●孤独の中の孤独 「配島が死にました」 浅場はごく短い言葉で直人からの情報を首魁に告げた。珍しく帳簿のチェックをしていた凛子の手が止まる。 「どこからの情報だい?」 「元配島配下の露木直人からの密告です」 浅場は簡単に直人からの電話の要旨も報告する。 「それじゃあ確かなようだね。こんなに早く逝っちまうなら、望み通りあたしの手ずから引導を渡して東京湾に沈めてやればよかったねぇ。可哀相な事をしたよ」 凛子は眼鏡を外し、机に肘をついてぼんやりと遠くを見た。 「直人の申し出は如何しましょうか」 何も話さない凛子の様子にしばらくじっとしていた浅場だが、チラリと腕時計に目をやりそっと声を掛けた。配島の腕とその腕がはめていたアーティファクト『孤独』を形見として三尋木凛子に届けてもらいたいというのだ。 「やめとくれよ、そんな辛気くさい話。その子も形見もお前の好きにしていいよ。おや、お前こそなんだか神妙な顔をしているじゃないか。まさかとは思うが配島が死んで悲しいのかい?」 凛子は意外そうな顔で笑う。けれど浅場は首を横に振った。 「配島は大田重工の工場に出向く前に私の短刀を持っていってしまいました。あれは同型の他の物より随分と出来が良く重宝しておりましたので、少々残念に思っているだけです」 「そうなのかい。まぁそっちは上手くやっておくれ」 凛子はそれきりもう興味がないという様子でまた分厚い帳簿に視線を落としたが、眼鏡は机の上に置かれたままであった。 ●衝動は裏切りの代償を要求する 人が殺される……珍しくもない光景だったが『ディディウスモルフォ』シビル・ジンデル(nBNE000265)は被害者の顔を知っていた。それはかつて三尋木のフィクサードであり、今はアークのリベリスタとなって三高平大学に通う1人のクリミナルスタアだ。 「名前はナオト。えっと露木直人(つゆきなおと)だよ。場所は時間は御殿場駅市営駅南駐車場の屋上。午前3時頃。誤差は前後15分ぐらい。理由は裏切りの報復だよ」 シビルは淡々と告げる。三尋木のナオト、いや直人がアークに身を置くようになって1年半が経つが不審な行動はない。それどころが『楽団』がアーク本部を襲撃した際には三高平大学構内で防衛戦にも加わっている。 「でもね、その人はアークも裏切ってしまったんだよ。リベリスタのみんなが回収してきてくれた品物を持ち出して三尋木に渡そうとして、浅場って人に電話をしちゃった」 このままであれば浅場は直人を呼びだし品物を奪って惨殺する。つまり三尋木のフィクサードに殺されるのは元三尋木のフィクサードなのだ。 「まぁこれについてはボクも悪かったんだよ。まさか彼がそんな事をするとは思わず、回収品の保管場所を言ってしまったんだからね」 シビルは髪の毛先を指で弄びながら視線を落とす。アーク本部の通路で会った元フィクサードからは邪悪な感じはしなかった。本当に困っている様子で思わず教えてしまったのだ。回収されたばかりの『孤独』と『配島の腕』の保管場所を。 「だから少し責任を感じているんだ。それに裏切りの代償が死っていうのはアークっぽくないと思う。ここはもう少し優しい組織だよね。だから、露木直人の命、助けてあげてくれないかな?」 色々と面倒な案件なんだけど……と、シビルは言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月27日(金)21:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●午前2時のエチュード 昼間の汗ばむ陽気の残滓は既になく、肌寒い程の風が頬をかすめて過ぎてゆく。 「極道でさえ裏切りには報復がある。主流七派ならば言わずもがな……世間知らずもいい所です」 フィクサードであった癖に直人は世慣れていないと『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は思う。そういう者達は大概愛すべきバカ者であり短命に終わる。けど、今夜の結末は変えてみせる。ユーディスは暗闇を見通すサファイアの瞳と周囲の気配で敵を待つ。 「さすがに2時だと誰もいないか」 普段よりずっと押し殺した声音で『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は言う。深夜の駐車場は打ち捨てられた棺桶の様に車が点在している。 「ったく、面倒な事をしてくれたもんだぜ」 それが『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)の感想の全てだった。気持ちはわかるがが、厄介事をしでかしてくれちゃって感が半端ない。 「ぶっちゃけ奴には言う事もないからな。敵さんが来るまでここでのんびりさせてもらうぜ」 皆と同様、背の高い体をなるべく小さくまるめて車の影に隠れ、息を殺す。出来れば早く来てくれないかと思いつつ、闇と同化するかのように身を潜める。 「配島も直人殿も世話のかかるヒトだねぃ……」 やはり隠れている『灯蝙蝠』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)は暗視ゴーグルを装備しようとして、暗いガラスに映る自分の顔に見入った。夕陽色の瞳は少し困った様な表情の中で灯火の様に輝いている。死者を悼む暇も甘い血の香りと舌触りを思い返す愉悦の時間も足りてない。 「イイよぅ、トコトン付き合ったげる!」 アナスタシアは暗視ゴーグルで顔を覆い髪も隠す。 「シビルさんは仲間ですからしょうがないですね。でも、露木さんはもう少し色々考えた方がいいですよ……もう手遅れかも知れないですが」 小さくお可哀想にと付け加えながら『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)は今夜決着が着くはずだった裏切り者の末路を思い描き、もう何度目かのそうはさせないための思考を始める。 「私はそこにいなかったのよね」 谷中村で爆発が起こった時、『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は別の場所にいた。だから、その瞬間を自分の目で見たわけではないが直人が話を聞きたければ話すし、こんな愚行をしでかすと判ったなら力ずくでも止めていただろう。 「やっぱりこのままってわけにはいかないわ。寝覚めが悪いもの」 水無瀬・佳恋(BNE003740)も谷中村の現場にいた者の1人だ。 「もう2ヶ月以上が経つのですね」 つい最近のことのように思えるが時間は無情に過ぎてゆく。敵であれ裏切り者であれ、ただ殺せばいいわけではないと思う。だから、戦いは最低限にしたいのだ。 「でも、見過ごすわけでも赦すわけでもありません」 灰色の瞳には強い意志の力がのぞく。 「やっとフィクサードさん達のお出ましですよ。あまり警戒はしていないようですね」 遠く、3台の黒いセダンが闇に沈んだ彼方から街灯の照らす光の中へと浮かびあがるのを真昼は視る。車はリベリスタ達が潜む立体駐車場へと侵入し1つ下の階で乱暴に停車した。どうやら直人が来るのを待つようだ。そして更に20分を少し過ぎた辺りで真昼の目は最後の登場人物の姿を映す。 「全ての役者が揃ったみたいですね。やれやれですよ」 直人は武器など目立つ装備はなにもないが、白い円柱状の包みを抱えている。 「……腕だねぃ」 アナスタシアの表情が曇る。谷中村で見たときよりも――サンプル採取と防腐処理の為か――随分と形が変わっているが、確かに無惨に本体から切り離された人体の一部だ。 直人が立体駐車場へと入ってくる。エレベータの稼働音が響き、屋上階に四角い光が投影されそこから直人が降りてくる。 「全ての子羊に安息と安寧を……」 暗がりの中で杏樹は神へと捧げる祈りの言葉を遠き国の古き言葉で締めくくり、自身の身体のコンディションを戦闘モードへと以降させた。特にその黄金色に輝く瞳は刻々と変化する全ての事象に対処できるよう能力を強化する。 ●午前3時のレクイエム すぐ下の階で車から降りる音が聞こえた。駐車場の端に向かう直人は非常階段を上る音に振り返る。 「久しぶりだな」 「山内さんか。まぁ浅場さんが来るわけないか」 革靴の音と気障なコロンの香りで直人は近寄ってきた男の名を口にする。浅場の下にいたいかつい顔のホーリーメイガスだ。 「うす汚ねぇ裏切り野郎相手に浅場さんが出張るかよ。さっさと『孤独』を渡していっちまいな」 歩み寄る山内が伸ばした右手に気糸が絡みつく。 「うおっ」 「ここからは勝手に動かれちゃ困るんだよ」 山内の動きを封じたのは真昼の身体から山内の周囲へと張り巡らされた糸だった。 「頭の悪そうな古くさい展開はここで終りにしてもらえるかしら」 シュスタイナは沢山の魔方陣を空間に描きあげ、魔力を強く激しく増幅させてゆく。同じく身を潜めていた『友の血に濡れて』霧島 俊介(BNE000082)も紺色の車の影から飛び出すとパラサイト・ライトの光で周囲をまばゆく照らし出す。 「お前までいなくなる気か! 直人!」 俊介の身体から放たれた爆発的な輝きが山内を焼き、まだ不意打ちの衝撃から醒めやらぬうちに一気に距離を詰め山内の前に立ち塞がった杏樹は背に直人を庇って言う。 「直人は後で説教だな。当然、お前もだ」 「霧島に不動峰だとぉ?!」 防御姿勢の後に飛び退いた山内のダミ声が響き、階下から外壁伝いに屋上によじ登ってきた6人のフィクサード達が前に出る。 その時、物陰に潜んでいた佳恋がいきなり光の中に踊り出て、今着地したばかりのフィクサードへと凄まじい闘気を放つ死に神の翼――長剣が襲いかかった。 「ぐあああぁぁぁ」 屋上から何もない空間へと飛ばされた不運な男が絶叫をあげて落ちる。鈍い衝撃音が響いたきりうめき声さえ聞こえない。乱れる長い髪を背へと払い、佳恋ははぁと小さく溜息をついた。 「殺すつもりはなかったのですが……運の悪い人だったみたいですね」 「アナスタシア・カシミィル、お相手するよぅ!」 フードを取ったアナスタシアの明るい色の髪が光に映え、凍えるほど冷たく冴えた気をまとった拳が別の男のみぞおちに綺麗に決まる。 「知ってるぞ、長い髪のデュランダルとデカパイヴァンパイア……」 「なんでアークが」 浮き足立つ部下達に山内の感情が直人へと爆発した。 「ケチな罠で俺達をはめやがったなぁあああああ!」 振り向き様、山内の周囲に出現した魔方陣から直人へと魔法の矢が放たれた。 「ち、ちがっ」 矢は理由もわからずただ首を横に振る直人の胸をあっさりと貫通し、びっくりしたような顔のまま直人が倒れ、白い包みと銀色の指輪が転がってゆく。 「ひるんでるんじゃねぇよ! やる事やらなきゃ殺られるぞ!」 山内の命令に5人に減ったフィクサード達が短剣と銃で攻勢に出る。 「残念ですが、貴方達の……いえ、貴方の好きにはさせません」 格下のフィクサード達には見向きもせず、ユーディスの槍は神話の中で語られる神の手にする武器の様に峻烈に光を放って山内へと突き出された。 「げぇっっ」 腹のど真ん中を貫かれそうになり、山内は無様に転げ回って回避する。それでも脾腹を突かれてのたうち回る。 「まだまだ降参すんじゃねぇぞ。俺が1発、いや5発は殴ってからだぜ」 ニヤニヤと楽しそうに片頬をひきつらせるような笑みを浮かべる隆明に、狙われたフィクサード達は半ばやけくそになって銃を乱射する。 「そんななまくら、あたるかよ! 逆にドタマぶち抜いてやんぜ」 右腕をぐるぐる回す隆明が目にも止まらぬ速さで次々と敵を撃つ。何時ホルダーから銃を抜き構えたのか、経験の浅いフィクサード達では目がついていかない。いともあっさり3人のフィクサード達が言葉通り頭部を撃ち抜かれて倒れ込む。しかし、乱射された弾丸の幾つかが倒れた直人の身体を穿っていた。新たな血は照明に照らされ濃いグレーのコンクリートを鮮やかに染め、その血で濡れそうな円柱の包みと指輪を指先だけがむき出しになった漆黒をまとう腕が拾い上げる。何時の間に移動していたのか、そこに真昼がいた。 「大事なものなんだよね。じゃあオレが預かっておきますよ」 深くかぶったフードと目隠しで真昼の表情は見えないが、危なげない様子で直人がアーク本部から持ち出した2つの品を回収する。 「ちょっと! フィクサードの弾丸ぐらい余裕で避けなさいよね!」 そこで一旦文句を中断しシュスタイナは聖なる存在へと呼びかけの詠唱を紡ぐ。その一言ずつが力となり、清らかなる福音が仲間達全ての身体に癒しの力を授けてくれる。虫の息だった直人がもがくように少しだけ動いた。 「無茶いいっこなしっすよ、きれーなお嬢ちゃん」 「組織を裏切ったんでしょ? ちょっとは考えなさいよ」 悪事に手を染めても妙にピュアな奴には本当に苛々するとシュスタイナは思う。けれどまだ重体レベルの直人では小言も文句も叱責も折檻もお仕置きも出来ない。 「霧島さん!」 「絶対に逝かせない! 俺はもう、友達は失いたくない 直人!」 激情のままに暴走寸前の俊介の力が高度な術式を瞬時に組み上げ、遥かにしてあえかな存在を今、この世界に顕現させ奇跡にも似た癒しの技を全ての仲間達へともたらしてゆく。その癒しの効果は失血とショックで真っ青だった直人の身体にも血の色を戻してくれる。 「どうやらお前には説教では足りないとみえる。覚悟せよ!」 杏樹の黒兎が描かれた自動拳銃から繰り出される正確無比の攻撃が武器を持つ山内の右腕を撃ち抜いた。甲高い金属音をたててサバイバルナイフがコンクリートに落ちる。 「殺す気はありませんが、死なせても責任はとりません!」 佳恋は無謀とも思えるほど深く相手フィクサード達の間合いに踏み込み、気合いがみなぎる強烈な攻撃が炸裂しようとしたその瞬間だった。 「まて! 待ってくれ! 待ってください!」 腕を押さえたままの山内が叫んだ。間一髪、佳恋の指先がフィクサードの胸元少し手前で止まっていた。まさに寸留め状態で九死に一生を得たフィクサードがへなへなと腰砕け状態で座り込む。 「何故待てというのですか?」 佳恋は感情に支配されない静かな口調で山内に問いかける。 「三尋木は穏健派だ。交渉だ、交渉してくれ! 頼む」 「なんだ、もう降参かよ。もうちょっと楽しませろって言ったじゃねぇか」 暴れ足りない様子の隆明が文句をつけるが、この展開は予想通りだ。 「しょうがないねぃ」 アナスタシアはいかにも不承不承といった様子で武器を納める。 「器の小さな男との交渉は気乗りがしませんね。内容次第では決裂もあり得ると承知しておいて下さい」 隆明以外の者達の表情を確認した後で山内に向き直ったユーディスはキッパリと言う。 「でも回復の力は使わせないわよ」 これは戦闘の中断であって終結ではないのだから、とシュスタイナは念を押した。 ●午前4時のカーテンコール 「まぁ事の顛末ぐらいは目にしておこうと思ったけどよ、俺にゃ因縁があるわけでもねぇし、口出す事は全くねぇんだよなぁ」 交渉の輪から外れた隆明は戦闘中の半分も覇気がなくつまらなそうであった。昔から自分は荒事担当なのだ。双方交渉中も治癒行動をしないということでまとまったが、ユーディスはさりげなく立ち位置を移動していた。交渉が決裂した後、すぐに直人をかばう事が出来る距離にまで詰めている。 「ではそちらの条件を提示してもらいましょう」 ユーディスは山内を促す。山内は『孤独』だけは回収したいと言った。三尋木凛子の私物を浅場が手にいれたいらしい。 「どうするかは他の人の判断に任せるわ」 「オレも特に意見はないね」 どちらでも構わないとシュスタイナは言い真昼も同じ意見だという。 「直人の命と交換にその指輪はくれてやる。でも……腕はこちらにくれないか?」 大きな感情の波をこらえて俊介が言う。シュスタイナと俊介の傍らにはいつのまにか佳恋がそっと寄り添っていた。交渉中に何か不測の事態に陥ったら、この2人を守るのは自分だと密かに佳恋は決めていた。 「腕ぇ? そんなもんが欲しいのか?」 擦り傷だらけの顔で山内は目を剥いて驚いた。 「わかった。絶対に渡さないんだよぅ」 アナスタシアはきついまなざしで山内を睨み付けるが、直人へはニコッと笑った。 「直人殿さえ良ければこのままアークに帰ろうよ」 「アナスタシアさぁああん~」 アナスタシアへとすがり着こうとする手をぺしっとシュスタイナが軽く叩いた。 「でも自由は約束しないわよ。こんな風に暴走しちゃうのならね」 「当面監視下、という話に異議はありません。それで反省してくるのを期待したいところです」 ユーディスの何もかも見通す様な青い瞳に見つめらると直人は途端にシュンとなる。 「直人は連れ帰るけど自由にしない。リベリスタとして保護しフィクサードとして監視する」 「しようがねぇ」 戦闘で終始劣勢であった山内は俊介の要求を飲むしかない。 「谷中久蔵の情報と身柄の引き渡しは勿論だが、他にも谷中村の者がいるだろう。彼等の情報と引き渡しを求める」 これが最後の交渉だと杏樹が言うと山中はニヤリと笑う。 「俺が知っているのは情報だけだ。くれてやるから好きに使え」 山内は小さく折り畳んだ紙片を屋上の隅に置く。 「じゃあ俺達は行かせてもらうぜ」 「はい、どうぞ」 真昼は山内へと指輪を差し出す。 「確かに……な」 それを受け取ると部下達に死んだ仲間の身体を背負わせ、山内達はリベリスタ達に背は見せないまま少しずつ後退してゆく。 「首魁に伝えてほしい。彼は最期まで三尋木のために生きた」 杏樹の言葉……それは本当に三尋木凛子へと伝わるのだろうか。フィクサード達の姿が見えなくなってしまうと真昼はコツンと直人を小突いた。 「露木さんはちゃんと頭の使い方を学ぶべきだよ」 「直人、お前にゃ一つ言いたい事がある。裏切りってのは許されねぇのさ」 隆明が直人の頭を腕でホールドしグリグリと拳を押しつけた。 「痛いですって」 「元気になったら一発殴らせろよ」 俊介もポンと直人の頭を手の甲で叩くけれど、うつむいたままで表情は見えない。 「もうすぐ辺りが明るくなります。今の内に撤収しましょう」 最後まで山内達の撤収を監視していた佳恋が振り返った。 「……サシ勝負は当分お預け、だねぃ」 アナスタシアは転がっていた白い包みをそっと胸に抱いた。 「少しはマシな未来を掴めましたかねぇ」 真昼はそっとつぶやいた。東の空はうっすらと濃紺へと変わっていて長い夜を経て新しい一日が始まろうとしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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