●食欲<好奇心 すすきののビル街を飛ぶ影が一つ。ニッカの屋上高くから、低く滑空するように風に乗る。 風に乗り、空を駆け、ビルの隙間へと潜り込む。その先には敵となる対象が一人。タバコを吸いダンボールへと腰掛けた若い男だ。彼はやってきたそれを見て目を見開き、口からポロリとタバコを落とす。 「な、なんだてめぇは!?」 それは黒かった。それは大きな影だった。それは素早く動き、敵を一瞬で組み伏せた。組み伏せ、横に開く大きな口を開き、怪しく光る牙を突き立てる。 捕食だ。 牙を突き立てられた男は力を失い抵抗をやめ、ドロリと、柔らかく崩れ落ちた。影は男へ丁寧に組みつき、皮の中、溶けた内側をすすっていく。そしてやがて、その男には飽きたかのようにくるりと振り向いた。 ガタリと、路地の入り口で音がなる。コンビニにでも行ってきたのだろう、驚き固まったその人物の足元には缶コーヒーが転がっていた。友人が襲われている。一体、何者に? それは多くの細い脚を持ち、赤い瞳をランランと輝かせた、背の低い、不気味な、異形だった。毛むくじゃらで、節ばった体を持ち、その姿には思わず嫌悪感が先走る。 逃げよう。そう思った。よくわかんねぇけどやべぇ。そして一瞬遅れて身体が反応を始める。動く、振り返る、前にかがむ、踏み出す、缶コーヒーを蹴り飛ばす、身体が泳ぐ、足がもつれそうになる、けれど踏み込む、駆ける、駆ける、駆ける、駆ける! けれど、無残。 その路地裏から飛び出すことが出来たのは、彼の断末魔だけだった。 ●だからお願い リベリスタたちは『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)から渡された資料を眺めていた。 「最近の札幌付近で蜘蛛のエリューションビーストによる変死事件が起こっているわ」 ペラリと資料をめくると、事件が起こっただろう箇所に印がついた地図が出てきた。 「事件の起こった場所は札幌中心部のビル街、被害にあったのは最初は野良犬、それから人の子供に大人の女性、最近は男性と変わっていってるわ。このままだと、手が付けられなくなりそうね」 詳しいことは書いてあるとおりに。そういった彼女は、あなた達に強い意志を込めた視線を向けた。 「だからお願い、あなた達で駆除をして」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:明智散 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月21日(土)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「結局、同じような場所と時間に落ち着いたな」 この不況の煽りを食らってか、何年か前に潰れてしまったらしい飲食店の中、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は改めて地図を確認して、ひとりごちた。 襲撃が発生した地点と時刻、それから被害者を考えれば、ある程度の共通項が見えてくる。 屋外で人通りが少なく路面電車から遠く飲食店から遠いところ……日本でも有数の歓楽街であるススキノでは、この条件では絞り切るのは難しい。故に、過去に事件が起こったところという、無難な答えに落ち着いた。 まぁ、問題はない。 「発展途上の狡猾な殺戮者か、それとも弱者を狙うハイエナ野郎か。前者ならいいんだがな」 背中に背負った斧に手を掛ける。じっとりと手に馴染む。東京とは違う、札幌の乾いた空気は暴れまわるにはちょうどいいだろう。 「さて、敵さんは来てくれるかね」 影継目の前の壁の向こう、ちょうど囮役の仲間が歩いてるだろうあたりへ、いつでも飛び出していけるように気を高めていた。 「あれが例の看板か。この街の王様なんかな?」 『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)が頭上のニッカの看板を仰ぐ。 「ちょっと違う気もするけど、似たようなもんかな」 赤いコーンを並べ、『この先通行禁止』の札を設置していた『ストレンジ』八文字・スケキヨ(BNE001515)が気のない返事をする。 「蜘蛛くんに早く逢いたいなぁ、仲良く出来るといいけれど」 「おぅ、楽しい夜になるといいな!」 コヨーテとスケキヨはそれぞれに笑みを交わし合う。異なったニュアンスを含めあった笑い顔を。 「じゃ、隠れてようぜ」 そう言ってコヨーテから差し出されたブルーシートを見て、スケキヨは首を傾げる。 「これは……?」 「落ちてたんだよ。これなら隠れれんだろ」 確かに自分の細長い体躯では隠れることも難しかろうと物陰にでも佇んでいるつもりであったが、 「ありがとう。なら一緒に隠れていようか」 囮役の二人の後方で、『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は息を潜めていた。 「一体どこに居るんだろうな」 蜘蛛の異形、一般市民を襲っているというその怪物を、放っておく訳にはいかない。日常を守るため、この力はあるのだから。 故に目を凝らす、耳をそばだてる。日常の敵を見つけるために。 『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)は小さな声で歌をうたう。 「その歌は何でゴザイマスカ?」 『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)は不思議そうに尋ねた。日本ではあまりにも有名なその歌を歌うのをやめ、伊藤が知らないのと唇を尖らせた。 「僕らはみんな生きてるんだから、蜘蛛だってなんだって友達なんだって、そういう歌な気がするよ」 「なるほど……」 「でもさ」 伊藤はくいと、帽子のつばを持ち上げる。 「友達でも、やる時はやるよ」 見上げた先、無表情のアンドレイもハイ、と応える。 「相手が誰であろうと、死力を尽くして勝利するのみ。さあ、戦争でゴザイマス」 「そうだね、戦争だ」 日も暮れてきた。敵がやってくるのだとしたら、頃合いだろう。遅くなり過ぎないうちに出てきてくれると嬉しいが。 そんな六人の見守る先、囮役の男二人はのんべんだらりとタバコを吸いながら歩いていた。 「おじさん足の長い生き物は得意じゃないんだけどね」 赤いずきんで顔を隠した『足らずの』晦 烏(BNE002858)がうそぶくと、 「いいじゃねぇの、いそがしーいお仕事のあとには、命の洗濯が待ってるんだから」 『道化師』斎藤・和人(BNE004070)は肩をすくめて煙を吐き出した。 だよな。あの店行こう! カニ食って、若いちゃんねーとウハウハしたいぜ。金は? 知ってるか、福利厚生って。アッハッハッ! 路地裏に笑い声が響く。しかしそれでも、二人は警戒を怠っては居なかった。 それぞれが集音装置を起動し、蜘蛛の襲来を警戒する。あの路地からか背後からか、それともはたまた上から来るか。囮役である以上獲物が喰らいつくまでおとなしく泳ぐが、針も返しも浮きさえもついてるからこそ、餌ではなく囮なのだ。 「日本酒が飲みたいな。知ってるか、カニ用に仕込まれた日本酒なんてのもあるんだぜ。置いてる店あるかな」 烏がぼやいた直後、 「ぐわっ!? こっちに来たか、エリューションビースト!?」 二人の背後から、叫び声が響いた。 「これは……」 「クソ、囮には引っかからなかったみたいだな。晦、行こう!」 ● 「こっちに来たとはな。だが、逃しはしないぞ! 変身!」 音もなく忍び寄ってきた蜘蛛の一撃から即座に立ち上がり、疾風は戦闘態勢を整える。 完全に不意を突かれた。囮役に集中し過ぎてしまっていたのだ。他の仲間もやってくるまで少し時間があるだろう、それまでの間確実に逃さぬようにしなければ。 「手が付けられなくなる前に、仕留めてみせる!」 零式羅刹! 疾風は強大な闘気を身にまとい、エリューションビーストへの間合いを詰め、がむしゃらに連続攻撃を叩き込み始めた。 エリューションビーストと一対一、加えて相手は動きが素早いと聞き及んでいる。ならば、 「手数で押し切る!」 倒しきることは考えない。仲間が揃うまで逃さぬように、この場に押しとどめるために拳を振るう。殴り飛び周りこみ殴り、気迫を込めて圧倒する! 当然、敵も黙って拳を喰らうわけではない。拳をかわし、受け、噛み付き、足で潰そうと押し迫る。 疾風はそれらをできる限りは回避し、ある程度は甘んじて耐えた。こいつの注意がこちらに向いているのなら、それは悪いことではないと。 だが、その攻防は長くは続かない。疾風の手は二本、蹴りなどを織り交ぜたとしても、左右四本ずつの手足に噛み付きを加えた連続攻撃を捌き切るには、手数が足りない。自ずと防戦へと追いやられていく。 「クソッ、私は、負けない……!」 フェイトの力が疾風の身体を加熱した。疾風の身体が白熱する。押し返さんと拳の回転率が上がる。肩は裂かれ身体は軋みを上げるが、力と技を持ってして耐え、凌ぎ、殴りつけた。そして、 ダンッ! と蜘蛛の身体が揺れる。 「疾風さん大丈夫!?」 「シャラクセェ!!」 伊藤の1$シュートで体勢の崩れた蜘蛛に、アンドレイのボールドインパクトが迫る! しかし間一髪、蜘蛛は横に飛び退くように戦斧を回避してみせた。 「オーケー、いらっしゃいだ!」 飛び退いた先が悪かった。ちょうど駆けてきたコヨーテが、走る勢いそのままに、燃える拳を横っ面へと叩きこむ。 もろに喰らった蜘蛛がとぶ。そのままドンと、ビルへと叩きつけられた。 「マジでデカくて重いな。ロボみてぇでかっけーじゃねぇか」 「コヨーテくんさすが、しかし本当にでっかい蜘蛛くんだね」 コヨーテの横に並んだスケキヨが、感心しながらおもむろにボウガンを構えた。 「同じ蜘蛛のよしみ、おとなしく生きててくれれば見逃してあげたいところだったんだけど……ダメだよ、人を襲ったりしちゃあさ」 はぁ、と大げさにため息をつく。 「残念だけど……、本当に、残念だけど! だ・け・ど! ボクの楽しいススキノライフのために、やられちゃうことは決まってるんだ。サクッとやっつけられちゃっといてよ!」 ダンダンと、スケキヨのボウガンに続いて伊藤の攻撃が左足へと突き刺さる。攻撃を受けながらも蜘蛛はヨロヨロと立ち上がり、これはたまらないと壁に足をかけ逃げ出そうと登ろうと足に力を込めた。 「アノ建物は……」 「おうよ、俺も何も考えないで殴りとばしたわけじゃないんだぜ?」 蜘蛛の足に力がかかる。身が縮み、飛び上がらんと力が貯まる。そして力を開放しようと全身が緊張する、その一瞬に、 「逃げようとするんじゃない! このデカブツが!」 足を掛けていたその壁から、斧による乱舞がエリューションビーストを襲った! 「お前は所詮ハイエナか? 逃げたりしないで、戦えよ。俺達はお前の、敵なんだぜ!」 物質透過を使い、影継が姿を現した。そして攻撃をもろに喰らいたじろいでいる異形に対し、ギンと睨みつける。 「おぉ、斜堂君は怖いねぇ。これが若さってやつかなぁ」 「祭雅は大丈夫か? すまんな、晦と俺じゃあ囮として不足だったみたいだ。基準は何かね、若さかな」 「大丈夫です、戦えますよ」 烏と和人が加わり、8人は蜘蛛を中心に円を描くように囲みこむ。 手にはそれぞれ武器を持ち、もう逃さぬと真剣に。緊迫する空気、交わされる視線と視線、まず動いたのは……。 まず動いたのは、蜘蛛だった。包囲網を突破せんと最も弱ってるだろう疾風へ突撃する。 しかし、烏のB-SSを始まりにスケキヨ、伊藤、和人の集中砲火が突進を食い止める。カニ歩きのように突撃してきた先頭のその足が、一本二本と千切れとぶ。だが、 「止まらない! 来るよ!」 伊藤の叫び声に皆が身構える。攻撃を雨あられと浴びながらそれでもと飛ぶように迫ってきた巨体に、アンドレイがカウンターのように戦斧を叩きつけた。だが戦斧が力を振るう一瞬前、この蜘蛛は巧みに糸を吐き出し、アンドレイへと糸を絡めつける。 衝撃が炸裂した。バウンドする。アンドレイの攻撃による衝撃で、蜘蛛はアンドレイと中空とをヨーヨーのようにピストンした。アンドレイから空中へ。そして糸の張力を受け、アンドレイへと! 大きく開けた牙が、突き立てられる。 上等。死ぬ覚悟は出来ているな? 勝利の為にソノ首頂こうか。ураааа! ゼロ距離のボールドインパクト! 既に二度見ているその攻撃を、直撃を受ければひとたまりもないのではないかというその一撃を、喰らってはたまらないと蜘蛛は急いで糸を切りアンドレイを蹴り飛ばすようにして離脱した。 追撃しようと影継とコヨーテ、疾風が三方から迫る。だが、蜘蛛も必死だ。持てる力をすべて使って生き延びようと、無我夢中で攻撃をまき散らす。闇雲に振るわれる足と消化液と糸による牽制に、さすがに即座には飛び込んでいけなかった。 そこへ、 「同じ蜘蛛としても、ちょっと見苦しいよ」 スケキヨのボウガンが、開かれていた口を横から貫き、ありえない形に閉じさせる。牙は折れ、ぶちゅりと体液がしたった。吐きかけていた消化液が口の中にたまったのだろう、ジュッと白い煙が開いた隙間から漏れて出る。 その機を逃すリベリスタたちではなかった。伊藤が即座に足元へ潜り込み強力な膂力をもって地面へと引きずり倒す。そこへ疾風とコヨーテの拳が迫り、影継とアンドレイの戦斧が振り下ろされる。残った足は貫かれ、断ち切られ、殴りもぎ取られ、蜘蛛の異形は瞬く間に達磨の異形へと変身した。。 「脱皮とかされないように、きっちりとね」 手足がもがれ、口を貫かれ、その上で烏に麻痺をかけられて。 「仕舞いだ。てめぇはもう、お呼びじゃないんだよ」 最後は和人のリーガルブレードによって両断され、ようやく蜘蛛の異形は息絶えた。 「さて、カニ食べ放題に繰りだそうぜ」 ● 「すすきのって大人の街なんでしょー。やだー、えっちーから僕は帰るよん」 「ソウデスネ伊藤君がそう言うのならコンビニでマッタリしていきませうか。皆サンも早寝早起きを」 一抜けたと、伊藤は北海道を中心にチェーン展開している地方限定コンビニへと駆けていく。その後を追うように、アンドレイもコンビニへと歩いて行った。 「彼ららしいですね。私たちは折角だからススキノで食事でも?」 「お酒! ラーメン!」 「いや、カニだろ。カニすきで日本酒を、こう」 「それからおねーちゃん! ここらは安くて若くて、良い店多いって聞いてるぜ」 ワイワイとリベリスタたちは騒ぎ始める。何が有名なんだ、ススキノらしいもんってなによ、ピンクなお店にも行きたいなぁ、嫌でもボク彼女いるから、ばれないばれない、金は? 気にすんな! 「あー、盛り上がってるところ悪いんだが、色々法律違反しといて今更だけど、未成年だから別れるわ」 「あ、なら保護者としてボクが宿まで送るよ。流れでピンクいお店にってなっても困るし。少し観光してく?」 「おう、コヨーテも観光してこうぜ」 「真っ赤なカニが食いたかったんだが、スープカレーも本場らしいし……悩むな。あとであの観覧車に乗るなら、そっち行くぜ」 影継が悪いなと離脱し、スケキヨとコヨーテが後に続く。 「残ったのはこの三人か」 烏と和人と疾風。三人は顔を見合わせる。 「じゃあ朝までお楽しみコースだ!」 「お金のことはおじさんが建て替えてあげるから心配しないでいいよ!」 「私も彼女が居るんですが……」 「大丈夫大丈夫! 心配ないからー!」 「魂の洗濯へ、いざ行かん!」 そんな和人と烏に導かれるままに、三人は夜のススキノへと姿を消した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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