● 一つの噂を思い出した。森の奥、隠された教会で神様が特別な力を与えてくれる。 思考回路は制御不能。今、現在進行形で力が欲しかった。どんな力を使ってでも何の罪を犯してでも例え藁に縋って地べたを無様に這って泥を食ったとしても――!! 神の祝福を受けたイカれた信者の間を歩む少年は、まだまだ心が幼かった。目の前しか見なかった彼に、残酷にも奇跡的な祝福が訪れる。 「あのさ」 少年は見上げた。少し考えれば解る程に危険な神様を。それでもアクセルは止まらず。震えた声、焦点の定まらない瞳。伸ばした手は――真っ赤に。 「あと、どれだけ血を止めれば友達は助かるかな?」 彼の両手、否……全身は血塗れであった。 事故だった、不幸な事故。下校中の男子高校生二人に、居眠り運転の車が猛スピードで突っ込んで来た事故。犠牲は一人、間一髪で犠牲者に突き飛ばされて生き残った少年は散らばった親友を掻き集めたが遅い。 「たった一人の友達だったんだ!! 治す力ぁ……治す治す治すんだ治す治さないと治さないとあいつが元に戻らない!!」 背中が熱い。背中に違和感。突如生えた翼は――真っ黒に染まっていて。 気付いたら、僕はいつでも一人だった。 ● 「神殺し――を」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達へそう切り出した。 「今回は逆貫さんの班と一緒に行動してもらいます。と、いうのもどうにかしなければいけない敵が複数なので……」 黄泉ヶ辻の架枢深鴇というフィクサードが、とあるアザーバイドと契約をしていた。その契約相手は上位の神、一般的に死神と呼ばれているものだ。それはボトムのチャンネルを往来しては『種』を作り出し、熟した後に刈り取るという行為を行っている。つまり深鴇はその種を植え付けられた床であり、熟しては刈り取られる運命―――で、あったのだが。 「深鴇はとあるアーティファクトを身体の中に入れています。これがどういう効果なのかは解析できなかったのですが……深鴇が死神やエリューションに対抗するにあたって必要不可欠なものかと予想できます。なので、死神と深鴇を合わせないで欲しいのです」 熟した期を迎えた深鴇は餌であるため、彼が望まぬとも死神を呼び寄せる。其処でリベリスタ達は深鴇と死神の接触を止める。お互いにお互いを食い止め、『何が起こるか解らない事象』を未然に防ぐのだ。 「深鴇についてですが、彼は己の成し遂げたい事をするためには手段を選ばない人なので……アークも度々手を焼いています。例えば、邪神教をアークに潰させたり、一人ぼっちで泣いているエリューションを助けようとしたり……等々。フィクサードだからこそ出来る『良かれ』を行ってしまう人です」 「此方の班はその深鴇の突破を止めて貰います」 彼への対処は、『最終的に突破されない』へ繋がればなんでも良い。 「深鴇は兎に角、突破する事に躍起になるかと思います。いつもなら死亡させてでも止めて欲しいのですが……今回は死神の影響下なので一定の条件があるのです」 死神は収穫祭というスキルを所有し、フェイトを喰う。つまり、死神が居る範囲内でのフェイトの消耗は死神の強化を意味するのだ。それはリベリスタであっても例外なく、特に種である深鴇の運命消失は死神の更なる進化を意味するだろう。 「死神の撃退後ならばその限りではありませんので、彼方の班と息を合わせる必要はあるかと思います。勿論、捕縛するのであればその必要もありませんが」 前方に敵を、背には仲間を。死の溢れた戦場で、踊ろう、一緒に―――死体たちと。 ● 「あと何日生きられるっけ」 断罪だ。全てを許しましょう。 人はいつか死ぬ。なら今死んだ方が悲しみは少ない。 殺して埋めよう、殺して埋めて、皆埋めて、皆仲良く土の中。 そして一人になったら自分を殺しましょう。そしたらあの世で皆に会えるでしょう。死んだらもう死ぬ事は無いはず。 それには運命が邪魔だった。運命を、根こそぎ刈り取る――そう、彼だ、彼の力が必要だ。今こそ約束は破って捨てよう。己の命をやるなんて、いやいやまだまだ時間が欲しいのです。 余りにも、余りにも少年は少年過ぎた。 「あれ……何処で間違えたんだっけ……」 彼の正義は強すぎた。 彼の隣人を思う気持ちは強すぎた。 彼の優しさは度が過ぎた。 頬を伝う涙は何故だか冷たかった。 さあ、命を懸けてゲームをしよう。 乗っ取るか、乗っ取られるか、どっちにしろそれなりに楽しくない人生に悔いは無い。 殺せるものなら、殺してみろ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月01日(金)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 腐臭が香る、優雅な夜。紙一重の生と死が入り混じる。 「前とほぼ同じ顔を揃えちゃってさ、久しぶり、元気だった? とでも言っといた方がいいのかなぁ」 架枢深鴇はうんざりした顔で、柄の長いスコップを地面に刺した。 「―――邪魔なんだよねぇ、そんな所に立ってられると」 その声は、いつにも増して低く、そして殺意混じり。対面したリベリスタ達の背にはリベリスタ達が居て、更にその奥にこそ深鴇が望むものがある。 「なぁ、深鴇。あんたは人を助けたかったのか? その結果が殺人か」 「うるさいね。知った風な口やめてよ。切羽詰まった俺はあんまり皆に優しくできないんだよ?」 『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)は明りを光らせては、夜の闇を払った。彼に見えるフィクサードは、いつもとは違う人物の様に、壊れた表情を向けていた。泣きそうな、子供の其れに似ているか。 「お手伝いしたい気持ちもありますがそれはちょっとナンセンス。是非とも全力のボク達を打ち破って下さい」 『灯探し』殖 ぐるぐ(BNE004311)の放った力―――それは女性とも取れる死体を中心に巻き込んでいく。幾重にも放たれたそれは、混乱の呪いを撒く。 「うん、頑張ってみる。だから全力で止めて欲しいな」 其れは本意か嘘か。 光の余韻が残る中、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は走った、走った――ただ少しでも早く君に触れようと。 「約束したよね。君を殺すのは俺様ちゃんだって」 「……そうだね」 刹那、プロアの女が弾きだした思考の濁流が力となって彼を追い返した。葬識の飛ばされた身体を受け止めたのは『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)で。前へと向かう力を葬識の背中を押して分け与えつつ、フツは片手で持った緋色の少女へと言う。 「緋は火。緋は朱。招来するは深緋の雀。これぞ焦燥院が最秘奥義」 『アハッ! 一発目から最終使う? いいよ、フツ! 任せてね!』 業炎が溢れた。一面を焼き尽くすのか、火葬をするのか、その飲み込むような一撃。 「熱っ」 「!?」 その時、初めて気づいたか。フツの炎に当てられて、身体の燃えた深鴇の姿。 「庇うが解けてンのかい?」 『殺しちゃおうよ! フツ!!』 「ちょっと深緋は静かにな」 燃えた深鴇は誰に話をしているのかと首を傾げつつ、言う。 「……え、だって。やだな、庇うの外れさせられると前衛に僕立てないじゃん」 予め撃った、ぐるぐの『混乱』。其れは庇うを不能にするのに十分なものだ。見た目だけでは解らない庇うの解除。ぐるぐは、あっと言いながら、手をパンと叩いた。 「あ、ボク達のせいでしたかー?」 「まあ、良いけどね。多少は身を削らないと君達を突破できないみたいだし。んー1、2回くらいなら……フェイト使えるかなぁ」 ―――ごめん、止める。 その間を駆けた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)。できるだけ多くの敵を巻き込むようにして放つアッパーの力。 只今一番敵を巻き込んで、更には高火力のスキルで敵を減らす――その一念に賭けた旭は自らを餌に敵を集めるのだ。何が何でも、彼の凶行は止めるのだと緑の瞳を煌々とし。 フラッシュバンを打つには、既に前衛が混戦になっているその状況では相応しくないと考えた『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は影人を召喚して『さいきょー(略)さぽーたー』テテロ ミーノ(BNE000011)を護りつつ思考した。上位の存在に喧嘩売って、勝算はあるのだろうか。否、あるからこそこのような事になっているのだろう。 「勝たせる気、ないけど……」 そう呟いた綺沙羅の声は誰にも聞こえない。 どさくさに紛れて召喚されていた死神がプロアの死体を護っていた。気づいた旭、まだプロアにその攻撃というものが通らない。ドレスのフリルを燃やしながら、次の一手を考える、その瞬間に敵の気糸が飛ばされて、射抜かれて、胸に空いた穴。 召喚された死神へ吹っ飛んでいく『うっちゃり系の女』柳生・麗香(BNE004588)は雄々しく叫びながら、刃を死神に当て壊さんとす。 『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は己に自付を施し、思う。きっと俺にはこいつは殺せない―――そういう星の廻りか。前回の殺意で殺せなかったのは、逃がしてしまう事を良しとしたためか。 「竜一くん、今日は怖いね」 深鴇の声―――粛々と任務をこなさんと考える竜一の腕に力は籠った。自分が殺せないなら、違う誰かのために。まずはそのプロアデプトの壁から壊すために。 「……この世界の命のやりとりは飽くまでこの世界で行われる事。間違っても神気取りの為に存在などしていない」 もはや何度目の対峙か。それとも今回で最後か。何はともあれ『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)はエネミースキャンにて深鴇の中の神秘を探そうとする。だがしかし、見えたのは身体に溶け込んでいるため探せないという結論か。 「……ん、仕方ありませんね」 頭の中でAFの破壊をやる事から弾いたロマネ。同時にAFを使って見えた事を仲間へ伝えるのであった。ふと、深鴇は遠くを見つめて言う。 「沢山リベリスタ用意してさ、結構大仕事なんだね。たかが僕一人のためにすまなかったね」 「あちらの対処も別に行っています。契約を破棄する事は、貴方でなければできないのですか?」 「僕でもできないよ。だから壊すんだよ」 構えたスコップの、刃の部分を首に当てた深鴇にロマネは右手を前に出した。 「僕が死神の力を一番知っているから、どうやれば引き出せるかも知ってるわけで」 「やめなさい、深鴇!!」 「君達は困らないでしょ。困るのはあっちの君達だよ」 つまり―――死神は倒させないよ、と言いたいんだろう。彼方の面子には箱舟の脅威が詰まっているのは七派に属する者が理解できない事は無いのだ。 ● 『彼方の死神』の闇が周囲を支配するのに、そう時間はかからなかった。己が傷つく事で箱舟が苦戦するのは安い出来事であっただろう。 この時点で『暗視』を持っていない綺沙羅、黄泉路、麗香、ミーノがほぼ己のスキルを制限された。そして距離と視界の問題が一致しないために『彼方のリベリスタ』からの回復支援も届かないのだ。つまり、回復する敵に対し、回復しないリベリスタ達は幾らか不利であったと言えるだろう。だが、それだけで負けは決まるものでは無い。 「せやー!」 いつでも同じテンションで、魔力を込めた光を放つぐるぐは超元気だ。当てず!と思えど周囲を支配している腐臭は範囲に完全に入ってしまっているため、深鴇の庇うは解けてしまうのは幸だったか不幸だったか。 ため息交じりに召喚した死神によって変わりの庇いを作り、そしてフツの呪印から逃げる深鴇も深鴇で精一杯であっただろう。 「やだ、フツ君の呪縛は怖いね」 「大丈夫だ、あんまり痛くねぇ。少し大人しくしてもらうだけだ」 「んーそれはちょっとねぇ」 その中で葬識は挟みを開いては閉じ、開いては閉じ、闇を放ってプロアの身体を甚振っていた。さあ、どうやって殺そうか、細切れにしようか。 「―――君の友達の様に、さ☆」 ぼそりと呟いたその言葉に、ビクリと深鴇は奮えた。怒っているのか、泣いているのか完全に不明な顔を葬識は見ていた。からかわれているのか、そうだとしても怒りは帯になる。 「葬識くん……、僕の、地雷、踏まないで、よね、本気で殺すよ」 フラッシュバックか、頭を抱えた深鴇が怒りのままに放った深鴇のジャッジメントレイがリベリスタの全てを包み込んで、幾重にも。付与を行っていた者はそれさえ弾いて消していく。 その中で、違う色の光は漏れた。フェイト復活の―――。 「……すい、ません」 アッパーを行っていた旭だったが、確かに其れによって範囲に巻き込めるフェーズ1の数は多く、効率は良かった。だた、相応に彼女の回避では全ての攻撃をまともにくらってしまう事に欠点があった。 謝ったのは彼方のリベリスタの事を思ってか。旭は両腕に焔を巻き付け、其れを地面に押し付けた――意地でも、フェーズ1だけは潰すのだと。 「深鴇!! 避けろよ!!」 「無茶言わないでよ竜一くん」 竜一は旭の炎の中に飛び込んで、其処へ振りまく爆風の風。焔が一気に消えていく中、竜一の其れはフェーズ1を薙ぎ払っていく。後衛に退いた深鴇に当たる事は無かったものの、お返しというようにプロアのノックBに旭と竜一は巻き込まれていった。 「深鴇!! 俺は、お前の事嫌いじゃない」 「うん、僕も竜一君のこと結構好きだよ。恋愛は無理だけどね。友達になってくれたら嬉しかったなぁ」 深鴇は何かを待っていた。其れが何かはロマネが辿る。深鴇の目線は度々、『彼方』を見ていた。死神か、それともリベリスタを見ているのかは不明として。 「深鴇、まさか化け物になる訳では無い……よな?」 「……前、そんな事言ったと思うけど、フツくんはいなかったね」 フツは魔術知識の中の知恵を探した。身体に溶け込む形のAFなんて腐る程此の世に溢れているものの、その一端を弾きだして。 「歪んだ絆は、力を奪うアーティファクトだな?」 「……さあね」 結果として、曖昧な返答は当たっているの合図なのだろう。如何にかしてでも止めるとフツは踏んでいるため、深緋を動かす手は止めない。捕えるのだ、深鴇を。この場に抑えて―――後方のリベリスタがどうにか死神を殺してくれるまで。 後ろを見たフツ――だが、彼等は少しばかり苦戦というものを味わっている様だ。 ● 細切れにしても、繕うのは深鴇の力か。強力過ぎた、彼の単体回復の力にプロアの死体はなかなか倒れてくれる事を知らず。死神召喚は遂に四体に増えた時に広域の闇は消えた。 「ハイパーサポーターミーノっ! きょうもぜっこうちょう!」 視界をやっと確保できたミーノの力が周囲を鼓舞するのと同時に、 「結構増えちゃいましたね……」 麗香の得物が死神一体一体を狙っていく。其処には旭の炎を入り混じり、掃討するためにはやっと主役が揃った所と言えるだろう。 「なんで死が終わりだなんて思ったんだ?」 輪廻転生、そんな考えがあっても良かったはずだと黄泉路は言う。 「死んでみないと解らないけどね、どっちもさ」 黄泉路の刃がプロアの胸を貫いた。ボロボロになって、もはや見る影も無くなってきたアンデットに此れ以上攻撃していくのは心は痛むものの、されど黄泉路は止まれない。 「あんただって、目的を持って生を目指してるだろ?」 「僕が……息をしない理由とか考えた事ある?」 息をしないのは、おそらく彼が生きていないからだろう。契約の時に死んだ己自身―――侵食されていく呪いの檻。 「上手く理由をつけて、死にたいだけじゃなくて?」 「さぁね」 綺沙羅の降らせる雨―――その場の死神を飲み込んで、竜一と葬識を抑え始めた死神を早く消すために綺沙羅の手は早まった。それと焦りをも感じる――二度目の闇が来そうなのが彼方と此方の消耗を見て思うからだ。 「別に更生なんてさせる気無いが。あくまで今までの会話の延長、言葉遊びだな」 「喋ってくれるのは嬉しいかな」 プロアから引き抜いた剣を持ち、そして黄泉路は思い出したように深鴇にいった。 「あぁ、死んだら骨くらいは拾ってやるよ」 「うん、約束ね」 綺沙羅は再びの雨を乞う、札を投げ―――そう、アレが来る前に。 ―――だが、闇は容赦無く襲い掛かってくる。幾重の気糸に、深鴇のジャッジメントが重なった時、旭が完全に膝を着き、そして倒れたのだ。 其れが引き金か、彼方の死神が少し調子に乗り始めたか。再び回復と攻撃の手が大きく途絶える時はやってきた―――綺沙羅が苦い顔をした。満足に戦えない事が、歯痒く思えて、振り上げた足を地面に大きく蹴り上げた。 全て闇の中へ葬ってしまえば楽なもの。 続く死神の連鎖を壊すには、誰かが止めなくてはいけないのだろう。 愚かさとちょっとした善意を引換に得るものは、きっと何もないのに。 「真っ暗闇? 真っ暗闇?」 「闇が、なんだ!!」 毒を感じない分ぐるぐは元気で、竜一は元元の体力からまだ動けていて。それでも攻撃を受け続けている身体はぼろぼろで。 「いい加減に、しろよな!!」 ぐるぐがぐるぐがいっぱいのぐるぐを周囲に引き連れながら、竜一はプロアの脳天から足下へと露草にて斬った。もはやプロアも限界か、真っ二つになっても動かんとする其れは最期の気糸を打ち出した瞬間、ぐるぐたちの得物に細切れにされていく。 「……そういえば今日は水着じゃないね」 「当たり前だ!」 遺骸の肉を払った竜一に深鴇は笑った。 「グリムハウンドに来ませんか?」 「えっと……それはリベリスタになれってこと?」 ぐるぐはそのまま深鴇に言う、アークに来るのは嫌だろうから己が場所に来いと。それはとても嬉しい呼びかけであっただろう、安全に生きれるなら胸が高鳴る事は無かっただろう。 けれど、 「ごめんね、ぐるぐちゃん。俺様ちゃん、殺したいんだ」 「あらー」 葬識は苛立っていた。射線は通ったのだ。召喚された死神はあれど、時間の問題。後ろを見て、AFに聞こえる様に言うのだ。 「早く死神殺してくれないかな? 我慢したんだよ、俺様ちゃん」 「……殺意びんびんじゃーん」 「そうだよ、俺様ちゃんすっごく楽しみにしてたんだよ? だからこの前も、逃がしてあげたんだよ?」 「うん、うん……」 でも。 「でも、ごめん、そろそろ終わりにしようか」 伸ばした葬識の手――されど、届くには足りないものは。空ぶった手は上に向く。葬識が上を向く。 足りないのは、足りなかったものはなんだったか。 時間か、彼方との連携か、予想以上のフェイトの消費か。後衛に位置した彼に抑えはいなかったか、召喚され過ぎた死神を撃つ手が足りなかったか。 「深鴇ちゃん……俺様ちゃんが、殺すんだよ?」 不安気な、猫でも鳴くような声で葬識は言った。 「ごめんね、ごめんね、ありがとう。そんなに大切に思われたのは初めてでドキドキしちゃった」 舞うのは黒き翼―――堕ちるのは黒き翼。 「でもね、君に俺は殺せない。また殺しに来てよ」 「死神なんかに、君は渡さない。君は俺様ちゃんのものだよ!?」 「ありがとう、ありがとう。もうちょっと早く出会えていれば、そうだね、間違いを起こす前の俺に―――」 深鴇が気まぐれで流した涙は一直線に葬識の火傷跡に落ちた。其れはきっと、さよならのあいず。闇が晴れた時には、黄泉路が気づいたときには、遅いのだ。 「待て、深鴇。何する気だ!!」 黄泉路は駆けた、死神の方へ。同時に深鴇は今一度翼を動かした、向かうは死神。こんな終わりは嫌だと、葬識は黄泉路はロマネはリベリスタの間を駆けて死神の方へと向かった。 ロマネの予想は当たっていた。ただ、それを止める事はできなかった。もし、止められるとしたら今後の話になるのであろう。 断罪ゲィムは此処から始まる。 収穫ゲィムを刈り取って、死の連鎖は続くのだ。 開けた空はまだ暗い。何も無かったかのように、一瞬だけ本当に静かな時間は流れたのだ。それは嵐の前触れであったことはわかっていた。綺沙羅が見えた視界の中で彼の姿を追った。ぶるりと震えたのは、きっとこれから良くない事が起ると解っていたからだろう。同じくフツも、魔術知識の中の何かが危険信号を出している。だが止めると言った、走った、彼を止め―――――叶えよ奇跡でもなんでも起これと、遥か先の星の煌めくソラに居る彼へ。 「――――此の高さ、死ねるでしょ。全く発動条件厳しすぎるよね」 飛行の力を放棄した男は上から下へと堕ちた。鈍い音が響いた瞬間、残された最後の呪いは彼の願いを聞き届けるのだ。 発動条件は死。効果は乗っ取り。代償は――新たなる絶望。 つまり。 「まずい、逃げろ!!」 誰かがそう叫んだ。死神の大鎌を持ちながら、されど、天使の羽を持った男が誕生した。 笑った笑みは、女性をも騙されるだろう愛くるしいものだが、その場に居たリベリスタは口を揃えて恐怖を感じる笑みだと言うだろう。 『抱きしめてよ絆を感じさせてよ離さないでよ全部刈り取ってあげるからあ愛してるよリベリスタこの想い貴方ほど壊してしまいたい人はいないケヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!』 振りかぶられた大鎌は反則なまでに巨大で、それこそ30m内一体を全て切り裂けるだろうという程に―――。 「逃げ――――ッ」 綺沙羅は旭を両手で担いで、叫んだ。 一帯、荒れ地となったその場所にボロボロになった黄泉路は帰って来た。 「迎えに来た……けどいないか」 抜け殻だけでも居たら、一緒に帰ったのに。 「拾ってやるから、探すから」 約束は、守るから。骨は、拾うという約束を。 苦い思い、重い身体。影さえ残らず違うモノになってしまった君へ。 無くなった重みの分は、きっと、消えた魂の分なのだろう。 約束とは無敵の呪文。 「深鴇、今、何処にいるんだ――」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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