● 「……ふむ」 唸る『まやかし占い』揚羽 菫(nBNE000243)の前に積まれた硬めの箱。 島へと向かう船の、船倉。 そんな、喧騒とは隔離された場所にて彼女はむせ返るほどの水色の匂いに囲まれていた。 「美味しそうな匂いは良いんだが。まったく、自分がカブトムシにでもなったきb――」 げんなりとした表情を浮かべた菫が、次の瞬間には真っ青になって倉庫の外へと声をかけた。 「だめだ、やっぱ船酔いした! 誰か、トイレ、どこ!?」 ● 「ということで、あたしが菫に代わって説明するのだわ」 いやもうだいたいオチ読めてるよ! タイトルあたりで! そんなメタい声など水着姿の『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)には聞こえない。 なおその背後にはいくつかの大きめな箱と、ぐったりとビーチチェアに横たわる菫がいたりする。 「後ろの箱に入ってるのは、ある名産地で収穫された、どれもこれも高級品のスイカよ。 そして今日、この日のために! いっぱい用意してもらったのだわ! 木刀とかバットなら貸し出せる程度に用意してきてあるから、みんなでスイカ割りといこうじゃない?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月10日(火)22:59 |
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● 「遥かなブルースカイに描く飛行機雲のシュプールは俺達のセンターライン……。 いつだって女神(ヴィーナス)を照らすサンシャインは永遠のスポットライトなのさ」 いつものNOBUは放っておいて。 夏の海に照りつける太陽は燦々と眩しくきらめいていて――絶好のスイカ割り日和(?)である。 「野外活動こそモブリスタの使いどころ。 余った電力で携帯の充電はもちろん様々な電化製品を運用できます」 補助員 サポ子が全力の発電でスイカやジュースを冷やしにかかる。冷蔵庫のコンセントプラグを握りしめてのヒューマン・ダイナモ。手が足りなくなったら咥えたりいろいろがんばる、とのこと。きっとそんな緊急時のタコ足配線くらい、保安チョップで頑張る関西○気保安○会だって許してくれると思うんだ。 ひんやりしたスイカに頬を寄せてきゃーつめたーい! とか嬉しそうに呟いてから、梅子はそれをとん、と砂の上に敷いたビニールの中央に置いた。 「さあ――最初に挑戦するのは誰なのだわ!?」 拳を振り上げた梅子のコールに、まっさきに答えたのは二人の少女。 「わたしたち最強だから、綺麗に割れるのです。めざせ、一等賞!」 「むぉーもえてきたっ! めざせ、いっとうしょう!」 同じように拳を振り上げたロッテ・バックハウスと、目隠しの準備も万端に、なにやら闘志を燃やしているらしきテテロ ミーノ。気合が入り過ぎたのか、ミーノはくるくるくるくるくるくるくる…… 「って、ミーノ様回り過ぎですぅ! ゲロ~しちゃうのです! ストーップ!」 「ぉょ~ふらふらするの~ロッテちゃん、スイカどっちっ!? す~い~か~~どこ~」 超回転ミーノは諦めない。おおおおお、みたいな雰囲気でふらふらとスイカを探して歩みを進める。 「ミーノ様あぶない! 木にぶつかる! もっと右! 少し左ですぅ! そっちは反対方向ですぅ~! もどって~!」 えいっと振り下ろされた――のか、バランスを崩したか――バットはスイカとは随分離れた砂を叩く。 「……しっぱい! つぎはロッテちゃんのばんなの~」 「ではミーノ様の分も、頑張るのですぅ! ミーノ様のサポートがあれば、ばっちしですぅ!」 きゃいきゃいと楽しそうに騒ぎながらも次はロッテ。ぐるぐると、げろーしない程度に回って木刀を掲げる。 「えっとロッテちゃん、もうすこしみぎ、あ、ちょっとみぎいきすぎてるっ」 「うう~ん、右? これくらい? うぉぉ……ふらふらですぅ!」 ばちこーん、と、いい音が響くと同時、よく熟れたスイカの水気の強い匂いがあたりに漂った。 ほかのリベリスタたちも、各々良さげなスイカを選んで砂の上にセッティングをはじめている。 水着の上にパーカーを羽織ったレン・カークランドが、こちらも水着の上に薄手の上着に袖を通した氷雨・那雪の頭の後ろで鉢巻を結んでやっていた。 「那雪はスイカ割りをしたことあるのか?」 「私も、初めて……。楽しみね……。ん……ありがとう……大丈夫、なの」 俺は初めてなんだ、と続けたレンに、那雪は小さく首を振って、目隠しの具合を確認すると、レンがいたと思しき方向に向けて頷く。それから、木の棒を握って回ってみせる。 「ん……、結構目が回るのね」 「ゆっくりでいいぞ。少し右に――そのまままっすぐ、あと少しだけ左だ」 そっと足を動かす那雪は、レンの声を疑わない。 彼は本当のことを教えてくれる――その信頼のままに、「そこだ!」という声に、棒を振り下ろす。 「えい……」 ぽかり、と軽い音がして、スイカはその身にヒビを作る。そのままメリ、と鳴ったかと思うと自重に耐えかねたか、ヒビを広げてまっぷたつ。 「これは当たっても当たらなくても楽しいな。次は俺もやってみよう」 那雪から鉢巻を受け取って、レンが緑の目を細める。 焔 優希が腕を組んでうぅむ、と感心の唸りを上げる。 「発案者は面白い遊びを考え出したものだ。覚醒者ではなく学生として今日は楽しんでみるとするか」 「スイカ割り! 見聞きしたことはあっても、やるのは初めて――ここは格好よく割ってみたいよね!」 よし、と一声気合を入れ、纏向 瑞樹は幻想纏いの操作を終える。ハイバランサーは今日は無粋だ。 鉢巻目隠し三回転。さあスイカはどこだ。 「うぁ、やっぱり、結構くるね。これ。目の前が真っ暗で……」 「そちらはスイカとは反対だ、半回転して軌道修正だ」 「半回転――あれ? どっちが前で、どっちが後ろ?」 優希が声をかけるも、そもそもどこを向けばいいのか状態の瑞樹は右往左往になってしまっている。 瑞樹はあっちだこっちだと指示を出す優希に素直に従って、その方向を目指し――そして棒を大きく振りかぶって見得を切り――ちからいっぱい振り下ろす! ぶぅん! 「おお、見事な……空振りだ」 「いったー!?」 「その気合いや良し! ――だが大丈夫だろうか、手首は捻っていないだろうか?」 砂におもいっきり叩きつけた棒に、瑞樹の手首がじんじんと痛む。思わず涙目になった瑞樹の手を取り、優希は怪我がないかと確かめた。格好つけた分だけ恥ずかしいらしく幾分か萎縮した様子の瑞樹が、優希に発破をかける。 「敵討ち、お願いね!」 「応!」 優希はキッとスイカを睨み付け、仇を討つべく戦場に赴く。 「心眼で見るのだ……一刀両断!」 ぱこーん! といい音が響いたのは、そのすぐ後の話。 割と順調そうな面々が多いが――じゃあ全員がそうなのか、と言われれば違うと即答できるのが三高平のリベリスタ諸君である。 「今日も綺麗な美少女だなじーちゃんは! って言ったら怒られるから心にとどめておく」 とどまってないのは、少々遠巻きで見ているじーちゃんことエレオノーラ・カムィシンスキーには聞こえない程度の小声だから。彼女にしか見えない彼は、霧島 俊介に誘われてこの浜までは来たものの。 「俺目隠しするから、じーちゃん頼りに動くからな!」 「目隠しとったらだめよー。はいそこから右ね、右」 ――強烈な日差しはおじーちゃんの雪の様な白肌にはどう考えても酷な話。パラソルの下で日除けする名誉美少女の姿はまるで絵画のようでさえある。 「右? 右か!! いくぞ花染! スイカを叩き斬る!!」 気合を入れて花染――まさかの自前武器――を抜き放ち、俊介はふらふらと砂浜を踏みしめる。 「いい天気ー昼寝に丁度いいわねー左左、そこまっすぐー。いいぞーかっこいー。 ――あっこのジュース美味しい。やっぱり新鮮なフルーツで作るジュースはいいわね」 よく冷えた果物を使ったジュース(頑張れサポ子さん)は、パラソルでは遮れない熱が生み出すほてりを冷ましていく。 「ん? なんか途中からじーちゃんの声が聞こえない気がする……。 じーちゃん次はどっちだーあれ、あれれごぼぼぼbb……??」 「あーごくらく。梅子ちゃんや菫ちゃんも飲むかしら?」 「美味しそうね、あたしも飲むのだわ! ……けど、いいの? あっち」 ジュースを堪能するエレオノーラに、オレンジをひとつ手に取りながら梅子は海を指さす。 「あ。……しーらないっと」 エレオノーラさん、しらばっくれるの巻。 「スイカだと? ――フフフ、そんなモノ割るに決まっているではないかね!」 どうしたんですかこのバトルマニア。 きゅ、と目隠しを締めたシビリズ・ジークベルトは木刀を手に、ぐるぐると回り始める。 「負けられない戦いなのです。はいぱー馬です号、見ているです」 どこか憂いを帯びたような表情で目を伏せ、イーリス・イシュターは愛馬の首に触れる。 「うまー」 はいぱー馬です号は、そんな主人を気遣うように小さく嘶き――って今何か聞こえた気がする。 それはともかく、イーリスはじっとはいぱー馬です号の瞳を覗きこむ。 「そんな目をするなです。この戦いは、私ひとりで挑まねばならないのです」 そして彼女は眦をつりあげて、己の戦いの標的を見据える。 「なんと! すいか割るのです! めかくし、おじさん、てのなるほうなのです。そして! かくなるうえは! はいぱーまわるのです!!」 イーリスもまた、回り始める。 「ぐぬぬ! どっちがどっちか、わからないのです。 しかし! ゆうしゃたるもの、すいか風情には負けていられないのです、かならず倒すのです!」 「……いかん勢い余って回りすぎた。酔いそうだ。 しかし負けぬ。スイカを割るまで! 酔い如きに、うぷっ、負ける訳にはいかぬ!!」 回転を止め、スイカと新たなる敵(正体:自分の三半規管)との共闘を知るシビリズ。恐ろしい敵だ。一方は見えず、そして一方は己との戦い――勝利の導き手はどこにいるというのか、今の彼には見えやしない。 だが――それがどうした! 「うぉおおおおお砕けろろオオオオオ!!」 「ごごごでずごおおおおでぐるんぐるんでずがーんするです――もんがー!!!」 ほぼ同時に。 イーリスもまた、気魄に満ちた一撃を放つ! ――だが。 ふたりの木刀は、ただ砂をえぐり、風に散らしたのみ――。 「クッ、外したか!? どちらだ右か左か?! それとも当たったのか!? ええいままよ! とにかく振り続ければ割れようぞ!! コナゴナにな!! と言う訳でもう一発行くぞおおおおお!!」 スイカ割りという名の闘争が、シビリズを狂わせる(?)――そしてイーリスは、再び憂いの横顔を見せた。 「わたし、きづたことがあるのです……はいぱーぐるぐるまわりまくると、なんと! きもちがわるくなるのです……」 ゲロ~しちゃだめえええ!? ● 「レッツすいかわり! 割りまくるのだな?」 「……もう少し右、あと一歩前」 ユーヌ・プロメースが声をかけて、目隠しをした梶・リュクターン・五月を誘導する。ユーヌは正しい位置へと誘導しようと考えていたのだが――それでも必ずしもうまくはいかないのがスイカ割りの醍醐味でもあるのだが――五月は妙に自信満々だった。 「大丈夫、オレには超直観がある! スイカアアアア、デッドオアアライブなのだ!」 どごーん。 「……っち、外したのだ」 「……綺麗に砂浜に穴開けて、妙に清々しいな。不思議なやり遂げた感があるポーズだし」 吹き荒れる砂の中、爽やかさすら漂う表情で鉢巻を引き抜いた小さな黒猫に濡れタオルを渡すと、ユーヌは鉢巻で目隠しをして、くるくると回ってみる。 「ふむ、結構くらくらするが、問題ない」 「頑張れ、そこだもう少しだ、ふぁいと!」 あと3歩! 五月の誘導にユーヌは足を進めて、棒を掲げる。 「前だぞー! ユーヌのちょっといいとこみてみたい!」 「3……2……1、ここか」 周囲のギャラリーも、これは確実に割れただろう、そう思った瞬間だった。 ぺち。ぺちん。 「ぺ、ぺちん……?」 「……意外と丈夫だ」 そういうことも、あるよね。 「フッ君、りゅーちゃんまけねえからな」 頭の後ろで結び目を作りながら、気合の入った声を浜辺に響かせる御厨・夏栖斗。顔ぶれを見回して、新田・快もにやりと笑った。 「アーク名声1~4位が揃い踏みなんて、まるで決勝戦みたいじゃないか。 ああ、元祖アーク相棒コンビの実力を見せてやろうぜ!」 向かい合うも、やはり男ふたり。 「ふん!コンビネーションというものを教えてやる! 偉大なるBuddhaの威光にひれ伏すがいい!」 高らかにそう言い放った、結城 "Dragon" 竜一、その横で目隠しを巻いた焦燥院 "Buddha" フツ。男どもを、ジャッジ役として呼ばれた梅子が片手を上げて見回し――「スタート!」と宣言。 「梅子! 俺が徳の高いスイカを食べさせてやるからな! ゆけっ、フッさん! 栄光への道は真っ直ぐにある!」 「割れたスイカは一番に梅子がたべていいからな! ――快、操縦は任せた!」 言うなり、夏栖斗は姿勢を低くして足を突き出す。 「うおおおっ!? 御厨おま、足引っ掛けやがったな!」 「いやぁ! 事故だって」 その足で豪快にすっ転んだフツが、見当違いの方向――目隠しなう――を向いて夏栖斗に怒る。口の端を上げたままの夏栖斗は謝るような事を口にしつつも、スイカへの距離を確実に縮めにかかった。 「あ、アイツ足引っ掛けに行ったから方向ズレちゃったじゃないか! ――いいさ、俺のすいか割り指揮はパッシブLv3相当だ、任せろ!」 ※そんなスキルはない。 「フッさあああん! くそっ! なんて外道な奴らだ! だが俺たちの王道は、いや、仏道が! 屈するわけにはいかないんだ!」 ※仏道関係ない。 「アッ、御厨! あっちにスイカップのおねーさんが!!!」 「え? スイカップ!」 物理的反撃をすんでのところでこらえ、フツが取った手段は、しかし こうかはばつぐんだ! 思わずきょろきょろと見回し(見えないけど)た夏栖斗の方向感覚がずれるのは、当然の結果。 フツも見えないはずだと思い出して、スイカに向き直ろうとした時には全てが手遅れ。 「違う夏栖斗! もっと右だ! いや行き過ぎ左だ! ――違う、それは梅子さんだ! 今それを振り下ろしたら、俺達腹パンされんぞ!」 快の指示も虚しく、 「いいんだ。恨み事だって構わねえ。オレがお前を割ったんだから――ナツダシアソブ」 手を合わせ、ネンブツジャナイナニカを唱えたフツの一撃が、スイカを叩き割った。 「ふっ……さすが、どこまでも徳の高い男だ。 俺はお前のその器のでかさと優しさにいつも救われているんだぜ……」 空の青さが目に染みた竜一の頬を、透明な雫が伝い落ちた(多分スイカの汁)。 「スイカ割りなんて久しぶり……。 高級なスイカを割るなんてちょっと勿体ない気もするけど、たまにはいいのかな……?」 言乃葉・遠子が、スイカをシートの上に置きながら、その大きさ、丸さを確かめる。 「甘い、かな? お腹空いた、の……」 じゅるり、という音が冬青・よすかの言葉の合間に入っていたようだが、この場合は致し方あるまい。 「まかせとけ! すぱーんってな具合に、真っ二つに切り分けてやらあ!」 木刀を握りしめ、目隠しをしているのは貴志 正太郎。 「正太郎様は元気がよろしいですわね、リーダーはそうでなくては。スイカを打倒せ、ですわ!」 有栖川 氷花も楽しそうに、正太郎の気合をさらに煽ってみせる。 やいのやいのと、正太郎を応援して指示を飛ばすジェット団の面々ではあったが――しかし、当の正太郎の中では、徐々に焦りが強くなりだしていた。 「くっ、この辺りにあるはず……こうなったら、あの必殺技を使うしかねえ! 棒きれなんざいらねえ、頼るは己の拳のみ……!」 何かを決意し、木刀を投げ出すと、拳を握りしめ――その場で大回転! 「拳撃に、超回転パワーと夏の夜の甘酸っぱい思い出をくわえた、全周囲攻撃! この一撃の前には、どんなスイカも微塵も残さず砕け散る!! 必殺! EX:スーパータイフーンくらっs……」 ばたんきゅー。解説している間に目を回し過ぎた正太郎くんなのである。 「正太ちゃん、惜しかったね……」 遠子の慰めが、いろんな意味で虚しい。 次に目隠しをしたのはよすか。 「しょーちゃんを……あ、西瓜をわる、んだった。間違え、た……てへぺろ」 「よすか様は転ばないようお気をつけて下さいね――よすか様?」 応援する氷花が、違和感に首を傾げる。よすかの向かおうとしている方向は。 「って、なんでオレの方に真っ直ぐ来やがるんだ!?」 「てやー」 「ちょ、まて!」 迷いなくまっすぐ正太郎に向かっていって木刀を振り下ろすよすか。 慌てて回避した正太郎に、よすかはそっと囁く。 「外した、か」 ホラー風味!? 「外したらちょっと残念で、当てられたらやっぱり嬉しいよね……」 「遠子様、お見事!」 次にスイカに向かった遠子は、危なげなくスイカを割って笑顔を見せる。 では次は、と氷花も木の棒を手にした。 「デュランダルとしての技を見せる時……一刀両断、兜割りですわ!」 「よし、よすか、応援係だよ! ふぁい、おー!」 氷花の白いパレオに返り血――じゃなかった、返りスイカがかかるまで、あと30秒。 「割るのはまこに任せて! 美味しく割ってあげるねぇ」 「スイカ砕きだ! 全力で砕いていただこうぜ! 良しやれ真独楽! 塩用意しといてやる!」 五十嵐 真独楽の後ろに立って、宮部乃宮 火車が目隠しの鉢巻を結んでやっている。 「……うぅ、酔っちゃう。真っ暗だから余計に気持ち悪いよぉ!」 火車によって勢い良くくるくると回された真独楽は不快を訴えはするものの――真独楽をスイカの真正面に立たさせているあたり、火車は純粋に楽しんでいるだけのようである。 「さぁ見事砕いてみるんだな!」 「がんばれー! 真独楽ちゃーん! そうそう、そのまま真っすぐ!」 設楽 悠里も、それを楽しそうに応援している――が、途中で不意に喉の渇きを覚えた。 「火車、ジュース取ってー。そっちの左のやつー! ……あ、今のは真独楽ちゃんに言ったんじゃないよ!?」 「右と違う反対の逆側で左じゃない方! そうそれであってる! 右!」 「まっすぐ? この辺? ……左? え、違うのぉ?」 もうむちゃくちゃである。特に火車の野次が正統派に酷くて素晴らしい。 悠里は火車が手渡した缶の飲み物を抵抗なくのみ――むせた。 「これウォッカじゃない!!」 「なんかキツそうな酒があったからな、ガハハ! くるしゅうねぇぞ」 二人がそんなやりとりをしている間にも、真独楽は頑張る。寝坊して出遅れたレイライン・エレアニックが浜に来て最初に見かけたのはその真独楽の様子だった。 「ふえぇん、スイカ割りってこんな大変なんだなぁ!」 「真独楽がスイカ割り中かえ……にゃわわ、ふらふらしておる……大丈夫かのう」 まっすぐに歩いているつもりがあっちにふらふら、こっちにふらふらしていた真独楽だが、砂にサンダルを取られて、あ、と思う間もなく。 「……ふに゛ゃ! ころんじゃったっ」 「真独楽頑張れー! 割っちゃえー!!」 「? ……レイライン?」 よろよろと立ち上がる真独楽は、居なかったはずの相手の声に不思議そうにするが――彼女(敢えて)のことを火車、悠里、レイラインたち三高平団地の面々は、案外いつだって見守っているのだ。 「真独楽良いぞ後は勢いだ!」 「もうちょっとじゃ……頑張れ頑張れ!」 「もうちょっとだけ前! おっけー! ごー!」 「……よぉし、ここだねっ! スイカ、覚悟ー!」 今日一番の良い音は、このあたりから聞こえてきたとか。 春日井 汐折、春日井 未鳥、春日井 てまり。 名前の響きだけ聞けば三姉妹と思われることもあるだろうが、三兄弟である。 「よっしゃ、磯○ー! すいか割りしようぜー」 「海とか久々でちょっと楽しみにしてたのに、スイカ割りだってさ。……ガキっぽい」 「子供っぽくない遊びなァ……ナンパでもするか? はは、冗談」 脳内再生余裕なことを言う未鳥の横で、てまりは少しむくれてみせる。中学三年生、まさに中二病(あえて厨にあらず)の罹患年齢である彼を、年齢的に既往症な汐折は笑って受け流し、未鳥は副業のホストとしての言葉を、冗談のオブラートで包んでみせる。 「さあてまり、目隠しと棒だ! 緊張しなくても大丈夫だぞ」 「まァやってみろって」 二人の兄に背中を押され、てまりは仕方ない、とでも言いたげな様子で目隠しし、三回転する。 「……大丈夫そんなふらつかない。さて」 「おお、意外としっかりした足取りだな! いいぞてまり、流石兄ちゃんの弟だ!」 汐折の声はテンション高く、もしデジカメがこの場にあったら容量の許す限り何万枚撮ったかわからない。 「いいぞーてまりーそうだーそのまま右だーやっぱり左だーそこで可愛いポーズ!」 「未鳥、ちゃんとてまりを誘導しろ。てまりがスイカを割るベストショットが心に刻めないだろう!」 「……みぃ兄さんの声なんか胡散臭いなぁ。しぃ兄さんの様子だとこっちかな……」 やいのやいのと言い合う兄二人に――てまりはふぅ、と息を吐いた。 「あーもう、分かった! こっちね!」 てまりは未鳥の声を頼りに、『未鳥の真正面』まで行くと、棒をにやっと笑って振り下ろす。 「うわコラてまりこっち来んな! 危ねェよ!」 「ッコラ、危ないから戻ってきなさい!!」 「チッ逃げられたか……! みぃ兄さんも巻き添えだっ」 「兄弟げんかは、ほどほどにね」 その様子を、イヴが少し目を細めて見ている。 ● 楽しそうにスイカ割っている面々がいる一方、こういう場所での楽しみを時節の飲食に求める者もいる。 例えば九条・徹とか九条・徹とか九条・徹とか。 「夏は暑い。当たり前だな。暑いなら暑いなりの楽しみがあるってもんよ」 割れたスイカを幾つか拝借してきた徹が、浴衣の裾を割ってどっかりとあぐらを組んだ。 その傍らには日本酒の瓶。 「こいつを日本酒と一緒に食べる。とはいえそのまま食べちゃ、甘ったるいだけだ。 昔と違って今の西瓜は甘いからな。塩をまぶして塩っ気をつけてから食うといいぜ」 「まだ酒を飲む気は無かったんだが……塩まぶしたスイカで日本酒を一杯、いい事聞いちまった、さて飲むぜ。――だが、昔って、いつ頃の話だ?」 酒の匂いに目ざとく気が付いた藤倉 隆明が酒席に混ざる。 「江戸時代あたりだぜ。西瓜もパサパサで日本酒も水っぽいのしか手に入らなかった町民の食いかたさ」 ふぅん、と頷きながら隆明がスイカを一口しゃくりとほおばる。 「塩が引き立てるスイカの甘味が口に広がる……そこでコイツをきゅっと……くっはぁ! たまんねー! こいつぁいいぜ、いくらでもいけそうだ!」 「だが、甘くて水分多めの西瓜の酒を呑むと……やっぱり水で薄めてるみたいだな。 おおい、もっと強い酒をもってこい!」 大酒飲みと酒豪の酒宴はこの先何時間続くというのか。 「お、あんな所にキタムラさ……ぶふっ!!」 割れたスイカをもらってシャクシャクやってた犬束・うさぎが、無表情のまま激しく吹いた。 「ああもう、びっくりしたのだわ! スイカかかるところだったじゃない!」 ちょうどそこに出くわした梅子を、うさぎが急かすような声(しかし無表情)で手招きする。 「梅子さん! こっち! こっちに超面白い有様が! 早く! 良いから!」 おもしろい、と言われて梅子が食いつかないわけもなく。 「――夏と言えばスイカ。いやいや、俺も日本人って事だな。 クソ暑い太陽と青空の下でスイカを食わねえとスッキリしねえんだ」 その先に居たのは、ジェイド・I・キタムラである。 アロハシャツにトランクス型の海パン、サングラス。 合理主義のおっさんは、悪い男の顔をしていた。(※ただし似合わない) 「やっべえ超似合わん。 挙句西瓜シャリシャリ食べてる! 種避けてる……! 丁寧に避けて食べてる…!! お、お腹痛い……!」 うさぎは無表情――だが、もしそれに見慣れた人がいたら『すっごい顔してる』と言われるだろう程度には爆笑のベクトルへと歪みかけていた。 「……? 種って避けずに食べるものなの?」 梅子は、うさぎが何にウケているのかよくわかっていない。 「ん? 何だお前ら。スイカ食いたいのか? それとも俺に用か」 「あ、いや、西瓜頂きます……ぶっ!」 「どうした?」 「いえ何でも無いでグブッ!」 ジェイドを直視したうさぎが再び無表情に噴き出し、目をそらし、再び噴き出す。 海パンの柄が、柄が、と呟いていた――とは、直後のうさぎとすれ違った人の言である。 「あっちはみんな派手に割ってるね☆ そして割られたスイカは美味しく頂きます(>▽<)*」 「いやー楽しそうだなぁ、皆若いねぇ!」 鴉魔・終と浅葱 琥珀は、騒がしい方に目を向けながらも簡易キッチン付近で様々な果物を見て回っている。いいスイカだとしても、そればかり食べ続けては飽きてしまうものだ。 「何か簡単に作ってみようかな?? ――お、ちょうどいいの発見っ。スイカベースにフルーツポンチ作ってみるよ☆」 終が見つけたのは、いくつかの綺麗なガラスの器だ。器用にちゃっちゃかとぷにぷにの白玉を手作りすると、いくつかのフルーツと一緒にその器に入れ、そっとサイダーを注ぎ込んだ。 「ほんとはスイカの中身くり抜いて外側の皮部分をお皿にすると雰囲気出るんだけど、スイカ……クラッシュしてる分を先に食べなきゃだからねえ……。うん、フルーツポンチにしても美味しい。 イヴちゃん、うm……プラムちゃん食べる??」 「やった、貰うのだわ!」 「ありがとう、終」 大はしゃぎでとびつく梅子と、こくりとひとつ頷いて器を受け取るイヴ。スプーンですくって食べるひんやりスイーツ。終はふたりとそれを堪能しながら浜辺を見やった。 「夏だなあ……」 楽しそうに割っているスイカは、明らかに、割れている数に食べる数が追いつかない。 きっと食べきれなかった分は、島に来ている皆のデザートにもなるのだろう。 「菫さん大丈夫? これなら同じスイカでも、さっぱり味わえることができると思うぜ!」 船酔いが抜けきらずぐてりと伸びている菫に、琥珀が差し出したのはかき氷である。スイカの果汁をシロップ替わりにした、生絞りかき氷。キウイとリンゴを添えてある上に、中に薄っすらと白いのが埋まっているのが見える。バニラの匂いが、その正体だろう。 「豪華だな、しかも贅沢だ。ありがたくいただくとするよ」 菫は遠慮しない。かき氷を受け取ると、喜んで口にし――案の定、頭にきーんと来たらしい。 「夏もあっという間に終わりかぁ。アークも慌ただしいけど、こういう形で夏を楽しめて良かったな。 ――折角だ、残り時間を楽しもーぜ!」 琥珀はそう言うと菫の手をとって、スイカ割りしている方へと引っ張っていく。 「ちょっと待て、ま、まだ船酔いが!?」 なお、大人の意地でゲロ~はしなかったらしい。 ● スイカ割りをしている方に目を移してみれば、徐々に当初の騒がしさは落ち着きつつある。 そこそこの数が割れ、食べることに移行しているリベリスタが増えてきているのだ。 だが、落ち着いてきてからが本番な層も当然ながらいるのだ。 「砂浜も海も綺麗だしスイカ割りには最高の環境ねぇ。年甲斐もなくわくわくしちゃうわぁ」 胸元編み上げの水着を着た紗倉・ミサが、若いのにそんな事を言う。 そのミサがスイカを食べたいと言ったから。熾竜 "Seraph" 伊吹はこの砂浜にいるのである。 (ふふ、可愛いことを言う奴め。男子たるもの女性に頼られて悪い気はしないのだ) 年甲斐がないのはどう見ても伊吹のほうである――が、男は皆いつまでたっても少年なのさ、とかNOBUが言いそうなあたり、これはもう男が男である限りしかたがないことなのだ。たぶん。 「よし、ミサミサのために特大の西瓜を割ってやろう」 最初から気合十分な伊吹に、しかしミサは少しだけ首を傾げた。 「何だかさっきから、胸元あたりに熾竜さんの視線を感じる気がするのだけど。 私に生物学的な興味が有るのかしら?」 「み、見てるわけではないのだ。目につく場所だから……! だがこう近くては目のやり場に困るのも事実、いつもの白衣も良いが、水着もなかなか……いやいや」 おとこのこだもん、しかたないよね。 「観察するのは構わないけれど、今日はスイカ割りを頑張って頂戴ねぇ。 はい、目隠ししてあげるから少ししゃがんで?」 「そんなに念入りに締めなくても何も見えないぞ……」 大人しくミサにされるがままの伊吹は、次にぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐると回されてしまう。 「うふふ、真っ直ぐ歩けるかどうか見ててあげるからねぇ」 「ま、回しすぎだ……す、西瓜はどこだ……」 「たまにはスイカまでの道程をアドバイスしても良いわよ?」 がんばれおとこのこ。 とはいえ、大人の――否、男の意地か。その声を頼りに、伊吹はスイカを見事割って見せた。 「どうだ、大したものだろう」 と、少し得意げな伊吹の頭を、ミサは背伸びして撫でてやる。 「良くできました♪」 「な、なでなでは止せ……」 とは言うものの――喜んでいるなら良いか、と伊吹はまたもされるがままだった。 女性の水着姿というものは華やかなものだ。 ――7だが、格別芳しい花には多くの場合、守がついているものである。 七布施・三千と綿谷 光介はまさに、ミュゼーヌ・三条寺、そしてシエル・ハルモニア・若月の守と言えた。 「えっと、七布施・三千です。今日はよろしくお願いいたします」 「あ、綿谷です。お噂はかねがね、ミュゼーヌさんから」 初対面の挨拶を交わす少年たちを見ながら、ミュゼーヌがシエルに耳打ちする。 「……お互い、意外と男らしくって、ドキドキしちゃうわよね」 「はい、実は全く同じ事を考えてました。三千様と光介様、雰囲気が似てる気が致します……。 可愛らしい外見で、いざという時の男らしさと申しましょうか……」 シエルはそれに頷き、微笑を浮かべる。 三千と光介にとっても、互いに抱く感想は女性陣と似たようなもので。 和気藹々と、女性たちが誘導役をすることに決め――見ていれば分かる通り、競い合ってのスイカ割り、など口実にすぎない。この図はまさにダブルデート。リア充なのだわ! 「いい、三千さん。決して私の声を聞き誤らず、しっかり指示に従って」 「はい。ミュゼーヌさんの指示を落ち着いて聞こう、と決めたら緊張はなくなりました」 「頑張って下さいまし。千里眼とか、集音装置とか使っちゃダメですよ? ……何故固まるのデス?」 「お任せ下さ……あ、バレた。じょ、冗談ですよ?」 それぞれ、彼らの目を鉢巻で隠しながら、相手の緊張をほぐそうと声をかけあって。 「そう、真っ直ぐ進んで……あ、ちょっとだけ右に軌道修正を!」 「真っ直ぐ……それで、右ですね」 「あ、行き過ぎ行き過ぎ! ……そこよ、振り抜いてっ!」 ミュゼーヌは誘導の意外な難しさにやきもきしながらも、三千に指示を出す。 「善き歩みでございます……あ、ちょっとマジックアローの斜線がずれた感じ」 「え、あ、マジックアローの射線を通す程度に方向修正ですか?」 わりとムチャぶりに見えるシエルの誘導も、傍にいる光介には慣れたものなのかもしれない。 「行き過ぎたなら……このくらい戻ればいいでしょうか? ここで振りぬくんですね」 「ナイス修正です、3、2、1、今です!」 三千の判断、シエルの指示。 二つのスイカは見事にバシュン★ である。 競い合う形ではあったが、さてどちらが勝ったか? ――などと、そんな野暮なことは必要ないのだ。 「みずぎ……ちょっとはずかしいのです……っ」 テテロ ミミミルノは、ドーナツ型の浮き輪で体を隠すようにして恥じらう。 「ミミミルノ君ははじめましてね、仲良くしていただけると嬉しいわ」 顔を上げたミミミルノの前に立っていたのは、赤ビキニ――じゃなかった海依音・レヒニッツ・神裂。 「あっ、かいねさんははじめましてですっ。 おなじホリメとしてっこここ、こんごともよろしくおねがいしますですっ」 ぺこり、と頭を下げて挨拶をしながらも。ミミミルノはその胸のサイズを確認してしまう。 (それにしてもかいねさんはりっぱなおむねなのです……。 ミミミルノもおおきくなったらぼんきゅっぼんになるもん><。) みらいのかのうせいはむげんだい! ところでミミミルノが><。な間に、もう一人その場に現れたわけなのだが。 「あら、アラせん。平ですよねえ、ええ平、平。 なにとは言いませんが、よせてあげるのもないなんて不幸ね」 「ちょっと! アラビッチ! 酷いじゃない! 平、平って! ミミミルノはまだまだ発展途上なんだから不幸も何もないじゃない!」 そのもうひとり――ソラ・ヴァイスハイトと海依音は、なんだ、その。仲が良いのか悪いのか。顔を合わせるなりそんなやりとりをはじめてしまっている。 「だいたい、そんな駄肉をプルプルさせて恥ずかしくないの? 二の腕とかすごくつまみやすそうよ?」 ソラは厳しくそれを指摘する。二の腕の肉とバストは同じ弾力、とはよく言われることで――つまり胸が大きい人の中には単に脂肪が多いだけの人もいる、という、あれである。 「まあ、とりあえずスイカ割ですね。最初はミミミルノ君からどうぞ!」 ミミミルノが顔を上げたのを察して、話題はころりとすり替わる。 「スイカわりっ、えっミミミルノからですかっ? わかりましたっやってみるですっ」 鉢巻の目隠しと、しっかりと握りしめた棒。くるくるくるくるくる、と回って、ミミミルノはスイカに向かう。 「もうちょっと右ー、そこでターン、キック、パンチ、チョップ」 「はいっみぎですかっ……うしろ? えっとどっちでしょうかっ」 「みーぎ、もうちょっと前、いきすぎー。アラせんは行き遅れー」 野次としてはある意味正統派であるソラたちの誘導に、ふらふらした足取りのミミミルノの進行方向はさらにふらりふらりと、危なげなものになっていく。 「あら? 空耳? いきおくれ?」 「いーえ、年上であらされるアラせんへの悪口なんていえないわ! 年上! のアラせんには!」 「そんなに自虐的にならなくてもいいのよ? 自分に行き遅れとか」 年度で見たら同い年のふたり――争いは同じレベルの(ry 「ミミミルノはあんな大人になっちゃダメよ? ……あれ? ミミミルノは?」 「あ、ミミミルノ君の指示わすれてたわ。 あれ? ミミミルノ君どこいっちゃったんですかー?!」 「スイカ割で迷子になるなんて、また高レベルなボケを」 責任とって探してきて下さいね、大人なんですから。 「えいっ!! あたったですっ!! ……ってあれれれれ」 ――ミミミルノがひとりで無事砂浜に帰ってきたあと、今度はいつまでたっても帰ってこない二人を探しに捜索隊が組まれたというが――それはまあ、完全なる後日談である。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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