●餅つき兎の言うことにゃ まあるい月の鮮やかな、とある深夜。 三高平は港の辺りで、長い影を引いて歩く姿が一つ。 「おおーい、杵やーい。臼やーい……」 疲れたような、侘しいような、何ともいえない声が港に打ち寄せる波音の間を響き渡る。 その影には、二つの長い耳があった。 ぺたんとした足が音もなくコンクリートの上を歩き、小さな丸い尻尾が時折揺れる。 ピンク色をした鼻先、その左右から伸びた長いヒゲをピクピクとひくつかせながら、歩む姿には疲労感が満ちていた。 「おーい、杵ー。臼ー」 ふかっとした前足を、長い前歯の突き出た口元に当てて大声を出す。 だがしかし、人気のない深夜の港だ。肝心の探す相手はもとより、人間の一人とて見付からない。 その生き物――異界に住み暮らす大きな兎は、器用に二足で立ったまま、困惑したように白い毛並みのふかふかした頭を掻いた。 黒い瞳が辺りをきょろきょろ見回して、長い耳と唇の両端を下に向かって垂らしながら、人間めいた仰々しい溜息を吐く。 「あいつら、見付けたら覚えとけよ……」 恨みがましい一言は、やはり波風に乗って消えていく。 ●極めて簡素な話には 「一見、白兎。でも身長二メートル。二足歩行で、フレンドリーな性格」 以上が、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)による説明だ。 何ともシンプルで、疑問を差し挟む余地がない。――というよりも、疑問を受け付けないこざっぱりとした潔さがあった。 「探しているのは杵と臼。当然だけど、全部アザーバイドだから。……兎はフェイトを持ってるみたいだけど、杵と臼は持ってないから、D・ホールが閉じる前に見付けて送還してあげて」 当然のように言ってから、そこで漸くイヴの眉間に軽く皺が寄る。 「……D・ホール以前に、見た目は普通の杵と臼らしいから……一般人に見付かる前に、出来るだけ早く」 自力でうろつき回る杵と臼。 その光景を想像したのか、白い少女の眉間の皺が少しだけ深くなった。 けれどすぐに溜息を吐いていつもの無表情を取り戻せば、改めて眼前のリベリスタ達を一瞥する。 「向こうに敵意はないみたいだから、脅かしたりしない限り特に問題は起きないと思う。……そういうことだから、よろしく」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月09日(月)22:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 満月に港、星に海。 「月でお餅を突くことに飽きて喧嘩でもしたのかしら」 潮風に舞うヴェールを軽く押さえて月を見上げた『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が口を開く。 「まだ喧嘩とは決まってないけど、なんか十五夜に準えたようなアザーバイドだな。月見団子喰いたくなってきた」 夜兎守 太亮(BNE004631)も、空に浮かぶ月を見上げて一人頷く。 その傍らで声を弾ませるのは『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)だ。 「できれば仲良しになって、お話聞いてみたいな♪」 金色の髪を揺らす『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)はといえば、 「うさぎさんと協力して、おもちーズにおかえりいただくのです!」 「お、おもちーズ?」 一風変わった表現に、太亮が思わず聞き返していた。 「兎に加えて、臼と杵も生物? として存在する世界かあ。どんなのだろうね」 『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)が小首を傾げながら『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)を振り返る。 「昔は月に兎がいると信じていたものだ。目の当たりにするのが楽しみだ」 それに瑞樹が嬉しそうなのも何よりだ、と呟く視線の先には少女が一人。楽しげな様子を見詰めた優希の表情が綻ぶ。 「何にしても、まずは兎さんを見付けることが先決か」 「よぉし、がんばろー!」 『小さき梟』ステラ・ムゲット(BNE004112)に応じるように、『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)が元気良く声を上げた。 斯くして、月夜の捜索は幕を開ける。 ● 「さて、兎さんはどこへやら……」 翼がはためき、潮風に抗うように新たな風を生む。 月や星々の統べる夜空へと飛び込んで眼下に敷いた世界を眺めながら、ステラはゆっくりと目を瞬かせた。 「このまま月まで行けばまた別の兎に会えそうな気もするな……」 一寸、見上げた空に浮かぶ月に細やかな空想を抱きながらも、すぐにその視線は地上に戻る。 港とは一概に言えど、その広さは地図で見るよりもやはり広い。 けれど上空から地上から、網を張るように分散した探索の目はその広さを補うには余りあるものだ。 やがて視界の隅を蠢く白い塊を目に留めて、ステラは幻想纏いに手を伸ばした。 「うーさぎ、うさぎっと……あ、居た」 ステラからの情報を受けて港の奥へと足を進めた瑞樹が声を上げる。 「こんばんは、兎さん。いい月の夜だね」 警戒心がないのか、瑞樹の声で漸く気付いたように兎が振り返った。 「ワタシ達に敵意は無いわ。お話を聞いてくださいな」 続けて声をかけたのは、同じくステラの情報によって到着した海依音だ。 「お月様から落ちてきたの? いいですよ、あなたの愚痴も懺悔でもなんでも聞きますよ」 天に昇る月を示し、「十五夜お月様までにはもう少し時間がありますから」と告げられたアザーバイドはといえば、 「つ、月……? 懺悔?」 思いがけないことを言われたというような態度でたじろいでいる。 と、そんな会話の背後にて。 「ふにゃあ、カワイイ~♪」 他の仲間達も集まってきた中で、もふもふと二足歩行の兎を目にして、真独楽が蕩けた声を上げた。 既に会話を交わしている瑞樹や海依音の傍へ向かうと口を開く。 「はじめまして、真独楽ってゆーの! お友達を探してるって聞いて、お手伝いにきたよぉ」 「…………んん?」 「なんて呼べばイイかな、名前はある? “うさちゃん”でもいいのかな?」 立て続けに話しかける真独楽を暫しじっと見下ろしていた兎だったが、やがて困惑したように首を捻った。 きょろきょろと集ってきた周囲の顔を見回して、もふっとした手を真独楽の頭にぽんと乗っける。 「えー……此方の嬢ちゃん……坊ちゃん?」 「えーと……坊ちゃん、かな」 至極素直に答えてしまった太亮の言葉に、しかし兎は納得したように頷いた。 「成る程。いや、噂には聞いてたが、人間ってのは実に色んな奴が……」 「ちょっと! まこは“特別な女のコ”なの。普通の女の子と“ちょっと違う”だけだもん!」 「それにしても、何故仲違いを?」 少しばかり口調を荒げる真独楽の横から、話の矛先を変えるように瑞樹が口を挟む。 その言葉に頷いた優希も、会話の先を拾って続けた。 「元の世界へ帰るにはタイムリミットがある」 「ああ、リミットのことは知ってんだ。フェイトがあるからな」 あっさりと言ってのけた大兎が、兎にしては人間めいた仕草で呆れたように首を横に振る。 「分かっちゃいないのはあいつらの方だ。ったく、何処までも人に面倒をかけさせる!」 「そう荒れるな。まずは腹ごしらえでもしたらどうだ。共に杵と臼を探すとしよう」 声を荒げる白兎に、荷物を探った優希がおもむろに人参を差し出した。 差し出されたオレンジ色と、それを差し出す少年とをまじまじ見比べるアザーバイドに、優希は更に荷物を取り出す。丸ごとキャベツ、月見団子にハンバーガー。 「気にいるものはあるだろうか?」 「…………、団子かな……」 好意を無碍に出来ないと思ったのか、はたまた単に食べたかっただけかは分からないが、白兎が受け取った丸い団子を口に頬張った。 「うさぎさんがお団子食べてますぅ」 「お前さん方さっきから兎兎って言うが、こっちは立派なヒトだからな?」 もしゃもしゃと団子を咀嚼する兎を傍から興味深げに観察する優希に気付かず、兎がロッテに文句めいた言葉を返す。 「それよりどうして臼と杵がいなくなったのか、思い当たる節があるかな?」 「そいつがさっぱりでなぁ……こっちが用を済ませてる間に、気付いたらいなくなってやがった」 瑞樹に対して首を捻る動きにあわせて、頭の上で長い耳がゆらゆら揺れた。 「うさちゃん、こっちの世界に何の用だったの?」 「うん、ちっとばかり情報収集をだな。全く何処に隠れたものやら」 探せど探せど見付からない、と零したアザーバイドに真独楽が笑いかける。 「あんまり怒ってたら怖がって出てこないかも! 優しいキモチで探してあげよ!」 明るく告げた真独楽をじっと見詰めた兎が、何故か目許を拭う仕草をした。 「お前さん優しいなぁ。ただの風変わりな奴かと思えば……」 「またそんなこというー! まこは女の子なの!」 何を風変わりと指されたのかは実に顕著で、頬を膨らませる真独楽の頭に相変わらずもふもふと手を載せていた。 「とにかく、穴が閉じる前に臼杵連れて帰って貰わねぇと困るし、兎のよしみで一緒に探そうぜ」 そう提案する太亮に、兎は思いの他あっさりと、よろしくと頷いたのだった。 ● 「音はこの近くから聞こえるんだけどな……杵って生きてるのに熱はないのか?」 僅かに首を捻った太亮の後ろを歩く白兎の横に並んだ壱也が、高い位置で揺れる耳を見上げた。 「白兎さんはなんで二人を探してるの? 仲のいい友達とかかな」 「長いこと一緒に居るからなぁ」 「わたしたちの世界にも、3人に似たようなものがあるんだよ。あの大きな空に浮かんでるお月さんにね、秋の夜だけ見えるんだ」 少女の指差す先を見上げた白い大兎は、ゆっくり瞬いて壱也を見下ろす。 「もしかしたら3人かもしれないよね。だったら尚更、絶対に見つけなきゃ。わたしはこの世界から見る3人が大好きだから」 相好を崩して笑みを浮かべた壱也に対し、兎は何も否定しなかった。その代わりに器用に苦笑と分かる表情を作ると、もふっとした手――或いは前足だろうか、それを少女の頭に載せる。 「この世界は、思ったより優しいな」 「優しい?」 「いや、こっちの話だ」 きょとんとして繰り返した壱也に人間めいた動作で首を横に振って、白い兎はもう一度笑った。 そのタイミングに合わせたように微かな羽ばたきがしたかと思えば、低い空を舞っていたステラが地上に降りてくる。 開いた翼が役目を失して閉ざされ、風圧に僅かに浮いた眼鏡の弦を細い指がそっと押さえた。 「杵というのは、普通の杵と見て良いのかな」 「おお、こっちで見るのよりは少し大きいだろうけどな」 「それなら恐らく見付けたよ。そこの角を曲がった先の、物陰――隠れたつもりなのか寝ているのかは分からないが」 何しろ動いていなければ、見た目は置物のようにも見えてしまう形状だ。 「『光が輝きを増せば影もまた濃く深く。』……影の内も見えてしまう私には、数多の本に記されるその表現をさして理解できないのだけれど」 いち早く様子を探りにいった太亮や壱也の背後で、ステラが小さく呟く。 その言葉を拾い上げたのか、歩みかけた足を戻した白兎が、何処か惚けているようにも見える大袈裟な動きで首を捻った。 「さてね、影なんてのは見通せるに越したことはないと思うんだがな」 「…………」 「真っ暗闇は不便じゃあないか」 ひくり、と鼻を動かすようにして笑った兎が、足音も立てずに先を行く少年少女の後を追う。 ふかふかとした背中を見上げたステラもまた、眼鏡のブリッジを押し上げるようにして無言のままに歩き始めた。 揃って角を覗いて見れば成る程、正しく杵の形ながらも大振りのものが、積み重なる資材や荷にもたれかかるようにして立っていた。 「あれか?」 尋ねる太亮に、白兎はこくこくと無言で頷いた。 「みつけたらこういう時はBecoolだっけ? とにかく驚かすのは無しだ」 首を傾げた太亮だったが、すぐに口調を改める。 「白兎も抑えてくれると助かる。数で囲んで捕獲しちま――」 だが、その言葉が終わるより早く。 「おりゃ――ッ!!」 一足飛びに高い跳躍を見せた大兎が、周囲に積まれた資材をものともせずに杵に飛び掛った。 「おい! 抑えてくれって言っただろ!?」 「いや、すまん。いつもの癖だ」 全く悪びれた様子もなく片手を上げる白兎の足元で、下敷きにされた杵がジタバタと暴れている。 その遣り取りに深く溜息を吐いた太亮を余所に、幾らか巻き添えになって散らばった資材を拾い上げて壱也が苦笑した。 「これがいつものことなら、逃げちゃっても仕方ない気がするよ……」 「せめて下りてやる訳にはいかないのだろうか」 相変わらず兎の下で暴れる杵に、ステラもまた控えめに意見を口にする。 「おお、良かったな、優しい味方が居て」 まるで他人事のように頷いた白兎が、それでもステラの言葉に応じてのっそりと杵の上から退いた。 すぐさま自力で跳ね起きた杵は動物のように身震いすると、身体を大きく曲げ伸ばして声なく兎に突っかかっている。 「落ち着けって、なんで白兎から逃げたんだ? ……おお、ボディランゲージ一択か。すげえな」 話しかけるなり途端に全身をくねらせ始めた杵に、太亮が思わず一歩下がった。 「なんて言ってるんだろう……けど、もう一度逃げ出したりはしないんだね」 壱也が苦笑混じりに笑う。 そんな光景に小さく首を傾けて、ロッテがアクセス・ファンタズムを取り出した。 「とりあえず……連絡しておきますねぇ?」 ● 「杵は見付かったんだね。うん、こっちも――」 通信機を兼ねる幻想纏いから顔を上げて、瑞樹が視線を動かす。 その先では通常目にする機会の多いものよりも大きな臼が、誰の手も借りずに飛び跳ねては転がっていた。 「何かを訴えているのはわかるけれど……」 「跳ね回るだけで何を言いたいのかさっぱりだな」 海依音の疑問に同意するように優希が頷く。 「でも、逃げる気はないのかな?」 手を伸ばせば大人しく跳ねるのを止めた臼の縁を撫でてみながら、真独楽が首を傾げた。 そんな光景を視界に納めてから、小さく微笑みを食んだ瑞樹が再び幻想纏いに言葉をかける。 「こっちも、丁度見付かったところ。うん、また後でね」 そう告げて通信を終えた瑞樹が、此方もまた臼に近付いて少し身を屈めた。 「それにしても、臼が自分で動くのかあ」 撫でられる感触が快いのか、跳ね回っていたのが嘘のように大人しくなってしまった臼を突付いてみる瑞樹に、優希が視線を向ける。 「向こうはどうだった?」 「ちゃんと見付かったって。D・ホールのところに集合しようって話になったよ」 「悪い人間に捕まる前に帰らないとねぇ。自分で移動出来るのかな?」 真独楽に話しかけられた臼が、応じるように飛び跳ねた。 そのまま二、三回飛び跳ねると、様子を窺うように立ち止まってリベリスタ達を振り返る。ぱっと見ただけでは前後も何もあるようには見えないが、臼自身にはどうやら確たる違いがあるらしい。 「猿蟹合戦の臼とかもあんな感じだったのかも」 どすん、どすんと騒々しく跳ねて移動を始めた臼を見て、瑞樹は何処か感嘆とした風に呟いた。 ● 「大きい兎に臼と杵……おもしろーい!」 漸くのことで顔を付き合わせた三体のアザーバイドを順に見て、真独楽が声を弾ませた。 肝心の異界の住人達は飛び跳ねていたり転がっていたりと、離れていく気配こそないものの好き勝手に動き回っている。 「やっぱり臼と杵はうさぎさんあってのものですよね」 一方で目の前の光景をどう受け止めているのか、海依音がにこやかに微笑んで頷く。 「うさぎさんも怒ってないで、仲直りしましょ。本当はそうしたいのでしょう?」 「いや、怒ってるというかだな……」 「だって臼と杵を探しに、この世界に来たんですもの。大事なお友達でしょう?」 畳み掛けるように言われては返す言葉もないのか、それとも気圧されているだけなのか、困惑顔の兎が頭を掻く。 そのまま戸惑いも露に周囲の顔を眺めると、ぐいっと優希に顔を近付けた。 「なぁ、此方のお嬢さんはいつもこうなのか?」 「それを俺に聞くのか……?」 ひそひそと話しかけられた優希が釣られたように潜めた声で疑問符を浮かべる横で、壱也がぽんと手を叩く。 「喧嘩してるんだったら仲直りしてもらおう、ちゃんと言えばわかってもらえるはずだし。はい、仲直りの証拠に握手!」 海依音の言葉に乗ったものか、この場を収めようとしたものか。 いずれにしてもその言葉で一斉に動きを止めたアザーバイド達が、やはり同時に少しばかり首――或いは身体を傾ける。 「手……?」 呟いた白兎が自分の前足を見て、次に杵と臼を見る。 「そっか、手は白兎さんしかないんだっけ」 「あー……こういうことで良いのかね」 夜空を見上げて唸った兎が、妥協案のように杵と臼の上に片方ずつ手を乗っけて壱也に尋ねた。 困惑しているのは杵と臼も同様なのか、一見すれば木製にしか見えない身体を器用にひしゃげ、無言のままで尋ねているかの態度だ。 「本当にあなた達は仲良しなのね。喧嘩するほど仲がいいって言いますよ」 表情を綻ばせる海依音に対し、白い兎がきょとりと瞬く。 時間は刻々と過ぎる。 「平和といえば平和なところだろうな……大抵は、ちっこい奴らが幅を利かせてる」 「ちっこい奴らってどういうの?」 「やっぱりお伽噺とかであるような世界なのかな」 「かもなぁ、こう、このくらいのな。こっちでいう縫い包みだったか、そんなようなのがうようよと……」 真独楽や瑞樹のどんな世界かという質問に対し、もふもふとした手で大きさを示しながら説明をする。 けれどその言葉が終わる前に口を開いたのは海依音だ。 「名残惜しいですが、そろそろお別れの時間ですね」 「あ、帰る前にうさちゃんモフモフしたいっ! 抱っこしてくれるっ?」 「やれやれ。仕方ないな」 D・ホールを前にして両腕を広げた真独楽に対し、白兎が溜息を吐くと、それでも小柄な身体を抱き上げる。 言葉通りの態度を装っているものの、ひくひくと鼻を蠢かせている辺り満更でもないらしい。 「お前、それで良いのか……?」 「まぁ良く考えてみろ。小さい。可愛い。な、問題ない」 「えへへぇ」 「全然分かんねぇ!」 はにかむ真独楽の頭をもふもふと撫でる白兎に、疑問を投げた太亮が口調を乱した。 一方海依音から土産の餅を乗せられて、臼が周囲を見回すような動きで回転する。 「あぁ……我々は月に住んでるんだ。うん」 心なしか達観したようにも思える口調で頷く白兎に、杵と臼が顔に当たるのであろう部分を見合わせた。 「良いな、何も言うな。俺達が帰るのは月。あそこで餅つきするのが仕事。良いな、何も言うな」 同じ言葉を繰り返した白兎が、一層深く頷く。 「何も言うなも何も、杵と臼の言葉は恐らくお前にしか分からないと思うが」 どんな会話がなされているものか傍目からは判断が付かずに優希が口を開いたが、白い兎は聞いているのかいないのか、益々深く頷いただけだ。 反対に説明を求めるかのように揺れ動く杵と臼に対し、優希は空に浮かぶ月を指した。 「兎が餅をついているように見えるだろう? 月を見上げながら餅を食うという風習も、この世界にはあるのだ」 器用に身体を逸らすように伸ばして月を見上げるアザーバイド達のことは深く考えないようにして、優希が表情を和ませる。 「お前たちの存在は、この世界にとって心和ませる物なのだぞ」 「うん、つまりそういうことだ」 優希の説明に任せていた白い兎も頷いて、真独楽の身体を抱き下ろすともう一度頭を撫でた。 「またわたしたちに中のいい3人の姿見せてね」 「仲良くしろよー」 壱也が笑い、太亮もまた声をかければ。 「まぁ、月の綺麗な夜には精を出して働くさ」 白い兎は惚けたようにそう告げて。 またね、と、壱也の明るい声に見送られて、三体のアザーバイドは異世界に通じる穴の中へと飛び込んでいったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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