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PSYCHEDELIC-LAND 人間レストラン

●おいしいおいしいレストラン
 ある山道を歩いていた時のこと。見たことも無い店をみつけた。
 そこは『人間レストラン』。
 奇妙な名前と香ばしい空気に誘われて、私は店の扉を開けた。
 カラランと鳴るウェルカムベルの音と共に、年若いウェイトレスがおじぎをした。
 透き通る声でいらっしゃいませと述べた彼女に少々目を奪われつつも、私は中央の席へと腰掛けた。
 見回してみれば、ウェイトレスやウェイターが壁際をぐるりと囲むように立っていた。店の大きさに対して随分と大仰なことだと思いはしたが、それだけたいそうな店だということなのかもしれぬ。
 やがてウェイトレスがやってきて、ご注文はと尋ねてきた。
 そう言われてもメニューを知らない。私がそう述べたところで、ウェイトレスはどこか可愛らしく笑った。
 失敗をはにかむ少女のような表情に見とれていると、木の板に絵筆を使って描いたような、美しいメニュー表が差し出された。
 シチューにステーキ、ハンバーグにフライドレッグ。肉料理なんですねと言うと、ウェイトレスはまたもはにかんで笑った。
 私はどれも興味があったが、全て食べて帰るだけの腹と財布は持ち合わせていない。シチューとハンバーグがセットになったメニューを見つけて、私はそれを注文した。
 店の奥からは鼻をくすぐるいい香りが漂ってくる。
 シチューの香りだ。ホワイトソースとよく煮込んだ肉の香り。既に仕込みは済んでいるのだろう。プレートで肉を焼く音が聞こえてきた。
 肉からしみ出た油が鉄板を跳ねる音だ。
 料理が出てくるのが待ち遠しかったが、私がそう長く待たされることは無かった。
 ほどなくして私の目の前にはシチューとハンバーグが運ばれてくる。
 一緒に焼きたてと思しきフランスパンもだ。
 私は手を合わせ、まずシチューにスプーンをいれた。
 表面でうずまきを描いていたミルクが崩れて溶け込み、とろりとした、それでいてやや重みのある感触が帰ってくる。
 底の方を軽くかき回してみれば、すぐにブロック状のものにあたった。香りでわかる。きっと肉だ。
 スプーンですくってみれば、今にも崩れそうなほどよく煮込まれた肉が顔を出す。
 驚くほどに肉が大きい。底の深いシチューポットに入ってはいるが、層で無ければ常に顔を出していたであろう大きさだ。それがここまで煮込まれていたとなると……。
 山歩きで腹が減っていたのもあったのだろう。私は一口で肉を頬張った。
 ほふほふと熱を逃がしながら口の中で転がせば、とっくりと溶け出した肉のエキスがシチューにしみこんでいるのが分かる。やがて肉を噛もうとすれば、ほぼ抵抗なく歯が通っていく。最後に少しだけ抵抗したのは、肉の大きさがゆえだろう。
 そこそこにある塩の味と油の深み。なんという味わいだろう。これまでシチューはそれなりに食べてきたつもりだが、まるで初めて食べたかのように新鮮な味わいだ。
 シチューでこうなのだ。ハンバーグならどうだろう。
 私はナイフとフォークを手にとって、ハンバーグに突き立てた。ぷつんと音を立て、フォークの穴から肉汁がわき出してくる。少々跳ねもした。
 どれだけ内側に凝縮していたものか。ナイフを通してみればそれは一目瞭然だった。まだ少々熱いプレート上に、決壊したダムの如くあふれ出た肉汁がじゅわあと音をたて、今まさに私の鼻腔をくすぐるのだ。
 これが我慢できようか。私は細かく切ることも忘れ、半分にしたばかりのハンバーグに直接かぶりつく。
 口の中で一気に広がる肉の味。香辛料が上手につかわれているのだろう。くさみは一切感じない。代わりにすこしばかり胡椒と玉葱の味わいが転がり、それらを肉の味が蹂躙していく。
 一口だけで私の口内を、そして飲み込むにつれ全身を蹂躙していく。
 なんと素晴らしい料理だろう。
 私は瞬く間にメニューを食べ終え、少しばかり名残惜しさを感じながらもウェイトレスに声をかけた。このメニューはいかほどでしょうか?
 思えば値段も知らない料理を豪快に食べてしまったものだ。はじめは高額だったらどうしようなどと思いもしたが、ここまでの料理ならば納得である。今度誰かを誘って喜ばせてやるのもいい。
 そう考えていると、ウェイトレスは笑っていった。いいえお代はいりません。
 まさか失礼なことでもしてしまったのだろうか。追い出されて二度と店に来れないとなれば悔しい。私は理由を問いかけたが、ウェイトレスはまたもはにかみ顔で言った。
 このレストランは開店したばかりです。お味を知っていただくためにお代は頂いておりません、と。なんと立派なことだろう。私は首を振り、それでもチップは払いたいと少し強引に紙幣を押しつけた。ウェイトレスは少し困った顔をしたが、すぐに笑顔になって私を出口へと案内してくれた。お帰りはこちらです。
 入り口とは別の扉だ。理由を聞いてみれば、この店の料理を食べた後にこちらから出たならば、その光景に心がふるえるでしょうとのこと。
 店を出た後の景色まで考えに入れているとはおみそれした。私は意気揚々と扉を開け、くぐり、そした閉められた。
 閉め出された、ではない。
 閉じ込められた、のだ。
 綺麗で広いキッチンだ。
 寸胴鍋とかきまぜるコックが、こちらを振り向いた。
 よく来たな。次の食材が足りなくて困っていたところだ。とても助かった。
 コックはそう言った。
 訳も分からず視線を巡らせると、寸胴鍋の縁から子供の足が突き出ているのが見えた。
 口を押さえる。
 扉を開けようにも開かない。無理矢理蹴飛ばして開けたならば、ウェイトレスやウェイターたちがわたしを囲んで立っていた。
 ご来店ありがとうございました。
 またのおこしをお待ちしております。
 私は大量のフォークとナイフを持った彼女たちを前にして、先程食べたハンバーグの気持ちを理解した。なに、気持ちを知らずとも、すぐに同じ姿になるだけだ。
 ここは『人間レストラン』。
 おいしいおいしいレストラン。

●あそこは『人間レストラン』。
 フィクサードの経営するレストランがある山中にあるという。
 ここまで説明したとおり、お察しした通りの店だ。
 それなりに広い店内ではあるが、不相応なまでにウェイトレスたちが立っており、その数実に18人。
 七割方はひ弱なフィクサードだが、一部だけはハイレベルな者が混じっているとも聞く。
 この店に乗り込んで、全てのウェイトレスとウェイターを倒すのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月12日(木)22:41
 八重紅友禅でございます
 補足をよくお読みの上ご参加ください。

●成功条件
 全てのウェイトレス、及びウェイターを殺すこと。
 そもそもフェイトの微量な者たちですので、ワンキルで殺しきれる筈です。
 フィクサードはウェイトレスとウェイターの計18人だけです。
 やりかた、ころしかた、あとかたずけ。
 すべてあなたにお任せします。

●エネミーデータ
 18人のうちおよそ15人があまりレベルの高くないフィクサードです。
 デュランダル、ソードミラージュ、プロアデプト、インヤンマスターの混成部隊です。残り三名がそれぞれデュランダル、ソードミラージュ、プロアデプトで構成されています。これらは上級スキルを使えるレベルのフィクサードですので、手強い相手になるでしょう。
 明らかに動きが違うので見分けは付きますが、雑魚は雑魚なりに考えますので、自分の肉体をどう使えばマシに事態を進められるか心得ています。要するに場合によっては肉の盾になるということです。死期が早まるだけという気もしますが、そうやって硬くなられるくらいなら、雑魚連中から一掃してしまうのが賢い戦い方かも知れません。

 以上です。
 成功条件さえ達成されれば、後はお好きにどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
ホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
ダークナイト
廿楽 恭弥(BNE004565)

●carnival
 クローズドボード。
 ドアノブ。
 握り込む赤服のシスター。
 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)。
 瞑目。
 ノブを捻る。
 ドアに靴底をつける。
 蹴り開く青トカゲの男。
 『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)。
 いらっしゃいませと言うウェイトレス。
 集中する銃口。
 弾込めしたマスケット銃。
 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)。
 安全装置を外したアサルトライフル。
 『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)。
 火蓋を開けた火縄銃。
 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)。
 最後に顎へ押しつけられる小型拳銃。
 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。
 とどめに後ろ首へ回る両刃の剣。
 『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)。
 通達だ。
 鷲祐は言った。
 本日のルセットは変更だ、と。
 ルセット?
 首を傾げる海依音。
 おかしな紳士服の男が耳打ちをした。
 レシピのことですよ。
 『変態紳士-紳士=』廿楽 恭弥(BNE004565)。
 海依音は両手を合わせて笑った。
 鷲祐は額に手を当てた。
 一斉に引かれるトリガー。
 時間が急激に巻き込まれていく。
 もはや止まらぬデスパーティー。
 よもや逃れぬデッドマンズメニュー。
 前菜からデザートまで、まとめてクロスに包んで燃やす。
 死ぬまで終わらぬ。
 終わらせぬ。
 ――銃声が鳴るよりも早く飛び出した弾丸が既にかがんだウェイトレスの頭上を越え彼女のスカートの裏に並んでいた薄手のナイフが上向きへ放たれるがそれを木蓮と龍治は首を傾けて同時に回避し五発の弾丸と五本のナイフはそれぞれ天井に突き刺さりウェイトレスが袖の内からティースプーンを取り出したその瞬間には鷲祐のつま先が彼女の鼻をへし折りそして一斉に倒されるテーブルを飛び越え天井を蹴るウェイターがユーディスの頭上を彼が越えると同時に地を滑るように駆けた別のウェイトレスが鋭利なフォークを握って突撃するも直感で身を翻したユーディスの剣によってフォークがはじき飛ばされ続いて取り出されたスプーンがまっすぐ彼女の右目へ向かって直進するもユーディスの肩越しにまっすぐ繰り出された恭弥の布が針のように螺旋を描きウェイトレスの右目を貫通し頭蓋骨ごと後方へ突き飛ばしユーディスは回転の勢いを殺さぬまま今し方頭上を飛び越えたウェイターに剣を突き刺し空中で固定するとミュゼーヌと龍治が両脇を抜けつつ銃を両サイドから発砲し頭部と胸部を同時に粉砕し尚も動こうとする彼の体内に小銃が突っ込まれ木蓮はフルオート射撃しデスダンスを踊らせ更に鼻をなくしてうめくウェイトレスの頭を踏みつけにして呪言の炎で塵へかえした海依音のウィンクを涼しい顔で無視してユーヌが護符を投擲し目の前に並ぶ障害物用のテーブルもろとも疑似玄武によって粉砕した――。
 慌てるな。今より閉店、営業中止だ。
 ユーヌはテーブルの上で空気の椅子に腰掛けると、優雅に顎肘を突いて言った。
 夜逃げの準備はしてあるか?
 時間の感覚が更に縮まる。
 一瞬で眼前まで迫っていたウェイターのフォークが開いたユーヌの口へ突き込まれ、ユーヌはギリギリのところでガチンと歯でくわえ込んだ。
 両足で突っ張って蹴飛ばす。対するウェイターは中空に飛び上がっていたウェイトレスの円形トレーを足場にして逆三角飛びし、地面を軽やかに転がりつつ大量のフォークを投擲。
 ユーディスの翳した盾にフォークが思い切り突きたち奇妙に振動する。
 そうしている間にも左右から多い囲むように二人のウェイトレスたちが回り込みコルク抜きを同時に構える。
 ミュゼーヌと龍治はそれぞれ左右入れ替わって射撃。同時に放たれた二発の球形弾頭はしかし紙一重でかわされる。まったく同時、まったく同じ動きである。龍治の肘に、ミュゼーヌの二の腕に突き刺さり螺旋状にねじ込まれるコルク抜き。しかし彼らの放った弾丸は空中を泳ぐかのようにカーブし、つい今し方フォークを投擲しばかりのウェイターと彼を跳ねさせたウェイトレスの身体を貫通して更にカーブ。一周してコルク抜き持ちのウェイトレス二人の後頭部へと同時にねじ込まれた。
 身をかわすミュゼーヌと龍治。二人の後ろでウェイトレスがキスをした。と同時に砕け散る頭部。
 抱き合ったまま膝を突く二人の死体を踏み台にしてミュゼーヌたちを飛び越える鷲祐。彼を迎え撃つかのように跳躍し円形トレーを叩き付けてくるウェイトレス。
 逆手に持ったナイフがぶつかりトレーの側面を急激に削りながら火花を散らした。
 トレーの半分ほどを削った所で鷲祐は回し蹴りを繰り出す。素早く身を一回転させたウェイトレスがフォークでそれを迎え撃つ。突き刺さるフォーク。しかしそのまま拉げるフォーク。鷲祐は途中に何の障害も無かったかのようにウェイトレスを蹴り抜いた。
 天井から下がったレトロモダンな照明器具を粉砕しつつ床に転がるウェイトレス。彼女を飛び越えて長いテーブルクロスを鞭のようにしならせたウェイターが襲いかかってきた。
 明後日の方向から伸びる白い布がクロスに絡まり。ぎっちりと固定した末お互い引っ張り合いの状態へと発展。布の先で恭弥は薄く笑って指を鳴らす。すると暗黒瘴気が布を伝ってウェイターへと伝染。そこから更に床へ転がったウェイトレスたちにまで伝染し、彼らは血液と内臓の内容物をごちゃ混ぜにしてはき出した。
 その吐瀉物を踏みつけて横走りする木蓮。自分へ放たれるフォークやナイフを小刻みな射撃ではじき飛ばしながら部屋の端まで走りきると近くのテーブルを駆け上って内側へ射撃。身を屈めていたウェイトレスを蜂の巣にすると更に横のウェイターにも自動射撃を開始。しかしウェイターは引き抜いたテーブルクロスで全てすくいきるとそれをそのまま木蓮へと投げつけた。大きな布で視界を一瞬だけふさがれた木蓮にナイフを突き立てようとするウェイター。しかし横合いから叩き込まれた龍治の射撃がナイフの軌道をずらし、更にテーブルをたたき割る勢いで繰り出されたユーディスの剣によってウェイターは斜めにスライスされた。
 飛び散った人間の内容物を更につぶす勢いで踏みつけるミュゼーヌ。同じく海依音。
 海依音は杖でミネストローネのようになった地面を叩くとジャッジメントレイを発動。光にひるんだ所へユーヌは次の護符を放り込んでやった。中空で疑似玄武へと変じた護符は近くに居たウェイターやウェイトレスの腕や足を服の上から食いちぎって暴れた。苦し紛れに繰り出してきたナイフを手袋越しにキャッチするユーヌ。フォークに刻まれた美しい模様をしばし観察した後、足下へ捨てた。仰向けの死体に突き刺さる。
 そうしてついに。
 ウェイター一人とウェイトレス二人きりが残ることとなった。

 ぱちぱちぱちと手を叩く音がして、鷲祐は手を止めた。
 死屍累々の店内に片眼鏡のウェイターが立っている。だというのに靴から手袋の先に至るまで一切の汚れが無かった。
 血の一滴すらついていない。それだけの性能。それだけの潔癖ということか。
 ウェイターは眼鏡を手首の付け根で押し上げると、慇懃無礼なイントネーションで語り始めた。
「お見事ですお客様。当店でここまで召し上がった方は初めてでございます。敬意を表しまして、僭越ながら自己紹介をば」
 胸に手を当てるウェイター。同じく深く頭を下げるウェイトレスの二人。
 一見隙だらけだが、うかうか手を出せばみじん切りにされかねない。革醒者というやつは、とにかくそういった真人間的弱点というものが通用しない。きっと彼らはまち針の上で踊ることさえするだろう。
「わたくしは当店のフロア指揮を担当しております、『651番』と申します。左右の者は、お客様からみて右から『901番』と『911番』でございます。以後お見知りおきを」
「…………」
 ミュゼーヌがみるからに不快そうな顔をした。なんだその呼び名は。ふざけているのか。
 顔を上げる『651番』。
「皆様がわざわざ入り口から入られたということは、区域封鎖がすでに成されていると見ても?」
「愛の巣と言ってほしいですね。外を気にせずにゃんにゃんできますよ。延長料金も取りませんし」
 恭弥は服に付いた血肉を布でぬぐいながら言った。彼も彼でふざけている。
 銃の狙いをぴったりと相手に定める木蓮。
「お前ら、こんな店で、こんなことしたからには、自分が料理される側になる覚悟もしてるよな? してないなら、今から覚悟をしてくれ」
「はあ。つまりそれは――」
 『651番』の、いや店内の空気がどんよりと歪んだ。
「牛や豚を食うからには、食われる覚悟をしておけと。そういう意味ですか?」
「人間は牛や豚じゃない」
「そう思っているのは人間だけですよ」
「――!」
 がり、と木蓮は奥歯を噛みしめた。
「お前ら、人間じゃねえ!」
 『651番』めがけて発砲。片眼鏡が粉砕し眼球を貫通。そのまま後頭部から弾が抜けるが彼は全く意に介した様子も無くこちらへ踏み込んでき――。
 気づけば木蓮は椅子に座り、ナイフとフォークを持っていた。ナプキンを膝に置き、今まさにテーブルに置かれた大皿を見下ろす。鉄板の上で油がはねるワンプレートステーキだ。
 向かいには龍治がいて、こちらの調子に気づいたのか先に食べろと苦笑する。
 肉にフォークを突き刺し、ナイフを入れる。レア焼きのステーキからはやや赤い肉汁があふれ出て、またも鉄板で跳ねる。
 だがその時になってようやく気づいた。木蓮が今ナイフを入れたのは、龍治の腹だった。
「……は?」
「木蓮? 木――」
 はっと瞳孔が開く。
 龍治が、木蓮の肩を強く掴んで叫んでいた。
「木蓮、しっかりしろ! 正気を保て!」
 視線を下ろす。木蓮は今まさに、龍治の腹に小銃を押し当て、フルオートで射撃していた所だった。
「あっ、うわ!」
 指を離そうとするが離れない。混乱に陥りそうになった、そんな所で、ユーヌが光る手袋で彼女の頬をはたいた。魅了の邪気が抜けていく。
 龍治も龍治で何らかの術にかかっていたらしく、脂汗を額に浮かべつつも安堵の息を吐いていた。
「よく我慢したな龍治。なかなかできることじゃない、と言って置いてやろうか。まあ長続きするとも思えん、精々同士討ちに気をつけるんだな」
 手袋に淡い光を宿したまま、ユーヌは横目で振り向いた。
 つい今し方のこと。『651番』が目にもとまらぬ速さで木蓮に接近し、額を指でトンと突いた途端にこんな事態に陥ったのだった。
 龍治らしく言うならば『火蓋が切って落とされた』ものである。即座に彼を狙って発砲するが、打ち抜いたのは彼の残像であった。気づいた頃には龍治の額も同じように指で突かれていた。
 それだけではない。左右から空中でも走っているのかという無茶苦茶な機動で『901番』と『911番』が急速接近。それを突如二人に分裂した鷲祐が蹴りと斬撃で迎撃。空中にホバリングしたままの打ち合いに発展。しかし一対二。鷲祐劣勢かと思われたその時横から割り込むように飛び込んだミュゼーヌが『911番』の腹に鋼鉄の足をめり込ませ、胸部永久炉を青白く発光。ぴんと伸ばした足にそえるかのように銃を突きつけ、全力で発砲した。
 『911番』は回転すらせずに店内の壁に激突。そのまま窓枠や絵画を破壊しながら野外へ転がり出た。
 即座に起き上がった『911番』の腕に巻き付く白い布。いや、布は一瞬にして赤く染まり、壊れた壁をまたいで出てきた恭弥が布を引いた途端に彼女の手首を引きちぎってしまった。
 大きめのミートハンマーを服の内側から引っこ抜き、殴りかかる『911番』。それを許さぬとばかりに割り込んだユーディスが盾でハンマーを受け、衝撃を逃がすこと無く剣で斬りかかった。
 ぶった切れて飛ぶ『911番』の首。
 それをキャッチして、恭弥は片眉を上げた。
「この子が材料だったら私も食べたくなったんでしょうけどね」
「はい?」
「ああいえ冗談ですよジョーダン!」
 ぱたぱたと手を振る恭弥。が、そんな彼の腹から人の手が生えた。
 いや、生えたのではない。
 背後へ急速に接近していた『651番』の腕が貫通したのだ。
 腕を引き抜かれ、うずくまる恭弥。だがそれだけだ。死にはしない。
 木蓮の小銃と龍治の火縄銃がそれぞれ『651番』の後頭部めがけて発砲。彼はまるでスイカのように砕けて散った。
 振り向くと、海依音が『901番』の顔を両手で覆うように掴み、唇が触れんばかりの距離でフゥと吐息を吹きかけた。途端浄化の炎に包まれる『901番』。
 最後にはゴミのように捨てられ、ゴミのように燃えかすだけが残る。
 海依音は胸に手を当て、清らかな顔で微笑んだのだった。
「アレルヤ」

●cannibal
 さて。
 当店にはもう一人スタッフがいたことを、誰もが気づいていたと思う。
 あまりにあからさま過ぎて、気にしない方が無理というものだ。
 ミュゼーヌは『お帰りはこちら』と書かれた扉を無理矢理蹴破ると、震える手でがちゃがちゃと裏口の扉に鍵を突っ込もうとしている男の足を撃った。むろん警察に配備されている拳銃とはわけが違う。狙いを一ミリたりともそらさず足首の関節部分に着弾。内部構造ごと破壊して足首から先を吹き飛ばした。
「どこに行こうというのかしら?」
「あっ、ああああっ、足が! い、痛い……!」
 足首を押さえてのたうちまわる男を、うつ伏せにしたまま踏みつける海依音。
 それ以上身動きをとらないようにと、ユーディスが彼の首筋に冷たい剣を押し当てた。完全な刃物である。ぷつりと肉が切れ、じんわりと血が滲んだ。
 だがそれすら逃れさせぬとばかりに髪の毛を掴みあげ、鷲祐は彼の顔を覗き込んだ。
「質問を三つするぞ。貴様は何者で、経営者は誰で、アンタの一番大事なものはなんだ」
「や、やめろ! 警察を呼ぶぞ! お前らは――」
 地面に顔を叩き付ける。
「……もう一度最初からやりたいか?」
「や、やめて……ください……痛い……足が……救急車を……」
 小さくため息をつく鷲祐。これではただの一般人いびりだ。甲斐もない。
 彼の頭から手を離し、立ち上がる。
 瞬間、腹の下に隠していた包丁を男が握り。
 瞬間、鷲祐がパチンと指を鳴らし。
 瞬間、男は五センチ間隔で輪切りになった。
「あらやだ、乱暴」
 スライスされた肉をぐにぐにと踏みながら、海依音は瞑目した。
 口に手を当てて後じさりするユーディス。
「質問の答え、海依音さんはわかりましたか?」
 笑う海依音。
「最初から知っていたことと、今知ったこと。それで全部でしたよ」

 まっとうな飲食店なら、ロッカールームや待機室のようなものがあるはずだ。
 そう思って入った部屋はほこりっぽい倉庫だった。
 掃除用具やストックの食器など、倉庫に入れるべき物品がそれなりに入っている。
 木蓮と龍治はしばしの休憩を挟んだ後、それらを片っ端からがらがらと漁った。
 椅子に座って様子を見るユーヌ。
 彼女の突きだしたワイングラスにジュースを注ぎながら、恭弥がくすくすと笑った。
「この後、神裂さんにフォークやナイフやコルク抜きを片っ端から読んで貰うわけですが、大丈夫でしょうかね。何時間かかることやら」
「さあな。知らないが……直観でものを言ってもいいか?」
「なんなりと」
 ユーヌはグラスの中身を一気に飲み干すと、手の甲で口をぬぐった。
「ゲオルグ・ホットドック、人肉研究家カール、ミルウォーキーの食人鬼。まあカニバリズムの理由は色々あるが、そのまま食うには適していない。私たちは肥え太らせた豚ばかり喰っているからな。だが手際よく調理するなら『人間にとって必要な栄養素を100%含んだ食材』ということになる。まして人間は自らの欲している栄養素を美味しく感じる感性があるからな。突き詰めるとまあ……そういうことだ。わかるか?」
「いえ、まったく」
 恭弥は笑って、ブドウのジュースをラッパ飲みした。

 夜更け。ぐったりとした海依音が鷲祐に支えられて帰路につくころ、木蓮と龍治は手を繋いで山道を歩いていた。
「気分なおしに、レストランにでも行くか」
「……ん」
 山道は暗く、ながく続いている。
 少なくともこの先には、誰もが知っている日常が待っていることだろう。
 裏も表もないまぜにした。
 人間の日常というものが。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 お口直しはいかがですか。