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御呪い伝へ参らせ候


 ずるずると。重いものが、地面を削って線を描いていく。
 人を救うのだ。
 人を導くのだ。
 祈るものの為に据え置かれたはずのそれはけれど、歳月と共に忘れらされていくのだ。
 救ったのに。導いたのに。祈りを聞き遂げ終えれば後は用済み。時代を重ねれば信仰は薄れていく。
 ああ恨めしや恨めしや。忘れ去られたそれは、身を引き摺り削りながら求めるのだ。
 己を忘れた者達の贖罪を。


「……その、今日の仕事だ。手空いてる奴居るなら、話聞いて行け」
 ばつが悪そうな表情。魔導書の代わりに資料を抱えて、『銀煌アガスティーア』向坂・伊月 (nBNE000251) はリベリスタを見遣った。
「資料はこれだ。あー、……敵はエリューション・ゴーレム。5体。識別名『足切り地蔵』。……まぁ、察しの通り道端に居る地蔵が革醒した奴だ。
 本来6体並んで祀られる事が非常に多い物らしい。その辺は俺の専門外なんでまぁ、あのパンダ……外にでも聞け」
 少女とも少年とも呼び難い『後輩』らしい存在を示しながら。伊月は手元の紙を一枚捲る。
「仕事は単純明快。行ってぶん殴って倒すだけだ。データとしては……非常に高い耐久と物理防御を持ってるな。逆に、神秘系の攻撃は通りやすい印象があった。
 攻撃面も同じだろうな。完全なパワーファイターって奴だ。小細工は仕掛けて来ねえっつーかそんな頭も無いだろうから、まぁ派手にやればいい」
 淡々と告げられる事実。目で確認してきたような発言にリベリスタが首を捻れば、ばつが悪そうにその視線が逸らされる。
「……既に一体は討伐済みだ。残りが居る事はそこで確認した。今回は俺は説明だけ、って念を押されたんでまぁ、なんだ、……後は頼む」
 独断行動はきっちりと締め上げられたらしい。素直に資料をリベリスタへと預けた伊月は、そのまま元の椅子へと座り直す。
「あー、無事の帰りを……じゃねえな、お前らなら心配しなくても問題ねえだろ。まぁ気を付けて行って来い」
 それじゃあ。そんな言葉と共にその目は気恥ずかしげに魔導書へと落ちる。ひらひら、と振られた手がリベリスタを見送っていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:麻子  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月23日(月)22:28
すぺしゃるさんくすはらるとさんです。ありがとうございます。あさこです。
純戦。格好良い描写とかそんなのにこだわる系第二弾。
以下詳細。

●成功条件
エリューションの全滅

●場所
霧に満たされた空地です。
戦闘を阻害するものは有りません。視界影響も無し。時間帯は夕方。
時間経過による状況変化もとくに無し。
要するに力一杯やり合って貰って問題ありません。

●エリューション・ゴーレム『足切り地蔵』×5
フェーズ2。完全な前衛型パワーファイター。檀陀地蔵以外の地蔵が揃っていますが、此処の能力に差は有りません。
耐久、物理攻撃・防御、WPに優れますがそれ以外は並。逆に神秘防御は低め。
特殊な技は持たないようですが、一撃はとても重いようです。

以上です。
細かい事はいいんだよ!ぶん殴れ!の精神で。
関連のお話として、らるとさんの雑記SSが存在しますが、ご覧頂かなくとも差し支えありません。
もしご縁ありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
スターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
デュランダル
富永・喜平(BNE000939)
プロアデプト
プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)
レイザータクト
アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)
スターサジタリー
衣通姫・霧音(BNE004298)
ミステラン
ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)


 戦場の空気が、水分を失っていくのを感じた。痛みを伴う渇き。『それ』は予兆に過ぎない。散る燐光は冴え冴えと。殺意と憎悪。けれど気高さは忘れない。ただ、己が望む道程を切り拓く為に。銀と黒に掛かる白い、指。
「試し撃ちにも丁度いい。耐久には自身があるんだろう? 精々耐えてみせろ、エリューション」
 大口径が吐き出した弾丸は二つ。轟く銃声に、重なるのは鳴弦。天へと駆け抜けた矢と共に舞い踊る橙と碧。翅在る友人を紅の瞳が見上げる。高められた魔力が齎す熱の気配を感じる。敵を見据えた。地蔵。人の守護者。
「なら、ひとを襲ったりしてはいけないよ。……シシィ! ステラ!」
 『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)の声に応えるように。降り注いだ火炎弾が戦場を焼き払った直後。続け様に地を、敵を舐める神の業火。月の燐光が火の粉と共に舞い上がる。『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は互い違いの瞳を細めて薄くその口元を笑みの形に歪めた。
 まさしく、圧倒的と言う言葉が相応しい。異なる術を極めたものが齎すそれはけれど等しく神秘の焔として敵を焼き払うのだ。未だ燻る火焔の狭間。此方に向く敵を見据えて肩を竦めた。
「手を抜くのは苦手でね、まあ俺が居合わせた己の運の悪さを恨め」
 まだ近代化を知らぬ人々の信仰はまさしく本物であったのだろう。今よりもずっと強かったであろう祈りと感謝を捧げられ続けたそれにとって、容易く自分を忘れた今は呪わしい時代なのだろうか。
 逡巡ならいくらでも出来る、けれどそれでも、櫻霞の手は一切鈍らない。元が何であろうとも。それが敵性エリューションであるのならば櫻霞にとっては打ち砕くべき対象だ。最早珍しくも無い討伐依頼なのだから、その通り倒すまで。
 忘れるな。敵への憎悪を。殺意を。されど冷静さも忘れてはならない。何処までも冷静に敵を撃ち抜け。銃を握り直す彼の横、周囲を舞う妖精に微笑んで、ヘンリエッタは目の前に鎮座する怨霊を見詰めた。一つ足りないそれは、恐らくこの話を伝えた彼と名前の出ていた存在が打倒したのだろう。
 何故だろうか。無茶と言うべきその行動の理由を、ヘンリエッタは知らない。けれど、胸を満たすのは無事への安堵だけでは無かった。今まで抱いていたのは、間違いなく憧憬だった。今でもそれに変わりはない。けれど。
「――親近感なのかな」
 何でも知っていて何でもできる。そんな高い理想のような相手だったけれど、彼にもそういう面があって。近付いたようで、少し嬉しくて。嗚呼、そう。嬉しいのだ。彼に近付いた事が。彼が、自分を頼ってくれているのだと言う事が。弓を握る。期待には勿論応えよう
「……うん、頑張ろう」
 囁くような、けれど決意に満ちた声。そんな彼女の横をすり抜けて、前に立ったのは、紅。ふわりと流れる黒の狭間から覗く鮮やかな蒼。たおやかな少女の手が、携えた日本刀の柄にかかる。静寂は、一瞬。刹那に駆け抜けた剣戟が、此方に迫り来る地蔵を削り取る。きらきら、と。透ける光の花弁が収められた刃の周囲を舞う。
 鉄壁であろうと何であろうと、衣通姫・霧音(BNE004298)にとっては大した問題では無かった。携えた刃は今は自分のもの。全てを断ち切る風の刃を形作るのはこの意思そのものだ。
 時に固く。時に柔軟に。自分は自分だと己の胸に抱いたそれが折れないのならば、敵の堅さなど問題にさえならない。
「全部膾切りにしてあげるわ、さ、私が相手よ」
 何処からでもかかってくればいい。少女のかんばせには不釣り合いなほどに、その唇に乗る笑みは大人びて。けれどふと、思い出した様に細められる。馬鹿よね、と囁く様に呼ばれた名前。方舟に身を置くようになった彼の行いを霧音も知らないわけではない。そして、それを赦さない人間だっている事も知っている。
 けれど、それでも。方舟のリベリスタとして戦う姿は揺るがぬ事実で。霧音はそれを認めていた。少しだけ微笑む表情は少女のそれで。嗚呼、月並みな言葉なのかもしれないけれど。大切なのは今と、未来なのだ。過去は変えられなくても先は変わる。
「まったく、戻ったら言ってやりましょう」
 次からは皆を誘いなさい、と。ヘンリエッタと視線を交えてもう一度僅かに笑う。そんな彼女達の目前へと、迫り来る巨躯。何もかもを跳ね飛ばす様に飛び込んで来たそれの前に、割り込んだのは同じく巨躯。隻腕が振り抜いたのは打倒すべき敵に死を与える断頭台の刃。叩き付けられんとしていた頭部と磨き上げられた無骨な刃がぶつかり跳ね返る。
 痛みは頭に響くようで。けれどこそばゆいと低く笑った。この程度なんだと言うのか。やられたらやり返しやり返されるのが戦争だ。痛みに呻く前にやり返せ。伸びた背筋と、地面へと叩き付けられる断罪の鈍色。非常に宜しい。単純明快で実に好ましい。さあさあ戦争の始まりだ。ならば始まりを告げねばなるまい。すう、と深く吸い込まれる呼気。
「我が声を刃を供物として捧げヨウ。ソシテ忘れぬようにソノ首を頂こうか」
 振り上げられる刃。兵士であり刃であり、そしてこの戦場の指揮者たる力を備えた『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)の声と共に、味方に伝えられるのは今此処に最も相応しい『攻撃体勢』。
 今此処に防御等必要ないのだ。一瞬でも攻勢を。一刻でも攻勢を。ただ只管に撃って切って殴って血反吐を吐こうと足を止めるな刃を下ろすな喰らいついてでもすべての敵を打倒せよ。兵卒の舞台衣装とも呼ぶべきコートを翻した彼の鋼鉄の足が地面を踏みしめる。
「いざ勝利の為に――ураааа!」
 さあ今日もこの手にこの仲間達に大胆不敵痛快素敵超常識的且つ超衝撃的に勝利を齎そう!


 攻撃は最大の防御、とはまさに今のリベリスタ達に相応しい言葉であったのだろう。各々がもつ最大火力を叩き付けるリベリスタの攻勢は圧倒的だった。手加減など必要ない。そもそもするような機会さえ巡ってこないだろう。
 褪せた頁と貼り付けられた色のコントラスト。風も無いのに激しく捲れていくそれを見詰める瞳の中で揺らめく魔力の気配。瞬きを幾度か。ゆらり、と溶ける意識が仲間にリンクする。深呼吸を一つ。一気に増幅した神秘が表紙に刻まれた髑髏を淡く白く煌めかせて。そのまま、伝達。高火力の弱点とも言うべき魔力の消耗を一気に解消する術を振るった『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)は興味深げに地蔵を眺める。
 日本文化には詳しくないが、どうやらルールが存在するらしい。面白いものだ、なんて思いながらその瞳が流れた先に立つのは、世界で一番信用している彼。そっと、己の頭に乗るキャスケットを押さえた。何時振りだろうか。彼とこうして肩を並べるのは。胸を過るのは喜びであり、同時に不安でもあった。目を離したらすぐにでも怪我をしそうで。僅かに彷徨った瞳はけれど、再び確りと彼を見詰めた。
「……あまり一人で全部やろうとすんなよ? あたしも仲間もいんだぜ」
「嗚呼分かった、愛しのフェザーの言う事なら。きっちり守らせて頂くとするよ」
 ぶつかり合う力が奏でる高音。叩き付けられた巨躯を跳ね飛ばす程の強固さを持つそれは重く剛くありふれた、傷だらけの鉄塊。随分と手に馴染んだ散弾銃を返しとばかりに突きつけて、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は少女を振り返り笑う。
 けれど。前へと向き直った彼の面差しに浮かぶのは苛立ちとも、悔しさとも悲しみともつかぬ色だった。激情が胸の内で蠢くのだ。都合がいい時だけ頼って祈って。嗚呼人間等そんなものなのだ。それを、彼らは知っていた筈なのに。けれどそれでもやはり割り切れはしなかったのだろうか。
「こいよ! 何もかもが憎いなら全部吐きだせ!!」
 胸を叩く。この突進が、荒れ狂う憎悪が全て積もり積もった想いであると言うのならばすべて受け止めよう。そしてその上で、果たして見せよう。細工も打算も必要ない。ただこの全力をぶつけて打ち倒すのみ。己の周囲で荒れ狂う闘気を、激情を、魔力を膂力を全て手元に。巨銃が軋みを上げる。それでも真っ直ぐに構えて。
「俺は、御前達の過去を嘘にはしない!! だから此処で……ぶっ壊す!!!」
 耳を劈く轟音。跳ね上がる鈍色が撃ち出したのは全てを捻り潰し叩き伏せても未だ足りぬと言わんばかりの、暴力。嗚呼けれどそれはきっと慈悲でもあるのだろう。無念を。憎悪を。終端の全てを打ち砕き禍根を残さぬための。そして。
 かつては誰かに望まれ、誰かのしあわせを担ったであろう『正義の味方』の最期が、誰かの憎悪の対象となるだなんて救われない話を赦さないための。
「――嗚呼」
 ただの、自己満足だ。けれどそれでも譲れない。やれるのだからやってやる。打ち据え、撃ち当て、討ち破り、全ての果てに墓標となるこれと共に。やれなくなるまで自己満足だろうとやってやるのだ。
 跳ね飛んだ地蔵が崩れて倒れる。残りは4体。しかし、リベリスタに迫る危険が無い訳ではない。堅牢な身体は同時に超重武器とも言うべき破壊力を持っている。なりふり構わず飛び込んでくる地蔵が、アンドレイへと迫る。一撃をかわして、けれど、生まれた死角に飛び込む影。
「――左よ、気を付けて!」
 声と共に。戦場を駆け抜けた剣圧は死を告げる鎌の如く。誰かが狙われ続ける事の無いよう注意を払い続けた霧音だからこそ放てた一撃が迫り来る脅威の頭を撃ち抜く。冷静沈着狙いを外さず。けれど、胸を過るのは憐憫にも似た感情だった。
 地蔵菩薩は本来ならばありがたいものだ。それは誰もが知っている事でありながら、けれど、時代と共にその意識は薄れていくのだ。それは仕方のないことかもしれなかった。けれど、もし少しでも覚えている人間が居たのならばまた違ったのだろうか。
「……まあ、そうなってしまった以上、同情も何も無く倒すしか無いのだけれど」
 それが恐らくは何よりの慈悲であるのだから。音も無く目にも止まらず、収められた刃が微かに布と擦れる音。そして、続け様。重たいものが凄まじい勢いで空気を裂く音がした。
「シャァアアアラクセェエエエエ!」
 弱点を穿て。全膂力でぶった切ればどんな敵だろうと問題などない。指揮官と呼ぶには余りに愚直でけれど向こう見ずと言うには余りに冷静。これこそ脳筋の正しき姿。戦闘指揮者は勝利の為ならばどんな手段だろうと選び取るのだろう。
 何故ならそれが戦争であるのだから! 大胆不敵そして鮮やか。無理な体勢から捻って叩き込まれた刃が堅い石造りの首を跳ね飛ばす。
「嗚呼素晴らしい。イツダッテ小生に負けはないのでゴザイマス」
 もしも負ける日が来るとするならばそれはきっと自分が死ぬ日だ。負けたくない負けられないだから死なない。生きたいのならば勝て。それが兵隊と言うものであり。それが勝負と言うものであるのだから。アンドレイ・ポポフキンにとって人生とは常に、闘争であるのだろう。


 喜平の手に収まるそれは、銃である。そして同時に、正しい意味で武器であった。持主の意に沿い、敵を打倒する為だけの道具であるという点において。
 軽々と持ち上げられたそれが立てる風切音は唸り声にも似て。負った傷の深さ故に滴り落ちて行く血ごと巻き上げる程の風圧は不可視の刃に変わり集まる敵の体を削り取り、新たに一体地へと伏せさせる。
「悪いね、通してやれないんだ」
 確りと前線を支える彼を勿論敵は見逃さない。襲い掛かる猛威。深まっていく傷と、灼熱する痛みに眩暈がする。薄れかけた意識はけれど、偶然にも運命の女神の気まぐれが引き戻す。燃え飛ぶはずで会った運命の気配は眸の奥で揺らめくのみで。ふらつく足に力が戻り、半ば反射的に差し出した鉄塊へと飛び込む敵の影が――
「こっち向けよ、あたしも居るぜ?」
 ぴん、と指先から伸びる常人には見えぬ気糸。じろり、と此方を向いた地蔵の存在しない憎悪の視線を感じながら、それを真っ直ぐ見詰め返したプレインフェザーは僅かに安堵の吐息を漏らす。そして、僅かにその目を眇めた。
 気の毒に思わない訳では無かった。けれど、誰も来ないなら困ってもいないのだと、広い心で許してはくれないだろうかなんて考えて、けれどそれが出来なかったからこうなってしまったのかと肩を竦めた。
「お礼も謝罪も、代わりにやってやるよ。……ただ、生憎、お供え物忘れちまってさ、代わりに――」
 さっきの様に魂込めた一撃で応えるってのはどう? なんて。携えた魔本を掲げた。挑発めいたそれが地蔵に届くのかは知れない。けれど、己を危険に晒そうと出来る術があるのなら。傷の深い背を見遣って、腹を括った。これが自分にもできる事だ。
 可愛らしい少女のように、悲鳴を上げて心配してやるなんて似合わないから。ならば、この手を背に添える事で支えよう。それがきっと一番自分らしいのだろうから。そんな彼女の横で、ひり、と。もう幾度目かの灼熱の気配が蠢く。
「数が居ようが諸共焼き払うまでだ。……次こそ醒めない眠りをくれてやる」
 憐憫も、同情も、この手を止めはしない。櫻霞のコートがはためく。こんな仕事はもう何度だってこなしているのだ。数え切れない程の返り血を浴びて罪過と怨嗟に塗れて黒に染まり続けたのだから。今更この程度が何だと言うのか。
 夜の狩人は羽搏きを止めない。広がるコートさえ舐める神焔が地面へと叩き付けられる。水分が蒸発していく。またごろり、と崩れ落ちる音。残りも弱り切っているのを見て取りながら、ヘンリエッタが選んだのは癒しの術だった。
 妖精たちが舞い踊る。傷の深い喜平を確りと癒して。ヘンリエッタはただじっと、地蔵を見詰めた。信仰。救うのも、導くのも。決して一方的なものではないとヘンリエッタは思う。叶えてあげているのではなくて。叶える事で覚える感情がきっとあると、思うのだ。
 救われたのなら。道を誤らなかったのなら。それが己の力によるのなら。きっと嬉しいと思うのではないだろうか。そんな気持ちを、彼らはずっと貰っていたのではないだろうか。
「……誰にも罪は無いよ。ひとにも、キミにも」
 霧音の刃が敵を撃ち抜く。彼女はやはり躊躇わない。そうするべきだ、と己の心が言うのだ。憐れむ事が彼らへの救いにはならないと。だから、自分は迷わない。それは誰でも無い自分の意志だから。霧音と言う個人が選んだのだから。
 ひらひらと舞う光の桜は隠されたままの少女の瞳を思わせる様に、淡く紅く染まっていた。その残滓を払った先で、また地蔵が崩れ落ちる。あと一人。其れももう時間の問題だろう。アンドレイが断頭台の刃を振り下ろす。全力でありながらも的確に鋭利に敵の弱点のみを抉り取るそれに、軋みを上げる身体が震えていた。僅かに、表情を歪める。
 誰も悪くない。彼らもこんな事をしたかったわけでは無いのだろうと分かっていて。誰も誰かを傷付けようとしたわけでは無くて。時代の流れは誰かが止められるものでは無くて。仕方が無い事で、ある筈で。
「――でも、」
 忘れられてしまうのは、寂しいね。小さく紡がれる声。鳴弦が響く。妖精が舞って、寄り集まる絶対零度。凍て付いたそれを撃ち抜いたのは、喜平の物理砲弾だった。澄んだ音を立てて崩れゆくそれを、見つめて。
「ずっと、寂しかったんだろうね」
 もうおやすみ、と。囁いた少女の声が晴れゆく霧と共に掻き消えた。


 ゆらゆらと、紫煙が立ち上る。吸い込んだ煙の味は随分と馴染んだもので。櫻霞の視線が僅かに、残骸となった地蔵へと向けられる。同じ事がまた起きない事を願うばかりだ、と思いと共に吐き出した煙の向こうでは、確りと手を合わせるヘンリエッタの姿が見える。
 作法は知らないけれど。見よう見まねで作る祈りの形。紅の瞳が緩々と開かれて、そっと、忘れないよ、と囁くような声を添える。
「生きてるか? 我が愛しき命知らずさん」
 地蔵達の目前。立ち尽くす喜平の背に、プレインフェザーはそっと手を添える。互いに無事でよかった。そんな感情を込めて見上げれば、喜平の手はキャスケットごと頭を撫でて。そのまま、そっと合わせられる。
 彼らへの祈りだ。けれど、それは彼自身の為ではない。ただ、安らかな眠りを。幸福で穏やかな終わりを。伏せた目が僅かに開かれる。忘れられようと、きっとこんな形になろうと誰かの祈りを聞き届けていたのだろうから。
 最期くらい、彼ら自身の幸福を願われたっていいだろう。そんな彼らと同じ様に、地蔵へと祈ろうとしたアンドレイはけれど、少しだけ困ったようにその眉を寄せる。合掌をするのが良い、と聞いたけれど。刃を置いた隻手を、じっと見つめて。
「ウゥム……コレデお許し下さいな」
 ぴ、と。己の額に添える手の形は兵卒の礼。自分は彼らを忘れる事はないだろう。兵隊として、手を合わせた相手の事はどれ程時が流れようと記憶に留めているものだから。だから、如何か安心して。
「Спокойной ночи、来世でまた戦いマセウ」
 霧の晴れた空間で、苔生した石像が静かにその声を聞いていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。

書くのがすごくすごく楽しかったです。
皆様が楽しんで頂ければ幸いです。

ご参加有難う御座いました。
またご縁ありましたらどうぞ宜しくお願い致します。