● その男は突然、現れた。 顔をマスクで隠し、フードのついたローブを纏った姿はおよそ一般的な常識からは外れている。 傍らに立つ無表情な少女は、彼の娘だろうか? 親子で何らかの悪事を働くというのも、またおかしな話だが。 (――だが、強い) 戦わなくても、直感的に感じたのはそのローブの男が強いという事。 相対したフィクサードの一団も、腕に自信のある者達だ。しかしその男が纏う不気味なオーラは、そんなフィクサード達を傅かせる凄みがある。 「ハハハハ、まぁ……そう怯えるな。別にお前達をどうこうしようってわけじゃない」 仮面の下から聞こえる声の色からは、おそらく20代だろうかと推察する事が出来た。 ともすれば、付き従う娘は部下なのかもしれない。その娘は一切言葉を発せず、無表情にフィクサード達を見据える目は、フードの男のソレと相俟って彼等に恐怖感すら与えてもいるのだろう。 「簡単な事だ。オレの部下にならないか? 断れば救済してやるが」 男の要求は、たった1つ。 部下になるか、ならずに死ぬか。この死ぬという表現を男が『救済』と言った点が耳に残るが、フィクサード達は雰囲気からそれが何を意味するかを察したらしい。 ――そんな二択を迫られれば、フィクサード達の答は決まったも同然だった。 「……で、俺達は何をすれば良いんだ?」 「そうだな……まずは小耳に挟んだコイツをもらいにいくとしようか」 フードの男が見せたのは、1枚のメモ。そこに書かれているのは――。 ● 「狙われているのは、このアーティファクトよ」 そう言った桜花 美咲 (nBNE000239)が集まったリベリスタ達に見せたのは、1枚の地図。 どうやら仮面の男が得ようとしているアーティファクトは、そこに存在している。 アーティファクト『黒の砂時計』。 使用者の望んだ相手の時を加速させるか、奪う砂時計。 「フィクサード達は仮面の男の指揮の下、これを奪うつもりみたいね」 相手となるフィクサードは、仮面の男と付き従う少女を含めて8名。対して集まったリベリスタも同数ではあるが、やはり問題は仮面の男か。 一部のリベリスタは、おそらく彼の正体を知っている。 それは美咲も同様であり、故に彼女は注意を促す。 「気をつけるべきはフィクサードより、仮面の男ね。おそらく――クライヴ・アヴァロン」 決して確証があるわけではない。 だが、仮面の男が口にした『救済』はクライヴの口癖だ。 そしてかつての従者、『パトリシア・リルバーン』と同様に自我がなさそうにも見える付き従う少女の存在。 その2つの断片的な証拠が、仮面の男の正体が楽団員『クライヴ・アヴァロン』である事を示している。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月09日(月)22:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●仮面の男 「……じゃあ、そのアーティファクトを取ってくりゃ良いんですね?」 目的の家の前で、フィクサードの1人が仮面の男に問う。 配下に加わるか、加わらずに死ぬか。 その2択を迫られた彼等に与えられた任務は、聞いただけならば拍子抜けするほどに簡単なものだった。 「あぁ。まぁ……邪魔は入るだろうけどな」 もちろん『聞いただけならば』という範疇であり、仮面の男はまず間違いなく妨害を受けるだろうと予測しているらしい。 予測はしていても、『貴様達の実力を見せてもらう』という言葉を持って手伝うつもりがない事をアピールしていたが。 「エリスは……この人達の援護をしますか? マスター」 そんな中、口を開いたのはこれまで無言を貫き通してきた従者の少女だ。 いかに仮面の男が楽団員だったとして、死体をわざわざ付き従わせるような事はない。エリスと自分の名を口にした彼女はもちろん、生きている。 「備えておくのは悪くはない。しかしギリギリまで待て」 「わかりました」 この会話を聞く限り、男の目的は『黒の砂時計』の入手以外に存在している可能性もあるのだろう。 だが、それが碌でもないことは誰にでも理解出来ることだ。 仮面の男は、まぎれもない悪の存在なのだから。 一方、フィクサード達の動向はリベリスタ側にも筒抜けていた。 「死者かと思ったけど……喋ってるところを見ると、生きてるのかな……」 千里眼と暗視、2つの技能を駆使して状況を把握した『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は、仮面の男――おそらく楽団員だと推察されている、が付き従えているのだから死んでいるのだろうと判断していた少女が、生きている事を理解する。 もしもこの仮面の男が『salvatore』クライヴ・アヴァロンで間違いがなければ、この少女は楽団とは無関係の覚醒者である可能性が高い。 「彼はまだ新しいお人形遊びを続ける気ですかね?」 それはまさしく、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が口にした『人形遊び』が正解といえるか。 出撃前に美咲が提出した報告書を見返せば、過去に付き従えていた楽団員『incensatrice』パトリシア・リルバーンは自我を失うほどの『教育』を施されたそんざいだった。 彼女の死後には、新たな従者を欲したクライヴが帰りがけの駄賃にと、リベリスタの捕獲を試みた事例もある。 口癖であった『救済』という言葉。 そして自我を失うほどに『教育』を施され、従者となった少女の存在。 「状況証拠しかないが、楽団の生き残りの可能性は大か」 ともすれば、『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)のみならず並び立つ仲間達も、仮面の男がクライヴ・アヴァロンだと断ずるには十分な材料が揃っていると言えるだろう。 その仮面の男の指揮の下、フィクサード達の動きは迅速であり、悠長に構える時間はない。 「まずは急ぐとしましょうか」 「そうだなァ。のんびりし過ぎて逃がしましたじゃ、話にならねェ」 迅速な行軍を促す『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)の言葉は正論であり、『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)の懸念は最もだ。 故にリベリスタ達は、もてる最大の速度を持って現場へ走る。 「――さて。客か」 仮面の下で小さく呟いた言葉は、周囲のフィクサード達には聞こえていない。隣に立つエリスにさえもだ。 周囲に展開させて敵への警戒に当たらせたとしても、にわか仲間のフィクサードは敵が現れたとなれば続々と集まってくるだろう。 「これは陽動。とすると逆側から家に入った連中を追撃か? まぁ……双方の手並み拝見といくか」 腕を組み、仁王立ちのままで仮面の男は動かない。 配下となったフィクサードがどうなろうとも、構わないとすら言わんばかりに。 さらに言えば、アーティファクトの入手すらも、どうでも良いのではないかと感じるほどに。 「盗みは良くないし、楽団は放ってはおけない……。頑張って、いこう……」 姿を現すと同時にそう仲間達に告げた『Radical Heart』蘭・羽音(BNE001477)が攻撃を開始しても、主格である彼は動じる気配を見せなかった。 「マスター、指示を」 「適当にやれ」 どうすれば良いかと問うエリスにそう吐き捨て、仮面の男は戦況の行方を静かに見守る。 「向こうは成功したみたいだね?」 「そうだね……。じゃあ、手早くいこう……」 陽動。 そう仮面の男が判断した通り、別方向からは『デストロイヤー』双樹 沙羅(BNE004205)とアンジェリカ、 「楽団かあ。胸糞悪い単語を聞いちゃったなぁ」 おそらく仮面の男が楽団員だという話を聞き、眉をひそめる『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が進入を果たしていた。 目当てのアーティファクトのあるコレクション部屋は、アンジェリカの千里眼によって把握は出来ている。 先んじて進入した2人のフィクサードがどこにいるかはわからないが、上手くいけば彼等より先に『黒の砂時計』を入手出来るかも知れない。 「時代遅れなもの生き残ってたんだ。今回はちょっと手は出せ無さそうかな」 歯痒い事ではあるが、目的のソレは入手できても仮面の男までは無理だと沙羅は考えているようだ。 もしも本当に仮面の男が楽団員であったなら……? 「ハハハハ……」 仮面の下、男は不敵に笑う――。 ●傍観の仮面 戦況が進んでも、仮面の男はまったく参戦するような素振りを見せはしない。 「お前の判断で動け。あぁ、お前等もな」 傍らに立つエリスにもその一言だけで済ませ、口すらも出そうとはしない。 もしもリベリスタ達が彼やエリスに攻撃を仕掛けていたならば、話は別だっただろう。 「未練がましいですね。何時までも日本で活動とは、帰りの船賃稼ぎですか?」 「何のことだかわからんな」 しかし会話を交わす諭と仮面の男は、刃を交えないままである。 そして、すっとぼけた回答の裏には理由もある。 「情けない。一端のフィクサード遣ってるのに変な奴に顎で使われて、あー情けない」 眼前のフィクサードに対して挑発した七海も、 「いくら格上だからって、誰とも知れねェ輩に顎で使われるたァ、情けねェ連中だぜ」 続いた甚之助も、仮面の男を『変な奴』『誰とも知れない輩』と呼ぶだけで、その正体を突き止める『クライヴ・アヴァロン』の名を呼んでいない点だ。 如何に楽団員らしいと考えていても、名前を呼ばれない以上わざわざ反応する必要はない。すっとぼけてしまえば、違うと言えばそれで済んでしまう。 (――ま、俺がそうだとして逃げるような連中かも見ておくか) 仮面をつけてまで正体をひた隠しにする理由は、使える配下になれるかどうかを知る要因にするつもりではあるらしい。 だが、リベリスタ達はあまりにもフィクサード達を侮りすぎていた。 「ゾンビになる前に撤退をお勧めしますが?」 七海のこの言葉だけなら、フィクサード側も感じていた異様な空気を察して逃げていたかもしれないが、 「逃げたほうがいいんじゃねェかァ? てめェらみてーな能無し、こっちも無理に追わねーよ」 「誰が能無しだ! ふざけるな!」 甚之助の挑発は反発を招き、彼等に撤退ではなく継戦を判断させるに至ってしまった。 相手にしているのは悪事を好む連中だ。 馬鹿にされて逃げるよりは、自分のプライドを大切にする面の方が強い。 「楽団? 上等じゃないか! むしろ何かでかい事をやれそうな気がするぜ!」 確かに彼等とて楽団の噂は聞いている。なるべくならば関わりたくないとも思ってもいる。 その一方で、仮面の男の纏う不気味な雰囲気の理由には納得がいった。危険性は高いが、長いものに巻かれるのならば関わっても良いとすら感じた。 「お前達もあの人が怖いんだろう? だから手を出さない、いや……出せずに俺達をどうにかしようって魂胆なんだろう」 「それはどうだろうな。死霊魔術に興味はあるが」 放たれたスターサジタリーの矢を受けながらも、ネクロマンシーの術に強い興味を持つ結唯は、はぐらかしながらも素直に言う。 今のところ仮面の男は動かずにいる。しかしフィクサードの誰かが命を落とせば? (彼等の中の誰かが運が悪い結果になったら、細切れにするしかありませんね) その時は稼動不能なレベルまで破壊するしかないという、諭の考えが正解か。 「あたしの一撃は……とっても、重いよっ」 手にしたラディカル・エンジンを豪快に振るい、おそらくマグメイガスと思われるフィクサードを殴り飛ばした羽音や仲間達の様子を見れば、その『運が悪い結果』も決してありえない現実ではない。 「単にモノを1つもらうだけだろう……!」 言葉を返したフィクサードは、なんら悪びれる風ではない。 「泥棒は、許さないよ」 人はそれを泥棒と呼び、羽音はそんな事はさせないと告げるものの、『別に良いじゃないか』とチェインライトニングを奔らせる彼は、それが悪い事だと感じてはいないのだろう。 「ハハハハ、楽しくやってるじゃねぇか。さて、あっちはどうなっているやら」 そんなやり取りを笑いながら見守る仮面の男は、仮面の下の視線を家の方へと向けた。 「まったく。邪魔が入るとは聞いていたが」 「ブツを先にもらいにいくか? こいつ等の相手は面倒だ、あの人も怖いしな」 屋外の戦闘が白熱する中、家の中でもリベリスタとフィクサードは双方が互いに睨み合っている。 戦うか、先にアーティファクトを入手するか。 「可哀想な人たちね。楽団がそんなに怖い? 逃げてもいいのよ?」 「楽団……?」 こちらでもまた、魅零がフィクサード達を撤退させられないかと試していた。 もちろん、彼等は仮面の男が楽団員だという事を知らずにいる。 「どっちにしろ、まだ手に入れてないみたいだから足止めはするけどね!」 そんな中、先制攻撃を仕掛けたのは沙羅だ。 手にした武器から相手がソードミラージュだと判断した彼の動きは素早く、考える暇を与えないままに直死の大鎌が敵の刃と火花を散らす。 「さぁ行って? アンジェリカちゃん」 「ここはボク達に任せてさ」 それも全ては、アンジェリカを先行させるため。 フィクサード達よりも早く『黒の砂時計』を手に入れるには、彼等の足を止めた上で1人が先へ進むのが最も理想的な作戦だろう。 「……ちょ、待てよ!」 「俺も手を貸す、止めるぞ」 とはいえ、フィクサード側も簡単にアンジェリカを通すほどに甘くはない。 道を阻む魅零と沙羅を無視し、2人の敵の攻撃が背を向けた彼女に飛ぶ。 「……ありがとう……」 少しでも前へ、前へ。 先に進むアンジェリカを庇ったのは、諭と甚之助が供につけていた式符・影人だった。 『こちら回収班……『黒の砂時計』は回収したよ……』 そんな一報が外で戦う仲間達に届いたのは、それからしばらく後の事だ。 「失敗か!?」 「どうする、ボス!」 目的のモノが入手できなかった今、フィクサード達は慌てふためき、これ以上の戦闘は無駄だと判断し始めたらしい。 幸いな事に、フィクサード側には誰も死者は出ていない。 もしも仮面の男が死体を操るネクロマンシーであったとして、生きている人間までは操れないのだ。 「あー……撤退したいならすれば?」 そんな時にまで、仮面の男は配下へと指示を下そうとはしなかった。 勝手にしろと告げ、どう動いても構わないと彼は言う。否、逃げ惑うところを攻撃し、死体として操るくらいの事は楽団員なら十分に可能でもあるが。 「悪い、待たせた!」 そんなやり取りをしている内に『黒の砂時計』を入手した沙羅や魅零、アンジェリカまでもが合流してきたのだから、フィクサード側に勝ち目はほぼ無くなってもいる。 「欲しいならさぁ、自分でおいでよ。楽団ってのはどいつもこいつも臆病だよね」 逃げを考え始めたフィクサードを尻目に、仮面の男に対しそう言ったのは沙羅だ。 傍から見れば先程の七海や甚之助の行った挑発と同じ。 「ハハハ、人のこと言えるのか?」 故に仮面の男は、そんな安い挑発に乗るような事はなかった。 むしろ参戦を気にして手を出さなかった以上、リベリスタ側の方が臆病と言われても仕方がない。 「聞け、フィクサード。楽団から逃げるなら今がチャンスだよ。もし、楽団が貴方たちの後ろを追おうとするなら、私が命を懸けて止めるわ」 ならばと、逃げたそうにしているフィクサード達に魅零が告げた。 既にアーティファクトの入手には失敗し、仮面の男が何をやらかすかもわからない。リベリスタ達が見逃してくれるとも限らない。 そこへこの勧告だ。 「この主従は貴方たちは望んでいないものでしょう? この機会を逃したら、一生から死んでも、あの糞仮面の操り人形よ。それでもいいの? それでもいいなら、かかってきなさいよ!! 判断しきれない背中を押すような言葉に、それまで反発していたフィクサード達の気持ちは戦いから逃げへと完全にシフトした。 「意地は通してみたが……この場合は通している場合じゃねぇ!」 「逃げるぞ、全力で!」 もはやプライドだのなんだので命を落とすような局面ではない事など、理解出来てもいる。 「……やれやれ、参戦しないつもりだったが……やるかね?」 「今はこのザコを守るための戦いだけどナァ」 周囲に盾となる仲間は無し。 ようやく重い腰を上げた仮面の男の攻撃からフィクサード達を守らんと、甚之助がその射線に立ちふさがった。 「クライヴ・アヴァロン……貴方は本当にそれなの?」 「ハハハハ、ごまかしもこれまでか!」 ここにきてようやく飛び出した本命の言葉に、仮面の男がゆっくりとその仮面を脱ぐ。 現れたのは、資料にあった通りの『クライヴ・アヴァロン』の顔――。 ●救済者は不敵に笑う 「何故、今になって動き出したの。何をするつもり?」 「それに答える義理があるか?」 続けて問うクライヴ・アヴァロンには、当然ながらそれに答える必要も義務も存在しない。 何をやろうとしているのか? 何のために死者ではなく生者を配下にしようとしているのか? 「少しは真っ当な生活したらどうです? ああ、真っ当なんて高尚な物は似合いませんか」 「救済は十分真っ当だと思うんだがなぁ……お前等ってそう思わねぇの?」 それがわからない今、逃げるフィクサードを守りに行っているリベリスタ達が出来る事は、諭のように挑発して少しでも気を引く事だけ。 リベリスタとクライヴの間には死生観に大きな壁があるものの、 「ボク、血は大好きだよ。楽しいね、命を奪うってのはさぁ! 救済って良い免罪符だよね。ただの人殺しのクセしてさ!」 「お前は俺と同類くせぇな! 死ねば何にも考えずに済むぜ、俺は欲求を満たせるし、楽しいよな!」 命を奪うという行為を好む沙羅とは、どうやらクライヴは気が合いそうな気がしたようだった。 「ところで、コレはいらねぇのか?」 「どうして、この砂時計が欲しいの……?」 その一方で、『黒の砂時計』を指差した甚之助と羽音に対しては、 「あぁ、俺は別にそれいらねぇし。あいつ等が使えるかどうか試すのに、都合よく話があっただけだしな」 とクライヴはそう答えて見せる。 逃げるフィクサードを追いそうな動作だけ見せておいて、砂時計自体を奪おうとしない部分を見れば、本当に必要ないのだろう。 得られればそれで良し。 得られなくとも、配下となった連中が使い物になるかどうかはわかる。 (……別に狙いが……あるみたいだね……) アーティファクトの入手ではなく、もっと大きな事をクライヴはやろうとしている。彼の言葉から、羽音はそう感じざるを得なかった。 ――では、それは何か? 「……あなたの御名前はエリス、で間違いありませんか?」 知っていそうなのは従者の少女だと判断した七海が、目線をあわせ少女と言葉を交わす。 年の頃は10歳前後といったところだろうか? 楽団員であるクライヴと一緒にいるところを見ると、楽団員だとも判断できるが、 「あぁ、お前等に良い情報をやるよ。コイツ、別に楽団とは関係ねぇ」 そうではないとクライヴは言った。 美咲が提出した報告書を読み返せば、地方を守るリベリスタを壊滅させて従者にしようとした経緯もある。 おそらくはその後にクライヴに捕まり、『教育』を施されたと考えるのが妥当か。 「やっぱ配下に生きてるヤツを入れるなら、これくらい従順でないとダメかもなー。まぁこっちも追々増やしていくとして……」 逃げるフィクサード達の背が遠くなっていく様子に、これ以上留まる必要はないと判断したクライヴが、すっと後ろに下がり引いていく。 付き従うエリスもそれに習い、無表情のままに後を追う。 (命令に従うだけの存在なら、それは人形と同じ。神父様に救われる前のボクと同じ……) その姿に、アンジェリカは過去の自分をエリスと重ねていた。 実際にエリスは生きた人形となっている。 苛烈な『教育』を施されたせいだろう、自我を失った様相の少女はまさしくマリオネットだ。 「きっと君を解放してみせる」 去り行く2人に、否、エリスにアンジェリカは言った。 それは過去、一部のリベリスタが成そうとしつつ成しえなかった、パトリシア・リルバーンの一件の再来。 全ての元凶はクライヴ・アヴァロンただ1人。 彼を倒す事が出来さえすれば、全ては終わる――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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