているはずだ。なのに何故、傷つけてしまうんだ」 再びゲルトが放った光が、九狼に冷徹な思考を蘇らせる。だが、彼の力は仲間を救っても、彼の言葉は母親に届かない。――救えない。 「はぁいお母様、お待たせデスヨ」 だから行方は躊躇しなかった。空ろな瞳が射抜く敵へと空ろな台詞を浴びせかける。後になれば、その得物で自分の手首を落としたくなるのは判ってはいるけれど――。 「世界も家族も苦しめるアナタが苦しむ時がきたのデス」 今は滑らかに回る舌が、死の託宣を紡ぎ出す。ぶん、と振るった肉切り包丁が、母親の包丁で止められた。けれどそれはあからさまなフェイク。 「さあ、いい声で鳴くデスヨ」 唸りをあげるもう一本の得物が、肉を割く感覚を行方に伝えた。 ● 「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……! もう、ぶたないで……!」 身の自由を取り戻したにも関わらず、母親から何度目かの収奪を受けた長女はひたすらに許しを請うばかり。トラジェディの伴奏曲は、言霊とも呼ぶべき呪詛をもってリベリスタ達に降りかかる。 「……どうして……!」 そして、絶唱は吐き出すような声で幕を閉じる。自壊。耐え切れなかった彼女の精神は、受肉した身体を繋ぎとめることすらできず、揺らいで消えていった。 そしてまた、憤怒の嵐が吹き荒れる。 (どうして、か) それは優希が聞きたい言葉だったろう。この親子にもう一度微笑みを取り戻すには、どうすればよかったのか。否、全ては遅すぎた。それは判っている――全て失った自分と同じように。 それでも。 「生まれたときには、笑顔を向けていたんだろう……!」 距離を取るという考えはなかった。さあ、俺を見ろ。炎纏う一撃が、母親を追い込んでいく。 「もう貴女達が怖がる必要はない。傷つく必要はないんだ」 那洲歌の気糸があっけなく防がれた。それを見てゲルトが生み出した清浄なる輝きが、全てではないにせよ、長女の遺した怨嗟を塗り替える。 大和に守られていたこともあり、ここに至るまで、彼は一度も手にした刃を振るってはいない。しかし彼は守るための戦いを続けていた。仲間だけではなく、この哀れな家族の心をも。 「だから、還れ。安らぎの場所へ」 信仰すら超え、ゲルトは祈りを胸に、穏やかに呼びかける。それは血生臭い戦場ではむしろ滑稽な努力であったが――誰が彼を笑おうか。 「独り善がりの愛情なんて獣にも劣り、放任よりも悪質なのデス」 行方すら、彼に対して茶々を入れることはしなかった。だが彼女の吐く毒は何処までも辛辣だ。独り善がりの愛情。自分を抑えきれぬ母親を、行方は言葉の刃で的確に刺す。 「いい加減に終わらせるデスヨ?」 またも振るわれる得物。しかし今回叩きつけたのは、包丁の『平』。エネルギーを乗せた力任せの一撃が、鈍器と化した刃から繰り出される。 「こ……の……!」 包丁には包丁を。母親の振り下ろした刃を避けられず、行方の肩に血の華が咲く。だが、呪符が貼り付いたかと思うと、淡い光がその傷を包み込んだ。 「いずれにせよ、看過は出来ませんが……」 ほぅ、と溜息をつく螢衣。高いピンヒール、隙のないスーツ、揃えた前髪。凛とした姿勢を彼女は忘れていないから、必要以上に心情を重ねはしない。それでも、心を凍らせているわけではない。 「エリューションだと、分かっているのです――」 その視界に、母親へと大きく踏み込む涼の姿が映る。 「なんで子供が、そんな目で母親を見てるんだよ……」 彼の表情は険しかった。 精緻な技を繰り出す精神力も限界に近い。子を省みない母親には苛立ちを覚え、それでも母親を守ろうとする長男の姿は、目障りなほどに哀れで。 「おかしいだろ、なんでそんな目で見られて平気なんだよ!」 大きく振りかぶる。気力を絞って放つ最後の一撃が、真芯で母親を捉える。 「い……嫌……」 それが決め手だった。未だ残る二人の少年に言葉をかけることもなく、ましてや末期の笑みなど見せることもなく――あっけなく母親は消えていった。 そして、後には二人の子供が残された。 「出来れば貴方達を傷付けたくはありません。……どうか己の意志で」 大和が零した、優しい真情。けれど運命は彼女の想い程には優しくはなかった。哀しげな顔をしながらも、少年達は構えを崩さない。 (今もなお、『愛情』に囚われるのですか――) 表情が泣き出しそうに歪んだのは一瞬。せめて苦しまないようにと、出し惜しみなく道化のカードを飛ばす。それを受けてなお、掴みかかろうとする次男。 「武器を持った相手に密着するときは、確実に相手の武器を制御しなければならない」 その機先を制し、九狼が銀閃を描く。疲労した身体では、技巧も何もなく得物を振るうしか術がなかったが、それで十分だった。 ざくり、胸を断ち切られた少年が、仰向けに倒れて還っていく。 「組付いたところを斬られるからだ」 冷静な指摘を続ける九狼。ぶれない冷徹さは、むしろこの場では救いかもしれない、と大和は目を伏せる。 「もう、いいだろう……?」 優希はそう言わずにはいられない。彼は気がついていた。長男のバットに、何故最初から血がこびりついていたのか。なぜ、親子の全てが命を落とすことになったのか。 全ては推測。真実は、もう誰にもわからないけれど――。 「大丈夫だ。すぐにお前を優しい場所に連れて行ってやる」 ゲルトが、遅れて優希が、最後に残った長男に次々と攻撃を放つ。過剰なまでの最大攻撃。それは慈悲と言って良かった。そして、那洲歌もまた。 「『お母さんが』は、もう言えないぞ。この先は、君達自身が決めた道だ」 彼女は覚悟を固めていた。全力をもって送り届けよう、と。彼女の意志を張り巡らせたオーラの糸が、彼の胸を刺し貫く。 「……私たちには不憫に見えても、君たちにとってはどうだったのだろうかね」 「――だって、お母さんは嬉しそうに笑ってたんだ。あの時」 予期しない返答。息を飲む那洲歌の前で、最後のエリューション・フォースは静かに姿を消した。 記憶の中に優しい微笑があったから、辛くとも彼らは母を守った。 記憶の中に優しい微笑があったから、辛くとも彼らは家族だった。 ああ、ならばせめて祈ろう。 彼らの道行きに、どうか、最後の微笑みの記憶があるように。 そして哀れな母親が、もう一度微笑むことができるように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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