●少女スリット・ストライク 「お店を畳むなんてあり得ないアル!」 回転台つきの円形テーブルをどかんと叩いて金髪少女は叫び立てた。 衝撃で割り箸立てがちょっぴり跳ね、カウンター向こうの厨房で新聞を読んでいたおじさんがビクッと肩を浮かせた。丸いサングラスをつけた小太りなおじさんで、中国のシェフがよく来ている感じの割烹着を着ている。まあお察しの通り中国人である。 新聞へ更に顔を埋めて出来るだけ関わりたくないですよって空気を出したおじさんとは対照的に、金髪少女はお団子にした髪の先を浮かせんばかりに怒り出した。 「お店無くなったらおじさん商売できなくなっちゃうネ! ワタシのバイト先もなくなるヨ!」 「まあまあ、落ち着いてくださいよ」 一方テーブルを挟んだ反対側。 やや恰幅のいい男が椅子に座ってくつろいでいた。 上等なスーツに身を包み、高そうな煙草を吸っている。唇が分厚い。 彼の左右は黒いスーツを着たサングラスの男たちががっちりと固めており、少女に近づくことすら躊躇わせていた。 男は目の前に出されたラーメンの中に煙草を放り込むと、新聞紙と仲良くなっているおじさんのほうを見た。 「うちの系列に中華料理店がありましてね。店長さんにはそこで働いて貰うことになります。再就職先もばっちりですよ」 「嘘アル! あのお店で働いたひと、みんな身体おかしくして倒れたって聞いてるネ!」 「いいがかりはよしてください。だいたい、このお店だって高い額で買い取ると言っているでしょう」 男はそこで『ああ』と言って少女の顔を見た。 次にぴったりと身体のラインが出たチャイナ服へと視線を下ろし、そのままキツくスリットの入った腰へと舐めるように見つめる。 「あなたのバイト先も用意してますよ。きっとここの倍以上は稼げる」 愉快なジョークだったのだろうか? 周りの男たちが含み笑いをし始めた。 「大体、もうここでの営業は限界でしょう。お客さんも一人だって来ない」 「それは……アナタたちが……!」 店の入り口をキッとにらむ少女。店先にはガラの悪いチンピラたちが立っており、入ろうとした客を脅して遠ざけていた。 お店は壊滅寸前。 おじさんの将来も真っ黒。 「こうなれば……」 少女はグッと奥歯を噛むと、凄まじい勢いで蹴りを繰り出した。 たったそれだけでテーブルが真っ二つに裂け、ラーメンがどんぶりごと真っ二つになり、その先にいた男すら――と思われたその時。 「弱い」 男は自らに迫った真空刃を素手で掴み取ると、まるでそういう物理現象であるかのようにエネルギーごと破裂させてしまった。 顔をサッと青くする少女。だが次の瞬間には彼女の両腕が黒服たちに掴まれ、全身をがっちりと固定される。 店長のおじさんが慌てて身を乗り出すが、男がピンと指弾いて飛ばした十字の光が額に直撃。へなへなとその場に崩れ落ちてしまった。 「おじさん!」 「大丈夫ですよ、殺しては居ません。大事な従業員候補ですからね。当然あなたもです……が」 固定された少女の腹につま先蹴りを叩き込む。 目を剥いて呻く少女。男は彼女の前髪を掴んで無理矢理上向かせた。 直後に顔面へ拳を叩き込む。ゴツい指輪が並んでいたせいか、少女の鼻血と歯が地面に散った。 「ラーメンの汁で服がよごれました。その分と言うことで、ご勘弁ください」 男は腰に手を当てると、かちゃかちゃとベルトを外していく。 少女は硬く歯を食いしばり、早く時間が過ぎることを祈った。それ以外、やりようがなかったのだ。 ● 「スリットか……スリット……そうか……よし……」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の話を要約すると、フィクサードに地上げされそうになっているお店を救うことが、今回の任務になるという。 「障害となるのは黒岩利夫というフィクサード地上げ屋のグループだ。細かい情報は別の資料で見て貰うとして、肝心なのは場所と状況だよな」 伸暁はモニターに図面のようなものと二枚の写真を表示させた。 「これが中華料理屋『娘々飯店』の見取り図だ。見ての通りテーブル席四つとカウンター席をおける程度の広さしかない。まあ狭いな。そして既に多少痛めつけられているリベリスタ少女がひとり。気絶させられている一般人の店長がひとりだ。フィクサードをこらしめることができるなら手段は問わん。色々な手段を相談してみてくれ。この後どうするか、と言うところもな」 この後、というのは戦闘を終え、『邪魔者をかたづけた後』という意味だ。 地上げ屋の嫌がらせによって経営が絶望的になったお店をどうにかするもよし、いっそより悪い方向に転がり落としてしまうもよしだ。 「ま、リベリスタならそう悪いことにもならんだろう。頼んだぜ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月08日(火)22:40 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
●危機、娘々飯店! 鼻から垂れた血が唇を伝い、一粒だけ滴った。 両腕に力を込めるが男たちはまるで鋼の彫像のようにぴくりとも動きやしない。 少女スリット・ストライクができたのは、黒岩とかいう地上げ屋がベルトを外すのを見ることくらいなものだ。 このまま家畜に成り下がるか、舌を噛んで死ぬか。 彼女がどちらかを選ぼうとしたそんな時のことだ。 「させるかっ、ハイスピードキィィイイイイイイック!」 急速に開かれた扉からきりもみ回転した『まごころ宅急便』安西 郷(BNE002360)が飛び込んできた。 ピッタリとそろった踵が腰までベルトを下ろしていた黒岩のすぐ脇を通り過ぎ、スリットを拘束していた男のひとりへ激突した。 複雑にバウンドしながら店の奥へと転がっていく男。 郷はムーンサルト反転から着地すると、鋭い回し蹴りをもう一人の男へと繰り出した。 側頭部にめり込む靴。男は血を吐いてよろめいた。 慌ててベルトを上げる黒岩。 「なんだ、君は!?」 「お前こそなんだ、インテリヤクザならぬインテリフィクサードかぁ!? 部屋に籠もって下半身のリーガルブレードに聖骸闘衣してろってんだ!」 黒岩からスリットを庇うように立つ郷。 「無茶なことしたなスリットちゃん。でもそういうのは嫌いじゃ無いぜ」 そんな彼を黒岩と男たちが取り囲む。 「相手は一人だ、ぶちのめせ! 外の馬鹿は何をやってる、呼んでこい!」 「馬鹿というのはコイツのことか?」 扉をくぐって入ってくる『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)。彼は黒岩の部下らしき男を引きずって歩いていた。 そのまま投げてよこす。 「あと一人じゃあない。六人だ。席、空いてるか?」 「お前らどこの――」 「アークよ。みえたから来たの。説明いらないわよね?」 義弘の後ろから半歩だけ姿を見せる『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)。 体格差のせいで彼女が巨大な盾を翳しているようにも見えた。 黒岩は露骨に舌打ちすると、部下たちへと呼びかけた。 「徹底的にツブせ! 死体が出ても構わん!」 ラグナロクの加護が部下たちへと行き渡り、彼らはスタンロッドや青竜刀などを構えて一斉に飛びかかる……が、全ての攻撃はある一箇所へと集まった。 いつのまにか店内のど真ん中に立ち、直立不動でじっと前だけを見る『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)へ、である。 それこそ前後左右から一斉に殴りつけられた状態だが、快は一度深呼吸をしただけでろくな反応を示さなかった。 「酒屋と飲食店は一心同体。手伝わせてもらうよ、スリットさん」 次に首をコキリと鳴らすと、アンナの方へと振り返る。 「付与効果が厄介なんだ。ジャッジメントレイで引きはがしてもらえるかな」 「任せて」 巨大な正十二面体を頭上に浮かせるアンナ。 そこから放たれた強烈な閃光が黒岩を含む男たちを照り焼きにした。 だが彼らとて雑魚ではない。身体に纏ったラグナロクのオーラが光を収束させて反射させてくる。 光がアンナへと集中するなか、腕を交差させた義弘が間に入り、全ての光を肩代わりした。 肉体にざくざくと無数の穴があくが、それらはすぐに塞がれた。 義弘の背後に身を隠していたシェラザード・ミストール(BNE004427)がフィアキィを飛ばして回復を図ってくれたのだ。 現実的な例えをするなら真っ赤に加熱した五寸釘を大量に突き刺し、それを一斉に引き抜いて代わりの肉を詰め込まれたようなものなのだが、義弘は眉一つ動かしただけで済ませた。 「祭さん、お痛みありませんか?」 「平気だ。それより……」 ちらりと店の外を見やる。 すると、このタイミングを待っていたかのように『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)が店内へ飛び込んできた。 カウンターテーブルに乗っかり、スライディングしながら銃を連射する。 「それじゃ恒例、キャッシュからのパニッシュ!」 彼の弾幕によって次々と倒れる男たち。 黒岩はと言うと自分に当たる弾だけ素手で掴み取り、ぺらぺらのチップ状にして放り捨てていた。 「アークがこんな些事にまで噛みついてくるとは意外ですね。てっきり『巨悪と戦う正義の味方さま』かと思ってましたよ」 どういう意味ですかとアンナへ振り向くシェラザード。アンナは仏頂面で『皮肉っていの』と答えた。 一歩前へ出る義弘。 「これ以上お前らが店に関わるようなら俺たち(アーク)が磨り潰す。分かるな?」 「バロックナイツ三連覇の大御所がですか。世界との喧嘩中にうちらの面倒をみる余裕があるなんて、優秀なフットワークですね。是非勉強したい」 黒岩もまた踏みだし、義弘と額をがつんとぶつけ合った。 腕を振り上げる義弘。 同じく腕を振り上げる黒岩。 互いの拳が顔面へと炸裂するが、吹き飛んだのは義弘だけだった。 後ろのアンナを押し倒す勢いで店の外へと転がり出る。 「祭さん!」 「大丈夫です、こちらの回復は任せてください!」 彼に駆け寄った『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・丸田(BNE002558)が素早く回復をはかるなか、快は輝く腕でもって黒岩を殴り飛ばした。 強烈なパワーでもって殴り飛ばされた黒岩は、テーブルと椅子をいくつか倒し壁へと激突した。 「クソ、分が悪い。引き上げだ」 そこは黒岩。すぐに起き上がると、部下たちに念のためのラグナロクを付与し、彼らと共に一目散に遁走したのだった。 「ふう、これで一旦は安心か」 外で部下たちを相手していた『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)は、逃げ去る黒岩の背を見て息を吐いた。 「次は店のほうだな。まず――掃除だ」 ●復活、娘々飯店! 観音開きの木窓を開き、マスクをした風斗が勢いよく顔を出した。 「油汚れは徹底的に落とせ! 天井についたホコリも入念にだ! いいな!?」 「任せろ。こう見えてきれい好きだ。机や食器の細かいクリーニングは俺がやろう」 はたきを右手に、脚立を左肩に持った義弘はグッと親指を立てて店内フロアへと下りていく。 「あのー、私は……」 同じくはたきを手に立っていたリサリサに、風斗は鋭いまなざしで頷いた。 「外壁の掃除を手伝ってくれ。年季が入ってる分くたびれてる。ペンキを塗り直すだけでもかなり違う筈だ」 「わかりました。多少飛んでも?」 「バレない程度ならよしだ。新田さんたちが結界を張ってくれているが油断はするなよ。それとスリット・ストライク!」 はたきを指揮棒のように降って振り向く風斗。 「はいアル」 「そのチャイナドレスはなんだ! 破廉恥極まりない。なんとかし――」 「私も、着てるんだけど……」 スリットのすぐ横でアンナが仏頂面のまま腕組みしていた。 体格の近い金髪女性が二人並んでチャイナドレス(多分スリットの私物だ)を着ていたのでうっかり混同しかけた風斗だが、盛大に咳払いすることで誤魔化した。 「お前たちはビラ配りの準備をしてくれ」 「わかったヨ。掲示板使えるか、町長さんに聞いてみるアル」 アンナと二人して階段を下りていくスリット。 「それにしてもあの白黒の人、なんであんなに張り切ってるネ?」 「出番がここしかないから、必死だったんでしょ」 「あのぉ……ワタシうっかり戦闘に殆どアレを割いてしまったんですがこれは……」 「気にしない、気にしない。過ぎたことは忘れましょ」 いわゆるリベリスタパワーで店内をまるごとクリーニングした後は、内装に手を加えるばんである。 「中華料理店? とは別方向の……そう、ミスマッチを狙った内装でどうでしょうか」 シェラザードは古木のように偽装加工した板を継ぎ合わせるようにして壁に貼り付け、ところどころに草原の絵画やなにかを飾っていった。 昨今のラーメン屋などに見られる内装様式のひとつで、中華っぽさをあえて捨てて全体的な落ち着きを意識した作りになっている。 その一方で快は店のおじさんと今後について話し合っていた。 「俺たちは善行の押し売りはしないつもりなんだ。重要なのはおじさんが店を続けたいのか、そうでないのか。後者なら、できる限り例の連中に邪魔されないようにしていこうと思う。今内装を作り替えているのも、客入りを多くすることでソーシャルディフェンスを高める意味でのことなんだ」 「はあ……」 おじさんは難しいことはよく分からないという顔で小さく頷くと、『続けられるなら続けたいです』といったようなことを述べた。そもそも日本語に達者という様子ではない。 快は頷いて、ファイルケースからポップにデザインされたメニュー表を取り出して見せた。 「俺が提案するのは『夜間営業の居酒屋化』だね。個人経営の定食屋でも取り入れている方式で、それなりに苦労はかかるが収入は確実に上がるんだ。具体的に言えば、メニューをそのまま少量にしたものを加えて、ビールやハイボールの他に杏酒や金木犀酒といった中国系のアルコールを入れるようにする。特にここは中華料理屋だから『ツマミ』に事欠かないし、簡単に客単価を上げることができる。どうかな?」 元々沢山作って沢山食わすのが主流の中華料理に小皿メニューという感覚は身近ではなかったのか、おじさんにとってはかなり新鮮なアイデアだったようだ。 当然アルコールを扱うようになれば酔っ払い客が増えるので、スリット・ストライクのような色気押しの子が苦労することにはなるが、少なくとも地上げ屋の嫌がらせよりはマシだろう。 「アルコールに関しては、新田酒店の看板にかけて信頼できる倉を紹介するよ。客が安定するまではフロアにも入る。そこにいるシェラザードさんも、個人的にアルバイトをして勉強したいと言っていたしね」 小さく振り返ると、シェラザードがこちらを見て手を振った。 おじさんは薄くなった頭を撫でて、何から何まで助かりますと頭をさげたのだった。 どれだけ品質をあげようとも、誰の目にもつかなければそれはゼロと同じである。 店舗経営もまた同様。郷は人通りの多い駅前広場に車を止めると、チラシの束を抱えて降り立った。 ビラには『出前はじめました』と言ったようなフレーズに加え、店の簡単な地図や外装写真をいれた最低限のものが描かれている。 「さあ、ビラ配りだ! 気合い入れていこうスリットちゃん!」 「任せるアル! 『ビラ配りの極み』を見せてやるネ!」 うりゃーと言いながら道行く人の手に手のひらサイズのビラを握らせて回るスリット。 俺たちも負けてられんなと風斗やリサリサたちもビラ配りをしはじめた。 そんな中、翔護は車の後部座席でスマホをぽちぽちやっていた。 窓から覗き込む風斗とスリット。 「何やってるアル」 「ネットサクラだよスリットちゃん。人目に付く掲示板とかで草はすの」 「草……?」 「朝方、『月末までに千食出ないと店が潰れます』ってスレ立ててもらったじゃん。あれを煽ってるの。見てほら、釣り乙とか写真うpとか宇宙人みたいな単語が並んでるでしょ?」 スマホの画面を目で追うスリット。 見るに、翔護は『ラーメンより唐揚げがうまい』だの『内装が自棄』だのと一見中傷のような書き込みを行なっていたが、流れで見ると『それは本当か』だの『スネークする』だの『パンツ脱いだけど?』だのと興味本位の書き込みが一定数集まったタイミングで書き込んでいるようだった。 かなり分かりづらい表現になるが、生木に火をつけるために加熱のタイミングで風を送るのと同じ要領である。この逆で一人で勝手に暴走し続ける火消しテクニックもあるが、それは別の話である。 「そんなのでお客くるとは思えないネ」 「客が来るのは一時だけだよ。話題性は生ものだから、すぐに腐っちゃうしね。でも人が群がることで店のクオリティアップが大多数に伝わる。話題が過ぎ去った後に残るのは『店が良くなってる』っていう評判だけになるって寸法だね。あ、そろそろかな……『白黒頭がスリット娘のおっぱいもんでる』っと」 「おいやめろ」 髪をひっぱる風斗。 と、その一方。 『地上げに失敗した店が派手に動いている』と察知したのか、柄の悪い連中が出張り始めてきた。 こういうときの常套手段は注目が集まった所を見計らって悪評をばらまくことだ。古典的なところで言えばラーメンに虫を入れたりすることで、最近の例で言えばバイトスパイを送り込んで『ラーメン風呂に浸かってみた』などとソーシャルサービスに投稿することなのだが……。 「そこで何をしてる」 影から様子をうかがっていた男の背後に、義弘が立っていた。 片手にビラを抱え、もう片方の手には別の男がぶら下がっている。 どうやら首を絞めて気絶させられたらしく、泡を吹いて白目を剥いていた。 「ひっ、ひい!」 「言ったはずだ。手を出すなら『俺たち』が潰す。場合によっては、俺一人でもお前たちをつぶしにかかるつもりだぞ」 そう言うと、恐怖のあまり気を失った男を引きずって路地裏へと捨てに行った。 人が集まった時に何をするかで商売の質が変わる。 新装開店した娘々飯店がとったのは、店員を増やしてとにかく回すことだった。 店の手伝いに入ったシェラザードや快たちが回転率を上げるかたわら、翔護たちが外連味の強い檄辛メニューをおもむろに写真に撮り始めるといった様子だ。 地上げ屋の嫌がらせを何度か目の当たりにしていた人たちも、アンナが『今は追い払えているんです』と言ってやることで一応の安心を得ているようだった。 実際裏路地で伸びた男たちが何度か目撃されているので、この話は信憑性をもって広がった。同時に『地上げ屋のメンツを盛大に潰す』という事態にも発展するので今後が恐い所だが、バイトに残ったシェラザードたちを警報器代わりに回していれば予防になるだろう。 ……そんなこんなで、一日目が終わった朝の出来事である。 「スリットさん。気になっていたことがあるんだけど、聞いてもいいかな」 「はいナ?」 ゴミ袋を捨てて戻ってきたスリットに、快が食器を干しながら問いかけた。 「なんで、この店に残りたいと思ったの? 言ってはなんだけど、その若さならバイト先くらいいくらでも見つかったろうに」 「そんなのトーゼン……ンー……よく考えたらコレって理由ないネ」 唇に指を当てて、スリットは天井を見た。 首を傾げるシェラザード。 「それって変じゃありませんか? ボト……日本の勉強のためですとか、そういった理由では?」 「そーゆーのとも違うヨ。多分だけど、『好き』って気持ちと一緒アル」 「すき……」 ぱちくりと瞬きするシェラザードに、スリットは頷いて言った。 「いつの間にか働き始めてて、気づいたら働き続けてて、これからも働きたいなって思うネ。だから、変な言い方になっちゃうけど、ここが――」 朝焼けに照る店を外から眺めつつ、郷は車のエンジンをかけた。 「忘れ物とかない?」 「大丈夫だ。まあ、あってもまた来るだろうしな」 助手席で少し窮屈そうに身を縮める義弘。 後部座席ではアンナが窓を眺めていた。 「今更言うのもへんだけど。よくもまあここまで人が集まってくれたわね」 「皆さんいい人たちだったんですね」 「そうだといいが……」 シートベルトをしめながら座席に身を沈めるリサリサと風斗。 未だにスマホをいじっていた翔護がそのままの姿勢で言った。 「ゲームがフェイクであればあるほど、動いてる人たちはピュアなんだ。みんな親切にするための言い訳を探してるだけで、結局こういうのが――」 別の場所で、スリットと翔護は異口同音に言った。 「「好きなんだ」」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|