●栗と鼠 天高く馬肥ゆる秋。 秋山は紅葉に色気づき、艶やかな赤や黄の彩りは見るものの目を潤す。 マイクロバスの車窓から眺める風景は、まさしく秋の行楽シーズンに相応しい。 「皆様ごらんください、左手に見えますのは茨城(いばらき)フルーツ果樹園にございます」 『悪狐』九品寺 佐幽 (nBNE000247) はバスガイドに扮してマイクを握る。 まさしく女狐といった見た目の彼女は、アークのフォチューナーである。過去に何かしらの事情で幽閉されていたものの人手不足で引っ張り出されて、今はもっぱら“猫の手も借りたい”時に出てくる猫といった扱いだ。世話焼きな彼女は、時々みょーな企画をもってくる。 『栗拾いませう』 佐幽は“新人さんの親睦会”という名目で予算を引っ張ってきて参加者を募ると、さっくり果樹園への日帰りツアーを成立させてしまった。 新人さんの親睦会という名目上、その主旨はアークや仲間に馴染んでもらうことにある。 ――そう、だからこれは“依頼”ではなかったはずなのだ。 やってきました栗拾い。 青空にはイワシ雲、広大な山地の果樹園には栗の木がどこまでも続いている。 そこかしこに落ち葉に転がるイガ栗が、それはもう愛くるしく蠢いて――。 ――とっとこ歩いてらっしゃいますよ? 「いやー、あのねー、そのねー」 果樹園のオーナー、クリー司郎氏が困った様子で貴方たちアーク栗拾い隊へ釈明する。 「じつはねー、栗園にね、なぜかハリネズミが大量発生してて困ってるんだよねー。しかもチクチク痛いし、本物の栗をガリガリ食べるし、獰猛なものだから手がつけられないんだよねー」 クリー司郎氏は冷や汗を流しながらハンカチで額の汗を拭うと、それを宙に放り投げる。 一羽の小鳩がバサバサと飛び去ってゆく。 なぜ手品を披露する。 「おじさんの手品のほかにはもうお客さんを楽しませられるものはないんだよねー、はるばる遠いとこから来てもらったのに悪いんだけどねー。今は他の果樹園に案内できるよう手配させてるところだから、心配はしないでほしいのよねー」 「……左様で」 とぼけた園長だけれど、口から万国旗を出さないでほしいけれども、じつに良い人ではないか。 さぞかし大変な状況だろうに、一番にお客さんの“楽しい旅”を考えてくれているのだ。貴方たちが普通の観光客ならば、その好意に甘んじて案内された他の果樹園へ向かうところだ。 しかし、貴方たちは普通の観光客であろうか? 否だ。 「あの、よかったら――」 誰ともなく“ハリネズミ退治”を提案する。 人を襲うほど獰猛なハリネズミ、それは神秘の類に他なるまい、と。 ●ハリネズミ アーク諜報部の調査の結果、ハリネズミはアザーバイドと判明した。 アザーバイドは『イガネズミ』として過去に発見報告例が残っていた。 アザーバイドは異なる次元よりの来訪者、エリューションとは異なり必ずしも撃滅する必要があるとは限らない。例えば、Dホールが閉じていなければ捕獲や説得によって送還することもできるのだ。しかしながら今回は既にDホールが閉じている為、選択肢は撃滅の他にない。 総数は30匹前後で正確な個体数は不明だ。 イガ栗とまぎらわしい見た目のため、何かしら識別する手段がほしいところだ。重ねて、広い園内の全個体を撃滅する必要があるので探索手段を確保しておきたい。 一般人である果樹園の職員には退避してもらい、口先三寸で(じつは猟友会ですとかなんとか言い張って)ハリネズミ退治には納得してもらった。 準備万端。 さぁ、イガネズミ狩りのはじまりだ! ●秋の桜 一匹だけ下調べのために捕獲されたイガネズミが特別製の堅牢な鋼鉄のケージに入っている。 イガネズミの外見は、ちょうど丸くなるとイガ栗そっくりだ。とことこ歩く間は、こちらの世界のハリネズミとそう変わらぬルックスで愛くるしい円らな瞳をしている。 「ちょっとだけ……」 『焦げ尽きぬ白桜』佐倉 桜 (nBNE000257) はそっと手を伸ばそうとする。 彼女もまた新人の親睦会ということで参加した新米リベリスタで訓練は終えているが実戦経験はこれまでなく、計らずもこれが初陣ということになる。支援重視の戦闘スタイルを目指している為、不慣れながらも彼女なりに仲間をサポートしていきたいと自己紹介していた。 ――ちくっ。 「痛っ」 針が刺さったのか、佐倉は指先から血を流す。否、まだ指先はそのイガネズミに触れていない。 じわりと来る鋭い痛みに少々涙ぐみつつ、佐倉はぐっとこらえて。 「もしかして、コレ、反射……?」 そう推察を述べると、つぷりと血の滴る人指し指を口に含んだ。ヴァンパイアのミステラン。種族上、少しずつ血の美味しさに目覚めつつある今日この頃。 しかし佐倉の推察は間違っている。 イガネズミは資料に拠れば、確かに反射とよばわれるカテゴリーの能力を持っており、自らが傷つけられた際、攻撃した相手に一定のダメージを与え返す。塵も積もれば山となる。反射ダメージはひとつひとつは小さく見えても、累積すれば着実に体力を奪っていく。 佐倉を襲った“ちくっ”という痛みは、やはり針だ。極小の神秘による光の針を飛ばしたのだ。 それは呪いと不吉と不運を招く、通称“不幸針”である。 この不幸針があらぬトラブルを招くことになるなどと、この時まだ誰も知らなかった――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月08日(火)22:34 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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●山紫水明 秋風に木立はさざめく。 瞼の闇。 下駄が地を踏みしめる度に、乾いた落ち葉の小気味よく砕ける音が鳴る。 すべての命が息吹いている。 呼吸、鼓動。生物である以上、消せない音は数あるものだ。 極彩色の秋山に隠れまぎれていようとも、耳を澄ませば、確かに聴こえてくる。 アザーバイド。 千差万別。異界より迷いこんできたソレら小動物は、なぜここに在るのか。ソレらが望んで訪れるべくもない。無情だ。 ソレらの不幸はこの世界へ迷い込んできたこと、そのものにある。 ならば我らの不幸はこの世界へ生れ落ちてきたこと、そのものにあるのか。 不条理な条理を守らねばならぬ。 “仕事”と割り切る程度には大人であるからこそ、感傷は、必ずしも行動に直結しない。 歩む。 パリパリと枯葉を砕いて、目を閉じたまま彼女は歩く。一意専心、心の刃を研ぎ澄まして。 強襲。 凶剣山が真後ろより迫るその刹那、彼女は――。 『山紫水明』絢藤 紫仙(BNE004738)は蜃気楼のように立ち消えてしまった。否、あたかもそう見えるかのようにゆるやかな所作で鼠の激突を回避せしめ、霧や霞に銃弾を見舞うように何事もなかったかのように佇んでいた。 勢い余ったイガネズミが栗木に突き刺さり、幹に亀裂を走らせる。 「火気厳禁、となれば……氷漬けになって貰おうか」 紫仙は秋水のように秀麗で流れるように紡ぐ。絶命必定の一撃を。 見開かれる瞳。 獲物を射るキャッツアイ。 白靄を帯びたガントレット。振り返りざま、凍てつく白き三日月の軌跡を描いて裏拳を見舞う。 命中、氷結。 大気、震撼。 衝撃が樹木ごと標的の強固な外殻を貫通する。烈々とした氷撃が、害獣を氷の粉塵に還す。 やがて真芯を貫かれた栗の木が轟音を立ててゆるやかに崩れ落ちた。 「桃栗三年、柿八年。絶やすは易く、育むは骨折り指折り幾年か」 一斉に秋空へと飛び立つ野鳥の群れを見やって、片目を閉じたまま紫仙は煙管を吹かした 「――柿でないことがせめてもの救いかね」 ●探索 「透視なら栗は透けて見えるよね? それでも見える栗が擬態してるやつだよね」 『ブレイブハート』高町 翔子(BNE003629)の妙案に沿って、アーク一行は索敵にあたっていた。 偉い人は言いました。 『ミステランは誰も見捨てらん!』 『鼻の刑事』ルーシア・ホジスン(BNE004333)曰くそーゆーことでツアーに参加したらしい。 無論、フェリエの偉い人がそんなシャレをおっしゃるわけがない……ですよね? ルーシアは栗の木の下で、刑事ドラマさながらにイガネズミらしきイガ栗をじっと観察する。 くんかくんか。 ルーシアは猟犬の如く活性化した嗅覚でイガネズミとイガ栗を識別を計る。警察犬の数倍といわれる精度だけはあって微妙な違和感には気づけるのだが、本当にそっくりなので偽物と確信できるほどでもないという具合だ。 「それにつけても」 くんかくんか。 匂いとくれば、栗の花の――と思いきや季節は秋、六月の開花時期からは完全にズレているのでさっぱりそれらしい匂いはしない。栗の実を拾いにきたのだから当然か。 そうして適当に木の棒でイガ栗をつっついたりしつつ、地道にルーシアは探索をつづける。 躍動するポニーテール。 超反射神経。狙いを先読み、イガネズミの凶剣山を紙一重でひらりとかわして、軽やかに射手はずざざと急斜面を波乗りするように滑り降りつつライフルの照星を標的に定めた。 『野良犬、あるいは猫』九重・葵(BNE004720)は狙い撃つ。 掠った。反射。即座、イガネズミの鋭い神秘の針が葵の太股を切り裂いた。傷は浅い。それでも葵にとって軽視はできない。できれば後衛として行動したかったが、敵の数がこちらより多い上、戦場が広いために手分けして探すと陣形は常に万全とはいかない。 幸い、敵は単独での奇襲だ。 「ああ、ただで秋栗にありつけるって参加したのになんでまたこーなってんすかねえ」 脚の痛みに苦笑いしながら斜面を滑走、敵影をターゲットサイトの中心へ。 「つまり、こーゆーことっすかね」 否。 ただ狙い撃つだけではダメだ。急斜面を滑走する最中、強固な針の鎧ではなく、ド真ん中、栗の一粒ほどしかない頭を撃ち貫かねば。 それができねば、また反射に切り刻まれる。 それができねば、星射手を名乗れない。 それしきのこと、昼飯前。 「――タダより高いものはない」 銃声が轟く。 イガネズミが眼前へと一直線に体当たりすべく迫る、その刹那を狙い撃った。 ちいさな断末魔を耳にしながらバランスを崩してブレーキをし損ね、栗木に背をぶつけた。 葵は後頭部を擦り、食欲の失せそうな獲物の躯をちら見すると帽子を目深に被り直した。 「だったら支払ってヤるっすよ、六文銭くらいは」 土埃を払い、葵は片手をついてやれやれと立ち上がろうとする。 痛っ。手を見れば、イガ栗が。 「……この不意打ちは、先読めないっしょ」 ●鏡花水月 『鏡花水月フルメタルクィーン』鋼・女帝皇(BNE004530)はさいたまの女王である。 以上。 ――これだけ簡素なプロフィールも他にそうあるまい。 『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)と夫婦だという以外、謎めいた人だ。 青い貴婦人は鋼茶を白い陶磁器のティーカップでのんびり堪能する。 疾風迅雷セイバリアンの(所有者も知らない)26の秘密機能のひとつ『サイドカーフェテラス』があれば、どこでも日除けつきの優雅なカフェテラスに早代わりだ。 「……おい」 「なに、あなた」 「なにからツッコめばいいかわからないのだが」 「敵陣にツッコめばいいのです」 「……うむ」 鉄仮面だけに表情は見えない。 「ううむ、このやるせなさ! イガネズミとやらに発散せねば!」 進撃の鋼人。 質実剛剣グランセイバーを高々と掲げて、ルーシアや紫仙の発見した敵の元へ剛毅は駆ける。 戦闘指揮する女帝皇は各自の探索の結果を元に情報を集約、タクティクスアイによって戦場を見定めていち早く状況を見極めて味方へ通達、自らの守勢教授を共有する。 サボっているように見えて、自分の仕事はしっかりこなす。それが女王の優雅さだ。 俯瞰的に全体を把握する彼女は、あるトラブルに気づく。 「佐倉さんの初仕事、鋼茶みたいな渋い経験が積めそうですわね」 良妻賢母。 過保護になりすぎず、親しき者の苦難を見守る。 これぞ鋼流子育て術――かどうかは当人のみぞ知る。 ●背中 勇ましく、美しき背中だ。 ブレイブハート。大胆に背中が露になった装束は、高町 翔子の不退転の決意を示している。 一斉に襲ってきた六匹のイガネズミを相手取り、翔子は数の暴力に晒されていた。 厄介なのは凶剣山にまぎれた不幸針だ。 微細な痛みと裏腹に、凶事を招く呪いは着実に翔子のミスを誘い、つけいる隙を探しあてる。 「このっ」 六刃。ヘキサドライブを駆使する。前方の攻撃を刃で防ぎ、安全靴で蹴飛ばして距離を稼ぎ、もう一匹に短剣を投げつけ牽制、さらに背面への不幸針を新たな一刀で弾いて凌ぐ。 が、さらなる不幸針をかわしきれず直撃。痛みは微か、呪いもあって自覚できないまま五匹目の凶剣山をガードした直後、六匹目の凶剣山が迫る中、ここで“必然的不幸”が生じた。 転倒だ。 不幸にもイガネズミを踏んづけ、バランスを崩す。翔子の舞い踊るような武闘もここまでか。 「3、2、1、イッツァショータイム!」 『奇術師』鈴木 楽(BNE003657)が盛大にシルクハットを宙へ放ると小鳩が一斉に秋空へ散った。 舞い散る羽根。 もたらされるは翼の加護。 白き小さき翼を生やした翔子の背中はあたかも名画の如し。 「これなら!」 失ったバランスを取り戻す。右肩が剣山に斬りつけられて流血するが、まだ浅い。いける。 合流したのは楽だけではない。ルーシア、佐倉もだ。 「エル・バリア!」 「エル・バ痛っ!」 光輝する守護を得た翔子と楽。これで体制を立て直せる。佐倉が安全靴もなしにイガネズミを踏んづけ悶絶するさまを見やって、お礼も兼ねて翔子は天高くヘキサドライブを投刃する。 刃が、陽光を眩く反射した。 「さぁみなさんご一緒に」 時同じく、楽はワンドを掲げて輝石を瞬かせた。 「ブレイクフィアー!」 神々しき光輝が輪を描いて拡がった。 二重の破邪の光が佐倉と翔子の煩っていた不幸の呪いを解呪する。見事に窮地は脱したのだ。 「……凄い」 一連の光景に、佐倉は感嘆する。勇気づけられる。初めての実戦という不安は今はもう無い。 前衛と後衛。 背中を預ける者、預けられる者。 この先、アークに属して戦い続ける限り、佐倉は幾度となく戦士たちの背中を目にするだろう。 重責だ。 今はまだいい。いつか、生死を賭けた戦いに赴くこともあるだろう。自分のせいで自分が死ぬのは構わない。仕方ない。けれど、自分の力及ばぬばかりに誰かを死なせるのはイヤだ。怖い。いっそ何もせず、戦わない方がいい。――そう想っていたとしても、自分から逃げるにはまだ早い。 貰ったのは、ほんのひとかけら。 けれど、勇気の原石は磨いてみなければその輝きは知れない。 ●掃討 六匹の敵陣が十二匹に増えようとも、続々と合流する狩人たちの快進撃はつづく。 楽や葵による天使の歌によって回復は手厚い上、翼の加護で足場対策、女帝皇の守勢教導、ルーシアと佐倉のハイ・バリアによる大幅な物理防御強化を各人に施すことで敵の数に任せた猛攻撃をうまくいなしている。 イガネズミ側は凶剣山が通じないのならば、不幸針で隙を作ろうと試行錯誤する。が、いざ不幸の呪いが通じても劇的な形勢逆転を計る前に、翔子と楽の破邪の浄光が解呪する。 防御は最大の攻撃也。 反射の異能とて、魔楽の鉄槌を機軸に単体攻撃のみを仕掛ける翔子には痛打とならない。 「悪いけど通じないのよ!」 慎重な紫仙は、弱った敵のみを狙い、なるべく集中を重ねて一撃必倒の魔氷拳を確実に決める。 「あーコレ終わったら、栗もってもいいんすよねー?」 弱って逃げようとするイガネズミを、葵はライフルで狙撃する。 削り、トドメ、逃走阻止。三拍子の揃った確実な攻勢は、単純スペック以上の戦力を織り成す。 一匹、また一匹。 堅実な戦いの継続は、こちらも徐々に消耗を強いられる。しかし楽は魔力制御と魔力分与、二つの補給手段で自他を潤し、佐倉はエル・リブートで支援する。 数を削れば、次第に余裕も出てくるわけで。 十二匹だったイガネズミも三匹になったところで劣勢とみて逃走を図る。無論、立ち塞がって逃しはせずにこれを殲滅した。 それなりに時間は費やしたものの、回復・補給が整っている為、万全になるまで準備を整えて次の捜索へ移行することができた。 ここまで仕留めた数は十数匹、あと半数を倒せばおしまいだ。 ――そう、不安材料は残りひとつだけ。 鋼・剛毅だ。 「ぬおおおお! 俺の見せ場はどこだぁ!」 火山鳴動。 時は少々遡る。 『さあ、まとめて消し飛ぶがいい、フハハハハ!』 先の戦い、合流直後、剛毅はしょっぱな常闇をぶっぱなった。 結果、命中精度が悪く敵が素早くて物理には頑丈な為、その破壊力を活かしきれず微妙なダメージしか与えられなかった上、十二匹の反射と自らの反動を一斉に受けて無駄に有り余ってる体力をガガガッともってかれた。 しかも絶対の自信がある超合金ボディの頑丈さを過信して最前衛に出たものの不幸針から凶剣山の見事なコンボを喰らい、不吉、不運、凶運のアンハッピーセットをお召し上がりになられた。 平時の30倍、超大凶。 そう、例えるならば――。 万札はたいて宝くじを買ったら1000円の末賞しか当たらなくて渋々銀行に貰いに行ったら3億円が当たったと勘違いした銀行強盗にショットガンつきつけられて返り討ちにしたら警察に銀行強盗と勘違いされて一斉射撃でズタボロになっても生きてるもんだからアークに通報が入ってフィクサード事件として精鋭エース部隊が万華鏡フル稼働で念入りに作戦たててフルボッコしにきて誤解だ仲間だと主張するが悪人面すぎて信じてもらえず現場にやってきた妻に素知らぬ顔で「いいえ、他人です」といわれる、超大凶ってそーゆー感じだ。 ぽいっ。 『あなた、反射も反動もあるんだから程々にしておきなさい』 女帝皇は旦那ごと敵勢を閃光手榴弾の餌食にして纏めて動きを封じる。 『だ、大丈夫?』 その隙に、翔子がブレイク・フィアーで救助したことで事なきを得た。 無論、そりゃーもうガミガミ怒られまして。 「ぐうう、おのれクリネズミ!!」 探索・殲滅戦は探索向きの能力――猟犬や集音、透視の出番なわけで。 もう剛毅は活躍の場所が、ない。 「そこか! 見つけたぞ! でやああっ!!」 スパッ。 質実剛剣グランセイバーが落ち葉の下のイガネズミを一刀両断する。 ハズレ。普通の栗でした。 「ひゃああっ!」 遠方では、不意打ちを喰らったらしい佐倉の悲鳴が聴こえてくる。つづけて銃声。葵に助けられたのだろう。索敵がない上に不意打ち対策もないとくれば、さぞ苦労することだろう。少々同情を禁じえない剛毅であった。 「く、俺の見せ場が……!」 「ふふ」 女帝皇が不敵に微笑する。 「私にいい考えがあります」 ●日が暮れて 「わあっ!」 ゴン!と佐倉が盾にしたフライパンごと彼女を盛大に弾き飛ばした最後のイガネズミは、カラダを丸めて電動ノコギリのように高速回転しながら電光石火の勢いで迫る。 「あの青いの五倍速いっ!」 ルーシアはすかさずエル・バリアの守護を佐倉に与えつつ、のんきにつぶやく。 「ハリネズミもいいですけど、栗といえばリスではないのですかねえ」 「栗とリスは今関係ないっ!」 予想外の希少個体。一匹だけ超高速ハリネズミががまぎれているとは。隠れる気のない青色は、隠れる必要がない強さの証。これもまた“あらぬ不幸”ということか。 「よしっ、こいつを倒して主役は頂きだっ!」 剛毅、突撃。 ミス、当たらない。 「任せて!」 颯爽、集中を重ねた翔子がその爆発的脚力で青いハリネズミの超高速機動に追いすがる。 一意専心。 夕陽を背に、二つの影が交差する。 刹那の剣閃。 着地した翔子の右腕より、だくだくと血が滴り落ちる。刹那、着地した青鼠がその背中を狙いトドメを刺さんと高速回転する。 「高町さんっ!」 佐倉が叫ぶ。助けたい。けど、間に合わない。無力さを痛感する。胸が焦げる想いだ。 翔子は、しかし微笑っていた。 「――勝負アリ」 青鼠が空中分解、真っ二つに。そのまま翔子のすぐそばを横切り、樹木に突き刺さった。 へなへなと佐倉が崩れ落ちる中、翔子はこちらへ振り返って、朗らかに破顔するのだった。 ●栗拾い 夕刻、茨城フルーツ果樹園ロビー。 「いやぁ本当にね、感謝感激ひなあられなのよね」 園長のクリー司郎氏はぺこぺこ頭を下げながら喜びのあまり消失マジックを披露してルーシアのジャムパンをシルクハットに隠すと時空の彼方へ消し去った。 「わーお、パンタスティック! ……どこに消えたの?」 「さー、もぐもぐどこだろもぐもぐねー」 そんな寸劇はともかく、職員一同も喜んでいる様子でなにはともあれ一件落着だ。 「では、改めて栗拾いを致しませう」 佐幽といっしょに夕暮れの栗拾い。あれだけ戦った後、葵は空腹らしくふらふらだ。 「いやあ、一時はどうなるかと思ったけどばっちりっすね」 ぐ~。 「――夕食さえあれば」 「でしたらご注目あれ」 奇術師の楽は拾いたての栗をハットで隠した。 「生では食えねえっすよソレ」 「ハハハハッ、いえいえこうなるんですよ」 そこには天津甘栗(※園の土産コーナーで売ってる)が! 「調理されてるー!?」 葵はひったくって野良犬のようにガツガツ食いつく。 「喜んで頂けて何よりです」 やはり、誰かを笑顔にするということは素敵なことだ。そう楽は初心を再確認した。 できれば、手品で喜んで欲しかったといえば贅沢か。 煙管を吹かして紫仙は栗とにらめっこ中だ。その光景を、佐倉はなぜか遠巻きに見守っている。 「よし決めた、今日は栗ご飯にしよう。それと渋皮煮」 ひとり肯き。 「いろいろ悩んだが、ここは王道で攻めるべきだと思うんだ」 「あの……」 「ん?」 「栗料理、その、よかったら教えてもらえないかな、て」 佐倉はうつむきがちに表情を伏せ、消え入りそうな調子で紫仙へそう尋ねたのだった。 彼女なりに、勇気を出して。 一方、鋼夫妻は。 「栗拾いか、女子供のやることだな。俺は黙って見守っていればいい」 「ほら、あなた。何をぼさっと突っ立っているの。その鎧は飾り?」 「むう」 女帝皇は黙って夕陽を指差す。ここが最後の見せ場よ、と。 そして一言。 「さっさと集めなさい」 言外に告げる。 ロクに活躍もできず栗ひとつ拾えず家に帰って、娘と祖母にどう顔向けできるの? と。 「いや、まあこの甲冑ならイガ栗なんぞへっちゃらだが……」 二言はない。 ただ微笑のみが告げる。 「いや、まあこの甲冑ならイガ栗なんぞへっちゃらだが……」 誰に言い訳しているのか、渋々と剛毅はイガ栗を手づかみで集めはじめるのだった。 彼の今日一番の活躍がこれである。 なお、女帝皇の絶品マロングラッセの美味しさは好評だったそうである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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