● 「オーホッホッホッホッホ!」 まるで典型的な笑い声が響いた。周囲には誰もいない。誰もいないのだが、彼女――奇堂ひみめは大声で笑うのだった。今日はぼっちだ、ぼっちの日こそ嫌な事は起こるようだが。 「ついにかんせしたわ、わたしのしょくぶつ、れべっかちゃんよ!! おおきくてつおい、えりゅーそんのかんせいなのよ!! おーほほほほほほ!! これであの、いまいましいりべりすたどもをいっそうしてやるのですよ!! いくのよれべっかちゃん、そしてそのこどもたちー!! ひみめのうしろにつづけーつづけー!! あ、あれ? れべっかちゃん、それはひみめのあしよ。 あ、ああっ、あしにつたがからんでいるわよ!! あーっ! れべっかちゃん、ひみめはたべものじゃあないのよ!! ひゃーーーーうええええええええええええええんたべられキュッ!!」 大きな花がひとつ、その周囲に小さな花が複数。 大きな花からは黄色い変な汁が伝うツタが何本も出ていた。その1本がひみめの足を掴んで空中に誘い込んではぶらーんぶらーん。 そしてそのまま首に巻き付いて、ひみめは顔を青白くさせながら、ぶらーんぶらーんぶらーん。 ● 「ハローリベリスタ、御機嫌よう? マリア、お外行くのよ」 『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)がブリーフィングルームに居た。机の上に寝そべって、足をばたばたさせていた。だらしないのはいつも通り。 「自作のエリューションで首を吊った馬鹿は放っておいて、とりあえずエリューション退治しに行かないとなのよ。マリア1人じゃあ、荷が重いわ。というわけで着いてきて頂戴よ」 場所はとある、植物園。そこは六道のフィクサードが管理していた場所だが、もう既に嫌な予感しかしないように、エリューションが栽培されていた様だ。今回はそれの討伐。 「大きなのいっぴき、小さいのじゅっぴき。まあ、小さいのは大して強くないみたいだし、そんな感じ。ただし、毒性のある植物みたいだから気を付けて頂戴よ」 勿論、植物だからか炎に対しては耐性が薄いと言う。汚物は焼却ですよね、解ります。 「ま、ちゃちゃっとやって、マリアと遊ぼう? 植物園なら、鬼ごっこができるわよ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月06日(金)23:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 大空! 雲が無い! 晴天! 花畑! 「そしてエリューションよ!!」 大笑いしながら『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ (nBNE000608)は目の先にある……うん、何か蠢いている巨大な何かを見ていた。 「べったんべったん! 俺の活躍見てて!!」 『三高平最響』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は自分自身を指さしながら猛烈アピール。彼は三高平に居る数多くのデュランダルの中でも群を抜いて名声を誇る1人だ。戦い方はそれなりに魅入る事はできるだろう、が。 「縞パンはこうぜ!」 「それはいらないわ」 冷静に首を横に振ったマリア。直後竜一の背後から暗黒微笑しながら迫る影――『グレさん』依代 椿(BNE000728)だ。両手の骨をバキメキッと鳴らしながら竜一の背に気配を殺して立っていた。 「竜一さん。マリアさんが嫌がっているやろ? 離れないと……解るやろ?」 「ひっ! 沈められる」 「はいはーい、マリアちゃんはこっちに来ようねー」 「むおー」 『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は浮いているマリアを後ろから抱き寄せ、そのまま人形でも可愛がる容量で頭を撫でた。周りを見回せば、今日はなんてラッキーデイ。可愛い女の子がたーくさん! 珍粘の視線は女の子一人一人を舐めるように動いていく。しかし、一人だけ目線を素っ飛ばした。 「今なんで、視線を合わせなかったんじゃ?」 「いやいや、還暦超えている方を『子』呼わばりするのは失礼と認識していますので」 大きな矢でも膝に受けてしまったかのように顔が歪んだ『ふたまたしっぽ』レイライン・エレアニック(BNE002137)。複雑だ、複雑だ、複雑だ。身体は少女なのに、むしろ超美少女なのに、実年齢は還r……これ以上は触れてはいけない。次に行こう。 「お前が、噂に聞くクレイジーマリアか」 「マリアはマリアよ」 『渡鳥』黒朱鷺 仁(BNE004261)の腕がマリアの頭へと伸びていく。ぽすん、とそれが目的地に到達した瞬間に優しく撫でたのだ。嫌がりもせず、その手の温もりを受け入れるマリアは仁の顔をじっと見ていた。 「噂通り小さいな。成長期ならたんと食ってたんと遊べよ」 「マリア、レディだもん」 「このまま命を止めてあげるのが……彼女の名誉のために思えるけれど……」 はふ、とあくびをかみ殺した『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)。確かに、フィクサード的にはリベリスタに助けられるという状況は些かオカシイと言うか、不本意か。だがまあ、相手が相手。ちょっと所では無く、色々抜けているフィクサードなら大して問題とも思わないだろう。 「ペットは、ちゃんと躾けないと駄目よね……」 「ペット……」 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)はAFから武器を取り出して言う。その言葉にエリューションをペットにするのはどうだろうかという目線で那雪が顔を斜めに傾けた。 彼女らの目線の先、ぶらぶらと揺れる一人の少女。別に身長を伸ばしている訳では無いのだが、首を吊られてなおまだ生きているとか。 「とりあえずエリューションを倒せばいいんだな? まあ、さっさと倒して遊ぶとしよう」 『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)は得物を出して、周囲を見回す。戯れている竜一や椿に、マリアを抱きしめる珍粘にそれを見ているレイラインに――。 「緊張感ねえな」 「まあ、気にするな」 福松と仁はぼそりと意思疎通した。 ● 「皆、あひるが支えるから頑張って――!!」 翼を広げ、色鮮やかな羽が舞った。 あひるの声に、我に返った竜一が真っ先にエリューションへと飛び出していく。 「やっほーーーー!! 見ててね!!」 振り向き、後ろ足で走っていく竜一の目線は女の子を見ている。今こそ彼女達にかっこいい俺を魅せる時! 直後響いた、銃声。 「真面目にやれ」 「皆、頼んだ!!」 福松の銃から煙が一筋上がっていた。撃ちだされた弾丸は竜一の髪の毛を何本か持って行った挙句に、ツタの緑が弾ける。不本意であれ、救うと決めたフィクサード。ソレが捕まっているツタに、だ。 衝撃に反応したか、植物――もといレベッカは何処に声帯があるのか不明だがキシャアアアと音を出してツタを一閃。胸前の服がビリリと破けた珍粘だが、その傷は動画を逆再生した如く、塞がっていく。 「なゆなゆ……!」 「ああ、全くもって問題ナッシングです。それより、早く終わらせて鬼ごっこしましょう」 後方よりマリアからの目線では血が飛んで見えた珍粘の身体。思わず声を出した彼女に、珍粘は後ろ手で手を振った。 「そーれ、草刈りのお時間じゃ! マリア、援護はできるかの?」 「言われなくてもヤるわよ!」 ギアを上げたレイラインは直後走り出した。速度を制した彼女の鉄扇は、風を従わせて待っていく。レイラインを綺麗に避ける様にして撃たれた黒き閃光――それはレイラインを狙っていたツタの動きを完全に止めた。 「偉いのじゃ、マリア」 「ふん! 褒めるならお菓子が欲しいわ」 そして鉄扇は福松が取り残したツタを切り裂いていく――! 「キャッチは、頼んだ」 「竜一、ふぁいっ」 「オッケー、はよ!!」 那雪とあひるはAF回線から割り込んで竜一に一言。それに対し彼は親指を上に立てつつ拳を握って合図した。 なら、後は自分が失敗しないのみだと那雪は人差し指に神秘を込める。フィクサードごと撃ち抜いてしまうなんてそんなヘマはしないつもりだが、眼鏡の奥に映った植物の蠢くツタに標準を合わせる。そのために那雪は息を止めた。 ほぼ同時にあひるも絵本を開いて、もう片方の空いている手を前へと出した。その手には光が集まっていく。 「自業自得だけど……れべっかちゃん、ひみめが苦しそうだから、離してっ!」 かなり前だったか。フィクサードであっても一回は一緒にご飯を食べた仲なのだ。そこら辺の裏野部や黄泉ヶ辻の様な悪いものを感じない彼女――救ってあげたいの一心であひるは光の弾丸を撃つ。 あひるの弾丸に、続くは那雪。プロフェッサーであり、スキルマスターである脳内の演算は精密かつ確実だ。此処だ、と思い長細い人差し指から撃ちだされた気糸の弾丸はフィクサードの首を捕えていた最後の一本を弾き飛ばす。刹那、宙から落ちていくフィクサードの身体を受け止める竜一を見て、ふう、と那雪は息を吐いた。 「怖いくらいに、段取りが仕上がっていくなぁ」 慣れた手つきで煙草に火を点けた椿。近くで咳き込んだマリアの声を聞いて、慌てて風で煙がそっちへ行かないように遠ざけた。 「マリアさん、煙草の煙とか嫌いやない?」 「嫌いじゃないわ。好きでもないわ。でも椿が好きそうならやめる事は無いわ」 にこっと笑った椿。しかしまあ、レベッカちゃんとやらを見てみれば、よくもこんなものを育てたものだと感心する。奇堂ひみめ――あの、奇堂みめめの姉。姉……姉に見えない。本当に姉か、と『姉』という単語が椿の頭の中で大量生産されていた。 椿は思考を切り替えて、万が一でもマリアの攻撃が良くものなら、断罪として絶対絞首でもと思ってみたものだが。 「あれ……首って何処なんやろか」 「さあ。茎でも狙ってみたらどうかしら」 マリアのアドバイスにならないアドバイスが返された。 ふ、と。仁がマリアの後方の直物を刈り取った。彼の直観が、普通の植物の中に埋もれたエリューションを見つけ出したのだ。 「囲まれているな。気を付けろ、あっちの植物も普通じゃない」 「み……見れば解ったもん。別に問題じゃないわ。まあでも……その、感謝くらいはしておいてあげるわよ」 ぷいっと仁から顔真っ赤にしてそっぽを向いたマリア。護られるというのが恥ずかしいような、照れるような、そんな乙女心を前面に出している彼女に仁は小さく笑う。 「夏は処理しないとすぐに雑草が生えてくる」 直後、仁はオートマチックのトリガーを引いた。その瞬間、弾ける植物の葉。どう品種改良しようが、雑草は雑草なのだ――。 ● 「で」 開口一番、『で』。目覚めのキスでもしようとしていた珍粘の顎を抑えて、ひみめは起き上った。 「なんでりべりすたがこんなところにいるのよう~~~、でもここであったがひゃくねんめ!! れべっかちゃんでぶっころ……」 ひみめは背後を見てみた。しかしそこにあるはずのレベッカが無くて。 「れべ……」 リベリスタへ顔を向け、再度後ろを見てレベッカを探すがやっぱりいない。 「れべっかちゃんきえちゃったわようううう!!!」 「ああ、レベッカなら……」 那雪が一度溜息を吐いてから、目の前の女に説明した。 ――フェーズ1を倒すのに、この編成ではそう時間はかからなかった。残りは巨大な花のみだ。 「うふふ、毒のある花が毒で散る姿も悪くはありませんねぇ」 パチン――珍粘の指が高音を鳴らした。直後招いたのはDホールであり、それはレベッカの頭上に現れる。降り注ぐペストは最悪の毒。除草のために、毒には、毒を――だ。 「お前の飼い主の罪をお前に償ってもらう、連帯責任ってヤツだ」 腕の先がブレて見える程の早撃ち。音を置き去りにして、弾丸は花を撃ち抜いていた。風がふき、花弁は植物園の上を舞って消えていく。 最後の悪あがきと言えるだろう、どろりと黄色い毒のエキスをまき散らすツタが前衛を裂いた。 「大丈夫よ、あひるが全部治す……っ!」 しかしそれはあひるの祈りで塞がっていくので意味も無く。 「いくぞ、これで――終わり、だああッ!!」 跳躍した竜一。露草と上から振り落し、花弁無き花を上から叩き斬って真っ二つにした。 「――という訳でレベッカは処理させてもらった、ふにゃぁ」 「おお、大丈夫か?」 「もう……駄目なの、眠いの……」 説明を終え、眼鏡を外した那雪はそのままスイッチが途切れて、ふらり。仁はそんな彼女を支えて、そのまま草の良い香りがする地面に寝転ばせた。 「もういい歳なんじゃから、危ない実験なんてしちゃだめじゃぞ? もっとお淑やかにじゃな……」 なんだか周りの目線が痛いと、レイラインは閉じた瞳を開けるタイミングを失った。 「けんきゅうは、むむむーろくどうのっしんこっちょうだもん……!」 「それよりだな」 仁はマリアを指差した。 「約束の鬼ごっこがしたいって、マリアがもう待てないようだが」 「マリア、もうちょっと待つのじゃ」 仁の指の先を辿れば、レイラインの目に映ったのは準備運動しているマリアの姿だった。まだ?とでも言いたげに顔を斜めにしては、早くしろという圧力を感じる。 「ひみめも、一緒に遊ぼうよ」 「ひみめさん。私達と遊びませんか? きっと楽しいですよ」 あひるが、右腕を。ひみめが左腕を持ってひみめを立たせた。二人の瞳がひみめの顔を覗きこんでいるが、彼女は首を全力で横に振ったのだ。 「鬼ごっこか。スキルは使っていいんだろう?」 「本気過ぎるだろ」 福松が言えば、仁はそれにツッコんだ。やるならば、絶対に本気で勝つ。福松はそういうのが好きなよう。 「鬼ごっこする人、この指とまれー!」 その内、竜一が率先して指を立てればそれを掴む手は増えていく。まるで一人ぼっちというか、ハブられている感覚がギスギスと感じて来たひみめは地団駄を踏んだ。 「むむむむ、ひみめもするのーーー!!!」 ● 全員でじゃんけんを行った結果、数度に渡るあいこの末に竜一が鬼となった。 だがそれは危険だ。彼は今日、速度型武装なのだ。つまりえっちな水着なのだ。それは本気の証。 「いくぞ、諸君。覚悟はいいか? 俺は出来てる」 「なんでイヤな予感しかせんのやろうな」 「結城さんには、絶対、つかまったらダメな予感……」 「まあ、な」 十秒が一秒ずつ消えていく――その間に椿と那雪、そして仁は同じような答えを持っていた。 さあ、十秒が消えた。 「ヒャッハーーーー! 見える見えるぞ! 俺のセンスフラグがビンビンに感じている! 女の子を追いかけるのは大得意さーーー!」 突然の大声にあひるの身体がびくりと跳ね上がった。竜一の獅子のような瞳に映ったあひるの姿。何故だろうか、あひるは全力で身の危険を感じとり、大空に羽ばたいた。 「竜一、落ち着こ? ちょっと、怖いわっ」 しかしそれは甘い。何故なら下から見上げればパンツが見え――その時、竜一の脳裏に浮かんだのは相棒がサムズアップしている顔――駄目だと、竜一はそのまま違う対象を狙うのだ。あひるは徳の高い彼の恩恵をこんな所まで受けているとは恐れ入る。 そんなこんなで猛ダッシュで逃げ始めた女の子たち。一定の距離を保っていたものの、何故か竜一の足が異常なまでに早い。竜一の後ろには同じように行動する福松が着いて行く。まさかそんなシンクロの使い方があったとはな。 福松は必ず仕留めたい竜一。シンクロを気づいてか、荒ぶる鷹のポーズやこまねちをしてみれば福松も同じ行動をした。そうして誘導していけば、竜一が走る動作をすれば福松の身体も走る。しかし、福松の走った方向には植物園の門がありそれにぶつかって、前へは進めなかった。 「チッ……失態だった」 次の鬼は福松だ。壁に追い込まれるとは、と思いながら探すリベリスタの姿。ふと目に入ったのは仁だ、捕まえなければ――そう福松が身構えた瞬間だった。 「ぶっ!?」 「ははは」 渇いた笑いと共に、何十人にも増えた仁。何故か鬼なのに福松は大勢の仁に囲まれてしまった。どれが本物だ!? こういう時こそ心眼である。目を閉じ、気配を感じようとした瞬間、幻影は一斉に逃げて行った。 「スキルを使うとは邪道な」 ふと見上げた福松。那雪とあひるが頭上をびゅーんと飛んでいき。 「おまっ……飛ぶのは汚いだろ飛ぶのは!!」 なんやかんやで鬼は那雪に回ってきた。失態だった、寝てしまいそうだと地面に足が着いた瞬間に福松にタッチされるなどと。 那雪が狙うのは男――その中でもまだ捕まっていない仁だ。目の端で幻影を大量に生産している仁が見える。だが覚醒した那雪なら捕まえる事は可能かもしれない。そう眼鏡をかけようとした、その時。 「那雪さんみーっけ! 私もなゆなゆなんです。貴女もなゆなゆですね!」 「……」 茂みから突然の珍粘。那雪が鬼だったのを知らないままだったのか、珍粘はあえなく那雪のタッチを食らった。 「自分から出てきたら、駄目だろうなゆなゆ」 「そうですね、これはうっかりしていました、なゆなゆ!」 直後、ギン! と光った珍粘の瞳。捉えたのはマリアと一緒に逃げるレイラインとあひるの姿だ。 「にゃぎゃあああああ!!!」 「キャハハハハハハハ!!!!」 「ひゃーーっ」 「おまちくださーい、絶対に捕まえてあげます」 再び、獅子に睨まれたかのような感覚が全身に覚えたレイライン。空中で浮きながら、手を叩くマリアを小脇に抱えたあひるは、レイラインに手を引かれて逃げ出す。 「捕まったらマズイ気がするのは何故なのじゃ!!」 「あひる、思いっきり楽しむわっ!」 「キャハハハハハハハ!!!」 そのうちあひるの足が浮き、逆にレイラインを引っ張っていく。しかし後方より詰めていく珍粘の足は本気だ。三人の逃走劇も、間もなく終わるのだろう。 椿の腕が強い力に引っ張られて、茂みの中へと誘われた。背中が地面についた椿だが、腹の上に圧力を感じる。 「ひみめさん、何処に跨がってるん?」 「……ねえ、貴女。弟を知っているの?」 「へ……ああ、まあそうやね」 其処にはすぐ前まで居たはずのひみめでは無く、ダブルキャストでもしているかのような声色と表情を持ったひみめであった。そう、まるでそれこそ何処にでもいるかのような頭のおかしいフィクサードの様な。 「弟さんに関しては……うち等と戦闘した後……」 そこで一回、椿の声は途切れた。何処まで話せばいいのか考えた訳だが。 「楽団から同時に逃げたんよ。その後は、知らん……」 「……楽団」 椿は『奇堂みめめ』の最期は知らねど、経緯は理解していた。だがあえてそこまでの情報を与えなかったのは、楽団はもう存在しないし楽団が彼を殺したとは言い切れないからだ。 「そう……よく解ったわ」 「答えたから答えて貰おうか。ひみめさんが、六道に居る理由とか目的はなんなん?」 「それは……弟が――」 そこで、鬼であるマリアの声が聞こえた。 「――今度ね」 起き上ったひみめ。その手を掴もうとした椿だが、体勢が体勢か、掴めず。そのままひみめの姿は消えていった。 時は既に夕暮れ。そんな今日も――一日が終わっていくのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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