●永遠の向日葵 山の麓のサナトリウムの裏には向日葵が咲き誇っていた。麦藁帽子を被った色白の少女が座り込んで花を摘んでいる。周りには一面の野原が広がっていた。 松井沙希はずっと下を向いて俯いていた。時折その顔から大粒の涙がこぼれる。 大切な人を失って沙希はもうまともに生きる気力を失っていた。いずれ自分にも近い将来訪れるであろう死をまだまともに受け止めることができないでいた。 沙希は不治の病に冒されていた。最期の場所で療養するために同じ病気をもつ患者たちがこの地を訪れる。沙希はここに来てから素敵な人に出会った。 だが、ひと月も経たないうちにこの世からいなくなってしまった。 次は自分の番だと思うともうこの場所にはいたくない。そう思って沙希は帰る時間になってもずっと向日葵畑に座り込んだまま動こうとしなかった。 「――どうした、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ」 沙希が顔を上げるとそこには死んだはずの友樹の姿があった。生前と代わらぬ姿に沙希は思わず自分の目を疑った。友樹がいるなんてそんなことはあり得ないのに。 「友樹なの? ねえどうしてここに――」 「俺はずっとお前と離れたくなかったんだ。このまま沙希がここに留まれば近いうちに俺と同じ病気で死んでしまう。だから俺と一緒に来てくれ」 友樹の言葉に一瞬沙希は戸惑う。どうしていいかわからない沙希に友樹は向日葵畑の向こうを指差す。 「あのまぶしい光の向こうに別の世界が広がっている。そこは誰にも邪魔をされない場所だ。そこに行けばお前はこの苦しい世から逃げられる。もう病気でこのサナトリウムに縛り付けられなくて済むんだ。だからそこで一緒に俺と二人だけで暮らそう」 友樹の言うようにそこにはまばゆい光に包まれた穴が広がっていた。そこには先ほどまでいなかったはずの大きな蝶が飛び交っている。 友樹の言う通りだった。このまま帰ったところで自分の病気が治るわけではない。それならいっそ大好きな友樹と一緒に――。 「私も死にたくない。お願い連れて行って二人だけになれる悠久の場所へ」 ●晩夏のサナトリウム 「山の麓のサナトリウムの向日葵畑にE・フォースが現れた。彼はどうやら近くに出現しているD・ホールに恋人を連れ込む気でいるようだ。このままでは松原沙希がこの世から連れ去られてしまう。そうなるまでに何としても沙希を救ってきてくれ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が端的に情報を伝えた。ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達は一刻を争う事態に思わず息を飲み込む。 E・フォースの塚原友樹は恋人だった松井沙希を近くに出現したD・ホールの中の世界に連れ込んでそこで二人で一緒に過ごそうと目論んでいた。 沙希自身も友樹と行くことを望んでいた。このまま現実世界に残ってもやがて来る死を待つだけだった。それならば好きな人と一緒に別の世界へ行きたい。もしかしたらそこでならば永遠に友樹と居られると沙希は思い込んでいた。 「現場にはD・ホールからやってきたアザーバイドの巨大な蝶やE・ビーストの穴モグラたちがいる。そいつらも決して弱くないから十分に気を付けて行ってきてくれ。とくに沙希は精神的に脆くなっているからいざという時は友樹に進んで殺されようする。くれぐれも彼女の動向には気をつけるようにな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月09日(月)22:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●閉ざされた世界と開かれた異世界への扉 山麓にあるサナトリウムの裏には広大な向日葵が咲き誇っていた。涼しい風が吹きつけて紋白蝶が花弁の間をゆらゆらと飛んで回る。すでに陽は暮れようとしていた。遠くから晩夏を告げるヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。 サナトリウムに住んでいる患者たちはもう家に帰る時間だった。だが、異世界からの住人達に魅せられた一人の少女だけがまだ向日葵畑に残っている。 自分だけはこの辛い世界にはもう留まりたくたないという想いを胸にして。 「不治の病に閉ざされた世界と新たに開かれた異界の扉。わくわくするフレーズですね。ボク達は松井沙希の意思を尊重すべく出向きましたが、まずはよく考えて選択していただかねば」 『灯探し』殖 ぐるぐ(BNE004311)は他に付いてきているぐるぐ族の意思を代弁して答えた。まずは沙希の考えをよく聞きださなければならない。その上で救助するのか一緒に向こうの世界へ行って貰うのか決めることにする。 「病弱娘の応援と聞いてきたケド、どう転ぶか解らなくなったねぇ。あの若い少年にゃあ、病気っこの心を動かせるんでやしょーかね? さぁさドカンと一発いってみやしょー」 『大砲娘』螺 みぞれ(BNE004422)はこの騒動の顛末が気になっていた。どう転ぶのかわからないが、やれるだけのことはやってみるつもりだ。 「逃れようの無い死を前にこの世に救いは無し。望む者に手を引かれ生きる術のあるかも知れぬ異次元へ飛び出す。何も問題はないように思いますけれどね」 『中古 20GP(箱・取説無し)』型 ぐるぐ(BNE004592)は冷静に落ち付いた口調で答える。沙希が望むなら恋人と向こうの世界に行かせたい。 「久しぶりに出てきたけんど、いつの世も恋だけは変わらねえべさ。やれることは他にねえがら、やっと覚えてきたこのスギル試してみるべ」 箒を大事そうに抱えながら『かぼちゃ』廻 ぐるぐ(BNE004595)は呟く。すぐ後ろに居る噂のアークの守護神にびびりながらも決意はしっかりと込めた。 「ぐるぐさん達の言も尤もだ。強引に生かすことは出来る。けれどソレは本当の解決じゃない。だからこそ、『生きたい』っていう彼女自身の意志に問いかけたい」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)はぐるぐ達に頷く。物珍しそうに集まってきたぐるぐ族に周りを囲まれていた。 「要するにもうすぐ苦しんで死ぬうえに助からない女とその恋人っぽいけど偽者っぽいのがバグホールに入るのは好きにすれば良いけど、その周りの土竜とか蝶とかは殺しても良いって事よね?」 不敵な笑みを浮かべながら『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)は誰に言うでもなく問いかける。今回の趣旨を分かっているのかいないのか判然としないが、真名はなんだか楽しそうに時節うふふふと可笑しそうに口元を歪めた。 「さて……ハッピーエンドの方が好みなんだなぁ。っつうわけで、さっと説教させてもらうか――」 髪を掻き上げながら無敵 九凪(BNE004618)は言葉少なく呟いた。すでに視線は向日葵畑の向こうにあった。真っ直ぐにそちらの元へ歩きはじめる。 「それじゃあ、皆でいってみよー☆ とりあえず沙希さんと話してみなくちゃだね。とらの元気をわけてあげられればいいのになあ」 『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)は向日葵の上空に元気よく飛び出した。自分の元気を少しでも分けてあげられたらいいのにと、とらは優しい気持ちで沙希を気遣った。出発の合図を告げて一番先にD・ホールへと向かう。 ●守る気概 「沙希さんがあちらへ納得して行くなら、止めないと約束するよ。ただ、その前にちょっと話聞いてよ」 とらがD・ホールの前に立ちはだかった。沙希の手を引いて今にもホールの中に一緒に入ろうとしていた友樹が厳しい視線を向けてくる。 「おまえ、誰だ? 沙希を横どりにしにきたのか? だったら容赦はしないぞ。俺達はこれから二人だけの国へ行くところだったんだからな」 友樹の言葉に沙希も無言で頷いた。手をしっかりと握りしめてさらに友樹と密着してその傍から離れようとしない。 とらはその隙に強結界を張り巡らせた。他の患者が向日葵畑に入ってこられないように準備を整える。すぐにぐるぐ(型)が翼の加護を起動させた。後から続いてリべリスタたちが友樹達の前に入り込んでくる。 「今の所塚原友樹及び松井沙希に危害を加えるつもりはありません。ですが、松井沙希を裏切るというのであれば塚原友樹を討伐対象と認識します」 ぐるぐ(型)はきっぱりと友樹達に意思を伝えた。 「お前らに沙希は絶対に渡さない!」 友樹がナイフを出して威嚇してきたのと同時に、周りの土が盛り上がってモグラたちが顔を顕わにする。今にみも飛びかかってきそうな気配を見せた。 続けて巨大な黒死蝶が上空から現れる。援軍が次々にやってきてにやりと友樹は口元を歪ませた。自信たっぷりに沙希を自分の元へと引き寄せる。 「恋人を人質に取るなんて、守る気概も無い奴がお迎えだとは笑わせる。悔しいなら掛かって来いよ!」 快はすぐにアッパーユアハートを全ての敵に向かって放つ。挑発された友樹を含むすべての敵は快にあからさまに敵意を剥き出しにした。 友樹がこちら向かうおうとした時に、快はラグナロクを使用する。 「ならやってやろうじゃねえか! その減らず口を二度と聞けなくてしてやるぜ」 友樹が言うのと同時にまず黒死蝶が快に風刃を撒き散らして襲い掛かる。強烈な風の斬撃によって向日葵もろとも快の身体を切り刻む。 全力で堪えている所を今度はモグラが火を放って巻き込んできた。これには快も顔をしかめて一歩後退せざるをえない。それでも快が敵を引き付けたことによってまずぐるぐ(殖)がトップスピードに乗って黒死蝶に剣を振りかぶって行く。背後から突撃して縦横無尽に斬り裂いた。 黒死蝶は避けようと逃げるが、片羽を抉られて上手く飛べなくなった。それでも毒鱗粉を巻き起こしてぐるぐ(殖)をこれ以上近づけさせない。 「よしいっちょやってみるべ!」 先ほどから撃とうか撃つまいか迷っていたぐるぐ(廻)が、両手を翳して黒死蝶に狙いを定めた。次の瞬間に手から魔力弾が撃ち放たれる。 初めて敵に向けて撃ったため軌道がそれてしまったが、それでももう片方の翼に何とか命中して黒死蝶は苦しんだ。ぐるぐ(廻)によって黒死蝶が苦しめられている隙にぐるぐ(殖)がぐるぐ(型)に回復を施してもらって事なきを得る。 「こら逃げるな! そっちには行かせないよ」 とらはぐるぐ族に向かう黒死蝶を引き留めようと、全身から放つ気糸で縛り上げた。動きを封じられた黒死蝶に快が一気にラストクルセイドでトドメを刺す。 「この痛めつけられた借りはきっちり返してもらう!」 神気を帯びた砂蛇のナイフで十字に大きく切り裂いた。黒死蝶は羽をもぎ取られて地面に墜落して動かなくなった。 「説得するにもまずはモグラが邪魔だな」 九凪は快を集中的に襲っているモグラに向かうと、すぐさま取り出したカードの束でモグラを切り刻んだ。攻撃を受けたモグラはそれ以上ダメージを受けては堪らないとすぐに穴を掘って土の中に逃げ込む。 「そこのすぐ下の向日葵にモグラが潜んでいるぞ!」 快は熱感知でモグラがいる場所を探しあてた。真名が土の膨れ上がった瞬間を見計らって九麗爪朱で上から叩き斬った。 「隠れても無駄よ。出てきなさいな」 モグラが一斉に苦しみながら地上に頭を出してくる。そこを待ちかまえたかのように爆砕戦気でテンションをあげたみぞれが大声で叫んだ。 「うっし! ハイスコア狙っちまうぞー」 出てきたモグラの頭に目がけて重火器で殴りつける。頭を割られたモグラは血しぶきを撒き散らしながら崩れ落ちた。みぞれが待ち伏せをしていることを知って他のモグラたちはなかなか出てこようとはしない。 九凪は穴の底に目がけてフラッシュバンを叩きこむ。さらにみぞれも穴に銃口を突っ込んで乱射した。モグラたちは一斉に逃げるように再び穴から姿を現す。 「そうそう大人しく切り裂かれなさい」 真名とみぞれが競争するかのように次々と現れるモグラの頭を叩き、斬り裂いて回った。モグラは反撃の機会を得られないまま穴の中に堕ちて行った。 「モグラの生命力、残り0%です」 ぐるぐ(型)がエネミースキャンを使用してモグラが全滅したことを告げる。 ●生きることの意味 「彼女を救いたい、その一心を確認させて頂くだけですよ」 邪魔ものがいなくなったところでぐるぐ(殖)は友樹の心の中をリーディングで読みとった。友樹の心の中は沙希を独占することで満たされていた。 救いたいという気持ちよりも自分の気持ちを沙希に押し付けているようだ。これでは沙希は向こうの世界へ行っても救われるかどうかわからない。 「へえ――うふふふふ、つくづく愛って意味深なものね」 真名は深淵で友樹を覗き込んだ。彼女なりに友樹の存在を確かめて妖艶な笑みを浮かべて口元を抑えた。何を知ったのかは定かではないが、真名はいっそう暗い眼で友樹を真っ直ぐに見つめ返している。 「これ以上、私を苦しめないで。早くこの場所から出て行って」 危険を察知した沙希がリベリスタに向かって叫んだ。このままでは友樹が討伐されてしまうと知ったのだろう。必死に懇願してくる。 「彼は本物じゃなく、生前の想いの残滓だよ。ナイフを突きつける所を見ると、生前沙希さんを道連れにしたい気持ちがあったんだろうね」 「えっ、それって――」 とらの言葉に沙希が動揺の表情を見せる。先ほどから少し友樹の様子がおかしいと思っていた沙希は友樹の存在に一瞬疑いの目を見せた。 「だまれ! 沙希になんてこと吹きこみやがる!」 「病気のお嬢チャンがEフォースの旦那と異世界に行きたいってんなら、あっしらはその意思を汲むよ。でもよーく考える事さね。この穴は入っちまったら出られない。向こうじゃお嬢チャンが今まで築いてきた常識は何一つ通用しないよー?」 みぞれが友樹の言葉を遮って沙希に喋りかける。 「このゲートを潜ればどんな世界か分からない。家族や友達に言い残した事があっても二度と帰れないし、そもそも人間が生きていける環境じゃないかもしれない。それでもいい?」 とらは続いてゲートの事について沙希に喋った。元より沙希は友樹と一緒に行くことに対して未練はなかったはずだった。 ただ心の奥のどこかで残して行く家族の事を考えずにいられない。これまでずっと不治の病に直面してきたのは家族も一緒だった。 「その女の人さ連れていきてーんだべ? なんで命を危険に晒すような事すんだー? こういう時は護るもんだべ? あんだ、その人幸せにするつもりあんだ?」 ぐるぐ(廻)は友樹に疑問を突きつける。当たり前だろと言わんばかりにさらにナイフを突きつけて威嚇してきた。 「だからお前らをまず先に殺すんだ!」 友樹は怒りながら辺りに喚き散らす。強引に沙希をD・ホールへ再び連れ込もうとしたところに久凪が詰め寄った。 「なるほど、離れたくなかったってのは本当なんだろうさ。だが、それだけだったとは俺は思わん。少なくとも……死ぬ前にあんたに会えたんだからな。それにな、向こうに行ったからって幸せに暮らせるとは限らんのだぜ?」 「でもここにいても私は死を迎えるだけ」 「沙希だったか、こっちでお前さんを心配してくれてるやつはいないのか?」 「それは――」 「そいつらともう会えなくなっても幸せだって言い切れるのか? 死んだやつの分も必死に生きて、明日死んでもいいって思えるくらいこっちであがいてみないか? 少なくとも、友樹があんたに会えたのは生きたからだ。生きろよ、友樹が安心して眠れるくらい必死に――」 「家族や友人は、君に一日でも長く生きて欲しいと思っている。そんな彼らの願いは君にとって無価値なのかい? 君との時間を少しでも長く過ごしたいと思う彼らの願いは無価値かい? もう居ない人の為に死ぬのではなく、君を大切に思っている、生きている人の為に生きて欲しい」 沙希は考え込んでしまった。友樹かそれとも久凪と快が言うことのどっちが正しいのかわからない。それでもこのまま友樹と一緒に行くのはダメな気がした。 まだ最後のお別れを家族や友人にしていない。少なくともそれから友樹と一緒に向こうの世界に行ってもいいような気がしていた。 「友樹待って。まだ私お別れを言ってないの」 「何を馬鹿なこと言ってるんだ。はやくこっちにくるんだ!」 「いやだ! 助けて」 友樹がその瞬間強引に沙希にナイフを突きつけて迫った。堪らず見守っていた快が二人の間に斬り込んで行った。すぐに友樹も向日葵に同化して隠れて迫る。 スピードで勝る友樹がまず快を容赦なく切り刻む。快も度重なる疲労で倒れ込んだ。だが意地でも起きあがる。もう一度防御力を生かして快も全身で堪えてみせた。その隙にぐるぐ(型)がピンポイントでナイフを狙う。 「くそっ……しまった!」 友樹が額に汗を浮かべた隙にぐるぐ(殖)が懐に飛び込んで沙希を奪う。そのまま後ろに下がって安全圏へとトップスピードを生かして逃げる。 「生きていることは尊い。それを邪魔する奴は誰であろうと容赦しない」 快は熱感知と超直観で敵の位置を察知した。友樹が廻り込む位置を予測してその場所へと跳躍して先に間合いを詰める。そこへタイミング良く友樹が差し掛かった。 重心を低くして友樹の首元を渾身の一撃で十字に切り裂く。 「ぎゃあああああ―――――」 友樹は断末魔をあげて地面に崩れ落ちた。すぐにその存在が薄れはじめてどこかに消え去って見えなくなった。 ●日が暮れた向日葵 友樹が倒されてぐるぐ族は協力してブレイクゲートした。傍らには泣き崩れてしまった沙希の姿がある。すでに陽は暮れて辺りは暗くなってきていた。 夜の風はもう冷たくなってきている。いつまでもここにいれば風をひいてしまうかもしれない。それに沙希の身体にも良くなかった。 「私は結局友樹とは一緒に行くことはできなかったみたいね」 「もちろん、沙希さんが納得して行くなら、止めなかったよ。この世界にあるもの全てに、沙希さんが留まるだけの価値を見出せないなら、きっと止める意味がないだろうから」 「とらさんは優しいんだね」 沙希はとらに気遣われてようやく顔を上げることができた。とらだけでなく、本来はぐるぐ族も納得して行くなら沙希を向こうの世界に送るつもりでいた。 それが結果として沙希が望まなかったためにこの世界に留まることになった。ぐるぐ族は誰が行くのか顔を見合わせた後、沙希の元へ集まってくる。 「しぼんだまま終わる人生さ寂しいべ。パーっと全力で生きれば死んでからの思い出になるべな。治らない病気なら、それを受け入れて開き直らねと顔を上げる事も出来ねえだよ」 ぐるぐ(廻)も沙希を元気づける。幻とはいえ沙希は友樹がまたこの世からいなくなったことにショックを受けていた。 これから友樹なしで残り少ないこの世界を生きて行かなければならないと思うと正直不安でいっぱいだ。 それでも沙希は残された家族や友人のためにもせめて、最後まで悪足掻きしてみようかと思い始めていた。 リベリスタ達に言われたことを胸に仕舞って諦めずに頑張って行きたいと思う。それが最後まで生きられなかった友人や友樹たちへの責任であると思うから。 「どうぞ、全力で足を踏み出し、あなたらしい人生を謳歌して下さい」 ぐるぐ(殖)に言われて沙希は頷いた。もうすでに帰る時間をとっくに越えている。サナトリウムから沙希を心配して出てきた職員たちが叫んでいた。 「それでは、みんなが呼んでいますので帰ります。せいいっぱい諦めないで頑張ってみるつもりです。それに死んだ友樹もそれをきっと望んでいたと思います。本当にありがとうございました」 向日葵達は夜風に靡いて静かに音を立てた。沙希はもう後ろを振り返らずに前だけを見据えている。沙希は頭を下げて皆が待つ家と駆け出して行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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