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<九月十日>優しい大阪城秋の陣

●優しい戦場
 かつてこの地に日本の頂点に君臨した男の居城があった。取るに足らない無名の若者が己の才覚だけを頼りに戦場を駆け巡り、全ての力と時間を費やして得た終の棲家だ。難攻不落の名城として天下にとどろいたその城は、男の死後ライバルの機略によって浪花の夢は炎に消えた。

 この日、約束の9月10日にその城の上空に突如小さな影が出現した。
「これが大阪城のレプリカですか。ふ~ん、あまり昔の面影はないみたいで趣に欠けるのは残念ですが、経緯や土地柄、時間の経過を考えれば仕方のない事でしょうね」
 淡い銀に輝く翼を持つ優美な白馬の背から遥か下界を見下ろすのは、陽光に光り輝く長い金髪を風に揺らした美しい男性だった。彫刻の様な身体に柔らかく白い薄物の布をまとい、右手には蛇の絡みつく杖を携える。一目見れば、力を持つ持たないにかかわらず、その人ではない存在が桁外れの力を備えている事がわかるだろう。けれど、驚くほどに邪気がない。
「ここはわずかとはいえ平和な時が流れているのですね。人は皆幸福そうです」
 美しい人はごく淡い氷雪の蒼を湛えた瞳で優しく人の世界を微笑んで見つめる。何百年も前から日本の経済を動かしてきた街は今日も様々な人や物が行き交い、さながら街全体が生き物であるかのように動いている。
「商業の街ですか。本当に良いところです……私が降臨するのに相応しい場所と言えるでしょう。いつまでもこうして人の営みを眺めていたい気持ちもありますが、やむを得ません」
 彼の人は緩やかに杖持つ右手を空にかざす。ギリシャ神話の神の如き姿は解放された力によって変化しつつ降下する。翼ある白馬は翼のあるスマートな靴に、白い布は空の色を取り込んでデニムパンツとゆったりとしたシャツ、そして長い金髪は散り散りに千切れて不可視のコードとなり、杖から解き放たれた2匹の蛇は左右に別れて主を守る。
「いつもでも眺めていたくもありますがそれでは時が移ります。では、始めましょう」
 重力を無視した緩やかさで天守閣のてっぺんに降り立ったその人は杖が変化したタブレットPCを手にしたまま静かに目を閉じる。空気に溶けた長い髪の先は有線のコードと化し空間を侵食し世界を内側と外側に切り離してゆく。と、同時に別のコードが足下から城を、そして地面を、その下を走る無数のケーブルに絡みつく。一瞬にして世界はねじ曲げられ、そこに彼だけの空間が創られていた。居たはずの者達は彼の力により他の場所に移動させられ、回り道を嫌うこの街の者達が不自然な方向転換をするがそれが彼の力によるものだとは少しも気が付いていない。
「これで無辜の民が巻き込まれることなくなったけれど、まだ安心は出来ません。アークに属する戦士達よ。どうか、一刻も早く私の元にたどり着き、そして全力で私と戦って下さい。そうでなければ私はこの平和な大阪を血で染めなくてはならないのです」
 祈るように両手を握り、彼――魔神セーレは大阪城の天守閣から儚い微笑みを四方に広がる大阪の街へと向けた。

●優しい魔神
 ブリーフィングルームに現れた『ディディウスモルフォ』シビル・ジンデル(nBNE000265)は何時にも増して蒼い顔をしていた。
「み、皆さんにお話が……」
 普段から余り口数が多い方ではないが、今日は特に言葉が出ない。それでもようやく語り出したのはこの世界ではない場所から出現した魔神と戦って欲しいというものだった。
「魔神の名はセーレ。ソロモンの有名な? ううん、あんまり有名じゃないのかも? けど、そこに名前がある綺麗で優しいお兄さん」
 あまり強敵そうではない説明をシビルは震えながら言う。

 魔神セーレが出現したのは大阪城の天守閣、その最も空に近い場所であった。彼は魔神とは思えない至極カジュアルな服装に外見を変え、その位置から空間をゆがめて大阪城公園全体に一般人が立ち入らない領域……邪魔者のいない戦場にしつらえている。
「今は誰も傷つけられていないけどもしリベリスタがちゃんと戦わなかったら、見せしめの為に人を殺さなくちゃいけない、キースが命令したから」
 犠牲者を出さないための唯一の方法はリベリスタが死力を尽くして戦う事だ。
「セーレは優しいけれど強い。一番の強さはどこからでもどんな情報でも引き出せる事。2番目は移動速度が速い事。2匹の蛇と金魚みたいなお魚に守られている事」
 今もありとあらゆるネットワークに侵入し情報を入手し戦場を掌握しているだろう。また移動速度はずば抜けて高く、2匹の蛇には治癒の力がある。それだけでも厄介なのに、セーレは更なる眷属を従えている。吸血能力のある血の様に赤い小さな魚たちだ。どちらも飛行能力があり主の周囲に展開している。
「今回の事件は『魔神王』キースにとってはただのゲームかもしれないけれど、沢山の人の命が危険にさらされてしまう。だからお願い……絶対にセーレを止めて。だって一番止めて欲しいと思っているのは彼だから」
 祈る様に胸の前で両手を組みシビルは言う。奇しくもそれば大阪城天守閣でセーレが呟いた時のしぐさとおかしなくらいにそっくりであった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:深紅蒼  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月27日(金)22:37
とうとう9月10日がやってきました。リベリスタの皆様には是非、魔神セーレに狙われた大阪を彼の殺戮から守って下さい。

セーレ:ソロモン72柱の魔神です。外見も心根もとても美しいのですが、敵にすると面倒です。彼は不本意ながらもリベリスタ達と戦います。戦わないという選択肢はありません。能力は驚異的な情報収集と移動速度です。武器は湾曲したハルパーという内刃剣で近接前方扇状範囲攻撃と、近接単体攻撃技を使います。他の能力があるのかどうかは不明ですが今回は使わない様です。蛇と魚は眷属神みたいなもので強さは格段に落ちます。蛇は2体、魚3体です。

 いかなる手段を用いても大阪を守って下さい。それが成功条件です。では、皆様のご武運と降り注ぐ世界の恩寵をお祈りしております。

●重要な備考
<九月十日>の冠のつくシナリオにはイベントシナリオを含め一つしか参加出来ません。
 又、このシナリオにはレベル25以上のリベリスタしか参加出来ません。
<九月十日>の全てのシナリオの参加条件は重複参加不可能な排他となりますのでご注意下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
スターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
マグメイガス
綿雪・スピカ(BNE001104)
ホーリーメイガス
神谷 小夜(BNE001462)
ホーリーメイガス
大石・きなこ(BNE001812)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
プロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
ミステラン
シィン・アーパーウィル(BNE004479)

●大阪城、秋の陣
 約束された9月10日、各地の城郭、古戦場に魔神王に召喚されし異界の者達が顕現していた。彼等の本体は未だ異界の地に存在し、この世界には極限られた力が姿を現したに過ぎない。それでも……伊達に『魔神』の名を持つわけではなくその力は強大だった。
 元々の主は既になく本来の姿も炎に消え、仇の側によって復元されこの地の要として置かれた大阪城は今また、異界の魔神の拠点とされていた。広い天守閣の整然と並ぶ青黒い胴瓦の中央に座り込んだ魔神セーレは、この世界の若者が身に着けるごくありふれたカジュアルな服装でタブレットPCを手に座っている。そして突然、氷の様な淡い瞳が和らぎ、ホッとした様な笑みを浮かべた。
「よかった。やっと来てくれたみたいだね。もう少し『識る』のが遅かったら、王命を果たさなくてはならないところだったよ」
 セーレが張り巡らせた髪が変化した不可視のケーブルは、触手の様にネットワークを侵食しオービスや監視カメラ、SNSの画像や書き込みなど膨大な情報がリンクされている。その何かがリベリスタ達の接近を知らせたのだろう。口調が僅かな間で随分と砕けた物言いに変わっているのもネットからの情報によるものだろう。
「聞けば情報収集と【速度】が売りの悪魔ダッテナ。ダガ、この空間デハ情報収集ダケニナッテモラウ」
 何故ならば私ハ誰ヨリモ疾イノダカラ……と『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)は思う。例え相手が異界の魔神とはいえ『最速』の矜持は捨てられない。この先もリュミエールがリュミエールとして存在するためには、誰よりも速くなくてはならないのだ。
「先ニ行くゾ!」
 誰よりも早く飛び出した『最速』リュミエールを止められる者など存在しない。吹き荒れる風の様に空間を疾走し魔神へと肉薄してゆく。
「これは速い。グラシャラボラスやバティンと競ったら面白いだろう。さぁ遊んで差し上なさい」
 セーレは自らは動かずに側に侍っていた3体の魚達に迎撃を命じる。
「舐められたもんです。我がアークの本分は戦いではなく一方的な制圧なのに」
 それがアークの総意かどうかは不明だが、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が言い放つ限りはそれが彼女の信条なのだろう。あばたは透き通る琥珀の瞳に驚異的な力を秘め魔神セーレの周囲を視る。
「遂においでなさったわね、金の獣とその魔神達! でも変ね。彼が本当に彼の『キース・ソロモン』の眷属なの?」
 物騒な期待を胸に秘め大阪城へと乗り込んだ筈なのに、思わぬ肩すかしを食らった気がして『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)はとまどう自分を感じていた。ここまで敵に接近しているのに、相手からは邪気や悪意、殺気さえも感じない。
「あなた、穏やか過ぎるんじゃない? 本当に私達と戦う気があるの?」
 問いかけながらもスピカはぬかりなく低く詠唱し自己の魔力を活性化させる。
「責務は果たすつもりだよ。彼等も私を助けてくれるし」
 セーレは空を泳ぐ様に移動してゆく魚たちを視線で示す。
「魔人にも心優しい方がいるんですねって思ったのですけれど、やっぱりあなたは魔神……人とは相容れない魔物なんですね!」
 そっと詠唱して魔力の強化を図った『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)は戦場目がけて走りつつ叫ぶ。淡い期待があっただけに少なからず落胆がある。
「私は常に私を呼び覚まし喚び寄せたモノに対して誠実であろうとしている。そしてそれ以外に趣味として殺戮や虐殺をしないというだけ……まぁ面白みのない性格なのだろうね」
 セーレは我が身を嗤う。
「所詮は悪魔。召喚者との契約に縛られるというのも哀れで窮屈な存在だな」
 黄金と紫暗の双眸で『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は己の似ている気がしないでもない魔神セーレの姿を見上げる。しかし戦いの前の感傷は無意味に等しい。今必要なのは交渉でも共感でも憐憫でもなく、並び立たない2つの願いを1つに選択するための純粋なる力比べであり、櫻霞が興味をそそられるたぐいのものではない。
「さっさと終わらせてしまうとしよう」
 敵は驚異的な移動速度と情報収集能力を持つという。ならば自分が仲間の傷を癒し、戦いを維持と底上げを得意とする反面、前に立っての直接攻撃や防御力に難があることはお見通しなのだろう……と『三高平妻鏡』神谷 小夜(BNE001462)は覚悟する。情報は戦闘を有利に展開するためのファクターではあるだろうが、それだけで戦いの趨勢が決まる事があったとしても例外はある。
「貴方にとっては駄目な戦術かもしれませんけど、私は仲間の回復に徹するのが最善だと信じてますし、最善を尽くすのも、全力で戦う手段の1つですよね?」
 小夜が望むと力が溢れ、皆の背に可愛らしい小さな羽が出現する。
「その通りだね。和国の神を信奉する者よ。けれど最善よりは最高を求めるのは我が召喚者殿でね」
「まあ、お互いお仕事という事で。ほどほどに、潰しあいましょうか」
 魔神の自分語りなどうざいだけで関心はないという風な冷ややかな態度と口調で『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が言う。大阪城に出現したセーレの様子から魔神王の人選(魔神選?)ミスを疑ったのだが、今はそうは思わない。おそらく自分の感情と為すべき事とを切り離せる……空涙を流しながら大量虐殺をやってのけるタイプなのだ。
「本体は異界で倒しても戦果はない……デメリットばかりで割に合いませんよ。その情報収集能力をください。わたし達があなたを制圧出来たら」
「私が倒れれば同胞が大量死せずに済むというのは立派な戦果でしょ? 何かが欲しいなら、私が欲しいモノを提示してくれなきゃ交渉のテーブルに着く事は出来ないよ」
「喰えない魔神だな」
 表情は変えなかったがあばたは心の中で『絶対殺す!』と拳を握る。
「お初にお目にかかります、商業と伝令を司るヘルメスさん。自分と賭けを……いえ、商談と言える事をしてくれないですか?」
 最大限に礼儀正しく一礼し『振り返らずに歩む者』シィン・アーパーウィル(BNE004479)は微笑んだ。
「私同様、異界の者が彼等と一緒にいて彼等の神話を学ぶとは奇特だね。でも私の事はセーレと呼んでもらいたいな。それで商談とは何を商うつもりなの?」
 否定はしてもやはりセーレはヘルメスに似た存在なのだろうとシィンは思う。だからこそ商談を無視出来ない。
「自分達が勝ったなら、何か道具か能力を授けてください。負けたなら代償を支払いましょう。キースは自分達に力を与えるなとは指示していないでしょう?」
 支払えるものは金かこれまでの時間かフェイトぐらいしかないとシィンは言う。
「面白いね」
 セーレの冷たい氷の様な瞳がキラリと光った。
「ならば私はこの金の髪の能力を1つ差し出すよ。いかなる場所にも侵食し我が領域と化し不要なモノを排除してくれる優しい檻を提供しよう」
「商談成立ですね」
 シィンは微笑む。
「まずは叩き潰す、それが優先ですから」
 余計な事や難しい事を今考えても仕方がないから『荊棘鋼鉄』三島・五月(BNE002662)はただ走る。肉を切らせて骨を断たせて魂を削ってそれでも倒す。無様でも見苦しくてもどの様な犠牲を自らに強いてでも必ず勝利を掴み取る……それが五月の全力だ。
「必ず倒します、魔神セーレ」
 正面をひたと見据えながらも五月は周囲に溶けるように張り巡らされた無数のコードを気にしていた。あれもきっと魔神の一部だ。
「魔神殿、お待たせしてしまっただろうか。殺戮を好まない貴方が魔神王の求めに応じた僥倖への感謝の気持ちとして、全力でお相手を務めましょうとも」
 自らが知る最も格式の高い正統なる手順を踏んで『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は名乗りをあげる。
「言い回しが堅いね、青き騎士。この世界では相手との距離を詰め、友人同士っぽい言葉を使うのが主流なんじゃないのかな?」
「人それぞれ、場合によりけりでしょう。魔神といえども全てを識る完璧な存在ではないということですね」
 アラストールは武器を構える。如何なる時であっても、我が身に等しい2つの武器は吸い付くように手に収まる。
「よじ登るのは面倒だよね。はい」
 セーレがぱちりと指を鳴らすとリベリスタ達の身体は瞬間的に空間を跳び、彼の待つ天守閣の瓦の上に着地する。しかし小夜が与えた翼の効果で僅かに浮き上がり無粋な音が鳴る事はない。

「私の手番は終わったよ。さぁ、存分に戦おう」
 蛇たちは主の左右に控えているが、魚たちは既にリュミエールと交戦している。
「グラシャラボラスやバティンはお前より速イノカ? ナラ、益々お前ニ何かに負ケテラレネェナ」
 陽光が水の煌めきに更に弾け輝くかのように、神の域にまで及ぶがごとき華麗にして清廉なる突き技のひとつひとつが精緻にして神々しい。金魚の様に赤くしかし獰猛な眷属はリュミエールの攻撃に傷つけられ、そこから光の奔流のようなエネルギーをまき散らしながら苦悶に身をよじる。
「素晴らしい本気の攻撃だね。でも……」
 残る2体が双方からリュミエールに襲いかかる。回避出来ずに鋭い牙がリュミエールの白い肌に食らいつき肉をむさぼる。その間に傷つき後退した魚は蛇の治癒を受けている。
「君はそれほど防御力が高くはない」
「ッツッテモ私は速度以外ナンニモネーカラナ」
 どうせわかっているのだろうとリュミエールは隠さず言う。本当はセーレ本体に仕掛けて出鼻を挫く筈がまさしく雑魚に喰われるとは、胸一杯に広がる怒りで傷は少しも痛くない。
「この辺りですかね?」
 戦いは常に水物だ。入念にシミュレートして場面と想定していたとしても、予想外の事態がある。だからレイチェルは前衛でも後衛でもない臨機応変に動けるベストポイントに移動する。そうして的確に敵を追いつめ倒す執念にも情念にも似た気概を心の奥深いところに創り上げてゆくのだ。
「遠慮はいらない。先に攻めてくるといいよ」
 残る蛇の片割れと自分自身は動こうとせず余裕を見せるセーレはリベリスタの攻撃を促す。
「神の余裕と言う奴か。だが全力攻撃にはこちらにも準備がある。大人しく待つのも神の器量だろう」
 櫻霞は傲然と言い放ち、魔神の目前で月の処女神がもたらす加護をその身に宿す。
「さぁ、魔人のお兄様! 始まりのプレリュードと洒落込みましょ!」
 スピカの言葉と同時に一条の雷光が戦場に降臨し弾ける様に拡散しセーレとその全ての眷属達に襲いかかった。
「綺麗な合図だね」
 しかし、その枝分かれするように迫るスパークは眷属のみを直撃しセーレの身体には届かない。
「これ以上その金魚たちを好きにはさせておきません」
 五月はリュミエールと魚たちとの間に飛び込んだ。更に業火を帯びた幾重にも装甲が重なる無骨な手甲で薙ぎ払い、魚たちが消えない焔に包まれてゆく。
「ユーティライネンさん、大丈夫ですか?」
「問題ナイ」
 素っ気ない答えにホッとしつつも小夜は詠唱の言葉を紡ぎ、体内の魔力を活性させて強めてゆく。
「すぐに治しますから、あとちょっとだけ耐えて下さい」
 リフレッシュされたかのような新鮮な力が小夜の身体を駆け巡る。
「――来たれ、我が根源の形」
 アラストールの心に応えて高潔なる英霊の魂は加護の力へと形を変え、刹那の防具となってアラストールの身体に集約されてゆく。それは神威を放つかのような白き鎧だ。その神々しい姿をかき消すかのように戦場に無数の激しい火炎弾が降り注ぐ。それは更に無数に炸裂して眷属だけではなくセーレの指先をわずかに焦がした。
「おっと……」
「まだまだ準備が続くと思ってのんびりと見物していたのでしょうか? それでしたら油断大敵なのだと自らの痛みで魂に刻むとよろしいかと思います」
 シィンの金色の瞳が戦場の高揚感にキラキラと輝いている。
「仕方がありません。交渉のカードに不満があるというのなら徹底的にたたきのめして命乞いという取引をして欲しいと言わせてあげましょう」
 五月同様、魚たちの動きを牽制しつつあばたはとてつもなく重く大きな銃を素早い速さで連射してゆく。空間を引き裂くように走る弾丸は魚の口、蛇の胴、そしてセーレの右腕をかすめてゆく。魚と蛇、そしてセーレからも僅かに血色のエネルギーが漏洩してゆく。
「もっと、もっとだよ。私を高揚させてくれなくては主の命を実行しないとは約束出来ないよ」
 やはり魔神は魔神なのか。アラストールとあばたに傷つけられたセーレは楽しげに両腕を広げる。
「でも、今は誰も殺さないあなたの気持ちに応えられるよう私は全力で頑張ります」
 きなこは全身全霊を傾け、いと清らかな存在へと詠唱という名の呼びかけをする。かの存在からの返歌こそが癒しの微風となって戦場を吹き抜け、リュミエールの傷をそっと治していってくれる。
「じゃあ次は私だね」
 タブレットPCの変わりにセーレが手にしたのはハルパーという内刃剣だ。それで薙ぐと魚たちと対峙していた五月とあばた、そしてアラストールが圧倒的な剣圧に薙ぎ払われ、刃に触れてもいないのに程度の差こそあれ深々と傷を刻みつけられる。最も浅手なのがアラストールで派手に血が瓦を染めたのがあばただ。
「残念……2回攻撃とはいかなかったよ」
 ハルパーを鞘に戻しセーレは爽やかな笑顔を浮かべる。この戦い、魔神にとっては命を賭けているわけでもないただ命じられるまなに行う遊戯なのだろうか。リベリスタ達に視力を尽くせと言う割に魔神本人からは真剣味が感じられない。
「お前は本当ニ速イ悪魔ナノカ? その程度の速さナラ私の方が数倍速イ」
 今度こそ、神速リュミエールの切っ先は眷属達の動きをブロックしてくれる仲間達の援護もありセーレの身体に到達する。
「その動き見切っタゾ」
 回避する魔神の動きに翻弄されずに光の飛沫が弾け飛ぶかのような美しい突き技が繰り出され、すぐに完全なる防御の姿勢を取って離れる。セーレもまた、新たな右肩の傷を左手で押さえて数歩下がる。指の間から血が流れ青いシャツに滲んだ赤い染みが広がってゆく。
「やっぱり回復技を使ってきますか。面倒くさいんで回復そのものを潰してしまえば関係ない……!」
 レイチェルの全身から放たれた気糸がセーレとその眷属達へと突き刺さる。蛇の胴、金魚の胴が気糸に貫かれもがいても逃れられない。ただ1人セーレだけが平然と糸の貫通をさけ、僅かな傷だけで同じ場所から動かない。
「契約に縛られるという窮屈から逃れたいとは思わないのか?」
 自問自答でもしているのかとさえ思える言葉が櫻霞の色の薄い唇から零れ落ちる。けれど身体は反射的に攻勢に移り、敵全てに対して連続掃射による駆逐を図る。しかしこれも眷属には命中するもののセーレの身体には重いダメージを入れられない。
「流石に魔人の名を冠するだけはあるわね。あんまり当たらないし当たってもそれほど痛そうじゃないみたい。でも!」
 退くわけにはいかない戦場だ。スピカは再度雷を喚ぶ。天空から直撃する稲妻の光は敵の頭上寸前で弾かれたかのように拡散し荒れ狂い、スピカの敵全てを紫電の鞭で打ち据えてゆく。とうとう蛇の一体が限界を迎えたのか分解するかのように光の粒子に変わって消える。
「素晴らしい。私の予想を上回る攻撃力だ。お陰で大事な癒し手が減ってしまったよ」
「セーレ、答えて……貴方はどうしてキースの元に? 貴方の口ぶりからは、好んで人々を陥れようって意思が感じられない……そんな貴方が、どうしてこんな事を?」
 古いヴァイオリンを手にスピカが問う。消えゆく眷属の光はセーレに戻るが、同時に頭部から勢いよく流れる赤い血の如きエネルギーが金色の髪を濡らしてゆく。
「彼が私を喚んだからだよ。わたこが私を喚んだのなら私はきっと君に膨大なる知識という名の財宝を惜しみなく差し出しただろうね」
 頬や肩をも濡らす血色に染まりつつもセーレは儚い笑みを浮かべる。
「蛇一体で済むと思ってもらっては困ります。私達は貴方を叩き潰す者なのですから!」
 有言実行とばかりに五月の足が目にも止まらぬ速度で鋭い蹴り技を残る蛇の方向へと繰り出した。そこから真空の刃が空間を渡り敵の身体を切り裂いてゆく。
「絶対に守ってみせます」
 武器を持たない片手で押さえても止まらない傷からの出血に腹から下を赤く染めたあばたへと詠唱によりいと高位なる存在へと働きかけた小夜の力がもたらされる。優しい癒しの息吹が痺れる様な灼熱の痛みを鎮めてくれるのが有り難いが、このヒリつく戦場のプレッシャーなのか小夜の力はいつもよりも鈍く回復の力もさほどではない。
「魔神殿の相手は私が全力で務めてみせましょう。わが覚悟の証、御身でとくとご照覧あれ!」
 アラストールの我が身とも言える二振りの得物が鮮烈に光輝く。その破邪の光をまとった渾身の攻撃は風の様にとらえどころのないセーレの身体を確実に捉え、思わず挙げた右腕をしたたか斬りつけた。更にリベリスタ達の攻撃は続く。豪雨の様な火炎弾がセーレと眷属達へと降り注ぎ炸裂し、真っ赤な魚と蛇が瓦屋根に叩きつけられてゆく。
「待って下さい」
 傷を押して攻勢に出ようとしたあばたをきなこが制止する。
「問題ありません。わたしは見た目よりも頑丈ですからまだまだ戦える」
「わかっています。でも、まずはその傷を治してからにして下さい」
 きなこの喚ぶ癒しの微風があばたの傷を更に塞ぐと同時に神速の射撃が次々と敵を撃ち抜いてゆく。それでも敵を無に返すには至らない。焔に焼かれ続ける赤い魚たちはアラストールと五月から吸血を行い、蛇の技がダメージを消してゆく。弱々しく明滅していた魚も蛇も、そして半身を赤く染める魔神セーレの力も輝きを増してきている。
「君達は思った以上によくやってくれている。癒しの力に頼らなくては戦い続ける事が出来ないとはね」
 その独特の構えと所作にきなことアラストールが警告を発する。
「さっきと同じ技です」
「剣圧に注意を!」
 無造作にハルパーを振るうセーレから衝撃波が放たれる。その有効範囲はごく限られた狭い範囲であるが、確実に前衛で戦うリベリスタ達に襲いかかった。
「くっ……」
「負ケテラレネェナ」
 もとも防御に長けたアラストールと完全防御と回避能力に突出したリュミエールは浅い傷を受けただけだが、五月とあばたは大きな斬撃を胸に受けつつなんとか踏みとどまる。
「……もう一振り」
 セーレは振り払った刃を逆方向へと振り戻し、2度目の衝撃波が襲いかかった。宙に浮かんだまま五月とあばたの身体が転がりぐったりと動かなくなる。けれど……五月は歯を食いしばって立ち上がった。
「無様に倒れているわけにはいきません。私は負けるのは嫌いなのです」
 五月を受け入れ愛する世界が五月に再び戦う力を与えてくれる。

 その後も数に優るリベリスタ達であったが、眷属達の攻略に手間取り敵の本体であるセーレに痛打を与えるに至らない。また魔神側も眷属達は魚の吸血と蛇の治癒でなんとか消滅を免れている状態であり、セーレの重い攻撃は連撃されれば恐ろしいが一撃では戦えなくなるというものではない。無傷の癒し手達が集中的に力を使い、戦闘状態を維持している。
「本当に驚異的な速さですね」
 嫌みのない魔神の賞賛もリュミエールの心に安寧をもたらす事はない。
「当たり前ダ。ワカルダロウ。速度ジャマケラレネェンダヨ」
 リュミエールの華麗なる攻撃が魚を破壊しエネルギーに戻る。
「さて、あとどの程度でそちらの要求は満たせますかね? こちらとしては、既に全力で殺しにいってるわけなんですが」
 狙った魚を撃ち抜いたレイチェルが本気とも冗句ともとれる口調で言う。少し前の攻撃で体力回復が出来なくなっていた魚もあっさりと光となってセーレに戻り、2つの光を受け止めたセーレの右頸部から吹き出る血が雨の様に胴瓦に降り注ぐ。
「小手調べ程度の戦闘では飢えた金色の獣の腹を満たすには程遠い……ということか」
 残る眷属と魔神を一掃するつもりで櫻霞は容赦のない連続射撃を再度行う。自分達は全力で戦っている。けれど、それで満足するほどあの魔神王は無欲ではない。その欲望は計り知れず、どうすればその底なしの貪欲さを満たせるのかわからない。
「不本意だというのならもう少しそれらしく戦うべきよ、セーレ」
 崩れかけたリベリスタの前衛の隙間を縫い赤い魚が後衛へと向かう。不意打ち気味に赤い魚に血を吸われたスピカはとっさに気糸を放ち拘束し叫んだ。
「済みません、スピカさん」
 すぐに五月が魚とスピカの間に入り蹴り技から発するカマイタチが魚を斬る。
「こんな希有な感覚を楽しむ事も許されないのかな?」
 倒された眷属の痛みをも楽しむかのように、流れる己の血に染まった魔神は愉悦に浸り、その速き事を誇るかのように小夜の前へと移動すると、ハルパーを振り下ろした。
「……あっ」
 まるでスローモーション画像の様にゆっくりとハルパーの鋭い刃が自分に迫ってくる。それなのに小夜の身体は少しも動かない。
「させません!」
 突き飛ばされた小夜の身体が横倒しになる。はっと振り向くとたった今まで自分がいた場所にきなこの姿があり、血がハルパーの通過した後から吹き出している。
「大石さん!」
「近づいてはいけない」
 倒れるきなこに駆け寄ろうとした小夜を油断なくセーレを警戒しつつアラストールが引き留める。
「だ、大丈夫ですよ、小夜さん。私はあなたより、ずっと頑丈で打たれ強いんです」
 膝をついたまま苦しげにきなこは言う。けれどその言葉通り、きなこの意識も戦意も失われる様子はない。
「……はい!」
 小夜の詠唱が大いなる存在へと働きかける。清らかな風がきなこの身体を吹き抜け傷つき損なわれた身体を癒し、ついた膝をあげもう一度立ち上がる力を与える。
「なんと情けない! 強さに驕るだけのこれが魔神殿の戦い方だというのですか? 否、あなたはただの卑しき魔物です」
 アラストールの声が大阪の空に近いこの戦場に響き渡り、セーレと眷属の視線が集まる。
「ちょっ、無茶です」
「大丈夫です。みなさんのことは私が絶対に助けます」
 敵の攻撃を自分へと向けさせようとしたアラストールの行動に焦るシィンだが、きなこの決意に笑みを浮かべる。
「わかりました。一緒に福音を響かせましょう」
「はい!」
 シィンときなこの詠唱が重なり合って高く低く混じり合い、味方全てを癒す福音となって力を示す。

 どの様な戦いにも終わりがある。
「まだ戦うというのですか、魔神殿。戦いの趨勢はもう決しているのではないですか?」
 セーレの動きを阻むように対峙するアラストールが言う。既に魚と蛇の眷属はボロボロで今に倒れそうになっている。魔神セーレも動きは鈍くなっている。
「そうかもしれない。でもね、私にも欲しい物が出来てしまったんだよ」
 瀕死の魚と蛇、そしてセーレの剣がたった1人……シィンへと集中する。ハルパーの三日月にも似た煌めきがシィンに血に染まり、僅かに残った力の全てを眷属達が吸い取ってゆく。血まみれで倒れたピンク色の瞳はもう一度強い力で光が灯る。
「まだ……まだ私はここで終わらりません」
「見苦シイゾ」
「この黒猫の爪がやっと魚に届きましたね」
 全くノーマークであったリュミエールとレイチェルの攻撃が魚を穿ち、櫻霞の連射が蛇を風穴だらけに変えてゆく。
「雑魚の掃討完了だ」
 櫻霞の冷たい黄金と紫暗の瞳が唯一残る敵、セーレを睨め付ける。
「見事だよ、守護者達。どうやらこの身体でこれ以上戦うのは難しいみたいだよ」
 光になった眷属が戻るとセーレの身体は更に破壊され、血色のエネルギーが流れ出す。
「約束、商談は……」
「今回は不成立かな。私も君が持つこの世界の愛を狙ってみたんだけどね」
 まだ苦しげなシィンへと話をするセーレの姿は輪郭が曖昧になりうっすらと向こう側が透けて見える様になる。
「一つだけ。お願いごとって程じゃないですけど魔神王との決戦に赴いた人たちの勝利に祈りを……」
「神は祈りを捧げられるものであって、自ら祈るものではないんだよ」
 五月の願いに小さく首を横に振るとセーレは大阪城周囲に張り巡らせた髪を戻し、人を寄せ付けない結界を解いて……消えてしまった。

 戦いは終わった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 大阪城天守閣での戦い……決着しました。皆様方の活躍により1人の犠牲者を出す事もなく大阪は守られました。大阪府民の誰が知らなくても、皆様の活躍は神秘を知る全ての人達が知る事となるでしょう。本当にお疲れさまでした。
 これが最後の戦いというわけではありませんが、今は本部に戻り鋭気を養って下さい。