● 海坊主とは、海に現れる妖怪である。 突然荒れ出した海から浮かび出る、真っ黒な巨人の頭。その髪も鼻も口も無い顔には、ぎょろりとした目だけが見開かれ―― 「柄杓を貸せえ」「柄杓を貸せえ……」 その声に従って柄杓を渡してしまうと、乗っていた船に水を汲み入れられ、船は海に沈められてしまうと言う。 「……今回は、これを倒してきて欲しい」 昔ばなしの紙芝居から、ぴょこりと顔を覗かせたのは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。 アーク本部、ブリーフィングルーム。 集まったリベリスタに、改めてモニターで詳しい情報が示される。 「E・フォース『海坊主』が出現するのは、某県にある離島の沖合い。水も青く澄んだ、知る人ぞ知る綺麗な海みたいだよ」 E・フォースは全部で5体。 その強さに際立った所がある訳では無いが、浅瀬には現れないため、倒すためには岸から遠く離れた場所まで向かう必要があるらしい。不安定な足場、あるいは水中での戦いになるだろうから注意して欲しいと、イヴは告げる。 「船っぽいものはアークで手配しておくから、心配いらない。一般人の船に被害が出てしまう前に……皆、お願い」 “っぽいもの”という箇所に若干の不安を感じつつも……リベリスタは席を立ち、青い海を目指す。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:鳥栖 京子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月14日(土)22:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 初秋の高く澄み渡った空の下。純白の優雅なクルーザーが、波飛沫を上げ、海を滑るように進んでいく。 その気品に満ちた船体の前方、甲板から緩く波打つ黒髪を潮風に靡かせて、『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)がうっとりと呟いた。 「きらめく海、ゴージャスな船! すてき……!」 「運転手付きクルーザーだなんて、ア―クも太っ腹だね!」 風になぶられる髪を押さえ、『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)もまた、見渡す限り青い空と海が続く景色に目を細める。 E・フォース退治のため今回リベリスタに用意されたのは、なんと超豪華クルーザー。船舶免許を持つアーク職員が操縦するその船は、バーカウンター付きキッチンや白い革張りのソファーが置かれた船室も備え、まさにラグジュアリーでデラックス、経費の無駄遣い万歳というかんじであった。 「海に怪談は付き物だけど、普通の人が遭遇したらきっと困っちゃうのね~ん」 纏うは布面積の極めて少ないえっちな水着。蠱惑的な肉体をデッキチェアの上に惜しげも無く晒し、ジュース片手に『怪力乱神』霧島・神那(BNE000009)が言う。 「そこで私たちの出番って訳ですよ。後でバカンスするためにも!」 「ええ、はりきっていきましょうっ。船を壊さないように気をつけなくちゃね!」 ニニギアもぐっと拳を握った。 「よっ、と」 後方の広いチーク張りの甲板に、『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)は両腕に抱えた浮き輪をどさりと降ろす。船に緊急用として備え付けられている浮き輪やボートを集め、戦闘時に足場として活用しようというのがリベリスタたちの作戦だ。 「どこかに行かないよう……繋いで、おく」 華奢な体を黒いフリルのビキニに包み、黙々と浮き輪にロープを通していくのは『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)。『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)は、ボートに二つの錨を取り付けていた。 「ね、何してるの?」 側で屈んだ『アークのお荷物』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)が小首を傾げて聞けば、 「これは双錨と言って、釣り船なんかを固定するやり方ですね」 光介は眼鏡の弦を押し上げ、にっこりと説明する。 「気休めかもしれませんが、流されにくくなる筈ですから」 そのとき、風の声を聴くように静かに佇んでいた『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)が、伏せていた瞳をす、と上げた。 「嫌な感じのする風です……どうやら、現れるようですね」 ● ファウナの言葉に、仲間たちは周囲の海を見回す。 急に強まった風が彼らの服を激しくはためかせ、穏やかだった海に波が立つ。 超人的な五感を持つ天乃が指差した先、渦巻く海からぬっ、と顔を出す、小島のように巨大な漆黒の頭部。その周囲から人間大の頭も4つ、ぼこぼこと浮かび上がる。今回倒すべきE・フォース、海坊主だ。 「少ない海上戦闘、の機会……存分に、楽しませてもらおう」 いつもの無表情ながらも何処か楽しげに、天乃は浮き輪を海へ投げ込んだ。 光介とフツが二人がかりで全てのボートを降ろし、ニニギアはメイと共に自らの力を高めながら、操縦士に合図を送る。 「危険ですから、安全なところに隠れていてくださいね!」 「妖怪……古くから言い伝えのある存在なのですね。伝承の実体化の一例、ですか」 ファウナが仲間の背に小さな翼を授けると、瑞樹は身軽にボートの上へと飛び移った。 「妖怪退治のはじまりだね!」 瑞樹の足下から伸びる大蛇の影が、戦いを待ちきれないかの如く、ざわざわと蠢き出す。 「来たぜ来たぜぇ、海上大決戦、キターーッ!」 船を取り囲むようにじわじわと迫り来るE・フォースの、影が凝ったような姿。小麦色の素肌に救命胴衣を装着した神那は、大戦斧を構えると――自身の肉体に掛けていた制限を解除し、暴れ狂う闘気を纏う。 「妖怪退治、と洒落込もう」 荒れた海も、彼女にとっては普段と何ら変わらぬ闘乱の場でしかない。天乃は青い硝子の棘のように波立つ海水の上を駆けると、気糸をE・フォースの周囲へ転移させた。 「さあ、踊って……くれる?」 白い目玉だけが見開かれた海坊主の巨大な頭部を、残酷なまでに縛り付ける幾重もの気糸。天乃がそのまま動けなくなった海坊主の抑えに付くが――ぼこ、ぼこ、と海面から頭を覗かせ、波を掻き分けながら急接近した海小坊主が、勢いのままに彼女の小柄な体をはじき飛ばした。 「……っ」 海面を滑るように吹き飛ばされる天乃。他の3体も続けざまに、船上のリベリスタに向かって迸る海水を吹き出す。船上で低空飛行していたファウナ・光介・ニニギアの3人が、水に呑まれ欄干や船橋に叩きつけられた。 海水を滴らせる新緑の色の髪を指で払いながら、ファウナは天から降り注ぐ火炎弾を召喚する。激しく打ち据える炎の弾丸に、今度は海小坊主たちが大きく波飛沫を上げながら吹き飛ばされ……蒸発した海水がしゅうしゅうと渦巻く。 「海坊主との海水浴は……あまり楽しくなさそうですね」 既に甲板も自分たちも水浸し。魔方陣から撃ち出した魔力の矢で小坊主を貫き、銀の柔らかな巻き毛を掻き上げて光介が思わず苦笑すれば、 「はは、こうでなくっちゃ面白くないよな」 フツは翼を駆って海上へと飛び出すと、印を結び特殊な結界を展開した。結界に動きを縛られ鈍化したE・フォースたちを、ニニギアの翼が起こした魔力の風が切り刻み、メイの魔力の矢が狙い撃つ。 毒と氷に侵され、黒い頭部から瘴気のようなものを噴き出す小坊主の1体に、蛇の影を纏った気糸が鋭く伸び、撃ち抜いた。気糸を放ったのは瑞樹。4人の前衛に対し敵は5体、抑えの手が回らない分を引き付けておく心算だ。 「ウワッハハハ、行くぜぇーー!」 神那が翼で浮遊しながら、ボートや浮き輪を蹴って進む。小坊主1体の正面へ強引に飛び込むと、振りかぶった巨大な斧を叩きつけた。 「チェストーーー!!」 派手に立ちのぼる水柱。状態異常から回復した小坊主も反撃とばかりに、神那の足首を掴み、海の中へと引きずり込む。再び、水柱。 「あぶぶぶ、水飲んじゃってヤバあぶぶぶ……」 海上決戦はまだ始まったばかりだ。 ● 「わっ……!」 小坊主が吹き出した海水の奔流に、瑞樹が呑まれ、押し流される。乱れた陣形の間隙を縫って間合いを詰めた別の小坊主が、今度はメイを押し流す。 「やーんっ」 ロープで繋がれた浮き輪につかまり、びしょ濡れの銀髪をぷるぷると振る彼女が見たのは――仲間全員を呑み込まんとする大波。 「み゛ゃーー!?」 視界の全てを青黒い水が覆い、浮き輪やボートは、上へ下へと大きく揺らぐ。 「……動く、な」 激しく波打つ水面を颯爽と駆け、天乃が海坊主を再び無数の気糸で縛り上げると、 「術式、迷える羊の博愛!」 光介の具現化させた聖なる息吹が、仲間たちの傷とショック状態を優しく癒やした。 戦闘開始から数分。未だに敵の全てが健在ではあるが――殆どのターンで先手を取っていた天乃が海坊主の行動をほぼ阻害していたこと、そして何より癒し手である神聖術士が3人も存在することから、リベリスタの消耗は少ない。 フツの極縛陣がE・フォースの速度を強烈なまでに奪えば、瑞樹は驚異的なバランス感覚で海から上がりボートに立つと、濡れたまっすぐな長い髪を振り払い独りごちる。 「海坊主かあ。穴の開いた柄杓でも渡せばいいのかな?」 そのまま飛行しながら前衛に戻り、獲物に喰らい付く蛇の如き気糸で小坊主を刺し貫いた。 「海坊主ってより舟幽霊だよね」 翼で飛び上がって船上に戻ったメイが、戯れに持参した底抜け柄杓を海に投げ入れる。すると海坊主たちが、呻き声とも唸り声ともつかぬ音を発しながら……頭部と同じ真っ黒な腕を、乞うように海面から伸ばし始めた。 「柄杓を貸せ……でしたか? そこまで再現するのであれば、E・フォースも大したものだったのですが」 船に向かって伸ばされる、影のような腕、腕、腕、腕。今にも船へ向かって寄り集まってきそうな海坊主たちを、ファウナは雨のように降り注ぐ火炎弾で吹き飛ばした。 「何にせよ、倒すのみ――です」 続けて繰り出された神那の攻撃を小坊主は回避したが、ニニギアの羽ばたきが起こす風の渦に呑まれ、遂に1体が黒い靄のように掻き消える。 「小さい方は、だいぶ弱ってきているみたいね!」 だが、E・フォースも黙って倒されるままでは居なかった。前衛で抑えについているフツと神那に小坊主2体が体当たりを食らわせ、吹き飛ばす。周囲に激しい水飛沫が上がる中、瑞樹を護るように膨らむ大蛇の影。もう1体が放った水鉄砲を、瑞樹はひらりとかわす。 「同じ手は食わないよ!」 呪縛から解き放たれた海坊主が動き出すよりも、天乃が早かった。執拗に獲物を絡め取る蜘蛛の糸のように、巻きつく気糸が海坊主の攻撃を許さない。 ニニギアが力強く羽ばたき、毒と氷と出血に命を削られゆくE・フォースたちに――瑞樹は青い瞳を細め、微笑んだ。 「柄杓の代わりにこれをプレゼント。遠慮せずに受け取って!」 突如空に浮かぶ、呪力で生み出された赤い月。不吉な月光に照らされた赤い海の中、防御力を無視する呪殺の効果で、小坊主1体が靄となって消える。 「……ご覚悟を!」 光介の術印から放たれた魔力の矢の強烈な一撃に、続けてもう1体も消し飛んだ。 「行っけー、ホームランだーー!」 神那がエネルギーを込めた大戦斧を振りかぶって最後の小坊主をはじき飛ばせば、 「こっちも行くぜ!」 フツもまた緋色の長槍で強かに打ち据え、はじき飛ばされてきた小坊主を更に遠くまで吹き飛ばす。白く水柱が上がり、4体目の小坊主も消滅した。 残された海坊主の体、周囲の海水が、氷精の可憐な舞いに誘われるかのように凍りついていく。ファウナのエル・フリーズだ。 「あと1体……このまま、集中攻撃して倒してしまいましょうか」 ● 巨大な海坊主の頭部に、船上から飛来した魔力の矢が突き刺さる。 水を蹴り、天乃が敵の漆黒の体に死の爆弾を植え付けた。 「……爆ぜろ」 弱点を抉る衝撃が、海坊主の体内で炸裂する。 高い耐久力を誇るエリューションも、8対1となり、行動を阻害する攻撃が続く今となっては、ただ防御する他ない状況に追い込まれていた。 メイのマジックアローに続き、ニニギアが海坊主の体に聖なる呪言を刻みつける。浄化の炎に海面から覗いた頭部を包まれ、攻撃力と防御力とを奪われてゆくE・フォースを、フツの魔槍深緋が貫き、凍りつかせた上で吹き飛ばす。 「そろそろ、終わりにしましょう」 ファウナがフィアキィに合図を送れば、エリューションは舞い踊る氷精が創り上げた氷の檻に封じられる。その氷結した巨体の上に飛び乗って、神那は気合いを込めた斧の一撃を見舞った。 幾つもの状態異常に侵され、身動きも取れぬ海坊主を、呪われた赤い月が照らし出す。月が告げるは真の不吉。海に出現する怪異の伝承から生まれたE・フォースは、為す術も無く呪殺され――とうとう、黒い瘴気と化して消え去ったのだった。 海坊主たちが全て消え去ると、海はすぐに元の穏やかさを取り戻した。降り注ぐ日差しを反射させ、波がきらきらと踊る。爽やかに海を走る風に、ファウナも翡翠色の双眸を細めた。 リベリスタたちが配置に気を配りながら戦ったお陰で、デッキチェアなどの一部の備品が流された他はクルーザーに損傷も無く、操縦士も無事であった。 改めて翼の加護をかけ直し、全員総掛かりで海に放った浮き輪やボートを回収する。作業が一段落すると、光介は持参した清酒を海に流し、そっと鎮めの祈りを捧げた。 「柄杓はあげられませんけど、ね」 「……クルージング、でもしたい」 天乃がぽつりと呟けば、一も二もなく賛成する仲間たち。 「折角こんな船に乗れたんだもの、満喫したいよね! 帰りくらいは楽しまなきゃ!」 瞳を輝かせるのは瑞樹。 「楽しむなら今でしょ、楽しまないのは損でしょ!!」 神那も子供のようにはしゃいだ笑顔で同意した。 「私、ドレスもちゃっかり持ってきているの。船上パーティしたいのです!」 ニニギアの言葉に、料理上手の光介が困ったように笑いながら、船内のキッチンの様子を見に向かう。 澄み切った青い空に、日は高い。優雅な船旅を楽しむ時間は、まだまだたっぷりとありそうだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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