●メランコリック毎日 「時々さぁ~理由も無いのに鬱な気分になったりしない?」 「あるあるー。あれ何でだろーなぁ」 「鬱お化けが近くにいるからだよ」 「は?」 「鬱お化け」 「なにそれ」 「近くの人を鬱にするお化け」 ●うつだしのう 「…………」 その日、ブリーフィングルームにてリベリスタを迎えた『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)はいつもの事務椅子に座り込んだまま、机にグッタリ突っ伏していた。 「……鬱だ……」 なに言ってんのコイツ。 「あぁ、先程『視た』エリューション情報の所為ですね。すぐ立ち直るでしょうしお気になさらず」 と、いつの間にか気配無しに佇んでいた『元・兇姫の懐刀』スタンリー・マツダ((nBNE000605)がリベリスタ達に声をかけた。執事然と一礼をした彼は、「なので此度の説明は私が」と手に資料を持つ。 「皆様。本日の任務はEフォースの討伐でございます。フェーズは2、数は1。油断さえしなければそうそう苦戦しない相手でございましょうが。これは少々面倒な能力を持っております。端的に言えば、『近くにいるだけで物凄く鬱な気分になる』ですね」 何でも、『鬱な気分』が革醒した結果らしい。そのネガティブパワーがどれぐらい凄いかと言うと、情報収集の為にカレイドでじっと見ていたメルクリィが鬱クリィになるレベル。 人の想いとは恐るべきもの――というのはさて置き。 「皆様はEフォースと戦うと同時にご自身の『鬱な気分』と戦う事になるでしょうね。くれぐれもお気をつけて。 ああ、それから現場はビルの屋上らしいのですが。くれぐれも、鬱だからといって飛び降りたりしないで下さいましね。まぁ、皆様の様な丈夫な方なら精々骨が折れて血が出る程度でしょうが」 スタンリーは淡々と言うが結構アレだ。うん、気を付けよう。そんな中で、ぐったり鬱クリィがボソリと。 「鬱だ……」 「名古屋様の世話なら私にお任せを。行ってらっしゃいませ、リベリスタ様」 「『行ってらっしゃいませご主人様』とかならアレですな……執事喫茶っぽい……」 「噛みますよ」 「ごめんなさい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月29日(日)23:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●それでも地球は回るのか 「鬱ねえ」 ビルの頂、吹き抜ける風。『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)が呟きを漏らす。何でもかんでも面倒臭いと恰好付けちゃう若者特有のアレではないらしいが。 「当然そうじゃないにしろ、相手はエリューションだ。油断大敵、だよな」 「でも割りと穏当な部類ね。感情が渦巻いてフォース化するのはわりとよくある事例だし」 眼鏡を押し上げ『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が劫の言葉に口を開く。 「しかし相手が悪かったわね。精神無効と鉄心を兼ね備えたこの私に憂鬱など効くはずも――」 「鬱お化けだとう! なんたるものが出て来たんだ! 馬鹿め、この私に鬱なんて今までにあったことか、いや、そりゃある!」 アンナの言葉を遮る力強い声は『骸』黄桜 魅零(BNE003845) だ。 「もはやフィクサードに捕えられた時代が一番鬱だったわ! 毎日毎日の絶望を味わった事があるか! だから今、越えられない事は無い! たぶん!」 ぴこん。 「あれ、何かが立った音が……」 己と魅零の言葉にどうして? 眉根を寄せるアンナであったがそれフラグです。 「私などまだまだ四半世紀も生きていない小娘の立場ですが、一企業の代表取締という立場からしてこういう鬱病の怖さは分からなくもないです」 対照的に常の鋼の様な冷静さで『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)。社会で生きるには仕事が必要だけれども、この世界で好き好んで仕事をしている人間なんて極僅かだ。大多数が「これは仕事だから」と諦めに近い義務感で楽しくもない好きでもない仕事を日々こなせている。けれど、それには限度があって。 「……そこから鬱病が生まれるのでしょうね」 ある種、死に至る病。怖ろしいものだ。 けれど、 「絶対鬱な気分なんかに負けたりしない……!」 両手をぐっと拳に作って、『小石の塔』朝町 美伊奈(BNE003548)は自分なりの大きめな声で言い切った。うん、これでよし。シスターに教えて貰ったおまじないに満足気に頷いて。 (気持ちの物でしかないけど……でも、今回はそういう気持ちこそが大事だから) 頑張ろうね、と視線の先。勿論ですと返事をしたのは『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177)。 「シスターがいっていた。『フェイトをつかえば五月病もいちげきだ』と」 「姉さん、もうすぐ10月よ」 「え……う、うそだ、わたしはみとめない」 そんなこんなで。 チャリ、と蜥蜴の爪がコンクリートを掻く。 「……ある意味、一番やり合いたい類だ」 短剣ミラージュエッジを抜き放ち、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)。見据えたその先の『標的』――鬱お化けに刃を突き付け、告げるのは戦いの始まり。 「――行くぞ」 ●死ぬより残酷に頑張れ ずん、と重くのしかかる。Not物理的、つまり精神的。『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)は思わず「うわっ」と感嘆の声を発した、が。 「イエス・ポジティブ、ノー・ネガティブ。パニッシュメント・イン・メランコリック! きっちり倒してカラっとした空気を取り戻そうぜ、さーて始めるとしよっか!」 浮かべるいつもの快活な笑み。クールに神秘大剣『黙示録』の薄氷の刃を澄まし構えて――その切っ先と視線の彼方、影すら残すスピードで。 速く速く真正面、集中を重ねながら鷲祐がモヤモヤとした鬱お化けをその目で見澄ます。お前の相手はこの自分だ。モヤモヤ。ユラユラ。 (……何、してるんだろうな) 心にジワリ、鉛が流れ込む様な。自分はそれなりに幸せな人生を歩んで来たと確信しているけれど。けれど、戦いたくて。『好き』を探した。幸せを捨てて。そうしてどうなった? 無数の傷を負った。緋の砂が指からサラサラ零れて落ちた。まるで愛を失った様に。 もういいじゃないか。 もう、脚を、止めても…… 「決して見せるな」 心の声を現実の言葉で押し退けて、鷲祐は光が躍る様な猛刺突を鮮やかに繰り出す。速度を刃に変えたその技は、華麗なる一撃は、正に『ソードミラージュ』として相応しきもの。けれどその心。嗚呼。表へ出すな。己の内に在る限り、事物は形を為さないから。 「長々と付き合ってたら、余計なダメージ受けそうだしな……さっさと片づける!」 身体のギアを高めてそれに続けと劫が処刑人の剣を振り上げる。が、 「……っ? くっ、そ……何だよ、これ」 何も、何も何もしたくない。空虚だ。虚無だ。脳味噌が生温い。倦怠感。めんどくさい。何をするのも面倒だ。今直ぐ剣を置いて立つ事も放り投げて寝そべって眠ってしまいたい。 (思いの外、強力だな……あぁ、くそ、こんな任務何て引き受けるんじゃなかった……) でも、もういーや。強い仲間が何とかしてくれる。自分一人居なくったって。剣をぽいっと放り投げ。その場にゴロン。 「どうせ、俺に出来る事なんて何も無いのに」 鬱。 訳もなく自己嫌悪。 鬱。 しんどい。だるい。なにもしたくない。 鬱。 何で自分なんか生まれてきたんだろう……。 鬱。 「あ、これは無理だわ死のう」 命綱たる不滅革醒を発動したっきり、光の消えた目で魅零はコンクリートの冷たい地面に横たわっていた。目を開けるのも閉じるのも面倒で、半開きの虚ろな目。もういいじゃん、何もしなくっても良いじゃん、別に自分なら何もしなくったって攻撃を反射出来るし。ダメージも回復出来るし。それでまぁ上手い具合に適当に敵が死んでくれたらそれでもういいや。 「なんていうか……」 一番後ろ。アンナはとびきり暗い目をして座り込んでいた。はぁ、と吐くのは重すぎる溜息。自嘲の笑み。 「うん……よくある事例だけにきりが無いのよね……いくら潰しても全く同じよーな理由で日々現れるエリューション……果てしのない消耗戦……血を吐きながら続ける悲しいマラソン……倒しても倒しても……」 何の為に戦ってるんだ。虚しい。無意味だ。必要ないじゃん、自分なんか。あーあ……何でリベリスタになんかなったんだろう。 ぶつぶつぶつと皆がネガティブ発言に沈んでいる。総じて暗い顔。無気力。溜息の連鎖。 そこに追い打ちと言わんばかりにリベリスタを襲うのは鬱お化けが放つ無気力の感染。スーパーダウナー症候群。いよいよ以て、身体から力が抜け果てる。 「はぁ……」 先程までは明るくポジティブ元気一杯だった琥珀もまた、光の無い目で地面にだらり。もう土に還りたい。コンクリートにうじうじ『の』の字。 「俺何の為に戦ってるんだろう……過去の事なんて覚えてねーし……家族が生きてるかすら判らねーし……なんか……笑い続けてるのも疲れたな……あぁもう……立つのもめんどくせぇ……」 あの時死んでいれば。無駄に助かったりしなければ。 これが鬱。幻想闘衣を身に纏う彩花は思わず吐きかけた溜息を飲み込んだ。が、酷く何もしたくなくて。拳を下ろしたい。帰りたい。超帰りたい。今直ぐ帰りたい。どうしてこんな馬鹿々々しい敵と。 「あぁ、もう」 苛立った。一つは鬱お化けの齎す不快感の所為、一つはその所為で精神を揺さぶられた己に対して。 (働けない大御堂彩花など――) ぐっ、と握り直す拳。 (私自信が、許しません!) 心に渇を入れる様に、愛用の格闘用ガントレット『雷牙』で武装した拳を己の頬に叩き込む。ぐしっ、と痛い音。仰け反る頭。姿勢を正した鋼鉄令嬢はふぅっと息を吐き、裂けた唇から伝う血を親指で拭い上げた。構える拳。真っ向から地を蹴って、象牙色の拳を振り被り。 「私の実力、とくと御覧なさい!」 己に鬱お化けの注意を引き付けんと超肉薄、その鉄拳にあらゆる不正を絶対に赦さぬ神気を迸らせ――フックからのアッパーカット。鋭い一撃が描く軌跡は十字架、ラストクルセイド。 「やーいやーい」 皆いっぺんに鬱になったらとてもじゃないが目も当てられない。と言う訳で作戦通りに鬱お化けを取り囲む様にエリエリは立ち回り、フルボッコだ。超集中状態にさせた脳神経で迸る様な演算処理を行い、割り出し解析理解超越。小さな体に見合わぬ大きな斧を穴の開いた手で振り上げて、状況最善手。即ち物理でボコる。轟と空を斬る刃が鬱お化けに叩きつけられる。 「いいですか?」 カ、と石突を突き、渾身の得意顔で人差し指を突き付ける。 「やる気がでないときは、とりあえず手を動かすといい。これは脳科学的に証明されている霊験あらたかなる方法なのです!」 「はい、姉さん」 返事をしたのは美伊奈、操り人形を操る為の手板型破界器『sneak's scepter』をくるりと動かせば撃ち放たれる黒い衝動。 (ダメージ、受けたいな……) 傷付けながら想うのは傷付けられる事。痛みは気をしっかりさせてくれそうだ。それに自分はその方が調子が良い――故に、美伊奈は灰色の羽を広げて目立つ様に浮き上がる。狙われ易い様に。 その瞬間。少女の脳を貫いたのは、死を切望する程の鬱。鬱だ死のう。メンタルズタボロ。 美伊奈だけではない、鬱状態のリベリスタ達は鬱お化けによってじわじわダメージを蓄積させられていた。 仲間が傷を負っている。 アンナは相変わらずその場に蹲る様な体勢のまま遠い目をしてそれらを見ていた。何度目かの溜息。面倒臭い。嗚呼、まぁ、でも……結局やんなきゃ行けないのは変わんないのよね。 「ほっておいたら周りの人に被害でるだけだし……うん」 溜息と共に立ち上がる。スカートを一払い。鬱。こいつはハッキリ言って根本的に改善する類ではないけれど、だからと言って何もしないのはアンナの性格に反する事だ。 「テンション下がっててもやることはやる堅物が私よ。ルーチンワーカー舐めんな」 暗かった目に力が戻る。己に言い聞かせるように言葉を吐き捨て、翳す掌。この程度、地力でなんとかしてやる。鬱だろうが傷だろうがブチ治してやる。 「いいわ。鼻血出るまで癒してあげるから、覚悟なさい」 きらりと輝く不死身の眼鏡。おまえはふじみだ。唱える詠唱。全ての救い。顕現させるは大いなる奇跡――Deus ex machina.機械仕掛けの神様が、その手の届く全てを全てを癒してゆく。治してゆく。出鱈目な程に。 (腑抜けてんじゃねぇよ、桜庭劫。お前のあの時願った思いはそんな脆い物だったか?) それに後押しされる様に、劫は奥歯を噛み締める。思い出せ。何の為に剣を握ったのだ。受け継いだ『覚悟』は。そこに刻まれていた『記憶』は。思い出せ。微温湯みたいで反吐が出そうになる時も、馬鹿みたいに辛くて、音を上げそうになった事も、何度も何度もあるけれど――『それでも俺は』。 「……この日常を、仮初めの平和でも留めて置きたい」 今が永劫になればいい。滅茶苦茶だとは承知だけど。鬱を振りきり起き上がる。拳を作る。視線の先には琥珀。 「ぐわああああ生きることを放棄してるとか阿呆か俺は!」 絶好調でウダウダしているらしい。頭を抱えて怒り心頭地団太踏んで。全くこいつは。俺も人の事は言えないが、仕方ない。加減なんて必要ない。 「良し、歯ァ、食い縛れよ……浅葱ィ!」 「うぉらー起っきろー!」 声が同時に重なった。ほぼ同時だった。劫が琥珀へ拳を振り下ろしたのと、琥珀が劫へ振り返って拳を突き上げたのは。 めしょ。 クロスカウンター。鼻血がびゅっと吹き出て。或いは口から血が垂れて。互いに滑稽で。笑った。なんて可笑しい。腹を抱えて。 「浅葱。いい加減、エンジンも掛かって来ただろう?」 「そうだな、桜庭。アイツもう許さねえ!」 「それじゃあ、そろそろ行こうぜ。──時間は止まってくれない」 それを留めておく事が決して出来ないと言うのなら。 輝き続けよう。せめて、その刹那の中で。 「「おらァッ!」」 重なる声、重なる技、劫が速度を乗せて突き出した処刑剣が何処までも鋭く鬱お化けを捉え、琥珀が黙示録を振るえば夜を駆ける闇が立て続けに白いそれへと喰らい付いた。 時間は止まってくれない――その言葉に反応を見せた者が一人。じわりじわりメランコリックな気分に苛まれていた鷲祐。 堪えろ。無意味だ。諦めるな。どうせお前は二流。違えるな。戻ろう、幸せなあの日々に。終わりにしよう。全部お前のせいなんだから。諦めて、さ。 (――言ったな) それでいい。全部全部自分の所為。傷も後悔も失ったモノも全部。認めてしまえ深く深く心に突き刺してしまえお前のミスだお前の責任だお前の罪だ全部全部全部! (だから、前に進むんだ! 一番下まで堕ちれば、後は上がるだけ。そうだろ!) そうだ時は待ってくれない。だからこそ追い越すのみ。 「答えはいつも、己の外に出した事物。それだけだ」 重ね、重ね、重ねた集中。答えは最初から、これしかない。 飛び越えろ、常識を速度を。飛び越える。 「神速で断ち斬るッ!!」 神速斬断『竜鱗細工』。撃ち砕く音速の壁。砕けたそれは竜鱗の如き刃となり、触れる全てを斬断する。 速くあれ。それは正に司馬鷲祐という男を表す一撃。捉えられる者等、何処にもいない。 今だ。タイミングを見計らい、トドメを狙う彩花が鋭く踏み込み、再度の十字攻撃を敢行する。 仲間が頑張ってる。自分も頑張らないと。でもでもでも。 「ぐぬぬぬ、この野郎……そうよ私はどうせダメな子よ起死回生するまで役に立たないし今だって敵とかめちゃ怖いしもはやリベリスタやめたいくらいにはこの生活が合ってないんじゃないかってくらいにチキンなのよぉぉチキンだからいつまでたっても好きな男の子に告白だってできないまま死んでいくのよぉぉおー!!」 地面にごろごろもだもだ尻尾びたんびたん。魅零はうつぶせたまま「このまま腐り果てて腐葉土になりたい」と暗く呟く。せめて恩返しの為にアークの依頼くらいは頑張りたいけど、アカン、目の前のコイツは強敵ですわ。でも起死回生すれば。ダメージ喰らったら本気出そう。 「そうよ、私なんて起死回生するまで役立たずのただの雌豚なのよおぉおうっ! 此処まで醜態晒して! もはや仲間にみせる顔も無いわ!」 自己嫌悪の涙をぶわぁと溢れさせ、魅零は大業物を抜刀しながら立ち上がった。鞘を遠くに投げ捨てて。 「なら、せめて!! 目の前の敵くらい倒して私も死ぬぅぅう! うわぁあああん! 死ぃいいいに去らせぇえッ!!」 ヤケクソ、或いは窮鼠猫を噛む。羅刹の様な表情で刃を振るえば苦痛の匣が鬱お化けを閉じ込めた。 皆、それぞれ鬱に立ち向かう。 鬱になったら頑張るのは逆効果、激流に立ち向かうのではなく受け入れて認めてその流れの中で己を見出すのだ。エリエリは思う。そう、あきらめてはいけない。すこしずつ、じぶんのできることを! 「……と、そんな簡単に克服できたら世間の皆はくるしまずにすんでいるとです」 グッタリ。だめだ、もうだめだ、えりえりは何もできないだめな子だ。地面に転がって丸まって。 「むしぱんになろう……ものいわぬむしぱんに……」 わたしだって、むしぱんになりたいときもある。ごろん。そんなエリエリと同様に美伊奈も鬱気分。全身が重い。全部全部が重苦しい。生きてるだけで疲れて苦痛。このまま縮んで縮んで消えてなくなりたい。 (どうせ、どうせどうせ) 絆と幸せの小石を積み上げできた『塔』も、きっとすぐ壊されて台無しになるんだ。 ――いいえ。 耳を澄ませ声を聴け。皆がいる。みんなが、いる。少女は『皆』の写真が収められたハートのロケットを握り締めた。じんわり、温かい気がした。まだ、いる。まだ塔はある! 「だから駄目。消えるわけにはいかないの。今度こそ、そんな簡単に壊させたりしない……!」 負けない。自分の為、自分の願いの為。振り払って、むしぱんになっている姉を見遣る。水筒キュポッ。 「ほら姉さん、これを飲んで気をしっかり……!」 ねじ込むおしおき茶。ショック療法。飲む因果応報。抹茶味にしましょうね。安心して素直に飲みましょう。飲みましょう。飲みましょう。 「ごぼっごぼぼっ がんばりまーす! みいちゃんのお茶でぱわーぜんかいげんきひゃくばいえりえりがんばりまーす! おくすりのめたね! 思い込みいずぱわー!」 大丈夫、飲んでもただちに健康に問題はない安全な物です。えへへえへへと緑色(※抹茶)の涎を垂らしながらパーフェクトに斧を振り上げた。美伊奈も刻まれた痛みを『痛み』に変えて、振り被る。 鬱よ去れ。 衝撃轟音、引き裂き突き刺し。 そして、遂に鬱お化けは霧散して消え果てた。それを境に先まで一体に重く横たわっていた鬱気分も消えてなくなる。ヤレヤレだ。身体より心が疲れた気がする。うーん、と魅零は一つ伸びした後に。 「さ、皆帰るよ」 なんだか取り返しのつかない醜態だったけどこれは依頼だから仕方ないわよね。うん。全部、鬱お化けが悪いんだ! しかし恐ろしすぎる敵だった。琥珀は心から安堵する。 「鬱は休息取らないと掛かりやすいらしいんで気をつけなきゃだけど、やっぱり人生明るく生きないとなっ」 時間が勿体ないぜ! そう言って、彼はいつもの様に快活に笑うのであった。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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