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海の家・そらひと

●大体この人がいつも何かやらかす。
 その日、『SW01・Eagle Eye』紳護・S・アテニャン(nBNE000246)とその仲間のOwlEはガレージにいた。
 レイジングボアと呼ばれる屈強な4WDの三号車が納車され、これまで重労働についていた1号車を休めるべく整備をしている。
「なぁ、紳護」
 ボンネットを開き、エンジン周りをいじる紳護へOwlEが車の下から声を掛けた。
「どうした?」
「そのよぉ、ちょっと話があってなぁ」
 紳護にとってこのフレーズは不吉でしかない。
 大体、このOwlEという中年男がヘラヘラ笑いながら相談を持ちかけるときは、決まって面倒な事が多いからだ。
 別に彼がトラブルメーカー……かもしれないが、そんなにしょっちゅうではない事が救いである。
「今度は何だ、お目当てのオペレーターに何かして大目玉でも食らったのか?」
「そんなこたぁしねぇよ、目の保養にしっかりと見物はするけどな。いやぁ、あのタイトスカートからすらっと伸びる白い足、たまらんなぁ」
 そういう問題ではない、紳護は溜息を零す。
「そんな趣味趣向の話じゃないだろう? その話ってのは何だ?」
 そうだったと呟くと、OwlEは車の下からニュッと顔を覗かせた。
「ほら、俺達って何かと金掛かったりするだろ? んで、予算的にそんなんだせるかーってなって、その時に予備資金ってので補填するよなぁ」
「あぁ、あれか」
 それは紳護がここに来てから既に存在していた謎の金だ。
 OwlE曰く、自分やその知り合いのコネを使って金づるを見つけ出し、それを膨らませて貯蓄しているらしい。
 基本的にはOwlEが管理している為、その全容は知らないが。
「今回のレイジングボアもそこから結構出したわけよぉ」
 以前、とある戦いで駆り出されたレイジングボアだが、戦いの最中1台が大破。
 それは戦うにおいて考えられ、想定内に入った損失ではある。
 しかし、誰よりも嘆いたのはそこで顔を出している男だ。
「んでまた貯めないとなー思ってな、海の家を幾つか経営する事にしたわけよぉ」
 何故そうなった?
 明らかに質問を顔に浮かべた紳護へ、OwlEがニヤリと笑る。
「わかってねぇなぁ、こういう時は稼ぎ時ってやつよぉ。あの化学調味料だけのラーメンが飛ぶように売れるんだぜ?」
「そういうお前は、どこで飲んでも同じビールに何時も以上に金を出すだろ」
 確かにと笑い飛ばすOwlEは、手にしたレンチで紳護を指し示す。
「でだ、お前が調理やってくれ、めんどくせぇ事は俺がどうにかしておく」
「……分かった」
 恐らく自分が頷く事を前提で話しているのだろうと、紳護は分かっていた。
 断ればあの手この手で紳護にアプローチを続け、頷くまでそれは続く。
 以前、身を持って経験済み。それにチームに有益な話ならば悪くは無い。
「頼もしいねぇ、我が隊長は。あ、それでよぉここからが本題でなぁ」
「何っ……!?」
 
●海を前に働け
「せんきょーよほー、するよ!」
 今日も元気いっぱいな『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)の前口上で今日も始まる。
 勿論傍には、対照的にむっつり顔の紳護の姿もあった。
「きょうはね、お兄ちゃんのお手伝いしてほしいの。ノエルはお手伝いできないから残念」
 何か危険な事かと考えるものもいるだろう。紳護の表情も曇っている。
「その……単刀直入に言うと、海の家を手伝って欲しい」
 夏といえば海、海といえばひと休みできる海の家。
 しかし、何故アークで海の家の話が出るのやらと、状況を飲み込めていない者の方が多いだろう。
 紳護は先程お願いされた内容をそのままリベリスタ達に伝えていく。
「でだ、勿論俺だけでどうにかなる筈は無いんだが……他の人員が揃わなかったらしい。そこで一時的に君達の手を借りたい」
 続けて、ノエルが引っ張ってきたホワイトボードに必要な役割を記述していく。
「厨房での人員、接客の人員、あと遊具類のレンタルと整備の人員、場合によっては客引きも必要か……。ざっとそんなものだろう」
 箇条書きに並べた役割というのはあくまで目安だ。
 状況は変化する、場合によっては他の役割も必要になるだろう。
「本部からの支給もあると思うが、それにプラスして歩合制で追加報酬を出すとOwlEが言っていた」
 そういっておけとOwlEに言われていたわけだが、果たして影響の具合はどうなのやらと紳護は思案顔である。
「あと、可能ならノエルの面倒を見てやって欲しい。一応、別のメンバーをお守りにつけるが、ずっと拘束させるのも大変だろうしな」
 妹が天真爛漫ゆえに人を振り回してしまう事も重々理解している。
 当の本人はきょとんと紳護を見上げているが、苦笑いを浮かべて頭を撫で、誤魔化しておいた。
 こうして夏の暑いお仕事が幕を開ける。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:常陸岐路  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月13日(金)22:31
【ご挨拶】
 初めましての方はお初にお目にかかります、再びの方にはご愛好有難う御座います。
 ストーリーテラーの常陸岐路(ひたちキロ)で御座います。
 時期が終わり掛け……というか終わっているかもですが、海の家です。
 海の家のラーメンって、絶対あの値段と原価がかけ離れてて、利潤が高いだけのダメなモノだと分かっているんですが、アレを食べて騙されるのがもはや海の礼儀だと私は思っています。
「やべぇ、中の下ぐらいの旨さしかない。明らかに騙されてるコレー!」
 と、心の中で呟くのが楽しいのです。
 本題から逸れましたが、海の家です。
 アークの人々がやる海の家、どうなることやら楽しみです。
 
【作戦目標】
・海の家を繁盛させる事。
 
 
【戦場情報】
・海の家「そらひと」:よくある海の家、更衣室、シャワールーム、トイレ、ロッカー完備。他にも水着のまま上がれるお座敷とテーブル席があります。出入り口の傍には遊具の貸し出しコーナーと、串焼き用のコンロがあります。

・海の家-厨房:海の家の地獄、湯気と熱気が充満する正に戦場です。基本的に紳護はここで調理を行います。お手伝いすると、『どうしてそこまでガチなんだ』といわんばかりな細かい指示で、一切の手抜き無しな調理を求められます。

・海辺:家族連れやカップルなど、いろんな人がいます。ノエルはここで海水浴を楽しんでいます。彼女のお守りには紳護の相方、HEがいます。イギリス紳士の青年ですがヘタレです。
 
【制限】
・非戦闘スキルを他者に向ける事や、目立つようなスキルの使用はNGです。
参加NPC
ノエル・S・アテニャン (nBNE000223)
 
参加NPC
紳護・S・アテニャン (nBNE000246)


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
クロスイージス
斎藤・和人(BNE004070)
ナイトクリーク
浅葱 琥珀(BNE004276)
ホーリーメイガス
丸田 富江(BNE004309)
ミステラン
サタナチア・ベテルエル(BNE004325)
レイザータクト
ダーク エ ルフ(BNE004337)
ナイトクリーク
プリムローズ・タイラー・大御堂(BNE004662)
ソードミラージュ
中山 真咲(BNE004687)


「海の家かー夏って感じでワクワクするなっ」
「うん、やっぱ海と言ったら海の家だよねえ」
 のぼり旗を砂へ立てながら、『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)と『道化師』斎藤・和人(BNE004070)がしみじみと呟く。
 この後、地獄の作戦を取る琥珀はなるべく涼しさ重視の服装をしている、対して和人はタンクトップを重ね、半袖シャツ羽織り、下は膝丈のハーフパンツと客引きとしておしゃれも欠かさない。
「そういうものなの?」
 着替え終え、更衣室から顔を覗かせた『黒渦』サタナチア・ベテルエル(BNE004325)が問い掛ける。
「確かにあの箱から見た光景からすれば、欠かせぬ存在のようだな」
 同じく着替え終えた『勇無き指揮者』ダーク エ ルフ(BNE004337)が彼女の後ろを通り抜け、ホールへ出る。
「定番という奴だな、無いと困るものでもある」
 看板を並べに出た紳護も戻ったところで、ふとルフの姿が目に止まる。
「ん? 海の家とはこういう物だと聞いたぞ?」
 水着にエプロン、中々見ない組み合わせをしている。
 恐らくそれが気になったのだろう。
「……え、ルフもしてるし、ウミノイエってこれが正装よね? し、紳護もおかしい?」
 同じくエプロンを持参していたサタナチアがうろたえるも、紳護は顎に手を当て暫し考え込み。
「いや、いいんじゃないか? 海の家らしい組み合わせだと思う。似合うと思う」
 海の家としては似合った組み合わせだと思いつつ、更衣室から出てきた『宵闇に舞う』プリムローズ・タイラー・大御堂(BNE004662)に気付くと紳護は大切な事を思い出す。
「プリムローズ、君は何処を担当希望だ?」
 その言葉に、コレでもかといわんばかりな訝しげな表情を見せるプリムローズ。
「え、どこで働く? 私にとってはこの上なく極めて意味不明の質問だわ……っ! こ の 私 が 働 く わ け な い で し ょ う ?」
「……な、なら君はどうするんだ?」
 満面の笑みで作戦を説明するプリムローズだが、予想の斜め上の展開にあんぐりとしていた。

 先程の騒動も落ち着き、紳護は厨房へと戻る。
「とにかく海の家はスピード重視、泳いでお腹をすかした子達がわんさか押しかけてくるからねぇ」
 『遺志を継ぐ双子の姉』丸田 富江(BNE004309)の言葉に、彼も頷く。
「今のうちにしっかりと下ごしらえをしっかりしておかないとねぇ」
「そうだな、早速取り掛かろう」
 チェーンガンの発射音を思わせる様な素早い千切りの音や、みじん切りの響き。
 手間の掛かりそうな海老の殻剥き等も、二人は慣れた手つきでこなしていく。
 厨房担当になったルフは二人の動きに圧倒されていた。
(「ボトムであの箱……て、テレビに齧りついて学んだこちらの料理技術は、そう劣る物でも無いはずだが」)
 これから何が始まるのか、ルフは先の見えぬ未来に僅かに震えた。
 

「じゅーすー、冷たいじゅーすはいりませんかー?」
 『黒刃』中山 真咲(BNE004687)の呼び声が浜辺に響く。
 麦藁帽子に首からタオルを提げ、Tシャツとショートパンツにサンダルとラフな格好でクーラーボックスをぶら下げている。
「一つ下さい~!」
「ありがとうございます!」
 パラソルの下で手を振る客の下へ、華奢な体が走る。
 砂地にクーラーボックスを下ろし、蓋を開ければ満載した氷に包まれた色んなドリンクがお目見えだ。
「ありがとうございます、よかったらあとで海の家そらひとにも来てくださいね!」
 くるりと一回りすれば、背中にかかれたそらひとの文字が目に飛び込むだろう。
 満面の笑みで愛嬌もばっちり、いい宣伝役も担いながら次の客を探す。
 
 こちらも外回りを担当した琥珀だが真咲以上に熱に殺されそうだ。
 ハムスターとモルモットを混ぜたようなマスコット、モルのきぐるみだ。
 パック詰めの出来立て焼きソバを前に下げたケースに、肩から腰へ提げたクーラーボックスには飲み物と、重装備で浜辺に出動。
 重みはより一層体に熱を発生させ、分厚い生地が熱を閉じ込める。
(「家族連れや女子グループは……」)
 この見た目を気に入りそうな子供や可愛いもの好きの女性が狙い目。
 早速女子三人組が琥珀の格好に釣られてやってくる。
「可愛い~!」
「うわ~……暑いのに大変ね?」
「ねぇねぇ、モルさんは何を売ってるの?」
 早速商売、レディ達には焼きソバ一つとジュースをお買い上げいただけた。
「モルさんって何処の海の家の人?」
 念願の言葉が届く。
 声は出せない、だがあそこだといわんばかりにそらひとを指差し此方も宣伝効果上々である。
 
 斎藤は店の前で客引きを担当していた。
 食事の客もそうだが、ロッカーやシャワーに更衣室という場所に選んでもらうのも大事だ。
 何かとそこで済ませてくれることが多くなる、歓楽街出身故に、客の流れも思考もよくわかるのだろう。
「そこの御嬢さん達、海の家をお探しで?」
 女性には何時もより愛想よく笑顔を振りまき、お誘いの言葉をかける。
 二人組みの女性が頷けば、ここは押しの一手。
「ここら辺の海の家ってロッカーとかの値段が一緒なんだ、だけどうちは設備に自信があるよ。シャワーは回数制限なし、シャンプー、リンスもあるしドライヤーからヘアアイロン、これもサービス」
 このあたりは全て紳護から聞き出しておいた情報だ。
 女性が食い付きそうなところをしっかりと抑えているのも彼らしい。
 予想通り、彼女達の足が止まる。
「あとね、うちの料理は美味いよ。それとうちでロッカー借りてくれたら特別に少し値下げしてお出しするよ」
 取り付けた値下げの切り札で締めくくり、彼女達の顔を交互に見やり。
「そうね、じゃあお願いしようかな」
「ありがとう御座います、ではお一人様1500円ずつで」
 そして丁度太陽は空の真上に昇った。 

 まばらに客が入ってきたところで注文と供給の連鎖が始まる。
 オーダー取りと配膳に『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が機敏に動き回っていた。
「いらっしゃいませ……ご注文は?」
 白い肌に白い水着、そして水色の髪にグレーの瞳の小さな女の子。
 男性にもウケがいいが、女性客にも可愛いと評判である。
 注文を伝票に取ると、俊敏な動きでカウンターへと向かう。
「ラーメンとカレーを一つずつ追加でお願いします……」
「はいよっ! あと、これ頼むよ!」
 オーダーと入れ替わりに富江が出来立てのラーメンが二つ差し出される。
 更に紳護からも焼きソバが一皿。
 それぞれをトレイにのせ、両手と頭の上とバランスよく乗せた料理を運んでいく。
 
 一方、こちらは厨房。
「ルフ! あと17秒後に麺を湯で機から上げてくれ! 中華麺だ!」
「りょ、了解したっ!」
 その間も紳護は揚げ物に炒め物と二つの料理を同時にこなしていく。
「ルフ! 悪いけど次はこっちのカレーの盛り付けを頼めるかい?」
「任せてくれ!」
 麺を上げ終われば直ぐに、鍋の面倒を見つつおでんの追加作業に掛かる富江から指示が飛ぶ。
 ルフの予想は的中、今や二人のサポートにあたるのが精一杯というところだ。
 彼女のフィアキィも一生懸命に調味料の継ぎ足しに飛んだりと大忙しである。
(「丸田富江と、言ったな」)
 紳護は次の作業に取り掛かる間に、彼女を一瞥した。
「よいやさっ! はっほっ! せいやっ! はっはっはっ!」
 おでんダネの追加を終えた富江が、中華鍋を振るう。
 リズミカルに卵に包まれた米を粒になる様に振るい、刻んだ具材を絶妙なタイミングで投入。
 おたまと鍋のぶつかる音が気持ちよく響き渡る。
(「食堂経営と聞いていたが、素晴らしい腕前だ」)
 アマチュアの料理人だが、彼女の素晴らしさは分かる。
 長年の経験に裏付けされた味付けの読み、精錬された手際。
 この嵐の様にやってくるオーダーを一つも滞らせぬ素晴らしさは心強い。
『どーんとまかせておきなっ、何百人分だろうと、いや何千人分だろうときっちり仕上げて見せるからねぇっ』
 先程のこの言葉を思い出す。まさに二人で双璧を成し、この戦場を支えていた。
「ルフ、すまないが洗い物を頼む!」
「わ、わかったぁっ」
 続いて紳護が視線を向けたのはルフだ。
 正直、彼女は早々と表に回るのだろうと思っていた。
 その方が彼女にとっても悪くない筈、だがこうして必死に食らいついている。
 視線に気付かぬルフは、泡だらけになりながらも懸命にどんぶりを綺麗に洗い上げていく。
(「何だろうか、彼女を見ていると誰かを思い出す」)
 この時は相方と同じヘタレである事に気付く余裕はなく、続いて出来上がった料理をカウンターへと差し出す。
(「それと……本当に食べ続けているが、大丈夫なのか?」)
 厨房からテーブル席に座るプリムローズの姿を確かめる。
 書き入れ時より前からずっとオーダーを繰り返し、メニューの全てを制覇せん勢いで食べ続けているのだ。
『店にとってそもそも必要なモノはお客様でしょう? こんな美少女が美味しそうに食べてるお店があれば注目度も花マル急上昇でしょう?』
 所謂サクラ効果だが、彼女目当てに入り、ナンパに失敗して塩味の増したラーメンを食べて帰る男性客がちらほらと。
 そんな彼女が今挑んでいるのはフジヤマカルボナーラである。
(「まさか名の通りの品が出るとは思わなかったわ」)
 大皿に山のように盛られたパスタに熱くてドロドロのクリームソースが絡み、分厚いベーコンが存在感たっぷりに突き出ていた。
 フォークとスプーンで上品に巻き取って食べ始めていくわけだが、あの細い体の何処に入るのやら。
 海の家一番の高額メニューに手を出した初の客である。
 こうして目に見える範囲でも実益はある、働かないと豪語していたがとんでもない変化球で援護してくれたものだと紳護は苦笑いを零す。
「この前、倒れたばかりなんですから……気を付けてください」
 料理を運びに来たリンシードの声に、脳内から現実に戻された。
 少し呆けて居た様に見えたか、心配げな視線が刺さる。
「とにかく、今日も無理は禁物です……」
 以前も彼女には世話になったばかりだ、尤もな言葉に小さく頷く。
「気遣い感謝する、注意する」
 早速出来上がった料理を彼女へ差し出すと、再び配膳へとホールへ向かっていった。
 
「お待たせしました~!」
 笑顔で料理を配膳するサタナチア、そして両手を胸元に持ってきてハートを作りかけてからハッとする
(「ここは普通の飲食をする所だったわね、あぶないあぶない……!」)
 海の家でそれは違和感がある、手の動きが気になったか、客も彼女を不思議そうに見上げていた。
「あっ、お客様、こちら大変熱くなっておりますので……ふーふーする?」
 今度は客がガタッとずっこけそうになっている。
「……あ、れ。これも変!?」
「サタナチアさん……ふーふーも海の家はしないです」
 通りかかったリンシードの突っ込みに、サタナチアの頬が赤く染まっていた。
 
● 
 交代での昼休み。
 砂浜でカキ氷にご満悦のノエルの傍には、休憩中のサタナチアがいる。
 HEはというと、午前中の暴走ノエルに振り回され、ぐったりとパラソルの影で倒れていた。
 交代とやってくるリンシードの姿に気付くと、ノエルへ自分の麦藁帽子を被せる。
「熱中症に気をつけてね?」
「うん、サタナチアおねえちゃんも頑張ってね!」
 手を振ってお見送りすると、入れ替わりに現れた友達へ満面の笑みを浮かべて飛びついた。
「ノエルさん、泳げたんですか」
「うん、パパがおぼれたらたいへんだからって、教えてくれたの」
 浜辺でビーチボールを弾ませ、遊ぶ二人。
 泳げない事を懸念してコレを選んだリンシードではあったが、いらぬ心配だった様だ。
 楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまうもので、気付けば休み時間は終わりとなっていた。
「今日のお仕事が終わったら、花火でいっぱい遊びましょう……それまで待っててください」
 名残惜しそうにするノエルの頭をなでると、リンシードは再びお仕事へと向かう。
 
(「あれ、あそこにいるのは」)
 寂しげに座り込んでいるノエルを真咲が発見したようだ。
「おーい、ノエルさーん、なにやってるのー?」
「ぁ、真咲ちゃん」
 休憩に海辺へやって来た真咲がノエルの隣へ座ると、暗い顔の理由を耳にする。
 朝はHEがくたくたになるまで泳ぎ回り、HEがへばった後はサタナチアとリンシードと楽しくしていたのだが、今は一人で遊ぶ事になってしまった。
 美咲は未だにパラソルの下で横たわったままのHEをみて納得する。
「そうだったんだ……でも、いいなぁ、ボク泳げないんだよね」
 そうなの? 問いかけるノエルへ、真咲は頷き、肯定する。
「どうすれば上手く泳げるようになるかなぁ?」
「えぇっとね、パパがね――」
 真咲とのおしゃべりは、ノエルの気持ちも晴れやかになり、笑顔が戻っていく。
 しばし仕事を忘れて、おしゃべりを楽しむと、やはり時間は直ぐに過ぎてしまうものだ。
「あ、いけない、けっこうサボっちゃった」
 昼時は終ったが、早めに帰る客達が腹を空かせてやってくる、二度目の書き入れ時である。
 立ち上がる美咲を、寂しげに見上げるノエル。
 ふと美咲に妙案が思いついた。
「そうだ、ノエルさんも一緒にやらない?」
 これなら一緒に居られるので寂しい事はないはずと提案すれば、今度少し不安そうだ。
「でもノエルむずかしいこと、できないよ?」
「大丈夫、むずかしくなんてないよ」
 行こうと手を引いて、二人は一度海の家へ戻った。
 そして小さめののぼり旗を手に、客引きを始める。
「「海の家、そらひと! カレーにやきそば、カキ氷!」」
 二人は声を揃え、練り歩く。
 やはり小さな二人が宣伝するのは珍しく、目にも留まりやすい。
 ノエルの手にある旗や、真咲の背中にある『そらひと』の文字が目に飛び込む。
「「ほかにもいろいろやってます! おなかがすいたらそらひとへ!」」
 

「みんなのおかげでとても助かった。ありがとう」
 紳護が皆へ感謝の言葉を届ける。
 そして、今度は富江は厨房から大きなトレイを持ってやってきた。
「いやぁみんなお疲れ様、疲れただろう? みんなの分も作っておいたよっ」
 残った食材でここまで作れるものかと紳護が珍しく目を丸くして驚いてた。
 豪勢なまかない料理にリベリスタ達の表情が明るく輝く。
「今日一日頑張ったみんなにスタミナ満点のがっつり料理だよっ。さぁさ好きなのを食べて元気もりもり、今日の疲れを吹き飛ばしちまいなっ」
 夕暮れ時の中途半端な時間だが、疲れた体には堪らない栄養補給に一同夢中に貪りつくのであった。
 
「ラルカーナに海は無い……世界の果ては、崖だった。こちらの世界は水で満たされているんだな」
 何だか哀愁漂うなルフのセリフだが、寧ろ砂浜に突っ伏した姿の方が悲壮感漂う。
「不思議な世界よね……それにしょっぱいんでしょう、この水。なのに地上に負けないくらい色んな生き物が居るの……ほんとに不思議」
 ルフへ団扇で風を送りながら、海を眺めるサタナチア。
 花火の準備を終えると、琥珀がラムネを堪能中の紳護へ駆け寄る。
「アテニャンさんもリラックスしよーぜ、仕事は終わったんだぜ!」
 琥珀に引っ張られ、最後の楽しみが始まった。
 
「知っているぞ!この先から炎が……」
 爆ぜる様に吐き出される色とりどりの火花、それに素っ頓狂な声を上げてルフが尻餅をつく。
「ふ、初めての事だからな。次は驚いたり」
「お、ロケット花火あるじゃん」
 琥珀が早速発射、笛の音と共に空高く上がり、負けないほどの悲鳴がルフから放たれた。
「ル、ルフ、しっかり!? でも本当に凄い火花」
「これ何かしら?」
 目に付いた大きな筒、打ち上げ式の花火にプリムローズが点火し、ロケットエンジンの様にけたたましい音共にカラフルな火が吐き出される。
「っひゃああ!? ……きゃあああ!?」
 最初の悲鳴は花火に、そして驚いて傍に居た紳護に飛びついた瞬間、二つ目の悲鳴が響く。
 飛びつかれたほうの紳護は動じることも無く、何時もの様子で大丈夫か? とのたまっている。
 大丈夫と離れるサタナチアは落ち着かぬまま、ルフの隣へと逃げていく。
 一方、リンシードと真咲にノエルは手持ち花火ではしゃいでいた。
「ほら、赤緑ピンクでノエルさんっぽい花火です…いつも元気爆発な所が更に似てますよね……」
「じゃあこっちの青色の花火はリンちゃんみたいだねっ、真咲ちゃんも楽しい?」
 こうして皆で花火をするのが初めてな真咲にとって、全てが新鮮で自然と笑みがこぼれる。
「うん、とっても楽しいね! それに、とっても綺麗……」
 アークに来てよかったと、ひと夏の思い出として物語は締めくくられた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お待たせしました、如何でしたでしょうか?
 このOPが出た頃は、まだまだ暑いなと思っていたのですが、今は大分涼しくなってきた……気が、します!
 出来上がった後は文字数の関係で色々と調整をしなければという状態だったので、詰め込みきれなかった部分もありましたが、お楽しみいただければ嬉しい限りです。
 ちなみに、なのですが。紳護はこの時人生初のラムネを口にしました、リンシードさんに紳護のはじm(ry
 和人さんの客引きシーンですが、似たような口説き文句を海で掛けられました。口の上手い人はやはり、こういう場所で輝くものです。
 最後の花火のシーンで詰め込めなかったものとして、HEが紳護の裏でぐったりしているというのがあります。多分、その様子を見てルフさんにHEが被ったんだなぁと思っていたかと。
 ではではご参加いただき、ありがとう御座いました!