●風変わりな招待状 「あのですね、不思議なティーセットを手に入れたのですよ。とある骨董屋さんで見付けたのですけれど、使うたびになんだか可笑しなことになってしまって」 「可笑しなことっていうか、可笑しな味っていうか」 「そうそう、味がですね、変わるのですよ。不思議でしょう? もっともそれならそれで面白いから、手元に置いておいても良いのですけれど――何かの間違いでうっかり普通の方がお使いになったら、トラブルになってしまうのではないかと思いまして」 「確かリベリスタって、こういうイロモノも回収していたりしなかったかな。問題を起こすのはこっちとしても本意じゃないし、良かったら持っていってもらいたいんだ」 「ええ、ええ、きっと私達よりもずっと有意義にお役に立てて頂けるでしょうから。素敵なお品ですから、ちょっぴり残念ではあるのですけれどね」 「――でもさ、ただ『あげます』ってだけじゃ、ボクらが面白くない」 「物には何であれ、対価というものが存在しますでしょう?」 「だから、ティーセットを持ち帰る前に、一度ボクらに付き合って欲しいんだ」 「難しいことは申しませんの。ほんのちょっぴり、楽しませて頂ければ充分ですもの」 「対価に相当するだけの」 「対価に相応しいだけの」 「愉快な想い出をひとつ、残していって欲しいんだ」 「――それくらいは、お手の物でございましょう?」 ●招待状の届け先 「……そういうことだから、二人に付き合って肝心のアーティファクトを回収してきて欲しい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の口調はいつも通りに淡々としたものだったが、その表情は酔狂な、とでも言わんばかりに少しだけ眉間に皺を寄せていた。 「アーティファクトの名前は『あべこべお茶会』。特別危険な代物って訳じゃないけど、使い方次第で危ない物にもなりかねない」 今の所はまだ問題が発生するには到っていないが、何か起こってからでは遅い。 そうなる前に回収を、というのがイヴの弁だ。 「アーティファクトの持ち主は『エリアル』と『ヤマネ』。アザーバイドだけど随分前にフェイトを得て、今は町外れで小さな雑貨屋をやってるみたい。……幻視と同じようなスキルを持ってるお陰で、一般人にはバレずに済んでるのね」 半ば感心したように呟きを添えたイヴだったが、改めてリベリスタ達へと顔を上げる。 「二人の希望はアーティファクトを使ったお茶会――だけど、戦って力尽くで手に入れても良い。二人とも、それは了承済みだから。戦うといっても命の遣り取りをする訳じゃないし、気軽にやってくれて問題ないよ」 お茶会にせよ戦闘にせよ、二人が満足しさえすれば問題はないのだと告げて、白い少女はリベリスタ達を見回した。 「仕事というほどの内容でもないし、息抜きのつもりで大丈夫だと思う。ただし」 そこで一旦言葉を途切らせて、イヴが警告を込めるようにゆっくりと瞬いた。 「どんなに友好的でも、相手はアザーバイド。人間だと思って相手をすると痛い目を見るかもしれないから、一応気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月19日(土)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ふしぎお茶会! なんとメルヒェン! うきうきわくわく!」 朗らかな秋の日差しの下、『シュガートリガーハッピー』アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)が声を弾ませる。 「茶会に招かれるなんざ、初めてだな!」 「白鳩さんにヤマネさんに三月兎さんとお茶会……。まるでアリスみたい……」 『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)の言葉に、そう言って表情を綻ばせたのは『小さな青のお友達』言乃葉・遠子(BNE001069)だ。 「素敵な一日にしようね……」 「おう! ただ手土産を持ってくもんだって、かーちゃんが張り切っておはぎを作ってくれたはいいが……なんか、違うくねえか、これ?」 「……ど、どうかな?」 手にした荷物を持ち上げて首を捻った正太郎に、遠子が曖昧に微笑む。 「そういうのは、気持ちだと思うから……」 「そうなのか。――ってうおお、すげえ、シャレオツだ!? 映画みてえだよ、西洋かよ!?」 手荷物から顔を上げた正太郎が、目的の雑貨屋を見付けると途端に顔を輝かせた。 「……正太ちゃん、こういう席慣れてなさそうだけど大丈夫かな?」 目の前の建物に目を奪われている幼馴染に遠子が呟く。 「この世界に馴染んで、この世界で暮らしてるアザーバイドかぁ。なんかそういうの聞くと嬉しくなってくるな」 一方で表情を和ませるように笑うのは、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)だ。 「今日は目一杯食うぞー!」 欠月・詠太郎(BNE004752)が心なしか気合の篭った声を上げる。 「お、やけにやる気だな」 「あと半月、500円で生活しなきゃならんのだよ……」 「そ、そうか……闇鍋ならぬ闇お茶会みたいな感じだけど」 何気ない問いのつもりがふっと遠い目をして呟いた詠太郎に、エルヴィンの表情が若干強張った。 そんなエルヴィンに対し、笑みを取り戻した詠太郎が口元を緩める。 「さくっと楽しんで楽しませて終わらせようかね」 「ああ、お互いに楽しい時間を過ごせるよう、頑張って身体張ってこうか!」 陽射しに劣らぬ陽気な声で会話が、秋空の下に良く響いていた。 ● 「いちるは真柄いちるだよ、お招きどうも」 帽子とサングラスを外して一礼した真柄 いちる(BNE004753)が、近付きの印にと持参した花束を差し出す。 「有難う、こちらこそ来てくれて感謝するよ」 「アルはアルトゥルは、アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフともうします!」 眠り鼠が微笑んで花束を受け取る横で、アルトゥルが元気一杯に声を弾けさせる。 「はじめましてのこんにちは! すてきなお茶会に招いて頂いて光栄です!」 「こんにちは、ようこそ僕らのお茶会へ」 眠り鼠が笑う一方で、エリアルもにこやかに客を出迎える。 「はじめまして、エリアル君、ヤマネ君」 鳩や兎、猫型のクッキーの包みを差し出しながら、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が声をかけた。 「長い付き合いになりそうね。ワタシは神裂海依音ちゃんですよ、お茶会のお誘い嬉しいわ」 「あらあら、可愛らしいクッキーですのね。こちらこそ、お越し頂けて光栄ですの」 包みを胸元に抱いたエリアルがにっこりと微笑む。 「素敵な雑貨屋さんですね。お仕事とは関係なく遊びに来てもかまわないかしら?」 「いつでもいらして下さいまし。お待ちしていますね」 そんな遣り取りをするエリアルへと、『紅秋桜』桜瀬・真希(BNE004694)も声をかける。 「お誘いありがとう。こんなにかわいらしい君たちとなら楽しく過ごせるに決まってるね。よろしくおねがいするよ」 「ええ、こちらこそですの」 ――菓子は皿へ、紅茶はカップへ、花束は花瓶へ。 あるべき場所へと落ち着いた頃、茶会は始まりを告げたのだった。 「さあ、それでは皆様。どうぞ召し上がれ!」 全員のカップに茶を注ぎ終えて、エリアルの言葉が茶会の開催を告げる。 「ボクより小さな子もいるのに、好き嫌いなんてダメだよね」 覚悟を決めたように唾を飲んで、いちるが恐る恐る皿の上の菓子に手を伸ばした。 心中で唱えるのはただ一点、例え不味くても不味いとは口に出さないように。 「日本語って便利デスヨネ」 眼球に見えるマシュマロのような感触の菓子を摘み上げて、いちるの視線が食べる前から思わず遠退く。 遠子はカップを手に取ると、それを眺めながらエリアルを振り返った。 「このティーセットは骨董品店で見つけたんだよね……? 骨董が好きなんですか……?」 「ええ、時を感じさせる物が好きですの」 遠子の質問に、エリアルがにこやかに頷く。 「せっかくこんな面白そうなモノがあるんだし、乗らなきゃな。君達のお菓子、いただかせてもらうよ」 対して特に躊躇った様子もなく皿に手を伸ばしたエルヴィンが、菓子を一つ、口の中に放り込む。 「プリンと茶碗蒸しって味付け以外ほぼ一緒だけどさ。……間違って食べたらこういう感じなんだろうか」 そんな感想に、目を瞬かせたのは眠り鼠だ。 「君、変わってるね」 「そうか?」 「うん、普段は折角作っても、誰も触ろうともしないもの」 今度は蜘蛛型のチョコレートを手にしたエルヴィンに、眠り鼠は頷きながら同じように菓子に手を付ける。 「ていうかゲテモノお菓子すげー胸躍るわ……! 変な食いもん好きなんだよなー、たこ焼き味のラムネとか!」 「たこ焼き味のラムネ? 何だいそれ?」 皿に手を伸ばしながら言う詠太郎の言葉を眠り鼠が繰り返した。 「どれどれ、いただきまーす――なにこれ、心臓型の蒸しパン? グロい!」 生臭そう、と感想を洩らした詠太郎が、妙に赤黒い菓子パンを掌に乗せると恐る恐る端を齧った。 「どんな味なんだ?」 エルヴィンの言葉に、しかし、詠太郎はすぐには答えない。 難しい顔をして眉を寄せると、そのまま二口、三口と食べ進めてから、漸く首を捻った。 「爽やか……で良いのか、これ?」 「爽やか?」 見た目とは裏腹な感想を聞き付けて真希が僅かに眉を寄せ、エルヴィンは同じく臓器らしき形の菓子に手を伸ばす。 「内臓、つまりこれってモツか。モツ煮込み美味しいって聞くな、食べたことないんだけどさ」 なまじ菓子の匂いと感触を持っているだけに、妙に生々しい表現だった。 「そういえば雑貨屋さんみたいだけど、やっぱり気に入ったものを売ってるのかな」 「ええ、心惹かれた物を扱っておりますの」 真希の言葉に頷いたエリアルが、両手に持ち上げたカップを平然と傾ける。 「アンティークなんて結構いい趣味だよね。といっても俺はあんまり詳しくはないんだけど」 「あら、私達も詳しくはありませんのよ?の」 不思議そうに首を傾げて、エリアルは目の前のテーブルの縁を愛しげに撫でた。 「物には想いが篭るもの。私は物品そのものよりも、この子達の過ごしてきた年月に魅了されますの」 「そういうものか……」 商売人に不向きな言動だったが、真希は口を挟まずに微笑んだ。 そんな会話がなされる傍ら。 「うおお……、すげえビジュアルだな……。菓子……、つか食べ物なのか、これは……」 「綺麗な玉虫色のお菓子だね……ちょっと動き出しそうで怖いけど……」 正太郎がどれを手にするか迷うように、テーブル上の菓子に視線を彷徨わせる。 到底菓子とは言い難い鮮やかな色のゼリーを摘んで、遠子も小さく苦笑した。 玉虫色に相応しくカナブンのような形状をしたそれを、恐る恐る口に運ぶと少しだけ齧る。 「どんな味なんだ?」 「う、ん……」 言い淀んだ遠子が、菓子を一旦受け皿に置く。 そして改めて手に取り口に運ぶと、安堵したように小さく息を吐いた。 一度風味を認識してから皿を経由した所為か、美味かどうかはさておき少なくともまともな食べ物の味に変じた菓子に安堵する。 「正太ちゃんは、無理しないでね……」 優しく声をかける遠子にしかし、 「いや、ここで怯んじゃ男が廃るってもんだ!」 覚悟を決めた態度で、正太郎が菓子を掴む。 「せっかくの好意を無駄にするようなこたあ、やっちゃいけねえ。それが、心意気ってもんよ」 「正太ちゃん……大丈夫?」 心配げに尋ねる遠子に、正太郎は無理矢理笑みを浮かべたままで大きく頷いた。 「喜んで頂くぜ。どんな味だろうが、笑顔は堅持して美味しく頂く! 気合いだ、根性だ、これが異文化交流だ!」 気合いを入れるように声を張り上げると、掴んだ菓子を口に投げ込む。 「なあに、食べ慣れてくりゃ、なかなかオツに感じてくるもんよ……、ぐふっ」 あまり味わわない内に菓子を飲み下しながら、正太郎が小さくえずいた。 「口直し……、じゃなくて、遠子のプチタルトを貰うかな」 引き攣り気味とはいえ根性で笑顔を保ったまま、異常な後味の残る味覚に、遠子の持参した菓子を自分の皿に取り分ける。 「遠子の手作りは最高のあj……ごふぁあああっ!?」 「正太ちゃん!?」 不運なのは、どちらもその取り皿こそ破界器だと気付いていなかったことだ。 口の中の菓子を吹き出しそうになりながらも、精神力の全てを掻き集めて正太郎が堪える。 「あの、本当に無理しないで……ね?」 「だ、大丈夫、遠子の菓子は、世界で一番旨いんd……ぐあああああああああああ!!!!!」 「お、お茶! お茶飲んで正太ちゃん……!」 おろおろとした遠子の忠告に意地を張った正太郎だったが、どうやら味覚は着実に破壊されつつあるらしい。 最早菓子を食べているとも思えない絶叫に、遠子が慌ててカップを手渡す。 しかし、そんな騒ぎが起こっている一方で。 「ふむう。このお菓子とか見た目はきれいなんですが」 「食べ物の色って呼んでいいのかしら……?」 アルトゥルが考え込みながら手にした一口サイズの、濃い紫色のチョコレートに海依音が表情を引き攣らせた。 「勇気を出していただきます!」 覚悟を決めると、アルトゥルが一口で菓子を頬張る。 「あ。おいしい……」 「あら、良かったですね」 暫く無言で咀嚼してから表情を綻ばせる様子に、海依音も安堵したように微笑む。 「これならいくらでも食べられ……しょっぱ!?」 調子に乗ってもう一つ摘んだアルトゥルだったが、先程と全く違う味わいに目を白黒させた。 「これは、しお! しおですか! あ、でもなんかすっぱい気も……、……ふしぎなあじです!!」 「……一度味を認識してしまったから、別の味に変わったのかしら?」 冷静に推察する海依音の言葉を聞く前に、涙目になったアルトゥルがカップに手を伸ばす。 「く、口直しに紅茶を……。あっつい!?」 「大丈夫かい?」 慌しくカップをソーサーに戻したアルトゥルへと、真希がハンカチを差し出した。 それを借りて少し火傷した口元を押さえ、少女がこくこくと頷く。 「ね、ねこじたなもので! ……今度はつめたい!!?」 「……キミ、少し落ち着こうか」 再び慌ててカップを置いたアルトゥルに苦笑して、真希が宥めるように声をかけた。 「うう。分かっていても、なんだか混乱しちゃいますね!」 どうにか菓子を飲み込んだアルトゥルだったが、それでも声を弾ませる。 「でもでも、楽しまなければ損というもの! 見た目がこわいのはみなさまが言うように、おめめ瞑ってはなを抓めばおっけー! とおもいこみます!」 「アルトゥル、だっけ。思い込んでまで無理する必要は……」 様子を見ていた眠り鼠が思わず声をかけたものの、 「そ、それではもうひとつ」 言い終わる前にぱくん、と更に一つ、菓子を頬張った。 途端に始まった賑やかな騒ぎに、人に扮したアザーバイドは苦笑する。 「……あーあ。無茶するなぁ」 その頃エリアルの方は、ポットを手に客席を回りながらいちるに声をかけていた。 「お味はいかがでしょう?」 「………と。とっても、個性的な味だと思います……」 にこやかに尋ねられ、いちるが表情を押し殺して何度も頷く。 「大丈夫。世界は広くて虫も臓物も脊髄も骨すらも食べるひとが……」 「まあ。人が雑食というのは存じていましたけれど、本当に何でもお食べになるのね」 自己暗示をかけるいちるの言葉を真に受けて、エリアルが驚いた顔をする。 「え、いや、そういう人もいるって話なんだけど」 たじろぐいちるを置いてけぼりにして、エリアルは深く頷いていた。 騒がしくも賑やかなテーブルを回って、海依音がいちるの隣に腰掛ける。 「……アークはね、こんなお仕事もたくさんあるんですよ」 「これも仕事、ですか」 「ええ、立派なお仕事です」 にっこりと頷いた海依音に釣られたように、いちるの表情も穏やかに和む。 口にした菓子の奇妙な苦さに顔をしかめるいちるに微笑んで、海依音もまた、皿に盛られた菓子へと手を伸ばした。 「……楽しいお茶会だけれど、これ長くなると忍耐勝負みたいになってくるね」 齧りかけた菓子を手にそんな感想をぽつりと洩らして、いちるはそっと溜息を吐いた。 一方の海依音は皿の上に指を迷わせていたものの、目を瞑って一つを選び出すと、形を見ないままで口に放り込む。 「……あら、悪くない味ですね」 形状を見なかったことで余計なイメージが沸かずに済んだのか、味だけはまともなクッキーに、おっかなびっくりとしながら海依音が目を開けがものの。 「でも、見た目はやっぱり食欲を失っちゃうのよね」 皿に盛られた虫や臓器型の菓子の数々に、思わず眉を寄せたのだった。 ● 海依音の持ち寄った兎型のクッキーが、兎の、もといアザーバイドの口に消えていく。 「どうでしたか? お礼のお声を聞きたいわ?」 もそもそと口を動かした兎が、海依音の言葉に溜息を吐いた。 「むう、礼を盾に取られては拒絶出来ぬではないか」 「…………」 渋々口を開いたピンクの兎に、思い通りになったにも関わらず、海依音は思わず口を噤む。 その理由を察したように、兎が大きく身体を揺さぶった。 「ええい、何も言うな!」 喚くピンクの毛玉に、しかし少し首を傾げた海依音は口を開く。 「……、子供?」 「何も言うなと言うにー!」 椅子の上で地団太を踏むピンク色が、ふんふんと鼻息を荒くして全身の毛を逆立てる。 「良いか若いの! わしはあの二人より年上じゃからな? 一番の年長者ぞ!?」 小さな子供のような甲高い声が、怒りも露に良く響く。 ――が、とはいえ。 「子供だよね」 「子供だな」 真希が頷き、エルヴィンが同意する。 「だから喋りたくなかったのじゃー!!」 「あらあら、あんまり苛めたら可哀想ですね」 真ん丸くなってぴぃぴぃ泣き始めたピンク色の塊に、海依音が兎の毛皮を撫でる。 そんな三月兎へと、恐る恐る指が伸ばされ。 「ぴっ!?」 「あああごめんなさい! そんなつもりじゃ!」 一際甲高い鳴き声を上げた三月兎に、慌てて手の位置を変えたいちるだったが、結局指はふかふかの背中に落ち着いただけだ。 「こ、これはちょっとしあわせ! お耳もふもふさせてください抱っこさせてください! はっ、本音が!!!」 「……お主、ちぃと落ち着いた方が良いぞ?」 怒るより先に呆れたように首を捻った三月兎が、もっふりした前足でぺちぺちといちるの膝を叩く。 それを見下ろしたいちるの目が輝き、腕が伸び。 「ふみょー!?」 あっさり抱きかかえられたピンクの兎が、素っ頓狂な声を上げたのだった。 ● 「ご馳走様でした! やー一日食費浮いたわ。サンキュー!」 「お役に立てたなら良かったよ」 詠太郎の言葉に笑って、眠り鼠が真希にバスケットに収めた破界器を差し出す。 ティーセットを受け取った真希が、椅子の上に丸まっているピンク色の毛玉へと手を伸ばした。 「今日は楽しかったよ。ありがとう。兎さんはどうかな? 教えてもらえたらうれしいんだけど」 「……ふむん。菓子は美味であったぞ」 甲高い声が偉そうに鼻を鳴らし、エルヴィンもまた眠り鼠に声をかける。 「ありがとう、楽しかったよ。もし良かったら、今度は普通のお茶会にも誘って欲しいな」 「あはは、そうだね。考えておくよ」 笑って頷く眠り鼠の横で、ぱちん、と手を合わせる音がした。 「あっ。そうだそうだみなさま! あくしゅ! しましょう!」 手を合わせ声を弾ませたアルトゥルが、ピンクの兎に顔を近付ける。 「三月兎さんも、いいでしょう? ね、ね。今日はもうお別れですから!」 「むう」 唸ったのか呻いたのか分からない声を上げた三月兎が、溜息を吐いてちっぽけな前足を差し出す。 もこもこした前足を両手で握って、アルトゥルが微笑んだ。 「すてきなティーセット、たいせつに使います。だから、また一緒にお茶会しましょうね」 少女への返事は、小さく揺れる丸い尻尾だった。 そんな会話がなされている頃、遠子が荷物を探りながらエリアルへと声をかけていた。 「今日は本当に楽しかったよ……。あの、良かったら……」 礼の言葉と共に、一枚のカードをエリアルへと差し出す。 「綺麗なカードですのね。何ですの?」 「お茶会に招かれたら、次は自分が招く番なんだって……。今度は私達がエリアルさん達の為にお茶会を開くね……」 「まあ……」 嬉しげに頬を染めたエリアルが、綺麗なエメラルドグリーンの招待状をそっと胸元に抱き寄せた。 「うふふ、楽しみにしてますの」 「うん、そうだね……」 秋空は高く、日差しは穏やかに茶会の日和を優しく彩る。 甘い香りの漂う中で、柔らかい風が奇妙な茶会の余韻を拾うように、皆の間を優しくそよいでいったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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