●拳の男 「は……っあァ……堪んねぇなオイ。娑婆の空気ってだけで違ぇのに、やりたい放題やっていいってぇのは有難ぇなァ」 恍惚とした表情で中空に視線を投げかけたのは、『拳撃無道』と自らを名乗るフィクサードである。 元々はケチな暴力沙汰で収監されていた彼がこうして再び破壊を伴って表舞台……穿った物言いをすれば裏社会のそれに姿を表したのは、彼が獄中から開放されたのとほぼ同時期に遡る。 命を失いかけた彼に手を差し伸べたのは皮肉な世界の運命則であり、同時にそんな彼を受け容れる組織であったとするならば。それはどんな皮肉だと言えるのだ? 瓦礫が崩れる。下敷きになった人間の数は相当数。男の双拳に与えられた神秘は人外のサイズを誇るそれだ。 「逃げるぞ空堂。『箱舟』が来たら厄介だ」 「逃げるゥ? 冗談きついぜ、そいつら相手にもうひと暴れさせちゃくれねぇかァ?」 「……本当にヤバければ俺は逃げるぞ。お前が死のうが知らんからな」 「流石だぜェ相棒、楽しませてくれよォ?」 男に撤退を促したのは、女性だ。それと見れば性別を疑いかねない姿見をしているが、体型から明らかに女性と分かる。 彼女の錫杖が凛と鳴らす音は、更なる優位を求めて両者に加速を促した。 ●『無縫』を下すべし 「初めまして……の方が多いでしょうか。僕は月ヶ瀬 夜倉。フォーチュナとしてアークの任務支援を担当しています」 アーク本部、ブリーフィングルーム。集まったリベリスタたちに向け、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は恭しく頭を下げた。 顔を覆う包帯は見るものが見れば痛々しくもあろうが、アークでは最早それが常識として捉えられているのは皮肉といえようか。 「取り敢えず、今回の任務について簡単に説明しましょう。今回の達成目標は『フィクサード2名の無力化、最低一名の撃破』です。 今しがた流した映像はこれより数時間後の未来、つまりこの被害は止めることが出来ます。その為には、『拳撃無道』空堂 虚樋(くうどう うつび)を撃破する必要があります。少なくとも、捕縛や制止交渉は通用しないと思って下さい。 反して、女性側のフィクサード、真壁 瀬之火(まかべ せのか)は戦局を読むに敏と思われます。不利だと思えば命を再優先に逃走を企てるでしょう。それでも、実力は相応にありますから油断は禁物です」 「成る程、つまりフィクサードは二人だけ、ということだな」 「ええ。ただ、現状のアークは『魔神王』キース・ソロモンとの戦闘に主力を割かれた状況下にあります。数と連携さえとれれば勝てる相手と判断した以上、ここで確実に勝利のイメージを掴んで頂きたく思います。 最大を以て最善を。君達の善い報告を期待します」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月04日(金)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「現場到着。リベリスタの到着まで持ちこたえる、という仕事より気楽か」 「よう、箱舟だ。今すぐ降伏するんなら悪いようにしないが、どうする?」 「リベリスタぁ? お前等自身が『それ』なんじゃねえか、気楽に払えるかどうか、そのドタマかち割って教えてやろうか、えェ……!?」 淡々と状況把握を済ませ、結界を練り上げんとした新島 桂士(BNE004677)の言葉尻を掴み、『拳撃無道』空堂 虚樋の獰猛な声が低く響く。気が楽、と。御しやすしと言われたに等しいと判断したのは、単に彼の思慮が単純明快であることを示す。 だが、その獰猛さは織笠 文月(BNE004722)などに代表される『大人しい』リベリスタにとっては……こと、明確な格上としての対峙では萎縮を強制する声音でしか無いのは明らかだ。 そんな言葉などどうでもいい、というような態度を取るのは『アーク水泳部』エルル・ウィル・クート(BNE004691)だが、彼女の言葉通り「悪くしない」かは、飽くまで総意あってこそである。……尤も、その言葉の基準がどこにあるかによっては、他のリベリスタよりも残酷な宣告を行っていると取られても仕様があるまい。 「あなた、達が……フィクサード、ですね?」 「そう言う貴様等はアークか。行き急ぐ組織とは聞いたが、何もしていない内から沸くとは、実に……」 「……俺らが相手になる!そして勝つ!」 「人の話を聞かん連中なのだな。相対してよく分かる」 真壁 瀬之火の不敵な表情から比喩が漏れるより早く、鉄 勇人(BNE003744)は明確な宣戦布告をしてのけた。恐らくは、現状に於いて最も勝利を渇望しているのはこの少年だ。 幾度かの戦いを経て至らずを知り、僅かな前進をそれ以上の後退に阻まれた現状が、本人にとって不都合でないハズがない。 「逃げるなんて言わないでありますよね?」 「誰に向かって口利いてンだ手前ェ……数にかまけて尻尾巻いて逃げやがったらその背中ごと潰すぞ? あァ?!」 筋肉を弛緩させ、力に抗わず受け止める。基礎の構えを以て言葉を紡いだ『飛行機だって殴ってみせる』嵯峨谷 シフォン(BNE001786)のそれは、虚樋の逆鱗に堂々と触れに行くようなものである。だが、それはこの状況でむしろプラスになる。 「……空堂。死ぬならお前一人で死ねよ」 「しつっけぇな! 全員殺しちまえばいいだろうが! ビビってんのか真壁」 敢えて逃走に向かうことを観念した瀬之火は、しかしそれでも生き延びる策を練ってはいる。相棒を見殺しにしつつも血路を開く、極めて利己的な行動原則ではあるが。 「おとなしく捕まるか、殺されるか、どっちがいい?」 「お前等に殺されるほど鈍ってるわけじゃねえからな……その言葉、後悔すんなよ」 戦斧を高々と掲げた『黒刃』中山 真咲(BNE004687)の挑発に乗ったわけではない。 ただ、確実に一人二人殺さないと挑発に対し、余りに割に合わないと思っただけだ。 その程度の怒りくらい、実利を伴うフィクサードであれ持たない筈はない。軽易な命のやりとりを口にする言葉、というのは、或いは明確な敵意を引き出すのに有効に作用する。 真咲の傍らに立ったジークリンデ・グートシュタイン(BNE004698)はその嫌悪感を隠そうともしない。一個の軍人として振る舞う彼女は冷静である。冷静であるが、それ即ち最大効率を叩き出す感情ではないということも理解している。 胃の腑からこみ上げる怒りはただ、目の前の相手を打倒するためだけにあれば良い。最大感情の最高効率を自らで証明すれば、それでいいだろう。 「楽しませろよォリベリスタ……言葉におっつかねえ腕なら引きちぎってやんぜェ!」 「力を振るうだけが目的なんて、悲しい性ね」と、口には出さねど『心殺し』各務塚・思乃(BNE004472)は僅かに口元を歪めた。 革醒以前の自分を引きずっている存在、というのは自分と若干ながらも被るところがある。単一の目的と過去に囚われているという点で、しかし彼と彼女との間にどれほどの違いがあるのだろうか。 ……否、その違いは多大だ。正義と悪という二元論ではない。味方の有無とも違うだろう。だが、確かな違いというものがある。 「俺は鉄 勇人。今からお前らを倒す戦士の名前だ!」 「空堂 虚樋ってェんだ。閻魔様にでも泣きついとけや!」 『誇りと挟持』があるか、否か。 各々の力を滾らせ、リベリスタとフィクサード、二つの主義が激突する。 ――風に乗って、「いただきます」と聞こえたような、激戦の夜。 ● 姿勢を低くし、真っ先に動き出した桂士の行動は、虚樋に対応するでもなく瀬之火を止めるでもなく、一般人と自分たちとの距離を置くことだった。 もとより一般人目当てにここに足を踏み入れた彼らをして、正面から戦っただけでは徒に物的被害を撒き散らす可能性は否定出来ない。 ビル内の人間の全退去は難しいにしても、近くを往く人間だけは何とか切り離さなければ。 だが、それに対して適切に避難を仰ぐには、神秘の世界は荒唐無稽にして不可侵のものである。故に、彼が許された言動は限られたのだ。 「火事だ! ここからすぐに逃げろ!」 非常ベルに拳を叩きつけながら、ビルの外へと響く大音声で叫ぶ。それをまともに受け止めるかは別としても、『何かが起きている』『近づいてはならない』と一般人に認識させるには十分だったといえるだろう。強引だが、力づくではない。スマートとはいえないが、適切な判断だ。 当然、彼のその動きを茫として見届けるフィクサード達ではないが、虚樋が拳を振り上げるより早く、真咲の戦斧の先端がそれを掠め、大きく火花を散らす。 ……重い。重量で圧倒的に勝るそれを熟達した動きで補佐して尚、『ギガインパクト』の重圧は拮抗するまでにその一撃を片手でかち上げ、反撃を試みるレベルなのだ。 「堂々と前に出てきたんだ、甘えたこと宣いやがったら殺すぜ……もうちょっと気張れや、あァ!?」 「おにいさん程度ならこんな子供で十分、そう判断したんじゃないのかな。まだまだ面白くないしね」 弾かれた両者がコンディションを確認しながら、静かに距離を取る。驚愕の呻きは、虚樋からか。真咲には、戦闘への嫌悪や悪感情などない。笑顔だ。心の底から楽しくてたまらないとしか思えない程に。 「テメェ……!」 「その程度でありますか、弱いものイジメしかできないのでありますな」 鉄扇から放たれた真空の刃を僅かに身を捌いて……辛うじて回避しながら、しかしその動きに大きく制限を受けたことを虚樋は感じ取っていた。一瞬の交叉でやられたか。とすれば、目の前の敵は劣ると嗤うに余りに危険だ。 ならば哄笑(わら)え。盛大に。 「……これだからあの馬鹿は。あんま俺を手間取らせんなよ……ッと」 「絶対逃がさない」 その様子を面白くもなく眺め、杖を振るって強烈な光を呼び込んだ瀬之火は、首の皮一枚のところで思乃の刃を回避する。一瞬の踏み込みから再度距離をとった彼女の瞳に宿る暗いものを、同じ女性である瀬之火が見逃す訳がない。使わないはずがない。 「おっかねぇ。お前、何? フィクサード(おれら)に大事なモンでも壊されたクチ? 居るんだよねえ、やれ復讐だーやれ報復だーってさ、やんなるね!」 「…………」 「俺を、無視するなぁっ!」 女性に似つかわしくない野卑な笑みを浮かべる女へと、勇人はバスタードソードを叩きつけんとする。だが、咲の光で距離感を奪われたか、一歩及ばず、路面へとその鋒を埋め込むに留まった。 「大丈夫、大丈夫、無視しちゃいねぇよォ。実際オメーみてーな直情型は厄介なんだ。おまけに教科書に出てきそうな典型的なデュランダル……分かるか? 俺が虚樋の回復を遅らせてまでお前等に一発ブチ込んだ理由がさァ!」 「このっ!」 薄笑いを浮かべる瀬之火に、勇人は憎々しげに視線を叩きつける。神聖術師の神秘の基礎の一つに、相手の動きを抑える極光が存在する、というのは語るまでもない常識だ。 だが、知ると受けるとでは余りに大きい。液化した鉛に体を浸したような重みは、確実に彼の動きを侵食していたのだ。 (虚樋にも十分な警戒が要るが、全体として不利になるのは捨て置けない、か……) 瀬之火のそれに対応するように、ジークリンデが光を放つ。ベクトルは真逆。攻めではなく守り、不利ではなくニュートラルな状況を呼び込むためのそれである。幸いにして、エルルは早急に決着を付けようとは思わず、十分な集中の下にあったがために、無為な魔力の乱発はしていない。火力に相応の魔力を要求される以上、乱発を防ぐのは後衛職にとって重要な行動である。 「あークソッ、数の暴力かよ鬱陶しい……!」 (回復は、絶やしちゃいけないから……) おずおずと、文月の指がグリモアールのページを捲る。既に魔力の循環を手にしている彼女に息切れの概念は薄いが、それでも全員の体力をカヴァーするには余りに肩の荷は重い。 だが、それで止めるか? 足を止めて近づかないことを選択するか? 否だろう。近づきたいからこそだ。 神秘の入り口に立ったからえらいわけでもなく、それだけで自分を変えられるわけでもない。だけど、きっかけを掴んだ自分を、自分と共に歩む仲間を、大切にしたい気持ちはあるはずだ。 (辛いけど……目を、背けたら……前と同じ、だから……!) 弱いという事実の認識と、変わりたいと願う心。それは、等しく彼らの世界を変えうる予兆の一つだった。 ● 「これでやれるとは思わないけどな……動きを封じさせてもらうぜ!」 「チッ、無害だと思って無視しといてやりゃぁとんだ食わせかよ、手前ェ」 エルルの宣言とともに、魔力の本流が音階に変じて瀬之火を打ち据える。 音に合わせ乱れる『ショック・シューター』は、自らの領域外であっても持ち手の意思を明瞭に反映し、確実な一撃を送り込む。 魔力量を考えれば、瀬之火が大きく上回ることは自明だろう。だが、戦闘に於いて力に劣り、数に勝る者が心掛けるべきは仲間を意識すること、一点に尽きる。 何時でも庇える様に背を貸す文月が、荒い息を吐きながら手を震わせながら、それでも癒し手であることを全うしようとしている。 報いるべきは、その献身。 手にすべきは、今行使できる最大限の神秘。 「……確実に仕留める」 『雷光』の鞘から、その本身と『雷鳴』とを一瞬にして抜き放った桂士は、抜き打ちの要領で瀬之火の背面へ一撃を叩き込む。大きく仰け反った彼女の表情が、驚愕と痛打への呻きに染められた。 不意打ち? 否、気配には気付いていた。動きも読めていた。何故避けられない? 翼の加護を受け、人並み程度には回避しうる状況を作って、このタイミングで何が起きた? 「ダメ。ダメよ」 宙を舞う鳥が撃ち落とされるように、僅かに浮き上がった身が桂士の一撃で弾き飛ばされる。その衝撃に追いすがる様に至近へ踏み込んだ思乃が、胸元を大きく切り裂いて飛び退る。 視界が空転する。認識を正せない。呼吸を……無理だ。肺のショックが正常化するまで、打撃戦に不利な自分では時間がかかりすぎる―― 「これが俺の一撃だ!」 正面から、勇人が大ぶりな一撃を向ける。さっき見て、やすやすと回避した一撃。緩慢な時間の波に飲み込まれた瀬乃火に、しかしそれを避けるに足る動きは不可能だ。最善の対処を脳裏に描き出し、クレバーな癒し手は視界いっぱいに広がる死を受け容れるしか無い。意識が、暗転する。 「さっきも言ったけど、おとなしく捕まるなら命までは取らないよ? ……って、もう遅いか」 「――――ッぁア!」 咆哮を挙げ、虚樋が真咲へと重い一撃を送り込む。既に多数の打ち合いを経て、加えて文月の回復に限度を迎えつつある中での蓄積ダメージは無視出来るものではない。 それを受け止めようと構え、しかし意識がほんの少し遠ざかった真咲を抱きかかえるようにして背後から入れ替わり、剛撃を弾いたのはジークリンデだ。 一歩引いて戦場に立っていたのが幸いしたか、シフォンや真咲を襲った覇界闘士の髄を受けるには至っていない。まだ受け止められるし、戦える。 「下がっていて、ここは私が抑える」 簡潔に告げた彼女とて、脅威を感じぬ訳ではない。目の前の敵は強敵だ、間違いなく。 止められるかと問われ、自身満面にイエスとはいえないだろう。然し、「やってみせる」とは言うはずだ。リベリスタであり、軍人であるならば、否と口にするわけもなし。 「いい度胸してやがる、お前等全員ここで……!」 「やってみるがいいであります。援護を受けてまで自分を倒せないような相手など怖くないであります」 シフォンの声には、何ら偽りを感じなかった。数度の打ち合いを経てしかし、これを含めた二人は自らの攻撃を尽く耐えしのいだ。全能感が揺らぐのは、虚樋のプライドが許さない。入れ替わった相手諸共撃滅せねばなるまい。 ……可能か? 体は動く。傷は浅い。敵の数は問題ではない。 言葉に足る程度の戦いを見せて、自分は自分であることができる。それが、悪党(フィクサード)。 「……頑張っ、て……下さい。戦える様に、します……から……!」 魔力の循環で、切れかけた糸を繋ぐ様に魔力を手繰り、喉奥から絞りだすようにして癒やしを紡ぐ。僅かなミスすら自らに許せない。 戦っているのだ、文月自身も。癒し手として、神聖術師として、リベリスタとして。 「うぜぇ、うぜぇよこのクソガキ!」 「通すものかよ!」 苛立ちを顕に虚樋が放った蹴りからの真空刃は、エルルが身を呈し受け止める。威力に目眩を覚えるが、倒れる程ではない。 何時でも守れるようにしていたのだ。耐え切る為の心の準備もできている。彼女に、何ら抜け目はない。 「私と遊びましょ」 「趣味じゃねえ……ああ、この上なく趣味じゃねえな、お前みてえなタイプは一番嫌いだ。真壁よりも後ろ暗い顔しやがって」 「そう、でも」 「ああ、だが」 『どうしても、お前(あなた)を殺したい』。 理屈ではなくほぼ本能で、思乃と虚樋はぶつかり合う。一合、二合三合、血を撒き散らし剣戟を響かせ繰り返し打ち合う。 当然、その空気の呑まれるリベリスタではない。その最中に桂士が刃を振るい、勇人が大上段から振り下ろす。 躱す、或いは皮一枚で受け止め、反撃とばかりに雷撃が舞う。 打ち合う、弾く、避ける、切り裂く、叩き込む、吹き飛ばす。 一対多の状況は状況判断に割く時間を与えない。一瞬の猶予もありえない。だが、それは決定的な多数側における優位という結末に締めくくられる。 虚樋の拳が、シフォンの鉄扇と僅かに触れ合い、火花を散らす。 本来なら、叩き込もうとすれば出来た筈だ。だが、その拳は小刻みに震え、動かない。見上げた相手の前進からはしとどに血が溢れ、目には理性の光はない。 押し込もうとする筋力に、繰り返し振り下ろされた刃の軌道が彼の自由を奪ったのだ。最早、勝負はあった。 「楽しかったよ、おにいさん」 ごちそうさまと、刃と共に声が降ってくる。 自らがあれほど信仰した理不尽な暴力は、同じものを以て彼自身から奪い去ったのだ。 なにもかも。 ● 「ちょっとこれで遊ばせて貰おうぜ」 「むしろ自分が欲しいであります」 虚樋から奪ったアーティファクト、『ギガインパクト』を前にして、エルルとシフォンは興奮状態にあった。特にエルルなどは、何か試したくてうずうずしてすらいる。 『……あー、ごほん。そろそろ依頼の成否がはっきりした頃合いでしょうかね。「何も起こらず起こさず安全に」、君達が帰ってくることを期待していますよ』 そんな空気は、しかし突如として幻想纏いから割り込んできたフォーチュナの声に叩き壊される。 ビル以外の何かを破壊しても、それが何の影響もなく明日を迎えるかといえば疑問なのだ。神秘の入り口に立つ彼らにとっては、特にその不確定要素だけは排除したい……と、いうのが実情なのだった。 「みんな、おつかれさまー!」 そんな彼女たちの哀愁を知ってか知らずか、真咲の声が明朗に響く。 夜は、静かなままに更けていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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