● まるで燃えている様な夕焼けが広がっていた。 真っ赤な世界で、2人。帰りたくない、もっと遊んでいたいと泣き喚く妹に、困った顔をしていた姉が居た。 もう時刻は5時半を過ぎているのだ。門限は6時で、それを過ぎてしまうとお母さんに「お姉ちゃんなんだからしっかりして!」と怒られてしまう。子供心から、親に叱られる事態だけは絶対に避けたいのだ。だからこそ妹の手を強く引いてみるものの、対抗され、歩く事を放棄した妹はまるで引きずられている様にも見えた。 「帰らないと怒られるの!」 「やだやだやだやだ砂場でまだあそんでない!!」 「明日遊ぶから」 「やだやだやだやだ! いまがいい!!」 妹を掴む腕が更に強くなった。其処から感じたのか、姉の苛立ちを察した妹は遂に大声で泣き出してしまったのだった。 おお。どうした、最下層の者よ。 おお。泣いているのか、最下層の者よ。 何処からか、そんな声が聞こえた。女性にも、男性にも取れるそんな声が。 直後、夕焼け以上に地面が明るく照らされたのだ――姉は思わず尻もちをついて、開いた口が塞がらないまま、妹を抱き寄せては本能的に護ろうとした。 「なに……これぇ」 熱い、暑い、周囲の気温があり得ない速度で高まっていく。妹は枯れた声で泣き続けた。 おお、おお、泣くでない、泣くでない。 餓鬼の泣き声は嫌いなのだ。 そうか、原因は姉なのか。 ならば。燃やして失くしてしまえば、泣き止んでくれるだろう。 泣くでない、泣くでない、笑え、笑えや。 何故、笑わない。 ● 「みなさんこんにちは。依頼をひとつ、宜しくお願いしますね」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達へそう切り出した。配られた資料を捲りながら、説明をひとつひとつ紡いでいく。 「敵は識別名『火の鳥』。まあ、見たまんまです。敵……と呼ぶには慈悲深い相手ですのでちょっと違和感がありますね。ですが上位の世界の慈悲と此方の世界の慈悲は全く違うものなので追及しても仕方ないものです」 その火の鳥は、偶然開いただけの、彼方と此方の世界を繋ぐDホールから子供の泣き声がするので最下層である此の世界に来てみた様だ。子供の泣き声を止めようとしたものの、姉を燃やされる事態だけはどうしても避けたい。 「なので、一般人の救出をお願いしたいのです。それと同時に火の鳥の対処をしてください。火の鳥はフェイトを得ていないアザーバイドなので、どちらにしろ此の世界に留まられても良い事は無いので……」 火の鳥の対処は討伐でも、送還でもどちらでも構わない。この世界から脅威を無くしてくれればそれでいいのだ。 「火の鳥はアザーバイドですが、此方の世界の言語は通じます。できれば平和的解決をして、上位の世界と平穏は保ちたいですね。それでは皆さん、宜しくお願いします」 杏理は深々と、頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月29日(日)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 熱風に高音、劫火の嵐。まるでその場の空気を全て燃やし尽くすかの勢いで燃え盛る物体は舞い降りた。 妹を抱きしめ、ただ口を開ける事しかできない姉の前に濃い影ができた。そのシルエットは『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)や『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)のもの。二人は彼女達と火の鳥を――それこそ、表の世界と裏の世界を隔てる壁の様に立つのであった。 「ちーす! 初めまして!」 大きな声で、警戒心0の振舞で、琥珀は火の鳥に話しかけた。 「……アザーバイドは友達じゃないのよ」 「まあまあ、でも敵じゃないんだしさ!」 恵梨香がぼそりと呟いた一言に、琥珀と彼女のこしょこしょ話は始まった。そんな二人の間に割って入った『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は片手を顔の前で縦にし、謝るポーズを決めながら、 「ごめん、率直に言わせてもらうけども、熱い!」 と、オブラートにさえ包まない尤もな意見を言ったのであった。 おお、少年。我は火の化身たる身。燃え盛る炎が涼しかれば意味は無し。 「やっ、そうなんだけどよ……それが駄目なんだって!! な、相棒!?」 「うむ」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)は竜一の投げかけに、顔を縦に振った。 「ウッス! オレはフツ、焦燥院フツだ。お前さん、名前とかあるのかい。あったら教えてくれ! なかったらいい!」 ふむ。 「ふむっていう名前なのか!」 「いやそんな訳無いじゃん」 黙り込んだ炎。竜一は手の甲でフツの胸を叩きながら――――火の鳥との話は続けたい。 「自己紹介も終わったところでお願いだ。とりあえず、お前さんが焼こうとしてる姉も、妹も、焼くのは止め―――!!?」 フツが静止を促した、しかし刹那、前足でリベリスタを退けようと火の鳥は動き出したのだ。咄嗟に『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)と『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が片方ずつの足を抑えて、進行を止める。押されず、かといってその場所から動かさず。 「悪い奴では無いと信じてんぜ……少しだけ、俺達のお話に付き合ってもらうぜ!」 エルヴィンの一言一言から漏れ出るのは火の鳥を落ち着かせるためのもの。マイナスイオンを乗せ、どうか躍起になっている心を鎮めて欲しいと願うばかり。同時に空の手を見せて、何も武装していない事を見せつけるのであった。それはエルヴィンだけでは無く、琥珀たちは勿論全員が共通して行っている。 轟轟、音にするならそれが相応しいか。優希の紅蓮色の瞳が相応の熱を見て、煌びやかに光るのであった。これが火の鳥か、と考える程度には余裕のある力を受け止めている優希。だがしかし、だからといってこの先に進ませる訳にはいかないのだ。振り返れば、幼い少女たち。『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)が姉の背にそっと手を置き、大丈夫だと目線で言うのだ。それから彼女は火の鳥へ向き直り、火の鳥の近接へと歩を進める。 ―――熱い。 背中の黒き羽の先が、燃えて散り散りになっていく程に燃やされているのだ。だが彼女は一切苦しそうな顔をせず、むしろ穏やかな表情で燃やされるのであった。怖くない、恐くない、敵では無い――そう、語り掛ける様に。 ジリリと、肌が熱で痛い。『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)は泣き喚く妹の声が、やけに耳つく。うるさい――のでは無く、むしろ早く止めてあげたい。姉を殺そうとした悪い鳥なんて、早々に死んでしまえば良いとさえ思えるのはきっと彼も兄であるからなのだろう。しかし今回は送還がメインである事はきちんと弁えている。 さあ、思考を始めよう。全てを解決する方法、何も死なず、何も傷つかず、丸く収めるために考えるのだ。 ● マイナスイオンのおかげか、はたまた越えられない壁に屈したのか、火の鳥は静かに成ってはその場で羽ばたき炎上するだけになった。 「とりあえず、離れて。お願い、もう少し後ろへ後退して頂戴」 恵梨香はすかさず火の鳥へそう促す。どう足掻いても動けないであろ姉妹が気になったのだ。こっちが動けないなら、あっちに動いてもらうしかない。それができないなら、抱えてでも姉妹をどうにかするつもりだったが、意外にも火の鳥は後退してくれたのだった。 此処ぞとばかりにリベリスタ達は一斉に、説得に移り―――たい。どうにかして、おかえり願わなければいけないのだから。まずは何から説明すればいいのだろうか。 「貴方、とにかく泣いてる子を泣きやまそうとしたんでしょう? 優しいのね」 優しい? シュスタイナが一番最初に口を開いた。反応した火の鳥は首を捻ったが、言葉はきちんと聞いてくれるようだ。ならば言おう、此処で怯んでいる場合じゃないのだ。 「ねぇ。あの姉妹、嫌いあってるわけじゃないのよ? おねぇちゃんの方、妹をぎゅーって抱きかかえて、熱から守っていたでしょう?」 まずは此の鳥が此処に来た、居る、その理由を取り除かねばならないのだ。 泣いている。 「そうなんだけど。泣いているのは姉のせいじゃあなくて」 「あの二人は家族なんだぜ。喧嘩して泣いたりすることもあるけど、本当は仲良しなんだ。だからお姉さんが死んじゃうと、妹は一生泣き続けることになる」 シュスタイナの言葉を引きついた琥珀。だから絶対に燃やしたら駄目だと、腕をバッテンにして火の鳥に伝えようとした。続く説得のバトンはフツへと移る。 「この最下層の生き物は弱く、不器用だ。自分一人では、苦しみや悲しみを外に逃がすことができない。ただただ自分の心の中に溜め続けて、その重さで潰れてしまう」 火の鳥の様に、輝く事も、空を飛ぶこともできないまま、何もできないまま苦しみは募っていくばかり。されど。 「だから、泣くんだ。泣くことで、苦しみや悲しみを外に逃がすんだ。だが、泣いている時、人間は無防備だ。お前さんもそう思ったろ?」 此の神秘の事件が起きたのは、原因はあれど、誰も悪くない、何も悪くないのだ。ただ、少女の鳴き声が世界を超えてしまった――そんな偶然の産物。最近まで異界の魔王たちが此の世界を跋扈しては、己の存在価値を発揮していたときのように、彼等の常識が此方の常識であることは少なく。 だからといって、目の前の存在は話せば認識してくれる存在だと信じて止まないリベリスタ達。 「でも、それでいいんだ。妹には、姉がいるから。自分を見守ってくれる誰かがいるから、妹は思いきり泣けるんだ」 フツは続けた。姉では護りきれない場所は己等が担うのだ。 理解した。 待っていただろう、その言葉。なら、身を引いてくれるのだとその場の誰もが思った所で。此処でまさかという出来事は発生する。 せめて、詫びの一言を彼女等に送りたい。 姉妹に声が聞こえる様にと前へ出ようとした火の鳥。ぎょっとしたのはフツもそうだが、 「それはちょっと違うんだ!」 優希や、 「うおおおお!!? ストップストーップ!!」 琥珀、 「前進だけは駄目なんだ!! それも説明するから待ってくれ!!」 そしてエルヴィンの腕に力が入った。彼等三人は羽ばたいた火の鳥の足部位を掴んで、その場から動かさないように止めた。足と言えど、それは炎だ。人体が焼ける臭いが周囲を染めては止まらない。 絶対者であるエルヴィンは燃えなかったものの、痛みを感じていない彼だからこそ口を動かす余裕があったもの。 「とりあえずさ、アンタの側にいる皆の身体、よく見てもらえないかな? 火傷してるの、わかるいかい?」 火傷……熱による負傷の事か。 「……そうだ、アンタの炎が原因なんだ」 な、んだと……! 「解ってなかったのかよ」 ついエルヴィンの瞳のハイライトが薄まった。俺達の気苦労って一体なんなのだろうか、と。 そして大事件は起きた―――と、その話はまた後で。 ● 六人が奮闘している最中であった。真昼は姉の手を引く。 「逃げますよ。妹さんも一緒ですから」 「え、でも……」 同じように恵梨香も妹の手を引き、連れていく。できる限り、火の鳥より遠くへ、そして彼女らの家へそのまま連れていくのだ。 握った手は小さく、柔らかく。リベリスタである二人が力を込めれば粉々に千切れて壊してしまいそうな、弱い手。これが護るべき者達の脆さである事を知る――。 公園さえ抜けてしまえば、神秘の脅威は無い。仲間がきちんと火の鳥をブロックしていたおかげで、驚く程相談で話し合った段取りは着々と進んでいくのだ。しかし未だ泣く妹。うるさいだなんて思いやしないが、恵梨香は目線を合わせて妹へ言うのだ。 「明日も遊ぶために今日は帰っておやすみなさい」 「いま……いま……っ」 「大丈夫、帰ってからでも遊んでもらえるわ。帰って遊んでもらえるのと、門限過ぎるまで遊んでお姉さんが怒られるの、どっちがいい?」 「うええええ」 子供は素直だ。こんな簡単な選択肢を提示した所で、どちらも選びたいという感情が見えすぎている。もはや魔眼に頼るしかないのかと恵梨香は瞳を光らせたときだった。 「ぇ……る」 「……聞こえなかったわ。もう一度言えるかしら」 「か……える……!!」 「そう、良い子ね」 その瞬間、恵梨香は瞳に宿らせた神秘を閉じたのであった。目線を妹から真昼の方へ向けた恵梨香。頼んだよ、という視線を送った後、彼女は燃え盛る戦場へと戻っていくのであった。 姉妹の年齢がもう少し高ければ両手に花か、右手に姉を、左手に妹の手を握った真昼は姉妹の帰路を歩いていく。 「妹さん、ちゃんと帰るって言ってくれてますね。良かったですね」 「うん! だって悪い子じゃないもん。良い子なんだよ」 「妹さんは大事ですよね。だって駄々を捏ねられても放って帰ったりしないでしょう」 「うん! だってお姉ちゃんだからお姉ちゃんしないと駄目なんだよ!」 「そうですね……」 無邪気な姉の声に、くすりと笑った真昼。妹は大事だ、それは真昼自身が一番よく知っている事かもしれない。そして、姉妹にもいつかは気づいて欲しいと願うのは、姉の大切さ、妹の大切さ。 そういえば左手が段々重くなっていっている気がする。ふと見れば、泣き疲れたのか妹がうとうと船を漕ぎながら歩いていた。それを真昼が抱っこして再び帰路を歩く三人。 「さっきの大きな鳥さん、なんなの?」 「ああ……さっき見た事は忘れてください。怖い事、覚えてたらまた怖い事に出くわしますから」 「ふーん?」 それ以降、姉は物分かりが良いのか何も聞いては来なかった。学校での話をしながら、姉は真昼の手を引いていく。 どうやら門限には間に合いそうだが、抱きかかえた妹は起きる様子が無い。さあ、どうやってこの状況を親御さんに説明すればいいか、そっちを考えるハメになった真昼はそのまま姉に引っ張られて家の門を潜る事になった。 「あ! そういえば知らない人についていっちゃ駄目ってお母さん言ってた!!」 「えと……じゃあ、お友達ということで」 「うん! いいよ! あたしお姉ちゃんだからね、お兄ちゃん欲しかったの!」 「いや、えと、友達だから……お兄ちゃんですが、そのお兄ちゃんでは無いというか……」 真昼はとりあえずと、怪しまれないように目隠しを取ったのであった。 「お兄ちゃん、おめめ怖いね!」 「……」 ● 「いいか! 燃えるという事はな!」 いつも燃えているものだから、燃えるという感覚がイマイチ解っていない火の鳥。 ならば、百聞は一見に如かずとでも言いたいのだろう、琥珀が燃え盛る炎の身体の中へ特攻ダイブした。瞬時、燃え盛るのは琥珀の身体だ。 「ほら燃えてるだろ、焦げてるだろ? 此れ以上燃えると普通は死ぬぁ、あちあちち!」 全身がバーニング状態だが、熱烈に『燃えるという事』を語った琥珀。そうだ、普通は死ぬんだぞ琥珀。優希はその光景に見惚れた。あれ程にまで熱い炎を自身の内にも宿したいものだと感じながら、炎の申し子は不死鳥の炎をも好むというか。 「おいばか、やめろよせ!!」 「放っておけ……もはや、手遅れだ」 全力でツッコミ役に徹してしまっている竜一と優希が順番に喋ってみたものの、次の瞬間にはフェイトの加護を得た彼。どうやら火の鳥の中は相当ドキツイ温度だったようで、シュスタイナが回復を飛ばす前に事は終わっていた。 「死んだー!! 惜しい奴を失くした……」 「だから言っただろう、手遅れだと」 「ウム」 「貴方たちねぇ……」 竜一と優希に続き、フツとシュスタイナ。 シュスタイナだけは、頭を押さえつつ着いて行けないと首を横に振ったのであった。 死ぬのか。 「そうよ。『普通』はね? 私達は『普通じゃない』存在なだけ」 それを説明のは長くなるが。更にエルヴィンが続く。 「普通じゃない俺達は治せるし、時折俺みたいに炎を通さない奴もいる。けど、さっきの姉妹みたいな普通の子は駄目なんだ」 「この世界の人間は、俺も含めて弱い。そこは鳥さんも理解してくれていると思う」 言葉を引き継いだ竜一。 「だから鳥さんのような存在は、存在するだけで、この世界にも、この世界に住む人間にも影響があるんだ。このまま鳥さんの近くで俺も燃え続ければ、そのうちに……」 そこで一旦切り、竜一は琥珀を指差しながら言った。 「あいつみたいになる」 成程。 解りやすい答えが転がっていた事には感謝した方がいいのかもしれない。火の鳥も、顔を縦に振りながら至極納得したようだ。 「そして命は一つ。無くなればそこでおしまいさ」 火の鳥と一言で言ってしまえば何度でも再生しそうなイメージであるが、彼等の常識もまたボトムでは通用せず。此方の命は、一人一つの大切なもの。 エルヴィンは火の鳥を掴んでいた手を話し、真っ直ぐに見つめてくる目線を合わせた。 「そろそろ解ってくれたかと思うんだが、どうだ?」 ―――理解した。 「ありがとさん」 「おー! 鳥さん話の分かるやつ!!」 その時、竜一が飛び出し火の鳥の胴体に抱き付いたのだった。突如燃える彼の身体――先程の琥珀の例があるように、竜一の身体も例外なく燃えていった。しかし学習したシュスタイナが詠唱を繋いでいたおかげか、なんとか竜一は一命だけは繋ぎ止めた。 「学習してよね、死にたいの?」 「愛だ……親愛のハグだったんだ……死ぬ」 「私が死なせないよ?」 全身丸焦げた竜一に、公園の蛇口から拝借してバケツに入れた水を容赦無くかけたシュスタイナであった。 「つーことで、納得してもらえたら、元の世界に帰る前に、少し遊んでいかないかい。この世界の『火』を紹介するぜ」 フツは花火を取り出し、火の鳥の体表で引火させれば、出るのは様々な色に咲く花火。 「これは花火っていうんだ。この世界の文化であり、ちょっとした夏の余暇を潰すための道具さ」 ああ、綺麗である。 「お! いいねぇ、俺もやるやる!!」 沢山持ってきたのだと、花火を手に取る竜一もまた、火の花を咲かせるのであった。 「ま、平和的解決したなら良いかな」 その頃シュスタイナは、遠くに居るであろう真昼へとAFごしに通話していた。 「そっちはどう?」 『はい。姉妹なら、もう送り届けて今そっちへ戻る所ですよ』 「そ。こっちも終わったからゆっくり戻ってきていいのよ」 『了解です』 「おーい、大丈夫か」 「一度死んだけど、今はバッチリ!!」 「それは普通大丈夫とは言わないんだ」 琥珀の頭にチョップしたエルヴィンは、まだ点火していない花火を彼に分けた。そして既に点火している自分の花火を琥珀の方へ向け。 「花火は人に向けてはいけないんだぞ!」 「ちげえよ、俺の花火で引火させて点けろって事だ勘違いすんな」 きょとんとした琥珀だが、次には笑顔になり二つの花火が咲く。 「まだ痛むんなら俺が治してやるよ」 「ああ、大丈夫……綺麗だなぁ」 直後。 「――――く、フフ、フハハハハ!!」 二人の耳に、優希の笑い声が聞こえた。 「おい、どうした? なんか変なもんでも食ったかよ!?」 「俺より、あっちを回復させたほうがいいんじゃねえか、エルヴィン君」 「いや……違うんだ」 突然笑い出した優希に、エルヴィンと琥珀は大層気味悪がった。 しかしその笑顔に他意はないもので、ただ、火の鳥が「笑えや笑え――」と笑顔を欲しがっていたからか。それを思い出して、せめて姉妹の代わりに笑ってやろうと思った次第だった。 「良い炎だ」 優希は火傷覚悟で、火の鳥の身体に触れた。羽毛の様に柔らかくて、しかしその奥の筋肉の様な硬さがあり、そして、熱くて熱くて熱くて熱い。己の手が音をたてて燃えていくのだが、苦い顔ひとつ見せずに撫でるのだ。ただ、額を伝う汗の量は多く。 もはや腕の感覚は無いか。それ程までに熱い炎を目の前にし―――しかしそれに負けぬ程、己の内に飼っている炎を、少年はまだ知らず。 最下層も、悪くない。 「そうか? そう思っていてくれるのならば良かった」 優希のまわりにも、笑顔は花火と共に咲いていく。ただ、ただ心優しかった火の鳥もこれで満足しただろう。 恵梨香が戻ってきたときには、公園は花火大会になっており。そんな光景に、ほっとしたか呆れたか大きく息を吐きながら本部へ依頼の状況を報告した。 ――あとは、火の鳥が還ってからゲートを閉めるだけ。それまでは、まだほんの少し時間はかかるのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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