● セーラー服の少女が2人。月の光が差し込んでいる校舎内で、手を繋いで走っていた。 ――時刻は夜中。勿論校舎内に人は彼女達2人だけである。次の朝で提出期限の、進路に関わる書類をうっかり忘れた少女が、もう1人の少女に泣きついて取りに来たのだ。 『由美子は、不思議な力があるもんね。鍵が開けられるって不思議。ねえ、これで定期テストの問題があるって噂の金庫開けてよー』 『……あのねぇ、そんな事しちゃ駄目なんだよ? そういうアンタは革醒しても運命に愛されないわよ? 悪い事に使ったらダーメーなー力なの。はい、教室開いたよ』 『ちぇー、はいはい感謝感謝。運命とかカクセイとか言ってる意味が、さっぱりだわ。でもその力好きだよ? かっこいい、あ、私の事守ってよ……こうさ、んと……悪い奴とかからさ!!』 『あんたがこっちの世界に巻き込まれたらね? んもう……こんな力、持ってても良い事無いし、私は我関せずで生きているから』 たった書類1枚のためだった。それだけで、運命ってやつはいつも残酷だ。 こんな時間だったのに、教室の机に女が1人座っていたのだ。話しかけた瞬間――――― 「――ねえ!? あれなんなの!!? ねえ!!? ねえったら!!」 「ノーフェイス!! 今は逃げよう!! 私1人じゃどうにもできない!!」 「ノーフェイス!? 何よもう、だって!? これ夢じゃないよね!?」 追ってくるシルエットはまるで、鬼だった。両手が巨大な刃になった女が、何かを求めて追ってくる、追ってくる、追ってくる!! しかしその鬼ごっこは数分と持たない。窓から逃げようと、パニック状態の友達を肩に担いで窓を蹴り飛ばした瞬間だった。 「いやあああああああああああああ由美子アアアアアアアアアアアア!! ゆみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ、イィイ、ギ、ギャッ」 「美咲―――っ!!?」 追い着かれていた? そんな馬鹿な。 背後に、大きすぎる気配があった。 背中に滝のような血が流れていく、足の下に広がっていく。 親友の首が足下に転がって来た。彼女は、言うのだ―――― なんで、護ってくれなかったの? 殺されちゃったじゃない!! お前のせいだ、お前のせいだ、お前のせいだ!! 「ぃ、ひ、ぃぃ、ぃ、いぁ、い、いいいい」 担いでいたものを放り投げた。だってそれはもう彼女じゃない。 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 ● 「綺麗な絶望の途中だけど、まだ続きがある話よ。この先は皆が作っちゃいなさいよ」 『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)は集まったリベリスタ達を一望しながら、言った。今日はいつものフォーチュナがいないらしい。 「鬼っぽい、でもノーフェイス。幻覚を見せるのよ。とーってもリアルな幻覚よ。偽物の本物で、本物の偽物」 つまりだ。 「お友達は死んでないわ。確かにリベリスタらしき女は友達が死んだと思っている……ううん、思わされているわ。そういうね、力のあるノーフェイス。悪趣味な狩りを楽しんでいるみたいよ。誰かが大切な人を殺すっていうワンシーンが大好きなのよ。 絶望を食べて、平常心を保っている――ほら、ノーフェイスってその内自我が消えるじゃない? それが怖い怖いこわーいなのよ。面白い、面白いわね? キャハハハハハッ!! 救いよう無いノーフェイスよね、塵も残さず討伐してきて」 敵はフェーズ2のノーフェイス。両腕が鋭利過ぎる刃になっているものの、それが動く時は己の命を守る時だけである。いつも己から発している超音波により、混乱を招いては絶望する風景を見て楽しむのだ。 「肝心なのは、敵はノーフェイスだけじゃないわよ。混乱しているリベリスタっぽい女もどうにかしないとね。名前は『細苑・由美子』。由美子を止めないと、そのうち友達の美咲ってやつが本気で殺されるわよ。 今から行けば、間に合うわよ。そういうの好きでしょう? ほらさっさと行きなさい!! じゃないと――」 ● 「――護れなかった、ごめん、なさい」 「な、なにを言ってるの? ね、ねえ、由美子、私なら此処に居るよ??」 由美子に放り投げられた美咲は震えながら彼女に問う。しかし彼女の瞳の焦点はブレていて。 「ごめん、ごめん、く、ううっ、うわあああああああああああ!!」 「由美子!? やめて、おねがい!! 鬼、鬼が笑ってるよ!!」 由美子はバラバラになった窓硝子の一片を持ち、それを振り上げた。その矛先が向かったのは美咲だ。 「お前なんか、お前なんか、こうしてやる!! 敵、くらい、取るんだ!!」 「違うよ!!? 由美子、違う、私、私の声が聞こえないの!!?」 「うわああああああああああああああああああああああ!!」 「いやああああああああああああああああああああああ!!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月17日(火)22:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 硝子の破片を持つ手は血だらけで、それが落ちていく様は涙にも見える。だが、傷を作った張本人でもある破片は笑っている様にも見えた。音をたて、来るべき運命は捻じ曲げられていく。歯車は一旦動きを止め、逆回転を始めたのだ。 「危険な時、呼ばれなくても現れるストーカーの如き正義の味方、アーク参上~♪」 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)が廊下の闇の奥から、片手をあげて走って来た。それは友達にでも会ったかのような軽い仕草で。 直後、彼女の腕に巻かれていた気糸が獲物を見つけて一斉に飛び出した。硝子を持った由美子の腕が振り上げられた状態で静止し、そのまま四肢から顔から胴体まで、淡く光る気糸に絡まれていく。 「ちょっと痛いかもしれないけど、由美子の友達を守るためだよ。我慢してね」 陽菜は由美子の耳に言葉をかけた。その優しい言葉とは裏腹に。 「く!! 離せ、離しなさいよ!!!」 ノーフェイスが増えたと由美子は叫びだした。違うのに、と少しだけ寂しい気持ちになった陽菜だが、その手を緩める事は無い。 「あーク……?」 最近バロックナイツを当たらせては砕いている組織の名前。もはや理性が薄い頭にでもその脅威が理解できているのだろう。現実が見えている鬼は焦ったように後退を始めるが、それは眩い光と共に遮られた。 「笑いごとじゃねーな」 『薔薇の花弁を射止めし者』浅葱 琥珀(BNE004276)の当てたフラッシュバンは強烈だ。ただ、彼の顔は暗く曇っている。ノーフェイス……いつか、もしかしたら己も成り得る姿が目の前にあるのだ。何度見ても、その不安ばかりが膨れ上がる。 そんな彼の隣で『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は幸福気味に笑っていた。此処には絶望が沢山あるのだ、それもとびっきり可愛い女の子たちの。崩壊気味にうっとりした顔を見た琥珀は、彼女の後頭部にチョップをひとつ。 「作戦通りに、な? 頼むよ」 「今、数十秒だけ忘れていましたが思い出しました、アハ」 隅で、ぐすっと鼻を鳴らした美咲に『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)と『Radical Heart』蘭・羽音(BNE001477)が近寄っていた。 「ご友人は必ず助けて連れてきますから……」 「大丈夫だよ、安心して……あたし達は、貴女と由美子を助けに来たの。あの鬼を倒せば、由美子は元に戻るよ。ここは、危険だから……今は、逃げて」 2人はできる限り優しい声で彼女を諭した。魔眼も併用していたものの、彼女の友達を思う力が魔眼を打ち消してしまっていて――。 「いやあああ、由美子は置いていけないもん!! 此処を動くなんて駄目、駄目ええええ!!」 切ない表情の美咲に、羽音の心の奥がぎゅっと痛くなった。友を思う気持ちが伝わり過ぎるのだ。そして、羽音にも友を思う気持ちがあるからこそ、美咲の気持ちはよく解るのだ。そう、親衛隊で散った――親友の姿を思い出して。 「美咲も由美子もちゃんと無事に帰らせてあげるからアタシ達のこと信じて!」 そこに、陽菜の声も重なった。どういう理由が有れど、此処にいられては困るのだが――。 温羅、と言ったか。 以前『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)がアークに来た時に、相手にしていた強大な敵だ。鬼といえばそれが一番頭にこびり付いていて離れない。 「なんとも因果なものだ」 鬼も運命に愛された革醒者だったのに。彼女の中の鬼でも暴走した結果がこれか。この鬼はフィクサードであったに違いない。何か心の中に淀んで濁って汚いものが渦巻いているのが結唯には感じ取れていた。 「鬼さんこちら、手のなる方へ」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は肩を揺らしながら、おかしくて笑っていた。 「殺人鬼が鬼退治なんてなんだかおもしろいよね」 誰に言った訳でも無く、その言葉は虚ろに消えた。羽音がラディカルの柄を鬼へ打ち付けた直後、葬識の前へ戻ってきた姿を目で追いつつ。 「引き剥がせなさそう?」 「もうちょっとだけ……頑張ってみる」 ヒット&アウェイを行う場合、攻撃の精密さは限りなく下方へ傾く。元からその精密さが低いとは言えないが、高くも無い彼女の集中力が散漫になってしまっているために、攻撃は直撃させられないでいた。 耳につくのは鬼の笑い声。まるでほっとしたかのような、何か吹っ切れたような笑いに陽菜は若干の嫌な予感を感じた。 「カカカッ、アークかと思エバ期待ハズレ共か」 「どういう意味なのかな!」 キッと細くなって威嚇する陽菜の瞳に、鬼は嫌だという。そういう絶望を知らなさそうな瞳は大嫌いなのだと。 「オマエラも私のエサにナレバイイ」 「うるさいですよ」 鬼の挑発に口を挟んだ『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)。演出家でもやればカリスマにでもなれたであろう鬼を残念に思いつつ、真昼は腕に絡めた気糸を引き延ばした。 「本当の絶望を味あわなければならないのは、ノーフェイスになって未来を失ったアナタですよ」 「カカカカカカッ!!」 ● しかし異変はすぐに起きた。鬼の暗黒が飛んだ直後だった。 「お楽しみ中の所、申し訳有りません。塵も残さず死んで頂けませんか?」 「……や、ちょっと!?」 珍粘の矛先は陽菜へと向いた。容赦ないペインキラーが彼女へと直撃したのだった。鬼の暗黒が珍粘の攻撃を更に彩らせて、攻撃の威力は陽菜にとっては重すぎる。 「いきなり、何するのよもうっ!」 弓を押しのけた陽菜。目の前に居る珍粘の様子は明らかにおかしい。珍粘は混乱に対抗する手段が無かったのだ、つまり、それは混乱に侵されてしまう事が高確率である事を示していて。 「……アタシ鬼じゃない、鬼はそっち!! ……そ、っち?」 一気に体力が半分消えた陽菜は困惑した表情をしながら、しかし自分の得物であるサジタリアスブレードを取り出し周囲を見た。 鬼、鬼、誰が鬼? 鬼はアタシか、いや違う、鬼は鬼は――――っ!! 陽菜はそのトリガーを引いては結唯へと当てたのだった。突然の攻撃に結唯は頭の上にハテナが浮かんでいる。しかし攻撃の手は止められない。 「おいおい、どうなってるんだこれ!?」 突如繰り広げられる仲間同士の打ち合いに、琥珀は少しばかり唖然とした表情をした。つまり。 「もしかして、陽菜まで混乱しちまってんのか?!」 「そう……みたい、下がって琥珀……っ」 羽音は琥珀の腕を掴んで後ろへ引いた。目の前からコツコツと足音を鳴らしながら歩いてくる混乱の元凶――鬼が接近して来るのだ。 「向うから、来るようだが……どうしたものか」 結唯は鬼と一緒の歩幅で後ろへ下がっていく。混乱の地場に入れば、確率で仲間内で殺し合いが始まってしまうかもしれない。明らかに、敵が1でその他味方なのであれば混乱の攻撃が上手く敵に行く事は少ない確率過ぎるのだ。 葬識こそ後退しつつ、由美子に近づけない歯痒さがあった。腹癒せに放つ常闇で鬼の角を弾き飛ばしつつ、羽音を見た。 「あらららぎちゃん、ノックバックできる自信は?」 「ん」 シュン、と尾羽が下に向いた。しかしすぐに尾羽を上へと伸ばしてラディカルを持ち上げ、エンジンをかっ飛ばす。 「やる……やってみせる」 彼女は走り出し、鬼の身体を吹き飛ばしたみせたのだった――。 ――鬼の暗黒を背で受け止めていた聖は、今もなお説得を続けていた。両手で美咲の肩を持ち、顔を近づけ不安だと叫ぶ瞳を見つめて。 「革醒者の貴方たちだって、仲間割れし始めているじゃない。もう駄目、もう駄目だよ」 「そんな事は無い。必ず私達がどうにかする。無理を言っているのは解っているんです。どうか、それでも、どうか」 チャリ、と。胸を飾っている十字が垂れた。それに手を伸ばした美咲。 信じる者は救われる、なんてよく言ったものだが。今は目の前の彼等を信じる他無いのは、再三解っているのだ。再びの暗黒は鬼のものか珍粘のものか解らない。それでも美咲を護ろうとする聖の姿に、嘘は無い!! 「おとなしく連れられていってね。俺様ちゃんたちも彼女と同じ、ちょっとした化物だよ」 未だ腰を上げない美咲に葬識は言った。此処で普通の人間は美咲だけ。あとは全員―― 「――……あの」 「ん?」 「……由美子たちみたいな人、化け物じゃないです!! カクセイとか、運命とか私には解らないけど、カッコいいから私、好きです」 聖はそのまま美咲を抱え、階下へ向かって走っていった。その姿を見届けた葬識。 「そっち行ったぞ!!」 琥珀の声――直後葬識の耳に聞こえた早いテンポの足音。 「このぉおお!!!」 「……飛び込んできてくれたのなら、苦労しないよね☆」 振り返れば由美子が光の飛沫をあげて跳躍してきていた。硝子に指が食い込み過ぎて、指が千切れかけているのが見えた。その硝子の短剣を葬識が鋏で抑えた瞬間、衝撃に耐えられなかった指がいくつか床に落ちていく。 友達のためにそこまでできるのかと葬識に理解するのは不可能で、落ちた指をうっかり踏んで潰してみれば、鼻につくのは鉄の香り。そして常闇は放たれた。 「死んでくれないとマリアさんが喜んでくれないじゃないですか!」 「えー」 由美子を抑えつつ、珍粘のペインキラーを葬識は鋏で止めていた。もはや両手に花だが、片手に花でも面倒な状況。せめて由美子を断頭できるものなら、早々に解決しただろうがヤサシイリベリスタのため、アークの首輪で首を締めないために葬識は心の内で舌打ちした。そこで思いついた。別に常闇は足からでも出せると。 「ねーねー、椎名ちゃん見て見て☆」 「え……オレそれどこじゃ」 葬識は長い片脚をこれでもかと蹴り上げてみれば、そこから放った闇は鬼を射抜いた。 「無茶苦茶ですね」 一連の動作を見なかった事にした真昼は、陽菜を気糸で絡めて止めていた。 「大量のアイスが全身に絡みついて中から鬼がいっぱいで明日天気だけど雲は甘いよ、だからアーリースナイプ撃たせて!!」 「すすす、すいませんがそれだけはさせられないので、ていうか意味解らないです」 糸の中でジタバタと暴れる彼女の抵抗は厚い。真昼はそのまま陽菜ごと後ろへ引きつつ、鬼の近接範囲に寄ってなるものかと決心した。 ● 鬼からしてみれば、由美子は別に死んでも構わない存在とも言えるだろう。絶望さえあればどちらでもいいのだ、2つあるもの、片方が死んで片方が生き残れば美味しい絶望をくれるだろうから。 もっと簡単に言えば、絶望すべき対象が由美子だった訳だが、由美子が死んで美咲が絶望しても良いのだ。だから。 「見境無しかよ!!」 「カカカカッ!! キサマがシネバ誰が絶望スルのか楽しミデモアルよ?」 「てめええ!!」 由美子を狙って二刀の刃が震えた。咄嗟に琥珀が由美子と背中合わせになりつつ、それを身代わりに受けたのだ。右肩から左の脇腹まで綺麗に斬られた傷口から、痛みの復讐がじわりと感じる。しかし倒れる訳にもいかない。 「根から腐っていたんです。何言っても仕方ありませんよ」 「解ってる……!」 琥珀の憤りを感じた真昼は彼を宥める様に声をかけた。彼の気糸は空を駆け、最終的には鬼の全身を縛り上げては拘束する。 「よく喋る口ですよね。しばらくそのままの方が素敵ですよ」 突如、鬼の腹部から何かが生えた。弓の一部、弓をそのまま突き刺すという荒業をした珍粘はおそらく混乱から立ち直った姿なのだろう――。 「カカ、ガフッ」 しかし鬼は笑っていた。また彼女は混乱に陥る確率は高いはず。 「私を無視して行こうなんてさせませんよ。私だって、興味が有るんですから。貴女の絶望がどんな味なのか」 弓は傷を抉るようにして回された。弓で、その糸で、内臓を傷つけて2度と戻れないように――。その時、鬼は悟ったのだろう、此処にいては絶望を頂けるはおろか、自分が危ない事を。 「貴方の……欲しいものは、此処には無い、よ」 ふるふると顔を横に振った羽音へ鬼はペインキラーを放った。間一髪か、床に滑り込んだ羽音はその攻撃を回避したものの直後弾丸が背中を射抜いて血が広がっていく。 「皆何処!? ええい、全部壊しちゃえ!! もーいっちょ!!」 未だ混乱の中に居た陽菜の攻撃だった。刃を銃器として2回目のトリガーを引き、放たれたアーリースナイプは結唯を射抜いて、その身体を崩した。 「そろそろ目覚める時間です、よ、起きてください!!」 真昼の気糸は彼女を巻く。しかしその時には真昼の脳裏に嫌な予感がしていた。考えろ、考えろ!! 由美子や美咲が幸せになれる方法を――例え革醒していたとしても、きっと2人には道があるはず。今此処で、鬼を取り逃がしたとしても――!! 「彼女は階下に置いて来た。……と言えど、離れていたら誰が混乱しているのか解りませんね」 そこでハッとした真昼。聖の言葉に現実に戻された。考えすぎたか、少し真昼の頭がじんじんと痛む。 「……オレは大丈夫です。ありがとうございます、お疲れ様です」 「大丈夫ですか? 凄い汗ですよ」 「……大丈夫です」 聖が戻ってきた時だった、真昼の麻痺を抜け、珍粘は再び刃を琥珀へと向けたのだった。弓を掴んで攻撃を止めた琥珀。 「学校を汚すなよ。此れ以上被害を広げてこの場を血の海になんてさせられねーんだよ!」 学校は、こんな殺伐をする場所じゃない。もっと、笑顔があって沢山希望がある場所で。もう、覚えていない空間、されど記憶の何処かで過ごした一瞬の場所を護るために琥珀は拳を握った。 もう、これ以上鬼にやる絶望は無いのだ。琥珀が、けして絶望に負けぬ光を瞳に宿した瞬間だった。ドン、という衝撃と共に背中に違和感がひとつ。 「死んで……皆、死んで!!」 「細、苑……ッ」 幻影の舞い。手から血を流す由美子が琥珀を背中から刺していた。ニヤリと笑った鬼はそのまま後方へと歩を進めていく。 「オモシロいね、マモルベキものニ刺されてイル君のヒョウジョウ!」 「黙って、絶対に……逃がさない」 刹那、羽音は走った。鬼の長い髪を掴み、それを離しはしないと。腕を掴み、此処で絶望の連鎖は止めるのだと。 「カカカッ! 鳥足メ、ソレガ叶ウとオモワナイ事ね」 解っている、鬼の近接に入るという事がどういう事なのかを。 それでも羽音は止めない訳にはいかなかった。音は響く。響いて脳が狂う。前か後ろか、今立っている場所が上か下かさえ解らない羽音の瞳はブレていく。 「義人の義はその人に帰し、悪人の悪はその人に帰する 」 つまりは因果応報だ。まだ理性があったときに何をしていたかは聖は知らないだろう。だがその時のツケが今回ってきたというのであれば、その不幸をこれから撒くというのであれば、誰がこの場から逃走させるものかと。 聖は懇親の力を神罰へと込めた。十字の、それこそまるで神の罰を下す様な聖の攻撃――その弾丸は吸い込まれていくようにして鬼の心臓部を射抜いたのだった。 「やったか!?」 しかし、しかしだ。あまりにも攻撃を行う手が少なかった事、そして戦闘の時間が少なすぎている事が足枷になっていた。 「神父? ボクシ? まあ、ドッチデモイイケド、痛いジャねぇかああ!! オマエ、コロス、オボエテロ、オボエテロ!!」 「遠慮すんな、今ここで味わっていけばいいだろ?」 聖に怒りの形相を向けた鬼。それに蹴落とされる事は無く、聖は次の攻撃をするべく神罰を取り出した。だが聖の目に見えたのは。 「あ。……ぁ」 ラディカルは吼えた。それと同時に髪を掴んでいた手は外れた。 「ぁぁぁ、あああああーッ!!!」 振り回されたチェーンソーは荒ぶる音をたてて琥珀へと向かった。その後ろの由美子を狙っているのだろうが。フェイトを使う覚悟を決めた琥珀が衝撃に備えて身体を強張らせた。しかし羽音の獲物は琥珀の髪の毛を数本切った程度で静止した。 「待って、待ってください、蘭さん……!!」 羽音の腕に気糸を巻き付けた真昼。麻痺だけでは無く、毒で身体を蝕む攻撃である事は彼も承知している。それでも混乱で仲間が仲間を傷つける事態だけは避けたいのだ。 「待て、逃げる気か!!?」 追った、聖。だがその足が鬼に追いつける事は無く。 「もう止めましょう……鬼は、もういません」 真昼は力無い声で言った。逃がした獲物は大きいだろう。もう追う事も叶わず、本当に、本当に――? 階下で、叫び声がした時にはもう遅い。 由美子が目覚めて、血だまりに沈んだ美咲の下へ行ったとき、本当の絶望は其処にある。 ● 「カカカカ! イヒ、イヒヒ!!」 鬼はスキップしながら家の屋根から屋根へと飛ぶ。今日はよく寝れそうです。 「ミーちゃっタ、ミーチャっタ!!」 美味しい絶望がありました。大変美味しゅうございました。これでまたしばらく私でいられます。 「モーラちゃった、モラッチャった!!」 美味しい絶望をありがとう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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