●彼岸花と二人の幽鬼 赤く放射状に広がる花びら。二百本近い彼岸花が、花開く。 そんな緋の花園に、二つの存在が立ち尽くす。 一人は白無垢の花嫁衣裳を着た女性。 もう一人は甲冑を纏った武士。 女性が武士に注ぐ瞳は熱く、また武士はその視線を感じながら女性に背を向ける。まるで何かから護るために。 エリューション・フォース。そう呼ばれる存在。 とある悲恋は時代を超え、世界を壊す因子となって彼岸花の花園に顕現する。 ●アーク 「戦国の時代、この地に麗しいプリンセスとその世話役のサムライがいたそうだ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、説明を開始する。 「政略結婚という名の人質。相手の大名は残虐で有名。嫁ぐ姫の運命やいかに? そんなシチュエーションだ。長年姫の世話をしていたサムライに姫は最初で最後のわがままを言ったそうだ。 『私を連れて逃げてください』……と」 そして武士はその言葉に答えた。しかし現実に対抗するには、二人の力はあまりにも小さかった。 「追っ手が迫る中、姫とサムライは一面の彼岸花の園にたどり着いた。もはやここまでと覚悟を決めた二人はそこで自決する。……ま、そんなラブストーリーの現場なんだよ、この花園は」 『万華鏡』が写し出すのは、一面に咲く万華鏡と、女性のEフォース。そしてそれを護るために立ちふさがる甲冑のEフォース。 「あの世で会おうと誓った二人。だが二人はあの世にいけず現世に留まり、既に滅んだ怨敵に怯えている。引導を渡してやるのがリベリスタの道ってもんだろ?」 にやりと笑う伸暁。引導云々はともかく、エリューションがいるなら倒すのが革醒者の正義だ。 「戦闘が始まればサムライは自分の刀を飛ばして姫を守ろうとする。少々厄介だが、落ち着いて戦えば勝てる相手だ。しっかり作戦立てて、ばっちり決めて来い」 伸暁の言葉に背中を押され、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月29日(日)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 一面の緋色。彼岸花の花畑に立つ武士と姫のエリューション。 「重甲冑を見ると、うちの旦那を思い出すわね」 グリモワールをパタンと閉じて、『鏡花水月フルメタルクィーン』鋼・女帝皇(BNE004530)は頬に手を当てる。敵は和風で、夫は西洋だが。駆け落ちまでして護ってくれるエリューションに、こっそり嫉妬していた。全くうちの夫は。 「幾星霜の時を経て尚、褪せぬ愛でございますか」 二体のエリューションをみながら『文無し』斑 玄吾(BNE004030)は髭をさする。その存在を許すわけには行かないが、その恋路を認めないわけではない。愛にも色々あるが、時を経ても続く愛は素晴らしい。 「成る程、美しい悲劇だ。恋が実り、次へと生を繋ぐ命の歌も素晴らしい物だが、散った花もまた美しい」 ふむ、と腕を組みながら『ツーピース』月凪・錐(BNE004666)は頷く。総じて人間嫌いの部類に入る錐だが、彼らの勇気と生き様には感服せざるを得まい。ここからは悲劇の幕後。幕を完全に下ろすため、楽器を手にする。 「好きな奴と駆け落ちか。あの世があるっつーんなら二人がまた会えるよう祈るんだぜ」 錐の隣で『ふたりぼっち』月凪 宝珠(BNE004665)が笑みを浮かべる。死後の世界があるかなんて分からない。でももしあるというのなら、そこで二人が会えるというのなら。そこに送るのは自分の仕事だ。宝珠は重火器の安全装置を外し、エリューションを見る。 「倒すことで供養になればいいのですがね……せめて悔い無く天に昇るように……」 やるせない、という表情で『甘くて苦い毒林檎』エレーナ・エドラー・シュシュニック(BNE000654)がため息をつく。愛し合いしかし結ばれず、そしてエリューションとして世界の敵となる。そんな二人にエレーナは言いようのない感情を抱いていた。 「その戦争はもう終わったしもう何も残ってないのに。変なの」 『No-A』二拾 陸(BNE004731)は先頭の構えを取るエリューションをみながら、小さく呟く。この二人が戦う理由は何もないのに。何故戦うのだろうか? 勝っても得るものが無いのに、何故? 陸はそれが理解できないでいた。 「恋でも何でも好きにやってて。でも周りの人に迷惑かけないでね」 気だるそうに『心の在処』五十嵐 心(BNE004675)が口を開く。あまり他人に興味が無いような態度だが、色々思うところがあるらしい。手のひらをひらひらとさせながら、幻想纏いを起動する。 「愛というのはわりととんでもないものでね。これがあると、大概の事には大義名分が立つ。 ……ように思えてしまうんだね、本人には」 言って天宮 総一郎(BNE004263)が肩をすくめる。神秘の瞳で戦場を観察しながら武士と姫を見た。悲恋の末殺され、その後国は滅亡の憂き目にあった。誰も救われないそんなお話。その主役達。 「愛は地球を救うとか、誰が言ったんだか。さて、冗句はこの位にして仕事に入ろうか」 総一郎の言葉にリベリスタたちは各々の破界器を構え、神秘の付与を行う。武士と姫もそれに応じるように殺気に似た何かを開放する。武士の持つ刀が三本、鞘走って宙を舞う。 花園に風が吹く。一面の彼岸花が、さぁ、と揺れた。 緋の波が収まるころにはリベリスタたちは土を蹴り、エリューションと武器を交えていた。 ● 「先ずは防御を磐石にしないとね」 女帝皇はリベリスタ禅院に指示を出し、防御陣を敷く。戦場を的確に奏でる女帝皇の間合の取り方が、リベリスタの被弾率を下げる。その後、神秘の光を放ち姫の視界を奪った。仲間が乱戦に入る前に決めることができたのは、僥倖といえよう。 「ごめんなさいね。あなたを封じておかないと大変なので」 『姫の全体強化による前衛過多の力押し』……女帝皇はエリューションの構成をそう判断していた。武士や刀よりも姫を封じるほうが重要度が高いと。故に真っ先に姫を封じる。それが勝利への道になると信じていた。 「俺達は大名の使いじゃないが、この地にいつまでも縛りついてたって良い事ねーぜ!?」 宝珠が重火器を振り回して武士のほうに走る。彼岸花の花畑に宝珠のドレスがひらりと舞った。長柄の槍と長身の重火器が交差する。突き刺す槍の攻撃を、重火器を回転させて弾いて逸らす。 「先ずはこっちからだ!」 宝珠は武士との攻防の隙をついて、重火器を構える。足を踏みしめて銃身をしっかりと握る。脇を締めて引き金を引いた。轟音が響き、宙に浮く刀が着弾の衝撃で揺れた。その手ごたえに宝珠は笑みを浮かべる。 「存分に舞え、宝珠」 そんな宝珠を見守る錐。体内に魔力の循環を生みながら、リベリスタ全体に指揮を飛ばす。双子の宝珠がやりたいことを全力でサポートする。それがこの戦いという演目の中で、己が果たす役割だと信じていた。 「防御が薄いというのなら、回復で層を増すのみだ」 錐は楽器を手にして背筋を伸ばす。楽器に魔力を篭め、旋律に載せてリベリスタに伝える。奏でる音色はその心を癒し、癒しの神秘はリベリスタの肉体を癒す。ここは悲恋の終着駅。その悲劇に幕を下ろすべく、錐の演奏は響き渡る。 「この刀も兵士の幽霊か何かなの?」 陸が剣を手に空飛ぶ刀と切り結ぶ。呪いを与えてくる空飛ぶ刀。しかし刀の呪いは陸には意味を成さず、そのまま崩れ落ちてしまう。回転するように切り結んでくる刀を受けながら、陸は自分の剣を握り締める。 「……そこ」 陸の剣が大上段から叩きつけるように振るわれる。刀はそれを察して避けるが、そこを狙ったように陸の剣が襲い掛かる。しっかり狙うよりは数を放つ。戦わなければ生きている意味が無い。その生い立ちゆえか、陸は戦い以外に自分に価値を見出せないでいる。 「慣れませんけどやりましょうか」 ゴシックなどレスを翻し、エレーナは敵前に出る。空を飛ぶ刀に自らの気で編んだ糸を放ち、絡め取る。踊るように回転して遠心力で刀を地面に落とした。エレーナの銀の長髪が彼岸花の赤の中、流れるように動く。 「あまりうろうろされるとお困りますので……少しそこで動かないで頂きたいですの……」 エレーナは味方に向かうダメージが少なくなるように、神秘の糸を放って刀の動きを封鎖している。回復に妨害に。エリューションの攻撃を緩和するようにエレーナは動く。毒林檎は甘く、そして苦い。 「斑玄吾、参ります」 杖を手に玄吾が刀をの間合いをつめる。独特の足運びで天地の理を示し、その力を丹田にためる。円を描くように腕を動かし、印を切って武士を穿つように解き放つ。武士を覆う不吉な影。それが姫から与えられた加護を打ち砕く。 「彼の得物は槍でございますか」 玄吾は相手の構えから次の攻撃を推測しようとする。確かに構えから次の動きを予測することができるが、それを伝える前に槍は放たれている。下手に声を上げれば、それを逆手に取られる可能性もあった。已む無く断念する。 「構えて、狙って、撃つ。それだけだ」 総一郎が弓を番える。神秘による視覚強化が、相手の動きをコンマ刻みで伝えてくれる。 やることはいつだってかわらない。基本道理に構え、狙い、そして撃つ、脈々と受け継がれる弓術。それを行うだけだ。 「思ったよりは脆いようだな。使い古された刀だったということか」 屋が思ったよりも効果的に刀に傷を与え、総一郎は安堵する。堅ければ目釘でも狙おうかと思っていたが、その必要は無いようだ。複数の矢を一斉に放ち、複数の刀を同時に射抜く。構え、狙い、そして撃つ。心を無にし、総一郎は冷静に矢を放つ。 「ふぁいとー」 やる気のない声で心が声援を送る。回復を行いながら、その合間に心はエリューションたちの心を読もうとしていた。その間回復の手は止まるが、それでも確かめておきたいことがある。 (なに考えてたんだろう。この人たち) 力が無いのに運命に逆らい殺された姫。その姫のために仕えるべき家を捨てて、確率の低い駆け落ちに出た武士。その挙句殺されて化けて出る。わけわかんない。でもそんな彼らの思いを、心は知りたかった。 少し前は上手く扱えなかった精神探査。心はエリューションの思いを覗き込む。 ● 『婚姻、おめでとうございます』 『この結婚は停戦のため。人質……いえ、相手の気性を考えると生贄に等しい』 『ですが、これでしばしの平穏が訪れると思えば……』 『私が向こうの国で息絶えれば、同盟は破棄されるでしょう。かの国はそうやって領土を広げてきたと聞きます』 『……!』 『嫁げば敵国で弄ばれて死。逃げれば追われて死。どうせ死ぬなら、私は少しでも生き残る道を行きたい』 『敵国領土内での失踪なら、わが国には迷惑は掛かりません』 『上手く逃げることができれば……』 『……十兵衛、千草はわがままを言います。私を連れて、逃げてください』 ● (お姫様やお姫様の周りにはNOと言えるだけの力がなかったんだよね。だったらさ、もうそれがお姫様の運命だったんだろうね。……諦めるって大事だと僕思うんだけどね) 心は流れてくるイメージを感じながらそんなことを思う。大樹に巻かれてわずかでも生き延びるのは当然の選択だ。 だが彼女は抗った。運命という世の流れに逆らい、生きようとした。 (武士ってもうちょいお家のためにーって頑張るもんじゃないの? それをさぁ、あっさりお家捨てちゃってバカじゃないの? 逃げられるわけなんて無いんだから諦めてお姫様見捨てればよかったじゃん) 仕えるべき家を捨てて、姫のために生きる。それは武士の在り方として確かに間違っていた。 だが彼はそれでも彼女を護った。自分の意志で家を捨て、姫のために槍を構えた。 「……心、回復回復!」 「おっと、ごめんごめーん」 意識を現実に戻し、心は戦いに意識を戻す。わかったことはそんな程度だ。それを愚かと受け取るか、あるいはそれ以外の何かを感じるかは心次第である。 リベリスタの構成は回復と攻撃がバランスよく配分されている。着実にダメージを積み重ね。刀を一本ずつ落としていく。姫の援護を女帝皇が上手く阻害しているのも効いていた。刀がすべて地に落ちれば、前衛の何人かは姫のほうに向かう。 「回復手に攻撃を行かせないようにする程度ならば、役に立つでしょう」 女帝皇のゴシックなドレスが緋の花畑でふわりと舞う。本来後衛の彼女だが、回復の厚さを信じて姫のほうに向かった。最適の動きを頭の中でイメージし、その通りに女帝皇は体を動かす。威力は低いが、戦闘力の低い姫からすれば十分な打撃だ。 「王手まであと少し、ね」 「千草、十兵衛。もう、お前等の愛を邪魔するものはいないんだ、解ってくれ!」 姫に向かおうとする武士を足止めしながら宝珠が叫ぶ。攻撃を加えるたびに槍の反撃が宝珠の体を刻む。そして返す動きでわき腹を刺され、膝を突く。そんな状態で運命を燃やし、反撃とばかりに宝珠は弾丸を放つ。 「あの世で会う約束を忘れたとは言わせねーぞ! お前等は愛し合って良いんだ」 「例えその愛が罪だったとしても」 玄吾が傷ついた宝珠と入れ替わるように武士の押さえに入る。武士の槍を受けながら、印を切る。姫を襲う不吉の影。確かに二人が愛し合ったからこその悲劇だ。その行為を恨む者もいただろう。 「共に同じ罪を分かち合っているのならば往く先は同じでございましょう。どうか先立つ旅路で恋人を待ってては下さいませぬか」 「歌うのに慣れてはいないのですが……いたしがたありませんわね」 エレーナが攻撃の手を止めて、息を吸い込む。体内で循環させたマナを声に乗せ、両手を広げて歌を紡ぐ。歌はリベリスタの傷を塞いでいく。仲間のため、世界のため、そして今だこの世に留まる二人のため。エレーナの声は響く。 「長期戦も望む所。ワルキューレ位ならば弾き切って魅せよう」 そんなエレーナの回復にあわせるように錐も回復を行う。奏者としてあわせるように、しかし競い合うように。歌も演奏も指揮も、後れを取るつもりは毛頭無い。その気概をもって戦場に挑む。 「もう逃げなくていいし戦わなくていいのに」 陸が姫に攻撃を加えながら呟いた。もう逃げる意味なんてないのに。憂いを含んだ姫の言葉に気力と体力を削られ、陸は意識を失いそうになる。運命を燃やして意識を取り戻し、戦いに身を躍らせた。姫と武士の物語は終わったけど、陸の物語はまだ終わらないのだ。 「もうあいつと結婚しなくていいんだよ」 無愛想な言葉と共に振り下ろされたバスタードソードが姫を無に帰す。霧が晴れるように白無垢のEゴーストは消えていった。 そしてリベリスタの矛先は武士に集中する。槍を振るい抵抗するも、エレーナと錐と心の回復を突破するには至らない。 「これで終わりだよ」 総一郎が矢を手にする。凪の水面のように心を落ち着かせ、弓を番えた。弦を引き絞る指に神秘の力を篭め、矢を強化する。ただ真っ直ぐに、敵を討ち貫くために矢は放たれた。 「渾身の一矢で幕引きを贈ろう」 矢は真っ直ぐに放たれる。長年繰り返してきた迷い無き一射。 狙い外さず。矢は武士の脳天に突き刺さる。その衝撃で兜が弾け飛び、緋の花畑にカランと転がった。 ● 「安らかにおやすみください」 「必ずや巡り会えますよ」 エレーナと玄吾がエリューションのいた場所に語りかける。あの世というものがあるとして、そこで幸せになれればいいのに。そう願いをこめて祈りを捧げる。 「愛し合う者達に祝福を」 「君達はこれから俺の作る曲の中に生きれば良い」 宝珠と錐が幻想纏いに破界器を収納する。愛を知る宝珠は二人の愛を。芸術を知る錐はその物語を。双子の兄弟姉妹は同じ経験をしながらまったく別の事を心に刻み、しかしその絆は揺れることがない。 「……」 陸は崩れ消えゆく武士を静かに見ていた。大事なものを護るために戦ったモノ。戦いにしか価値を見出せない自分には、かける言葉が見つからないのか。ただ静かに、滅び行く武士を見送った。 「さて、うちの旦那は何してるのかしら」 愛し合うエリューションに背を向けて女帝皇が髪を掻き上げる。家に帰ったら紅茶を入れよう。たまには二人でゆっくりと紅茶を飲むのも悪くない。エリューションに当てられたのか、そんなことを考えていた。 「……ん」 心はそれだけ呟くと、戦場に背を向ける。エリューションの心を知り、どう変わるかは心次第。愛を無価値と捨てるも、何かを思うもすべて。 「……そういや、墓参りとかしばらく行ってないな」 総一郎は彼岸花を一輪摘む。愛に懐疑的だった総一郎だが、その胸中には如何なる存在がいるのだろうか? 彼岸花を懐にしまい、山を下りるために歩き出す。 花園に風が吹く。一面の彼岸花が、さぁ、と揺れた。 緋の波が収まるころにはリベリスタたちは既に帰路につき、あたりは静寂に満ちていた。 叶わなかった愛がここにある。 互いに深く愛し合い、しかし運命がそれを許さなかった愛が。 無残に散った愛は無価値だろうか? 周りに迷惑をかけて、しかし実らなかった恋は愚かだろうか? 確かに愛は叶うことはなかったけど、その愛を知り何かを思うものがいるのならきっと価値はある。 何故なら、それが彼らが愛し合い、そして運命に抗った証なのだから。それを受けたものが心の糧とするのなら、その想いは無意味ではない。 ここに悲恋の幕は下りる。 『また会う日まで』 彼岸花は、誰かを送るように赤く咲いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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