●早朝、ブリーフィングルームにて 「ゴミ収集車がエリューション化しました。 現在……いえ、いまから数時間後、生ゴミを撒き散らしながら街中を走り回ります」 これだけのことであれば、エリューション討伐後は『夏の暑さに狂った清掃局員の迷惑なイタズラ』と、地方新聞の三面に小さく記事が載る程度ですむだろう。 もちろん、和泉の話には続きがある。 「ゴミ収集車はただ生ゴミを撒き散らしているだけではありません。時々、公園の入り口などに止まっては、ノーフェイスの清掃局員たちが遊んでいる子供たちを捕まえて、ゴミ袋とともにゴミ収集車の中へ投げ込むのです」 撒き散らされた生ゴミとは、家庭用のゴミと子供たちの肉片だったのだ。 見るもおぞましい光景を思い出して、和泉は小さく体を振るわせた。 「みなさんにお願いしたいのはゴミ収集車とノーフェイスとなった清掃局員3名の討伐です。被害者を出さないうち速やかに退治してください」 ●和泉が万華鏡に入る数分前のこと。 とあるマンション前。 半透明の白いゴミ袋の中には、中身の見えない色つきのビニール袋が幾つも入っていた。 ゴミの分別だしが徹底されていないこの地域では、とりたてて珍しいことではない。誰だって自分の出したゴミを赤の他人にじろじろと見られるのは嫌なものだ。 清掃局員はそのゴミ袋を手に持ったとき、おや、と思った。 大きさのわりにずしりと重かったのだ。それに、じんわり生暖かい。 「ま、いいか」 上から触った限りではスプレー缶などは入っていなさそうだ。 清掃局員はボタンを押して回転板を動かすと、そのまま中へゴミ袋を投げ込んだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月10日(火)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 初秋を感じる晴れの朝。 清々しい朝の空気に乗ってごみ収集車の流すメロディが公園の前を通り過ぎて行き、そしてまた戻ってきた。 滑り台で子供たちを遊ばせていた母親が、おや、と言う顔で入り口を振り返る。 公園の入り口にごみ集積場はない。それはここへ越してきたときに確認済みだ。 “ゴミ出し”といえばご近隣さんとの間でトラブルになる原因のひとつ。指定以外のゴミを指定以外の場所へ出すなど、町内を仕切るベテラン主婦たちへの宣戦布告に等しい。引っ越してきたばかりなので、は通じないのだ。これから何年、ここに住むことになるのかわからないが、いきなりコミュニティからつまはじきにされてしまうのは辛い。だからしっかりとゴミ出しルールは調べてあった。 自転車の進入を止める柵を越えてゴミ収集員たちが姿を現すと、母親の足元でじゃれていたポメラニアンが狂ったように吠えだした。同時にぷん、と生ゴミの臭いが滑り台の親子を包み込む。 「しっ! 吠えちゃダメでしょ」 母親は臭いに顔をしかめながら犬を叱った。声がかすかに振るえている。 何か変だ。何が変なのかと問われれば答えに困ってしまうが、とにかく何かがおかしい。母親の緊張が伝わったのか、さっきまで笑い声をあげていた子供たちも小さな手で滑り台の端をぎゅっと掴んだまま小さな体を固めている。 母親はぎこちなく首を回して、公園の中に他の親子ずれの姿を探した。 誰もいない。この辺りは朝の公園で子供たちを遊ばせたりしないのだろうか。 ゴミ収集員たちはまっすぐ親子へ近づいてきていた。 「あ、あの……」 「待てよ、此処から先は通行止めだぜ。ゴミ回収業者さんよ」 親子とゴミ収集員たちの間に『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)が割って入った。 突然現れた青年に、えっ、と戸惑う母親へ背中を見せたまま、「ボケっとしてるんじゃない、早く逃げろ!」と怒鳴る。 「な、なんなの、いったい?」 劫は母親の問いに一切答えず、ノーフェイスとなったゴミ収集員に睨みを利かせて押し進んだ。 少しでも危険から親子を遠ざけるために。 日常を深く愛する劫は、日常を壊すものを何よりも憎んでいた。 (日常なんて物は、脆くて、残酷で、直ぐに壊れてしまうのかも知れない。あぁ、けれど──間違いなくこの世界は綺麗で、とても愛おしい。俺の守るべき物だ) 死者の群れが街を襲ったあの夜、自分が失ったかけがえのない人たち。心の奥底に和らぐことなくあり続けるこの痛みを誰にも与えたくない。 劫のつんけんどんな態度と言葉は、そんな熱い思いを表に出すまいとする照れ隠しゆえ……なのかもしれない。 ゴミ袋を肩に担いだ『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)が、公園裏口からオートバイに跨って現れた。甚之助はジャングルジムの前にオートバイを停めると、子分よろしく子鬼を引き連れて滑り台へ向かった。 滑り台の親子を意識しつつも目はくれず、母親の横を通り過ぎて劫の隣に並び立つ。 「お仕事だゼ、ゴミ屋さん」 甚之助がなんの気負いもなく軽やかに投げた2つのゴミ袋は、どさりと重い音をたててごみ収集員の前に落ちた。 人であった頃の記憶を残しているのか、身に染みついた職業的条件反射なのか。2体のうち1体のノーフェイスが目の前に落ちたゴミ袋を掴んで収集車へ駆け戻っていく。 残ったほうの収集員が子供たちへ向かって歩き出した。 劫が素早くAFから剣を呼び出し、光る刃先を虚ろな目のノーフェイスに向けて威嚇する。 甚之助は首を後ろへまわすと、母親に剃刀のように鋭く光る視線を飛ばした。 「ボサっとしてないで逃げろ。刻まれてェか」 ひっ、と息を飲むか細い音。 華娑原組の若頭は声を和らげると、「ああ成りてェなら話は別だがよ」といい、肩越しに親指で『History of a New HAREM』雪白 桐(BNE000185)を差し示した。 西へ顔を向けた母親は、そこに血まみれの少女を見つけて今度ははっきりと悲鳴を上げた。 「あの人達に襲われました、あなたたちも逃げてください!」 痛そうな顔で必死に逃げてと訴える桐の姿を怖がって、滑り台の上にいた子供たちが泣き出した。ポメラニアンが震える母親の前でくるくると回りつつ、小さな歯をむいてキャンキャンと吠え立てる。 桐は公園に入ると同時に結果を張っていた。『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)が陣地を作成し終えるまで、人が公園内へ入らないようにするためだ。これは公園にいた親子の逃走を促すためでもあったのだが、こちらは思ったように効果をあげていない。リミットオフした反動で流れた血が、母親と子供たちを怖がらせてしまったようだった。 それでもあきらめず、「逃げて」と手を差し伸べる。 だが、母親は桐の手を取らなかった。両腕を広げ、後ろの滑り台ごと子供たちを守ろうとする。 「奥さん、ここは危険です! 子供たちをつれていますぐ公園から出てください!」 いつの間にか桐を支えるようにして、警官に成りすました『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)が立っていた。 警官の登場に母親はほっとした顔をした。それでもまだ逃げようとしない。どうやらパニックを起こしているようだ。 「まったく近所迷惑な話しだねぇ」 主婦どうし、気軽にお喋りをするかのような調子で、『遺志を継ぐ双子の姉』丸田 富江(BNE004309)が母親へ声をかけた。 愛情料理と大きく描かれたエプロンにカッチコチの冷凍本マグロ。ちょっとした非日常スタイルも、富江が放つ “みんなのおっかさん”オーラを曇らせはしない。あふれる笑顔から得られる安心感はハンパなかった。 「ほら、さっさとお行き。あとはアタシたちに任せて。子供たちとそこのケガをしている女の子も一緒に連れていくんだよ」 富江の説得でようやく母親が正気に返った。 いそいで滑り台から子供たちを降ろすと、今度は自ら桐へ手を差し伸べる。 (すぐ戻ってきます) 桐は富江に口の形だけでそう伝えると、母親の手を取り、公園裏口へ向かって駆け出した。 ポメラニアンは4人の後を追いかけたがすぐに足を止めた。体をまわして子鬼に向かい、きゃんきゃんと甲高い声で吠えたてる。 ゴミを収集車に投げ入れ終えた収集員が戻ってきた。 「そこの清掃員動くな! 止まらないと撃つぜ!」 隆明は短銃・妖狢を袖から手の内に落とし、警告もそこそこに戻ってきたゴミ収集員をぶち抜く。 劫と甚之助は刃を煌かせると、残っていたゴミ収集員に切りかかった。 「来たよ!」 子供の回収を邪魔されて、ゴミ収集車がバックしながら公園の中へ入ってきた。 柵のひとつをへし折り踏みつけ、もうひとつを跳ね飛ばして木をへし折りながら、猛スピードでリベリスタたちのところへ向かってくる。 ファインマン車中で水無瀬・佳恋(BNE003740)とともに、いまか、いまかとタイミングを計っていた『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は、収集車が公園内に消えるとすかさずアクセルを踏んだ。入り口を塞ぐように愛車を停めてゴミ収集車の退路を断つ。 急ブレーキの音を聞くとともに佳恋は助手席のドアをあけて車から飛び出した。纏った戦気に長い髪を波打たせ、ボンネットを飛び越す。その勢いのまま、フロントガラスの向うでハンドルを握るノーフェイスへ長剣「白鳥乃羽々・改」を振るった。 バシッと音をたててフロントガラスが粉々に砕け散る。 「おはようございます。スクラップ業者です。ご依頼を受け処分に参りました」 悠々と車から降り立って第一声、あばたは人を食った仕草でぺこりと頭をさげた。 「力押しだけでどうにかするのも芸が無いですが、ここは食い止めます!」と佳恋。 「任せた」 あばたは銃を抜き取ると、済ました顔でゴミ収集車の前輪を撃った。固いスタッドレスタイヤのゴムが破裂して空気が抜けていく。 「さて、と。では格ゲーよろしくボーナスステージやりますか」 傾いたゴミ収集車の横を通り過ぎながらネットジャンキーはにやりと笑った。 「セレア! 頼む!」 プレイヤーが揃ったところで劫が叫ぶ。 「最近なんか陣地作成の合間に戦っているような感じばっかりだけど……ま、それはそれでアリよね」 いつの間にか、滑り台の上。抜けるような青い空を背にして、真っ赤なドレスに身を包んだセレアがひらりと扇子を翻す。 通常、街区公園は0.25ヘクタール、50メートル四方の広さがあるが、セレアの敷いた円陣結界は四隅を外してすっぽりと公園全体を覆った。 冷凍マグロの口を地面に突き刺して、富江がどん、と胸を叩く。 「アタシが幾らでも回復してあげるからしっかり戦っておいでっ!!」 ● 劫は全身の反応速度を極限にまで高めると、ゴミ収集員に連続攻撃を仕掛けた。 「確かにアンタらも元は人間で、何の変哲もない平穏を過ごしてたんだろうさ」 飛んできた生ゴミを避けるために一旦後ろへ飛びさがった。着地と同時に刃を傾けて、けど、と再び相手に狙いを定める。 「もうアンタ達は戻れない。日常を壊すと言うのなら、俺が斬り捨てる……!」 甚之助が横手からアル・シャンパーニュを放つ。 悲痛な叫びとともに歯をむき出して突進してきたノーフェイスを、劫はぐっと奥歯をかみ締めつつ切り捨てた。 「あと一体。さっさと片付けて解体の手伝いをするか」 隆明のB・SSを喰らって肩が吹き飛んだゴミ収集員が、ちぎれ飛んだ己の腕を武器代わりに振り回しながら甚之助に襲い掛かる。 甚之助は僅かに半身を捻ってノーフェイスが振り下ろす腕をかわした。 「おい、しっかり犬を押さえてな。邪魔させんるじゃねぇぞ」 子鬼に命ずると、甚之助はしゅっと手を滑らせて着物の襟を正した。凄みの効いた笑みを口の端に浮かべ、ドス、いやナイフを構える。 「万華鏡に見つかってよかったな。間違いを起こす前に死ねてよ。アンタ、キレイな体のまんま天国へいけるぜ」 天高く上りつつある太陽の煌きを放って、ナイフが幾重にも突き出された。 佳恋はゴミ収集車の前に立ちはだかり、全身で練りこんだ闘気を剣に乗せた。 「雪白さん、行きますよ。気をつけてください!」 気合とともに長剣が振り抜かれ、ガゴン、と鈍い音をたててフロント部分がへこむ。 運転席に挟まれたノーフェイスが悲鳴をあげ、同時に車体が後ろへぐっと下がった。 佳恋はすぐに追撃せず、予め桐と打ち合わせていたとうり間を置いた。 「佳恋さん、返します!」 下がってきたゴミ収集車に今度は桐がメガクラッシュを叩き込んで押し返す。 ゴミ収集車がタイヤを空回りさせた。リベリスタの猛攻に砂を巻き上げて煙幕を張り、逃走を試みる。が―― 「ここから逃げられると思って?」 セレアは土ぼこりに目を細めつつ、鎌の形をした杖を掲げた。 杖の先より荒れ狂う雷がほとばしり出て、左右2本ずつある後部車輪を打ち据える。3本のタイヤが破裂した。 「もう一丁!!」 隆明が残った1本を打ち抜く。 ゴミ収集車は前輪1本のタイヤを除いて足を失った。 が、まだあきらめない。 むき出しになったホイールをまわして激しく地面を削り取り、広く後方へ砂利を撒き散らす。 「ちぃぃ! 往生際が悪いヤツだぜ」 「しかし、それでこそ潰し甲斐があるというもの」 左右にひとつずつ、あばたは銃を構えた。 「物理的に移動できなくなるまでボロクソにしてくれる。わたしが! わたしたちが!! 弾幕世界だ!!!」 銀幕散弾雨あられ。 ホイールが、シャーシが、ズタボロになっていく。 どん、と地響きをたててゴミ収集車が沈む。 後部扉が開き、回転板が唸りをあげて回りだした。 「うわっ!」 「くっせぇ!!」 吐き気を催す強い臭気とともに大量の生ゴミが中から飛び出してきた。 セレアが悲鳴を上げて飛び下がる。 腐りかけたリンゴの生皮など生易しい。中には肉の切れ端がついたままの折れた鶏の骨や、割り箸、汚れたプラスチックのホークが混じっている。それらが散弾のごとき猛スピードでリベリスタたちに襲い掛かった。 臭いと思わぬ痛みに、劫と甚之助が、桐と隆明が、次々と膝を折っていく。 「アタシはこう見えても体力自慢でものすごい耐性を持ってるんだ、そんじょそこらのやわな攻撃なんか効きゃぁしないよっ!」 卵の殻を髪につけつつ前に進み出た富江は、向かってきた芽が出た固いジャガイモ丸ごと砲弾を手にした冷凍マグロでかっ飛ばした。 ジャガイモは砕け散りながら回転板をかいくぐり、ゴミ収集車の奥へ入った。 ゴミ収集車が、ぎゃっと悲鳴らしきものをあげて車体をしゃくりあげる。 富江は、おやっと片眉をあげつつ天使の歌を歌った。 正面にいた佳恋が運転席のノーフェイスにとどめをさして、ただひとつ残るタイヤを破壊した。 横を回りこんで仲間と合流する。 「みんな、しっかりおし。ここからがお仕置きタイムだよ!」 富江が激を飛ばす。 いち早く立ち直った隆明が、下りかけているゴミ収集車の蓋に拳を振るった。 「神秘で丈夫になろうが俺の拳にゃ勝てねぇんだよぉ!!」 ぐしゃりと歪んで蓋が止まる。 「危ない、隆明さん!」 桐の警告を聞くと同時に隆明はその場にしゃがみ込んだ。 間一髪。 ごっ、と燃える音を立てながらくの字に折れ曲がったスプレー缶が隆明の頭の上すれすれを飛んでいく。 「うぉっ!? 危ねぇアブねぇ……。サンキュー、桐。助かったぜ」 スプレー缶はセレアに届く直前にあばたによって撃ち落された。 「ありがとう」 セレアはあばたに礼をいって再び陣地作成の詠唱に入った。 もうゴミ収集車は動けない。次の陣地は公園内に一般人を入れないための予防処置だ。 「念には念を入れて……ね」 生ゴミやスプレー缶の攻撃から物理防御力の低いマグメイガスを守るため、富江がセレアの前に立つ。 ゴミ収集車の左側に劫と甚之助が回り込んだ。バックに隆明とあばた。 右側に佳恋と桐が展開してボーナスステージがスタートした。 ● 集中を重ね、劫がまず左のドアをソニックエッジでぶち抜いた。続いて、右のドアを佳恋が重い一撃で吹き飛ばす。 「せい、やっ!」 ルーフ部分を左右から同時に甚之助と桐が潰しにかかる。 途切れることなく降り注ぐ甚之助の光の刃でようやく屋根に穴がいた。耐久力がほんの少し落ちたところへ桐が大上段に構えた巨大な剣「まんぼう君」をダン、ダンと連続して叩きつける。 「さっさと壊れなさい!」 普通の車と違ってゴミ収集車、正式名称・塵芥収集車の車体は頑丈に作られている。どういった経緯でエリューション化したか知らないが、只でさえ丈夫な車体はさらに耐久性があがっていた。下部を壊され装甲不可能になったとはいえ、荷台はまだ原型を保っていた。 ゴミ収集車の中で回転板が回り始めた。 真後ろにいた隆明とあばためがけて生ゴミが飛ぶ。 セレアが杖をあげて稲妻を、富江が光の矢を放って生ゴミを撃ち落した。 「2人とも、気を散らすじゃないよ!」 「わかってらっ!」 「承知! パーフェクト狙います!」 ふたりはゴミ荷台の中で光る2つの点へ銃口を向けた。 先ほど富江がジャガイモを打ち返したとき、たしかこの光に当たって車体が大きくぐらついた。あそこが弱点に違いない。 劫、甚之助、佳恋、桐の4人は休まず剣を振るい続ける。 回転板が一周して、再び生ゴミが飛んできた。 まるで目のような形をした光点が露になり、隆明とあばたは引き金にかけた指を―― 「げぇっ!?」 「ファック!!」 突如、荷台を持ち上がって中に残っていたゴミがふたりの上にぶちまけられた。 タイヤもホイールも失って軸だけになっているというに、ずり、ずり、とゴミ収集車が前に進む。 「大した根性だ。だがやはり逃がすわけにはいかない!」 劫は前に回りこむと、残った力を振り絞って処刑人の剣を振った。 なおも逃げようとする車体にセレアが落雷を落とす。 仲間の奮闘に負けじと甚之助と佳恋、桐の3人も最後の攻撃にかかる。 「大丈夫かい!?」 富江は鼻をつまみながらゴミに埋もれた隆明とあばたに回復をかけた。 子鬼もたじろぐ憤怒の形相で、ゴミの中から2人が立ち上がる。 「クソが!」 「地獄へ落ちろ!」 3丁の銃から光る点に向けて次々と弾が打ち出された。 ――ドォォッ! 大気が震えながら膨張したかと思うと、ゴミ収集車を業火が包んだ。 遅れて火柱が1本、天に向かって立ち上がる。 辛うじて原型を保っていた荷台が吹き飛んだ。 「やれやれ。くせぇ花火だぜ。さっさと帰って風呂だ、風呂」 袖口で鼻を隠しながら甚之助はため息をついた。 ● 「結局、あれはなんだったのかしら?」 戦闘後、セレアはポメラニアンを陣地の外へ逃がしてやった。 アークの事故処理がくるまで、とこうして体中に消臭スプレーをかけながら富江とふたりで公園に留まっていた。他の仲間たちは、とくにゴミまみれになってしまった隆明とあばたのふたりは早々に帰っている。 「さあ、なんだったんだろうね。なんだか小さな赤子の目のように見えたけど、こうなっちまったら真相は分からないだろうねぇ」 そうながらも、富江は黒煙を上げてくすぶり続ける残骸に向かって手を合わせた。 セレアは風に流されていく煙を目で追った。 (因果応報。誰かさんには悪い報いがあるわよ。たぶんだけど) そっと目蓋を伏せると、セレアは悲しみをおおい隠した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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