●逃げる男 男は深夜の街を逃げ続けていた。 背後からは生気を失った顔の人々が追いかけてくる。 「無駄よ。絶対に逃がさない。どこまで逃げたって、追いかけてやる」 死者たちを指揮しているのは、首に縄を巻きつけた1人の少女だ。 おそらく高校生ほどであろう少女に声をかけられたのは、30分ほど前のことだ。 看板まで居座った行きつけのバーを出て、家路についたのはそれよりもさらに10分前くらい。 ほろ酔い加減で歩く男にとって、少女は見覚えのない相手だった。しかし、彼女は男のことを知っているようだった。 名を問われ警戒もあらわに返答すると、彼女は耳に達しそうなほど口を開けて、笑ったのだ。 そして、死者の群れが少女の背後から近づいてきた。 無様に悲鳴を上げても、誰も出て気はしない。場末のバーからの帰り道はそもそも住人の少ない地帯であったし、数少ない住人も厄介ごとに首を突っ込むようなたちではないのだろう。 5分ほど逃げた男は、とうとう行き止まりの路地裏に追い詰められてしまった。 「ねえ、本当に覚えてないの? 飯野って名前を聞けばわかる? あなたが1年前に殺した相手なんだから、さすがに覚えてるよね?」 そう言われても、彼は首を振るよりない。闇金融を稼業とする彼にとって、追い詰めて殺した相手などいちいち覚えている必要はなかったからだ。 死者の恨みなど怖くない。いつも、彼はそう言い続けて来た。死者の恨みによって危機に陥る羽目になるなどとは、先ほどまで想像もしていなかった。 「本当に、最低の男だね。……いいや、もう死んじゃえ。あんたさえ殺せばみんな生き返る。私はまた、父さんや母さんと一緒に暮らせるようになるんだ」 彼女が手を振り下ろすと、アンデッドの群れは男に迫ってくる。 断末魔の悲鳴が響いたときにも、周辺の住民が表に出てくることはなかった。 ●ブリーフィング リベリスタたちは『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)に呼び集められ、アークのブリーフィングルームに集まっていた。 「エリューション・アンデッドが発生するみたいなんだ。だが、死者は死者のいるべき場所に還してやらなくっちゃな」 彼の話によれば、8体も登場するアンデッドはある男を狙っているらしい。 男はいわゆる闇金業者で、あくどいやり方で何人もの者たちを自殺にまで追い込んでいたという。 今回出現したアンデッドは飯野里美という名で、その父親は犠牲者の顧客であったらしい。 「……顧客なんて言い方はふさわしくないな。最初から、身包みはいで殺すつもりで金を貸すような奴だったそうだから」 そして、彼女の父親は死んだのだ。彼女自身や、母親までも道連れに。 「彼女は恨みを晴らそうとしてる。そうすれば彼女はまた元の幸せを取り戻せると思い込んでるんだ。だが、悪党を裁くのは死者のルールじゃなくて生者の法でなけりゃいけない。だろう?」 同情すべき者ではあっても、エリューションの存在を見過ごすわけにはいかなかった。 敵はエリューション・アンデッドが8体いるらしい。 もっとも警戒すべきはリーダーでもある飯野里美。彼女はアンデッドたちを指揮し、その能力を高める力を持っているのだという。 もちろん、本人の戦闘能力も低くはない。怪力による攻撃はデュランダルに匹敵する。 さらにフェーズ2に達したアンデッドが2体存在する。毒を含んだ近接攻撃の他に、呪いの言葉を吐いて遠距離から攻撃してくるのだそうだ。 残る5体は単純に接近して攻撃してくるだけだ。とはいえ、彼らの爪にも毒があり、甘く見ていると痛い目にあうことだろう。 「連中はターゲットの男がバーから帰る途中に出現する。襲われたところに出て行くのが確実だが、うまく探せば付近に潜んでいるのを見つけられるかもしれないな」 とはいえ、悪党は襲われて恐ろしい思いをするくらいがちょうどいいのかもしれないが。 「いちおう言っておくが、アークの仕事はエリューションを倒すところまでだ。ま、その後個人的になにかしたいことがあるんだったら、俺も止めはしないがな」 伸暁はリベリスタたちに片目をつぶってみせた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月27日(水)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●深夜の襲撃 日付はすでに変わり、街は夜に沈んでいた。 フォーチュナから得た情報を元に、繁華街の端でリベリスタたちは活動を開始する。 聞いていたとおりの場所にあるバーから、エリューションの被害者となるはずの男が出てきた。 「この辺りは人通りがある。アンデッドが潜めそうな場所はまだ先だろうな」 警戒は解くことなく、『月刃』架凪殊子(BNE002468)が呟く。 「ただの因果応報、そんな男の尻を拭うのは気が進まないな。復讐後に土に還るなら見逃してもよかったんだが」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の心情が、表情にあらわれることはなかった。 「そうですね。飯野里美さんについては同情する気持ちも有りますが、エリューションとなってしまった以上、私たちの手で彼女を本来有るべき場所に送り返してあげましょう」 真面目な雰囲気をまとって、浅倉貴志(BNE002656)がユーヌの言葉にうなづく。 「因果応報、って言ってやりたい所だけど……神秘によるものなら止めてやらなくちゃね」 周囲のビルを透視する『だんまく☆しすたぁ』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)の視界には、まだ敵の姿は映らない。 8人のリベリスタたちは被害者の男を尾行していた。 もとより隠れて歩く彼らが一般人に簡単に見つかることはない。ほろ酔いでいい気分になっている相手ならば、なおさらだ。 人気の少ない場所に差し掛かり、殊子が警戒を強め始めた頃、『プラグマティック』本条沙由理(BNE000078)がささやき声を出す。 「何人も歩いてる足音がするわ。そろそろ来るみたいね」 他の者たちにはまだ何も聞こえなかったが、沙由理の集音装置は小さな音も聞き逃さない。 死者は、どこまでいっても死者でしかないのだ。彼女に無念の想いがあることは理解できるが、生者と死者は分かたれねばならない。 一抱えもあるグリモワールを沙由理は取り出す。 沙由理の聞いた音を裏付けるように、アクセス・ファンタズムで『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)が連絡をしてきた。 「見えたぜ。角を曲がるところで、物陰から出てくるつもりみたいだな」 眼帯の男の声と一緒に、高まるスクーターのエンジン音が聞こえてきた。 「悪党にゃ相応の報いあれ。たあ言え俺様の獲物はあくまで神秘でな。ゾンビ娘にゃ悪ィが、電光石火で仕留めさせて貰うぜ」 アッシュに伝えられた方向を見て、虎美もうなづく。 「それじゃ、ぐるぐさんはお空で待機しますね」 桃と翠の鮮やかな瞳をまたたかせ、『Trompe-l'oeil』歪ぐるぐ(BNE000001)が夜空に飛翔する。 残ったリベリスタたちもエリューションがいるほうへと近づいていく。 奇襲は難しいまでも、被害者との間に割って入ることは十分に可能だった。 情けない悲鳴が上がった直後に、彼らもまた姿を現す。 闇にくらまされることのない『月光の銀弾<ルナストライカー>』ネル・ムーンライト(BNE002202)の金色の瞳が、首に縄を巻きつけた少女と配下のアンデッドたちを捕らえる。 「死んでも復讐するのなら、生きている内にやればいいのに」 愛用のリボルバー、S&W・M500をアクセス・ファンタズムから彼女は取り出した。 「なによ、あんたた……」 生前は飯野里美という名だったらしいエリューション・アンデッドが最後まで言葉を続ける前に、リベリスタの側から戦闘が始まった。 横合いから突っ込んできたアッシュのスクーターをあわててかわす。 「奇襲ってな思いもかけねェ攻められ方をするから奇襲ってんだ、憶えとけ!」 両の手にナイフを構えて、銀髪の青年がスクーターを乗り捨てた。 ●アンデッドを討て 殊子はスクーターで突っ込んだアッシュに負けじと突っ込んでいく。 彼も最速を名乗っているようだが、速度に関しては彼女も負けるわけにいかない。 「俺に追いつこうってのか?」 「速度のみが私の得手でな。誰よりも早く敵に接近するのが私の役目だ」 競い合うように肉薄した2人は、ほとんど変わらないタイミングで里美の弱点を狙う。 「ハロー」 さらに、急降下してきたぐるぐが気糸で狙うが、彼女はわずかに敵より遅かった。 「邪魔する気? ……みんな、前に出てきた連中は私が引き受けるから、あいつを狙って!」 号令一下、里美が引き連れていたアンデッドが動き出した。後方に残った仲間たちが間をふさぐ。 直後、気糸を受けた里美がぐるぐをにらみつけていた。 ぐるぐに殴りかかった隙に、殊子は加速し、再び里美に接近する。 「仇の男を殺せば家族が生き返る。それがお前にとっての希望で、衝き動かす原動力となっているなら信じ続けると良い」 「なに言ってるのよ!」 「私は否定しない。両親を救いたいという願いから生じた力が間違っている筈が無いだろう」 ナイフを振り上げる。 「だが敢えて問おう。お前の両親は、幸せは他者を踏み躙ってでも掴み取れと、そう教えたか?」 里美が表情をゆがめた。そこへ、ナイフを一閃する。 「……教えて欲しかったわ。生きてるうちに!」 薙ぎ払われた彼女の腕を殊子は逆手の短剣で受け止める。 後衛に立つユーヌはアンデッドたちに接近されるよりも早く守護結界を展開する。 「馬鹿力にどれほど効果があるか判らないが、無いよりはマシだろう」 結界に守られながら貴志が後方の強力なアンデッドに突っ込んでいき、沙由理はユーヌをかばうような位置に立った。 闇金の男が、悲鳴を上げながら逃げようとした瞬間、彼の足元に銃弾が突き刺さる。 「おじさん、動くと危ないよー?」 虎美の二丁拳銃が、機関銃のように弾を吐き出している。 「Freeze、運が悪くなければ生きれるよ、多分」 さらに後頭部にネルの銃口も突きつけられ、彼はその場にへたり込んだ。 滑らかに銃口をアンデッドに向け、ネルは光る弾丸で一直線に数体の敵を貫く。 無様に地面に尻をつく男に、ユーヌは静かに語りかけた。 「よかったな、今回は助かって? 恨みの数だけ死者は蘇る、次はもっと慈悲深いと良いな。貴様が招いた厄だ、遠慮無く味わえばいい」 呪力が夏の夜の気温を下げていく。 「灰は灰に、塵は塵に。凍っていれば後の処理も楽だろう。臭うからな、真夏の生ゴミは」 降り注ぐ冷たい雨は敵をまとめて凍らせていた。 敵が反撃してくる。 沙由理は敵が振り下ろしてきた3本の腕を喰らって顔をしかめる。 ユーヌをかばって少し前に出ていた彼女は、アンデッドの攻撃を多く受けていた。 ネルや虎美も攻撃を受けていた。さらに前でフェーズ2のアンデッドと対峙する貴志は、流水の動きで守りに徹している。 身体に毒が入り込んでいたことに沙由理は気づいた。 遠間から放たれる呪詛の声に、毒への抵抗力が弱められているようだ。 「死者は、どこまでいっても死者でしかないわ。無念はわかるけれど、生者と死者は分かたれねばならない。それを踏み越えてくるのなら、滅ぼすだけよ」 後方から銃弾が飛んで行き、冷たい雨も降り注ぐ。 「人の世にあなたたちの居場所は無いの、光に焼かれなさい」 グリモワールが輝き、聖なる光が闇を照らす。 不死なる者たちのうち2体が、光に焼かれて動きを止めていく。後方にいた2体も大きく身体を跳ねさせ、動きが鈍っているようだった。 フェーズ1のアンデッドたちは、範囲攻撃の連発でかなり弱っている。 虎美は機関銃のように銃弾を放ちつつ、逃げる気力もなくしたらしい闇金の男を見た。 「死ぬほど怖い目にあって、少しでも我が身を振り返ってくれると助かるんだけどね」 残っていたアンデッドの1体が虎美に攻撃をしてくる。それを、彼女は横っ飛びに回避。 フリルのついたミニスカートが夜の闇に浮かぶ。 「一気に片付けるよー!」 降り注ぐ氷雨の中、両手の拳銃が激しく火を吹いた。 映画の中ならスローモーションになっている場面だろう。 傷ついた3体が一気に倒れるのを見ながら、虎美はそう思った。 ●恨みの終焉 ぐるぐはアッシュ、殊子と入れ代わり立ち代り、里美に攻撃していた。 もっとも、気糸の狙い撃ちで気を引いているぐるぐに対しては、アッシュや殊子を無視して殴りかかってくることもある。 「あの人殺したって誰も生き返らないよ? 君とおんなじ、動く死体が増えるだけ」 「そんなはずない! 知ってるんだから、私。だって……」 里美はうつむいて唇をかんだ。言おうとしたその言葉の先を続けず、なおもぐるぐに殴りかかる。 完全に回避し損ねたのは、これが初めてだった。 しかし、一撃クリーンヒットしただけで、ぐるぐの身体が『く』の字に曲がる。 地面に叩きつけられたぐるぐは身動きもしなかった。 里美はアッシュのほうへ向かおうとした。その表情が驚愕に変わる。 「カートゥーンの住民は死なないんだよ?」 死んだふりをしていたぐるぐの、気糸の罠にかかっていたのだ。 舌を見せるぐるぐに、里美は意味のわからない怒りの叫びを発した。 配下のアンデッドたちとの戦いは、そろそろ終わろうとしていた。 貴志は幾度も振り下ろされる死者の腕を受け止めながら、歯を食いしばって耐え続ける。 古くからリベリスタとして生きていた一族の生き残りだったが、しかし彼自身はまださしたる戦歴があるわけではない。 駆け出しの自分ではどれほど戦えるかわからない。だから、他のアンデッドたちが倒れるのをじっと待っていたのだ。 ユーヌの術が貴志の傷をふさいでくれる。後衛の攻撃がアンデッドに集中した。 「あなたも、あるべき場所へと還ってください」 硬く握った拳に炎が宿る。 傷ついた敵に止めを刺すには、彼の拳でも十分だった。 1体きりとなった配下アンデッドへ、ネルは滑らかに狙いを移す。 敵の数が減っても、闇金の男は怯えたままだ。 彼女の信条は『悪党は無様に笑って無様に死ね』だ。そして、その悪党には彼女自身も含んでいる。同じ悪党に対して思うことはない。 ただ、ネルは一言だけ呟いた。 「どうせなら、死ぬ前にワタシに会ったら廃業中だし格安で受けれたのに」 沙由理の閃光が敵を焼き、虎美の銃弾が降り注ぐ。 狙いを定め、S&Wの引き金を引く。改造されたリボルバーの反動は大きいが、彼女にとっては慣れ親しんだものだ。 アンデッドの頭部が爆ぜ、敵は倒れていった。 最後に残ったのは飯野里美だけだ。3人がかりの攻撃に苦しげな様子を見せていた。 細腕にしか見えない豪腕が、アッシュの眼前を通り過ぎる。それがかすっただけでも痛打を受けることを、彼はここまでの戦いで身をもって知っていた。 脆い部分をつく幻惑の武技がその後の攻撃にも影響するなら、もっと敵は傷ついていたのだろう。ただ、弱点はつくものであって付与するものではない。 それでも後衛の仲間たちも里美に攻撃をし始めると、彼女の体力は加速度的に削られていく。 「この男と同じ場所まで堕ちるな」 殊子の凛とした声が、刃とともに繰り出される。 「怒ってばっかじゃせっかくの可愛さが台無しだよ」 後方に下がったぐるぐが沙由理とともに気糸の罠をはった。 「本命を叩くためのお膳立てが出来れば、わたしは本望よ。存分にやっちゃって」 「お前は恨みを晴らせない、残念だったな。どうせ奴は裁かれる、あの世で高みの見物でもしていろ」 さらにユーヌが描く呪印が敵の動きを縛った。 「お姉さんに同情はするよ。でも容赦はしない」 「二重否定は辛いかい? ま、しょうがない」 動けない敵へとネルや虎美も銃弾を放っていた。 強力なエリューションは呪縛から抜け出るのも往々にして早い。 だが、アッシュの動きはそれよりも早かった。 「殺されたから殺して、殺した奴がまた殺しに来たらどうすんだよ。殺されてやるのか? 殺しに来た奴をまた殺すのか?」 「違う! 悪い奴は、死神が連れてってくれるわ!」 高速のナイフが里美を幻惑する。 アッシュの二刀は彼女を世迷言ごと切り裂く。 「そんな事を繰り返すのがてめえの言う元の暮らしか? 少しは考えやがれっ!」 切り裂いた刃に血はついていない。 だが、手応えはあった。 蘇った少女は、再び物言わぬ死体に戻って立ち尽くしていた。 ●因果応報 飯野里美の身体が街灯の薄明かりの中に倒れ伏す。 「じゃあ、不運だったということで」 ネルは銃をしまうと、歩き出した。 「せめて安らかに。死者に平穏を」 飄々とした彼女と対照的に、沙由理は黙祷をしていた。信じる神のいない彼女が、なにに祈ったのかは誰にもわからない。 「ぐるぐさんがお墓を作ってあげますね。でも、よく考えたら元々のお墓もあるのかな」 少女の死体をぐるぐが抱え上げ、闇金の男は無視して去っていく。 「あ、そうそう。次はないだろうから覚悟しておいた方がいいと思うよ。月夜ばかりじゃないからね」 ネルは通りすがりに男にささやいた。 「んじゃ、久しぶりに殺しの依頼が来るのを楽しみにしているよ」 金の瞳の少女はそのまま夜の街へと消えていく。 リベリスタたちは、1人また1人と男の横を通り過ぎて去っていく。 「悪い事ばっかりしてるとこうなるんだよー。次は無いと思ったほうが良いと思うなっ」 「また亡霊が現れるかもね。きっと一番安全なのは塀の中よ。自首することをお勧めするわ」 虎美や沙由理が言葉をかけるたび、男は大仰に震えている。 「相応の惨めさで果てるのが一番の供養になるだろうが、ままならないものだな」 供養になる程度の裁きが下ればいいが、とユーヌは男と目もあわせずに呟く。 殊子はなにも言わなかった。 彼女は望んでいたのはあくまで里美のことだ。怯える悪党の同類に堕さなかったことが、死してなお幸せを求めた少女にとってわずかでも救いになることを彼女は期待した。 残ったのは貴志とアッシュの2人だ。 「この方は自業自得ですね。彼の罪は法によって裁かれるべきことですが、その前に十分に恐怖を味わってもらう必要が有るかもしれません」 貴志の言葉と同時に、男の目が恐怖に見開かれた。 目の前でアッシュが一瞬のうちに銀色の妖狐へと姿を変えたからだ。 「ひいいいっ!」 恐怖が限界を超え、蒼白になって男は駆け出した。 しかしただの人間がリベリスタから逃げ切れるはずもない。ましてや、相手は『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニングである。 「無駄だぜ。絶対に逃がさねえ。どこまで逃げたって、追いかけてやる」 たやすく追いすがるアッシュを、貴志は黙って見送った。 夜が白み始める頃……。 男は半死半生で地面に伏していた。恐怖で髪は真っ白になっている。 「悪党には悪果あるべし、両成敗ってな」 這う力すら使い果たした男を見下ろし、アッシュは119番に電話をかける。 精神と身体と、どちらの病院に送られたのかまでは、彼は確認しなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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