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<九月十日>金の信仰、天守の獣

●天下様でもかなわぬものは 金の鯱ほこ あまざらし
 鯱。
 その尾びれは刃のように鋭く、火災の際に燃える家屋を裂くことで人々を炎から守るという。また空を泳いで雨を降らすこと事で干ばつを防ぐなどのエピソードもあり、治世するものが崇めるに値する存在だ。
 戦国時代に織田信長が安土城に金鯱を飾ったのをきっかけに、いくつかの城でも金の鯱が飾られることとなった。
 そして金鯱を誇る城といってもっとも有名なのが、名古屋城である。 
  
「キース様は戦いが至上とおっしゃられたが……ノンノンノン。そのために作られた文化そこが至上! この鯱はまさにアァァァト!」
 その存在はなんというか異様な存在だった。城壁の景観に似合わない燕尾服とステッキ、汚れ一つない革靴はまだ許容範囲だが、彼の頭部は星の形をしていた。ペンタグラムと呼ばれる五つの頂点を持つ星の形。口も目もない『顔』が金の鯱を見上げる
「フィィィル! 感じますよ、かの偶像のエピソォォォド! その威光に傅く者たちのビリィィィフ! 金の魔力に惑わされた愚者達のダァァァンス! ンッンンン、グレェェェイト!」
 時に両手を挙げ、時にタップダンス踊り、時に感極まったかのように回り。全身で金鯱から感じる何かを表現しながら、その存在は声高らかに叫んでいた。
 そしてそんな状況にもかかわらず、騒ぎが起きることはなかった。この存在の周りに人はいないのだ。
 名古屋城の周りにいる鳥達。それは見る人が見れば分かる魔術的な結界の基点。場所、向き、鳴き声、羽の色、三次元に展開する鳥達が魔術的な陣を構成し『何故か今日は城に行きたくない』気分にさせる。神秘への抵抗がない一般人は城に近寄ろうともしなかった。空間操作も含んでいるのか視覚的にも結界内部の出来事が外に漏れることはなく、偶発的に近づいたものがいたとしても気がつけば城の外に出ている。
 望む客以外は入ることのできない魔術結界。そしてその客とは、
「アークとか言いましたか、マスターソロモンのお相手は。さてさて、どのような相手なのでしょうね。不遜ながらワタクシ、高揚してきました。
 マスターは『無駄な殺しをするな』と命じましたが、お客様が来なければ招待状を撒くことは仕方ありませんよね。『対応が温ければ人間を殺して本気にさせろ』とも言ってましたし。さて、人間を苗床にする植物のストックはありましたかな?」
 星の頭をもつ存在は、空間から帽子を取り出し頭に被る。そのままポーズを取って不動のまま時を待つ。
 その存在の名前はデカラビア。ソロモン72柱の序列69番の魔神。
 魔神の上空を金の鯱が二体、優雅に泳いでいた。

●キース・ソロモンからの挑戦状
「名古屋城に魔神が現れた」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。
「キース・ソロモンが約束どおりに襲撃を仕掛けてきた。同時に『万華鏡』が強力な神秘の存在を日本各地で感知している」
 モニターに映し出されるのは、日本地図。赤丸部分にキースの手勢が現れたのだ。歴史に詳しいものは、その共通点に気づく。城や歴史的な戦いのあった場所。バトルマニアのキースが選びそうな場所である。
「名古屋城をアシュレイの魔術並のモノで囲み、人の出入りを封鎖している。その上で名古屋城の金鯱を模した存在を使役している」
「金鯱を模した?」
「この魔神は鳥の使い魔を使役し、薬草と鉱物の知識に長ける。推測だけどあれは『金』の信仰を結界で増幅させて物質化した存在。本物の金鯱ではなく金鯱の歴史を投影して生み出した魔術的な何か」
 名古屋城の金鯱は長い歴史を持つ。城の上から人々を見守り、有事の際にはその金は削られ、民を守るための資金となった。空襲で燃え尽きるも、それを惜しむ声から新たに作られた。誰もが金鯱といえば思い浮かべるそのイメージも一役買っているのだろう。その危険度は『高い』と判断された。
「同時に魔神自身も植物を基点とした攻撃を行ってくる。また鳥の使い魔が生み出した結界も楽観視できない」
 幻想纏いに送られる情報に、リベリスタは呻きをあげる。キースだけでも厄介なのにこんな奴等が日本各地にでてきたのか。それを思うと陰鬱になる。
「……こいつ、放置してもよくない? 今のところ人的被害はなさそうだし」
「却下。二十四時間後に魔神が結界の種類を変えて広げる未来が見えている。結界内に囚われた一般人は異世界の植物を植えつけられ、その養分となって苦しんで死んでいく」
『招待状を撒く』とはそういうことか。リベリスタは納得がいったように頷く。確かにこれは放置ができない。
「最優先事項は『魔神』の打破。それを為せば金鯱も結界も消える」
「最も常識的な解決法だな。術者を倒せば全て片がつく」
「だからといって楽じゃないのは分かってる。傷だって負うし、下手をすれば死ぬ可能性だってある。
 だけどみんなの実力を信じてる」
 イヴの言葉に背中を押され、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月27日(金)22:39
 どくどくです。
 あーくまのちからー、みにーつーけたー。
 
◆成功条件
 デカラビアの打破。
『金鯱』『結界』の生死(?)は成功条件に含みません。

◆敵情報
・デカラビア
 魔神。ソロモン72柱の69位。薬草と鉱物の知識(魔術的なものを含む)に長け、鳥を使い魔として使役します。燕尾服にステッキの英国紳士。ただし頭は五芒星。知性も高く、会話を行うことも可能です。
 この『デカラビア』は異世界にいるデカラビアの力を顕現させたものです。ここで倒れても死ぬことはありませんが、本体は痛いし力も削がれます。なのでそれなりに抵抗してきます。

 攻撃方法
 赤の花弁 神遠複 血のように赤い花弁を巻き、力を削ぎます。ブレイク、重圧、弱体、隙
 青の果実 自付  瑞々しい果実をかじり、喜びに浸ります。神攻、DAUP
 緑の蔓鞭 物遠単 棘を持つ蔓が鞭となって相手に絡まります。麻痺、失血
 紫の棺桶 神近単 毒々しい色をした巨大な花弁が相手を丸呑みし、その粘液で五感を狂わせます。溜2、魅了

・金鯱(×2)
 デカラビアの魔術により『金』に対する信仰を増幅して作られた存在です。本物の金鯱とは違います。
 その尾びれは刃のように鋭く、泳ぐことで雨を降らせるといいます。

 攻撃方法
 金鱗の刃 物近範 鋭い鱗が相手を切裂きます。
 雨を泳ぐ  神遠全 戦場に恵みの雨を降らし、不浄を払います。BS回復
 金の信仰  P  長年支えられてきたい信仰が悪意から身を守ります。[呪無][精無]
 飛行     P  同名のスキル参照

・結界
 鳥の使い魔を使役して生み出した結界です。基点となる鳥のHPを0にすることで結界を破壊することができます。基点となる鳥は、見ればすぐに分かります。
 すべての使い魔は常に『行動済み』です。またリベリスタをブロックすることはありません。

 第一結界:存在する限りデカラビアは『絶対者』のスキルを得ます。使い魔は『鳶』
 第二結界:存在する限りデカラビアは『高速詠唱』のスキルを得ます。使い魔は『雀』
 第三結界:存在する限りリベリスタは『ロスト50』の状態を受けます。使い魔は『鳩』
 第四結界:存在する限りリベリスタは『呪い』の状態を受けます。使い魔は『鴉』

◆場所情報
 名古屋城本丸の南御門。結界内部に入った存在をデカラビアは察知しますので、不意打ちは不可能です。
 事前付与は三回までなら可能です。デカラビア曰く、
「(指鳴らし)イィィィエス! 思考と準備は人間の英知! マスターソロモンはあなた達のそういった闘争心がお望みなのです!」
 との事。ただしリベリスタが事前付与を行えば相手も同様に準備します。
 戦闘開始時、前衛に金鯱が二体。十メートル後衛にデカラビアがいます。デカラビアの後方十メートルに『鳶』と『雀』が。リベリスタの後方十メートルに『鳩』と『鴉』が。それぞれ五メートル間隔で横に並びます。使い魔は戦闘開始と同時に場に現れます。
 リベリスタの初期陣営と前衛までの距離は、そちらが決めることができます。ただし金鯱より前に配置することはできません。後ろに下がる分にはいくらでも。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
●Danger!
 当シナリオにはフェイト残量に拠らぬ死亡判定が発生する可能性があります。
 予めご了承の上でご参加下さい。

●重要な備考
<九月十日>の冠のつくシナリオにはイベントシナリオを含め一つしか参加出来ません。
 又、このシナリオにはレベル25以上のリベリスタしか参加出来ません。
<九月十日>の全てのシナリオの参加条件は重複参加不可能な排他となりますのでご注意下さい。

参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
プロアデプト
逢坂 彩音(BNE000675)
スターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
デュランダル
降魔 刃紅郎(BNE002093)
プロアデプト
銀咲 嶺(BNE002104)
プロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
ソードミラージュ
佐倉 吹雪(BNE003319)
★MVP
ホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
スターサジタリー
衣通姫・霧音(BNE004298)

●幕前
「魔神ってもっと恐ろしげで堅苦しそうなものだと思ってたわ」
「その認識は正しいですよ、レディ。単にワタクシが紳士的な姿というだけです」
『薄明』東雲 未明(BNE000340)は体内の気を爆発させて剣を抜く。鞘に描かれた尾長鶏をなぞる。遊び心で書いたその絵。この剣を鳥を使い魔とする悪魔に叩き込めれるか否か。

「まさか魔神を相手にすることになろうとはね」
「この出会いに感謝、といかぬのがつらいところですな、お互いに」
『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)は戦闘の最適解を出すために、精神を集中する。不吉を告げる弓に手をかけ、星の頭をした魔神を見る。芝居掛かった喋り方が互いに小気味いい。

「端末とはいえ、ソロモンの一柱と戦えるとはなんだかワクワクしてきました」
「そう言っていただけると幸いですよ。その期待に沿える程度にはがんばりますよ」
『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)は自分の羽で作った矢を手にしながら、弓穿つ女神の加護を得る。魔神相手に矢が通るか。武者震いか、指先が震える。

「身なりは我と並んでも申し分ないが……その醜悪な面、まるで道化のようだな」
「これは失礼。何分この世界の作法には疎いゆえ、ご容赦願います」
 馬上からデカラビアを睥睨する『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)。武器を構えたままで敵を睨む。敵が誰だろうと、王の敵は討ち滅ぼす。

「恋人の故郷ですし、真面目にいきましょうか」
「あなた方が来た以上、この地に手を出しませんよ」
 六枚の羽根を広げて『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)が魔神を見る。情報処理速度を増し、戦場をシミュレートする。様々な可能性を浮かべながら、『夜行遊女』に描かれた文字に手を滑らせた。

「悪魔の言う事を素直に信じ、行動している。そんな我々をどう思考する」
「もちろん好印象です」
『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)は演算速度を増しながら、悪魔に問いかける。対する答えは表情があるなら笑顔で帰ってきそうな答えだった。それゆえに、裏が読めない。

「観光だけして帰ってくれればいいんですけど……そうは行きませんか」
「申し訳ありません。マスターソロモンの契約だけは果たさなくてはいけませんので」
 神経を神秘の力で刺激する『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)。それに謝るようにデカラビアが答える。無表情にリンシードは透明な刀身の剣を構えた。

「魔神てのも色んな奴がいるもんなんだな……まさかこんな感じのが普通なんて事はねぇよな?」
「HAHAHA! さてどうでしょう? 深淵を覗き込む勇気はありますか?」
 体内のギアを上げながら 『(自称)愛と自由の探求者』佐倉 吹雪(BNE003319)が問いかけた。その答えはコミカルだがとても悪魔らしい答えだった。お断りだと首を振る。

「悪魔がジョンブルぶるなんて粋とでも言っておけばいいのかしら?」
「ご要望があればブルドックも連れてきますよ」
 飛行の加護をリベリスタに与えながら『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が魔神に挨拶する。シルクハットを下げて、悪魔はその挨拶に応じた。ジョン・ブルな姿勢は崩さない。

「御機嫌よう、魔神デカラビア。貴方と貴方のマスターの望むままに。此処に戦を始めましょう」
「はい、御機嫌よう。準備がよろしければ、いつでも始めますよ」
『妖刀・櫻嵐』を抜刀し、衣通姫・霧音(BNE004298)が瞳に神秘の力を込める。相手の動きがコンマ刻みで脳に刻まれ、命中精度が高まる。油断などできようはずが無い。全力で当たるのみ。

「スィィィイト! 口の中に広がる感触、果汁の甘さ、そして嚥下したときの満腹感! 全身に栄養が広がっていきますよ!」
 デカラビアは自らの知識で生み出した果実を口にし、自己を強化する。
 そして……リベリスタと魔神は対峙する。
「どうしました? 準備はこれでオシマイですか?」
「……そちらは何もしないのか?」
「ええ、ワタクシ紳士ですから。お先にどうぞ」
 むぅ、と雷慈慟は唸りを上げる。こちらが待機をすれば向こうも待機する。もし魔神が行動すればその隙をついて攻めようと思ったのだが。さすがにうまくはいかないかと諦める。
「よろしい。では始めましょう! よき戦いを。ファァァイト!」

●開幕
「んじゃ、いきますか」
 最初に動いたのは吹雪だ。ナイフを手に石畳を蹴り、金鯱に疾駆する。跳躍して落下する勢いも加味し、高速でナイフが振るわれる。速度で斬撃を増して、手数で傷を与えていく。
「……堅い……!」
 ナイフから伝わる感触に吹雪は難色を示す。傷をつけることはできるが、金の鱗に阻まれて思ったよりもナイフが通らない。これが鯱の信仰を示したものかと笑みを浮かべる。
「じゃあ手数を重ねるだけだ!」
 生来のポジティブな性格が吹雪の足を進める。盾を使って鯱の鱗を受け止め、その隙を縫うようにナイフが突き出される。使い慣れたナイフは、少しずつ鯱を削っていく。
「地獄の大公爵……書物によっては王にして伯爵とも呼ばれておったかもしれん」
 刃紅郎は鐙を踏んで馬を走らせる。己が武器である『皇錫・獅天降武』を構え、魔神の使い魔である鴉のほうに向けた。
「だがこの地において王は二人も三人も要らんのだ」
 裂帛と共にエネルギーが鴉のほうに向かって飛ぶ。そうと認識したのはわずか一瞬。次の瞬間には使い魔は衝撃で吹き飛び、地面を転がっていた。魔術の基点ゆえに一撃では倒れないが、それでもかなり疲弊したようだ。
「ふん。使い魔自体はさして強くは無いみたいだな。後は任せたぞ!」
 刃紅郎はその矛先を魔神のほうに向ける。その視線を受けてか、デカラビアはシルクハットを持ち上げた。
「人間は鬼にも、悪魔にも成る場合が往々にある様だが」
 雷慈慟は脳内で思考を続けながら、魔神に問いかける。戦場全てを把握し指揮を続けながら、脳内で思考を続け、そして問いかける。複数の作業をスイッチしながら同時に行う。革醒により得た能力を最大限に生かしながら、雷慈慟は言葉を続ける
「悪魔がそれ以上になる事は可能なのだろうか。事実、今も人間に使われている様だが」
「さて、私達以上の存在など考えたこともありません――おおっと」
 脳内で回転させてた思考を物理的な爆発に変えて、金鯱の泳ぐ場所で爆発させる。その音に驚くデカラビア。爆発の衝撃に流されるように金鯱が横に飛ばされる。デカラビアとリベリスタを遮る道は何もない。
「行け! この一瞬を逃しては勝機は無い!」
「行きます……あの人と私の『日常』を護るために」
 雷慈慟の言葉に弾けるように、待機していたリンシードが走り出す。金鯱が泳ぐ場所を抜けてさらに奥。魔神の懐に飛び込んだ。そのまま駆け抜け様に剣を一閃する。横一文字の剣閃が無音で振るわれた。
「愉快な頭のお兄さん……お相手願います」
「このような年端も行かぬ子を攻撃せねばならないとは。いやはや、戦いとは非情ですな」
 肩をすくめる魔神だが、その動きはリンシードを侮っている様子はない。踏み込み、剣戟、そして速度。それが手加減できない相手であることを、十分に理解させる。
 リンシードは自分の身長ほどの長さの剣を、踊るように回転しながら振るう。ガラスのような透明な刀身が光を受けて淡く輝く。魔神を裂いた感覚は確かに人を切った感覚とは異なる。相手は表情を示すものすらないので、ダメージをあたあえているのか不安になってきた。
「それじゃよろしくね、魔神さん」
 未明は抜刀して金鯱に向かう。鯱の牙と剣をあわせながら、気配で使い魔の位置を探る。金鯱の力が一瞬緩んだ隙を縫い、未明は大地を蹴った。五歩を三歩で詰める歩法と、戦いの経験。それが切っ先を鴉のほうに導く。
「もらったわ」
 剣の軌跡が鴉の体を薙ぐ。一流のデュランダル二人の攻撃を受けて、使い魔は切り裂かれる。元々魔術の産物だったのか、そのまま霧散し消えていった。動物好きの未明は、その結果に二重の安堵を浮かべた。結界が一つ壊れたことと、動物を殺したわけではないことと。
「さて、後は金鯱を相手させてもらうわ」
 未明は剣で正中線を護るように構えながら、金の獣を見る。表情なき偶像が睨んだような錯覚をうける。
「序列六十九位、デカラビア。本体ではなくその力の顕現とは言え油断は出来ない」
 霧音は刀に手をかけると、デカラビアの向こう側にいる鳶に意識を向ける。意識を深く沈め、自分と相手以外が存在しないほど集中する。光を足り、音を遮断し、呼吸すら止め。霧音はただ己を敵を倒すためだけの修羅となる。
「――破ッ」
 呼気と共に抜刀し、一閃の後納刀する。時間にすればコンマ二秒にも満たない時間。遥か距離の離れた鳶が、その一閃で翼を切られてた。霧音が修得している居合いの奥義。出し惜しみをしている余裕などない。加減無くその奥義を魔神に披露する。
「飛ぶ鳥を落とすなんて造作も無いわ」
「いやはや驚きです。強いと聞いていましたがこれ程とは。さてこれは結界も長くは持たないですな」
 霧音の剣技に賞賛の言葉を送るデカラビア。だがその言葉には、まだ若干の余裕があった。
「さて、では闘争を始めようじゃないか、序列六十九番の魔神殿」
 彩音はできるだけ多くの敵を視界に入れることのできる位置に移動する。最も全てを視界に入れることはできないので、優先順位に従っての位置取りだ。相手の因果に簡素ゆするといわれた弓を引き絞り、結界を生み出している鳶に向ける。
「私達の闘いの知恵を総動員して御相手しよう」
 引き絞った弓。彩音の瞳が射抜くように鳶を睨む。それと同時に矢は放たれた。神秘の力で力を増した矢は二つに分かれ、鳶とそしてその隣にいる雀に命中する。矢は不吉を告げ、運と言う不可視の要素を狂わせた。
「殲滅させていただくとしようか」
 結界をすべて破壊し、魔神の力を削ぐ。それが最適解だと彩音は判断する。他の敵を仲間に任せ、彩音は結界打破のために再び弓を番える。
「負けてられませんよ」
 七海も弓を番え、矢に神秘の力をこめる。矢に篭めるは雷帝の力。矢ははるか上空に打ち上げられ、細かく砕けて降り注ぐ。稲妻が矢を引火させ、帝釈天の怒りの如く悪魔とそれに組するものに天罰を下す。
「遠慮は要りません。遠慮せずに受けてください」
 深化し、鷲の幻獣の因子を持った七海。悪魔の使い魔とはいえ、鳥を狩るのはお手の物。業火は使い魔たちを一斉に焼き、その炎がさらにその体を削る。的確に命中させる七海の射手としての腕が、さらに威力を増していた。
「熱っ、熱っ、熱……くはないのでした。結界がまだありますので」
「ああなんだか面白いなこの人。あっ人じゃない、魔人だ魔人」
 服についた炎を払うデカラビアに、七海が笑みを浮かべる。とはいえ油断はできない。こう見えても『万華鏡』が危険と判断する悪魔なのだ。気を引き締めて弓に手をかけた。
「――情報処理速度向上、戦況解析開始します」
 嶺は計算能力と状況から情報を導き出し、デカラビアの強さを測ろうとする。見た目ふざけた相手だが、その強さは計り知れない。エリューションなのか、アザーバイドなのか、それともキース・ソロモンの持つ『ゲーティア』が生み出したアーティファクトの産物扱いなのか。それすらも読みきれない。
「まぁ、常識外に強いことは理解しました」
 そのスペックの一端を理解し、嶺は戦場を見る。様々な鳥の使い魔に金鯱に悪魔。周りは敵だらけだ。ならば面制圧でダメージを与えていこう。金鯱に向かい手をかざし、気の糸を放つ。蛇のようにうねりながら、糸は金鯱を穿った。
「闘争心ならお手の物。鶴は、獰猛な鳥ですから」
 華奢なイメージが強いが、鶴は野生の野鳥である。その因子を持つ嶺が弱いはずなどあろうものか。声を上げて、次の糸を放つべく神秘の力を練り上げる。
「悪魔と戦うなんて祓魔師みたいだわ。それこそバチカンの宗教キチガイ達に任せたいものだわ」
 真紅の修道服に身を包んだ海依音だが、彼女の信仰心は薄い。むしろ教会に反抗的であるともいえる。だが目の前に悪魔がいて、それが人を襲うかもしれないというのなら話は別だ。金鯱やデカラビアに傷ついた仲間達を見て、両手を広げ神秘の光を解放する。
「皆さんの土台を支えるのがワタシの役目です」
 それはまるで誰かを抱く聖母のよう。目の前の魔神のように演技めいていないのは、海依音自身が一度裏切られて誰かに助けられる事への愛を知っているからか。神秘の光はリベリスタの傷を癒していく。そして海依音の笑みは、
「海依音ちゃん一万GP分の働きはしますよ! そぉれ!」
 少々ビジネスめいている笑顔であった。『癒さない系』ホリメの海依音だが、色々あって今回は回復に専念する事となった。そのあたりは端折るが、高い癒しの力が傷を癒し、そして戦う力を増していく。
 安定した近接遠距離の攻撃と、安定した回復。磐石を敷いたリベリスタの戦法が、金の獣と魔神を攻める。結界もいずれ綻び、そうすれば一気呵成に攻める事ができる。この流れは魔神とて止めることができないだろう。
 だが、魔神もそれを指を咥えて傍観するつもりは無い。

●魔と人の交流
 魔神にも色々いる。
 デカラビアは戦闘自体よりもリベリスタの交流を楽しむ節があった。大仰なアクションとポーズ。それらはその裏返しかもしれない。もっとも、それにかまけて戦闘の手を抜くということはないのだが。
「正々堂々真っ向勝負だなんて。まるでスポーツでもしに来たみたいじゃないですか」
「マスターソロモンの御意向ですからね。卑劣に攻めろ、と命令されればその通りに攻めさせていただきましたよ」
 海依音の問いかけにデカラビアが答える。召喚された悪魔は、その命令を悪意を持って解釈し、行動することもある。そういう意味では『紳士的』な性格なのだろう、この魔神は。
「名古屋城本丸での戦い……シチュエーションは燃えますね。よい選択だと、思います」
「ありがとうございます。可能な限り個々場所を傷つけないよう配慮致しました」
 リンシードの言葉に一礼する魔神。確かに多数の使い魔による多層型結界は、城を傷つけるものではなかった。
「薬草と鉱物の知識、興味がある」
「よろしければ講義でも開きましょうか。もっとも、マスターの許す範囲でということになるでしょうが」
 知識を求める雷慈慟の言葉に、腕を組んでデカラビアが答える。本気かどうか判断がつかないが、嘘を言っている口調ではない。
「鉱物の知識……刀剣に使う鉄も含まれるのかしら」
「はい。アナタの太刀もかなり特殊なもののようで。機会があればゆっくり拝見したいものですな」
 霧音の問いに頷く魔神。霧音の刀は、製法や材質からして特殊なものだ。ものめずらしい鉱物には知識欲が刺激されるらしい。
「魔神ってのはなんていうかもっとこう、偉そうっていうか尊大っていうか、そんな感じのイメージだったんだが」
「魔神にもいろいろなタイプがあるのですよ。なんなら硫黄の煙でもたきましょうか?」
 吹雪が持つイメージを壊すようにデカラビアは笑う。確かに日本各地に現れた魔神は皆一様とはいえない。ちなみに、硫黄の煙とは召喚時に巻き上がる煙のことだ。
「本当に世の中は広いのね。あなたのような魔神がいるなんて」
「ワタクシは未知に挑むあなた方の勇気こそ素晴らしいと思いますよ。普通は怖がって近づきもしないのですから」
 未明がデカラビアの性格に感心する。だがデカラビアからすれば、任務とはいえ未知の存在に挑む勇気に驚きを感じていた。
「闘いのための文化か。ああ、私も好きだがね。正確には戦いに備え、総ての知恵を動員する、と言うのが好きなのだが」
「趣味が合いますね。アナタとはいいお茶が飲めそうです」
 デカラビアが戦いのための文化が好きという発言を受けて、彩音が口を開く。その言葉に頷くようにデカラビアが首を縦に振った。
「それだけお強いのに、戦うこと自体は好きじゃないんですか?」
「戦いに心は躍りますが、私が好きなのはその下準備。いわば兵站の類なのですよ」
 七海の問いかけに魔神が服を確かめながら答えた。人払いの結界を大仰に作り、自己強化と弱体化の結界を張り、金鯱を投影したり……確かのこの戦場は手が込んでいる。これがあの魔神の趣味か。
「恋人の故郷といわれましたな。マスターの命とはいえ、この度は失礼を働き申し訳ありませんでした。陳謝致します」
「慇懃無礼ね。立ち去る気が無いのに言われても失礼なだけよ」
 デカラビアの言葉に嶺が怒りを篭めた言葉を返す。本当に謝辞を示すなら、すぐに立ち去ってほしいものだ。デカラビアもそれ以上は何も言うことはなかった。
「地獄の大公爵とはいえ所詮は召喚されて命令を聞く立場か。片腹痛いとはこのことか」
「ふむ、では地獄の大公爵として問いましょう。アナタにとっての王とは何ぞ?」
「『覇道』――! 民を護るため武を振るい、その咎を背負う心なり!」
 デカラビアの問いに刃紅郎が応える。己の道のために命を奪い、仲間を失い、しかしそれを後悔せず受け入れて道を進む。その『道』こそが王の道だと。迷うことなくそう応えた。
「なるほど、ではその覚悟を見せてもらいましょう」
 デカラビアの魔力が渦を巻く。リベリスタも負けじと鬨の声を上げ、戦場は加速する。

●激戦
 デカラビアの詠唱速度は速い。それは詠唱を加速する結界内にいることもあるが、リベリスタが1動く間に2の行動を行うこともある。
 花びらを飛ばしたと同時に棘の鞭を放ち、詠唱を開始して大魔術による植物を召喚したり。リベリスタの猛攻を押し返すほどの手数で攻めを続ける。
「どうぞ……その棺で私を捉えてみてください」
「それではお言葉に甘えて。スリィィィ、ツゥゥゥ、ワァン! ……ハイ!」
「――っ!?」
 リンシードの挑発に乗るように、デカラビアが紫の食人植物を召喚する。地面に花びらが顕現し、花びらが閉じるようにリンシードを食らい飲み込んだ。植物の内壁が少女の体を圧迫し、消化液が匂いと熱さで理性と肌を焼く。ホワイトアウトしそうになる意識を帰るべき日常を思い出して強引に呼び戻し、
「まだ……です。食われるわけには行きません」
 幾重の剣閃が紫の花弁から走る。その軌跡のままに花弁は切断される。剣を振るったリンシードが魅了された様子はない。安堵する仲間だが、同時に驚愕する。
「防御に徹したリンシードを捕らえるほどの、命中精度……!?」
「回避の目は、あります。……ですが」
 リンシードの動きはアークの中でも随一といってもいい。その動きを、完璧ではないが捉えたのだ。
「いやいや御見事。五分五分……いや、四分六分で私が不利でしょうな」
 賞賛するデカラビアに虚勢を張っている様子はない。本当にそんなところなのだと思っているのだろう。
「ふん! 地獄の大公爵の名は伊達ではないということか」
 刃紅郎が馬上から宝錫を振るう。宝錫に纏った風がデカラビアを襲った。鐙を踏みしめて手綱を掴み、愛馬もそれに答えるようにその脚力で大地を踏みしめる。臆病といわれる馬が魔神の前に立ってもおびえないのは、王との絆ゆえか。なぎ払うように振るわれた風の刃は魔神の服を切り刻み、
「あいたたたた! さすがにお強い。一張羅が台無しですよ」
「見た目どころか言動も道化か。すんでのところで我が一撃を避けおって。加護を砕くには至らなかったか」
 手ごたえはあった。だが真芯を捉えたわけでもない。刃紅郎も一流の戦士。一合打てばある程度は相手の実力を推し量ることはできる。まともに当てる確率はおおよそ五分五分といったところだ。攻め続ければいつかは痛打を与えることができるだろう。
「外敵を討つも王の務め。そしてそれに抗するのは敵国王の務め。互いにその勤めを果たしましょう」
「よかろう。その口がどこまで持つか試してやるわ!」
「口、あるんですかね」
 七海はそんな一言を告げて、天空に矢を放つ。降り注ぐ炎の雨が使い魔と金鯱、そしてデカラビアを炎に包み込む。赤の雨が不浄の悪魔とその使い魔を浄化するように燃え盛り、使い魔をすべて吹き飛ばす。
 しかし、
「……避けきれない……!」
 デカラビアを強化する鳶と雀に矢を届かせるには、前に出る必要があった。それは金鯱の攻撃範囲内だ。矢を放つ間ずっと、七海はその攻撃に晒されていた。刃のような鱗が何度も七海を裂く。
「よし、下がって……」
「つれないですねぇ。もう少し見学してくださいよ」
 下がろうとした七海にデカラビアの蔦が絡まる。拘束はわずか一瞬。振りほどく気になれば容易い足止め。だがその一瞬で金鯱は七海を吹き飛ばし、地に伏した。七海は運命を使って起き上がるも、その体力は十分ではない。、
「一気に削られた……各個撃破してくるつもりか」
「落せそうな人から落とすのは基本でしょう」
 金鯱の周りには抑えに入っている未明と吹雪、そして七海と同様の理由で全てを射程に捕らえようとしていた彩音がいる。彼らは金鯱が回転するように泳ぐ度に、その鱗で傷つけられていた。
 そして魔神の火力もそこで戦っている四人に集中する。赤の花びらが前衛たちの力を削ぐように舞い、金鯱に向けられる火力を削いでいく。
「確かにこれはたまらないな」
 金鯱の攻撃で運命を削った彩音も、もはやこれ以上はこの場にいる意味が無いとばかりに後ろに下がる。弓を手にして六十九位の魔神を狙い、意識を集中させる。大丈夫、しっかりと狙えば当たらない動きではない。
「もはや貴様を護る加護は無い。この矢を受けるがいい」
 放たれた矢はデカラビアに吸い込まれるようにその胸に突き刺さる。不吉を告げる矢は魔神のツキを乱し、そして仮初めとはいえその肉体に傷をつけた。
「まったく、厳しい戦いだね」
 吹雪はデカラビアの花弁に力をそがれてはいるが、彼の斬撃は速度に依存する。雷光を捕らえることは魔神でもできず、吹雪のナイフの威力は変わらない。だが、盾を持つ力の低下は防ぐことができず、十分な回復があってもなお厳しい戦いになっていた。
「ちぃ……あの魔神の射線から逃れれば」
「おや? そんな動きで作っていいのですか? 移動した隙間から鯱が後ろに泳いでいけますよ」
 鯱をデカラビアの盾にするように吹雪が動けば、魔神はそれを察したように一言告げる。吹雪の役割は金鯱の足止めだ。実際に魔神の言うようにすり抜けることが可能かどうかはともかく、その可能性を示唆されれば盾にするのを諦めざるを得ない。
「……ちぃ!」
 盾越しに伝わる強い衝撃。失いそうになる意識を運命を燃やして立ち尽くす吹雪。痺れる腕に活を入れながら、金鯱にナイフを繰り出した。
「優雅に泳ぐじゃない。もっとも呼び出した相手はなかなか嫌らしい相手だけど」
「悪魔にそれは褒め言葉ですね」
 金鯱に攻撃を受けながら使い魔を攻撃する七海と彩音。それをみて未明は金鯱を押し込んで安全を確保しようとした。だが、一体を吹き飛ばしてもそれをフォローするようにもう一体が立ちはだかり、飛ばされた鯱はすぐに前線に戻ってくる。複数の鯱を同時に吹き飛ばさない限り射手達の安全は確保できず、そして未明はそんな技を持ち合わせていなかった。
「この花弁が無ければ……!」
 デカラビアの放つ花弁が未明の火力を削ぐ。吹雪が相対している金鯱を集中放火するが、金鯱の防御力もあいまって撃破には至らない。もちろん無傷ではない。だが、数十秒で撃破できるものではない。それがもう一体いるのだ。
「衣通姫の霧音、助太刀するわ」
 霧音が『妖刀・櫻嵐』を手に構える。激しい怒号の飛び交う戦場の中にあってもその心は静か。霧の中のように白く静かで、その静寂に響く音のように澄み切っている。その心を維持したまま、ただ刀を抜き、振るい、そして納める。
「捕らえました」
 金剛すら切り裂く抜刀術の奥義。それは金の鱗の隙間を塗って金鯱に刃を入れる。明らかに大きなダメージに揺らぐ金鯱。連続で放ち続ければ、押し切れる。問題は、霧音の気力がそこまで持つか。
「問題はない。そのための我等だ」
 雷慈慟は脳内を最大限に活性化させ、リベリスタ全員と意識を繋げる。その状態で精神を安心させる脳波を出し、その感覚を全員に共有させる。自律神経を活性化させ、リラックスした精神と肉体が戦いの気力を蘇らせる。
「海依音御婦人へは攻撃をさせん」
 雷慈慟は事前に飛ばしていた使い魔の視覚共有で戦場を俯瞰し、敵味方全てを把握していた。回復役である海依音をデカラビアの射線から遮るように動こうとするが、
「ンフフッ。無駄ですよ。少し動くだけで十分なのですから」
「……ッち!」
 人間大の大きさで人間一人を隠そうとすれば、庇うか真正面に立つかだ。だが真正面に立ったところで、広い空間においては相手がわずか数メートル動くだけで互いの立ち位置は『正面』ではなくなってしまう。
「あらあらあらあら。海依音ちゃん大忙しですわ」
 砕けた口調で海依音が口を開くが、その実は大判振る舞いの勢いで回復の神秘を放っていた。金鯱とデカラビアが前衛に火力を集中するおかげで、そちらの回復のために手を割かざるを得ない。七海も回復に加わるが、回復とダメージのバランスが覆ることはなさそうだ。
「どうですか? アークのダンスは。割といい線いってるでしょう、公爵様?」
「ええ。惜しむべくは観客がいないことですか。人払いの結界を解いてもよろしいですか?」
 回復を行使しながら海依音はデカラビアの気を引く。可能な限りリベリスタの戦いに集中させて、一般人に被害を出さぬように。その意図を知ってかしらずか、魔神は言葉を返す。
「お断りします。こう見えてもシャイなんで」
「ええ。それにそう長く続けるつもりはありません」
 嶺は気の糸を放ち、デカラビアの腕を絡み取る。そこから神秘の力を流し込み、神経を刺激する毒を伝える。痺れるような毒が魔神の肉体を襲い、同時にその動きを鈍くする。動きが止まったのはほんの一瞬だが、この一瞬の間にリベリスタは回復を盛り返す。
「いい狙いですよ。もっともそれほど痛くはありません」
「あなたの動きを止めればそれで十分です」
 嶺の役割は雷慈慟と同じくリベリスタの気力回復と、そしてデカラビアの行動妨害。もちろん重点を置くのは気力回復の方だ。磐石の回復による経戦能力の維持。それにより相手の打破。これがリベリスタの取った作戦だ。
「果たしてそれが正解ですか?」
 魔神の言葉に嶺の動きが止まる。悪魔の言葉に耳を傾けるなという理性と、これでいいのかという焦りがせめぎあう。
 問題はない。
 魔神の生み出した軍勢をすべて打破するなら、先ずは結界を削いでから金鯱を倒し、そして魔神を打破する。この流れに問題はない。
 だがその前提条件は正しいのか?
 キース・ソロモンが呼び出した十二の魔神。その魔神が用意した軍勢。
 その全てを倒せるというのは思い上がりではないのか? 数こそ少ないが、金の信仰を受けた鯱とそれを使役する魔神。リベリスタは精鋭とはいえこの人数で全てを打破することが、可能なのか?
 フォーチュナは言った。魔神の打破を為せば、金鯱も結界も消える、と。真に倒すべきは魔神なのだと。
 デカラビアを相手している刃紅郎とリンシードは、けして弱くは無い。
 だが魔神はその猛攻を受けてなお二人を無視して金鯱を押さえている未明と吹雪を倒そうとする。それは前衛を瓦解さて金鯱を後衛で暴れさせたいという意図もあろうだろうが、その裏にはもう一つの意図があった。
「お二人の攻撃は確かにすさまじいです。しかぁぁぁし! 魔神を倒すには不十分のようですね」
「……っ!」
「王を愚弄するか!?」
 リンシードの剣は何度かデカラビアを裂き、その動きを止めることもある。刃紅郎の一撃が真芯を捉え、魔神の加護を振り払いもした。与えられた役割は十分に果たしている。だが、それでも優先的に倒す相手ではないと六十九位の魔神は告げたのだ。
「……っは!」
 金鯱の攻撃で未明が運命を燃やす。肩で息をしながら、自分の剣を杖にして立ち上がる。燃やした運命がデカラビアの花弁を払うが、数秒後にはまた花弁が襲い掛かることは分かっている。
 一進一退。リベリスタも金鯱も、そのダメージは深い。
 しかし倒すべき魔神の声には、今だ余裕が残されていた。

●六十九位の悪魔
 雷慈慟と嶺が気力を、海依音と七海が体力を回復する。
 だが燃やした運命までは戻らない。意識を失えば、神秘の力でも起き上がれない。
「くそ……! 後は任せたぜ」
 一番最初に倒れたのは、吹雪だった。金鯱の一撃を受けて、地面に崩れ落ちる。そこに生まれた隙間を生めるように霧音が割って入る。
「グッド! いい判断です。現時点での最良解ですが、あなたがその位置にきてくれたのはワタクシにとっては僥倖といえましょう」
「どういうこと?」
「金鯱の鱗を無視して打撃を与えるあなたと、そこの剣士さん。それを一気に葬るには絶好の位置だということですよ」
 霧音が金鯱を押さえに入ったことで、前衛は金鯱二体と、霧音、未明となる。金鯱を可能な限り無傷で後衛に突っ込ませたいデカラビアからすれば、鱗を避けて切り裂ける霧音と未明は手早く廃したい。それがまとめて狙いやすい位置にいるのだ。
「言ってくれる。そう易々と倒れるとでも?」
 未明が跳躍し、金鯱の鱗を斬る。雨が岩を穿つように、繰り返し叩きつけた剣が金鯱に深く突き刺さる。魔術的な何かが砕け、金鯱を投影したモノは砕けて無に帰す。
 だが未明の猛攻もここまで。金鯱の尾が未明と霧音をなぎ払う。細かい刃が肌を摩り下ろすように裂き、強い打撃が肺を打ち、空気を一気に吐き出させる。
「あ、ぅ……!」
 未明がこの一撃で背中から倒れる。カラン、と剣が音を立てて地面に転がった。
「拙い……デカラビアに攻撃をしている二人を呼び戻して金鯱のブロックに回すか……!?」
「あるいは回復放棄でデカラビアに火力を集中させるか、ね」
 後ろから戦場を見ていた雷慈慟と嶺は、戦場を分析して最適の手を導こうとしていた。どちらの手にもメリットがあり、デメリットがある。だが、作戦変更を行う余裕を与えるほど魔神は甘くは無かった。
「そろそろ数を減らしていきましょうか」
 魔神が目をつけたのは先ほどまで金鯱の近くにいた七海と彩音だ。赤の花弁が舞い、棘の鞭が襲い掛かる。
「負けるつもりは無いのだよ……!」
 彩音は運命を代償にして奇跡を呼び起こそうとするが、女神は微笑まなかった。花弁の毒により意識を失う。
「まさかここまでの強さとは……!」
 七海も花弁の毒で膝を突いた。相手はソロモン72柱の一人。その強さは伊達ではなかったということか。そんなことを思いながら倒れ伏す。
「ッ……まだ、よ」
 金鯱の一撃に口から血を流しながら、霧音が運命を燃やす。金鯱と切り結ぶが、花弁の毒と棘の鞭が邪魔をして、十全の威力を出し切れないでいた。
「まだ滅せぬか、この道化!」
「……倒れて……ください……!」
 刃紅郎とリンシードが矢次にデカラビアに攻撃を続ける。並のアザーバイドなら三度は殺しているほどの攻撃を仕掛けている。何割かはまともに命中し、手ごたえもある。なのに、
「ノォォォ! 痛いんでやめてもらえませんかね、お二方。いや本当に!?」
 斬られた瞬間に痛みで震えることもある。事実この悲鳴も冗談ではなく本気で嫌がっている。だが、倒れる様子はまるでない。
 デカラビアに向ける刃がもう少し多ければ、その体力を削りきることができただろう。魔神とて不死身ではない。ただそのスペックが高いというだけだ。消して届かぬ星ではない。
 だがそれをさせぬために、デカラビアは策を練っていた。狙おうとすれば金鯱の攻撃範囲に入る場所に結界を敷いてリベリスタの動きを誘い、また金鯱の脅威を前面に出して先に倒させるように仕向ける。ここまで来るとこのエセ紳士な行動言動すら、リベリスタを油断させる策だったのではとさえ思わせる。
 もちろん結界の効果は高く、金鯱の放置は後衛の瓦解を招く。
 だがそれらを生み出したデカラビアの討伐優先順位が、低かったのは確かだ。
「……すま、ん……!」
 金鯱と魔神の攻撃を受けて、霧音が力尽きる。吹き飛ばされて石畳に転がった。
「……五人戦闘不能……」
 海依音は迷っていた。事前に決めていた引き際に達したのだ。
 だが、無理をすれば勝てるかもしれない。こちらの回復は磐石。金鯱はかなりダメージを与えているし、デカラビアも無傷ではない。何よりも運命はこちらに味方している――
「どうしました? まだ勝負はついていませんよ。カムヒア!」
「――退きましょう」
 魔神の誘うような言葉を受けて、海依音は撤退を決意する。悪魔の甘言に踊らされれば、待っているのは身の破滅だ。
「そうだな。戦えば勝てるだろう。だが確実に死者が出る」
「こっちの火力もかなり削られてますしね」
 雷慈慟と嶺が状況を判断し、海依音の決断を補足する。勝てない、というレベルではないが勝つには犠牲が生まれるレベルだ。そしてそれは良しとしない。それがリベリスタの共通意見だ。
「倒れてる人を担いで逃げてください!」
「……了解……仕方、ありません……」
「殿は我が勤める!」
 それぞれがそれぞれの役割を果たし、撤退行動を開始する。
「残念ですが、よき判断です。
 あなた達の命は一つしかなく、ワタクシはここで倒れても魔界に本体がある限り幾度となく召喚される。特攻は割に合いません」
 魔神と金鯱はそれを追おうとはしなかった。ただリベリスタの判断に拍手し、その背中を見送った。

 愛知県名古屋城。『尾張名古屋は城でもつ』と言わしめた日本三大名城。
 そこに張られた結界はしばらく解かれることはなく、その関係からかしばらくこの地で行方不明者の数が増えたという――


■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 どくどくです。
 デカラビアの戦場は『水鳥の羽音を大軍と勘違いした』というエピソードのある『富士川の戦い』もあったのですが、城がいいかなということで名古屋城に。
「あの水鳥、実は私の使い魔だったんですよ(ドヤァ」とかいうつもりでしたが、書いてるどくどくもイラッと来るのでボツ。

 結果は上記の形に。理由はリプレイ中にて説明しています。
 ノーマルならそのまま押し切れる作戦でしょう。如何せんハードEXの壁を突破できませんでした。
 MVPは撤退条件を明記した神裂様へ。この条件が無ければ死亡判定もありえました。勇気ある撤退ということで。

 ともあれお疲れ様です。先ずはゆっくり傷を癒してください。
 それではまた、三高平市で。