●旅立ったのは ごろんごろん。 転がっていく、濃淡の違う緑の縞々。 ごろんごろん。 未だに夏の名残を残す強い陽射しで熱せられたアスファルトの上を、ボール状の体躯を存分に活用して転がっていく。 決して下り坂という訳ではないのだが、どういう訳かその緑色は重力を無視して、ごく緩やかな坂道を登っていた。 ごろんごろん。 ――蝉も既に鳴き止んだ季節。 “それ”が存在するには、些か時期の外れた頃だ。 ●瑣末な原因 「売れ時が過ぎても畑に残されたままの西瓜って、何を考えてるんだろうね」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の話し出しは唐突だ。 脈絡のない言葉に疑問符を飛ばすリベリスタ達を一様に眺めて、イヴは無言でモニターに映像を流す。 そこに映し出されたのはまさしく彼女の言葉通り、緑の縞が鮮やかなまん丸とした西瓜だった。 「一見ただの西瓜だけど、こう見えても立派なエリューション。食べてもらうどころか収穫されもせずに畑の隅っこに放置されて、その怒りで革醒したみたいね。……革醒してから怒ったのか、怒った所為で革醒したのか、実際はどっちか分からないけど」 いつも通り、実に淡々とした口調だ。 だが問題の内容はといえば、 「折角熟れたのに食べてもらえないのが相当ショックだったのかな」 しみじみと頷いたイヴの言葉に、リベリスタ達は言葉もない。 「革醒して間もない所為か、大して強いとはいえないから、討伐は難しくないと思う」 だから、よろしく。 ――実に端的、かつ明快な言葉でもって、イヴはそう告げたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月14日(土)22:16 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 展開された結界に、部外者の入り込む余地はない。 季節を外れた所為か、すっかり長閑と呼んでも差し支えないような穏やかな秋の砂浜目掛け、ごろりごろりと転がっていく緑色の物体が一つ。 「夏といえばやっぱりスイカですね。今年の夏は色々ありましたが、スイカ割りはやっていないので楽しみです」 「スイカのエリューションかぁ。今年はバタバタしてたからあんまりスイカ食べてなかったっけ」 転がり行く西瓜を前に、危機感には欠けたのんびりとした口調で告げたのは『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)と『黒刃』中山 真咲(BNE004687)だ。 その言葉に同調するように、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)も深く頷く。 「実は私も今年はスイカ割れていないのだ。折角だからな、思い切り行かせて貰おうか!」 「I、私はエリューションとの意思疎通実験を行います。植物の思考法を学べる機会と判断します」 「……うーむ。確かに意思疎通を試みるという点では良い状況かもしれないな……」 『アンデファインド』街野・イド(BNE003880)の言葉に対し、ベルカは僅かに首を傾げるようにして呟いた。 「すいか……ねぇ」 勝手に転がり回る巨大西瓜の光景に、何とも言えず呟いた『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の反応は至極真っ当だろうが、一方で木の棒を抱えた『もそもぞ』荒苦那・まお(BNE003202)が、持参のクーラーボックスに触れて言う。 「まおは目隠し用のバンダナとマイお塩も持ってきました」 「ボクもいろいろと食材を持ってきたのだ」 同じくクーラーボックスを肩に下げ、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)もまた笑顔で頷いた。 「ロッテも楽しそうなのだ」 「これでレッドシャワーから目を守るのです!」 雷音が視線を移ろわせた先で、曰く“渚のおねいさん風”サングラスをしっかりと装着した『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)が、元気良く答えてサングラスの蔓を軽く押さえる。 「ちょっと小寒いですが、水着も着たのです! スイカ割り装備完璧ですぅ!」 「……うん、楽しそうなのだ」 残暑が厳しい日も多いとはいえ、季節は秋。 しかし敢えて何も突っ込まずに、雷音は優しく頷いていた。 そんな、少女達の何とも和やかな会話の一方で、包囲網は広がっていく。 ごろごろ転がっていく巨大西瓜を中心に散ったリベリスタ達がエリューションを遠巻きにして取り囲み、徐々にその距離を詰めていく。 やがていざ砂浜へ、と緑色のエリューションが飛び込まんとしたところで、その行く手を阻むようにロッテが立ち塞がった。 「大玉スイカ! 貴様を皆で美味しく頂くのですぅ」 しっかり夏に舞い戻ったかのように、水着姿も華やかなロッテの言葉に巨大西瓜がびたっと転がるのを止めた。 「なので、おとなしくスイカ割りされるのです!」 襲い掛かって来る前に堂々と宣言され、西瓜がブルブルっと身体を震わせた。 だが、その反応は敵視や警戒、敵に対する攻撃の前準備というよりも――。 「嬉しそう?」 「うん、そう見えた。言葉が分かるのかな?」 シュスタイナが疑問符を浮かべ、真咲が同意しながら首を捻る。 「そういえば、植物には話しかけると良いと聞きますよね」 「少なくとも、敵意がなくなったのは確かなようなのだ」 壱和がはたと思い出したように口にすれば、植物共感を備えた雷音が頷いて断言する。 「食べ応えがありそうなのですぅ」 緑色の硬い表皮をぺちぺちと叩かれても、攻撃するどころか抵抗すらもしないエリューションに、同じように近付いた真咲も西瓜の表面を突付く。 「食べられたくないからじゃなくて、食べられたくて怒ってるんだね。なんだかヘンなようなヘンじゃないような、不思議な感じ」 「ええ……それにしても近くで見ると大きいわよね、これ」 間近で西瓜を見下ろしたシュスタイナが、僅かに首を傾けるる。 「貴方みたいな大きなスイカ、とても割り甲斐がありそうね。私、スイカ割りってやった事ないんだけれど、ちょっと割らせてくれない?」 「こーやって、こーして、こーするのです」 スイカ割り用に持参した木の棒を振り回してジェスチャーを交えるまおの姿もどこでどうして見ているのやら、西瓜の身体が再びブルブルと震える。 「ふむ、やっぱり大丈夫そうなのだ」 意見を求めるようなシュスタイナの視線を受けて、やはり敵意がないことを確かめた雷音が改めて頷く。 「これが植物の思考法でしょうか」 「いえ、今回は例外中の例外といった気もしますが……」 リーディングでエリューションの思考を探りながらのイドの言葉に、壱和は漠然と首を傾げた。一方思考を覗かれている西瓜の方はまるで気にしていない様子で、天敵である筈のリベリスタ達に囲まれながら心なしか楽しげに身体を揺らしている。 「そうと決まったら、まずは砂浜に移動するとしよう!」 「バケツは持ってきたけど、この大きさだとちょっと入らないかな」 ベルカの一声を合図にして、真咲は手にしたバケツと西瓜のエリューションを見比べる。 「氷水は無理でも、氷だけで違うと思いますよ。海の家は……」 「抜かりありません。使用の許可は受けています」 「後でしっかり片付けておかないとなのだ」 壱和の言葉にイドが即答し、雷音もまた頷いて意見を沿える。 「目隠しとバットでグルグルして、わたしの鉄球でパカーンと真っ二つなのです!」 「西瓜割りは鉄球でも良いのですか……!」 意気揚々と宣言するロッテにまおが虚を衝かれたかのように返し。 そうして交わされる会話の中、緑の食材、改め巨大エリューションをお供に従えて、舞台は浜辺へと移されたのだった。 ● 「一番、ロッテ・バックハウス! 行くのですすぅ!」 目隠しをして元気良く名乗りを上げたロッテが、地面に立てた木の棒を軸にその場でぐるぐると回転する。 場所は砂浜、季節は夏を過ぎようと、陽射しの眩しい白い海辺だ。 海の家から程近い場所にブルーシートを広げ、その上では巨大な西瓜が実に楽しげにゆらゆらと揺れている。 西瓜割りを行う方よりも、割られる西瓜の方が楽しげな西瓜割りというのも中々珍しい光景だ。 「チェスト~!」 回転を終えていざ、武器を構えたロッテが声を上げる。しかし、 「あっ、ふらふらするのですぅ! スイカどこ~!?」 些か回転が多過ぎたのか、一歩目でふらついたロッテの手の中で、握られた武器が覚束なく左右にぶれる。 「もうちょっと右だよー」 「少々行き過ぎです」 他に客のいない貸し切り状態の砂浜で、少女達の声が実に華やかだ。 「あら、結構曖昧な説明なのね」 普段の言動と違い、西瓜の位置を直接的に教える言葉を選ばないイドにシュスタイナが声をかける。 「まっすぐ誘導すると楽しくないとベルカより聞きました」 「そうですね。すぐに分からない方が楽しそうだとまおは思いました」 視線の向かう先は、ブルーシートの上の西瓜とロッテだ。 振り下ろされた鉄球は確かに当たってはいるのだが、如何せん硬さの所為か、それとも回転のし過ぎで力が入らなかったのか、西瓜に大きなダメージは見られない。 入れ替わりに立ち上がったシュスタイナがロッテと交替して、ブルーシートの上に上がる。 「思いっきり叩くわよ? 覚悟してね」 西瓜を前にして宣言したシュスタイナだったが、その言葉が終わるよりも早く微かに眉を顰めた。 「ああでも、本望なんだっけ。叩かれて喜ぶってよく分からないわね」 「シュスカさん……その言い方だとなんだかこう……」 実に真っ当な意見だったが、まるで子供に見せられない類の表現に、壱和が苦笑交じりで声をかける。 「いいわ。ようは叩けば良いだけだもの」 肩を竦めるように頷いたシュスタイナを、他ならぬ西瓜自身が一番応援するかのように、丸い身体が揺れていた。 ――そして漸く、一巡目が終わる頃。攻撃に、改め西瓜割りに参加する者もしない者も居たが、まさしく漸くとしか言い様がない。 何故なら所々で割れたり欠けたりしているものの、未だに辛うじて原形を残す西瓜は相変わらず揺れていた。とはいえ心なしか、その動きも少しばかり最初に比べて遅くなっているようにも見える。 「うーむ……思ったより硬かったか」 オフェンサードクトリンでサポートしつつも、思ったほどすんなりとは割れてくれない西瓜を眺めてベルカが唸る。 「あの西瓜がエリューションであるなら、果肉や果汁は所謂血肉に当たるのでしょうか」 「そこはそのまま果肉と果汁でいいと思うのですぅ!」 「ですがただの植物というよりも、自立的に活動している点から見ても生物に分類した方が……」 「スイカはスイカなのです! 自由に動いていてもスイカですぅ」 生々しい表現を聞き付けたロッテが咄嗟に口を挟んだが、納得しかねるのかイドが疑問に意見を重ねる。 なにやら血腥ささえ感じてきそうな表現に断言でもって返す会話の一方で、一巡目の最後に真咲がブルーシートの上に立ち上がった。 「さてと、ボクで最後だね!」 「これで駄目なら二順目に突入ね……」 夏本番からは大きく外れているとはいえ、晴天下に降り注ぐ陽光が砂浜に照り返して、じっとしていると流石に暑い。 ぼやくように呟いたシュスタイナにしかし、 「じゃあボクはこの斧ですぱーんとやってみるね!」 『斧!?』 余りにも堂々とした武器のチョイスに、複数の声が重なった。気の所為かどうか、動きの鈍かった西瓜エリューションまでもがビクッと飛び跳ねたようにも見える。 「西瓜割りで斧……斬新です」 「いや、そもそも斧は受け入れてくれ――あ、いいのか」 深く頷いたまおに対して些か慌てた様子で雷音が口にしかけたものの、西瓜の様子にそのまま口を閉ざしてしまった。 「確かにこうなってくると、いっそすっぱり断ち割った方がお互いの為かも知れないな」 「スイカさんもだいぶ疲れ果てて見えますしね……」 首を捻るベルカの言葉に、微笑とも苦笑とも付かない表情を浮かべて壱和が頷いた。視線の先で揺れ動く西瓜はといえば、やはり当初の元気も勢いもないまま、まるでさっさとしてくれとでも言わんばかりに身体を左右に振っていた。 ● 結局の所がどうなったかといえば、西瓜はそれまでの棒や鉄球といった攻撃手段の流れを一切気にしない斧という凶器により、綺麗にスパッと叩き切られた。 真っ二つにされたことで本懐を遂げたのかどうかは知る由もないが、少なくとも先ほどまでのように揺れ動くこともなくなって、今は大人しく海の家へと運び込まれている。 「何を作りましょうか。フルーツポンチも美味しそうですが」 「スイカの為にも、ちょ~おいしい料理にしてやるのですぅ! 覚悟するのですぅ!」 最早反応を失ったエリューションに言い聞かせるとも挑戦するとも付かない口調で告げながら、ロッテはなまじ元が巨大なだけに一部切り身状態にして冷やしていた西瓜を冷蔵庫から取り出した。 レシピを思案するように首を傾げた壱和へと近付いて、シュスタイナが声をかける。 「フルーツポンチ、一緒に作る?」 「シュスカさん。ええ、良いですね。そうしましょうか」 感情を反映したように尻尾をゆらゆらと揺らす壱和の背後では、それぞれに始まった調理の準備に加わりながらまおも声を弾ませる。 「フルーツポンチって、まおは初めて聞きました」 「いろんな果物や白玉団子を入れて、炭酸水に浸したものなのだ」 持参したクーラーボックスを開けて、中から凍らせた果物や白玉の団子を取り出しながら説明した雷音が、微笑を浮かべて少しばかり首を傾けた。 「この大きさだから、やることが沢山あるのだ。手伝ってくれるか?」 「はい、まおも作ってみたいと思いました」 「わたしはヨーグルトと混ぜて、スイカラッシーを作るのですぅ!」 心なしか目を輝かせて頷くまおの傍らでは、ロッテが店の備品だろうミキサーを取り出している。 中身をボーラーで刳り貫かれ、または素直に赤い果肉を切り離されて、西瓜が徐々に解体されていく。 「もし余るようなら、少し持って帰りたいわね。ここじゃ作れないけれど、家に帰ったらスイカシャーベットとか作れそうだし」 「凍らせるには時間が掛かりますからね。でも、持ち帰るのは大丈夫だと思いますよ? 流石に一度で食べ切るのは無理でしょうから」 果肉を食べやすく切り分けながら零すシュスタイナに、壱和が頷いて返した。 一方積み重なっていく皮の部分を手に取ったイドは、緑色の硬い表皮を削って白い果肉を刻んでいく。 「何を作るの?」 「皆の調理法は甘い物が多いので、私は塩を用いて皮部分を浅漬けにします」 興味津々といった様子で横から手元を覗き込んできた真咲に淡々と説明しながら、イドの手元には西瓜の皮の薄切りが山を作っていた。 「ある程度保存が効き、可食部も多いため沢山作る事が出来るでしょう」 「そっか。ボクも手伝うね! これを細かく切ればいい?」 「……はい。よろしくお願いします」 色の違う双眸がぱちりと瞬いて真咲を見た。けれど一瞬の沈黙を挟んだだけで、無表情のまま頷く。 その反応に笑顔を見せた真咲は、備品の包丁とまな板を用意すると、イドの真似をして西瓜の皮を刻み始めた。 ● テーブルに並べられた料理の中でもっとも目を引くのは、やはり半身の皮をそのまま器に使ったフルーツポンチだろうか。 丸く刳り貫かれた西瓜や持ち寄られた果物の果肉をたっぷりと沈めて、しっかりと満たされた炭酸水がぱちぱちと弾ける様子は何とも目に涼しげだ。 花の形に成形された白玉団子や少々固めの杏仁豆腐の色合いも、西瓜や果物の上で華やかに飾りつけられている。 とはいえ無論それだけではなく、カットされただけのものから刻まれた皮の浅漬けやコールスロー、ヨーグルトを絡めたものや西瓜のラッシーなど、並ぶメニューは実に様々だ。 「そのままモグモグでもみずみずしいですけど、お塩をかけたら甘くなるって不思議だなってまおは思いました」 いただきます、という合掌の後、ただ切っただけの西瓜へと塩を振りながらまおが意見を紡ぐ。 「うーん、お塩かけたら甘さが増して、良い感じですぅ。むむ、そちらのスイカ料理も美味しそうなのです……わたしにも一口!」 「ええどうぞ。……大きなスイカだから大変だけれど、しっかり食べることも大切よね」 ロッテへと器を回しながら、シュスタイナが西瓜料理の数々に視線を巡らせた。 「ストローで――どうにかなる量じゃなさそうですし、一応取り分けましょうか」 テーブルの上を覆いかねない西瓜製の器には既に人数分のストローが挿してあったものの、苦笑した壱和が器にフルーツポンチの果物や白玉をよそう。 それを特に目を輝かせて見ていたまおの前に差し出して、にこりと微笑みかけた。 「わたしの力作ラッシーも、はい! お味はどうでしょう……?」 負けじとばかりにロッテもグラスに注いだラッシーを仲間達に薦めながら、此方は少しばかり不安げだ。 「あるいは無理に甘くしないでも良いかもしれないな。皮を持って帰って漬け物にでもするかな?」 熟れ過ぎて甘みが薄れている赤い果肉を頬張りながら、ベルカもまた首を捻っている。 「皮はまだ残っているのか?」 「うん、多過ぎたからまだまだ残ってるよ」 スプーンで果肉から種を穿り出しながら、真咲が頷いた。その手元を見たベルカが軽く目を瞬かせる。 「随分手間のかかる食べ方をするな」 「え、もっとガブっていったほうがいい?」 躊躇いがちにスプーンを置いた真咲が、自分でも気にはなっていたのか、小さな両手で直接果肉を摘み上げた。 「夏はボクにとっていい思い出ばかりではないのだけど……」 会話や笑声の弾ける中に紛れ込ませるように呟いた雷音は、そこから先の言葉を飲み込んだ。 抱いた想いに蓋をして、言葉にする代わりに並ぶ顔をそれぞれに眺め、顔を綻ばせて西瓜の料理に手を伸ばす。 「――I、私には味の良し悪しを判断するデータがありません。食べる事は生存の為であり、その甘さに重きを置きません」 賑わうテーブルを前に、イドの口調は独り言のように静かなものだ。 「よってスイカにとってそれが望みであり命令であるのなら、私はスイカを食べます」 「望みではあるだろうが……誰も命令はしないぞ、イド」 微かな苦笑交じりに笑って答えるベルカの言葉に、イドは色の違う双眸を静かに瞬かせた。 集うリベリスタ達の顔を眺めるように、確かめるように一つ一つを視界に留める。 「リベリスタ達を観察し、また一つ学習を行いました。依頼と食事は、楽しめる時は楽しむものなのですね」 まさしくその言葉通り、万事が万事、楽しいことばかりが依頼ではない。 それはイドも理解していることであり、ゆえにベルカは何も言わない。――しかし。 「……『楽しむ』という感情を、未だ理解していませんが。努力します」 妹分として愛でる少女の起伏に乏しい口調に、ベルカはやはり何も答えなかった。 答える代わりにただ笑って、西瓜を口に運んでいた。 夏は過ぎれど秋深まるには未だ遠く、その狭間で季節は揺れる。 季節外れの名残を伴い、風は涼しげに軒先に下がるままの風鈴を揺らした。 やがて訪れる新たな時の巡りへと、今日もまた、明日もまた――世界は声もなく巡り往く。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|