● 見上げた空は蒼く遠く、しかしあの日の空とは違う色で。 静かに起こした身体。開けた視界の先は、此れもあの日の風景とは違っていて。 確かに一度絶命した身体。胸に開いた大穴は、それが夢で無い事を示して居たが、自分は確かに生きていた。 「死して尚、戦乱の世から逃げる事を許されんか……」 参ったな、と額を抑えてみるが、その口元は綻び笑みが漏れていた。 “最期まであいつらしかった”等と云う奴が居る。最期の先も有るじゃないか、等と零しながら首を鳴らして立ち上がる。此れも運命ならば、楽しまない手は無い。 佇む背に掛かる御館様、と呼ぶ声。響く騒がしい足音に、『彼ら』も招かれたのだと悟る。 「――風丸や、幾許か御前には厳しい世かも知れんなぁ」 自分が行き着く世だ、ろくな場所ではあるまい、と駆け寄る男児の頭をがしがしと撫でて。御館様と共に在れば構いませぬ、等と答えを返す額をこつり。緩く叩いて戯れて遣る。その意気やよし。 雨や雨。続いて紡いだ言葉に静かに寄る影。ふわりと衣を揺らして、凛とした女性の姿がそこに在った。では参りましょう、と告げる声に風丸は元気よく駆け出して。 「桑原でだに燃しき雷槍を以て、この世の兵と戯れん」 踏み出す足、疼く食指に再び綻ぶ口元。彼の掌の中で、大気は音を立てて燻っていた。 ● 「……名前や異名、愛称には言霊が宿るとされていて、昔は言霊への願いを込めて呼んだものだ、とされています」 はらり、資料の項を捲りながら『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタ達に説明口調で語り始める。言霊として願いを込める呼び名とは、良く耳にするなんたら丸、なんたら千代、等がそれに当たるのだという。 そして時折、言霊は運命を引き寄せる。一般的には『太』の漢字が健康を呼ぶように、神秘界隈では引き寄せた運命は時折、“このような輩”を呼ぶ。 「今回皆様に対応して頂くのは、出現したエリューション、タイプフォースの討伐です。 数は三体、フェーズは2で、相互に干渉し合うタイプの能力を持ち合わせている様なので、注意して下さい」 ととん、と叩く基盤。映像は切り替わり三体のエリューションの姿を表示する。ポインタでそれぞれを示しながら、和泉は続けて。 「右から鳴神、雨雫、風巻の三体となります。それぞれ雷、氷結、風系統を操る様です」 説得による戦闘回避は不可能だという。無理もない、向こうは基より戦場を求めてやってきたのだ。 「尚、彼らは好戦的で、正々堂々とした戦を好む様です」 此方は『万華鏡』で出現地点まで絞り込んである。奇襲を掛けようと思えば造作もないが……。 それでは、と資料を閉じブリーフィングを終える和泉。 部屋を出ていくリベリスタ達を見送ってから、そっと。 ――戦場の亡霊達に、どうか安らかな鎮魂歌を。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ぐれん | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月23日(月)22:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 見上げる空は、どんよりと灰の色。 「……やれやれ、未練がましいものですね」 現場へ向かうリベリスタの列。その最後尾をゆったりと歩く『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)は、手に乗る小鳥にそう呟いた。 はふり、憂鬱に零した溜め息の意は取り敢えず飲み込んでから、仕事仕事。と込める神秘。練り上げた力を小鳥へと注げば、自分で自分を見詰める、なんて滑稽な感覚が訪れて。 それでは、と空へ放つ翼は確りと、その先で真っ黒に空を染める入道雲を捉えていた。 ● 「兵どもが、夢の跡、か」 『万華鏡』で観測された地点に到着。その時を待つリベリスタ達の中、一人『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)は暗い空を見上げていた。 闘いに満たされた日々。想像は出来ないけど、自分は少なくとも認める事も、見逃す事も出来ない。 今日も自分がすることは一つ。皆を支え護り、この豪傑共の夢を止めてあげる事だと、自身を奮い立たせるのだった。 そんな内、がしゃりがしゃりと鉄の擦れる重い足音が近付いて、突如動きを止めて。 「――さぞ、名のある御仁と御見受けする」 迫る目標を視認すれば、深々と被った三度笠を傾け『彼岸の華』阿羅守 蓮(BNE003207)は凛と尋ねた。 何奴、と前に出る小さな体躯を押し遣って、鳴神がほうと覗かせるのは豪傑の奥深き眸。 「御身の名と道を恥じぬならば、一合御相手頂こう」 蓮はとん、と地面を鋼の杖で叩くと一礼。今は“ふりーたー”なれど、武門を継ぎ行く誇りを失ったりはしていない。戦を求めるならば、礼と恥を解さねばなるまい。 「……御首、狩り取らる覚悟が有らば名乗りを挙げよ」 闘争の了承を示す言葉等無く、鳴神が掴むは大槍。蓮と同様にずん、と大地を衝いた。 ならば、と各々に得物を抜いて対峙する両軍。過ぎる沈黙を破り名乗りを挙げたのは、『抜けば玉散る氷の刃』五郎 入道 正宗(BNE001087)。 背に負った大戦斧を肩に担いで、片手を懐に入れたその体勢の儘。刻まれた目元の傷は戦士の証。睨みを効かせて言い放つ。 「我が名は五郎入道正宗、源の氏に連なりし戦人也」 「……神道夢想流棒術、阿羅守蓮」 続く様に、蓮は地に突いた金剛杖をくるりと我が身の周りを凪いでから構え、改めて戦闘態勢を。 「「いざ、参る!!」」 響く鬨の声と共に、同時に二人は突貫する。轟、と敵方の大将もそれに合わせる様に地を蹴って。 重なる火線、その先手を取ったのは敵方の女の将。 「鳴神が右腕、雨雫。水流を以て凪ぎ去て頂きましょう」 携えた薙刀を掲げれば、天より氷の槍が振り穿つ。が、此方の前衛の勢いは止まらない。蓮が放つは魔氷の一撃。迸る冷気に大雨の氷をも纏わせて。 「相生が一、水生木」 身の前、右手で結んだ印。言葉と共に叩き込めば、防ぐ大槍をも氷付けんと神秘が襲う。更に雄々、と挙がる気功の声。正宗の輝く一閃が重ねて叩き込まれた。 一挙に二撃の傷を刻むが、敵方は数々の戦場を抜けた御大将。流石の体躯はもろともせず反撃を放つ。 棒術に限らず五行の者か、と新鮮な刺激に笑みと共に振るうは、舞う風さえ凪ぐ大槍。 どう、と鈍い打撃音で二人を捉え吹き飛ばすが、鳴神の肉体を揺らす衝撃が走る。む、と唸り目を凝らせば、リベリスタ達を見知らぬ灯が覆う。 「――貴方方の時代には居ませんでしたか。魑魅魍魎と、それを討つ者」 声の主は、『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)。彼女が具現化した『護る』誓いは、要塞の如き加護となって皆を守っていたのだ。 我を魑魅魍魎と侮るか、と笑む敵方に引き抜いた槍を差し向けて、鳴神に向ける挑戦状か。凛と張った強い目線で言い放つ。 「今世の私達の力、古の豪傑に何処まで通じるか――確かめさせて頂きます」 「弄り物にも成らん戦場に成らば、消し炭にせしむと心せよ――!!」 既に始まった闘争。さぁて、と左右に首を鳴らしたのは『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)だった。集団行動は苦手でね、なんて零す彼は初手を我が身の強化に用いたのだ。 「……二つ名にしちゃあ、大層詠ったもんじゃねェか」 戦闘準備完了、とばかりにくるん、と両手の中で双の刃を煌めかせ呟けば、一挙に加速。鳴神へと一直線に駆ける、が。 「お館様を悪く云う首は、刈り取らせて貰うよっ!!」 射線を遮る様に突貫し距離を詰めてきたのは、風巻の鎌鼬の様な斬撃。不意打ちにも似た攻撃であったが、彼の身に眠るは獣の因子。待ってたぜェ、と繰り出す刃で弾いて見せて、対峙する。 左右の刃を逆手に持って。下半身に力を溜め蹴り出す準備を。 「俺様ァ、アッシュ・ザ・ライトニング! 俺の前で雷帝様を語らせる訳にゃ、いかねェよなァ!!」 いくぜェ、との掛け声で地を蹴り再び距離を詰めると、互いに二刀。流れる様な斬撃で火花を散らすのだった。 場所は代わって中衛の位置。鳴神を封じる戦線が整ったのを確認し、準備に勤しむ姿が二つ。 その片方、『黙示録』の刀身が成す黒の大太刀を“血振るう様に”ひとつ振り、構えるのは『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)。 ふう、と漏らす集中の吐息の節々に、抑えきれぬ殺気が漏れ出でる。――普通の私が出来るのは、普通に切り込み普通に抉る。真っ向勝負のブチ殺し。ド正面からの勝負を望む彼女の殺気は、徐々にその鋭さを増していた。 その隣、同様に漏らす吐息は、猛る血潮を抑うる為か。『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)は既にギアを高めた身体を燻らせ、その刻を待っていた。 「戦人の逝く、『先の世』ですか」 興味深いねぇ、と皮肉めいて鳴く唇を、ぺろりと一つ湿らせる。こうして戦場に居る限り、自分も何れ誘われる事になるとでも云うのか。勘弁蒙りたいねと、口元に幾らか不気味な笑みを浮かべて。 「そんなもの、僕は認めませんよ」 ロウが囁く様に零した瞬間、二人の剣士は一挙に地を蹴り行動を開始した。鳴神と直接対峙する前衛へ向け突貫、声を掛けて合図を送る。 失礼しますよ、の声に響く“行けい!”との正宗の返事。がっしりとした彼の背を踏み台に、鳴神の妨害を飛び越え向こう側へ。ひゅんと風を切って飛ぶ二人は揃ってその身を一捻りし着地。一挙に後衛に座する雨雫の眼前まで距離を詰める。 「二尺四寸、大般若! 再びの死出の旅、御案内申し上げる!!」 ロウが声と共にすらりと引き抜いたのは、数々の神秘を“斬り除け”奉りし刃。居合の要領で振り抜けば、雨雫の肩口を逆袈裟に裂いて。 「ちぃ、何と神妙な……!」 「此の世での貴方達も、甚だ神妙の類ですけど……ねッ!」 人間からは想像出来ない動きに、苦言と共に身を引く雨雫の華奢な体躯。逃がしませんよ、と生佐目が体現するは漆黒の霧。毒蛇が獲物に巻き付く様に捉えれば、“箱逝き娘”と成す数々の呪いが雨雫の視界を暗く深く侵していった。 ● それから手番を幾周か。幾らかの上下はあれど、戦況は戦場を大きく三つに分けての各個撃破、というリベリスタの立てた作戦通りに転がっていた。 「差し詰め風巻童子ッつーとこか。餓鬼の割にャ良い動きすンじゃねェの」 有利な戦場。その一端を孤独に担う男――アッシュは何処か楽し気に告げる。 幾度なく交わした刃。相互に似たタイプの戦闘スタイルを取る者同士の一騎打ち。燃えない男がこの世に存在するだろうか。 べっ、と口を満たす鉄の味を地に吐いて、にィと上げた口元。次の瞬間に三度重なる火線。 「――だがよォ、所詮は餓鬼の飯事。雷速に比べりゃ百年遅ェよ」 彼が振るうはアル・シャンパーニュ。無数の刺突を繰り出しすとん、と着地。一瞬遅れて血飛沫の華が咲いて。綺麗爽快苛烈に決まったぜ、なんて過ぎり掛ける、が。 「ちィ、茶々は未だ止まねェか……」 天より再度降り注ぐのは、氷の大雨だった。一騎打ちに加えて毎度訪れる蓄積する被害。腕を掲げ防ぐが、身体は限界が近いことが解っていて。 「慈愛よ、あれ」 そんな彼に届いたのは、小夜香の体現する癒しの神の愛。定点と全体に切り替わる癒しは、確かに戦場を支えていた。 「多勢に無勢、豪傑の最期としては良く有る話でしょう?」 最後衛の位置、小夜香と並んで言葉と共に諭が生み出すのは、砲台となりし彼の式神。 ずらりと並べた砲塔の列は、宛ら軍艦の艦砲射撃を思わせる。すらりと伸ばす手。立て続けに轟、と響く爆撃音は、確かに豪傑の体力を奪っていった。 「――然し、雑兵に伸される程易き戦場、興の欠片も有るまい?」 ぐらり、揺れ掛ける身体を立て直し。言葉と共に鳴神が掲げるは大槍。一挙に空気は張り詰め、大気を焦がす程の神秘が練り上げられていく。 有利に転がる戦場。その中で作戦に文字通り大穴を開けかねない唯一の懸念事項は、『雷槍』に違い無かった。 その瞬間、リベリスタ達は陣形をより強固に替える。前衛三人は其の儘に、諭の式神は前進。前衛に接近する程度の位置へと移動を始めた。 「……己が雷撃、容易く撃たせる事こそできんのう、鳴神よ」 「受けて頂きますね、私達の全力ッ!!」 言葉と共に正宗とユーディスが振るうは輝く刃。ずん、とユーディスが袈裟懸けに叩けば、続いて正宗は逆袈裟に振り上げてもう一撃。 振り抜いた刃から散るは割った雨粒か、裂いた血飛沫か。確かに深々と傷を生むも、未だその命には届かない。 「次、来るよ!」 響いた声、神秘の集中具合と時間を図り、小夜香は『雷』の来訪を叫ぶ。 諭の式神は、隣の正宗を庇って―― 所は変わって、剣士の一騎打ち。互いに傷を刻む戦いは、届く支援の効果もあってアッシュの優勢で進んでいた。睨み合う両者、幾度なく交わした刃も、終焉が見えて。 未だ懲りねェか、と漏らし再び詰める距離。しかし今度は明確に動きは違って。風巻はするりと斬撃を躱すと、一言。 「一寸悪いね、雷帝さんッ!」 ぐ、と風巻が踏み込む足。アッシュの肩口を踏み台にして跳躍、一挙に雨雫の下へと全力移動をして見せて。 「雨姉様は、殺らせない……よぉ!!」 その儘一閃。逆巻く風の如き足技で、雨雫を封殺するロウと生佐目を後方へと吹き飛ばす。その方向は、鳴神の御膝元。 ちィ、と弾く舌打ち。回避運動にと地を蹴るが、ぬかるむ地面に捕られて滑る両者の脚は、彼らを先へ運ぶことは無かった。 「 ――穿て、雷槍 」 しまった、と誰かが吐く台詞は、響く轟音と青白く染まる閃光の前に掻き消えた。 桑原をも燃す雷槍。それは、神秘が成す火力の形容であった。 先程まで優勢であった戦場の戦局は、一挙に傾く。敵方の将の眼前に、多数の味方が残されている――ロウ、生佐目、式神に庇われなかった蓮の三人は瀕死の状態だった。 「然し、私たちの仕事は……」 「遂行させて頂きます、ねぇ……っ!!」 辺りの木々が消し炭になる程の大火力。燻る大気の中で、ロウと生佐目はゆらりと身体を起こすと迷いなく突貫、雨雫に両者の大太刀を叩き込んで、確かにその命を抉り取る。 勢い余ってずしゃり、地に倒れ込む程に疲弊した身体は、その背に迫る殺気に反応する事が出来なかった。風丸、と呼ばれた少年は、確かにその目に怒りを宿して。 「その命、刈り取るよ」 背に立つ僅かな気配とその言葉を最後に、ロウの意識は深く深く、闇へと飲まれていった。 「……くっ、癒しよ、あれ」 一挙に増える被害。小夜香が届ける癒しの風は再び確かにリベリスタ達を立ち上がらせるも、当方の被害は尋常ではなかった。 「雨が止まば、雷はその音を強めんとす」 戦場の中心。全てを焼いた元凶は再び、その右腕に雷を宿して。ゆらり、揺れる身体は怒りに染まるか。空気を焦がす稲妻は、明確に覇気を高めていた。 時間にして数十秒。ありったけの火力を注ぎ、ありったけの治癒を注いで、それでもその時は呆気なく訪れる。 「 天穿て、雷槍 」 再び、戦場を襲う雷槍。先程よりも大きな轟雷が文字通り天を割り大地を焦がす――が。 「南妙法蓮華経……相克が一、金克木」 巻き上がる砂埃。その内側で金剛杖は稲妻を纏う。迷いなく差し出した運命は、折れる膝を確かに支えて。 「金剛で以って、雷槍を殺す!」 一閃。 「うわぁああ、お館様ァ……お館、様ァ!!」 ぐらり、倒れる精悍な体躯。その姿に叫ぶ風巻。対峙するリベリスタの姿は視界から消えて。 「――戦場で戦を忘れる。それがお前の限界、だったみてェだな」 「すいません、倒れて、頂きましょう」 二閃。 ● 「手前ェ、中々疾かったぜ」 ようやく止んだ闘争の音に、御仕舞いだな、とアッシュが漏らす溜め息。それは安堵の為か、幾らか心残りがある為か。身体を伏す少年を前に得物をすちゃりと仕舞い、隣にどかりと腰を降ろして。 「御兄さん、アンタがいつか立ち止ったらその時は……」 突如掛けられる言葉。“ あァ? ”と首を傾げた儘振り返れば、風巻の視線と合う。終わってみれば落ち着いたのか。そこに憎しみも悲しみもなく、短い時間とはいえ剣を交わした仲。 「その時は僕がその喉首、追い付いて食い破って遣るから」 おお怖ェ、と笑い混じりに遠くへ投げる視線。乱世の時代。如何せ餓鬼同士の人間関係なんざなかっただろーな、なんて浮かんでしまう。孤高の俺が、なんて浮かぶ情に自嘲の笑みを漏らすも、悪くは無いと思えて。馴れ合うのは趣味じゃねェが、等と諸々考えてから。 「ほら、手前ェは先に地獄で、せいぜい脚を磨いて待ってろ」 こつり合わせた小さな拳。へへ、と風巻が浮かべた笑みは何処か嬉しそうで。その瞬間ぶわり、風が吹いて。目を開けた瞬間には、風巻の姿は雨雫と共に掻き消えていた。 ずしり、深々と地に伏した鳴神の肉体。風巻と雨風が消えるのを見送って、一つ深いため息をついた鳴神の様子に闘争の意志は無いと判断したのか。蓮はその隣へと歩を進めて。 「――貴方の道は終わる。けれど、無躾な願いをさせて頂けないだろうか」 突然の言葉。ほう、と鳴神は怠そうに視線のみを蓮へと向けて言葉の先を待つ。 「その大槍、お譲り願えまいか」 鳴神とは、雷を宿す神。祟る神ではなく、戦神だ、と。 「貴方がそれを由とするならば、共に屍山血河の衆生を駆けよう」 一瞬の沈黙。余りに予想外な問いかけだったのか、地を震わす程に豪快に笑む鳴神。その姿は、何処か戦場から離れた男の姿を垣間見えたものか。 「そうは云うが五行僧、此の槍は夢幻。この通り、只の屑鉄よ」 笑みが落ち着いたのか、話を再開する男であったが、我等が曖昧な存在と同様也、と告げる言葉と共に、彼が手にした槍はぐじゃり、と土とも何とも云えぬ存在と消える。 「然し……既に汝等の其の身、我が大槍は刻まれて居ろう」 突如伸ばす指先。蓮の胸元をぴたりと指して鳴神は云う。 抱いて駆けるなら賭けろ、我が覇道を汚さぬ様に、負けぬ様に、と。 「それから汝等、我が雷槍を受け切った事、誇るが良いぞ」 結局、一度も倒れなかったなと、鳴神は褒める様にユーディスに視線をふと向けて。 「えぇ、貴方方こそ」 手練れでした、と言い掛けて止める言葉。無粋に返すよりは、退屈でなかったことを願う迄。すると、読んだように。 「……嗚呼、満足也。興に溢れ……久方振りに、血が沸いたわ」 その時が近いのだろうか、幾らか眸を細めながら、男は言う。胸の傷を触れ辿り、今日の戦を夢想する様に零して。 せめてもの手向けになれば、とユーディスが付け加えれば小夜香が、幾らか迷ってから。 「次の世は、どうか争いなく生きれますように」 「嗚呼、退屈で枯れぬ為らば、乱の無い世も悪くはない……か」 同じ世を巡るのは少し飽いた、との言葉を最後に、鳴神の肉体は遠く唸る雷鳴と共に姿を消した。 「――おや、生きていましたか」 帰り道の途中、諭の肩口にぱたりと止まる一匹の小鳥の姿があった。戦闘中の強力な閃光。耐え兼ねて解除したファミリアであったが、何とか三途の河を共に渡る羽目にはならなかったようで。 もう大丈夫ですよ、と放せば、小鳥が飛び去るその先。先程までの曇天が嘘の様に、真紅の夕陽が輝いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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