●沼地の魔王 立ち入り禁止区域、と言うものがある。何かしら危険な理由があり、その区域は立ち入り禁止なのである。ここもその1つ。森林の中に無数に点在する沼と、そこから噴き出すガスのせいで危険区域として扱われている。 しかし、地元の者すら近寄らないこの場所で、今日この日、誕生した生命体があった。 ボコボコと泡立つ沼から、太い腕が突き出される。泥で出来た腕だ。その腕は端から崩れ、そしてまた形成される、ということを繰り返す。自分の体すらまともに維持できないようなその腕の主は、果たしてどのような姿をしているのか。 全貌は掴めない。沼に沈んで、出てこないから。 E・エレメント(沼地の魔王)と呼ぶことにする。そして、魔王には側近や部下が付きものだ。魔王の居る沼地の周囲に、続々と集まってくるのは泥で出来た人型達である。 それぞれ、体長は3メートルを超えるだろうか。人型をしている。しかし、その容姿は獣にも似ていた。太い手足に小さな頭。泥で出来た身体から、ガスを噴き出す。 名を(スワンプモンスター)と暫定しよう。 人気のない森林に生まれ、そして彼らは何処へ行くのか。 このまま森林に留まるつもりかもしれない。 或いは、近くの村へと移動を開始するかもしれない。 どちらにせよ、放っておくわけにはいかないのだ。 存在するだけで世界の崩壊を誘発する。それがエリューションという怪物達だ。 それを防ぐために、アークは、そしてリベリスタは存在しているのであった。 ●底なし沼にご用心 「時間帯は昼間。とはいえ、森林内は鬱蒼と茂る木々のせいで少々薄暗い。そんな中で見る泥とガスのエリューションは、ちょっとしたホラー映画のワンシーンみたいかも」 モニターに映ったのは異形の怪物。ドロドロと崩れる体躯。足を引きずり、降り積もった落ち葉の上に線を残す『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言う通り、なるほどこれは、ゾンビ映画のワンシーンに似ているかもしれない。 「魔王はフェーズ2。スワンプモンスターのフェーズは1。スワンプモンスターが全部で何体存在しているか分からないけど、少なくとも10体はいるみたい」 スワンプモンスターを何体倒してもさほど意味はない。優先すべきは魔王である。 しかし、魔王は簡単には姿を現さない。 「スワンプモンスターにしろ魔王にしろ、その身体は泥とガスで出来ている。ある程度なら容姿を変えることも可能だと思われる」 それはつまり、常に人の形を保っているとは限らない、ということだ。うっかり足を踏み入れた沼が、スワンプモンスターないし魔王であった、ということにもなりかねない。 見ての通り、この場所は沼だらけ。 「足場には十分注意してほしい。それから、沼から噴き出すガスが溜まっている場所もある。火器の使用にも注意して」 そう告げて、イヴは仲間達を送りだした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月28日(土)23:33 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●沼地にて ボコボコと泥が泡立っていた。地面の底から湧きあがる、ガスのせいだ。時折、泥の中から何者かの視線を感じることもある。 沼地だ。場合によっては、底なし沼と呼ばれる類の。 地元の者すら寄りつかない沼地で、そいつらは生まれた。 泥が人の形を成し、地面から這い上がる。 その光景はまるで、B級ホラーのワンシーンのようで。 それを見ていたリベリスタ達は、漂うガスの臭いと、醜悪なその姿を見て、眉間に皺を寄せるのだった。 ●沼地の魔王とその配下 8人の踏み込んだ沼地には、異様な気配が漂っていた。 生物の気配は感じない。それなのに、何処かから誰かに見られている。そんな気がしていた。 「人気無しとの事ですが念の為でございます」 視線の主は、恐らくE・エレメント達なのだろうがしかし、それでも念には念を入れて、万が一にも被害が出ぬよう『紫苑』シエル・ハルモ二ア・若月(BNE000650)は結界を展開した。 「さて、沼地というと魔女という単語が最初に浮かびますが……討伐させていただきましょう」 一閃。『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)の足刀が空を切り裂いた。真空の刃が、沼地へと突き刺さる。それは、沼地から突き出た太い腕を切り裂き、散らせる。 慧架の視線の先には、沼地から不意打ちしようとしたE・エレメント(スワンプモンスター)の姿があった。 『………。生命の気配が乏しい沼地とか描画には最適なのに』 脳裏に響く涼しい声。『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)の声が脳裏に響く。スワンプモンスターの消えた沼地をじっと見つめ、その様子を彼女は記憶に描きとめる。 瞬間記憶。彼女の活性化してきたスキルによるものだ。 「引き摺り込まれないように気を付けないとな」 沼地を大きく迂回する『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)。彼に先行して、影で出来た人型が歩いていく。沼地に足を取られながらも、前へと進む影人を、疾風はじっと観察していた。 「誘き出せませんかねぇ」 影人は安全なルートを探る為の囮である。『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)の召喚したものだ。疾風と諭の見守る中、影人はどんどん沼地を先へと進んで行く。 「あーもー、泥に土に木の枝に。服が、汚れます!」 不満を叫び、沼の上を歩くのは水上歩行を活性化した『残念な』山田・珍粘(BNE002078)であった。水上歩行を活性化している彼女は、沼地でも問題なく歩き回ることができる。 しかし……。 「あぁ!?」 甲高い悲鳴を上げる珍粘。その足首には、太い泥の指が絡まっていた。沼地から飛びだして来たのはスワンプモンスターだ。異臭を放つ汚泥が彼女に降り注ぐ。 ドロリ、とした黒に視界が染まる。悲鳴を上げる珍粘を他所に『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)がカードの束を取り出し笑う。 「じっくり、ゆっくり、確実に……徐々に獲物を追い詰めていきましょうか」 漆黒のカードが宙を駆ける。まっすぐ、それは沼の中に沈んだモンスターの額を撃ち抜く。飛び散る汚泥。溶けて消えるモンスターの腕。服の汚れを落とそうとする珍粘。 辺りは一瞬で、泥の汚れに侵された。 「泥のエリューション……。所謂、泥の巨人みたいな感じのものね」 そう呟いたのは『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)である。飛び散った泥を盾で防いで、器用に汚れを回避していた。 暫く周囲に警戒していたリベリスタ達であったが、結局、それ以降スワンプモンスターの襲撃はなかった。 ただ1点。 先行していた筈の影人が、いつの間にか消えていた。 「代えは幾らでもありますから、召喚して次々送り込みましょう」 そう言って諭は、次々と影人を生み出す。生まれた影人は、彼らの周囲に展開。先行して沼地を進む。今回の彼の役割は、囮と視界を増やす事にある。 本来であればファミリア―で鳥を支配し、空中からも沼地を観察する予定であったが、それには失敗している。鳥が近くに居ないのだ。立ちこめるガスの臭いのせいかもしれない。 ボコボコと、沼が時折泡立っている。 召喚した影人が消えているのが分かる。一瞬で、沼地に引き込まれているのだ。 「敵の知能がどの程度かは判りませんが、もし影人を囮と理解して警戒しているのでしたら、影人の代わりに囮をやってみましょうか」 低空飛行で沼に近づくユーディス。彼女の背には小さな羽が付いていた。沙希のスキル、翼の加護によるものである。 『何処から[手下]が出てきたか。まだ調べていない沼地はどれか。逐一瞬間記憶しましょう』 影人が何処で消えたか記憶していた沙希が、その場所をユーディスに伝える。その指示に従って、ユーディスは飛行。沼地の上で、槍を構えて制止した。 『その辺りまで進んでいたと思うわ』 そう告げる沙希。足元を警戒するユーディス。 暫し、静寂が訪れる。 次の瞬間、ユーディスの背後からモンスターが飛び出す。泥が飛び散る。異臭が周囲に立ちこめた。それだけではない。更に数体、他の沼からもモンスターが現れた。 モンスター達は一斉に泥を吐きだす。弾丸のような勢いで発射された泥が、ユーディスの肩を撃ち抜いた。 「ハズレばっかり……。残念ね」 漆黒のカードが空中を疾駆。泥の弾丸を打ち消し、そのまままっすぐモンスター達をも射抜く。それを放ったのはエーデルワイスだ。酷薄な笑みと共に、踊るような動きで次々カードを投げた。 「黒死病を使うまでもありませんでしたね」 珍粘がぼやく。代わりに、諭やエーデルワイスなど、EP消費の激しい仲間に向けインスタントチャージを使用。EP回復に努める。 長い髪に付いた泥を拭いながら、珍粘は小さく笑みを零した。 「儚い、儚いなー。ふふ」 誰にともな吐いた言葉が、静かな沼地に溶けて、消えた。 「何処から来ても迎撃するだけだ。逃がしはしない。変身!」 装備を身に纏うと同時に、疾風が飛び出す。紫電を迸らせながら、沼から現れたモンスターを攻撃。弾ける雷光。飛び散る泥。 素早い連続攻撃が、スワンプモンスターを叩きつぶす。 「先ずはスワンプ掃討に切り替えます」 疾風に次いで、慧架が飛び出す。真空の刃が、周囲のスワンプモンスターを切り裂いていく。木を蹴飛ばし、翼を活用し、立体的な動作での上空からの攻撃。撃ち出された泥の弾丸も、そのほとんどが撃ち消されていく。 とはいえ、無傷とはいかない。 疾風は次々と現れるスワンプモンスターに掴まれ。 慧架は、無数の泥の弾丸に射抜かれた。 泥に混じる2人の血液。すぐに溶けて、判然としなくなる。 「癒しの息吹よ……」 囁くような、それでいてハッキリとした声。シエルの声だ。次の瞬間、燐光混じりの微風が吹き抜ける。淡い光は、傷ついた仲間達を癒していく。 宙を舞いながら、仲間の治療をするシエル。彼女が治療を請け負ってくれるおかげで、彼らは遠慮なく、身体を張って前で戦えるのである。 沼の奥深く。音も光も届かないようなその場所で、ソイツの意識は覚醒した。 彼の配下から届く報告は、こちらの劣勢と、異質な侵入者に関するものばかりだった。 新たに生み出した配下も、次々討伐されているらしい。 どうやら侵入者は、雑魚の手に負えるような相手ではないらしい。 それならば……と。 魔王は、静かに浮上を始めた。 「ただならぬ気配!? ご注意を!」 シエルが叫ぶ。その直後、異変は突然起こり始めた。 泥が溢れる。周囲の沼が波打って、泥の柱が立ち上がる。泥に飲まれて、数体のスワンプモンスターも巻き込まれて、ただの泥へと変わっていく。 ガスの臭い。泥の異臭。大津波と化し、氾濫する沼。頭上から降り注ぐそれらの中央に、巨大な泥の巨人が1体、立ちはだかっていた。 降り注ぐ泥に飲まれ、シエルの姿がまず消えた。次いで、次々と他の仲間達の姿も消えていく。 『魔王は物理攻撃に耐性ありだったわね……』 脳裏に響く沙希の声。後衛から、汚泥の飲まれた仲間達の行方を探す。しかし、魔王降臨の余波で周囲の地形が変わってしまい、彼女の記憶していた情報がさほど意味を成さなくなってしまった。 「魔王を倒さなければ意味が無さそうだ」 「魔王は討伐されるモノですから覚悟は出来ていますよね?」 疾風と慧架が飛び出した。覇界闘士の2人は、その素早い身のこなしで泥の津波から難を逃れたのであろう。沙希を含め3人。残りの5人は、未だ泥の中にいる。 飛び出した2人は、虚空を掴む。否、掴んだのは魔王の気配か。 弐式鉄山。砕けるほどの勢いで、魔王を地面に叩きつける。泥で出来た身体が飛び散った。魔王の体と、沼地の泥が混じり合う。 地面が揺れた。着地した2人の目の前に、2本の腕が飛び出した。 魔王の腕だ。噴出するガスに炎が灯る。燃えさかる剛腕が、振り回された。 「……っぐ!?」 「あぁ!?」 火炎に巻かれ、疾風と慧架が地面に倒れる。そこへ群がるのは、数体のスワンプモンスターだ。まるでゾンビ映画のそれである。腕を突き出し、意味を成さない言葉を吐きながら、モンスター達は、疾風と慧架に掴みかかるのだった。 「不味いですね。まったく、泥水をすする羽目になるとは思いませんでしたね」 泥の中から這い出てきたのは、息を切らした諭であった。彼の手には数枚の式符。それらを周囲にばら撒いた。 式符から召喚された影人が、泥の中から諭を引っ張り出す。諭と一緒に引っ張り出されたシエルは、どうやら意識を失っているようだ。戦闘続行は不可能だろうか。 シエルを一瞥し、諭は回復を後回しにすることに決めた。影人に指示を出し、他の仲間達の救出に向かう。 やれやれ、と頭を掻いて。 泥塗れのまま、諭はそっと後衛へ下がる。 泥の中から救出されたユーディスは、ゲホゲホと咳き込みながら立ち上がった。 口の端から汚泥が零れる。津波に飲み込まれた際に、泥を飲んでしまったようだ。喉の奥に不快感を覚えながら、彼女はそっと魔王へ向けて指先を伸ばす。 ユーディスに気付いた魔王が、彼女へ向けて腕を伸ばす。ボトリ、と零れた泥の塊がスワンプモンスターへ姿を変えた。 「配下を生み出す能力があるなら、迅速に処理しなければなりません。沼に留まっている間に終わらせましょうか」 ユーディスに掴みかかる魔王の腕。その腕に、真っ黒な鎖が巻き付いた。鎖を辿ると、そこに居たのはエーデルワイスだった。 綺麗な髪が、泥に濡れて頬に張り付いている。 「逃がさないわよ、哀れな魔王。憎悪の鎖が貴様を縛る、死ぬまで決して逃さないわ」 憎悪の鎖が、魔王の腕を這いあがる。腕を、胴を、首を締めあげる禍々しい鎖。魔王がもがく。振り下ろされた腕が、沼地を叩く。 揺れる地面。降り注ぐ汚泥の中で、ユーディスの指先がゆらめいて見えた。 エナジースティール。魔王の体からエネルギーを奪っていく。 鎖に囚われ、エネルギーを奪われる。魔王の体がドロリと溶けた。残ったのは剛腕が2本。噴き出すガスに引火し、腕が炎に包まれる。 魔王が腕を振り回す。地面を焼きながら振るわれた腕が、2人の体を弾き飛ばした。 ●沼地の魔王の断末魔 「あー、服が……。アーティファクトでなかったら、二度と着れなかったかもしれませんよ。この恨み、魔王連中にぶつけても良いですよねえ?」 ほの暗い笑みを浮かべ、クスクスと笑う珍粘であった。泥だらけの顔を拭い、その視線を魔王の頭上に固定した。 一瞬、珍粘の顔が苦痛に歪む。生命力が急速に奪われていったからだ。 視線の先、魔王の頭上で空間が歪んだ。小規模なDホールが空間に穴を開ける。 その穴から染みだしてくるのは、異界の疫病だ。 病魔が魔王の体を蝕む。地面に倒れたユーディスとエーデルワイスに追撃をかけようとしていた魔王の動作がピタリと停止する。何かに苦しむような動作。引っ掻いた喉から、汚泥が零れる。 黒死病が効いたことを確認し、珍粘はその場に膝を付いたのだった。 スワンプモンスターを、次々と撃破していく疾風と慧架。2人の補助をする諭と影人達。 これで後は、魔王を倒すだけだ。 『回復は私が引き受けるから「魔王」に【魔王】から引導渡してあげて』 沙希がそっと、シエルにそう語りかけた。意識を失っていた筈のシエルが目を覚ます。シエルの所持するスキル名が【魔王】であった。 沙希の周囲に燐光が舞う。仲間達の元へ飛び散って、その傷を癒す。 コクン、と小さくシエルは頷き、飛び上がった。白い翼を羽ばたかせまっすぐ魔王の元へと飛んでいった。 幸い、魔王は弱っている。病に侵され、もがき苦しんでいるようだ。 「役不足でしょうが……私も参ります……。お手合わせを」 魔王の頭上を飛び回る。翼から溢れる光の渦が、魔王に襲いかかる。 「魔風よ……。濁流となりてかの者を呑み込め!!」 魔力の奔流が、魔王を飲み込む。 白い風だ。竜巻のようにも見える。魔王の体を形成する泥が、次々と削られ消えていく。 魔風に遮られ、汚泥が周囲に飛び散ることはなかった。 魔風が消えるまでの間、魔王の悲鳴が聞こえていたように思う。 そして最後に。 ボトリ、と泥の塊が沼に落ちて、魔王の姿は消えていた。 魔王は消えた。残ったスワンプモンスターも、一気に殲滅。 最後に一通り、沼地に敵がいないか確認した後、リベリスタ達はその場を後にし、アークへと帰還していった。 それを見送って、ガスの臭いが漂う沼地に、立つ影が1つ。 怪しい笑みを浮かべた、エーデルワイスである。 「ボコボコボコボコ・・・・危ないガスが発生ね☆ だからこそ派手にやりたいじゃない! さぁ、どんな綺麗な輝きになるかな? うふふふふ。さぁ泥沼を一気に爆発だー!!!」 手にしたライターに火を付けるエーデルワイス。 ガスの発生する沼へ、彼女はそれを放り投げた……。 後日、沼地で起きた謎の山火事が新聞の一面を飾る事になるのだが、それはまた別の話。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|