●くれなゐ 長い耳をぴくりと揺らしてフュリエの少女アラザンはきょろきょろと周囲を見回して居る。 彼女の周りでぴょんぴょんと跳ねている『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は何処からどう見ても唯の観光客だ。 「リベリスタ! ボク、キミ達を待ってたんだ! さあ、手伝ってよ!」 突如口を開くフュリエの少女にリベリスタも首を傾げるしかない。 要領を得ない話し方をする少女に「はい!」と手を上げた世恋がドヤ顔で一歩踏み出した。 「ラ・ル・カーナです。 と言う訳で、研究開発室から石を探して欲しいってお願いされたんだけど、アラザンちゃんが収穫祭があるけれど準備が出来てないって言うから助けて欲しいっていうの」 ――詰まる所、手伝って欲しいと言う事らしい。 うんうんと頷くアラザンに世恋がドヤ顔で「言いました」と胸を張る。 残暑の柔らかな風が吹く中で、再生される世界はゆっくりとその緑を眼前に広げていく。 花等が綻ぶ中で、実りの季節であるのだから木の実なども沢山存在しているのだろう。 アラザン――フュリエ達と共に収穫祭の手伝いをするもよし、再生し始めたラ・ル・カーナの探索もするのは良い。 バイデンが住んでいたと思われる集落の場所にも行く事はできるだろう。彼等は居らずともその空気を感じる事は出来ると世恋は言う。 勿論、全力で石を探すのもありだ。研究開発室は忘却の石の追加を求めているという話も出ていた。 フュリエの村でのんびり過ごすのもありだ、と世恋はにこりと笑う。 「あ、関係ないんだけど、紅いコスモスって調和って花言葉らしいわね。 ラ・ル・カーナでのんびりってのもいいんじゃないかしら? さ、行きましょうか」 手招きする世恋がおいでおいでと楽しそうに笑っていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月07日(土)23:54 |
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● 柔らかな風が吹く『ラ・ル・カーナ』、訪れたリベリスタ達を見るなり両手を振って楽しげに笑ったフュリエの少女アラザンは「リベリスタ!」と優しく笑う。 ここ、ラ・ル・カーナは再生している。夏栖斗が気にして居た世界樹の緑豊かな事もそうだが、フュリエ達が『収穫祭』を行えるほどに彼女たちの住処は荒野から森へと再生して居たのだろう。 「久しぶりだね、アラザン。あれから勇者活動はどんな感じ? 今日も元気に勇者してる?」 「勿論! ボクは勇者だ。『おねえさま』達を護るために頑張ってる!」 共に戦った『勇者』は胸を張る。淡い藍色の瞳は細められ、自慢げな彼女に小さく笑えば、探索を目的としたリベリスタ達が顔を出した。 「可憐なお嬢さんたちが多いので男手として働きますか! ぬふふ、俺のタフな男っぷりを見せつけてフュリエたんたちのハートをドキュンズッキュンですよ!」 「どきゅ……?」 首を傾げるフュリエ達に石は一つ拾えば満足だと竜一は収穫祭の手伝いを買って出た。勿論、喜ばしいと頷くフュリエはどれも美女ばかりだ。 有難う、と笑うアラザンの頭を撫でた竜一が「アラザンたんもかわいいねえ。ボクっ子かわいい」とボトムに良くある事情を全開にしているが生憎、フュリエの面々は良く分からない様子だ。 「世恋たん! 俺のいいところをフュリエたんに言って広めてやって!」 「え? あ、つ、つよい!」 ――適当だった。 可愛い可愛いとフュリエをくんくんすりすり。お兄ちゃんに任せなさいと言う彼ではあるが末っ子フュリエ・エウリスが17歳である時点で竜一より年上のフュリエも多い訳で。 「あ、アラザン。それ持つよ。すごいね、収穫。一つつまみ食いしていい?」 「口に合うか判らないけど、キミが食べたいなら」 どうぞ、と差し出される木の実を齧って夏栖斗は「アイツらに貰って美味しかったんだ」と小さく口にした。翳りが産まれたアラザンの表情に小さく笑みを浮かべる。 このラ・ル・カーナにバイデンという忌み子――フュリエ達から見れば確かにそれは忌むべき存在だったのだ――は11年生きた。そして、その闘争の果て、リベリスタ達の『選択』によって滅びたのだ。 忘れるわけにはいかないから、とアラザンの頭を撫でた夏栖斗は村の中へと入っていく。その後を歩きながらきょろきょろと周囲を見回す珍――失礼、那由他は唇に指先を当て、楽しげに笑っている。 「ふふ……可愛い子達のお手伝いをするのは吝かではありません。こうやって好感度を上げていけばいずれ私に対する警戒心も和らいで好かれる様に……ふふふ」 そうは思いませんか、とぐるんと緑の瞳を世恋に向ける珍粘に首を傾げるフォーチュナ。可愛い子が大好きな那由他は怖いと避けられる事が最近の悩みだったのだろう。 「皆さん、私にお手伝い出来る事は無いでしょうか? 得意な事は力仕事です! えーと、後は破壊活動も大好きです。黒死病を撃つのなんて堪りま……あ、い、要りませんか」 ふるふると首を振るフュリエの少女に肩を落とす那由他に小さく笑みを浮かべた篠はフュリエの面々が用意する酒類を見詰めながら商店などは無いかと村の中を歩き回っていた。 「たまには女の子に囲まれたって良いじゃないスか……!」 可愛い女の子が多いとテンションを上げるのは仕方ない事だ。鳴未が目を輝かせ、何をしたらいいッスかと近場のフュリエに問いかける。 「自然豊かなんスね、ラ・ル・カーナって。一時期は滅びかけてた、って聞いてるッスけど……」 「それを救ってくれたのがリベリスタの皆さんなんですよ」 リルルと申しますとフュリエは長い髪を揺らして鳴未へと小さく笑う。緑が戻っていく様子を目に焼き付け、一緒に木の実を運んで下さいと歩くフュリエはちらりと鳴未へと視線を向ける。 「また来たくなっちゃうッスね。可愛い子も多いし、なんつって」 「――リベリスタが良いなら、いらっしゃって下さいな。リルルはお待ちしてますから」 ラ・ル・カーナは、素敵な所でしょう? 素敵な土地だとリルルが称するラ・ル・カーナ。久々に故郷に踏み入れた気がするアルシェイラはボトムから持ち込んだ林檎を手にフュリエへと声をかける。 「アーシェ!」 嬉しそうに笑うフュリエは久々に目にした『妹』の姿に楽しげに笑っていた。収穫祭は大事だ、と「収穫にいくの」と彼女は瞬く。 「料理は、全く、上達してない、けど。……うん、収穫の方、行くね、大丈夫」 「気を付けてね」 頭を撫でられる感覚はくすぐったい。超直観を駆使し、木の実を採ってくると走るアルシェイラは後で想い出話を聞かせるんだと胸を弾ませる。 「ここがラ・ル・カーナか……! 初めて来た! 祭りの準備中なんだって?」 「うん、リベリスタもボク達と祭りの用意をしよう!」 楽しげに周囲を見る太亮の兎の耳がぴょこりと揺れるのを楽しげにアラザンは見詰めている。高い所へ昇り、木の実を取りながら太亮が気にしているのは『忘却の石』の事だった。太亮がその石の存在を知った時、在庫は切れていた。凄い事と皆が必要な事は判って居ても、どんな物なのかは太亮には判らない。 「忘却の石って、どんななんだ?」 「リベリスタが便利に使う物だとボクは思うよ? 後で探してみよう」 『ゆうしゃ』も一緒に行くよと胸を張るアラザンにOKと返して太亮が落とす木の実が一つ。ぽろり、と地面へ転げて行く。 「いやいや、実に素晴らしい。お嬢さん、危ない仕事は男に押し付けて下さいね」 にこりと笑った恭弥にアラザンや他のフュリエがこくんと頷く。美しい女性達の中で幸せそうな恭弥は木の実をアラザンの袋に入れた後、柔らかな雰囲気を纏うお姉さん的な雰囲気のフュリエの手を取った。 「さて、申し遅れましたが私は紳士の廿楽恭弥です。良ければお名前を教えて下さい、フュリエのお嬢さん」 「エ、エルヴィーナ……」 「エルヴィーナ、良い名前だ。知っているかもしれませんがフュリエと我々ボトムでは、生まれ方が異なるんですよ。良ければ私と子作りしませんか。私達の出会った証を後世まで残しましょう!」 突然の恭弥の言葉に瞬いたエルヴィーナが首を傾げる。背後からぽかん、と投げられた木の実は世恋アタックだった。 『子作り』と言えば、無論、彼も興味を持つ事だろう。雷慈慟は食材を運ぶフュリエへと「そこ行くフュリエの御方」と一声。無論、客人たるリベリスタに声を掛けられた以上、彼女とて足を止める事だろう。 「どうだろう、一つ。子を宿しては貰えないだろうか」 「……?」 ええと、と首を傾げるフュリエに小さく笑い、雷慈慟は農業の足しになればとボトムの生物達をフュリエ達に披露した。丸い瞳は興味深そうに牛や馬を見詰めている。 フュリエのお嬢さん方はよほど魅力的なのだろうか。甚之助は楽しそうに笑っている。タバコは我慢、そのストレスでお嬢さんに当たらない様にも注意。 美人を見れれば機嫌が良いからと甚之助はうろうろと村の中を歩き回っている。美人ばかりで、天敵も減った。良い所じゃないかと小さく笑う。 「俺らの世界で揉め事が無くなったら、移住交渉とかするのも楽しそうだなァ」 揉め事は到底終わりそうにないのが残念だがと笑う甚之助に興味を持ったのかフュリエが首を傾げれば彼はボトムのお伽噺を話して聞かせた。 あれやこれやと聞かせるうちに楽しそうに笑うフュリエに頷いて、じゃあ、これは如何だろうと話を続けていく。 彼等の様子を見詰めながら翔護は気まずそうに溜め息を漏らしていた。リアルに木の股から産まれてきた『フュリエ』は誰をとっても淡泊に思える。一が全。その言葉は余りに興味に感じてしまう。 「……いや、まあ、フュリエの姉ちゃんナンパしかけて即全滅したってわけ……タハハ」 言い訳ですよ、と翔護は頬杖を付きながら呟いた。バイデンと戦ってる時は翔護はまだ駆け出しだった。 自分で「アレするにもキャッシュ」で「コレするにもパニッシュ」だったなあ、と小さく思う。 あんまり変わってない――のもきっと個性なのであろうが。 「これ、美味しいの? 初めてみたわ。料理にも使えるの?」 食べてみて、とフュリエが差し出す木の実を口にすれば程よい酸味が広がっていく。祥子が嬉しそうに笑う事にフュリエも楽しげに頷いた。久々に出逢った友人たちに義弘も何でも任せてくれと微笑んでいる。 動物の鳴き声を聞きながら、石の話を聞きながら二人はゆっくりと手伝いを続けていく。移動するときに握りしめる手。異界の土地はどれも目新しい物ばかりだ。 「しかし、あの変貌した世界が、こんな風になるとはなぁ。これも自然の力、フュリエの努力の力、と言っていいのかね」 「そうね、凄いわ。あ、あっち、あっち行ってみましょう?」 ひろさん、と呼ぶ声に頷いて、石の聞き込みをしながら祥子の両手に抱えられた木の実を摘まむ。やはり酸味が舌に広がる。美味しい料理と美味しいお酒、ソレがあれば収穫祭だってきっともっと楽しめる筈だ。 「ムッハハ! 私凄いから何でも手伝っちゃうのね~ん!」 豊満な胸を張って神那が楽しげに笑う。全力で『私は凄いぞ』アピールを行う神那にアラザンが「流石リベリスタ!」と声をかけている。自慢げな神那に沢山の仕事が与えられたのは言うまでもないだろう。 ● のんびりとお散歩、というと何処かくすぐったい感じがするとアリステアは笑みを零す。 「散歩も良いんじゃないか。良い雰囲気だしね?」 「前、此処に来た時は荒地も多かったけど……綺麗になってきたね、見違える」 石拾いも忘れずに、と小さく笑い合ってゆっくりと歩く涼はアリステアの言葉に耳を傾けた。 此処は橋頭堡を作り、戦争状態になって居た場所だと言うのに、今はこんなにも平和で、静かで、素敵な場所に思えるのだから。 「はい。お茶持ってきたの。一緒に飲も? クッキーもあるよ」 「ああ、有難う。もうちょっと散策したら後で収穫祭にも顔を出してみようか」 きっと楽しいよ、と涼が笑いかける言葉にアリステアが小さく頷いた。ご飯は美味しいのかな、一緒に回ろうね、と幸せそうに笑うアリステアの額につん、と触れて、豊かな自然の中で青い空を見上げる。 「食べることばっかりだな」 「ちゃ、ちゃんと石も拾ってるでしょ?」 む、と頬を膨らますアリステアに楽しそうに笑いながら、喉を通るお茶はとても美味しく感じた。 「世恋ちゃ……月鍵さん、共に行きましょうか」 心配と言う訳ではないが、何かと大変かもしれないと見た目では年下に見えてしまう世恋の事を『世恋ちゃん』と呼び掛けた恵梨香が咳払いを一つ。 アウトドアでは転んだりぶつかったりと危険がいっぱいだ。まるで親の様に注意して目を光らせる恵梨香に世恋は小さく笑みを浮かべる。 「それは?」 「石を探しつつ、地図を書いて写真を用意すればマップが作れるかなと。 あ、サンドイッチで良ければ作ってきましたから、紅茶もありますし、後でどうでしょうか?」 「喜んで! ふふ、ピクニックみたいね」 幸せそうに笑う世恋の元へと顔を出したロアンが「ピクニックなら一緒にどうかな」と誘いをかける。勿論、世恋と共に居るアラザンや恵梨香も一緒だ。 「石のありそうな場所なら……アラザンさん、判るかな? フュリエなら土地勘あるだろうし……。 ああ、こんな時にアルパカでも居れば……ほら、あいつだと色々判りそうじゃない?」 「アルパカ? ソイツは強いの?」 きらきらと瞳を輝かせるフュリエに「大体ね」と笑って広げたレジャーシート。恵梨香のサンドイッチに料理男子ロアンのロールカツが加わって豪勢な食卓が其処には広げられる。 おかずは小さめにしてピックで食べられるようにしてあり、女の子に配慮した造りだとロアンは笑う。 「それでも、君達だと一気に一口で食べるのは大変かも? アラザンさん、どうぞ」 「これがボトムのご飯? なんか、美味しそうだね」 頬張るアラザンに微笑ましそうに笑うロアン。見上げる世界樹は平和を象徴する様に風で静かに揺れている。 「あら……?」 少し待っててね、と席を立つ世恋が世界樹に凭れかかる悠里へと「悠里さん」と小さく笑う。 唐揚げ弁当を食べる悠里が「世恋ちゃん」と手を振り、眼鏡越しに世界樹をゆっくりと見上げた。 「此処に来ると思い出すんだよね。バイデンと一緒に戦った最初で最後の戦いを」 こっぴどく痛めつけられ、捕まったり、酷い目には沢山あった。けれど、真っ直ぐに戦う戦士たちの事は嫌いじゃなかった。 溜め息を混ぜる悠里の言葉に耳を傾けて、小さく笑う世恋はゆっくりと目を伏せる。 「さて、じゃあ石探しに戻ろうか」 『バイデンに認められた戦士』がいつまでも過去に浸ってたらバイデンに怒られるから―― バイデンの集落は小奇麗だった。整備はされていても供養されているとは到底思えないと快は考えていた。 それもその筈だろう。バイデン憎しとフュリエが滅ぼした里なのだから。 「よ、一年ぶり。こっちは何とか、まだ生きてるよ」 集落に酒を巻き、自分の杯に注いで献杯。最初で最後の酒は『戦士の儀』を終えた夜だったろうか。 想い出話をするでもなく、口数は少なく一気に飲み干した。新しく芽吹いた森へと行こうかとのんびりと立ちあがる。 山菜を探す用だと小さく笑いながら振り仰げば、荒野は少しばかり芽吹いた緑に侵食される様にゆっくりとその姿を消そうとしていた。 森の中からじ、と見ていたアンジェリカは自分が何故この地に来たのだろうと小さく瞬きを繰り返す。 気付いたら此処に居た。この、バイデンの集落に。人気のない其処でアンジェリカは痛む胸を抑えつける。 「ボクは、あの日……バイデンを滅ぼす事に賛成して、後悔してないのにね」 後悔するとバイデンは侮辱されたと言うだろうか。最後の戦いを侮辱されたと彼等は告げるか。 付き立てたLa regina infernale。大鎌の傍らで刃の女神に祈りを捧げたアンジェリカは唇を開く。 歌声は柔らかに。あの日の戦いを称える様に。これは、レクイエムになるだろうから。 (――どうか、幸せで) 彼等は何時までもまっすぐだったとランディは知っていた。小奇麗にされたバイデンの集落を歩きながら小さく息をつく。 「兵どもが夢の跡、って奴か」 戦う以外の望みが彼等にはあったのか。それは今になっては判らない。静まり返ったそこには巨獣の姿も見当たらない。あるのは日が立ち晒された遺骸のみだ。 「忘却の石な……存外危険なのかも知れねぇな。クソ世界のルールを覆す材料になるかも知れん」 そんなの知った事じゃないとランディは集落の一角に作られた墓を見下ろした。忘れることで調和はそこにあるのかもしれない。 自分がやった事を忘れる事もなく、忘れた事を思い出す為に戦い続ける。ソレが正解であるかは判らなくとも。 「……お前らはどうだった?」 墓に供えたシランは揺れる。返答がない事に笑みを浮かべて背を向ければ、入れ違いで龍治が足を踏み入れた。 木蓮が墓参りがしたいと彼に告げたのだろう。同行する龍治は周辺を見回して小さな溜め息をついた。 幾ら綺麗な景色であれど、思い出さずには居られない。数え切れない程に敵と戦った。その中でも楽しげであった彼等の姿はまさしく戦士だったのだろう。無垢に、愚直に、楽しげに戦う姿は今でもはっきりと思い出させる。 「……龍治、来てくれてありがとう。いつか、お前と訪れたいと思っていたんだ」 「ここが、来たかった処か」 小さく頷く木蓮が眼鏡の奥で瞳を細める。木蓮とて龍治と同じだった。戦士として気に入っていた。産まれてきてまだ長くないうちに生きる意味も、人生の楽しみも全てを自覚していたと、そう思う。 「龍治、如何感じた?」 「良い敵であった。道が違えば……など、今更言っても詮無い事だが」 「ああ……あいつらみたいに強くなろう。これからも俺様の目標でいてくれよな」 しゃがみこみ、木のコップに入れた酒を備える。彼等は食べた事はあったのだろうかと考えながら置いた握り飯。 二人揃って目を閉じて、ぎゅ、と握りしめた掌は、彼等の事を思う様に小さく震えていた。 「……こりゃまた」 墓参りの面々が多い事に烏は些か驚きながら集落をうろうろと探索して居た。墓の掃除程度ならして遣るかと言う気持ちで訪れた彼ではあるがその目的は別の所にある。 『怒り』の残滓がラ・ル・カーナに残されていないかの調査だった。再生する『不完全』にバイデンの姿があるかどうか――もしも此処に石があるならばある意味喜ばしいが、それでも複雑な気持ちにはなる。 「さて、おじさんの目論見はあたってるかね……」 どんなもんだろうかと烏は周囲を見回していく。此処に『忘却』の欠片があれど、己が忘れなければいいと言う石を持って。 考察する様に目を伏せて、結唯は静かに歩いている。ラ・ル・カーナには訪れた事が無かった彼女の考察は静かに続いていた。 沢山の事が気になった。バイデンの村は静かであるし、そこから見上げた世界樹だってゆっくりと成長を遂げている。 「あとで祭りに赴くかな……」 結唯の声を聞きながら、『報告書』でしか知らない佐里は小さな溜め息を付いた。歩く速度はゆっくりと、ラ・ル・カーナの事が気になって仕方ないから。 (探し物をするよりも、ゆっくり見たいから。私の知らない世界。だけど、みんなの知ってる世界を) 感慨深いって思えない。ソレは少しさみしいけれど、あの頃此処で戦ったみんなは、どんな気持ちで此処に居るのだろうか。 「……もっと、見てみましょうね」 そうすれば、もっと発見する事があるだろうから。佐里と擦れ違う様に小さな犬がてこてこと走っていく。目立つ大きな尻尾を揺らすぐるぐに付いていくのは機械のぐるぐと空飛ぶぐるぐだ。 「翼の加護.exeを起動します。情報を処理しましょう」 「はい。それじゃあ、この辺りからゆっくりと進みながら探しましょうか」 ゆっくりと間を開けてぐるぐ(殖)が進む中、背後でぎゅ、と放棄を握りしめたぐるぐ(廻)がきょろきょろと興味深そうに見回して居る。 「ほあー、これがラルカーナかー。この辺りには鬼みたいなのがいっぺー居たんだってな。 おっかねーのが出てこないといいだなー……」 「その気配はありませんから心配ないでしょう」 さらりと告げるぐるぐ(型)。三人が石の情報を元に行動する中で、どうやらぐるぐ(廻)は周辺の景色に夢中なのだろう。 ぐるぐ(殖)はぐるぐ(歪)の記憶を頼りに真っ直ぐに歩いていく。見た事無い景色をインプットするぐるぐ(型)がふわ、と浮かび上がれば、ぐるぐ(殖)が優しく笑って手招いた。 「さあ、もうちょっと奥に行ってみましょうか」 「はい。青ぐるぐさん、少し離れ過ぎてますので犬ぐるぐさんの方へ戻って下さい。進みましょう」 迷わない様に、とてこてこと歩くぐるぐ(廻)が「岩にぶつかっただー」と慌てた声を上げるのを他のぐるぐは可笑しそうに見守っていた。 ゆっくりと歩きながらリセリアは首を傾げる。猛と共に歩く彼女の足取りは何処か探る様な物だ。 「ここらがバイデンの住んでた辺りになるのか……綺麗になってんな」 「……この辺……だと思うけど」 イザーク達と最後の戦いを行った場所。大広場の石舞台。リセリアが俯けば猛はその場を想いだす様に静かに目を伏せる。 プリンスに、其れに付き従うバイデン達。強かった。プリンスとは二度戦った、だが、彼には勝ち逃げされた様な物だから。 「……ったく、勝った気がしねえ、つったらお前らは怒るんだろうがよ」 「……イザーク……」 猛の溜め息を聞きながらリセリアも目を伏せる。討ち取った彼の最期の姿。最後に交わした言葉だって鮮明に思い出せる。 ――楽団、ケイオス、親衛隊、リヒャルト、そしてキース……アークが相手にした様々な相手にイザークならば嬉々として挑んだ事だろうか。 (ここまで戦い抜きました。これからも、貴方たちの分も戦い抜いてみせる。だから――) 「強くなってやるぜ、もっと……もっとな」 猛は掌を字、と見詰め、拳を握りこむ。その手が血で濡れたって、強くなるから。リセリアと共に強くなっていくと決めているから。ゆっくりと目を開くリセリアの手に力が込められる。 「……せめて安らかに」 背後に立っていた猛にゆっくりと笑顔を向けて。往きましょうと促せば猛はあそこはどうだと楽しげに笑っている。 イザーク……もし眠れないのなら、見ていて下さい。退屈はさせませんよ。 私達の戦いは、きっとあなたを満足させる事でしょうから―― 「……|゜p・|……いいえ、世界樹ね」 どの様になっているのかしら、とのんびりを見上げた糾華は氷璃と共にラ・ル・カーナを散策して居た。どの位、成長しているのだろうか。 氷璃はミラーミスとの対話が楽しみだと形の良い唇に小さく笑みを浮かべていた。 「楽しみね、話せるかしら」 「お話しできると良いなって一寸思うわ」 ええ、と氷璃は目を伏せる。伏せれば今でも鮮明に思い浮かべる事の出来る存在があった。無形の巨人『R-type』が狂わせる世界。其れに被さる様に『世界』が悲鳴を上げた世界樹の変異。 「あの光景こそ世界の終焉、黙示録であると……そして、その日は何れ――」 「氷璃さん、私は『ソレ』を知らない。ナイトメアダウンも話しでしか知らない。けれど、恐ろしいわ。それが私達の世界でも起こるなんて、怖いわ」 ハッキリと、一言。何時もは冷静な少女のかんばせに浮かんだ年相応な顔に氷璃は小さく笑みを浮かべる。 「糾華、私は世界を守る為なら手段は問わない。私達の世界以外なら如何なる犠牲も厭わない」 それ程に大切なモノがそこにはあるから。現れるなら、その時こそアークの本懐を果たすのみ。 「ねえ、大丈夫よ。アレは滅びを確定させる存在じゃないわ。この世界と、私達の世界で、立ち向かっていける事を証明してみせましょう? ほら、氷璃さん、見えてきたわ」 「ええ、もう少しで辿りつきそうね」 ● ルフ、と名を呼んでサタナチアは耳をぴょこぴょこと動かして居る。 「最近物騒な仕事をよく目にしていたから、こうして落ち着ける仕事だとほっとするわ」 「ああ。こういった戦闘の無い仕事は重要だ。アークの為、粉骨砕身頑張らせて貰おう」 ボトムで出会ったサタナチアとルフは二人揃って故郷をゆっくりと歩きまわっている。ボトムに居る時は、当たり前に感じていた『繋がり』がいかに重要なものであるかを感じさせて、何処か感慨深くも感じる。 森の中を歩みながら、故郷は落ち着くと小さく呟いて、石を探すルフにサタナチアは繋がりっていいなあと胸へ手を当てる。 感覚を共有する安心感がフュリエ達にはあったのだろう。余りにボトムは頬り出された様で怖かったから――今になったら、とても、安心できる。 「あっ、そうだ。終わったら村に寄ってかない? ルフにも声をかけときたい人とか居……?」 「ばばばばっ、馬鹿な事を言うんじゃない!」 慌てるルフに丸い瞳を向けたサタナチアが小さく笑う。 「もしかして、恥ずかしがりやさん……そっか、ルフは恥ずかしがりやさんなのね!」 「そ、そうだ……この感情は『恥ずかしい』と言うのだ!」 その頃、彼女等と同じ様にフュリエの三人は手を繋いで『クノアの実』を探して居た。 「目指すは北! 探すはクノアの実!」 キリッと北を指差すルナに「お姉ちゃん、待って」とゆっくり歩くリリィ。故郷に踏み入れた事で高鳴る胸を抑えながら『お姉さま』たちの様子に少し笑うアガーテは幸せそうだ。 「なんだか……不思議な気持ちになりますわね。 世界はここだけだと思っていた頃に比べたら、色々と自分が変わった気がしますわ。……懐かしい。これが懐かしいという気持ちなのでしょうか」 「うん、ボトムも好き。だけど、やっぱりラルカーナは落ち着く。これが、里帰りなんだね」 アガーテの言葉に頷いて、リリィは小さく笑みを浮かべる。楽しげな最年長・お姉ちゃんは両手を広げて故郷の空気を吸い込んだ。 「皆の世界も好きだけど、やっぱり落ち着くね! それにあんな事もあった後だし、還ってきたんだーって感じ!」 思いっきり満喫しようよ、と彼女たちは北へと昇っていく。ルナお姉ちゃんと掛けられる声に手を振って、リリィちゃんと微笑む声に優しく返す。アガーテは元気かと問われれば小さく頷いて見せた。 「ほら、二人とも。あっちにあるんだって! さっ、行こう?」 「ね、手。繋いでいこうか」 元気いっぱいのルナの後ろを歩きながらリリィは折角のんびりしてるんだからと笑う。アガーテが小さく頷き、ぎゅ、と握りしめる掌。 「収穫祭、楽しみだね。二人は、何を食べたい? 久しぶりだから、ボクも料理頑張るよ」 「食べたいものかー。そう言われるとお姉ちゃん悩んじゃうな。 だってリリィちゃんのお料理、とっても美味しいんだもの! ねっ、アガーテちゃんはどう?」 「ええと……」 楽しみですね、と三人のフュリエは互いに微笑み合う。リリィの料理はとっても美味しそうだから。 沢山食べればきっと幸せな気持ちになる。さあ、もっとたくさん探し廻ろうか。 「どちらが多く石を確保できるか――この神の魔弾、受けて立ちましょう」 「ふっ……伊達に神速の名を掲げてはいないという事実を、教えてやろう」 両者共に火花を散らしている。神速が相手である以上不足はないとリリは目に青き光を宿らせて地面を蹴った。 広大な平地に闘いの勘を全力で発揮した鷲祐。続く様に超直観を使用したリリが探し続ける。 (此処は異世界――成り立ちを紐解けば力の流れや留まる場所を理解できる……!) 「流石は神速。しかし速さだけが力ではありません」 リリの言葉ににぃ、と唇を歪めた鷲祐は背中からべろんと垂らした網を見せる。そして手には熊手。 「いくぞ! 手製の網と熊手にてお相手しよう! そう、浜辺潮干狩りSTYLE。夏、サイコー!」 「くっ……!」 走れば走るほど、踏み出せば踏み出すほどにこの地にあまねく石へと手が届く! そう信じる鷲祐の後ろ、『効率』『確実さ』『正確さ』を力にリリは採取(スナイプ)していく。 「石を拾えば拾うほど、感覚が研ぎ澄まされ、次の石へと、神のお導きがあります。 主よ、この恵みに感謝致します――Amen!」 「偶には力を抜けよ、美人さん!」 果たして彼等の勝敗は――!? 「産廃より美味しいものを食べられると聞いてやってきました!」 突如口にするキンバレイの声を聞きながらプリムローズは長い髪を靡かせて仕方ないわねえと小さく笑う。 「サヤカちゃんの為に真面目に探すわよ~」 アークに来て早々に別の世界に訪れる事になるとはプリムローズも思っていなかっただろう。だが、秘密兵器は可愛い義妹の為なのだから頑張るしかないだろう。 「忘却の石が個人的に必要になった事もありますし……さて、探してみましょうか」 己の技を駆使して岩を撤去する等の行動をとる彩花を補佐するモニカはあちらですと真っ直ぐに指差して居る。 コスモス、この世界に訪れた時に聞いた花の名前だ。景観植物であるコスモスはこの世界にぴったりだとモニカは小さく頷いた。 今日は神秘掃除では無い、忘却の石探しだ。彼女の隣、首を傾げながら慧架は掘り進めている。 「何か特殊な反応があれば良いんですけど……モニカならなんかできそうですよね」 「透視でもしてみましょうか」 さらりと告げるモニカにそれも良いですねと慧架。嗚呼、紅茶が飲みたいですねえと呟く慧架の声が森の中に響く中、同じ様に掘り進めるモヨタ・ナユタ兄弟がいる。 彼等は大御堂グループの面々とは違い散歩しながら探しているが、スコップ片手であるモヨタは石よりも気になる物があるらしい。 「世界樹の所まで歩いて行きたいな。ラ・ル・カーナに来るのも久しぶりだしなー」 「にーちゃん、オレに力を貸してくれるフィアキィもここで生まれたのかな?」 首を傾げるナユタを見詰めながら如何だろうなとナユタも首を傾げる。縁も縁もない弟が何でミステランになったのか、それは兄であるモヨタも分からない。何にせよ『夢を見たのかもしれない』と楽しげに告げる弟にそっかと小さく頷いて、石を探しつつ俯くモヨタは其の侭―― 「っでぇっ」 「わっ!? にーちゃん、石探しも良いけど、ちゃんと周り見てよ! 前!」 彼等の声を聞きながら首を捻った佳恋は最近、購買で『忘却の石』がならんでなかった事を想いだし頷いた。 「超直観に頼って忘却の石を探しますよ! ついでに美味しい食べ物の方向も探します」 目を輝かせるリンディルに小さく笑ったセレナ。彼女等が訪れた森は鮮やかな花が咲き乱れていた。 「食べ物も良いけれど、花が綺麗よね~。春に咲く花もいいけど、秋に咲く花は情緒があって好きなの」 ん、と伸びをするセレナの隣、戦闘の事を考えている佳恋にセレナが溜め息交じりに彼女の頭をぽかりと叩く。 「戦闘だけでなく兵站についても意識する癖をつけないと戦士など務まらないのに……私もまだ未熟でした」 「普通に楽しみなさいよ~」 もう、と困った様に云うセレナに御免なさいと言う様に佳恋はやる気を入れ直す。リンディルの超直観に従いながら小さく笑った桐は弁当や水筒を用意して完璧な様子で探索を続けていた。 食欲魔人はあてにならないかもしれない。石以外に美味しい物の処へ走っていきそうだからだ。 「……山菜は流石にそのままじゃ食べられないですよね……。 アークに持ち帰って醤油で味付けして山菜そばにしてみるのもいいかも!」 「石を探しなさいな石を……って」 石を探す様に這い蹲る佳恋に「女の子はそんなことしちゃ駄目」とセレナが慌てて起こす。小さく笑った桐は「そろそろご飯にしましょうか」と泥だらけの彼女等を招いた。 「そうだ、一番多く見つけた人が少なかった人に一つ命令できるとかしませんか?」 「ハーレム主め! いいですね、あたしも頑張りましょうかね。遊び気分でふらふらしてるだけですけども」 小さく笑うリンディルに頷いて桐が見詰める先には鮮やかな花が揺れている。全力で探すと言ってもハイキング気分。キースが来る前に英気を養いましょうね、と佳恋に告げれば、こくり、と戦士は小さく頷いた。 そんな彼女等から離れた場所で流れる川の近くでじ、と水の中を見詰めた五月は石を探す事に全力を掛けていた。 河原で石を漁って見つかれば御の字だなと思いながら、川に恐る恐る入っていく。 「……あれ、意外と川底辺りにあったりするんでしょうかね?」 五月の言葉に応える様に底にあるのは『忘却の石』。そっと手を伸ばし、欲しいと指先を伸ばす五月のスカートが川の水にぬれていく。スカートを抱え上げ再度伸ばした指先に石がこつん、とあたった。 地道に探す五月と比べて元気に『宝探し』を行っている琥珀は人手が足りないなら自分が全力だと言わんばかりに冒険を行っている。 「収穫祭も楽しみだ。バイデンはその往く先に幸あらん事を。幸か不幸か、見極めるのは未来の果てだ」 限られた時間であるのだから、持ち前のバランス感覚を駆使して歩いていく。妖しい場所は掘れば良い。これも化石発掘して居るようで楽しいと琥珀はにんまりと笑う。 「スキルは……えーと……爆裂させるのはまずいか? 自然大事に」 小さく頷く琥珀ではあるが、石探しは意外とはかどって居る様で、とても楽しそうに見える。 楽しそうだと言うだけでは無い。有用である以上多くあっても困らない。福松とてあれば嬉しいと思う一因だ。 周辺を見回しながら福松は飴を唇の中で転がしていく。 「さぁて、何処にあるかな……」 オレ一人ではカバーしきれないな、とカルラに頼んで彼の運転する車へと石を乗せて貰う。この場所に来るのだって仲間と協力した甲斐があったと言えよう。 「ドラマチックに落ちてりゃいいんだがなあ」 アークの強みは個のスコアよりも全体の力だ。それを信じて地道に探すかね、と周辺をスキャンしながらゆっくりと歩いていく。 そんな中、書き集めなくっちゃなと陽子は懸命に探して居た。運を使った探索は勘であれど意外とあたるのかもしれない。 荒野と森。どちらもが『神秘』を秘めているのだから、探すだけでも楽しめる。 「さてと、何処にあるかね。人生は何事も博打だもんな」 よし、探そうと足に力を入れてもう一度、周辺を見回した。 「ふむー、忘却の石ですか―。どこにありますかねー?」 忘却の石って熱を帯びてないのかなと浮かび上がって首を傾げる。ありそうなところをリストアップしたユウにより福松はその指示に従い歩いていく。 周りの石と比べて温度が高ければ感知できるとユウがきょろきょろと空から見回せば、その下では緑と荒野が顔を見せている。 ラ・ル・カーナ上空から眺める景色の美しさに彼女は小さく微笑んで「ふむ」と呟いて見せた。 転がっている石を手に取りながらカルラは地道に探して居た。景観を壊さない程度にと大きな岩を壊しながら黙々と作業を続けるカルラはフュリエの村に訪れる事は避けていた。 他に用はなく、特に関わった訳ではない自分が友人面して村に居るのはいい迷惑だと青年は考えていた。 「だから仕事だ。皆が必要としてる、重要案件だ」 カルラらしいと云えばそうなのであろうか。黙々と作業を続ける彼の掌に握られた『忘却の石』。その存在を確認して小さく頷いた。 もう少し、見つかるだろうか、あと少しでも、役に立てるなら―― 石探しは誰だって一生懸命だろう。地道な聞き込み調査を重ねた嶺は義衛郎と共に石探しに赴いている。 フュリエ達に聴きこんだ情報をインプット。後は石を探すだけだ。大きな岩は義衛郎が動かし、場所は嶺が付きとめていく。 超直観を持つ嶺を頼りにしてると義衛郎が微笑めば嶺は小さく頷く。 「聞いた感じでは、この辺じゃないですかね……? やはり、使いたいですし、出来うる限りは手に入れましょう」 「うん、れーちゃん、あっちとかどうかな?」 法則や傾向、流石はオペレーターだろうか。状況を解析する嶺に義衛郎はアドバイスを聞く様に情報を並べていく。 「そろそろ休憩した方が良いかもしれないね。根を詰め過ぎると見えるものも見えなくなってしまう」 「あ、頂きものですけど果物でも食べますか? ハーブティーもありますし……ちょうど、良い天気ですしね」 のんびりとした風が吹くラ・ル・カーナ。懸命に探すのも大事ではあるけれど、偶にはこうして自然を楽しむのだって良いだろう。 「またこうして、ラ・ル・カーナに無事に来られるようになるとはね」 ブーツの踵がこつん、と蹴る。フィクサードも来ている様子がないし、とミュゼーヌも一安心。 「この花……見た目はレッドベルサイユに似てるけれど……少し、違う?」 首を傾げる彼女が手にしたのはレッドベルサイユ――コスモスの一種だった世界が違っても似ている部分がある。世界の構造に少し興味が埋まる。 植物を見るたびに唇が緩んだ。笑みが浮かび、ミュゼーヌは優しく笑う。此方には此方の自然があって、ボトムにはボトムの自然がある。 どちらもの『らしさ』があるのだから、無理に持って帰る事はないだろう。 「ふふ、また時折見に来て楽しむとしましょう」 ● ふらふらと歩きまわる黎子に連れられて火車はラ・ル・カーナへと足を踏み入れていた。 「なんだか最近遊んでばっかりな気がしますが……まぁ、頑張りましたし、よいでしょう」 「オレもラ・ル・カーナは嫌いじゃねぇんだよなあ」 二人揃って何処に行くでも無くゆっくりと歩き続ける火車と黎子。石をゲットするのはあくまでついでだ。 「異世界って、さらって言ってますけど凄いとこですものねえ……」 「完全に馴染みねぇ動植物とか目の当たりにする って結構な神秘体験だよな実際」 例えば、美脚のクジラだとか、そういうものだろうか。二人はぼんやりと石について考える。石、その使用方法は火車にはかまどに使う位しか思い浮かばないがそれ以外に何かあるのだろうか。 「必要な奴には必要なんだろうな。真白のおっさんがオモロイ利用方法でも思い付いたんかね」 「私も使いたいですし。採取しときましょう。千里眼、みょんみょん」 みょんみょーんと周辺を見回す黎子の結果を待ちながら火車は空に浮かぶ『眼』を想いだし、あれは凄かったなあと小さく呟く。 「そういえば去年も同じ時期に石拾いに来ましたねえ。宮部乃宮さん引っ張って。 今回は宴会ではなくお祭りが待ってますよ! ラ・ル・カーナの料理結構好きなのです。楽しみですね!」 「食ってばっかりじゃ…あーあー」 普通の祭りとは一風変わった『収穫祭』というものなんだろうと告げながら黎子の二の腕を摘まむ。 少し、太くなった……いや、そんな事はない様な? 「わ、わー!? のーたっち! た、食べた分は動いて消費するのでいいのですよ!」 石の結果発表の時だと息を切らすリリと鷲祐を待っていたのは『審判』こと世恋だった。 燃えあがるリリと鷲祐にやや驚いた表情の世恋が「結果は……!」と告げるとリリと鷲祐がずずいと詰め寄る。 真似してアラザンが二人の間に顔を突っ込んだ。世恋の表情が硬くなっていく。 「結果は、え、ええっと……あれ?」 「どうしました?」「何だ、どうしたんだ」 「……ひ、引き分け……?」 さぁ――吹く風に鷲祐は「ラ・ル・カーナは相変わらず良い風が吹くな」と目を伏せる。 今日の勝負はお預けのようだ。 「ラ・ル・カーナかッ! オレはあんまり知らねェけど祭りもあるんだろッ? 楽しみだなッ!」 「うん、そうだね。……そっか、コヨーテくんは此処で色々あった頃はまだアークに居なかったんだっけ」 不思議な感じがするねと七が呟けばコヨーテは「何があったんだッ?」と興味津々といった様子で問いかける。 長耳の種族を目にして瞳を輝かせるコヨーテに「あれがフュリエさん」と優しく告げる七。フュリエに関してだってコヨーテは『アークの仲間のアザーバイド! かっけェ!』とはしゃぐではないか。 「えっとね……フュリエさんたちがバイデンに迫害されてて、助けを求めて来たんだよね。 ここで皆でバイデンや巨獣と戦ったんだよ、負けたりもしたけどねぇ」 「バイデン、巨獣……? すっげェ、楽しそうッ!」 そわそわとした様子で、「で、どうなったんだッ!」と問いかけるコヨーテ。七は小さく笑みを浮かべながら「何でも聞いて頂戴」と告げる。 その足がゆっくりと赴くのはバイデンの集落だろう。もうすぐ日が沈む。けれど、その前に赴くのだって良い。 「折角だしバイデンの集落の方まで行こォぜッ!」 「バイデンは戦うのが大好きだったから君とは気が合っただろうなぁ」 その言葉にこくこくと頷いたコヨーテは「戦闘民族かァ……カッコイイなッ」と嬉しそうに告げる。 その言葉を聞きながら七の頭に浮かんだのはバイデン達の姿であった。戦い続けた彼等の事を想い浮かべ翳る表情にコヨーテが慌てたように七を覗きこむ。 「……ッて。大丈夫か?」 「……あ、うん、ごめんね、少し思い出してしんみりしちゃった」 嫌いじゃなかったんだ、と告げる七の声にへにゃりとコヨーテは落ち込んだ様な仕草を見せた。 「そか、七は色々あったトコだもンなァ……楽しいばっかじゃねェか。オレばっか楽しんでたな……」 謝る声に、思わず小さく笑みが浮かぶ。ころころと変わる表情が彼らしくて可愛らしくも思えるから。 「ふふ、コヨーテくんは良い子だねぇ」 「イイ子ォ? な、なんかムズムズすんな……」 思わず浮かべた照れに小さく笑って、さぁ、行こうかと手を伸ばす。気付けば空には星が浮かんでいた。 ラ・ル・カーナの恵みを分けて貰うのだからお手伝いすると瑞樹は小さく笑みを浮かべる。 「フュリエ達が平和そうであるのはやはり嬉しいな。調和――即ち持ちつ持たれつだ。 収穫祭の準備を死力を尽くして手伝おう。瑞樹も宜しく頼むぞ」 「頑張って間に合わせよう! 皆で声を掛け合って、えいえいおー!」 楽しげな瑞樹に頷いて、石への感謝の意味だと優希は力仕事を担当しせっせと働いている。『死力』を尽くす手伝いにフュリエ達もラストスパートだと言わんばかりにせっせと働いていた。 「こうやって皆で何かするって賑やかで良いよね」 「リベリスタが楽しいなら何よりだよ!」 にんまりと笑うアラザンに瑞樹も幸せそうに笑う。力仕事に言った優希も驚く様な飾り付けを施そうと瑞樹は一生懸命に働いている中、リアカーに作物を詰め込んだ優希はせっせと運んでいた。 優希はフュリエへの関心は薄かった。これを機に色々知る事が出来れば有り難いと言うのだ。瑞樹は平和を愛する穏やかな性格をしている以上、フュリエとも仲良くできるだろう。 (これで得る事があればなによりだな) 楽しげな横顔をちらりと見詰めて優希は小さく笑う。皆で作り上げるお祭りだからと楽しげな瑞樹に「どうだ」と声をかければ、完成しましたとアラザンと手を取り合って楽しげにはしゃいでいるではないか。 「ふふふ、どうどう?」 「ああ、凄いな。皆で作り上げると良い物になる」 楽しげな瑞樹に優しく笑う優希。アラザンも凄いね凄いねと二人の隣でぴょんぴょんと跳ねあがっていた。 「こういうお手伝いなら大歓迎だから困った時はまた言ってね?」 「フュリエもまた気軽に遊びに来てくれ。さあ、祭りを楽しもうか」 一緒に、と始まる祭りに目を合わせ笑い合う。さあ、此処からが楽しい祭り――の筈だった。 伝統は大切です。しかし……新たなる歴史を作り出すことも、同じく重要なのです! 「ああ、ラルカーナにもやっと平和が訪れたのね……」 涙を拭うウーニャ。【はっぱ隊】の面々は全員が全員何処か異様な雰囲気を纏っている。金のアルパカを二体従えたウーニャは見回したのは緑が広がる『完全世界』の様子だった。 「あの苦しかった戦いはもう、過去なのね……」 「自分はこっちの事なーんにも覚えてないですから、里帰りというより旅行気分なんですよねぇ。 懐かしい気分になるけど、知らない場所。アレです、日本人的なら京都や奈良を訪れた感じですよ」 アルパカの鳴き声を聞きながらうんうんと頷くシィン。その異様な光景に周囲のフュリエも手を止めている。 「いやー、以前は戦時だったからだね。お祭りとかないと思ってた。だから、すずきさんたちはお祭りを作った」 嫌な予感がする。 懐かしんだとドヤ顔フュリエ・シィンが小さく伸びをして舞姫や青い顔をした終を見詰めている。 「さて、とりあえず前置きはしたですから。脱ぐか」 「あああ……緑あふれるラ・ル・カーナ。心休まる緑の世界は空気すら芳しくマイナスイオンで癒され……るはずだったんだけど、何だろう、この、何とも言えない気持ちは……」 ――今、初めて普通の友達が欲しいと切実に思いました……。 これにはフュリエの少女、アラザンも終の肩をぽん。惨劇は直ぐそこにあった。何故か脱いだ【はっぱ隊】面々。半裸。大事なところだけはっぱで隠したアハンでイヤンな格好をする彼女達。イヤーンな出来事は全て金のアルパカがカメラの前へと割りこみます♪ ――兎も角、折角舞姫と寿々貴が作り上げた祭りだ。自然の恵みに身をゆだねる他ない。 「葉っぱだけだよー。多めに付けたい人は繋ぎ合せてー」 「踊り? ノリで適当にやれですよ! 歌? 奇声上げときゃいいのです!」 ちょっとまってと手を伸ばす世恋の声も虚しく奇怪な祭りはフィーバータイム突入だ。 「祭りと言えば酒よね! レッツ・月鍵チャレンジ!」 アルパカに詰まれたビールやお菓子。流石にはっぱにはなれないとブンブン手を振る世恋に比べ、乗り気のアラザンは元気いっぱいだ。 「これがボトムの祭りの正装なのよ!」 「身に纏うのは、葉っぱのみです。あるでしょう? ファンタジー世界なんだから、都合良くブラとぱんつの代わりになりそうなのが、きっと! ひゃっはー!!」 「いぇあー!! あ、そーれ、ぬーげ! ぬーげ!」 酷い事を連呼して居る舞姫が「しすたーたち!」とフュリエに声をかける。魂のシスター通しなら怖くない……ってちょっと止めて下さい、鴉魔さん! 「すいません、そこのフュリエさん……舞りゅんにまともな服を着せてやって下さい……」 「え、でも……」 「抵抗するようならちょっと凍らせるんで。お手数かけます……今日、何しに来たんだっけ……?」 『ですとろおおおい』という謎の雄叫びがフュリエの村には響き渡っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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