●歌呼鳥の憂鬱 夕陽もとうの昔に消え去って、月が天高く昇る時間。 「おーうい、おーうい……、……駄目か。やっぱり返事がねぇ」 路地に面した小さな工場――それとも倉庫だろうか、いずれにしても用途に対してはちっぽけな建物の傍で、その丸々とした生き物は深い溜息を零していた。 「あいつ、何処に隠れちまったんだかなぁ……」 建物の高い位置には狭い窓があり、その開け放たれたフレームにちょこんと座った生き物は、全身の羽を震わせるようにして身体を揺らし、肩を竦める代わりに首を翼の中に埋める。 月明かりでも分かる、鮮やかな色。 青に赤、緑、黄色に白。様々な色が混在した、実に丸っこいシルエット。 だが、果たして――それを“鸚鵡”と呼んでいいものか。 その判断は、人によって大きく分かれることだろう。 確かにその生き物が、鸚鵡の色合いと姿形をしていることは間違えようがない。 ……言い換えるなら、鸚鵡の色合いと姿形を『模して』いることは否定のしようがない、といったところか。 綺麗に生え揃った羽こそ持ってはいるものの、それら一枚一枚が妙にふかふかもこもことしている。 そんな羽で覆われているのだから、丸っこい身体の方は尚のこと、ふわふわもふもふとした印象を持っていた。 例えばそれは、色鮮やかな毛玉のような。 例えばそれは、店で売られる縫い包みのような。 ふかふかで丸々とした、やや楕円形のボール。 ――それこそが、『歌呼鳥』を表現するに、恐らくもっとも適切な言葉だった。 ●簡単で明快で厄介な仕事 「アザーバイド、『歌呼鳥』。見た目は20cmくらいの、少し縦長の楕円形……だけど、殆どまん丸といっても差し支えないよ。色は派手な青い鸚鵡だし、赤い嘴もついてるけど、どういう訳か鉤爪や嘴までもこもこしてるみたい」 淡々と淀みなく説明する『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の傍らでモニターに映し出された姿は、白いフォーチュナの少女の言葉通りに、一見すると鸚鵡姿の縫い包みだ。 唯一気になるのは嘴のすぐ傍にあるボタンのような目が、心なしか世を拗ねたようにむくれて見えることだろうか。 「このアザーバイドは本来なら二羽一対で活動してるんだけど、その内の片方が人形や縫い包みを生産する工場に紛れ込んだらしいの。どうしてそんなところに、それも一羽だけが紛れ込んだのかは分からないけど……」 一度言葉を止めて、イヴが集うリベリスタ達を見る。 「今回の任務は、工場に紛れ込んだ歌呼鳥を朝までに見付け出して、もう一羽の歌呼鳥と一緒に送還すること。工場といっても大きなものじゃないし、簡単な仕事だよ」 しかしそこまで淡々と述べていたイヴが、「ただし」と言葉を途切らせた。 左右で色の異なる二色の瞳を心持ち伏せて、画面の中のアザーバイドに視線を向ける。 「今、この工場の中には出荷前の縫い包みが沢山あるの。……その中からたった一匹だけを探し出さなくちゃいけない」 それはつまり、歌呼鳥の派手な外見であったとしても、簡単には見付からないかもしれないということだ。 言外に意味を含めてリベリスタ達を見回したイヴがモニターの画面を操作して、目的地の工場への地図を呼び出す。 「片割れでもあるもう一羽の歌子鳥は、工場裏の植木に隠れてる。――朝まであまり時間はないし、地味な仕事だけど……」 よろしく、と。 いつものように告げるイヴの口調に、やはり淀みはない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月04日(水)23:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 深夜の静寂に包まれているのは、それほど広い工場ではない。 暗視を用いた『燐光』文無・飛火・りん(BNE002619)が明かりを点せば、天井の電灯は僅かに点滅してから真っ白な明かりで屋内を照らし出した。 「ふわふわもふもふの、とりさんを、探せばいいのよね……?」 積み上げられた縫い包みの山を前にして呟いたのは『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)だ。 「まぁ……うっかりと、ぬいぐるみさんに紛れちゃうなんて、どじっこさんなのね……」 「迷子になる時期なのかしら」 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が呟く一方、 「木を隠すなら森の中か……ははっ、笑えねぇ。まじ山積みだ」 言葉通り山積みとしか呼べない光景を目の当たりにして、夜兎守 太亮(BNE004631)の顔はやや引き攣っていた。 「おもちゃ工場でかくれんぼですか……子供達は喜びそうですな……」 対して穏やかに頷いた『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)だったが、すぐに微笑を解くと首を捻る。 「……はて? 今日は何をする日でしたかな……?」 「くまセンパイ達みつけなきゃ!」 「おお、そうそう……探し物でしたな……。ところで何を探すのでしたかのう……?」 聞いているようで聞いていないのか、はたまた聞いているのに聞いた端から消去されているのか。 そんな光景をさておいて、魅零は縫い包みの山へと足を向ける。目的はその山に埋まる縫い包み――では、なく。 「君君、お困りの様ならお手伝いするけど、どう?」 しゃがみ込んだ魅零が、山の端っこでビニールに包まれることもなく、けれど見た目だけはいかにも縫い包みらしく手足を投げ出している緑色のテディ・ベアを爪先で突付いた。 「あ、連絡係センパイ!」 「お前まで閉じ込められた……訳じゃないよな」 りんと太亮の声を聞き付けて、テディ・ベアの耳がぴくりと動いた。 「見た顔が、いるー」 途端に連絡係が普通の縫い包みの振りを止め、立ち上がって魅零を見上げる。 「さっき、手伝いしてくれるって。本当?」 「なになに、困った時はお互い様さ。……でもこっちも困っていてね、其方の事情が片付いたら、逆にお手伝いして欲しいんだ」 「交換条件、合点承知ー」 くまの縫い包みが敬礼すれば、太亮が視線を山へと向けた。 「それより、自力で脱出できないって事は、1号は埋まってんだな……この中に」 「うん。多分、あっちの方?」 「分かるのか?」 「くまくま同士なら。仲間の居場所、大体分かる」 太亮の言葉に頷いた緑色が、差し出された魅零の手を取ると縫い包み山に沿って歩き出す。 「そういえば。手伝い、何?」 「ちょっと探し者……探し鳥……? をしていてね」 「鳥?」 繋いだ手の先へと尋ねた緑色が、返答を受けて心持ち身体を強張らせた。 「歌呼鳥さん、お友達が見つからなくてきっと困ってるね。早く見つけて安心させてあげないと」 「あー。うー」 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の言葉に緑色が呟いたが、不明瞭な言葉が追求されることはなく、アザーバイド達の捜索は開始されたのだった。 同じ頃。 「縫い包み工場で遭難ってのも不可思議な話じゃあるが」 工場内部で縫い包みもどき達の捜索活動が開始された頃、建物の裏手へと回りながら『足らずの』晦 烏(BNE002858)が意見を零す。普段の咥え煙草も、場所を考えて今回は火をつけないままだ。 「木を隠すのは森の中ならぬ、縫い包みを隠すには縫い包みの中って事かね。迷子になったのか普通の縫い包みのように包装されたのかやらだが」 「逃げ出せるなら自力で逃げ出していそうな気もするのだ」 傍らでは『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が想像を描いて首を傾げる。と、宙に向けた視線が移ろって烏の顔、というより頭部へと向いた。 「それはそうと、その被り物は初めて見るのだ」 赤い色はともかく、ふわふわした被り物には緑色の花のパッチワークまで縫い付けてある。 「ああ、折角だから合わせてみたんだが」 「触り心地が良さそうなのだ。花のパッチワークも可愛いな」 のんびりとした会話だが、かといって無論、ただぼんやりと歩いている訳ではない。 「あの辺りだな」 集音装置により僅かな音を拾い上げて、烏が並ぶ植木の一つを見上げた。 「ふむ。それなら、声をかけてくるのだ」 その言葉を受けて雷音が地を蹴り飛び立てば、突如目の前に現れた人影に、球体状のふかふかがビクッと跳ねる。 「が、ガーガー!」 「こんばんは。心配しなくても敵じゃないのだ」 「……ガー?」 玩具のような鳴き方に雷音が微笑むと、青い鸚鵡もどきが首を捻った。 「きれいな羽の色だな。相方さんを探しているのかな? もしよかったらお手伝いができるとおもうのだがいかがだろうか?」 少女の言葉に瞬いた歌呼鳥が、羽の先で器用に嘴の上を掻く。 「そりゃ願ってもないことなんだが、お前さん方に利点はあるのか?」 「利点も何も、その為に来たのだ」 然したる疑問を持たないのは性質ゆえか、それとも歌呼鳥の性格か、それ以上は何も尋ねず青い鸚鵡はすぐに頷く。 「だとしたら有難い。いやな、正直此処に居ることまでは分かったんだが、呼んでもさっぱり返事がねぇんだ」 「なら、ボク達と一緒に探すと良いのだ。……そのまえに、もふっとしてもいいかな?」 雷音の“お願い”への返答は、出来るだけ触り心地が良くなるように羽を膨らませ、胸を張った態度だった。 ふわりと地面に降り立った雷音が腕を開くと、青い翼がふさふさと羽ばたいて勝手に烏の肩に飛び移る。 「ボクに捕まっていても良いのに……」 「女子供を傷付けたら大事だからな」 「おじさんは構わないって訳か。流石にこの鉤爪で怪我するとも思えんが」 大仰に頷いてみせる鸚鵡もどきに呟いた烏が、歌呼鳥のふにっとした鉤爪を突付く。 「それで話は――、…………」 「ん? ああ、相棒を探してくれるんだろう? 聞いた聞いた」 嘴を縦に振りながら、歌呼鳥がもこもこした被り物に身体を擦り寄せる。 「随分気に入ったようなのだ」 「うん、ふわふわだ、ふわふわ。センスはすげーが素材は奢ってるな」 「……まぁ、気に入ってもらえたなら何よりだ」 上機嫌に擦り寄ってくるふかふかの塊の言い様に烏が苦笑を滲ませ、雷音が小さく声を立てて笑った。 ● 「センパーイ! ボクだよ~! りんが助けにまいりましたっ!」 りんの大声が工場内を響いた瞬間、縫い包み山の奥の方から解読不明な応えがあった。 「センパイがお返事してくれた!」 「あれは返事って言うのか?」 首を捻る太亮を余所に、りんが縫い包みの山へと駆け寄っていき――そのままの勢いで飛び込む。 「そりゃーっ!」 「あっ、りんさん!」 「ボクもちょっとだけぬいぐるみさんに埋もれてみたかったの……お片づけ、ちゃんと後でするからっ」 縫い包みに埋もれて振り返ったりんが、アンジェリカにはにかむ。 「どうせ包装はされてるんだし、多少は構わないんじゃないかな」 無造作に山積みにされている、明らかに量産型の縫い包みだ。 りんの言葉に軽く肩を竦めた魅零が、手を繋いだままの連絡係に顔を向けた。 「それより、一号クンって一号って名前なのかな?」 「お名前。……お名前?」 ぱちくりと瞬いたボタンのような目に、軽く首を傾げるようにして言葉を重ねる。 「うん、名前を教えて欲しいな。それを呼んで探した方が良いかなって」 けれどそんな魅零の言葉に、連絡係はきょとんと首を傾けた。 「名前、ない。時々、お名前持ってるのも居る、けど。おれ達、自分ではつけないから」 「そう……」 「名前がなくても、誰が誰か、皆分かる。ボスはお名前、誰かに貰ったって言ってたけど」 頷いた緑色が魅零の手を離し、とことこと縫い包みの山に近付く。 「一号、多分あっちの方に居ると思う」 「分かった、あっちだね」 頷いたアンジェリカが靴を脱ぐと、面接着を活用して縫い包みの山に潜り込む。やがて再び顔を出した少女の腕には、包装された儘ながらも青いテディ・ベアがしっかりとしがみ付いていた。 「おお、大丈夫ですかな……? 今、出してあげますからな……」 「――ぷはっ、ぷはーっ! 死んじゃう! 死なないけど死んじゃう!」 小五郎がアンジェリカからテディ・ベアを受け取り丁寧に袋を開くと、途端に青の一号が這い出してきた。 「最近のぬいぐるみは随分上手く喋るものですな……」 「ぬ、ぬいぐるみ?」 「いや、こっちの話ですじゃ……」 感心したように呟く小五郎に、目の前にあった髭に抱きついた一号が顔を上げると、改めて周囲を見回して首を捻った。 「人が大勢?」 「一号、一号。皆、鳥探しにきたんだって」 「あ、連絡係! 鳥って、……鳥?」 「鳥」 それだけで通じるものらしい。神妙に頷いた緑色に、青色が気まずげにリベリスタ達を見上げる。 「えーと、えーと。包装された時、距離が近かったから。俺が居た近くに居る……筈」 「そっか。でもお前らここで何してたんだ?」 「……え、えーとえーとえーと、歌呼鳥! 探してただけ!」 「うんうんっ」 あからさま過ぎる青と緑の動揺ぶりに首を捻った太亮だったが、追及は後回しにしたらしい。 「一号、歌呼鳥の情報くれるのか? 流石くまくま、義理堅いな。かっけえ」 「はははー」 「いや、流石に空笑い過ぎるだろ」 顔を背けた一本調子の笑い声に突っ込みながらも、小五郎の髭から手を離した青の身体を持ち上げる。 「ついでに探すのも手伝ってくれねぇかな。肩車してやっから、高いとこ確認してくれよ……もふもふと遊びたかった訳じゃないから勘違いすんなよ」 「……、ツンデレ?」 「違う!」 そんな会話が交わされている一方で、那雪は縫い包み山の一角に身を屈めていた。 「ここ、寝心地よさそうだけれど……いないかしら……?」 柔らかな縫い包みを動かして、生き埋め状態らしいアザーバイドを探し……。 「那雪さん、そっちの方はどうかな?」 「あら……うっかり」 アンジェリカの声に、うとうととしていた那雪が瞬いた。 いつの間にかすぐ傍で、山に上半身を突っ込んで埋まった状態の緑色の縫い包みを発見すると、暴れる足を掴んで引っこ抜く。 「大丈夫……?」 「平気ー」 「……本当に?」 頷いた緑色が、けれど懲りもせずに潜り込んで埋もれてしまうのを、那雪が再び引っ張り出した。 「歌呼鳥って言うくらいだし、ボクも歌を歌ってみようかな?」 そんな騒ぎは余所に、縫い包みの山を掻き分けながら零したアンジェリカが、艶やかな声で形のないリズムを描く。 「『翼ふんわりまん丸ボディ 歌呼鳥は可愛い鸚鵡 綺麗な羽につぶらな瞳 君の姿はボクらの癒し でも本当は誰もが知っている 強くて優しい歌呼鳥は 誰もが皆憧れる 大空を舞う偉大な戦士』」 会話や縫い包みを掻き分ける以外に音のない建物に、少女の声が抑揚深く夜気を揺らす。 ――それに反応を返したのは、くまの縫い包みでも閉じ込められた鸚鵡でもなく。 「よせやいよせやい、そんなに褒めても何も出ねーんだぞー」 「分かった分かった、分かったからそこで暴れるのは勘弁してくれ、羽が当たる」 工場へと足を踏み入れた大男の肩で、片割れたる青い鸚鵡もどきがばっさばっさと羽を振り回してデレデレになっていた。 「あれ? 烏先輩、被ってるのって前からそれだっけ?」 「ほんとだー、お花がついてるっ!」 ふと顔を上げた太亮の言葉にりんもまた、以前の記憶とは異なるデザインの被り物に声を弾ませる。 「ふわふわなんだぞー」 「なんで歌呼鳥が胸張ってるの?」 被り物の横で胸を反らせる歌呼鳥に一号が首を捻った時。 「ねぇ、ひょっとして――これ?」 ひょこり、と顔を覗かせた魅零が、ビニールに包まれた青い鸚鵡もどきを差し出した。 『それー!!!』 瞬間、二体のテディ・ベアと一羽の鸚鵡が一斉に大声を上げる。 「一号クンの居たすぐ傍で見付けたんだけど……」 大人しすぎるというのも厄介なもので。 外の騒ぎなどまるで気付きもせず、袋詰めの縫い包みは暢気な寝息を立てていた。 ● 「そういえばセンパイたち、今日はなんのごようできたの? ボスのおつかい?」 「え……えーと、えーと」 緑のテディ・ベアの目が落ち着かない様子で瞬いて、りんの無邪気な質問から顔を背ける。 「鳥さんたちも何で閉じ込められちゃったの? さいなんだねっ」 「災難なもんかー!!」 くまくまが言い訳を始めるより早く、太亮の手で袋を破かれた歌呼鳥が、ばっさーっと膨らませた羽をバタつかせた。 「うわっ、暴れるなって!」 「それもこれも全部こいつらの所為だ! こんにゃろ、こんにゃろ!」 「わっ、わー!」 届かないと分かっていても怖いのか、鉤爪から守るように頭を抱えた連絡係が那雪の方へと逃げ出す。 「よしよし、どうどう……あら、これ、馬の時だったかしら……?」 「ふんっ、嬢ちゃんに免じてこの場で引き裂くのは勘弁してやる!」 緑のテディ・ベアを抱き上げた那雪が暴れる歌呼鳥におっとりと声をかけたものの、その端から首を傾げていた。 そんな遣り取りを見上げていた青の一号は、縫い包みなりに肩を竦めて繋いだ手の先、魅零へと視線を移す。 「あのですねー、普通歌呼鳥っていうのは、ペアを作ることで片方の気性が大人しくなるんです。片方が怒ってももう片方が宥めるって感じで」 「支えあってるってことか。だが見た感じ、番いって訳でもないんだな」 「番いもそうじゃないのもいるから、飽くまでペアなんです。でもこいつら、どっちも揃って気性が荒いまんまで煩いから、お仕置きの意味で一旦引き離してやれって親分が」 烏の言葉に頷いた一号が更に言葉を続けると、太亮に押さえ込まれている鸚鵡が声を荒げた。 「くま公なんぞにお仕置きされる謂れはねーよ!」 「まぁまぁ、そんなに怒らないのだ」 雷音の手が喚く歌呼鳥の頭を撫でる。 「気性が荒いまんまなのは、本当なら男女で一緒になるのに、こいつらが男同士だからだろうって親分言ってました」 「ふむ……歌呼鳥には女の子が少ないのか?」 「いえ、最近は女性が強くなっちゃって。モテと非モテの格差社会なんです」 「あぁ……」 疑問を投げかけた雷音が何とも言えずに苦笑した。 「で、偶然こっちに繋がるホールが開いていたから、誘き寄せて引き離すことには成功したんですけど」 「此処で追いかけっこしてる間に人間が来ちまったから、縫い包みの振りしてたら」 「本物の縫い包みと間違われちゃったみたいで、そのまんま包装されたんです」 太亮の抱える歌呼鳥と交互に答えた一号が、それであそこに、と縫い包みの山を指し示す。 「困ってたんです。袋に詰められた所為で歌呼鳥は休眠状態になっちゃうし、袋は全然破けないし」 「うん。おれも、思った。……見捨てようかなって」 「見捨てる気だったのか!?」 「ちょびっとだけ。助けてもらったから、結果オーライ」 太亮に否定にならない言い訳をしながら、緑色は深く頷いた。 ● D・ホールを前にしてくまくま達は地面に降り、歌呼鳥の一羽はアンジェリカの腕の中でふっくら納まっていた。もう一羽の方も那雪の「さいご、鳥さん、ぎゅーってさせて、くれないかしら……」という細やかなお願いに応じて、ふっかりしっかり抱き締められている。 「くま頭領とはどれだけの素敵くまなのか……いや、今海賊だから船長だっけ?」 「ボスはいいひと……えーと、いいくまですよー?」 「おつむがちょっぴり弱いのが、欠点?」 「いいところかも知れないですけどね」 烏の質問に色違いのテディ・ベアが顔を見合わせる。 とはいえそんな平和な時間も限られたもので、別れの時はごく間近に迫っていた。 「くまくま団の皆はまた、なのだ」 やがて訪れた刻限に雷音が口を開けば、くまくまは元より二羽の歌呼鳥も地面へと舞い降りる。 「宝探しもいいですが、あまり世間様に迷惑をかけてはいけませんぞ……?」 「それ、ボスに言ってあげた方が良いと思う……」 しみじみと呟く連絡係に相好を崩した小五郎が、細やかな贈り物を取り出した。 「さて……手ぶらで帰るのも寂しいでしょうな……。丁度、菓子を持っておりますので持って行くといいですじゃ……。お仲間と仲良く分けて下され……」 「お菓子!」 途端に目を輝かせたのは、二体のテディ・ベアだけではない。 「狡い! こっちにも菓子寄越せー!」 「今回の件、慰謝料を請求するー!」 「わ、ちゃんとあげるからっ」 一斉に羽を振り回して抗議を始めた鸚鵡もどきをD・ホールの中に押し込んで、一号もホールの中に飛び込む。 最後に残った緑色のテディ・ベアは穴の前で立ち止まると、振り返って改めてリベリスタ達を見回した。 「えと。今回、も。お世話に、なりました」 深々と頭を下げる。 「頭領はまた何かの戦利品をもってこいっていってるのかな? なら、ボクからもコレをわたそう」 連絡係に問い掛けながら、雷音もまた幾つも小分けにした金平糖の包みを取り出した。 「これで戦利品の奪取はかなったぞ」 「ボクもお菓子持ってきたんだよー!」 「わーい。皆、喜ぶ」 雷音やりんから受け取ったお菓子を抱えた緑色のテディ・ベアが、表情を笑みに緩めてD・ホールへとよじ登る。 またね、と、最後に告げたのはどちらだったのか。 再会を願う異界の住人は“友人達”へと大きく手を振り、そうして居るべき世界に帰っていったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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