●寄り道は危険なフラグ 真っ暗な森の中、無造作に繰り出す足音を気にするでもなく、掻き分ける葉擦れの音に注意を払うわけでもなく歩く者がいた。真っ暗だというのに夜目でも利くのか足取りによどみはない。適当に歩いている様であったが、3時間ほどすると木々の切れ間から遠くの風景が見えだした。舗装された車道が灰色のリボンの様に連なっている。 「はぁよかった。ようやく徒歩以外で移動出来そうだ」 それほど嬉しそうではなくつぶやくのは……配島だった。たった1人で着衣は随分と薄汚れ、普段からくしゃくしゃの髪は更にボサボサに乱れている。 「好奇心猫を殺すってあれ、マジだね。ちょっとした興味でアークの奇襲を見学にきて酷い目に遭っちゃった。巻き添えで死んじゃうとか、東京湾に沈むより恥ずかしい最期だよ」 配島は珍しく独語を垂れ流す。今回の大田重工埼玉工場内に無断侵入し、アークと親衛隊との苛烈な戦闘に足止めされてしまった事は、精神的な汚点であるらしかった。そうではなくても、大事な情報がてんこ盛りの携帯電話を紛失した事、それを捜索すると言ってしていないことは重大な過失である。 「しょうがない。急いで谷中村へっ……って携帯ないんだった。戦闘中になくしたのかな、それとも空から村に降りた時かなぁって、とにかく電話を探さなきゃ」 配島の目が闇に妖しく輝く。公衆電話、携帯電話を持っていそうな人物、民家、事務所……とりあえずなんでもいいから一番先に目についたもので電話し、もう歩きたくないからタクシーでも呼ぼうと思った……お金はないけど。 ●谷中村の秘密 意外な事に『ディディウスモルフォ』シビル・ジンデル(nBNE000265)が告げたのは消失してしまった筈の谷中村へと行って欲しいというものだった。 「場所は四国のすっごい山奥。詳しい生き方はミサキに聞いて」 2ヶ月ほど前と同じ言葉をシビルは言う。ちなみにミサキとはこの村出身の女性で現在アークに身柄を保護されている。 「村の人は三尋木に連れ去られたか、行方不明か、死亡してる。建物は全て全焼しちゃってる。でも、まだこの村には持ち去られてない秘密が残っているってミサキは言う」 村はとんてもない山奥の森の中にぽつんとある集落であったが、そこから秘密の通路を辿って5キロメートルも離れた場所に秘密の湧き水があると言う。 「湧き水は普通の水。でも、清浄な土地の力と、古い術と、それからアーティファクとの影響で凄く特別な水になっているんだって。それを知ったらきっと悪い人がまた谷中村に来る」 その前に谷中村に行ってアーティファクトを回収してきて欲しいと言うのだ。 「アーティファクトは村の宝だけどミサキは納得した。このままだとまたいつか村が襲われて悲劇が繰り返されるから」 シビルは谷中村の全体図や消失後の写真、ミサキから聞き出したのだろう湧き水の場所を示す手書きの地図などをテーブルの上に広げる。 「あ、それからこれも持っていって」 ポケットから取り出したのは神社のお守りだった。守り袋には災難避けと刺繍がしてある。 「言いにくいけど、配島って三尋木のフィクサードが来るみたい。2つアーティファクトを持っているんだけど、1つは地面が氷みたいにツルツルになるみたいなの。転ぶと痛いから怪我しないようにね」 湿布の方がよかったかなぁと言いながらシビルはお守りを差し出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月09日(月)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●灰燼の村 谷中村が近づくにつれ、火災の爪痕がくっきりと緑濃き森に穿たれていた。根本だけが燃え残った背の低い木々ばかりが続く無惨な森の果てに、土台ばかりを残した村の残骸が現れた。予想された光景であったが、数ヶ月ぶりに帰ったミサキには衝撃的なものであった。 「そんな……酷い!」 村の入り口でミサキはふらりと倒れかけた。 「ミサキさん」 これまでも常にミサキの傍らを離れずにいた『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)が手を貸さなければ、荒れた地面に座り込んでしまっただろう。 「こんなすごい山奥の集落が……こんなになってしまうなんて」 嶺とは逆側を守るように立つ『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)もミサキを慰める言葉がない。ここで失われたのは建物だけではない。谷中村の人々も多くは殺され、残る者達も行方不明だ。幾人かは三尋木に連れ去られたらしいが、それも不確かな情報のまま詳細はわかっていない。 「そういえば大田重工の工場でも携帯を探していると行っていたな。未だに探し続けているとは行動が遅いのか、間抜けなのか、その両方なのか」 そう『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は酷評する。それとも……諦めきれない重要な情報が納められているからなのか。 「普通はよ、携帯なんざ落とさねぇだろ。んで、その携帯落としたってだから派手にやらかしたトコだろう。たぶん……前回戦ったトコにあるんじゃね?」 面倒くさそうに『悪童』藤倉 隆明(BNE003933) は言った。とはいえ、こんな場所までノコノコとフィクサードが1人でやってくるのなら好機だ。三尋木の首魁がいた前回とは逆にリベリスタ側が戦力的には圧倒的に有利となっている。 「待ってください。ここから先は低空飛行をお願いします。足跡でこちらの人数が6名以上いると配島にに悟られたくありません」 そう言うと『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)が力を使うと仲間全員の背に愛らしい小さな羽が出現しふわりと足下が浮かびあがる。急いだ甲斐があってか辺りに新たな足跡はなく、人の気配や通り過ぎた痕跡もない。 「じゃ私達は神社があった場所を目指すわ。天城さん、何かあったら……いえ、なくても定期的に連絡を頂戴ね」 「わかった。配島と接触した際にも必ず連絡する。そちらも気を付けて」 冷たく整った表情に変化はないが、櫻霞の言葉には仄かに危惧と優しさが混じっている。 「アーティファクを入手したら南から村を離れて下さい。ミサキさん、お願いできますよね?」 もう何度もブリーフィングした事柄であったけれど水無瀬・佳恋(BNE003740)はもう一度口にした。茫然自失状態のミサキが心配だったからだ。 「……ミサキさん?」 少し語気を強めに名を呼ぶと、ようやくミサキは顔をあげた。 「あ、えぇ、大丈夫よ」 「皆さんもどうか気を付けて。ではミサキさん、行きましょう」 嶺に促されミサキはうなずくと南の方角へと歩き出した。 「俊介……大丈夫? なんだかいつもと様子が違うねぃ。不安?」 ざっと村の入り口あたりの様子を調べていた『灯蝙蝠』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)は心配そうな様子で『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)を見つめる。 「いや、絶対に殺さないし……でも、友達を捕獲って胸が焦げるみたいなんだな」 知らなかった感覚に俊介の表情は強ばっている。それでも……リベリスタとして為すべき事はわかっている。 ●秘密の突端 僅かに地面を覆う神社の残骸を掻き分けると、大きな岩と岩の隙間に大人1人がようやくすり抜けられる程度の細い隙間があった。ミサキはここを進むのだと言って入ろうとしたが、シュスタイナがそれを止め自分が先に立つという。 「まだ天城さんから連絡がないということは配島と接触していないということでしょ。もし、この中にいたらミサキさんが前じゃ危険だわ」 「そうですね。今はまだ危険な感じはしませんが、ここはもう戦場ですから何が起こってもおかしくはありません」 シュスタイナも嶺もミサキを案じて慎重に進んでいる。もしここで配島と遭遇することにでもなれば、最悪の事態に及ぶことだって考えられる。 「ここは村の者達なら誰でも知ってるけど、大事な場所だなんて教わってない。だから掴まった村のみんなだって聞かれても言わないと思うんだよね」 だから配島が知る筈もない……だが、そう思うのはミサキだけだ。リベリスタ達も三尋木のフィクサードも三尋木凛子のこの村への、この村の長寿の秘密への執心を知っている。 「とにかく急ぎましょう。足場はどうですか?」 嶺は先行したシュスタイナに尋ねる。暗がりの向こうであったが嶺の目にはシュスタイナの曇った表情がはっきりと見えた。 「ちょっと厳しいわね。下はデコボコで足を取られてしまいそう」 「わかりました」 その嶺の言葉が終わるか終わらないかのうちに3人の身体は村の入り口あたりの時と同じようにふわりと浮き上がった。 「じゃ急ぐわね、ミサキさんもしっかりとついてきて!」 身を翻し進み出すシュスタイナを追い、ミサキ、そして嶺の順番で3人は急激に下降してゆく地下道を滑る様に進んでいった。 ●領域形成 「随分と待たせてくれた……やっと見つけた」 どれ程時間が経っただろうか。櫻霞の索敵が実を結んだのはミサキと共にシュスタイナと嶺が別行動をとってから10分ほども経った後の事であった。それまで、或いは別働の3人が配島に遭遇する最悪の事態をも想定していた6人のリベリスタ達は一応に安堵の表情を浮かべる。 「身を隠そう」 智夫は瓦礫の影に身を潜めつつ素早く力を使い皆の背に翼を授ける。佳恋とアナスタシアは仲良く足音を立てずに木陰の影に回り、 「絶対に範囲内に入れる」 まだ領域の間合いには遠いけれど俊介は詠唱を開始する。詠唱が完了して陣地が形成されるまでには時間がかかるからだ。 「おい、隠れてねぇぞ! 半端すんじゃねぇ」 隆明が葉陰から顔を出す俊介を強引押さえつけ、同時にのんびりと歩み寄ってきていた配島が立ち止まった。 「携帯ないなぁ。帰り道たどって来たらもう村だよ。ってあれ?」 左右の地面ばかり見ながら歩いてた配島が右手の草むらに入り込み……だが、すぐに戻って近づいてくる。山深い廃村の入り口付近にはフィクサードとリベリスタ以外他に誰もいない。その瞬間、俊介の力により周囲から隔絶されたごくごく限定された領域が完成した。驚く配島の眼前にリベリスタ達が現れる。 「ようこそ、俺の世界に……」 「あれ? 俊ちゃん?」 厳しい表情をした俊介を目にした配島が不思議そうに目を見開いた。 「よう配島ぁ! こんな所一人でウロウロしてっと怖ぁいおにーさんおねーさんに絡まれちまうぜぇ!?」 身体中の筋肉をほぐすようにあちこちの骨をボキボキと鳴らしながら隆明が言う。その目つきは既に臨戦態勢だ。 「……成功だな」 引き気味の位置に立つ櫻霞はテレパシーでシュスタイナへと状況を伝えつつ足場の安定した場所に移動し、その射線を遮る様に躍り出た智夫の全身から放たれた気糸が配島を拘束する。 「先手を取らせて貰うよ」 「配島、貴方を殺しに来ました!」 それが嘘だとわかっていても破壊神の如き殺気をみなぎらせた佳恋の言葉は迫力がある。動きの鈍い配島は回避も出来ずに倒れ込み、薄汚れた服や髪に煤まみれの土がつく。 「ひどいなぁ。不意打ちで監禁、緊縛ぶちかまし? 俊ちゃんやナースチャ……ってみんなお馴染みさんばかりなのに」 逃げ場のない領域に閉じこめられリベリスタ6人に囲まれているというのに、転がった配島はのっそりと身を起こし不平を言った。 「はふっ、好き勝手な愛称で呼ばないでよぉ! 配島がいくら強くても1人じゃ勝てない。観念して自分の意思でアークに来てみない?」 これが最後になるのかもしれないと思うからか、アナスタシアは甘く囁く。 「無理だよ、優しいナースチャ。埼玉工場からここに来るまで数え切れないくらい殺したボクがリベリスタになれるわけない……骨の髄までフィクサードだよ、三尋木さん檄ラブの」 「上等だ! なぶり殺しにしてやるからそこ動くな!」 凄まじい啖呵と早さで隆明は銃を握ると撃った。それは右足の甲に命中し、配島が半回転して膝を突く。 「なら、フィクサードとしてかかってこい。俺はリベリスタとしてお前を捕まえる!」 「いいよ。複数プレイは嫌いじゃない」 後退する俊介を追うように、気糸を振り払った配島が薄笑いを浮かべて立ち上がり銀色のボールを転がすと、そこから氷結してゆくように地面が白く変化してゆく。アーティファクト『滑走』の効果だ。 「あなたがそれを使うだろうことは判っていました。だから、無駄です!」 配島に対峙する智夫は極低く浮かんでいて、足場の悪さに左右されない。そのままの体勢から放った気糸が再度配島の身体を締め付けてゆく。 「あなたが手に掛けた全ての人への手向けにはならないでしょうが……」 佳恋の力が白い長剣へと集約してゆく。その凄まじい闘気をこめた一撃が配島へと打ち込まれてゆく。 「あれでも一応三尋木の幹部だ、正直手は抜きたくないが……」 櫻霞は低く呟く。後腐れなく始末したほうがいいのかもしれないが、それの答えは既に出ている。 「殺して三尋木のボスに報復されても厄介でな。精々手加減されてくれ」 黄金の翼を持つ漆黒の大型拳銃で放つ櫻霞の射撃は、無造作な所作から狙い澄ました精密さで配島の右胸を貫き、銃創と唇から泡立つ鮮血がしぶいてゆく。 「あんまり自由にはさせないよ。何するかわからないからねぃ」 配島の動線を遮るように動くアナスタシアが全てが凍り付きそうな冷気をまとった拳を振るう。 「それは貰えない攻撃だよね」 間一髪で避けた配島の傷口から血の飛沫がアナスタシアの拳を濡らす。 「血の誘惑なんて、困っちゃうねぃ」 アナスタシアは右手を挙げ手の甲の血に口づける。 「死ねや配島ぁああああああああ!!」 アナスタシアの攻撃をかわして体勢の崩れた配島に突進した隆明はためらいのない真っ直ぐな拳を顎を下から上へと真っ直ぐに繰り出す。一瞬、身体が浮き上がった配島が地面に叩きつけられ滑ってゆき、陣地の端に激突した。 「容赦ないなぁ……でも、そこがゾクゾクするよね」 何時の間に構えたのか、配島の手の中に使い慣れた銃が収まると同時に連射が始まる。目にも止まらぬ早業でリベリスタ達を正確に斜線に捉え、喉、胸、大腿など、大血管が走る部位ばかりを狙って撃ち抜く。 「俺が治す!」 俊介が叫ぶ。今度の詠唱は長くはかからず、儚くあえかないと高きモノの微かな力の癒しの息吹として吹き下ろさせる。途端に頭に鳴り響くような鼓動も衝撃も、傷の痛みもほぼ消えてゆく。 「ひどいな、俊ちゃん。ボクの渾身の攻撃をなかった事にしちゃうなんて」 しかも配島自身はアナスタシアへと攻撃で跳弾が右腕にかすめている。 ●命の勾玉 その頃、仲間達が配島との戦闘を開始したと知らされたシュスタイナと嶺はキリキリと張りつめていた緊張をわずかに緩め、とにかく先を急ぐ事を優先した結果、とうとう目的地の湧き水へとたどり着いていた。 「綺麗な場所ね」 狭い場所からやっと解放され、ホッとした様子のシュスタイナは中央にある湧き水を上からのぞき込んだ。水の底にはぼんやりとそれ自体が鈍く光る勾玉のようなモノが沈んでいる。 「これが要るならどうぞ。だってもうこの村には神水をいただく人もいないもの」 ミサキは泣きそうな顔で言った。嶺はそっとミサキに寄り添い背中を押した。 「これは村の御神体のようなものですし、ミサキさんにお願いしてもよろしいですか?」 「大丈夫かしら? 気乗りしないなら私が取るわよ」 早く為すべき事を終わらせてしまいたいシュスタイナが前に出た。ためらいもなく伸ばす右手をミサキが止めた。 「……やる」 そっと差し伸べられた両手の中に救うようにして勾玉を自ら引き上げた。 「任務完了ね……天城さんに連絡するわね」 シュスタイナはミサキと嶺から数歩離れ、目を閉じてテレパス送信に集中する。 「それではアーク本部に帰りましょう。ミサキさん、まだ休憩を取らずに歩けますか?」 嶺は勾玉に見入るミサキをのぞき込むようにして声を掛ける。 「私達だけで? 他の人達はいいの?」 「はい。ミサキさんを危険な場所に連れていくわけにはいきません」 「……向こうはまだ続いているみたい。配島、粘るわね」 「苦戦しているのですか?」 心配になって尋ねた嶺にシュスタイナはすぐに首を横に振る。2人とも実際に見ているわけではない戦場が気がかりではあるが、彼女たちには彼女たちの果たすべき事がある。 「とにかくここは離れた方がいいよね。銀咲さん、もう一度ふわっと浮かせてくれる?」 「わかりました」 まだ力は充分に残っている。嶺が望むと3人の背には小さな翼が出現し、ふわりと地面から浮かびあがる。そして、そのまま取り決め通り村には戻らず南へ南へと道なき道を進んでいった。 ●配島の選択 2度目の領域消失が迫っていた。1度目の時、劣勢の配島は逃走を図ったが、前衛の智夫、佳恋、隆明が包囲したのだ。 「……はふ! 解禁1回目はあなたからもらおっと!」 焦った配島の無防備な背後からアナスタシアは抱きすくめる様にダイブし、不健康そうな生白い首筋に歯を立てた。 「……うっ」 獲物のうめきと甘い血がアナスタシアに力を与える。うっとりとした瞬間、乱暴に振りほどかれた。 「あん、ケチ~」 アナスタシアは唇に零れる鮮血を指先で拭い不平を漏らす。 「はっはぁ! 逃がしゃしねぇぜ!」 隆明の攻撃が左足にも命中し、よろける配島はまたも陣地の虜囚となってしまったのだ。 そして今も戦闘は続く。リベリスタ達も多くの力を使ったが、より疲弊し傷を負ったのは配島だった。今も離れて立つ俊介の指先が配島の力を搾り取ってゆく。 「配島。ごめんな……」 その小さなつぶやきはもう届いてはいないだろう。 「今度も絶対に逃がさないよ」 幾度目かの気糸が智夫の身体から放たれ配島にきつく食い込むように締め上げる。その不自由な状態で身構えるが佳恋は南への退路を断つだけで攻撃はせず、更に後方にいた櫻霞の気糸が配島の周囲の空間を埋め尽くして絡め取る。 「カレンちゃん、今ならボク、殺されそうだけど?」 気糸に絡め取られたままの配島が言うが佳恋は首を横に振る。 「もう勝負はついています。これ以上戦う必要がありますか?」 厳しい表情のまま言う佳恋は、だがまだ配島の右手にはまった銀の指輪『孤独』の効果が消えていないだろうことをアクセス・ファンタズムの表示画面から察知していた。 「一応殺すつもりはない。大人しくしておいてくれると助かるな」 気糸を放った櫻霞が抑揚のない声で言う。 「甘いなぁ……」 「わかってると思うケド、針鼠があるからダメージは返ってくるよぅ。そこで降参をススメたいんだケド、まだその気にならない?」 「もう何発かぶん殴られねぇと正気に戻らねぇか?」 普通の拳一発で配島が沈み……だが、まだ『滑空』も『孤独』も消えてない。 「もう勝敗は決したでしょ。アーティファクト、止めてくれるよね」 智夫はまだ警戒を解かずに身構えつつ言う。配島の脱色した長い前髪の奥に見える目が気になった。観念もしていないし、絶望もしていない。でも、この状況で一体何が出来るというのだろう。 「ボクは絶対に捕まらない……『死んでも』ね」 激しい陣地が消えたその瞬間、配島の絶対不変の信念が気糸の縛を抜け、最後の力で地を滑る。 「絶対に死なせない!」 俊介は地面を滑る配島に飛びついた。それでも勢いは止まらず一緒になって滑り続ける。 「ダメだよ、俊ちゃんはこっち側のコじゃないじゃん」 配島の抱擁は嫌いな濃い血の匂いがして……すぐにどこにこんな力が残っていたのかと思うほど激しい拳で殴りつけられ、引き離される。そのまま滑ってゆく配島が笑った。 「でも、浅黄のトラップはきついから、間に合うかな? ばいばい」 振った右手……その直後爆発が起こる。激しい突風と衝撃波が爆心から全周囲に叩きつけられる。燃え残った木々が強引に引き抜かれ、引き裂かれ、なぎ倒される。それだけではない。あちこちで誘爆が起こり村の周囲が次々に爆発するのだ。さしものリベリスタ達も立っていられず荒れ狂う風に吹き飛ばされる。 「きゃあああっ!」 「伏せて!」 村の方角から地響きと轟音が響く。シュスタイナの警告と浮かぶミサキが頭を抱えてしゃがみ込んだのはほぼ同時だった。 「アクセス・ファンタズムが使えます! でも出ないんです」 白バラの指輪をギュッと握りしめながら不安そうに嶺が言う。引き返すべきか進むべきか……迷う間にアクセス・ファンタズムに応答があった。 配島がいた場所は沢山の肉片が飛び散る真ん中に、土まみれで右の肘から先だけがほぼ原型を留めていた。中指には『孤独』がはまっている。まぎれもなく配島の腕であり、あの爆発の瞬間から『孤独』も『滑空』も効果は消えていた。 その後、配島の物であったと思われる携帯電話を回収しリベリスタ達は帰投した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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