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<吸血奇譚>ピグマリオン・ワンダーランド

●Pygmalionism Underground
 薄い絹に包まれた乳白色の曲線体を、爪の長い指が撫でた。
 ほんのりと膨らんだそれを重力に逆らって伝えば、なだらかな凹凸に触れることができた。やがて指は小さな谷にあたり、鮮烈に赤い果実のような唇の膨らみを上向かせるに至る。
 男はまどろむような目で見つめると、唇に自らのそれを重ねた。
 ……。
 その様子から、髪の長い女は目をそらしていた。
 人間同士のそれであれば、ただ恥じらうだけで済んだものを。
 男は精巧に作られた人形を相手にしていたのだ。
 いや、それだけならばまだ、まだいい。
 まだ直視ができる範囲である。
 ……。
 男は人形を元の姿勢に戻してから立ち上がり、糸吊り人形の如く不自然な動きで振り返った。
 技巧豊かな造形師の作品を思わせる、美し『すぎる』瞳が、女をとらえた。
 いつまでも目をそらすには、男の瞳は美しすぎる。
 だがそのむこうは。そのさきは。
 男の背後に広がるものは。
 あまりに直視に耐えがたかった。
 ……。
 いくつも並んだ柱に、老若男女が絡まっていた。
 絡まっていた、のだ。繋がれているでもなく、縛られているでもなく、絡まっていた。
 人間としてはとても正常とは言いがたい姿勢で金属製の柱に腕や足を絡みつかせ、ある者は首にある者は手首にある者は腰のベルトにごく短い鎖がつながれ、その先は細い金属の柱に固定されていた。
 では彼らは自由を奪われ柱に接続されているのか。否である。
 彼らはまるで意志を元から持たぬかのように、光の無いまなざしを女へと一点に向けていた。
 そう、視線が向いているのだ。
 彼らは生きていて。
 意志をもち。
 そのうえでなお。
 人形になっていた。
 ……。
 男の手が女の腹に触れる。
 指が重力にさからって伝い。
 そしてやがて。
 女の目から光が消えた。
 彼女が人間であった、最後の瞬間である。
 
●その者、淫魔の人形。
 ある山中の館に悪魔が潜んでいるという。
 悪魔はどこからともなく人をかどわかし、館に運び込んでは自らの力を行使して人間をやめさせていた。
 生きたまま人形となった彼らは悪魔のハーレムハウスを飾る装いとなり、より深く寵愛を受けた装飾品はもはや人に収まらぬ力を有しているという。
 これを襲撃し、悪魔もろとも駆逐するのが、今回あなたに課せられた役割である。

「悪魔とというのはあくまで代名詞なの。アーティファクトを保有したアザーバイドよ。種族名も不明、革醒品の名前も不明。なので総合して『人形師』と呼んでいるわ」
 『人形師』の館には十二体の人形が存在し、その全てがノーフェイスかそれ以上の戦闘能力を有している。
 アザーバイド自身もある程度の戦闘力を有し、用と不明の器具を武器にして戦闘が可能であるという。
「少なくとも人形と『人形師』は館の中に全員そろっているのは間違いないの。でも館内のどこにいるかは特定できないわ。それにいろいろあって、ちょっと内部を覗きづらいようなの。襲撃の際には充分気をつけてね」
 最後に細かい資料の束を突きだして、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はうつむいた。
「それじゃあ、頼んだわ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年09月04日(水)23:43
 八重紅友禅でございます
 では、補足を少々。

●成功条件
 人形師の殺害、破壊。
 シナリオは主に探索7割戦闘3割の予定です。プレイング次第でこの割合は変化します。

●館について
 一応、この館自体が一種のアーティファクトということになっているようです。……ので、色々なセオリーが通用しません。
 壁のほとんどが蔓で覆われた建物です。見た目二階建て。地下や屋根裏がある可能性あり。
 セオリーからして千里眼でも使えば一発で発見できそうなものですがなんでか壁の向こうがよく見えません。と言うことは壁が生物だということになるのですが、どういうことなのかよく分かっていません。アーティファクト効果ってわけでもなさそうです。同じような理由で物質透過やなにかもできません。壁は普通にコンクリートや何かなので、触ってみてもなんともないのですが、ちょっと不思議です。

 一応大きめの屋敷ではありますが、オーバーなほど広くはありません。全員で手分けすれば探せない範囲ではないでしょう。全員一塊になって移動するのは一見安全ですが、気づけば思い切り囲まれて包囲殲滅をかけられる可能性があるので、実は危険です。

●人形師
 アザーバイドとアーティファクトの効果が合わさっての『人形師』です。
 アザーバイド自体は人間に酷似しており、外見的な特徴として茶色いスーツにスキンヘッド、ゴーグル型のサングラスをした小柄な男です。フェイトはもっていません。
 アーティファクトは館自体で、所有権をもつ人形師がいくつかの複雑な手順を踏むことで生きた人形を作る効果があります。

 尚。
 この館内で戦闘不能になった場合、一時的に『人形化』される可能性があります。能力その他は反映されませんが、肉体強度が高いので少々手強い相手になるでしょう。この場合、人形師を倒すまで解けません。
 また、当たり前ですが、破壊した人形は元に戻りません。

 以上のことをふまえて、あなたの望むように行動して下さい。

※<吸血奇譚>はカテゴリータグです。同名のシリーズとの直接的関係はありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ミステラン
風宮 紫月(BNE003411)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
ホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
クリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)
ナイトクリーク
浅葱 琥珀(BNE004276)

●Pygmalionism wonderland
 田舎道を進む軽自動車。その運転席で『折れぬ剣』楠神 風斗(BNE001434)は舌打ちをした。
「人間の人形化か。想像しただけで怖気が走る」
「相手はアザーバイドだったな。どういう経緯か知らんが、手を出したなら見逃す理由は無い」
 助手席で資料をぱらぱらとめくる『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)。
 一方で『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は内容を暗記し終えているのか、膝に両手を置いたまま目を瞑っていた。
「人形化がアザーバイド本来の能力なのか、それともアーティファクトの効果なのか。どちらにせよ厄介な相手です」
「人形ね……」
 紫月の隣に座る『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)。窓の外を見たままぼやいた。
「生きてるだけじゃ意味が無い。自分を生きられないなら、意味が無い」
「どういう意味だ?」
 ミラー越しに視線を送ってくる風斗。
 涼子は窓辺に顎肘をついたまま、彼の視線と問いかけを無視した。
 車は一路、人形の館へと進む。

 一方。反対側から回り込むために別の車が走っていた。運転手は『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)である。
 木々の間から見えるおかしな建造物に、サングラス越しの目を細めた。
「見てみろ、屋敷のあちこちに人の像が生えてる。悪趣味なファンハウスだ。俺には理解不能だな。まるで建物が人を食ってるようだ」
「同感だね。そんなのを相手にする俺らの未来もロクなもんじゃなさそうだけど?」
 助手席で足を組み、携帯電話をいじる『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)。
 すぐ後ろの席には『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)と『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)が並んで座っている。
 タブレット端末を指でなぞりながらスケッチ図を閲覧している。
「素材の味を活かしました、か? 劣化にしか見えないな」
「実際、本人の心中はどんな様子だったんでしょうね」
「さあな」
 柵に入った家畜の気持ちなど知らんとでも言うように、ユーヌは言った。
 徐々に近づく屋敷に、光介は身震いを感じた。

●人形の館・サイドA
 たとえば石鹸や十円玉、ボールペンや消しゴムなどを飲み込んだときの異物感を想像できるだろうか。
 建物に入って最初に感じたのが、まさにその異物感であった。
 この場合自分が飲み込んだのではなく、自分が『飲み込まれた』側なのだが、こみあげる吐き気は似たようなものだったようだ。
 周囲を見回してみるが、異常は無い。強いて言うなら壁を透視しようとすれば真っ暗な何かにあたって遮られるくらいだろうか。
 ……とはいえ、異常なしと言うにはあまりに現実感の無い光景だった。
 館の壁や床、まばらにかかった絵画などの調度品や照明器具まで含め、全て人間の何かを模しているのだ。天井からはえた手が生首を掴み、口と眼孔にライトがはめ込まれている証明器具など、どんな前衛芸術でさえ見たことが無い。
 壁と床はそれぞれ、褐色と乳白色でそれぞれ市松模様になっており、所々に人型の凹凸がある。透視して分かっていることだが、そこに人がまるまる埋まっているということではない。
「気持ちの悪い装飾ですね……」
「チッ」
 今すぐにでもつばを吐き捨てたいという顔をして、涼子は中折れ銃に弾を込める。
 通路を進めば両端にドアがいくつかあるが、それぞればらばらに開けようなどとは思わない。まるで握手でもするかのように突き出た掌型のドアノブをひねり、勢いよく蹴り開けてつつ非開閉方向へ銃口を向ける。中は暗い部屋だった。本来ならそれで視界をやられるところだが、涼子や紫月には暗視能力が備わっている。涼子は片眉を上げ、正面に向けて迷わず発砲した。
 暗闇の中で吹き飛ぶ何かの破片。駆け出そうとする足音が聞こえ、紫月はエル・フリーズを放射。フィアキィが高速で飛び込み、そこにあった『何か』を凍らせた。
 部屋に踏み込み、銃底でもって電気スイッチ(人間の舌を模している)を上げた。
 明かりが灯り、頭部がはじけ飛んだ氷づけの人形が露わになる。
 そっと近づく風斗。
「これでは……人間に戻れないかもな」
「資料にあった『破壊した人形は元に戻りません』という文面ですか? そういった意味、だったんでしょうか。よくわかりませんが」
「おい、楠神」
「なん――」
「頭を下げろ」
 腰から銃を抜いた福松が近くの洋服箪笥へ連射した。
 腕の身体をボロけさせた人形が扉を開いて襲いかかってくる。打ち損じたかと舌打ちする福松。
 一方で頭に手を翳してかがんでいた風斗は、自分へ襲いかかってきた人形めがけて反射的に剣を振り込んでいた。
 人形の両足が音をたてて吹き飛ぶ。関節部が砕けたのだろう、その場に横たわったまま人形は動かなくなった。
 自分の剣を見る風斗。
「今日の剣には不殺のシードをつけている。だから、たぶん死なないはずだ」
「死なない、ね……」
 涼子はつまらなそうに人形を見下ろした。
 その一方で、紫月は福松に問いかける。
「禍原さん。幻想殺しの様子はどうですか?」
「ん? ああ、それなんだが」
 壁を凝視しつつ呟く福松。
「俺にはただの壁にしか見えん。悪趣味な、ただの壁だ」

●人形の館・サイドB
 光介はキッチンのような部屋を端から順に探索していた。
 彼らはつい先刻に裏口から侵入したばかりである。この館に裏口自体が無かったら、もしくは硬く閉ざされていたらどうしようかと思ったが、その時は窓でも何でも壊して入るだけである。
「流石に、壁まで壊すのは難しかったですけど……」
「まあそりゃそうか。壁がスキルで壊せるんなら家の外から射撃ぶっぱしてれば寝てても勝てるって話になるもんな。でも、頑張って殴ってれば中身晒すくらいできるだろ?」
 冷蔵庫を開けて中をぐるりと見回す琥珀。消臭剤すら入っていない。空である。
「それも安全確認が済んでからですね。あ、多分そこに居ます」
「はいはい」
 少し大きめの食器棚を指さす光介。琥珀は平気な顔をして棚ごと剣でぶった切った。内側に入っていたであろう人形が真っ二つになって転がり出て、琥珀の足にしがみついた。凄まじい力でへし折られる。運命を削って即座に修復。
「うあ、いってーな!」
 背中に剣を突き立てて粉砕。首部分を無理矢理もぎ取ると、琥珀は鼻歌交じりに落書きを始めた。
「それは……随分酷いですね」
「だろ? 美意識の強い奴ほど作品を汚されたら怒るんだよ」
 ニヤニヤと笑う琥珀。そうこうしていると、隣の部屋から人形の足を引きずった伊吹が入ってきた。
 人形を床に放り出す。腕や足がほぼもげており、片足しか無い状態だった。まだカタカタと動いていたので、乾坤圏(大きな円状のナックルダスターだと思ってよい)を叩き付けて残りの足もぶち切ってやる。すると人形はビクンと痙攣して動くのをやめた。
「いつまでも遊んでいるな。感情探査の結果はどうなった」
「え? ああ、いや、まあ……」
 曖昧に頬をかく琥珀。
 伊吹はサングラスを指で押して息を吐いた。
「その様子だと精度がかなり落ちてるな。人形に感情があったということか」
「まあ、そういうことになるかね。感情の種類もなんかゴチャゴチャして分かんね」
「そうか……そっちはどうだ、ユーヌ」
「特にめぼしいものはないな。だが……こっちに来てみろ、愉快な光景だぞ」
 また別の部屋から手招きをされて、光介たちは部屋を訪れた。
 そして眉間に皺を寄せる。
 小中学校によくあるフタの無いタイプの下駄箱を想像してほしい。そこから腕やら足やら頭やらがアトランダムに突き出たようなものが、全ての壁を埋めていた。
 部屋の中央に何があるのかと言えば、三人ほどの人間が跪いて肩を組み合いランタンをそれぞれ口でくわえてつり下げているという、なんとも形容しがたい間接照明である。何に使う部屋なのかすら想像が付かない。
 ユーヌはそんな中にありながら、眉一つ動かさずに振り向いた。
 光介と目が合う。彼の周囲にはSPの如く二体の影人とがくっついていた。
「スキャンの調子は?」
「壁ですか? 人形ですか?」
「壁だ」
「いえ、反応無しです」
 そこまで言ってから、光介は小さく手を上げた。
「あのお、この辺の安全確認ができているなら、試したいことがあるんですけど、いいですか?」

●人形の館・サイドA2
 視点を一度紫月たちに戻す。
 最初に目に付いた四つの部屋(用途不明の小部屋ばかりだった)をそれぞれ調べていった結果、最後の部屋に上階行きの螺旋階段をみつけた。
 安全確認をかねて上を覗き込む風斗。その背に、紫月が語りかけてきた。
「何か、変だと思いませんか?」
「変? この館に変じゃないところがあるのか? 悪趣味にも程がある!」
 腸を三つ編みにしたような手すりを横目に毒気づく風斗。ちなみにここまで見てきた人間モチーフの調度品は全て陶器や石膏、金属などでできていた。リアルな品もあったが、間違っても『動物製』ではない。
 とはいえ、まともな人間が見ていれば気分が参るのは致し方ないことだった。
 涼子が肘で背中を小突く。
「頭を冷やせ。彼女が言ってるのはそういうことじゃない」
「なら――」
「『普通過ぎる』んだよ、この館」
 帽子を深く被り直して言う福松。
「千里眼で見通せない。そのくせ幻想殺しに反応しない。クソ悪趣味なくせに壁も床も動かない。まるで『普通の人工物』だ。オレらは壁や天井が直接襲ってくるくらいのもんを想像してたはずだぜ」
「それは……まあ」
「だとすれば不思議なのは壁だけだ。ここへ来る前に光介が言ってたことだが、もしかして……」

●人形の館・サイドB2
「なるほど、こういうことか。つまらんな」
 ユーヌは組み体操のようなソファに腰掛け、顎肘を突いて呟いた。
 両手の指で四角をつくり、まるで写真構図でも確認するかのように覗き込む。
 光介が鈍器を片手に顎を上げた。
「ボクは前に言いました。壁に人形がみっしり詰まっているんじゃないかって」
 実際その通りだった。
 人形の腕や足、胴体などがパズルのように隙間無く壁に埋まっており、壁を崩せば崩すほど人形のパーツが転がり出てきた。
 勝手に動く様子はないが、千里眼で見通せないということはこれが生物だということだ。
「スキャンに反応しなかったのは?」
「肉眼で見えていなかったからでしょうね。ボクは壁自体をスキャンしてましたから……どう例えましょうか。着ぐるみを着た人に外から体温計を押し当てても意味が無いというような、そういうイメージです。厳密には違いますが」
「そこまで説明しなくても分かる。しかし安易だな。なんだ? この『好きだからやりました』と言わんばかりの無意味な仕組みは。人形師とやらは変態なのか?」
 壁の内側から人形のパーツを引き抜いては床に捨てていく琥珀。
「いや、見たまんま変態なんじゃね? アザーバイドとか言う前にまず異常だろこの内装。てか、ここまで予想通りだったら、この壁壊す意味あったの?」
「幸いなことに、意味はあったようだ」
 そうこうしているうちに、伊吹が目を光らせた。
 露わになった壁の猛反対側を連続で殴りつけ、徐々に穴を押し広げていく。
 すると小さな部屋に行き当たった。それも、どこにも扉のない、しかし小綺麗な部屋である。
 中央には片手に抱えられそうなサイズの球体関節人形がひとつ。
 白いドレスを着込んだ、それはこぎれいなビスクドールだった。
 息吹は武器を握ったまま、親指でサングラスを押した。
「ビンゴだ。たぶんな」

●人形の館・エピローグ
 二階へ到達してからの流れは速かった。
 ゴーグル型のサングラスにスキンヘッドの男が、椅子に固定した女性型人形の頭に妙な器具をねじ込んでいるところにでくわしたのだ。
 この器具をなんと形容したものか。片手で軸を押さえつつハンドルを回すことで正確に捻子状の錐で穴を開けることができるという、そういう道具である。
 彼はこちらを向くと、なんともないような顔をして言った。
「今は取り込み中だ。用があるなら後にしろ」
「知るか、クソ野郎」
 涼子は口汚くののしると散弾を発射。周囲の椅子に腰掛けていた人形が一斉に襲いかかってきたのと、それは同時だった。二体ほどがはじけ飛び、残りの人形が涼子の腕にしがみつき、両腕同時にへし折った。運命を犠牲にして骨を強制接続。
 風斗は通信機を耳に当てて叫んだ。
「B班! 人形師にでくわした、至急合流してくれ!」
『心配するな、すぐそこだ』
 通信越しに伊吹の声がしたかと思うと、人形師を挟んで向こう側の壁がばっくりと割れた。
「仕掛け扉を見つけた。あとコイツもな」
 伊吹は先刻見つけたばかりのドレス人形の足を掴み、ぶら下げるようにして掲げて見せた。
「それは」
 ハッとして振り返る男。
 と同時に、男のサングラスへ回転した乾坤圏がめり込んだ。頭蓋骨を削る勢いで眼球まで切り裂いた乾坤圏は、やがて伊吹の手元に戻る。
「その目も付加確定要素だ。潰させて貰う」
「でもって人形もな!」
 剣をかついで飛びかかる琥珀。押さえ込もうと襲ってきた人形をまとめて薙ぎ払った。
 ボーリングのピンのように吹き飛んだ人形が、腕や足をその辺に散乱させる。
 かろうじて形の残った人形がその辺の工具で斬りかかってくるが、すぐさま光介が術式を組んで対応した。
「迷える羊の博愛」
 聖神の息吹が発動。そんな中へ、ユーヌはフラッシュバンを投げ込んだ。
 炸裂する閃光弾。
 目を押さえたまま何事か呻いた男が、つい先程まで頭になにかをねじ込んでいた人形を掴んで立たせると、その後ろに隠れるように身を屈めた。
 つまらなそうに息を吐くユーヌ。
「予想通りの行動だな。やれ」
「ええ。お遊びが過ぎましたね」
 さようなら。そう言いながら、紫月はエル・フリーズを発動。人形を尋常ならざる冷気が襲った。
「今だ!」
 そこへ風斗が突っ込み、剣を突き刺した。人形の胸を貫通する剣。
 男はたたらを踏んで壁に背をつける。素早く駆け寄った福松が、何か言おうとした男の口に銃口を無理矢理ねじ込んでやった。
「残念だったな。お人形劇は終わりだ」
 引き金を引く。
 人間の頭部に本来収まっているおおよそのものが壁と天井に吹きかかった。

●人間の館・エピローグ
 結論を述べよう!
 狂気のアザーバイドと屋敷によって哀れ人形に変えられてしまった人間たちは、みんな元に戻れました。
 めでたしめでたし!





「痛いいいい痛いいいいあああああああ嫌ああああああああああああああああああ!!」
 風斗が剣を突き立てていた人形が、人間になっていた。
 白目を剥いて血涙を流し、頭からねじ込み器具を生やし、全身凍傷まみれになって胸に剣を突き立てられていても尚生きているという、そんな人間になっていた。
 口を半開きにしたまま硬直する風斗。
 だが、彼女の声はまともに聞こえていない。
 館全体の……全ての壁と床と調度品から一斉にはき出される人間の断末魔を聞いたからだ。
 耳を塞いで叫ぶ琥珀。
「い、生きてるやつは病院に」
「馬鹿か! 頭だけになって生きてる奴をどうやって医者に診せるんだよ!」
 襟首を掴んで叫びかえす福松。
 紫月もまた耳をふさぎ、歯を食いしばった。
「けれど、そんな状態で生きていられません。普通なら――」
「死ぬだろうな」
 それまで女の人形が固定されていた椅子に腰掛け、ユーヌは平然と言った。
 やがて、断末魔の声も消え、風斗が突き刺したばかりの女も死体となって崩れ落ちた。
「つまらんな。本当につまらん。ここまでお前の予想通りじゃないのか?」
「大体は、ですね」
 視線を向けられ、光介は深くため息をついた。
「明確な生存者はいますか? 照明器具や建材や、便器や花瓶に加工されていない人間です」
「俺は見ていないな」
 伊吹は足下の人形を見下ろして言った。
 つい先程見つけたばかりの人形だ。今は彼の足によって無残に踏み砕かれている。人形化が解けたのはその瞬間からだ。
 風斗が頭をかきむしりながら叫ぶ。
「い、いるぞ! 足しか切り落としてないやつがいる! 不殺の攻撃で倒したんだ。だから……」
「そこまで肉体が破壊されれば不殺は通用しないぞ。生きていても一秒かそこらだ」
「だが、足なら……」
「生きてるかもね」
 涼子が、吐き捨てるように言った。
「見てみる?」
 無言で駆け出す風斗。階段を転げ落ちるほどの勢いで走り、最初に入った部屋へ転がり込んだ。
 見知らぬ女と目が合う。
「あの」
「あ、ああ生きて――」
「私はどうしたいいですか!? 命令してください! お願いします! 分からないんです! 私は、どうしたらいいんですか!? 何でもしますから、命令してください! なんでも!」
 家畜のようにしがみついてくる女に、彼は何も告げられなかった。

 唯一の生存者である彼女は病院へかつぎ込まれることになる。
 その後どうなるかなど。
 考えたいだろうか?
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 Pygmalion Netherland――Good End
 Congratulation!!