●安倍の決意 「――またこの寺を守ることができなかった。先祖代々から続いてきた由緒あるこの名刹を自分のせいでこんなにしてしまった。俺はもうこの寺を守る資格も誇りもない」 安倍行哉は膝をついて項垂れた。寺は崩壊してしまっていた。これまでずっと先祖代々守りとおしてきた寺が大きな衝撃音とともに崩れ落ちた。 フィクサード『新撰組』との戦いで寺は大きな傷を負った。天井や壁に穴を開けたことによって基盤が脆くなっていた。さらに爆風の衝撃で寺は耐えきれなかった。 行哉は京都のリベリスタとして奮闘してきた。アークのリベリスタに時節助けられながらもなんとかこの名刹や妹の芽衣香、京都の治安を守ってくることができた。 全て自分のせいだった。自分がしっかりしていないから芽衣香やさらにはもうこの世にはいない大勢の仲間を危険に晒してきてしまった。 「見るも無残な光景だな。アークの連中も後付けをしないで帰るとは無慈悲な奴らだ」 「お前は――黒蜥蜴、蒼乃宮静馬? なぜまだここに」 黒づくめの背の高い男が行哉の背後から現れた。男の名は蒼乃宮静馬。フィクサード『隠密御庭番衆』の御頭だった。本来はリベリスタの敵だったが、共通の敵である『新撰組』を倒すのに協力してほしいと依頼を受けて今回特別に共闘した。 すでに新撰組は撃退されたはずだった。静馬がここにいる理由はもうない。行哉は警戒した。もし今静馬が襲ってくれば行哉はひとたまりもなく殺される。 「安心しろ。殺しはしない。それにあの男との約束は最後まで果たすつもりでいる。安倍とか言ったな。お前はこれからもリベリスタを続けるのか?」 「俺はもうリベリスタ失格だ。誰の為の力か――それは、芽衣香や大切な友人を守る為の力だ。それをどうしても手に入れたかった」 「そんな甘い正義では誰も助けられない。もとより自分も生き残れない。強ければ生き、弱ければ死ぬ。それがこの世の絶対の理だ。だから俺たちは最凶になることを決意した。お前は絶対の強さを身につけたいんだろう? だったら俺達と一緒に来い。安倍はもっと強くなれる。ちょうど身近に一つ決闘があるからそこで自分の強さを証明しろ」 行哉は遠くで後片づけをしている芽衣香の姿を見て思う。俺が傍にいるから芽衣香は不幸になる。だったら俺は死んだほうがいいのではないか。このまま皆に迷惑をかけるくらいならいっそのこといなくなってしまった方がいい。 「俺は誰も傷つけない力が欲しかった。誰よりも強くなって大切なモノを守り抜く絶対的な力がほしい。その為にはどんな困難があってもやりとおして見せる」 行哉の言葉を聞いて静馬は口元を僅かに動かしただけだった。行哉はもう後ろを振り返らなかった。しばらく経って芽衣香は兄の行哉の姿がどこにも見当たらないことに気づく。 「お兄様、どこにいってしまったの? お願いだから帰って来て!!」 芽衣香はとうとう泣き崩れて瓦礫の上に身を突っ伏してしまった。 ●意趣返し 「京都のフィクサード集団『隠密御庭番衆』が行動を開始した。奴らは真田菊之助翁という今は引退した先代の御庭番衆の御頭を襲おうとしている。このままでは真田翁たちの命が危ないわ。そうなるまでに御庭番衆達を撃退してきてほしい」 『Bell Liberty』伊藤蘭子(nBNE000271)が髪を掻き上げながら集めた資料を元にしてブリーフィングルームのリベリスタ達に状況を説明した。 真田翁は蒼乃宮静馬の師匠に当たる人物だった。元々はフィクサードだったが、人を殺すのに嫌気がして引退し晩年はリベリスタとして活躍していた。 菊之助は静馬を何とか改心させようと長年努力を払ってきた。いつまでも最凶の名に拘って無慈悲に人を殺めて混乱に陥れようとする静馬を見るのが我慢できなかった。 静馬は御庭番衆の誇りと名誉を失っている。翁は自ら自分の弟子である静馬を抹殺することを決めて有志のリベリスタ数人とともに決闘を申し込んだのである。 「今回の情報は京都のリベリスタでフォーチュナーの安倍芽衣香ちゃんから直々に教えて貰ったところが大きいの。彼女の兄である元リベリスタの安倍行哉も隠密御庭番衆の一員として戦ってくることが予想される。まだ彼は迷っているところがあるみたいだから、そこに付けこんで敵の連携を崩すことができるかもしれないわ。むろん他の幹部の連中はいうまでもなく手強い。くれぐれも気を付けて行ってきてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月27日(金)21:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●心の迷宮路 「うちのいっちーが安倍さんに話があるって言うんでね。悪いがその他大勢は付き合ってもらうぜ」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が詰め寄った。後ろからやってきたリベリスタ達の登場に蒼乃宮静馬含む御庭番衆が一斉に振り返る。 「貴様ちょうどいいタイミングでやってきたようだな」 冷徹な双眸で静馬はやってきたリベリスタたちに視線を投げ返す。すぐに支援の体勢に入るために辺りを警戒していた部下が一斉に配置についた。 『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)が真剣な面持ちで前に出る。視線の先には今にも真田翁を殺そうとしている陰陽師の後ろ姿があった。 「羽柴。お前はあいつの所へ行ってやれ。伝えたいことがあるんだろう?」 『ヤク中サキュバス』アリシア・ミスティ・リターナ(BNE004031)が壱也の肩を叩いて問いかける。他の仲間も全員壱也のことを見つめていた。 「新田さん、それにみんな――ありがとう。わたしお馬鹿さんを連れ戻してくる」 壱也が仲間にそう言ったのが合図になった。すぐに『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)が翼の加護を付与してサポートする。 「せんとーはまかせてくださいですっ!!」 ミミミルノに元気よく見送られて壱也はすぐに飛び立った。 『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)と『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィル(BNE004479)が並んで一斉に火炎弾を作りだす。敵が動き出すよりも早く業火の弾幕を周りの敵に放った。辺りが灼熱の火の海に包まれる。 敵の陣形が乱れたところに『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)がガンブレードを突きつけてさらに連射して巻き添えを作った。その後ろからそうはさせまいと近づいた敵幹部の白虎が刀を突きつけて迫る。 「てめえの相手はこの俺だ。邪魔するんじゃねえ」 『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)が白虎の前に立ちはだかる。ショットガンを連射しつつそれ以上味方の方へ近づけさせない。 その隙に速度を活かして快とともに敵陣の中を『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)が斬り込んで行く。その後ろに『うっちゃり系の女』柳生・麗香(BNE004588)も続いた。真田翁がいる場所に一目散に向かう。 安倍行哉は呪符を持った手を止めた。真田翁の前に快が割り込んでさらに自分の前には祥子と麗香が入ってくる。邪魔者を蹴散らすために呪符を握りしめる。 「待って、殺しちゃダメよ。もう二度とあの子に会えなくなるわよ?」 祥子が攻撃しようとした行哉に問いかけた。一瞬、行哉の表情が曇る。だが、妹の芽衣香はもう捨ててきたはずだった。後ろで今は自分の上司である蒼乃宮静馬も自分がきちんと任務を遂行できるかどうか見ているはずだ。こんな揺さぶりで動揺している場合ではないと影人を作りだして応対する。 「あべし! そのじいさんにトドメを刺したら元には戻れねーぜ!」 麗香が影人を排除しようと近くにいる敵に刀で斬りつけて吹き飛ばした。それでも他の作りだした影人たちが麗香に襲いかかろうとする。そうはさせないと快がアッパーユアハートで周りに居る手下や影人を一斉に自分の元へと引きつけた。 迫ってくる敵に次々にナイフを繰り出して斬り倒す。だが、あまりに大勢の敵に囲まれてさすがの快も対処しきれなくなった。 「構わん! 俺ごとやれ!」 快が仲間に向かって叫んだ。意を汲み取った拓真とアリシアの弾丸が快を巻き込みつつ周りの敵もろとも弾幕の激しい雨の中に呑み込んだ。 ●仲直りの証 「何、してるの。安倍くん」 追いついた壱也が行哉の前に割り込んで入った。その瞬間、行哉の目が大きく開かれて動揺が走った。思わず手に持った呪符が震えてしまう。 壱也はもう他の敵を見ていなかった。真っ直ぐに行哉だけを見つめる。 ブレードで行哉の身体を渾身の120%の力で叩き斬った。斬られて倒れ込んだ行哉に壱也は真っ直ぐに突っ込んで行く。 「どうして――?」 「この間、あとでお仕置きって言ったから、しにきたよ」 行哉にとってこの場面で一番会いたくなかったのは他ならぬ壱也だった。その経緯については改めて言う必要はない。ただもう会うことはないと思っていた。 妹の芽衣香を捨てて強さを求めるためにリベリスタを止めた。もちろん苦渋の決断だった。今まで自分を助けて貰った人たちを裏切ることになる。 行哉と壱也が対峙している間に祥子が真田翁と付き添いの翔一と修吾に手を差し伸べた。壱也が引きつけている今が絶好の逃げるチャンスだった。 「あたしに捕まって、それじゃあ行くわよ」 「君たちはアークのリベリスタか? ぜひそうさせてもらおうかのう」 真田翁は自身が受けた傷の割には元気そうだった。だが、早く回復しないと取り返しのつかないことになる。他の二人も重傷を負って顔色が悪かった。 祥子は真田翁を背負ってすぐにその場を後にする。後ろから付いてくる二人には、シィンがサポートに入って近づいてくる敵から身を挺して庇う。敵のスターサジタリ―が乱射してきてシィンはなんとか踏ん張りながら絶対に二人に攻撃を通させない。 「意地でも守り抜きますよ! ぜったいに邪魔はさせないです」 それでもシィンが力尽きそうになって甚之助がシィンをさらに庇う。自分も大して堅くはないがそれでもうら若き乙女が目の前でやられるのだけは許さない。 「まだまだこれからが真骨頂だ」 レイザータクトや覇界闘士もやってきて甚之助が危機に陥る。フラッシュバンを投げつけられてさらに続けてやってきた敵に投げられる。痛めつけられたところに般若の面を被った鬼阿弥が現れた。だが、鬼阿弥は甚之助を狙わず説得を行っている壱也の方へとスピードを生かして突き進んで行く。 「羽柴の邪魔はさせないぞ。お前の相手はこの私だ!」 アリシアが鬼阿弥の行く手を阻んで銃をぶっ放す。気がついた鬼阿弥はすぐに身を翻してアリシアの方へと接近してきた。超幻影で鳥居を作りだす。 周りに参道の物とは違う赤い鳥居が複雑に連なった。辺りで敵と対峙していたリベリスタも突然の鳥居の出現に一瞬迷いが生じる。だが、麗香やシィンはエネミースキャンでどれが本物の鳥居かを見抜いた。すぐに味方にその場所や位置を知らせる。 「鳥居の陰にまだ敵が潜んでいます。注意して下さい!」 紫月が千里眼で見とおして奇襲攻撃を狙っている敵を発見した。すぐに拓真が行ってダークナイトとデュランダルに双剣を突きつけた。身を華麗にこなしながら迫る敵に双剣の連撃を叩きこんで邪魔者を掃除する。 アリシアも味方に教えて貰いつつ自らも超直観であたりを付けた。鬼阿弥にではなく、幻影の方に銃を乱射して消滅させる。ハイバランサーで辺りを縦横無尽に駆け巡りながら敵の鬼阿弥に的をなかなか絞らせない。 味方が奮戦している間に壱也は行哉に語りかけていた。 「まずはお寺壊してごめんなさい。どうしても安倍くんと妹さんを助けたかったから。わたしは強くないからどっちかだけなんて選べなかった」 壱也はまず謝った。行哉は怒鳴られると思っていただけに驚いた。寺ではなくて何よりも大切な行哉と妹の芽衣香の命を優先したことを壱也は伝えた。 「謝らないで欲しい。悪いのは全部俺だ。壱也さんは悪くない」 目を逸らしてしまった行哉にさらに壱也は詰め寄る。 「安倍くん、自分がしようとしていることを、口に出して言ってみて」 行哉は唇を噛み締めたまま何も言うことができない。傍で戦っていた紫月も壱也のよこから行哉に対して声を大きくして伝えた。 「そもそも、貴方はそこまで強い人間だったのですか? 妹さんや他の誰かの力を借りてこれまでやって来た筈です」 「俺は――」 「それとも、自分の兄を想う妹の心など煩わしい? 之まで共に過ごして来た仲間の信頼も要らなくなったら捨てるんですか? ふざけないで下さい!」 紫月が強い口調で行哉を罵倒する。紫月はあの人のように甘くするつもりはなかた。行哉を見ていると何だかイライラする。誰の為の力だとこの前まで迷っていたあの人とダブって見えたからだ。それで余計に見ていて腹が立つのだろう。 「安倍くんはそれで、笑えるの?」 壱也の言うことがトドメを刺した。言葉には現わさないが、これまで助けてきたのは今自分がやっているように人を殺めて手を汚すことではない。 バチンッ!! 壱也は行哉の頬をグーで殴りつける。大きな音が響いて行哉の顔に大きな赤い腫れが出来ていた。行哉はようやく壱也を正面から見ることができた。 「壱也さん、俺――」 壱也は微笑んだ。仲直りの印に殴られたんだと行哉はすぐにわかった。 その時だった。今まで戦況を見守っていた蒼乃宮静馬がついに動き出した。 ●最凶の名を証明する為に 「そんな生ぬるい意思ではこの御庭番衆を名乗ることは許されない。安倍行哉――貴様にはもう用はない。死んでもらうぞ」 静馬は背負っていた長剣の鞘を抜き取った。真ん中から割れて鋭く尖った二刀小太刀が姿を現す。すぐに壱也の元へと斬りかかった。 「壱也さん、危ない!」 背後から襲ってきた静馬に気が付いて行哉はとっさに壱也を庇った。その瞬間、無尽殺人奇剣が行哉を滅多切りにしてその場に崩れ落ちた。 「馬鹿! あたしを庇ってどうするの!?」 ぐったりとした行哉に壱也は攻め寄った。先ほどの自分の攻撃を受けて弱っていたところに静馬の技をまともに浴びてしまった。すでに顔色が悪い。 「何があっても、何度でも守るって、言ったじゃない。安倍くんのわからずや!」 壱也は叫んだが、行哉は動かない。血の気がなくなりつつあり、このままでは行哉は死んでしまいそうだ。静馬を攻撃したいが、さすがに行哉を背負って戦うことまではできない。静馬が再び二刀小太刀を構えて詰め寄った。 「羽柴! ここは俺に任せろ! 安倍を連れて早く逃げるんだ」 「うんわかった!」 壱也は動かない行哉を連れて後ろに後退した。 「此処からが本当の戦いだ、これで心置きなく戦える……そうだろう、蒼乃宮静馬!」 拓真はジャガーノートを使用して静馬の前に立ちはだかる。双剣を真っ直ぐに静馬に突きつけて威嚇した。「誠の双剣」の登場に静馬も答えた。 「いいだろう。貴様とは決着をつけねばなるまい。新城弦真の正当な後継者はこの俺の方であることをこの鍛え抜かれた技と二刀小太刀で証明してやる」 静馬が二刀小太刀を抜くや否や一直線に突き進む。拓真が双剣でもって静馬の二刀小太刀をすべて受けきった。激しい鍔競り合いが繰り広げられる。 「小賢しい――それで俺に勝てたつもりか!」 静馬はその時後ろにひらりと交した。まるで流れる水の如く身体を動かして拓真の攻撃から的を絞らせない。しびれを切らした拓真が剣で突き刺そうとした所で静馬が身体を思いっきり捻って回転しながら二刀小太刀による連撃を繰り出す。 風刃と直刃による乱舞が拓真の身体を次々に斬り裂いた。 「ぐはあああああっ!」 静馬の必殺技である回転舞剣撃が拓真を切り刻んだ。破壊力のある攻撃をまともに食らって拓真はその場に血を吐いて崩れ落ちてしまう。 拓真を斬り伏せた静馬はアーティファクトの力で分身した。そうはさせまいとシィンとアリステアが分身めがけて突入する。 「イヤー! ……グワー! って言ってくださいよ! ニンジャなんでしょう!?」 分身目がけてシィンは挑発する。何も言わずに迫る敵に対して、エネミースキャンを使って弱点を分析しつつ弱そうな分身からまとめて火炎弾でノックバックして蹴散らした。さらにアリシアも同時に複数の分身を相手に射撃した。 御頭が拓真を斬り伏せたところで威勢をよくした鬼阿弥と白虎が拓真を嬲り殺そうと次々に集まってきた。真田翁を助け出した祥子が今度は拓真を救助しに戦場の真ん中へと突っ込んで行く。神気閃光ですぐ脇にいるホリメを攻撃しながら後ろから来る仲間にあとは任せて自分は拓真を助け起こした。 「しっかりして、すぐに回復してもらうから」 ファイナルスマッシュを静馬にかましてそれ以上近づけさせない。鬼阿弥が祥子を狙ってやってくるがそこに甚之助と快が立ちはだかる。 「半端モンを外道に誘ってんじゃねェ。意地汚ェんだよテメェらは」 「誠の双剣と"御頭"の戦いだ。水を差す無粋は無しといこう」 甚之助と快が言葉をぶつけて襲いかかった。縦横無尽に掛ける鬼阿弥の魔の毒爪が背中から迫る。後ろを素早く振り向いた甚之助がショットガンを突きつけて魔弾を撃ち放った。意表を突かれて後退する。 快は集中して鬼阿弥へと突っ込んだ。幻影の鳥居に隠れようとする鬼阿弥の幻術に熱感知と超直観で位置の特定をする。 腕を真っ直ぐに前へ伸ばしたまま接近した。幻影の鳥居に位置を惑わされないように自分の腕と武器の間合いを信じて振りぬく。 「一刹那に十字を重ねる二重の斬撃、これが俺のラストクルセイドだ!」 鬼蜘蛛が毒爪で受けきろうとするが、さらに快は左手を重ねて連撃を放つ。 「ぐああああああっ!!」 斬り裂かれて般若の面が吹き飛んだ。 そこへ分身を排除したアリシアが立ちはだかる。銃が壊れた振りをしてわざと鬼阿弥の意識をこちらに引きつけた。 「かかったな! 全力でやらせてもらうぞ!!」 鬼阿弥の毒爪が伸びる瞬間を見計らって逆に長銃を腹に突き刺す。ゼロ距離射程からの射撃をまともに食らって鬼阿弥はついに崩れ落ちた。 ●強くなる近道 「なんと――それでは拓真殿はあの弦真殿の孫であられたか」 ミミミルノに回復を施されて拓真はやっと立ちあがっていた。祥子にまだ深手を負っているから無理をするなと言われたが拓真は頑として聞かない。 「真田菊之助殿、一言御教授頂きたい。貴方は奴の師だったのでしょう」 拓真は懇願した。このままでは奴に勝てない。真田翁は静馬の師匠である。あの回転舞剣撃を享受したのも他ならぬ真田翁の手によるものだ。 「奴の攻撃は無尽殺人奇剣によるもので真似は出来ない。静馬を上回るとすれば流水の如く速く風のように強く剣を振わなければならない――それができるかの?」 拓真は目を瞑って思い出した。先ほど静馬に受けた太刀筋を脳裏に思い描く。 「思うに御頭さんの小太刀は拓真さんの刀より小さいから威力がその分ないと思うんですよ。だからその弱点を突けば勝てるかもしれませんね」 シィンがエネミースキャンで先ほど分析した情報を拓真に伝える。 静馬の唯一の弱点は小太刀による威力半減だ。その分普通の刀よりも早く動くことができるが破壊力に関しては長刀に及ばない。 「拓真殿はあの剣神と称えられた男の血を引き継いでいる。拓真殿なら今の修羅に堕ちた静馬をきっと救ってくれるに違いない。どうか奴をよろしく頼む」 真田翁に懇願されて拓真は頷いた。すぐさま静馬のもとへと再び突進する。途中で白虎たちが襲いかかってきたが祥子が止めに入って道を作った。 「たった二人の兄妹を引き離したら可哀想じゃない」 祥子は撤退を促した。甚之助も「こんなケチな喧嘩でお仲間失っていいのか? 志の低い奴らだぜ」と言いつつ拓真の行く先を作る。 「最凶の名になぜ拘る? お前たちは伝統という鎖に縛られているように感じる。変えるべきところは変え、維持するところは維持する。そこの偉い爺さんはそうしたかったのかもしれない。先代の言葉はある程度尊重してやるべきだろう」 アリアシアが銃撃で強制的に邪魔者を撤退に追い込んで行った。 「蒼乃宮静馬、確かに貴様の剣の腕は強い――だがそれゆえに惜しい」 拓真は双剣を突きつけて挑発した。対峙した静馬があからさまに顔色を変えて拓真の元へと歩み寄ってくる。 「いいだろう――何度も斬り裂いてやる、『誠の双剣』いざ勝負!!」 突進しながら静馬は重心を低くして構えた。相手が技を繰り出すより早く双剣を操って攻撃をしかけた。 拓真は静馬の動きを見抜いて双剣を構えた。敵が回転舞剣撃を繰り出すより早く動き始める。拓真の左足が動いた。 「同時の双剣同士による剣撃! 速さは互角――となると勝負を決めるのは技の破壊力か」 快が固唾をのんで見守る。拓真はまるで流れる水が如く動き、疾風が如く迅さで剣を操った。敵の回転舞剣撃より早く強く剣を振う。 拓真の左剣が先に静馬の小太刀を狙う。威力のある刀の攻撃を受け止めたが続いて右剣がさらに襲いかかり小太刀を吹き飛ばした。 「そんな、馬鹿な!!」 静馬が拓真の左剣に叩き斬られた。斬り伏せられた静馬は傍で控えていた白虎に支えられてすぐにその場を撤退していく。 蒼乃宮静馬達を撤退させて残ったのは安倍行哉一人だけだ。すでにミミミルノたちに回復を施してもらい一命を取り留めていた。 「強くなるのに近道なんてない。なんでわたしたちを頼ってくれないの? アークにおいでよ、安倍くん。もう一人で頑張ろうとしないで、もう大丈夫だから」 壱也は傷ついた行哉を抱きしめて優しく問う。「ありがとう壱也さん」と行哉は一言だけ呟いて深い眠りへと落ちていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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